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検索対象: 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩
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1. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

とのたまへば、妹尼「人に知らるべきさまにて世に経たまはば、さもや尋ね出一もしも浮舟が都の人と接触す るように暮しているのなら、の意。 四 づる人もはべらん。ムフは、かかる方に、思ひかぎりつるありさまになん。心のニ中将の「尋ねきこえ : ・」に照応。 三尼としての遁世生活。 語 四「思ひかぎる」で、決意する意。 物おもむけもさのみ見えはべるを」など語らひたまふ。 氏 五本人 ( 浮舟 ) の心づもりも。 せうそこ 六中将は、浮舟にも。 源こなたにも消息したまへり。 七「おほかたの世を背」くは、浮 舟が私 ( 中将 ) を嫌ってではなく、 中将おほかたの世を背きける君なれど厭ふによせて身こそっらけれ 俗世間一般を厭うて出家する意。 しかし実は、厭世にかこつけて私 ねむごろに深く聞こえたまふことなど、多く言ひ伝ふ。中将「はらからと思し を厭うての出家だろう、と恨む歌。 なせ。はかなき世の物語なども聞こえて、慰めむ」など言ひつづく。浮舟「、い ^ 中将の綿々たる訴えをいう。 九取次の者が、浮舟に 深からむ御物語など、聞きわくべくもあらぬこそ口惜しけれ」と答へて、この一 0 浮舟に、警戒心を解かせて接 近する言葉。前に、色恋沙汰ぬき にとも言った。↓二〇七ハー注三五。 厭ふにつけたる答へはしたまはず。 一一中将の言う「はかなき世の物 くちき 思ひ寄らずあさましきこともありし身なれば、いと疎まし、すべて朽木など語」を逆手にとり、浅慮の自分に は深遠の道理は分らぬと切り返す。 のやうにて、人に見棄てられてやみなむともてなしたまふ。されば、月ごろた三思いもかけぬ情けない事件。 過往の薫・匂宮との三角関係をさ のち ゆみなくむすばほれ、ものをのみ思したりしも、この本意のことしたまひて後す。以下、浮舟の心中に即す。 一三中将なども含め、男との関係 を一途に厭わしく思う。 より、すこしはればれしうなりて、尼君とはかなく戯れもしかはし、碁打ちな 一四奥山の朽ち果てた木のように、 どしてそ明かし暮らしたまふ。行ひもいとよくして、法華経はさらなり、こと俗世間から見捨てられた境遇。 へ たはぶ

2. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

かしたまふにこそありけれ」 ( 一七八ハー七行 ) と妹尼に訴え残しながら、演奏をやめて出て行く中将に、妹尼が「など、 るのも、この妹尼の引歌表現を受けての物言いである。 あたら夜を御覧じさしつる」と言って、彼を引きとめよう 00 11 山里は秋こそことにわびしけれ鹿の鳴く音に目 とする一言葉となっている。 ・一とね をさましつつ ( 古今・秋上・ = 一四壬生忠岑 ) ・川・ 9 琴の音に峰の松風かよふらしいづれのをより調 山里は秋こそ格別にもの寂しいもの。鹿の鳴く声にしばしば べそめけむ ( 拾遺・雑上・四五一徽子女王 ) 目を覚しては、物思いに屈することだ。 琴の音色に、峰の松を吹く風が通じているらしい。琴のどの 前出 ( ↓タ霧三九八ハー上段 ) 。物語では、中将が妹尼と対 緒から、またどこの峰で、その音色を掻き鳴らしはじめたの だろうか 面する場で、笛を吹き鳴らして「鹿の鳴く音に」と独誦す な ひ る。亡き妻を追慕しつつ、それゆえに浮舟に心惹かれる気前出 ( ↓賢木三八五ハー下段など ) 。物語では、小野の山里の、 持を、妹尼に訴える前提にもなっている。 秋の風情のなかで松籟とひびきあう合奏をいう。 たけふ 00 世の憂きめ見えぬ山路へ入らむには思ふ人こそ ・・ 9 道のロ武生の国府に我はありと親に申し もののべのよしな みちのくち ほだしなりけれ ( 古今・雑下・空五物部吉名 ) たべ心あひの風やさきむだちゃ ( 催馬楽「道ロ」 ) 世の中のつらさにあわすにすむ山の中に入ろうとすると、捨前出 ( ↓四三〇ハー下段 ) 。物語では、ト野の山里の合奏で、 てがたく思う人が修行の妨げになるものだった。 老齢の母尼が「たけふ、ちちりちちり、たりたんな」など ひな 前出 ( ↓賢木三八七ハー上段など ) 。物語では、中将の、妹尼と謡う。老齢の尼の謡う鄙びた古謡だけに、やや異様な雰 への訴えの言葉。浮舟が自分に関心を寄せてくれそうもな囲気がかもし出される。 いので、尼たちの住むこの山里を、世の中のつらさのない ・・ 1 秋風の吹くにつけても訪はぬかな荻の葉ならば なかっかさ 覧山中とは思えぬ、と恨んでみせた。 音はしてまし ( 後撰・恋四・八四七中務 ) ・ 1 あたら夜の月と花とを同じくは心知れらむ人に 秋風が吹くようになったが、私のことを飽きたのか、訪れて 歌 見せばや ( 後撰・春下・一 0 三源信明 ) はくれないのだ。人を招くという荻の葉ならば、風に音をた この惜しむべき夜の月と花を、どうせ同じことなら、情理を てて、音信ぐらいありそうなものなのに。 わきまえているような人に見せたいものだ。 詞書によれば、平かねきとの仲がしだいに疎遠になったこ 前出 ( ↓明石 3 三六〇ハー下段など ) 。物語では、浮舟に恨みを ろ詠んでやった歌。「秋」に「飽き」をひびかす。「荻」は 439

3. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

によりて碁聖といへり」 ( 花鳥余 ばれしうもてなしておはしませ。あたら御身を。いみじう沈みてもてなさせた 情 ) 。『大和物語』『古今著聞集』 くちを まふこそ口惜しう、玉に瑕あらん心地しはべれ」と言ふ。夕暮の風の音もあは『今昔物語集』などにもみえる人物。 一四三番勝負に一一敗した意。 三暗に、浮舟のほうが僧都より れなるに、思ひ出づること多くて、 強かろう、との推測 そで ゅふべ 一六尼削ぎの、頬に垂れた前髪が、 浮舟心には秋のタをわかねどもながむる袖に露ぞみだるる みつともない意。髪が薄いカ ニ 0 ふみ 月さし出でてをかしきほどに、昼、文ありつる中将おはし宅少将の碁の趣味から、今後も 〔一九〕中将来訪浮舟、 相手をさせられないかと厄介。 母尼の傍らに夜を過す たり。あなうたて、こはなぞ、とおばえたまへば、奥深く一 ^ せつかく年若の御身なのに。 一九「露」に涙を、「みだるる」に心 乱れる意をもこめる。自分には秋 入りたまふを、少将の尼「さもあまりにもおはしますかな。御心ざしのほども、 のタの情趣も解せないが、とする。 あはれまさるをりにこそはべるめれ。ほのかにも、聞こえたまはんことも聞かニ 0 ↓前ハー三行。 ニ一以下、浮舟の心中に即す。 しとうし一三中将の厚志。秋の夜更け、遠 せたまへ。しみつかんことのやうに思しめしたるこそ」など言ふに、、 路はるばるの訪問を感動的とする。 つかひ ろめたくおばゅ。おはせぬよしを言へど、昼の使の、一ところなど問ひ聞きたニ三中将の申される言葉を。 ニ四言葉を聞くだけで深い仲にで いと言多く恨みて、中将「御声も聞きはべらじ。ただ、け近くてもなりそうに恐れて。「しみつく」 習るなるべし、 ↓東屋一九四ハー一一行。 一宝少将が中将を手引せぬかと。 聞こえんことを、聞きにくしとも思しことわれ」と、よろづに言ひわびて、 手 実浮舟が一人居残っているのを こ、 ) ろう ニ七 中将「いと心憂く。所につけてこそ、もののあはれもまされ。あまりかかるは」聞き出していたのだろう。 8 毛寂しい山里だから、物事に感 ずる度合も深かろうに、の気持。 などあはめつつ、 ニ四 ニ六

4. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

とあり。こたみはさもありぬべしと思ひゆるして帰りぬ。 えに、浮舟を引き取ったがその処 遇に思いあぐねた、とする歌 ふみ 三不慣れで気恥ずかしく。 文などわざとやらんは、さすがにうひうひしう、ほのかに 〔一五〕中将三たび訪れる 一六浮舟の物思い。↓前ハー一行。 妹尼応対する 見しさまは忘れず、もの思ふらん筋何ごとと知らねどあは宅隼など小形の鷹で小鳥をと る狩。小野に立ち寄る口実である。 第」たかがり れなれば、八月十余日のほどに、小鷹狩のついでにおはしたり。例の、尼呼び一 ^ 少将の尼。中将の応対役。 一九「誰をかも待乳の山の女郎花 しづごころ 出でて、中将「一目見しより、静心なくてなむ」とのたまへり。答へたまふべ秋と契れる人そあるらし」 ( 小町 一九 集 ) 。誰か他に思う人がいるか。 まっち ニ 0 ニ 0 妹尼が簾外の中将に。 くもあらねば、尼君、「待乳の山のとなん見たまふる」と言ひ出だしたまふ。 ニ一浮舟の身の上について。 たいめん 対面したまへるにも、中将「心苦しきさまにてものしたまふと聞きはべりし人一三もっと詳しく聞きたい意。 ニ三以下、自分 ( 中将 ) の性分。万 うへ の御上なん、残りゆかしくはべる。何ごとも心にかなはぬ心地のみしはべれば、事、望みのかなわぬ人生だとする。 一西出家して山にこもりたい意。 山住みもしはべらまほしき心ありながら、ゆるいたまふまじき人々に、思ひ障一宝出家を許してくれそうもない 人々。両親などであろう。 ニ六 りてなむ過ぐしはべる。世に心地よげなる人の上は、かく屈したる人の心から = 六屈託なげに楽しそうにしてい る人。今の妻 ( 藤中納言の娘 ) 。 習にや、ふさはしからずなん。もの思ひたまふらん人に、思ふことを聞こえば毛憂愁が身上の私の性分からか。 ニ ^ 物思いの浮舟に共感したい意。 ニ九 おの や」など、いと、いとどめたるさまに語らひたまふ。妹尼「、い地よげならぬ御願己が人生の憂愁を楯に恋を訴える 手 中将の物言いは薫とも共通するが、 この場限りの言葉にすぎない。 ひは、聞こえかはしたまはんに、つきなからぬさまになむ見えはべれど、例の 一一九苦悩する女と結婚したい希望。 三 0 よはひ 人にてあらじと、 いとうたたあるまで世を恨みたまふめれば。残り少なき齢の三 0 「うたて」と同じ。 ニ ^ うへ ニセく さは はやぶさ

5. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

うしろで 一五馴れてそれが普通と思うよう りとや思ひつらん、立ちてあなたに入りつる後手、なべての人とは見えざりつ。 になろう。若い女らしさを失う不 さやうの所に、よき女はおきたるまじきものにこそあめれ。明け暮れ見るもの都合さを難じ、禅師の関心を惹い て女の素姓を聞き出そうとする。 めな ふびん は法師なり。おのづから目馴れておばゆらん。不便なることなりかし」とのた一六以下、禅師が、宇治院に倒れ ていた女を初瀬帰りの一行が救っ 一六 まう はっせ た話を仄聞している趣。 まふ。禅師の君、「この春、初瀬に詣でて、あやしくて見出でたる人となむ聞 一セ宇治の山里。 きはべりし」とて、見ぬことなればこまかには一一 = ロはず。中将「あはれなりける天高貴な女が、事情があって山 里に隠れ住むうちに男に見出され 一七 る、昔物語の一類型。↓帚木田六 ことかな。いかなる人にかあらむ。世の中をうしとてぞ、さる所には隠れゐけ 七ハー・末摘花一四ハー。『細流抄』 は『住吉物語』を掲げる。中将の非 むかし。昔物語の心地もするかな」とのたまふ。 日常的な感動を導く。 またの日帰りたまふにも、中将「過ぎがたくなむ」とてお一九小野の邸に。 一巴翌日小野に寄って ニ 0 中将が帰途立ち寄るだろうと、 ニ 0 浮舟に贈歌妹尼返歌 はしたり。さるべき心づかひしたりければ、昔思ひ出でた食事の用意などをしている。 ニ一姫君在世中を思い出させるよ そでぐちニニ うな給仕役の少将の尼など。 る御まかなひの少将の尼なども、袖口さま異なれどもをかし。 しとどいや目に、 にびいろ 一三昔とは異なる鈍色 ( 尼衣 ) 。 習尼君はものしたまふ。物語のついでに、中将「忍びたるさまにものしたまふら = 三涙がちの目。亡き娘を思う。 一西なまじ中将に話して、浮舟の たれ ニ四 んは、誰にか」と問ひたまふ。わづらはしけれど、ほのかにも見つけたまひて近親者に伝わるのを懶る気持。 手 一宝中将が浮舟をかいま見たこと。 ニ六 ニ六亡き娘のことを忘れかねて、 けるを、隠し顔ならむもあやしとて、妹尼「忘れわびはべりて、いとど罪深う その執着がいよいよ罪障深いこと と思ってきたが、その慰めにと。 のみおばえはべりつる慰めに、この月ごろ見たまふる人になむ。いかなるにか、 一九

6. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

一浮舟をも自分をも「もの思ふ 中将「山里の秋の夜ふかきあはれをももの思ふ人は思ひこそ知れ 人」として、共感を求める歌。 ニうまく取りつくろって、返歌 おのづから御心も通ひぬべきを」などあれば、少将の尼「尼君おはせで、紛らは 語 を代作できる者もいないとする。 三世間知らずのようだ、の意。 物しきこゅべき人もはべらず、いと世づかぬゃうならむ」と責むれば、 氏 四自分では情けない身とも思わ 四 源 ぬのに、として、苦悩をおしたて 浮舟うきものと思ひも知らですぐす身をもの思ふ人と人は知りけり る中将の懸想を切り返した歌。 五特に返歌というのでもないが。 わざと言ふともなきを、聞きて伝へきこゆれば、 いとあはれと思ひて、中将 六少将の尼が、中将に。 セ少将の尼や左衛門 「なほ、ただ、いささか出でたまへと聞こえ動かせ」と、この人々をわりなき ひさし ^ 浮舟を廂に連れ出そうとして、 まで恨みたまふ。少将の尼「あやしきまで、つれなくそ見えたまふや」とて、入奥の母屋に入って見ると。 九母尼のもとに。 おいびと りて見れば、例は、かりそめにもさしのぞきたまはぬ老人の御方に入りたまひ一 0 少将の尼は、中将を拒む浮舟 の態度があまりにも意外。 にけり。あさましう思ひて、かくなん、と聞こゆれば、中将「かかる所になが = 以下、浮舟のこと。 三心中を察するとかわいそうで。 なき一け めたまふらん心の中のあはれに、おほかたのありさまなども情なかるまじき人一三おおよその様子などから察し て、人の情けの分らぬはずもない の、いとあまり思ひ知らぬ人よりもけにもてなしたまふめるこそ。それももの方なのに、まるでものの分らぬ人 以上に薄情なあしらいぶり。 懲りしたまへるか。なま、、ゝ をし力なるさまに世を恨みて、いつまでおはすべき人一四男との関係でひどいめに遭わ された経験でもあるのか、の意。 おば そなどありさま問ひて、いとゆかしげにのみ思いたれど、こまかなることは、三以下の事柄について、やはり、 お聞かせください、と尋ねる趣。 一九 いかでかは言ひ聞かせん、ただ、少将の尼「知りきこえたまふべき人の、年ごろ一六どんな事情で。

7. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

った。↓浮舟八四ハー二行。 へなしと思ひて、「かかる心の深くありける人なりければ、はかなき答へをも 一四浮舟の出家で人々が動転。 しそめじと思ひ離るるなりけり。さてもあへなきわざかな。いとをかしく見え一五中将に浮舟の出家を知らせた。 一六中将の落胆する気持。以下に ひとよ も、「あへなし」が繰り返される。 し髪のほどを、たしかに見せよと、一夜も語らひしかば、さるべからむをりに 宅出家の願望を強く抱いていた ひと 女だったので。以下、中将の心中。 と言ひしものを」と、いと口惜しうて、たち返り、中将「聞こえん方なきは、 一 ^ ↓一七二謇八行・一七四ハー末。 一九手引を求めた言葉。 岸とほく漕ぎはなるらむあま舟にのりおくれじといそがるるかな」 ニ 0 少将の尼も、折を見て浮舟に 例ならず取りて見たまふ。もののあはれなるをりに、今は、と思ふもあはれな手引することを約束していたか。 しがん ニ一「岸」は此岸 ( 彼岸に対する ) 。 「海人」「尼」、「乗り」「法」の掛詞。 るものから、いかが思さるらん、いとはかなきものの端に、 「岸」「漕ぎはなる」「海人舟」「乗 ニ四 り」が縁語。自分も出家したい意。 浮舟心こそうき世の岸をはなるれど行く方も知らぬあまのうき木を 一三これで終り、と思うのも。 と、例の、手習にしたまへるを包みて奉る。浮舟「書き写してだにこそ」とのニ三これまで返歌を拒んできた浮 舟が返歌を詠む理由を語り手も知 らぬとする。実は、出家後の心の たまへど、少将の尼「なかなか書きそこなひはべりなん」とてやりつ。めづらし 余裕がそうさせたのであろう。 ニ四「海人」「尼」の掛詞。「うき 習きにも、言ふ方なく悲しうなむおばえける。 ニセ 木」は水に漂う木。憂き世を離れ ものまうで ても、わが身の寄るべなさを嘆く。 物詣の人帰りたまひて、思ひ騒ぎたまふこと限りなし。 〔一三〕妹尼小野に帰り悲 手 一宝少将の尼が、中将に。 嘆にくれ法衣を整える 妹尼「かかる身にては、すすめきこえんこそはと思ひなしニ六中将の感懐。 毛初瀬詣でに出かけた妹尼一行。 はべれど、残り多かる御身を、いかで経たまはむとすらむ。おのれは、世にはニ ^ 自分が出家の身として。 かみ ニ五 へ ニ六 のり

8. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

205 手習 はくせいじんじっせうしつ なりけり」と思ひつつ、端の方に立ち出でて見れば、遥かなる軒端より、狩衣いて「柏城尽日風蕭瑟タリ」。「蕭 瑟は秋風の寂しく吹くさま。 姿色々に立ちまじりて見ゅ。山へ登る人なりとても、こなたの道には、通ふ人一四ここに立ち寄られた僧都も。 一五山野に修行する民間僧。 もいとたまさかなり。黒谷とかいふ方より歩く法師の跡のみ、まれまれは見ゅ一六このあたり、浮舟の心に密着 した文体。浮舟にも僧都にも敬語 がっかぬのは心境の直叙のためか るを、例の姿見つけたるは、あいなくめづらしきに、この恨みわびし中将なり 宅出家の身ゆえである。 もみぢ 一 ^ 山に帰る僧都一行を見送る。 けり。かひなきことも言はむとてものしたりけるを、紅葉のいとおもしろく、 一九軒端を通して、はるかに遠望。 くれなゐ ニ 0 小野を通って比叡山に登る道。 ほかの紅に染めましたる色々なれば、入り来るよりぞものあはれなりける。こ はせだし 険しい長谷出坂あたりか。途中で ニ四 しいと心地よげなる人を見つけたらば、あやしくそおばゅべき、など思ひ黒谷 ( 西塔の北方 ) への道が分れる。 ニ一世俗人の姿を。 いとま て、中将「暇ありて、つれづれなる心地しはべるに、紅葉もいかにと思ひたま一三「 : ・けり」と、驚きで言う。 ニ三よその紅葉より一層色鮮やか ニ五 ひと へてなむ。なほたち返り旅寝もしつべき木のもとにこそ」とて、見出だしたまニ四屈託なさそう女なら、この地 に不似合いとする。中将は物思う 浮舟に魅了された。↓一七七ハ へり。尼君、例の、涙もろにて、 一宝浮舟は出家したが、みごとな 紅葉に心惹かれるとする。 妹尼木枯の吹きにし山のふもとにはたち隠るべきかげだにぞなき ニ六浮舟の出家後を、木枯の吹く とのたまへば、 荒涼の山里とみて、中将を泊めお くすべもなくなった、とする。 ニ七 こずゑ 毛「あらじ」に「嵐」をひびかし、 中将待つ人もあらじと思ふ山里の梢を見つつなほそ過ぎうき 前歌の「木枯」に応ずる。誰も待た ぬ山里ながら素通りできぬと嘆く。 言ふかひなき人の御事を、なほ尽きせずのたまひて、中将「さま変りたまへ ニ六 、」がらし くろだに はしかた 一九 のきば かりぎぬ ひ

9. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

一 ^ うち 心より外に世にありと知られはじむるをいと苦しと思す心の中をば知らで、男てくれるな、と前歌を切り返した。 一六浮舟の歌として取り次ぐ趣。 宅以下、簾中の尼たちの反応。 君をもあかず思ひ出でつつ恋ひわたる人々なれば、女房「かく、はかなきつい 「知らで、男君をも : ・」に続く。 ニ 0 ほか でにも、うち語らひきこえたまへらむに、、いより外に、世にうしろめたくは見天浮舟の心内を察知せす。 一九亡き姫君のことはもちろん、 な ) け えたまはぬものを。世の常なる筋に思しかけずとも、情なからぬほどに、御答昔の婿の中将のことをも。 ニ 0 女君 ( 浮舟 ) の意思に背いて、 中将は油断のならぬふるまいは決 へばかりは聞こえたまへかし」など、ひき動かしつべく言ふ。 してしないお方なのに、の意。 さすがに、かかる古代の心どもにはありつかず、いまめきつつ、腰折れ歌好三世間並の色恋沙汰には受け取 らすとも、人情の分る程度に ニ四 かたぎ ましげに、若やぐ気色どもは、、 しとうしろめたうおばゅ。限りなくうき身なり一三年寄の昔気質とは不似合いに。 昔の女房気質のままに、の意。 けりと見はててし命さへ、あさましう長くて、いかなるさまにさすらふべきなニ三下手な歌。 ニ四浮舟は、誰かが強引に中将を な す らむ、ひたぶるに亡きものと人に見聞き棄てられてもやみなばやと思ひ臥した手引しかねないと不安である。以 下、己が悲運の身を思う。 一七七ハー注天。 まへるに、中将は、おほかたもの思はしきことのあるにや、いといたううち嘆ニ五↓ ニ六「山里は秋こそことにわびし ニ六 ね けれ鹿の鳴く音に目をさましつ 習きつつ、忍びやかに笛を吹き鳴らして、中将「鹿の鳴く音に」など独りごっけ つ」 ( 古今・秋上壬生忠岑 ) 。 毛昔の妻との思い出。 はひ、まことに、い地なくはあるまじ。中将「過ぎにし方の思ひ出でらるるにも、 手 ニ ^ 今から思いを寄せてくれそう かた なかなか心づくしに、今はじめてあはれと思すべき人、はた、難げなれば、見な方とて、いそうにないので。暗 、浮舟の冷淡さをいう。 やまぢ えぬ山路にも、え思ひなすまじうなん」と、恨めしげにて出でたまひなむとすニ九↓賢木一五九ハー注 = 五の歌。 けしき ニ•P ふ ニ九

10. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

じつらん」と一言ふ。かかることこそはありけれとをかしくて、何人ならむ、げ宅中将の目ざとさをからかう。 天以下、中将の心に即した叙述。 にいとをかしかりつと、ほのかなりつるを、なかなか思ひ出づ。こまかに問へ意外な所に意外な美女が、の思い 一九ちらとかいま見た相手だけに、 かえって印象が鮮明。 ど、そのままにも言はず、少将の尼「おのづから聞こしめしてん」とのみ言へば、 ニ 0 帰京を促す言葉。一七〇ハー一 うちつけに問ひ尋ねむもさまあしき心地して、供人「雨もやみぬ。日も暮れぬ四行・前ハー一一行に続く雨の様子。 時間の経過をも巧みに語りこめる。 べし」と言ふにそそのかされて、出でたまふ。 ニ一前出の女郎花。↓一六九ハー。 一三「ここにしも何にほふらむ女 をみなへし 前近き女郎花を折りて、中将「何にほふらん」と口ずさびて、独りごち立て郎花人のもの言ひさがにくき世 に」 ( 拾遺・雑秋僧正遍照 ) 。女郎 と・か り。「人のもの言ひを、さすがに思し咎むるこそ」など、古代の人どもはもの花は女を象徴する歌語。尼たちの 中にあんなに美しい女が、の気持。 めでをしあへり。妹尼「いときょげに、あらまほしくもねびまさりたまひにけ = 三人のロの端をやはり気にかけ るとは奥ゆかしい、と中将の深慮 るかな。同じくは、昔のやうにても見たてまつらばや」とて、「藤中納言の御をほめる。引歌の下の句による。 ニ四古風な尼君たち。 ニ七 あたりには、絶えず通ひたまふやうなれど、心もとどめたまはず、親の殿がち一宝中将は現在、この人の姫君の ニ ^ もとに婿として通っている。中納 - : ンっう 習になんものしたまふとこそ言ふなれ」と尼君ものたまひて、妹尼「心憂く、も言は従三位相当。素姓は不明。 ニ六夫婦仲の絶えない程度に。 ニ九 のをのみ思し隔てたるなむいとつらき。今は、なほ、さるべきなめりと思しな毛中将の両親の邸にいることが うわさ 手 多いと、世間では噂している意。 いっとせむとせ 三 0 して、はればれしくもてなしたまへ。この五六年、時の間も忘れず、恋しくか = 〈以下、浮舟にむかっての言葉。 00 ニ九これも宿縁だと考えて。 のち 三 0 亡き娘のこと。 なしと思ひつる人の上も、かく見たてまつりて後よりは、こよなく思ひ忘れに ニ六 一九 ニ 0 ニ四 なにびと ニ五 とう