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検索対象: 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩
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1. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

源氏物語 62 思へば、浮舟「、い地のあしくはべるにも、見たてまつらぬがいとおばっかなく一母のもとに私が。浮舟には母 だけが支え。↓五七ハー九行。 おばえはべるを、しばしも参り来まほしくこそ」と慕ふ。母君「さなむ思ひはニ出産を前に騒がしい状況。 三浮舟づきの女房たち。彼女た べれど、かしこもいともの騒がしくはべり。この人々も、はかなきことなどえちが来ても手狭な家なので、裁縫 など上京の準備ができないとする。 たけふ 四「道のロ武生の国府に我 しやるまじく、せばくなどはべればなむ。武生の国府に移ろひたまふとも、忍 はありと親に申したべ心あひ 五 びては参り来なむを。なほなほしき身のほどは、かかる御ためこそいとほしくの風やさきむだちゃ」 ( 催馬楽・ 道ロ ) 。 五人数ならぬ母の身では。薫へ はべれ」など、うち泣きつつのたまふ。 の手前、浮舟が不憫、の気持。 殿の御文は今日もあり。なやましと聞こえたりしを、いか 0 浮舟は母を唯一の支えとしなが 三四〕薫、随身の探索に らも、宮との秘事ゆえに心を隔て より初めて秘密を知る るほかない。彼女の孤絶した、いに、 がととぶらひたまへり。「みづからと思ひはべるを、わり 入水しかないとの決意が固まる。 なき障り多くてなむ。このほどの暮らしがたさこそ、なかなか苦しく」などあ六薫からの手紙。 セ浮舟病気と伝えられていた。 ただよ り。宮は、昨日の御返りもなかりしを、「いかに思し漂ふそ。風のなびかむ方 ^ あなたが京に移るまでを待つ、 その待っ身のつらさ。 もうしろめたくなむ、いとどほれまさりてながめはべる」など、これは多く書九母君の滞在で、浮舟は匂宮へ の返事が書けなかった。 一 0 京の隠れ家にとの心づもりな きたまへり。 のに、何を思い迷っているのか。 一四みずいじん一五 けぶり 雨降りし日、来あひたりし御使どもそ、今日も来たりける。殿の御随身、か = 「須磨の浦の塩焼く煙風をい たみ思はぬ方にたなびきにけり をのこ の少輔が家にて時々見る男なれば、随身「まうとは、何しにここにはたびたび ( 古今・恋四読人しらず ) 。 ( 現代語訳一一八九ハー ) つかひ

2. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

源氏物語 94 心などあしき御乳母やうの者や、かう迎へたまふべしと聞きて、めざましがり一薫の正室、女二の宮の周辺に、 四 意地悪な乳母のような存在を想定。 て、たばかりたる人もやあらむと、下衆などを疑ひ、母君「今参りの心知らぬニ薫が浮舟を京に。 三誘拐をたくらんだ人もいるか。 四乳母のような人 ( ↓注 I) の指 ゃある」と問へど、女房「いと世離れたりとて、ありならはぬ人は、ここにて、 図で、この邸にもぐりこんだ下人 かいるかもしれない、と疑う。 はかなきこともえせず、いまとく参らむと言ひつつなむ、みな、そのいそぐべ 五前にも母君は「今参りはとど きものどもなど取り具しつつ、かへり出ではべりにし」とて、もとよりある人めたまへ」 ( 浮舟六一ハー ) と言い 女二の宮方からの潜入を警戒。 六住みなれていない新参者。 たにかたへはなくて、いと人少ななるをりになんありける。 セ裁縫など、転居の準備をさす。 けしき 侍従などこそ、日ごろの御気色思ひ出で、「身を失ひてばや」など泣き入り ^ 京のそれそれの実家に 九もとからいる女房さえ一部は。 一 0 ↓浮舟六〇ハー・七四ハー たまひしをりをりのありさま、書きおきたまへる文をも見るに、「亡き影に = 浮舟の「なげきわび : ・」の歌が すずり と書きすさびたまへるものの、硯の下にありけるを見つけて、川 の方を見やり硯箱の下にあったのを見つけ、入 水を想像。視線が宇治川に向く。 おと つつ、響きののしる水の音を聞くにも疎ましく悲しと思ひつつ、侍従「さて亡三↓浮舟六〇ハー一一行。 一三鬼のしわざか狐のしわざか、 せたまひけむ人を、とかく言ひ騒ぎて、いづくにもいづくにも、 いかなる方にまた薫の正妻方のしわざかと。 一四母君など誰もが。 なりたまひにけむと思し疑はんも 、いとほしきこと」と言ひあはせて、「忍び一五浮舟が 一六侍従が、右近と。 のち 宅匂宮との秘事とはいえ、女君 たることとても、御心より起こりてありしことならず。親にて、亡き後に聞き ( 浮舟 ) 自身が起したことではない。 たまへりとも、 いとやさしきほどならぬを、ありのままに聞こえて、かくいみ一〈恥ずかしくない。秘事ながら、 めのと うと 六 ふみ 九

3. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

23 浮舟 つかさめし せたまはじを。殿は、この司召のほど過ぎて、朔日ごろにはかならずおはしま一五一夜の女主人。浮舟である。 一六中の君に。浮舟が中の君の異 ニ 0 つかひ しなむと、昨日の御使も申しけり。御文にはいかが聞こえさせたまへりけむ」母妹だと、匂宮はまだ知らない。 宅裁縫で反物に折り目をつける。 けしき と言へど、答へもせず、いともの思ひたる気色なり。右近「をりしも這ひ隠れ一 ^ 浮舟が。彼女がどこかに外出 する話。後文によれば中将の君と 、つしょに石山詣でをする前夜。 させたまへるやうならむが見苦しさ」と言へば、向かひたる人、「それは、か 一九二月初め。 せうそこ かるがる いかニ 0 京の薫からの使者。 くなむ渡りぬると御消息聞こえさせたまへらむこそよからめ。軽々しう、 ニ一薫への返事には。 ニ五 ものまうでのち でかは、音なくては這ひ隠れさせたまはむ。御物詣の後は、やがて渡りおはし一三浮舟は。 ニ三薫来訪の折、身を隠すような のも。すねたと見られては不都合。 ましねかし。かくて心細きゃうなれど、心にまかせてやすらかなる御住まひに ニ四後文で侍従と呼ばれる女房。 ニ七 一宝薫への挨拶なしには。 ならひて、なかなか旅心地すべしや」など言ふ。また、あるは、女房「なほ、 ニ六そのままこちらに帰られよ。 ニ九 毛京の母の邸はかえって他人の しばし、かくて待ちきこえさせたまはむぞ、のどやかにさまよかるべき。京へ 家のようで落ち着かないだろう。 のち三 0 など迎へたてまつらせたまへらむ後、おだしくて親にも見えたてまつらせたま夭薫の来訪を。 ニ九薫が浮舟を京に迎えるつもり へかし。このおとどのいと急にものしたまひて、にはかにかう聞こえなしたまでいる。↓一二ハー一〇行。 三 0 気がねもなく。 ふなめりかし。昔も今も、もの念じしてのどかなる人こそ、幸ひは見はてたま三一あの乳母殿が実にせつかちな 人。「おとど」は女房などの敬称 ふなれ」など言ふなり。右近、「などて、このままをとどめたてまつらずなり三ニ参詣を母君に勧めたのだろう。 三三「まま」は乳母。その乳母の上 めのと にけむ。老いぬる人は、むつかしき心のあるにこそと憎むは、乳母やうの人京を止めるべきだったとする。 三三 ついたち 一九 ニ四 ニ六

4. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

ない」などと何かにつけてかわいそうにお思いになる。死るにつけても、「もしあの女が生きているのだったら今夜 けが の穢れということもあるまいけれど、お供の人の手前もあ はこうして帰っていくこともなかろうに」と、そんなこと あいさっ るので、屋内にはお上がりにならず、お車の榻をお取り寄ばかり思っていらっしやる。尼君に挨拶をお取り次がせに 語 つまど 物せになって妻戸の前に腰かけていらっしやったのだが、そ なったけれども、「ただもうまったく忌まわしいこの身の 氏 れも見苦しいので、こんもりと茂っている木の下に苔を御上をばかり思いつめておりまして、いっそう何のわきまえ 源 敷物にしてしばらくすわっていらっしやる。これからのち もなく惚けておりまして、ただうち臥しております」と申 はここへやってくることもつらく情けない心地がするにち しあげて、こちらへは出てこないので、わざわざお立ち寄 とばかりあたりをごらんになって、 りにはならない。大将はお帰りの道すがらも、女君を早く われもまたうきふる里を荒れはてばたれやどり木のか に京へお引き取りにならなかったことが悔まれ、川の水音 なきがら げをしのばむ が聞えている間はお気持が乱れるばかりで、「せめて亡骸 ( このわたしまでがまた、この疎ましい思い出の宇治の古里 だけでもと思うのに、それさえも捜し出せぬままとは、な を捨て去って、荒れるにまかせてしまうことになったら、 んと情けない仕儀ではあるよ。 いったい女君はどんな有様 ったい誰がこの宿に昔を偲ぶことになるだろうか ) になって、どこの水底の貝殻といっしょになっているのだ あじゃり 山寺の阿闍梨は、今は律師になっているのだった。大将ろう」などと、やりばのないお気持になっていらっしやる。 はその律師をお呼びになって、女君の法事のことについて 〔 0 薫、中将の君を弔あの母君は、京の邸で子を産むはず さしず 指図をおさせになる。念仏の僧の人数をふやしたりしてい 問、遺族の後援を約束になっている娘のことで、穢れをや らっしやる。さだめし罪障の深い女君の死にざまとお思い かましく避け慎んでいるので、いつもの自邸には帰ってい になるので、それの軽くなるような追善を行うべく、七日 くこともできず、落ち着かぬ仮住いばかりしていて、気持 七日に経や仏像を供養するようになど、その旨をこまごまの安らぐ折もないうえに、またこちらの産婦のほうもどう と仰せになって、すっかり暗くなったので京へお帰りにな なることかと案じていたが、これは無事にお産がすんだの ( 原文一一七ハー ) しの しじ ひと やしき

5. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

源氏物語 34 一「大夫」は五位の官人の通称 夜さり、京へ遣はしつる大夫参りて、右近にあひたり。 〔三〕翌朝、匂宮名残を 時方。早朝京に赴いた。↓二七ハー きさい つかひ 惜しみつつ京へ帰る ニ明石の中宮からも、匂宮の安 時方「后の宮よりも御使参りて、右の大殿もむつかりきこ 否を気づかう使者が、一一条院に。 あり かるがる 四 えさせたまひて、人に知られさせたまはぬ御歩きはいと軽々しく、なめげなる三タ霧も不満を申されて。以下、 「いとからき」まで使者の伝言。 こともあるを、すべて、内裏などに聞こしめさむことも、身のためなむいとか四宮とは分らぬ者の無礼な行為。 六 五私 ( 中宮 ) の責任上っらい。↓ ひむがしやまひじり らき、といみじく申させたまひけり。東山に聖御覧じにとなむ、人にはもの総角 3 一二八・二三七ハー 六匂宮から「山寺に忍びてなむ」 しはべりつる」など語りて、時方「女こそ罪深うおはするものはあれ。すずろ ( 二七ハー ) と言えと命ぜられた。 セほとんど関係のない家来の者 けぞう なる眷属の人をさへまどはしたまひて、そらごとをさへせさせたまふよ」と言までうろうろさせなさって。浮舟 のために苦労させられるとの冗談。 わたくし へば、右近「聖の名をさへつけきこえさせたまひてければ、し 、とよし。私の非 ^ 「東山に : ・」の作り言をさす。 九浮舟を「聖」とまで呼んでくれ たとは上出来、とからかう。 も、それにて滅ばしたまふらむ。まことに、、 しとあやしき御心の、げにいかで 一 0 時方が嘘をついた罪障も、浮 いとカ舟を聖扱いした功徳で消えよう。 ならはせたまひけむ。かねて、かう、おはしますべしと承らましにも、 = 匂宮の扱い い性分。 あう 三時方の言葉を受けて、いかに たじけなければ、たばかりきこえさせてましものを、奥なき御歩きにこそは」 も宮はどうしてこんな癖がおあり なのか。家来が悪いとして非難。 とあっかひきこゅ。 一三前に宮がお出になるとうかが っていたなら。突然の来訪を非難 レレいかならむと思しやるに、匂宮 参りて、さなむとまねびきこゆれば、アこ、 一四無分別なお出歩き。 かろ 「ところせき身こそわびしけれ。軽らかなるほどの殿上人などにてしばしあら一五右近が匂宮のもとに。時方の 五

6. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

源氏物語 306 やしき 泣き泣き母君の手紙を開いてみると、 〔一〕浮舟失踪右近ら、あちら宇治の邸では、女房たちが女 あなたのことがほんとに気がかりになって、まんじりと その入水を直感する君のおられないのに気づいて大騒ぎ もしなかったせいでしようか、今夜は夢にさえもゆっく で捜し求めているけれども何の捜しがいもない。物語の中 りとはお姿を見ることもできず、何かにうなされたりし の姫君が、誰かに盗み取られた翌朝のような有様なので、 ては、気分もいつものようではなくいやな感じがいたし ここに ~ 許しく述べることはしな、 ますので、やはりとても恐ろしくなりまして。京へお移 京の母君から、昨日の使者が戻ってこずじまいであった りになるのも近々のようですが、それまでの間、こちら から気がかりなこととあって再び人をさし向けてきた。 にお迎え申すことにしましよう。しかし今日は雨の降り 「まだ鶏の鳴いている時刻に、この私をお遣わしになった のです」とその使いの者が言うので、どんなふうにご返事 そうな空模様ですから : ・ めのと などと書いてある。昨夜女君がお書きになったご返事をも 申したらよいかと、乳母をはじめとして、女房たちはどこ までもあわて惑うばかりである。まるで思いあたるふしも開けてみて、右近はひどく泣く。「やはりそうだったのだ。 い細いことを申しあげていらっしやるではないか。この私 ないので、一同ただ騒いでばかりいるが、あの事情を知っ 、女君のひどく考え事に沈 にどうしてほんの一言でもお打ち明けくださらなかったの ている右近と侍従の二人だけは んでいらっしやった様子を思い出すにつけても、さては身だろう。幼くいらっしやったころから、まったく分け隔て をお投げになったのでは、と思いあたるのであった。 なさらず、またこちらでも何一つ隠しだてするようなこと とり 円げ ろう

7. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

青山△ 鞍馬 静原町破山 山卍寂光院 卍三千院 . 途中題 八瀬遊園 寺卍脚仲堂、 卍翹、他 △三石岳 日吉大社 日坂本 ~ を 出プし白川 阪京 ・大山 壑田 大市 イラスト地図・杉浦才樹 西塔の産堂 堂町後期

8. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

たちばな 巻名宇治川を渡る舟の中で、匂宮の歌「年経ともかはらむものか橘の小島のさきに契る心は」に応えた浮舟の「橘の小島 の色はかはらじをこのうき舟ぞゆくへ知られぬ」の歌による。 梗概匂宮は、二条院で会った浮舟のことが忘れられす、中の君を責めるが、中の君は沈黙を続けている。一方、薫は悠長 にかまえて、宇治を訪れることも間遠であった。 年明けて正月、浮舟から中の君のもとに新年の挨拶が寄せられた。その文面から女の居所を知った匂宮は、家臣を通し てそれが薫の隠し女であることを知る。異常な興味につき動かされてひそかに宇治を訪れた彼は、薫を装って浮舟の寝所 に入り、強引に思いを遂げた。女が人違いと気づいたときには、もう取返しがっかない。 心と犯したわけではない過失に とうりゅう 浮舟はおののくが、身分を顧みす宇治に逗留する匂宮の、薫とは対照的な一途の情熱に、しだいに惹かれていくのであっ とーレき、 二月、ようやく宇治を訪れた薫は、物思わしげな浮舟の様子に、女としての成長を感じ取って喜ぶとともに、い はんもん も増し、京に迎える約束をする。秘密を抱く浮舟はただ煩悶するばかりである。 宮中の詩宴の夜、匂宮は、浮舟を思って古歌を口ずさむ薫の様子に焦燥の思いをつのらせ、雪をおかして再び宇治に赴 いた。邸内の人目もはばかられる。匂宮は浮舟を対岸の隠れ家に連れ出し、夢のような耽溺の二日間を過した。 歓喜と後悔、苦悶。その浮舟のもとに、薫から近く京に迎える旨が告げられてきた。一方、それを知った匂宮からは、 それに先立って彼女をわがもとに引き取ろうとの計画がひそかに知らされる。苦悩する浮舟の気持をよそに、事情を知ら めのと ぬ母や乳母は京移りの準備に余念がない。 やしき やがて匂宮との秘密が薫に察知される日がやってきた。宇治の邸で薫と匂宮双方の使者が鉢合せしてしまったのである。 薫から不倫を詰る歌が届けられる。右近の語る東国の悲話を耳にするにつけても、浮舟は身につまされるが、途方にくれ るしかない。追いつめられ、惑乱がつのり、ついには死を決意する。宇治の邸は、薫によって厳重な警戒体制が敷かれ、 無理をおして訪れた匂宮も、浮舟に逢えぬまま帰京するほかなかった。 不吉な夢見を心配して、母中将の君から文が届けられた。死を間近に思う浮舟は、薫や匂宮、母や中の君を恋いながら、 したた 匂宮と母の二人にのみ、最後の文を書き認めた。 〈薫二十七歳の春。ただし当巻本文中には一歳年長のはずの匂宮の年齢との間に矛盾がある〉 たんでき

9. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

お交しになり、昔の心細くいらっしやった御身の上のお二 れしくも存じあげるのでございますよ。世にまたとなく思 人がほんとにこのうえなくお幸せなものにおなりでござい 慮深いお方のようにお見受けいたします大将殿のお人柄で ましたでしように」と言うにつけても、母君は、自分の娘すから、こうしてお尋ね出し申されましたのも、並大抵の おばしめしではございますまいとこれまでも申しあげてお とてお二人とどこがちがおう、大将殿との申し分のないこ りましたことは、根も葉もない話ではございませんでした の宿縁を全うされることになれば、けっして負けをとるこ でしよう」などと一一 = ロう。母君は、「さきざきのことは分り とはあるまいに、などと思い続けて、「これまでいつもこ ませんけれど、ただ今のところは、こうして大将殿がお見 の君のことにつきましては、何かと心配ばかりしてきまし たが、そうした事情が多少は安心のゆくようになりまして、捨てにならぬように仰せくださいますにつけても、ただあ なた様のお引合せをありがたくお思い出し申さずにはいら こうして京に引き取られるようになりましたので、この私 ふびん がこちらに伺うことも、これからは是が非にもとわざわざれません。宮の上がもったいなくも不憫にお思いください こ , っしてお目にか ましたが、それもこちらでご遠慮申さねばならないことな 思いたつよ , つなこともごギ、いますまし どがつい持ちあがってまいりましたので、寄るべない肩身 かる折々に、昔のこともゆっくりとお話し申しあげもし、 の狭い身の上なのだと、心を痛めたりしておりまして」と また承りとうございます」などと話しかける。尼君は、 言う。尼君が笑って、「その宮が、まったく人騒がせなく 「この私は忌まわしい尼の身の上と深く自覚しておりまし らい好色なお方でいらっしやる由ですから、気のきいた若 たので、女君にお目にかかってこまかくお話し申しあげる 舟 のもどんなものかと遠慮申しあげてこれまで過してまいり い女房はいかにもお仕えしにくい様子です。『たいがいは まことにご立派なお人柄ですけれど、そちらの筋から宮の ましたが、ここをお見捨てになって京に移っておしまいに 浮 なりましたら、この私はさそ心細いことと思われますけれ上が身分をわきまえず無礼な、とおとりになるのがやりき たいふ 7 ど、こうしたお住いでは万事気がかりなことばかりとお察れないことです』と、大輔の娘が申しておりました」と言 うにつけても、女君は、やはりそうであったか、女房たち し申しあげておりますこととて、お移りのことは心からう ひ

10. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

源氏物語 282 この自分に対してじりじり思いつめていらっしやる宮にし るので、親に大事がられる身はなんとも窮屈なもの、とお うわさ ても、やはりじつに移り気なご性分のお方ともつばらの噂 嘆きになるのももったいないことである。あれこれと尽き なのだから、今しばらくの間はともかく、やがてはどうな せぬ思いのたけをお書きになって、 ることか。あるいはまた、このままお見捨てなく京にそっ ながめやるそなたの雲も見えぬまで空さへくるるころ とお囲いくださって、これから先もずっと通い人としてお のわびしさ しの ( あなたのことを恋い偲んで眺めやる宇治の方角の雲も見え世話くださるとしても、そうなれば今度は二条院の上がな ないくらいに、このわたしの心ばかりか空まで真っ暗になっ んとお思いになることか。万事この世は隠し通せるもので ているこのごろのなんとわびしいことよ ) はないのだからーーあのけしからぬお仕打ちのあったタ暮 の出来事、ただそれだけの縁によって、宮はこうして自分 筆にまかせて散らし書きをしていらっしやるのも、おみご ふぜい とであり 、、かにも風情がある。とくにそう分別のあるわをお捜し出しになったようだから、なおさらのこと、自分 がこの先どのような有様でいるにしろ、それを大将がお聞 けでもない若い女、いには、こうした宮のお気持に接しては きつけにならぬはずがあろうか」と、あれこれと考えてい 恋しさが一段とつのるにちがいないけれど、最初から契り くと、自分としてもこちらの落度から大将に疎んぜられ申 を交された大将の様子が、やはりそのお方のほうはなんと いってもほんとに思慮深くてお人柄がご立派であると思わすのはなんとしてもつらくてたまらぬことにちがいない、 と思案に乱れている折も折、その大将殿からお使者がやっ れたりするのも、男女の仲を知った初めてのお相手だから てきた。 であろうか。「このような情けないことを大将がお耳にな これとあれとお二方のお手紙を見比べるのも、まことに さって、この自分に愛想づかしをなさるようなことになっ いやな気持なので、やはり綿々と言葉を連ねてある宮のお たら、どうして生きておられようか。早く京に迎えられる 手紙を見ながら横になっていらっしやると、侍従と右近と ようにと気をもんでいる母君からも、とんでもないけしか が、顔を見合せて、「やはり宮にお気持が移ったのですね」 らぬ娘よと、さぞかし見放されることになろう。こうして