一週間 - みる会図書館


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1. リング

してそうするのか、偶然が導くのかは知らないが、足元にぼっかりと穴が開いたような底 なしの恐怖を人に与えることができるのだ、とぼくは考えを変えざるをえなかった。それ ほどまでに、『リング』という物語は恐い物語だったのである。 実際の話、『リング』を読み終わったのは梅雨のまっ盛りの午後十時過ぎだったのだが そのときのことは、いまだによく覚えているーーーぼくは、一人で部屋にいることに耐 えられなくて、新宿までタクシーを飛ばして仲間がたむろする飲み屋へ駆けつけた。一人 でいることがなんだか無性に恐く、一人でトイレヘ行くのが怖くてしかたのなかった子供 の時のように、他人のぬくもりを求めてしまったのだ。そう、理性ではなく本能を直撃す るような恐さが、『リング』にはあったのだ。こんなこと、恥ずかしながら、初めての体 験だっこ。 それほどまでの恐怖を、『リング』よ、 をしかにしてぼくに与えたのか ? それはひとえに、 鈴木光司が生みだした、新しいモンスターのせいである。そのモンスターは、活字の合間 から姿を現すやいなや、たちまちのうちに・ほくの理性を食い破り、長いこと忘れていた恐 怖の謝罘を暗示してい 0 たのだ。 物語の発端は、四人の少年少女たちのの突然死にはじまゑ四人とも、同じ日の同じ 時刻に申し合わせたように心不全で死ぬ。死んだ少女の父に当たる主人公が原因を調べ はじめ、見た人間の一週間後の死を予告する恐怖の ( まさしく恐怖の ! ) ヴィデオ・テー プを見てしまう。そのテープの末尾には死を回避するための方法が描かれているはずなの

2. リング

324 でんば 一週間という猶予期間は伝播するうちに短縮されるだろう。見せられた人間は一週間を 待たずしてダビングし、他人に見せ : 一体、この環はどこまで広がるのだ。人間が 本能的に持っ恐怖心に働きかけ、疫病と化した、ヒデオテープはまたたく間に社会に広が るにきまっている。しかも、恐怖に駆られて人々はとんでもないデマを作り上げてしま わないとも限らない。たとえば、「見せられた人間は、二つ以上のコビーを作り二人以 上の人間に見せなければならない」などという条件が加わったら、ねずみ講式に、一本 の流れとはまったく比較にならないスビードで波及し、半年のうちに日本の全国民がキ ャリアとなって、感染は海外に及ぶ。その過程で、何人かの犠牲者が出る、すると、 人々はビデオテープの予告が嘘でないことを知ってますます必死にダビングを繰り返す。 どのようなパニックを引き起こし、どのような事態へ収束していくのか予想もっかない のだ。犠牲者が何人出るのかも・ : 。二年前、空前のオカルトプームが襲った時、届い た投書は一千万通にも上ったのだ。どこかが狂っている。その狂いに乗じて、新種のウ イルスは猛威をふるう : えいち 父と母を死に追いやった大衆への恨み、人類の叡知によって絶滅の縁にまで追いつめ られた天然痘ウイルスの恨み、それは、山村貞子という特異な人間の体の中で融合され、 思いもよらない形で再び世に現れた。 浅川も家族も、ビデオを見てしまった者はみな、このウイルスに潜在的に感染してし まったことになる。キアリアだ。しかも、ウイルスは、生命の核ともいえる遺伝子に直 てんねんとう

3. リング

だが、その部分だけが消されている。どうやら、死んだ四人がそのテープを見たあとに ( その部分を消してしまったらしい。一週間という区切られた時間で、死を回避する方法 オマジナイを見つけることができるのか ? そして : こうして並べてみると、この物語が実にオーソドックスな骨子を持っていることがわか る。誤解されることを恐れずにいってしまうなら、スリラー・サスペンスの形式を持った 物語なら、この手のものはザラにあるはずで、驚くには当たらない。『リング』をサスペ ンスとして読むのなら、ポイントはヴィデオが予告した死を回避する「オマジナイ」とは いったいなんなのか ? という謎と、一週間というタイムリミットの中でその謎を解決す ることができるのか ? ということになる。作者がやらなければいけないのは、主人公の 前に幾多の難関を用意し、ストーリイ・テリングのテク = ックを駆使して物語を盛りあげ ていけばいいのだ。 だがしかし、ここで「なあんだ、ただのサスペンスなのか。などといって本書と鈴木光 司をなめてはいけない。絶対にいけない。罰が当たります。「リング』がただのサスペン スであるならば、たしかに「なあんだ」であるかもしれないが、この物語は斬新なアイデ 説 アに支えられた驚天動地のホラー小説なのである。サスペンスがクライマックスを迎えた 解その先に、鈴木光司の才能のまばゆいきらめきと、まったく新しい種類のモンスター ( 怪 物ったって、ビラ = ア人間や恐怖の蛇男のようなものではないから安心してください ) が 待ち受けているのである。

4. リング

120 十月十三日土曜日 この一週間休みを取ろうかとも思ったが、部屋にこもって無意味に怯えているよりも、 会社の情報システムをフルに利用したほうがビデオテープの内容を解明するのに役立っと 考え直し、土曜日にもかかわらず浅川は出社した。出社しても仕事が手につかないことは る者もいるが、浅川にそんな芸当はできない。今はまだいい。 しかし、残り一日、一時間 一分と時を刻まれたら、正常な意識を持ち続けられるかどうかまったく自信がなかった。 嫌悪しながらも、竜司に魅かれる理由がわかったような気がする。竜司は及びもっかない 程の精神的強さを持っているのだ。浅川が回りの人間の目を気にしながらコソコソと生き ているのに対し、竜司は体の中に神、いや、悪魔を飼って自由奔放に生きている。恐怖に 負けることは決してない。浅川の場合、生への欲望が恐怖心を追い払うのは、死んだ後に おも 残される妻と娘に想いを寄せた時のみであった。浅川はふと気になって、寝室のドアをそ おび っと開け、妻と娘の寝顔を確かめた。何事もない安らかな寝顔。怯えて縮こまっている暇 いきさっ はなかった。浅川は電話で吉野を呼び出すと、今までの経緯を話して協力を頼むことにし た。今日できることは今日のうちにやっておかないと、きっと後毎することになるだろう

5. リング

319 裏に挿入されてきた。そこを開く。瞬間、浅川の目の中にひとつの単語が段階的にグッグ ッグと拡大されて飛び込んできた。 増殖増殖増殖増殖 ウイルスの本能、それは、自分自身を増やすこと。『ウイルスは生命の機構を横取り して、自分自身を増やす』 「おおおおおお ! 浅川はすっとんきような声を上げた。オマジナイの意味にようやくつき当ったのだ。 オレがこの一週間のうちにやったこと、そして竜司がやらなかったこと、明らか じゃないか。オレはあのビデオをビラ・ロッグキャビンから持ち帰ると、ダビングして 竜司に見せた。オマジナイの中身、簡単じゃないか、だれにでもできることだ。ダビン グして人に見せること : 、まだ見てない人間に見せて増殖に手を貸してやればいいん だ。例の四人は、あんなイタズラをして、愚かにもビデオテープをビラ・ロッグキャビ ンンに置いてきてしまった。だから、わざわざ取りに戻ってオマジナイを実行しようとし やっ こ又よ、よ、。 どう考えてもそれ以外の解釈はできない。浅川は受話器を持ち上げて足利の番号を回 した。電話口に出たのは静だった。

6. リング

浅川は、仕事の合間を縫って死亡した四人の若者の身辺を探ろうとしたが、仕事に追わ れてなかなか思うようにはかどらなかった。そうこうするうちに一週間が過ぎて月も改ま り、雨の降り続いた八月の蒸し暑さも、夏を取り戻したような九月の炎暑も、深まりゆく 秋の気配に押し流されるように過去の記憶となっていった。ここしばらく何も起こっては いない。あれ以来、新聞の社会面には隅々まで目を通すようにしているが、類似した事件 には出合わない。それとも、浅川の目に触れないところで、恐ろしい何かが着々と進行し ているのだろうか。ただ、時がたつほどに、四人の死は単なる偶然であって、なんの関連 グ性もないのかもしれないと思うことが多くなった。吉野にもあれ以来会ってはいない。彼 ンも、もう忘れてしまったのだろう。覚えていれば、浅川に連絡をとってくるはずである。 浅川は、事件への情熱が遠のくといつも、四枚のカードをポケットから取り出し、偶然 であるはずがないという思いを新たにすゑカードの上には名前や住所等の必要事項が記 入され、その下の空白には八月から九月にかけての四人の行動、あるいは生い立ちなど、 「いいよ。でも、おまえ、約束、忘れるなよ」 浅川が笑いながらうなずくのを見て、吉野は立ち上がった。そのひょうしに、テープル が揺れてコーヒーが受け皿にこぼれた。吉野はコーヒーカップに一度も口をつけていなか

7. リング

必要であった。さて、ここで重要になるのは、何故、オレは生きているのかということ。 引これに対する回答はひとっしかないだろう。この一週間、気付かないうちに、オレはオマ ジナイを実行していたのだ ! それ以外にどんな説明がある。ようするに、オマジナイは 第三者の手を借りればだれにでもたやすくできることなんだ。しかし、ここでまた疑問点。 ではビラ・ロッグキャビンに泊まった例の四人はなぜ抜け駆けしてオマジナイを実行しな かったのか。簡単にできることなら、他の三人の前では強がって見せておいて、後でこっ そり実行してしまえばいいじゃないか。よく、考えろ。 しし力い、オレはこの一週間、な にをした。竜司は明らかにやってないことで、オレがしたことはなんなんだ ? そこまで考えると、浅川は叫び出した。 「わかるわけねえじゃねえか ! そんなこと。この一週間、オレはやったけれども竜司は やらなかったこと : 、そんなもの山程ある。冗談じゃねえ」 こぶし 浅川は、山村貞子の写真を拳で打った。 「コノヤロー。おまえ、どこまでオレを苦しめれば気がすむ」 何度も何度も山村貞子の顔面を打ち据えた。しかし、山村貞子は表情も変えず、あくま で美しさを保っている。 浅川はキッチンに行き、ウイスキーをグラスになみなみと注いだ。頭の一点に充血して しまった血を、もとに戻す必要があったからだ。グイと一気にあおろうとして、手を止め た。オマジナイの方法を思い付き、夜中に足利まで車を運転しないとも限らない、酒は控

8. リング

りと車を出した。 四人に共通な時と場所を発見したという数時間前の喜びが嘘のように萎んでいる。ビ まぶた ラ・ロッグキャビンで一泊したちょうど一週間後に死んた四人の顔が臉に明滅し、引き返 すなら今のうちだぜとニタニタ笑っている。しかし、ここで引き返すわけこよ、 一方では新聞記者としての本能が強く働いていた。たった一人、という状況がどうしよう もなく恐怖をかきたてていることは確かだ。吉野に声をかければ、おそらくふたっ返事で 飛びついただろうが、同じ職業の人間ではうまくない。浅川はこれまでの経過を文書にま とめ、既にフロッピーディスクの中にしまい込んである。ひっかき回し、邪魔することな く、この事件を共に追ってくれる男 : : : 。当てがないわけではない。純粋な興味だけで付 き合ってくれそうな男が彼には一人いた。しかも、そっちの方面に関する知識は深い。大 学の非常勤講師のため、時間の余裕もある。うってつけだった。ただ、癖のある特異な人 格にがまんできるかどうかは自信が持てない。 山の斜面に南箱根パシフィックランドの案内が立っていた。ネオンサインはなく、白地 グのパネル板に黒いペンキで書かれているだけなので、ヘッドライトに照らされる一瞬をは ンずすと、うつかり見過ごしてしまう。浅川は左に折れ、段々畑の中の山道を上った。リゾ ートクラ。フに至るにしては道はやけに細く、このまま行き止まりになるのではないかと心 細い。カープがきつく、街路灯もないため、ギアをローに入れたままゆっくりと上る。対 向車が来てもすれ違うスペースもなかった。

9. リング

は明らかだ。これで、四人の共通の時間と場所がはっきりした。八月二十九日水曜日、南 箱根。ハシフィックランド、ビラ・ロッグキャビンー 4 号棟と考えて間違いない。謎の死 をとげるちょうど一週間前のことである。 浅川はすぐその場で受話器を取り上げ、ビラ・ロッグキャビンの番号を回した。 CQ—< 号棟の今晩の宿泊を予約するためである。明日の午前十一時の編集会議に間に合えばいし のだから、その地で夜を過ごす時間は充分にあった。 : 行ってみよう、とにかく、現場に行ってみよう。 気は急いてした。 , 、 - 彼の地で待ち構えているものが何なのか、彼にはまるで想像がっかな っこ 0 カオ トンネルを抜けるとすぐ料金所があり、浅川は百円玉を三枚手渡しながら聞いた。 「南箱根パシフィックランドはこの先 ? 」 わかりきったことであった。地図で何度も確認してある。久しぶりで人間に出合ったよ うな気がして、なんとなく一一 = ロ葉を交わしてみたくなったのだ。 「この先に案内が出ていますから、そこを左に折れてください」 領収書を受け取った。こんなに交通量が少なければ、人件費のほうがはるかに高くつく ように思われた。一体いつまでこの男はポックスの中に立っているつもりだろう。なかな けげん か車を出そうとしない浅川を、男は怪訝な顔で見ている。無理に笑い顔をつくり、ゆっく

10. リング

確かに、カーテンを引く前に、サッシのガラス戸をしつかりと締めたはずであった。記 憶に間違いはなかった。震えがとまらない。理由もなく、彼の脳裏に、都会の超高層ビル の夜景が浮かんだ。ビルの壁面を彩る碁盤目状の窓明かりの模様は、ついたり消えたりし、 ある文字になろうとしていた。ビル自体が巨大な長方形の墓石とすれば、窓の明かりによ って形造られる文字は墓碑銘に見える。そのイメージが消えてもなお、白いレースのカー テンはふわふわと舞っていた。 浅川はほとんど半狂乱になって、押し入れからバッグを取り出し、荷物をまとめた。こ れ以上、一秒たりともここに居ることはできない。 : だれがなんと言おうともだ。これ以上ここに居たら、オレの命は一週間どころか一 晩で終わってしまう。 彼はジャージとトレーナーのまま、玄関に降りた。外に出る前に理性を働かせる。ただ 単に恐怖から逃れるだけでなく、自分が助かる方法を考えよ ! 瞬間に湧き上がる生存へ の本能。浅川はもう一度部屋に戻り、ビデオテープの取り出しボタンを押した。。ハスタオ グルでビデオテープをぐるぐる巻きにして、バッグの中に入れる。手がかりはこのテー。フだ ンけなんだから、置いていくわけこよ 冫をいかなかった。連続したシーンの謎が解ければ、ひょ っとして助かる方法も見つかるかもしれない。しかし、なんと言っても、期限はたったの 一週間。時計を見た。十時八分を指している。見終わったのは、確か、十時四分くらいだ った。時間は、のちのち重要な意味を持つ。浅川は、ルームキイをテーブルの上に乗せ、