ポニントン - みる会図書館


検索対象: アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1
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1. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

Ⅱポニントンといっしょに、チェルシーのキ エルキ = ールⅡボワロは、友人のヘンリー エンデヴァー〉で食事をしていた。 ングズ・ロードにあるレストラン、〈ギャラント・ し エンデヴァー〉をひいきにしていたが、それはこの店の ポニントン氏は〈ギャラント・ くわ ふんいき ゆったりした雰囲気と、〈あっさり〉して、〈イギリスふう〉で、〈ごたごた手を加えない〉 ′レ、つり・ 料理が気にいっているからだった。 簿 しんせつ 彼女は件 親切なウ = イトレスのモリーが、年来の知己をむかえるように二人をむかえた。 , の きおく 客ひとりひとりの好きな食べものを、ぜんぶ記憶していることを誇りにしていた。 ワ あんない いちぐう 「いらっしゃいませ」と、モリーは男二人を一隅のテーブルに案内しながらいった。「いし こうぶつ しちめんちょう 日においでになりましたわ。きようは栗をつめた七面鳥がございますー、ーご好物でしょ きやく 二十四羽の黒っぐみ わ ゅうじん ねんらい みせ

2. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

は地下鉄のなかでである。 しんどう み 二人はとなりあった吊り革にぶらさがって、電車の震動に身をまかせながらうなずき あった。やがてビカデリー・ サーカスまでくると、どっと客がおり、二人は車両のいちば ん前にならんですわることができた。乗り降りする客はそこまではやってこないので、そ こではおちついて話ができた。 し ポニントン氏がいった。 「ところであんた、おぼえているかな。いつだったか〈ギャラント・ エンデヴァー〉で、 よ かわった老人に会ったろう ? どうやらあの老人、あの世へいっちまったんじゃないかと 思われるふしがあるんだ。ここ一週間、まるきり姿を見せないんでね。モリーがたいへん 気にしている。 エルキュールⅱボワロはすわりなおした。目がきらっと光った。 「ほほう。それ、ほんとうのことですかな ? ポニントンはいっこ。 ろうじん しやしんさっ しよくじせいげん 「あのときいっただろうーー・あの老人は医者の診察をうけて、食餌制限をいいわたされた しよくじせいげん じようだん んだって。食餌制限はまあ冗談にしても、医者の診察をうけたことは事実じゃないのか ちかてつ ろうじん っ かわ の お すがた きやく じじっ しやりよう

3. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

じんぞう スー。フと、腎臓のパイをそえたビーフステーキ、それに黒いちごのタルトをご注文になり ましたの ! まるで、なにを注文しているか、ご自分でもわかっていらっしやらないみた 「なるほど。」エルキュールⅡボワロはいった。「いや、おもしろい、じつにおもしろい。」 まんぞく モリーは満足そうな顔で立ちさった。 「どうかね、ボワロ。」へンリー日ポニントンがくつくっ笑いながらいった。「あんたの推 理を聞かせてもらおうじゃないか。例によってあざやかなところをね。 すいり 「それよりも、あなたの推理をさきにうかがいたいですな。」 「ワトスン役をやれってわけかね ? よろしい。こういうのはどうだーーーあの老人は医者 しんさっ の診察をうけにいった。そして食事をかえろといいわたされた。 のうこう 「濃厚なトマトスープ、ステーキと腎臓の。ハイ、黒いちごのタルトにですか ? どんな藪 しゃ 医者だって、そんなばかなことはいわないはずですがね。 めいれい 「それは考えちがいだよ、ボワロ。医者なんて、どんな命令でもだすものさ。」 「それだけですかな、あなたの思いつく解答は ? 」 ヘンリー日ポニントンはいっこ。 やく じんぞう かいと、つ わら ちゅうもん ろうじん すい しゃ ゃぶ

4. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

う ? それから、スティルトン・チーズのとびきり上物がはいっております。最初はスー プになさいます ? それともお魚から ? 」 りようり ちゅうもん 料理とワインの注文がきまると、きびきびと立ちさるモリーを見送って、ポニントン氏 はほっと息をついていすの背にもたれ、ナプキンをひろげた。 くちょう しようさん 「いい娘だ、あれは ! と、彼は賞賛の口調でいった。「あれでも、むかしはなかなかの美 じん り・ようり 人でねーーー画家たちがあらそってモデルにしたがったものだ。おまけに料理にもくわしい じゅうよう もんだい しーーー・これがあんた、あんがい重要な問題でね。たいがいの女は、食べもののことではい たってたよりにならないものだ。好きな男と食事にでかけても、なにを食べるかにはまる むかんしん ちゅうもん れんちゅう きり無関心、最初に目についたものを注文してすませる、なんて連中が多いものなのさ。 エルキュール日ボワロは首をふった。 「ひどいものですな。」 「男にはそんなことはない、ありがたいことにね。」 し ポニントン氏は満足そうにいっこ。 「ほう、男はだいじようぶですかな ? 」 エルキュールボワロの目がきらめいた。 こ テ まんぞく せ さかな す じようもの し び

5. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

ふんそうどうぐ ごしようだいじ したよ。そのうえジョージは、ばかなことに、つけひげその他の扮装道具を後生大事にし まっておいたんです。さよう ! その気になれば、証拠はいくらでもでてくるものでね。 ほ、つもん わたしはジョージを訪問して、ちょっとばかりおどかしてやりました。それがとどめの一 撃になったわけです。 ついでですが、彼はまた黒いちごを食べていましたよ。意地きたないやつですーーー食べ し エ・ビアン てんばっ ることばかり考えて。というわけで、天罰てきめん、その意地きたなさが彼の首を絞める ことになりました もしわたしが、とほうもない考えちがいをしていなければね。」 ににんまえ ウェイトレスが、二人前の黒いちごとりんごのタルトをはこんできた。 ようじん 「おいきみ、こいつはさげてくれ」と、ポニントン氏はいった。「用心して、しすぎること はないからね。そのかわりに、小さなサゴ椰子のプディングでがまんすることにしよう。 し しようこ た じ じ 67 ボワロの事件簿

6. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

ヘンリー ガスコインは入れ歯を入れていましたか ? 」 じまえ は じようたい 「いや、ぜんぶ自前の歯で、それもひじようにいい状態でした。あの年齢にしてはりつば なものです。」 「手入れがよかったのですなーーー白くて、よくみがいてありましたか ? 「ええ。それはわたしもとくに気がっきました。」 「ぜんぜん変色していなかった ? 」 「いませんでした。タバコはすわなかったようですーーあなたのたずねておられるのがそ ういうことなら。」 「いや、かならずしもそういうつもりではなかったのですがーーー・あてずつ。ほうに遠い的を あ ねらってみたまでですよーーーおそらく当たらんでしよう。じゃあ失礼します、マカンド きようりよく リュー先生。ご協力ありがとうございました。」 あくしゅ そしてボワロは、医師と握手をかわして、そこをでた。 、つ 「さてと、ではつぎに、遠い的を撃ちにいくか。」 エンデヴァー〉で、ボワロは先日ポニントンと食事をしたときとおなじ席 〈ギャラント・ へんしよく し まと せんじっ しつれい ねんれい まと せき

7. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

ゅうじん 「いや、まじめな話、ありうべき解釈はひとっしかないと思うね。われらが未知の友人 もじ どうてん かんじよう は、なにかはげしい感情にとらわれていた。気持ちが動転していたんだ。それで、文字ど ちゅうもん おり、なにを注文しているか、なにを食べているかもわからなかったのさ。 そこで彼はいったんことばを切り、しばらくしてからまたつづけた。 ろうじん 「こういうと、あんたはすぐにいうだろうーーーーではあの老人は、なにが気にかかっていた さつじんけいかく のかわかるか、とね。自分ではきっと、殺人計画をねっていたんだ、とでもいうんだろう けど。」 じようだん そして彼は、自分の冗談に声をたてて笑った。 エルキュールⅡボワロは笑わなかった。 はくじよ、つ のちに白状したところによると、そのときからひどく気にはしていたのだという。なに たしようよかん が起ころうとしているか、多少の予感があってもよかったはすなのだが、自分としたこと が、ちとうかつだった。 そこまで考えるのは、あまりに考えすぎだ、と友人たちはなぐさめるのだが。 さいかい それから三週間ほどたって、エルキ = ールⅡボワロとポニントンは再会した かいしやく わら ゅうじん みち こんど 41 ボワロの事件簿

8. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

それよりもそちらのお話をうかがいましよう。ちかごろ景気はどうです ? 」 さっこんふうちょう 「めちやめちゃだね ! 」ポニントン氏はいった。「それが昨今の風潮かもしれんが、それ こんらん しやかい にしてもひどすぎる。政府はうまいことばかりいって、それでもって社会の混乱をおしか こうりよう くしているんだ。いわば香料をたっぷりきかせたソースで、その下の魚のますさをごまか しているようなものさ。わたしはごめんだねーーー・ごてごてしたソースなんかかかっていな 、本物のひらめを食べさせてほしいものだよ。」 しゅんかん まさにその瞬間に、彼ののそむとおりのものがモリーの手ではこばれてきた。彼は満足 げに鼻を鳴らした。 「あんたはたしかにわたしの好みをこころえているな、モリー 「あら、いつもおいでいただいているんですもの、それぐらい当然ですわ。」 エルキュール日ボワロはいっこ。 「すると、だれもがきまったものばかり食べたがるというわけかな ? たまには、かえて みたくなることはないんだろうか。」 へんか とのがた 「殿方はおかえになりませんわ。ご婦人はね、変化をお好みになりますが、男のかたはい つもおなじものをめしあがります。」 ほんもの はな この ふじん この とうぜん さかな まんぞく

9. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

ポニントン氏は彼を見つめた。 けしいん 「しかし、手紙の消印は ? たんじゅん 「ああ、あれはきわめて単純なトリックですよ。消印は、すれて、よごれていました。な ぜでしよう ? 日付が黒インキで十一月二日から三日にかえてあったからですよ。その気 になって見ないことには、とうてい気がっかないでしよう。そしてもうひとつ、黒っぐみ のことがあります。」 「黒っぐみ ? 」 わ 「二十四羽の黒っぐみ、パイに入れて焼かれたー いや、正確にいえば黒いちごですが やくしゃ ね ! 要するに、ジョージというのは、けつきよく、たいした役者ではなかったのですよ。 ふんそう 彼は伯父そっくりの扮装をして、伯父そっくりに歩き、伯父そっくりにしゃべった。そし て伯父そっくりのひげをつけ、まゆげをつけたが、伯父そっくりに食べることはわすれて す りようりちゅうもん しまった。自分の好きな料理を注文してしまったのです。 したい へんしよく 黒いちごを食べると、歯が青く染まります。死体の歯は変色していなかった。ところが その夜、この〈ギャラント・ エンデヴァー〉で、ヘンリー 日ガスコインは黒いちごを食べ ているのです。それでいて、胃のなかにも黒いちごはなかった。けさ、それをたしかめま し ひづけ は そ や けしいん せいかく

10. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

せんこく な。そしてそこで、医者からなにか衝撃をうけるようなことを宣告された。そう考えれ たいど ば、ろくにメニューも見す、自分でもなにを注文しているのかわからないような態度だっ せつめい いのち たことが説明できる。医者から聞いたことが衝撃になって、かえって命をちちめる結果に かんじゃ なったと考えても、不自然じゃないわけだ。医者が患者になにかいうときは、ことばに気 きようくん をつけるべきだという教訓だね、これは。」 「いや、その点はじゅうぶん気をつけているはすですよ。」エルキ = ールボワロはいった。 「おっと、わたしはここでおりるんだった。」ポニントン氏はいった。「じゃあまた。これ ろうじん えいきゅう きかい でわれわれは、あの老人がなにものか、永久に知る機会がなくなったわけだーーーそう、名 前さえもね。おかしな世のなかさ ! 」 彼はいそいで電車をおりていった。 エルキュールボワロはまゆをひそめてすわっていたが、その顔つきは、この世のなか をさほどおかしなところとは見なしていないかのようだった。そして、家に帰りつくとす件 ちゅうじつじゅうばく ぐに、あることを忠実な従僕ジョーンこ、 名前のリストを手にとって、エルキュールⅡボワロはそれに指を走らせた。それは、あ しゃ しよ、つげき ちゅうもん しよ、つげき 、つけた。 けつか