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検索対象: 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩
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1. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

ものけ けん。物の怪もさこそ言ふなりしか」と思ひあはするに、「さるやうこそあら = = 以下、僧都の心中。 一四浮舟に取り憑いた物の怪の言 め。今までも生きたるべき人かは。あしきものの見つけそめたるに、、 しと恐ろ葉を想起。↓一六 一五何か深い事情があるのだろう。 あやふ 一六あの時修法もせす放置してい しく危きことなり」と思して、僧都「とまれかくまれ、思したちてのたまふを、 たら今まで生きていなかったろう。 さ・んばう 三宝のいとかしこくほめたまふことなり、法師にて聞こえ返すべきことならず。宅悪霊が目をつけはじめたので、 このままでは実に恐ろしく危険。 御むことは、、 しとやすく授けたてまつるべきを、急なることにてまかでたれ天浮舟本人が、出家を。 一九「 : ・ことなり」まで挿入句。 こよひニ一 あす みずほふ 「三法」は仏・宝・僧。ここは、仏。 ば、今宵かの宮に参るべくはべり。明日よりや御修法はじまるべくはべらん。 ニ 0 僧の身として反対できない意。 かなニ一 一品の宮 ( 女一の宮 ) 。 七日はててまかでむに仕まつらむ」とのたまへば、かの尼君おはしなば、 一三七日間の修法である。 ニ三七日後には妹尼も帰っていよ らず言ひさまたげてんといと口惜しくて、浮舟「乱り心地のあしかりしほどに、 う。そうなれば彼女に反対される。 乱るやうにていと苦しうはべれば、重くならば、忌むことかひなくやはべらん。 = 四気分のすぐれなかった過往と 同じ状態。五戒を受けた時のこと。 一宝重態になったら、戒を受けて なほ今日はうれしきをりとこそ思うたまへつれ」とて、いみじう泣きたまへ もむだになるかもしれない。病気 ひじりごころ ふ は口実にすぎないが、浮舟の懇願 習ば、聖、いにいといとほしく思ひて、僧都「夜や更けはべりぬらん。山より下り は必死である。出家できなければ はべること、日はこととも思うたまへられざりしを、年のおふるままには、た来世もまた救われがたい思い。 手 ニ六年をとるにつれて。「生ふる」 か。やや落ち着かない表現。 へがたくはべりければ、うち休みて内裏には参らん、と思ひはべるを、しか思 毛あなたが、出家を。 し急ぐことなれば、今日仕うまつりてん」とのたまふに、、 しと , つれしくなりぬ。夭浮舟は、ほっと安堵する。 つか ニ五 ニ三 ニ六 ニ七

2. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

27 浮舟 はじめて気づく語法に注意。 女君は、あらぬ人なりけりと思ふに、あさましういみじけれど、声をだにせ 天匂宮は浮舟に声をさえ。 一九 させたまはず、いとつつましかりし所にてだに、わりなかりし御心なれば、ひ一九ねばならなか 0 た場所で さえ、無理強いをした人だから。 。しかが言ふかひもある二条院で匂宮が言い寄った一件。 たぶるにあさまし。はじめよりあらぬ人と知りたらま、 ニ 0 何の気がねもない放埒ぶりだ。 ニ四 べきを、夢の心地するに、やうやう、そのをりのつらかりし、年月ごろ思ひわ宮への、語り手の評言。 ニ一薫ではない人と。 ニ五うへ たるさまのたまふに、この宮と知りぬ。いよいよ恥づかしく、かの上の御事なニニなんとかあしらうすべもあろ うが。「いかが」の語法やや不審。 ニセ ど思ふに、またたけきことなければ、限りなう泣く。宮も、なかなかにて、たニ三匂宮が浮舟にはじめて言い寄 った時、周囲から阻止されて思い あ を遂げられなかったこと。 はやすく逢ひ見ざらむことなどを思すに泣きたまふ。 ニ四実際には五か月ぶりの再会。 夜はただ明けに明く。御供の人来て声づくる。右近聞きてニ五中の君の。↓二四ハー注一 0 。 〔一 0 〕翌朝匂宮逗留を決 ニ六なすすべもないので。 三 0 意右近終日苦慮する 毛なまじ逢ってかえってつらく。 参れり。出でたまはん心地もなく、飽かずあはれなるに、 夭情交の後の、早速に過ぎ去る と思われる心理的時間。 またおはしまさむことも難ければ、京には求め騒がるとも、今日ばかりはかく ニ九出立の準備を促す咳ばらい。 てあらん、何ごとも生ける限りのためこそあれ、ただ今出でおはしまさむはま三 0 浮舟のもとに。 三一匂宮は。後半、心内語に移る。 三ニ「恋ひ死なむ時は何せむ生け ことに死ぬべく思さるれば、この右近を召し寄せて、匂宮「いと心地なしと思 る日のためこそ人は見まくほしけ をのツ ) はれぬべけれど、今日はえ出づまじうなむある。男どもは、このわたり近かられ」 ( 拾遺・恋一大伴百世 ) 。 三四 三三無分別と思われようが ときかた む所に、よく隠ろへてさぶらへ。時方は、京へものして、山寺に忍びてなむと、 = 西↓二一ハー注 ニ八 かた ニ九 三三

3. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

あづまぢ 東路の道のはてなる常陸帯のかごとばかりも逢はむとぞ思ふ 帚木田六一 l( 四四 0 ) 藤袴 3 一一一五 ( 四 0 四 ) ・竹河公 ll( 四七七 ) 逢坂の名をば頼みてこしかども隔つる関のつらくもあるかな あづま 東にて養はれたる人の子は舌だみてこそものは言ひけれ 帚木田会 ( 四四三 ) 東屋 3 一三セ ( 一一一七七 ) 逢ふまでの形見とてこそ留めけめ涙に浮ぶもくづなりけり あづまや あま とのど 東屋の真屋のあまりのその雨そそき我立ち濡れぬ殿戸開か タ顔田一夭 ( 四四 0 あふみぢ 近江路をしるべなくても見てしがな関のこなたはわびしかりけり かすがひとぎし 鎹も錠もあらばこそその殿戸我鎖さめおし開いて来ませ 椎本 3 一三八 ( 哭一 ) ちとせ 我や人妻紅葉賀七 0 ( 三七六 ) ・蓬生 3 一六 0 ( 三六 0 ・東屋 3 一九五 ( 三八一 ) 近江のや鏡の山を立てたればかねてぞ見ゆる君が千年は やまがっ やまとなでしこ あな恋し今も見てしが山賤の垣ほに咲ける大和撫子 初音団一九六 ( 四 = 九 ) 葵一一一六 ( 一一穴四 ) ・タ霧一 0 一一 ( 三九三 ) ・蜻蛉一六九 ( 四三 0 天の川紅葉を橋にわたせばや七夕つめの秋をしも待っ たふと いにしへ あな尊今日の尊さや古もはれ古もかくやありけむや今 総角 3 一一三一 ( 四九一 l) 日の尊さあはれそこよしや今日の尊さ 海人の刈る藻にすむ虫のわれからと音をこそ泣かめ世をば恨みじ 少女団一三八 ( 四一一五 ) ・胡蝶団一一一六 ( 四三三 ) ・宿木一一三 ( 三実 ) タ顔田一三一 ( 四四七 ) 逢はざりし時いかなりしものとてかただ今の間も見ねば恋しき 海人のすむ里のしるべにあらなくにうらみむとのみ人の言ふらむ 宿木 3 七八 ( 三七三 ) 椎本一六三 ( 哭四 ) 淡路にてあはと遥かに見し月の近き今宵は所がらかも 海人の住む底のみるめも恥づかしく磯に生ひたるわかめをそ摘む 明石 3 七一一 ( 三夭 ) ・松風団一一九 ( 四一一 l) 若紫田一六七 ( 四四九 ) あはれとも言ふべき人は思ほえで身のいたづらになりぬべきかな 天の戸をおしあけ方の月見れば憂き人しもそ恋しかりける 若菜下一会 ( 四 0 八 ) 賢木一七四 ( 三八 0 索 厭あひにあひて物思ふころのわが袖に宿る月さへ濡るる顔なる 天の原ふみとどろかし鳴る神も思ふ仲をばさくるものかは 須磨 3 一一一 l( 三五一 ) タ顔田一一一六 ( 四四六 ) ・賢木一五四 ( 三八七 ) まつら 物 あひ見むと思ふ心は松浦なる鏡の神や空に見るらむ 雨により田蓑の島を今日行けど名には隠れぬものにそありける 氏 源 玉鬘団一五七 ( 四一一六 ) 澪標 3 一一一五 ( 三六六 ) 逢ふことはこれや限りのたびならむ草の枕も霜枯れにけり あやしくもいとふにはゆる心かないかにしてかは思ひやむべき 0 一 0 椎本 3 一夭 ( 哭三 ) 常夏 3 五五 ( 四 00 ) ・早蕨 3 一一一 ( 三 ~ 釜 ) たなばたつめ 逢ふことは棚機女にひとしくて裁ち縫ふわざはあえずそありける あらざらむこの世のほかの思ひ出に今一たびの逢ふこともがな 一 = ロ あはぢ まや あふさか

4. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

源氏物語 306 やしき 泣き泣き母君の手紙を開いてみると、 〔一〕浮舟失踪右近ら、あちら宇治の邸では、女房たちが女 あなたのことがほんとに気がかりになって、まんじりと その入水を直感する君のおられないのに気づいて大騒ぎ もしなかったせいでしようか、今夜は夢にさえもゆっく で捜し求めているけれども何の捜しがいもない。物語の中 りとはお姿を見ることもできず、何かにうなされたりし の姫君が、誰かに盗み取られた翌朝のような有様なので、 ては、気分もいつものようではなくいやな感じがいたし ここに ~ 許しく述べることはしな、 ますので、やはりとても恐ろしくなりまして。京へお移 京の母君から、昨日の使者が戻ってこずじまいであった りになるのも近々のようですが、それまでの間、こちら から気がかりなこととあって再び人をさし向けてきた。 にお迎え申すことにしましよう。しかし今日は雨の降り 「まだ鶏の鳴いている時刻に、この私をお遣わしになった のです」とその使いの者が言うので、どんなふうにご返事 そうな空模様ですから : ・ めのと などと書いてある。昨夜女君がお書きになったご返事をも 申したらよいかと、乳母をはじめとして、女房たちはどこ までもあわて惑うばかりである。まるで思いあたるふしも開けてみて、右近はひどく泣く。「やはりそうだったのだ。 い細いことを申しあげていらっしやるではないか。この私 ないので、一同ただ騒いでばかりいるが、あの事情を知っ 、女君のひどく考え事に沈 にどうしてほんの一言でもお打ち明けくださらなかったの ている右近と侍従の二人だけは んでいらっしやった様子を思い出すにつけても、さては身だろう。幼くいらっしやったころから、まったく分け隔て をお投げになったのでは、と思いあたるのであった。 なさらず、またこちらでも何一つ隠しだてするようなこと とり 円げ ろう

5. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

しとあさましくあきれ一うまくつじつまが合うように。 つきづきしからむさまに答へなどせよとのたまふに、、 ニ右近はあまりの意外さに茫然。 あやま 三匂宮と気づかなかった不注意。 て、心もなかりける夜の過ちを思ふに、心地もまどひぬべきを思ひしづめて、 語 四あたふたと騒いだところで、 物「今はよろづにおばほれ騒ぐともかひあらじものから、なめげなり。あやしか取返しもっかないし、宮にも失礼 五二条院での一件。 あきら 源 りしをりにいと深う思し入れたりしも、かうのがれざりける御宿世にこそあり六人の力を超えた宿世と諦め、 自らの責任を回避しようとする。 けれ。人のしたるわざかはと思ひ慰めて、右近「今日、御迎へにとはべりしセ都から母君が朝遅く迎えに来 る予定 ( ↓二五ハー四行 ) 。その前に、 を、いかにせさせたまはむとする御事にか。かうのがれきこえさせたまふまじ匂宮に帰ってもらいたい。 〈「宿世」の繰返しに注意。匂宮 を非難できぬ苦し紛れの言葉。 かりける御宿世は、いと聞こえさせはべらむ方なし。をりこそいとわりなくは 九あいにく母君が来る今日は、 べれ。なほ、今日は出でおはしまして、御心ざしはべらばのどかにも」と聞こ時機がわるいとして、帰京を促す。 一 0 浮舟を思うお気持があるなら。 ゅ。およすげても言ふかなと思して、匂宮「我は月ごろもの思ひつるにほれは = なまいきにも言うものよ。 一ニ浮舟への物思いで、すっかり 虚け者になったので。以下、匂宮 てにければ、人のもどかむも言はむも知られず、ひたぶるに思ひなりにたり。 の高飛車な物言い あり 一三見つけられて身を滅してもか すこしも身のことを思ひ憚らむ人の、かかる歩きは思ひたちなむや。御返りに 一五 まわぬ心構えでやって来た、の意。 ものいみ は、今日は物忌など一一 = ロへかし。人に知らるまじきことを、誰がためにも思へか一四母君への返事には。 一五物忌で参詣できないなどと。 」と′ ) と し。他事はかひなし」とのたまひて、この人の、世に知らすあはれに思さるる一六何があっても退かぬ、の気持。 宅浮舟。その比類ないかわいら しさに、匂宮の心が強く惹かれる。 ままに、よろづの譏りも忘れたまひぬべし。 そし よ 六 九 た うつ ひ

6. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

1 = ロ けふけふあ 今日今日と我が待っ君は石川の貝に交じりてありといはすやも 真木柱 3 一夭 ( 四 0 五 ) 蜻蛉二七 ( 四三五 ) ことならば思はずとやは言ひはてぬなぞ世の中の玉だすきなる 今日過ぎば死なましものを夢にてもいづこをはかと君が問はまし 末摘花孟 ( 三六 0 浮舟囮公一 ( 四三四 ) 琴の音に峰の松風かよふらしいづれのをより調べそめけむ 物今日だにも初音きかせよ鶯の音せぬ里はあるかひもなし 賢木一哭 ( 三会 ) ・松風団一一 0 ( 四一 0 ) ・ 初音団一九七 ( 四三 0 ) 常夏 3 四 = ( 三九 0 ・橋姫一 = 三 ( 四七九 ) ・手習 2 一八一 ( 四三九 ) 源 今日のみと春を思はぬときだにも立っことやすき花のかげかは 琴の音を聞き知る人のありければ今そたち出でて緒をもすぐべき 若菜上六四 ( 四 00 ) ・若菜下圈一 = = ( 四 0 四 ) 末摘花一四 ( 三六八 ) この殿はむべもむべも富みけり三枝のあはれ三枝のは れ三枝の三つば四つばの中に殿づくりせりや殿づくりせり ここにしも何にほふらむ女郎花人のもの言ひさがにくき世に や初音団一一 0 一 l( 四三一 ) ・竹河 3 五五 ( 四七四 ) ・同七七 ( 四七六 ) ・早蕨一一六 ( 三六七 ) 手習一七三 ( 四三 0 木の間よりもりくる月の影見れば心づくしの秋は来にけり 九重のうちだに明き月影に荒れたる宿を思ひやるかな タ顔田一一九 ( 四四六 ) ・須磨 3 四 0 ( 三五五 ) ・若菜下一公一 ( 四 00 桐壺田 = 八 ( 四三九 ) 恋しきも心づからのわざなれば置きどころなくもてそわづらふ 心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどはせる白菊の花 朝顔団八一一 ( 四一一 0 ) タ顔田一一三 ( 四四五 ) 恋しきを何につけてか慰めむ夢だに見えず寝る夜なければ 心から浮きたる舟に乗りそめて一日も波に濡れぬ日そなき 帚木田八七 ( 四四三 ) 早蕨一一三 ( 三六六 ) 恋しくは来ても見よかしちはやぶる神のいさむる道ならなくに 心には下行く水のわきかへり言はで思ふぞ言ふにまされる 浮舟一一一 ( 四一一五 ) 末摘花一一六 ( 三六 0 ・ 恋しくは来てもみよかし人づてにいはせの森の呼子鳥かも 横笛六五 ( 三九一 ) ・東屋一天 ( 三八 0 ) ・浮舟囮四一 ( 四一一六 ) 早蕨 3 一五 ( 三六四 ) 、いには千重に思へど人に言はぬわが恋妻を見むよしもがな 恋しさの限りだにある世なりせば年へてものは思はざらまし タ霧第一一一一 ( 三九六 ) 横笛六四 ( 三九一 ) ・宿木 3 九三 ( 三七四 ) 試みに他の月をもみてしがなわが宿からのあはれなるかと 恋しともまだ見ぬ人の言ひ難み心にもののむつかしきかな 鈴虫第八八 ( 三九三 ) 明石 3 八 0 ( 三六 0 ) こち 東風吹かば匂ひおこせよ梅の花主なしとて春を忘るな 恋ひ死なば誰が名は立たじ世の中の常なきものと言ひはなすとも ここのヘ こ

7. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

277 浮舟 おももち 〔を匂宮再び浮舟に忍宮は、あの大将の御面持からしても、断りしてお帰り願うすべもないので、同じように女君がお び、対岸の家にこもる いよいよ警戒せずにはいらっしゃれ気に入りでいらっしやる若い女房で、心柄もあさはかでは ないので、よくもそんなことがと思われるような工作をし ない人を相談相手にして、「たいへん困ったことなのです て宇治へお越しになった。京では、友待ち顔に消え残って よ。わたしといっしょになって、なんとかとりつくろって いる雪も、山深くはいってゆくにつれてだんだんと深く降 くださいな」と言うのだった。一一人して宮をお入れ申しあ り積っている。常にもまして難儀の、人跡もまれな細道を げる。道中でお濡れになったお召物の薫りがあたりいつば 分けておいでになるので、お供の人も泣きだしたくなるく いに匂うのも、扱いに困ったにちがいないが、あの大将殿 やっかい らい恐ろしく、厄介なことが起らねばよいかという気にも のご様子に似せてなんとかごまかしたのであった。 しきぶのしよう なっている。道案内の内記は、式部少輔を兼任している人 宮は、今夜のうちにお帰りになるのでは、なまじ来ない やしき だったが、どちらからいっても重々しくふるまうべき役職ほうがましというものだろうし、それに、この邸の人目も さしぬき でありながら、この場合にはまことにうってつけで、指貫まことに気がねなので、時方にひと工夫おさせになって、 すそ の裾を引き上げなどしている姿も一風情というものであっ 川向うにある人の家に女君をお連れしようと計画してあっ たところ、先立って遣わしてあった者が、夜更けになって 宇治には、宮が今日お越しになるとのお知らせがあった から戻ってまいった。「万端用意をととのえてございます」 のだが、こうした雪降りではまさかいらっしゃれまい、と と申しあげさせる。これはいったいどうなさるおつもりだ 気をゆるしていたところへ、夜更けて右近に宮のご入来を ろうかと、右近もまったく気が気ではないので、寝ばけて 知らせてきた。思いもよらぬありがたいお気持よ、と女君起きてきた心地にも、ついわなわなと体が震えてきて、ど も心うたれる。右近は、しまいにはどうおなりあそばす御うしたことか、まるで子供が雪遊びしたときのように震え 身の上だろうかと、一方では苦しい思いであるけれども、 あがってしまうのだった。「どうしてそんな所へ」などと 今夜は人目をはばかる気持も忘れてしまうのであろう、お 言うゆとりをもお与えにならず、宮は女君をさっさと抱い

8. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

よさみのおとめ ( 万葉・巻一一・一一 = 四依羅娘女 ) 起させてくれる鳥とされた。物語では、薫が亡き浮舟を追りといはずやも 懐して「宿に通はば」と、ひとり口ずさむ。前項の引歌 帰る日を今日か今日かと私が待っているあなたは、石川の貝 に亠まじっているとい , つでは . ないか 「五月待っ・ : 」の「花橘」とも照応しながら、追懐の場が 形成されている。 題詞によれば、柿本人麿が死んだ時に、妻の依羅娘女が詠 ・・ 5 世の中の憂きたびごとに身を投げば深き谷こそんだ歌。「貝」の文字で記されているが、「峡」の意と解す なきがら ( 古今・雑体・誹諧歌・一 0 六一読人しらす ) 浅くなりなめ る説もある。物語では、薫が、浮舟の亡骸がどこの水底の この世をつらいと思う、そのたびごとに身を投げたとすれば、 貝殻とまじっているのだろう、とする。ただし、ここには 深い谷もきっと浅くなってしまうだろう。 「貝」とはなく、「うっせ」 ( 空になった貝殻 ) とある。 前出 ( ↓タ顔田四四七ハー上段など ) 。物語では、宇治で右近か ・Ⅲ・ 9 人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道にまど ( 後撰・雑一・一一 0 三藤原兼輔 ) ら浮舟の実情を聞いた薫が、浮舟の入水に思いをめぐらすひぬるかな 子を持っ親の心は、闇の道を歩いているわけでもないのに、 叙述。自分が放置しなかったら彼女が「深き谷をも求め」 わが子を思って取り乱し、道に迷ってしまうことだ。 ることなどあっただろうか、と思ってもみる。 もと ^ ・ 0 1 11 1 世を厭ひ木の木ごとに立ち寄りてうつぶし染め前出 ( ↓桐壺田四三八ハー上段など ) 。物語では、薫が浮舟を喪 ( 古今・雑体・誹諧歌・一 0 六八読人しらず ) の麻の衣なり った母への弔問に、この歌を引いて同情する。 すみか 私は世を捨てて樹下石上を住処とする身となり、木陰があれ ・・行く先を知らぬ涙の悲しきはただ目の前に落っ わたる ばそこを宿にうつぶしているが、この衣こそうつぶし染めの るなりけり ( 後撰・離別羇旅・一三三四源済 ) 麻の衣というものである。 将来いっ逢えるか分らないと思う、その悲しみの涙が、ただ 目の前にこばれ落ちたのだった。 覧「木の下」は、出家の者が住処とする樹下石上のこと。「う 一つぶし」は、下向きに寝ることと、うつぶし染め ( 僧衣な 前出 ( ↓須磨 3 三五二 ( ー上段など ) 。物語では、薫から厚情あ 歌 どの黒色染め ) のこと。物語では、薫の挨拶に対して、弁ふれる手紙をもらった浮舟の母が、恐縮しながら、この歌 の尼が「うつぶし臥してはべる」と言い、尼の生活に徹し をふまえ、当座は悲しみの涙にくれるばかりで、と応する。 ているとして姿を現さなかった。 草枕紅葉むしろにかへたらば心をくだくものな あ らましゃ ( 後撰・羇旅・一三六五亭子院 ) ・Ⅲ・ 1 今日今日と我が待っ君は石川の貝に交じりてあ きめ うしな

9. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

267 浮舟 ( 原文三一一ハー ) と書いて、迎えの人々に食事などをさせて送り出した。尼 にもかわいらしげに打ち解けた態度でご返事を申しあげた りなどして、おっしやるままになっているのを、宮は、ほ 君にも、「今日は物忌で、そちらへはお越しになりませぬ」 と言わせておいた。 んとに限りもなくただいじらしいとお思いになる 日が高くなるころに、母君からの迎えの者がやってきた。 三〕匂宮、浮舟と春の女君は、いつもなら暮れなずむ春の かすみ 車が二両に、馬に乗った人たちで、例の荒々しい七、八人、日を恋に酔い痴れる日をただもてあまし、霞のかかる山 いなか それに、供回りの男どもが大勢、いつものように田舎びた際をうつろに眺めては思いわびていらっしやるのに、今日 は、日の暮れてゆくのをただやるせなく焦慮していらっし 様子でがやがや言いながらはいってきたので、女房たちが やる宮のお気持にひかされ申して、まったくいつのまにか その有様をきまりわるく思っては、「あちらに隠れていな 一日が暮れてしまう思いであった。ほかにじゃまのはいる さい」と言わせなどしている。右近は、「どうしたものだ しつまで見ていても見飽き こともないのどかな春の日に、、 ろう。もし大将殿がお越しになっていると言ったら、あれ ま、しぜんに知ることがなく、そこがと思われるような難点もなく、やさ ほどのお方が京におられるかおられないか。 うそ しく情味をたたえて、人なっこくいかにもかわいらしい女 れわたっていて、こちらの嘘がすぐにばれてしまうかもし れない」と思って、ここにいる女房たちと格別相談もせずの風情である。とはいえ実のところ、あの対の御方に比べ ると劣っているし、右大臣殿の六の君の年盛りに美しくて 、返事を書く。 けが いらっしやるあたりに置いたら、まるで比較すべくもない 昨晩からお穢れになりまして、ほんとに残念なこととお ゅうべ 嘆きのご様子でございましたが、昨夜おだやかならぬ夢ほどの人であるのを、宮は、今はまたとなく夢中になって おられるときなので、これまで逢ったこともない、かわい をごらんになりましたので、今日だけはご謹凜なさいま い女とばかり思っていらっしやる。女君はまた、大将殿を しと申しあげまして、物忌をいたしております。つくづ まことにおきれいでほかにこのようなお方があろうかと思 く残念なことで、何かがまるでじゃまだてをしているよ っていたのであったけれど、宮の情こまやかに美しく気高 うに存じあげております。 ひと

10. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

がじっさい深く執着なさったのも、こうして逃れることのあまりに、どんな非難もすっかり忘れておしまいのご様子 である。 できなかったご宿縁というものだったか、人のカではどう にもならないことなのだ、と気を静めて、「今日母君がお 右近が部屋を出て、この合図をする供人に、「宮はこの 迎えにと知らせがございましたが、それをどうなさるおっ ようにおっしやるのですが、やはりとても見苦しいことで もりでございましよう。こうしてお逃れ申すことがおでき しよう、とあなたからぜひ申しあげてくだされ。このあき にならなかった姫君の御宿縁については、まったくなんと れはてためっそうもない御ふるまいは、、 しくら宜ロ。こ・目身・が も申しあげようがございません。ただ折が折とて、ほんと そうおばしめしても、こうしたあなたがたお供の方々のお に困るのでございます。やはり今日はこのままお帰りあそ気持からどうにでもなりましように。なぜこう無分別にこ やまがっ ばして、もしお志がございますのでしたら、またごゆるり ちらへお連れ申されたのですか。ご無礼を申しあげる山賤 と : : : 」と申しあげる。宮は、分別くさいことを一一 = ロ , つもの などがもしおりましたら、どうなりますことか」と一言う。 やっかい よとお思いになって、「このわたしはこのところずっとこ内己よ、、、 言。し力にもまったく厄介なことになった、と田 5 って うつ の女君のことを思い続けてきたので、すっかり虚け者にな立っている。右近は、「時方とおっしやるのは、どなたで ってしまっているのだから、誰からそしられようとなんとすか。しかじか仰せになりました」と宮のお言葉を伝える。 言われようと、かまってはいられない、そんな一途な気持時方は笑って、「あなたのお叱りをいろいろお受けするの になってしまっている。少しでもわが身のことを思って気がこわいものですから、宮の仰せがなくとも、逃げて帰り 舟 をくばる人間だったら、こんな忍び歩きは思いたつものか たくもなります。いや、まじめな話ですが、並々ならぬ宮 ものいみ そちらへのご返事には今日は物忌とでも言っておけばよい のご執心を拝見しておりますので、私どもはみな命がけで とのいびと 浮 人に知られないような工夫を、どちらのためにもよく考え ございます。まあよろしいでしよう、宿直人もみな起きて ておくれ。ほかのことはいっさい無用ですよ」とおっしゃ きたようですから」と言って、急いで出ていった。 って、この女君をまたとなく無性にかわいくお思いになる 右近は、誰からも気づかれぬようにするにはどんな策を