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検索対象: 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡
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1. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

これは、また、世ノ中にをかしくもめでたくも人の思ふべき事を選り出でた るかは。ただ心一つに思ふ事をたはぶれに書きつけたれば、物に立ちまじり、 な 人並み並みなるべき物かはと思ひたるに、「はづかし」など、見る人の、のた 七草木の花を記した部分から虫 まふらむこそあやしけれ。また、それもさる事ぞかし。人の、物のよしあし言を記した部分まで、この草子全部 にとって、の意か ひたるは、心のほどこそおしはからるれ。ただ人に見えそむるのみぞ、草木の〈「そしらるれば」の誤りか。 九「罪避る」は陳謝する、弁明す 花よりはじめて虫にいたるまで、ねたきわざなる。何事もただわが心につきてる、の意。 一 0 「広めく」で、広く動くこと。 おばゆる事を、人の語る歌物語、世のありさま、雨、風、霜、雪の上をも言ひ一説、「ひろ」は擬態語で、ひょろ ひょろ動きまわる意。 きよう しい・かげ冫ルに。も。 段たるに、をかしく興ある事もありなむ。また、「あやしくかかる事のみ興あり、 三「痩す」の形容詞化したもので、 をかしくおばゆらむ」と、そのほどのそしられば、罪さり所なし。さて人並み肩身がせまく身も痩せる思いがす 第 る、の意が原義という。現在の やさ 並みに、物に立ちまじらはせ、見せひろめかさむとは思はぬものなれば、えせ「優し」に近い例も中古にあるが、 ここは恥ずかしい、みつともない、 にも、やさしくも、けしからずも、心づきなくもある事どももあれど、わざとの意。 御前わたりの恋しく思ひ出でらるる事あやしきを、こじゃ何やと、つきせずお れうし ほかる料紙を書きつくさむとせしほどに、、 しとど物おばえぬ事のみそおほかる ゃ。 な え

2. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

一五人が見るはずのものとは思わ にもあらず。 なかったので。執筆事情を知る上 みなひと ばつぶん また、あと火の火ばしといふ事、などてか。世になき事ならねば、皆人知りで跋文と合せて考えるべき段。 いわしみず 一六臨時の祭は、石清水 ( 三月中 たらむ。げに書き出で、人の見るべき事にはあらねど、この草子を見るべきもの午の日 ) と賀茂 ( 十一月下の酉の 日 ) とにある。「おまへ」は主上の のと思はざりしかば、あやしき事をも、にくき事をも、ただ思はむ事の限りを御前の儀。 一セ祭の当日社頭で奏する舞曲を あらかじめ主上の御前で奏するも 書かむとてありしなり。 の。 一 ^ 季節からみて以下は石清水の 臨時の祭。 一四五なほ世にめでたきもの臨時の祭のおまへばかりの つばにわ 一九不審。仮に壺庭とする。三巻 本にはない。 事 ニ 0 宮内省に属し、宮中の席・ つかさど 床・清掃・施設のことを司る官人。 りんじ ニ一社に参向する勅使。近衛中・ なほ世にめでたきもの臨時の祭のおまへばかりの事にかあらむ。試楽もい 少将の役。石清水は故実によると せいりゃうでん とをかし。春は、空のけしきのどかにて、うらうらとあるに、清凉殿の御前の南向きなので作者の記憶ちがいか 一三記憶がまちがっているかもし つかひきたむき まひびと かもりづかさ たたみ れない 段庭に、つばも、掃部司の、畳どもを敷きて、使は北向に、舞人は御前の方に。 くろうどどころ ニ三蔵人所の所の衆。雑用をつと める六位の役人。故実によるとこ これらはひが事にもあらむ。 くらづかさ の役は内蔵寮の役人の仕事。 ぺいじゅう ニ四 ところのしゅう 第 ひのき 所衆ども、ついがさねども取りて、前ごとにすゑわたし、陪従も、その日 = 四檜で作った膳冖食器をのせる。 一宝身分の低い地下の楽人。この てんじゃうびと さかづき 日は御前に出ることができる。 力はるがはる杯取りて、果てに は御前に出で入るぞかしこきや。殿上人は、ゝ ごと まつり さうし しがく かた

3. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

では、しばしえこそなぐさむまじけれ」などのたまはせて、かはりたる御けし一「何そ何ぞ」の意で、左右に分 れて謎を競う遊び。 わらは ニ味方。 きもなし。童に教へられたりし事など啓すれば、いみじく笑はせたまひて、 子 三「労々じ」で、いかにも年功が 草「さる事そ。あまりあなづる古ごとは、さもありぬべし」など仰せられて、つあるような老巧な性質を持っこと。 巧者な人が。 かたうど 枕 、でに、「人のなぞなそ合せせし所に、方人にはあらで、さやうの事にらうら四左から始めるのが物合せの例。 五たのみにさせるので。 六あなたの作った謎のことは聞 うじかりけるが、『左の一番におのれ入らむ。さ思ひたまへ』などたのむるに、 こう。一説「その言葉」。 さりともわろき事言ひ出でじかしと、たのもしくうれしうて、皆人々作り出だセそのように申しあげて、しか もひどく期待外れでがっかりだと え さだ いうことはないはずです。 し、選り定むるに、『そのことは聞かむ。いかに』など問ふ。『ただまかせて物 〈非常に。思いがけなく同じ謎 したまへ。さ申して、いとくちをし , つはあらじ』と言ふを、げにとおしはかる。が二つ出るといけないから。 九それなら私にお頼みにならな いでください 日いと近うなりぬれば、『なほこの事のたまへ。ひざうに同じ事もこそあれ』 一 0 結果が待ち遠しく落ち着かな い思いで注目して。 と言ふに、『さはいさ知らず。さらばなたのまれそ』などむつかりければ、お 一一「これは何か何か」。問題を出 かたうど てんじゃうびと ばっかなしと思ひながら、その日になりて、みな方人の男女ゐわけて、殿上人す時の決り文句。左の一番が右方 にいかける。 など若き人々おほくゐ並みて合はするに、左の一番に、いみじう用意してもて三三日月。あまりにも当り前の 問題なので左右とも茫然とした。 なしたるさまの、いかなる事をか言ひ出でむと見えたれば、あなたの人もこな一三勝ったも同然なので。 一四左方。 たの人も、心もとなくうちまもりて、『なそなぞ』と言ふほど、いと、いもとな一五不審。左の一番の人の情味が な

4. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

しとこそをかしけれ。 雪のいと高くはあらで、薄らかに降りたるなどは、、 また、雪のいと高く降り積みたるタ暮より、端近う、同じ心なる人二三人ば 子 ひをけ 草かり、火桶中にすゑて、物語などするほどに、暗うなりぬれば、こなたには火一室内。 ニ「すさぶ」は、、いの進むにまか はひ もともさぬに、おほかた雪の光、いと白う見えたるに、火箸して灰などかきすせてわけもなく事をする、の意。 さびて、あはれなるもをかしきも、言ひ合はするこそをかしけれ。 くつおと よひ 三「何といふ事」の約。下に否定 宵も過ぎぬらむと思ふほどに、沓の音の近う聞ゆれば、あやしと見いだした を伴うのが通例だがここでは省か けふ これている。「何でふ事なき事」の意。 るに、時々かやうのをり、おばえなく見ゆる人なりけり。「今日の雪をいかし 四「さはり」は四段自動詞。 なん と思ひきこえながら、何でふ事にさはり、その所に暮らしつるよしなど言ふ。五以下、会話が地の文に流れ込 んでいる。 すぢ 六「山里は雪降り積みて道もな 「今日来む人を」などやうの筋をそ言ふらむかし。昼よりありつる事どもをう し今日来む人をあはれとは見む」 かたかたあし わらふだ ちはじめて、よろづの事を言ひ笑ひ、円座さし出でたれど、片っ方の足はしも ( 拾遺・冬平兼盛 ) による。 セ明け方のまだほんの暗い頃。 うち おと ^ 「暁、梁王ノ苑ニ入レバ、雪、 ながらあるに、鐘の音の聞ゆるまでなりぬれど、内にも外にも言ふ事どもは、 群山ニ満テリ。夜、公が楼ニ登 あ あ レバ、月千里ニ明ラカナリ」 ( 和漢 飽かずぞおばゆる。明け暗れのほどに、帰るとて、「雪のなにの山に満てり」 朗詠集・雪 ) 。「群山」をばかして 「なにの山」と書いたもの。 しとをかしきものなり。女の限りして、さもえゐ明かさ とうち誦んじたるは、、 九風流な男の様子などを、あと で女同士話し合っている。 ざらましを、ただなるよりはいとをかしう、好きたるありさまなどを言ひ合は ず っ ゅふぐれ きこ 五 ひばし み

5. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

57 第 147 段 一三きよう 右方に移っていて、と仮にみる。 し。『天に張り弓』と言ひ出でたり。右の方人は、いと興ありと思ひたるに、 一六左の一番をばかな者と思って。 あいぎゃう かた 愛敬あな宅やあやあ、全くわからない。 こなたの方の人は、物もおばえず、あさましうなりて、いとにくく、 右方がおどけた。 たに寄りて、ことさらに負けさせむと思ひけるを知らで、など、かた時のほど天ロの左右を下げて困った表情 をする。 に思ふに、右の人をこに思ひて、うち笑ひて、『やや。さらに知らず』とロひ一九ふざけたしぐさをしかけると。 ニ 0 「かず」は、勝負の点数を記録 き垂れて、さるがうしかくるに、『かずさせさせ』とて、ささせつ。『いとあやする棒。 一 = 点数を取られるはすはない。 一三一旦知らないと言った以上負 しき事。これ知らぬ者たれかあらむ。さらにかずささるまじ』と論ずれど、 けになるのは当然でしよう。 『知らずとは言ひ出でむは、などてか負くるにならざらむ』とて、つぎつぎの = 三この左の一番の人に相手との 論を勝たせたのだった。 も、この人に論勝たせける。『いみじう人の知りたる事なれど、おばえぬ事に = 四そのように、知らないと言。 ても仕方がないけれど。 のちニ六 ニ四 は、さこそはあれ、何しかはえ知らずと言ひし』と、後にうらみられて、罪さ = 五知っているのにどうして知ら ないと言ったのか おまへ りける事」を語り出でさせたまへば、御前なる限りは、「さは思ふべし。くち = 六「知らず、といった右方の人は 味方の他の人から恨まれて。「う ここ・ らむ」は上二段活用。 をしく思ひけむ。こなたの人の心地、聞きはじめたりけむ、いかににくかりけ 毛「罪避る」で罪をわびる意。 みなひと ニ九 ニ〈上から自然に地の文に続く。 む」など笑ふ。これは忘れたる事かは、皆人知りたる事にや。 ここまでが中宮の言葉の内容。 ニ九私のように忘れた話ではなく、 知っている話なのに、と中宮の思 一四七正月十日、空いと暗う いやりを感謝しているのであろう。 ニ 0 ニ七

6. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

205 第 321 ~ 322 段 え 「枕にこそはしはべらめ」と申ししかば、「さは得よ」とて給はせたりしを、あとしたら何を書こうか。 一一一条天皇。 かず 三前漢の司馬遷の著した紀伝体 やしきを、こじゃ何やと、つきせずおほかる紙の数を書きてつくさむとせしに、 の史書。文章道で重視された。 一三「枕」は書名とも関連するが明 いと物おばえぬ事そおほかるや。 解がない。↓田「解説」。 おほかたこれは、世ノ中にをかしき事を、人のめでたしなど思ふべき事、な一四「あやしき事を」の意とみる。 一五「故事」とみるが不審。 一六「をかしき」ことを書くのだが ほ選り出でて、歌なども木草鳥虫をも言ひだしたらばこそ、「思ふほどよりは その中でもさらに「人のめでたし わろし。心みつなり」とそしられめ。心一つにおのづから思ふ事を、たはぶれなど思ふべき事」を特に選んで。 宅不審。「『心見つ』なり」で引歌 なな に書きつけたれば、物に立ちまじり、人並み並みなるべき耳を聞くべきものかあるか。三巻奎心見えなり」。 一 ^ 評判。 一九 、とあやし一九気おくれするほどの立派さだ、 はと思ひしに、「はづかしさ」なども、見る人はのたまふなれば、し の意か。 くぞあるや。げにそれもことわり、人のにくむをもよしと言ひ、ほむるをもあニ 0 一般論としてそうした人の心 の程度を推量しているのだとみる。 ニ 0 しと言ふは、心のほどこそおしはかりたれ。ただ人に見えけむぞねたきや。 ばつぶん ニ一第二の跋文。↓田「解説」。 「左中将」は源経房。長徳四年十月 左中将、長和四年 ( 一 0 一五 ) 権中納言。 三一三左中将のいまだ伊勢の守と聞えし時 一三長徳元年正月から二年末まで ニ三伊勢権守。 たたみ せかみきこ ニ三畳をさし出したところが何と 左中将のいまだ伊勢の守と聞えし時、里におはしたりしに、端の方なりし畳 この草子も一緒に乗って出てしま さうし ったのだった。 をさし出でし物は、この草子も乗りて出でにけり。まどひ取り入れしかども、 はしかた

7. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

かたうど しいらへたるとて、「すべて物聞えず。方人とたのみきこゆれば、人の言ひふちの治安一一年 ( 一 0 = 一 l) のことで疑わ しい。三巻本「閑院の左大将」。 = 当時「うち臥しの巫女」という るしたるさまに取りなしたまふ」など、いみじうまめだちてうらみたまふ。 巫女がいたことが『大鏡』『今昔物 。、かなる事をか聞えつる。さらに聞きとめたまふ事なし」など語集』などに見える。同一人物か。 一ニ『紫式部日記』に、藤原実成の 言ふ。かたはらなる人をひきゅるがせば、「さるべき事もなきをほとほり出で舞姫の付添として見える人物か。 一三左京の親「うち臥し」に「打ち たまふ、やうこそあらめ」とて、はなやかに笑ふに、「これもかの言はせたま臥して」をかけてからかったもの。 一四「なり」は伝聞。 一五自分の味方をしてくれる人。 ふならむ」と、いと物しと思へり。「さやうにさやうの事をなむ言ひはべらぬ。 一六以前から世間の人が ( 私が左 のち 人の言ふだににくきものを」と言ひて、引き入りにしかば、後にもなほ、「人京に通うと ) うわさをしていると 同じふうに事を解釈なさる。 てんじゃうびと に恥ちがましき事言ひつけたる」とうらみて、「殿上人の、笑ふとて、言ひ出宅本当に「横になる」の意味だけ で言ったのだと言いのがれた。 ひとり でたるなり」とのたまへば、「さては一人をうらみたまふべくもあらざンなる天自分の加勢をさせようと。 一九かんかんに怒る意。 ニ 0 悪口を言うのは。 に、あやし」など言へど、その後は絶えてやみたまひにけり。 三むりにこじつけて言う。 一三殿上人が、そう言えば人が笑 段 うだろうというわけで、でたらめ 一六七昔おばえて不用なるもの を言い出したのだ。 ニ三私との交際。 からゑ ふよう うげん たたみふ 昔おばえて不用なるもの繧繝ばしの畳の旧りて、ふし出で来たる。唐絵の = 四昔は立派だったが、今は役に 立たぬもの。 ニ五 ぢずりも 7 びやうぶおもて 屏風の表そこなはれたる。藤のかかりたる松の木の枯れたる。地摺の裳の花か一宝縹色があせたの。 「あなあやし 一八 きこ 一九 はなだ

8. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

75 第 166 段 なき」とて、逃げておはしにしを、七夕のをり、この事を言ひ出でばやと思ひ出したままに言ってしまって。 一四↓三七ハー注一三。葛城の神の私 は、もう逃げるより仕方がない。 かならずしもいかでかは、そのほどに見 しかど、「宰相になりたまひしかば、 「すち」は「術」。 ふみ とのもづかさ つけなどせむ。文書きて、主殿司などにてやらむ」など思ひしほどに、七日ま一五斉信が参議になったのは前述 のように長徳二年なので、この段 一九 ゐりたまへりしかば、うれしくて、「その夜の事など言ひ出でば、心もそ得たの年時を長徳元年とみるかぎり作 者の錯覚か脚色ということになる。 くろうど 一六参議は蔵人頭とちがって殿上 まふ。すすろにふと言ひたらば、『あやし』などやうちかたぶきたまはむ。さ に日勤するわけではないから、必 らばそれには、ありし事言はむとてあるに、つゆおばめかでいらへたまへりすしも七夕に見つけられはしまい とのもづかさ 宅主殿司などという手段をとっ て、の意か しかば、まことにいみじ , つをかしかりき。月ごろいっしかと思ひはべりしだに、 みそか 天三月晦日の夜のことを私が。 すず 冫しカてさはた思ひまうけたるやうにの一九きっとお気づきになる。 わが心ながら好き好きしとおばえしこ、、ゝ。 ニ 0 少しもまごっかすに。 たまひけむ。もろともにねたがり言ひし中将は、思ひもよらでゐたるに、「あニ一「はべり」が地の文に用いられ るのは不審。「思はれたりし」の誤 りし暁の事は、いましめらるるは知らぬか」とのたまふにそ、「げにげに」と伝か 一三七夕の今日は逆に四月の詩を と持ち構えたように答えたこと。 笑ふ、わろしかし。 ニ三三月末のあの時に。 一西斉信と私は、人と話をするこ 人といふ事を碁になして、近く語らひなどしつるをば、「手ゆるしてける」 ニ七 とを碁の用語にたとえて。 てう 「けちさしつ」など言ひ、男は、「手受けむ」など言ふ事を、人には知らせず、ニ五たやすく先手を許した。 ニ六終局にだめをさした。 毛何目か置こう。 この君と心得て言ふを、「何事そ、何事ぞ」と源中将は添ひっきて問へど、言 ニ四 あかっき をとこ ニ 0

9. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

が、小さきを、奉りて、『これに綱通して給はらむ。この国にみなしはべる事 じゃうずふよう かんだちめ この句、前とのつながりが悪 なり』とて、奉りたるに、いみじからむ物の上手不用ならむ。そこらの上達部一 。これではどんなに立派な細工 子 の名人でも役に立たないことだろ よりはじめて、ありとある人『知らず』と言ふに、また行きて、『かくなむ』 草 う、の意の地の文とみる。 枕と言へば、『大きなる蟻を二つとらへて、腰にはそき糸をつけむ。また、それ = 親のところに行。て、中将は。 三「つけむは「つけよ」というべ ふと みつめ えんきよく きものの婉曲表現とみる。 がいますこし太きをつけて、あなたのロに蜜を塗りてみよ』と言ひければ、さ 四「それ」は糸。「いますこし太 き ( 糸 ) を」の意。 申して、蟻を入れたりけるに、蜜の香をかぎて、まことにいととう、穴のあな 五知恵をためしてみるようなこ つらめ のち たのロに出でにけり。さて、その糸の貫かれたるをつかはしたりける後になむ、と。 ひのもと のちのち五 日本はかしこかりけりとて、後々さる事もせギ、りける。 この中将をいみじき人におばしめして、『何事をして、いかなる位をか給は六「給はる」は中古語としては 「いただく」の意。三巻本「給ふべ つか、 ちちはは るべき』と仰せられければ、『さらに官位も給はらじ。ただ老いたる父母のか セ下文に「よろづの親 : ・」とある く失せてはべるをたづねて、都に住まする事をゆるさせたまへ』と申しければ、ので、ここは中将の親のみではな く人々の親についての許しを願っ 『いみじうやすき事』とて、ゆるされにければ、よろづの親生きてよろこぶ事ているものとみられる。 いみじかりけり。中将は、大臣になさせたまひてなむありける。 まう みやうじん さてその人の神になりたるにゃあらむ、この明神のもとへ詣でたりける人に、 おほ あり つなとほ お くらゐ 六 ^ 中将の老父。一説、中将。

10. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

163 第 261 ~ 264 段 一三「何となき」と、仮に解する。 おばゆるも言ふめり。 一四そのことをそうしようとする。 なんなき事を言ひて、「その事させんとす」と、「言はんとす」「何とせんと三言おうとする。 一六何々としようとする。 うしな す」と言ふを、「と」文字を失ひて、ただ「言はんずる」「里へ出でんずるーな宅物語を校訂したさまか。ここ は直してある、ここは原本のまま、 ふみ ど言へば、やがていとわろし。まして文を書きては、言ふべきにもあらず。物など不良な本文に書いてあるのは、 の意とみる。「定本」は校訂した本 びと 語こそあしう書きなしつれば、言ふかひなく、作り人さへいとほしけれ。「な文。 なま 天「一つ車に」の訛り。 ぢゃうほん 一九探す。 ほす」「定本のまま」など書きつけたる、いとくちをし。「ひてつ車に」など一言 ニ 0 見よう。「もとむ」と意が異な るが、こうした誤用を言ったもの いとあやしき ふ人もありき。「もとむ」といふ事を、「見ん」とみな言ふめり。 か。三巻本「みとむ、なんどはみ な言ふめり」の方が訛りのことを 事を、男などは、わざとっくろはで、ことさらに言ふは、あしからず。わがこ 言うことになってわかりやすい ニ一妙な言葉を自分の持前の言葉 とばに、もてつけて言ふが、心おとりする事なり。 としてしまって言うのは幻滅だ、 のように解する。 一三束帯の時、または半臂の下 したがさね に着る服。ここは下襲の色目。 すおう べにうち ニ三表蘇芳または白、裏紅打の襲 ンい , つ。 一西表裏とも練った紅という。 一宝表薄茶、裏赤の濃打という。 ニ六表裏とも白。ただし異説があ 二六三下襲は ニ六 したがさね すはう ふたあゐしら 下襲は冬は躑躅。掻練襲。蘇芳襲。夏は二藍。白襲。 二六四扇の骨は つつじ 一九 ニ四 かいねり ニ 0 つく る。