作者 - みる会図書館


検索対象: 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡
96件見つかりました。

1. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

一朝の顔に「朝顔」をかけて、下 ど、いみじうぞめでたき。 の「時ならず」を日が上りすぎて寝 くたれ顔に合わないの意と二月 殿おはしませば、寝くたれの朝顔も、時ならずや御覧ぜむと引き入らる。お に朝顔という季節外れの意をきか 子 はしますままに、「かの花は失せにけるま。 。いかにかくは盗ませしぞ。いぎたせる。 草 ニ関白の冗談。 三『忠見集』の「桜見に有明の月 枕なかりける女房たちかな。知らざりけるよ」とおどろかせたまへば、「されど、 に出でたれば我より先に露そおき ける」による。ここは作者以外の われより先にとこそ思ひてはべるめりつれ」と言ふを、いととく聞きつけさせ 四 誰かがこう思っていた、と作者が さいしゃう五 たまひて、「さ思ひつる事ぞ。世にこと人、まづ出でて見つけじ。宰相とそこ道隆に告げたもの。 四「宰相の君」であれば田二〇段 ・八七段などに見える才女。 とのほどなむとおしはかりつ」とて、いみじう笑はせたまふ。「さりげなるも 五作者。 のを、少納言は春風におほせける」と、宮の御前のうち笑はせたまへる、めで六「山田さへ今は作るを散る花 のかごとは風に負ほせざらなむ」 たし。「かごとおほせはべるなンなり。今は山田も作らむ」とうち誦んぜさせ ( 貫之集・第一 ) による。 セ作者の「春風」の言を『貫之集』 の歌で受けた中宮の機知を賞でた。 たまへるも、いとなまめきをかし。「さてもねたく見つけられにけるかな。さ ^ 『貫之集』の歌による道隆の言。 ばかりいましめつるものを。人の所にかかる痴れ者のあるこそ」とのたまはす。恨みごとを私に負わせたようでご ざいます、の意か ごと 九道隆の侍をふざけて言うもの 、とをかしう言ふかな」など、誦んぜさせたまふ。「ただ言に とばけて、か はうるさく思ひょりてはべりつかし。今朝のさまいかに侍らまし」とて笑はせ一 0 わかりにくい。 = 歌ではない普通の言回し。 一五め たまふを、小若君、「されどそれは、、 しととく見て、『雨に濡れたるなど、面伏三煩わしい思いっきでございま 「春風は、空に、し さき そら 六 やまだ ず おもてぶ

2. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

のち 一四「二十包」とも「二十 ( 枚を一 ) さて後にほど経て、すずろなる事を思ひもし、にくみて、さかにあるころ、 包みに包みて」とも読める。仮に 一四づっ めでたき紙を、二十包みに包みて給はせたり。仰せごとには「とくまゐれ」な前者とみる。 一五間に女房がいて仰せを伝える 一六 どのたまはせて、「これは聞しめしおきたる事ありしかばなむ。わろかンめれ形。女房の代筆によるお手紙。 一六「聞しめしおきたる [ は、女房 ずみやうきゃう から中宮に対する敬意を混じた表 ば、寿命経も書くまじげにこそ」と仰せられたる、いとをかし。むげに思ひ忘 現。「ただの紙 : ・」以下の作者の言 を受ける。 れたりつる事をおばしおかせたまへりけるは、なほただ人にてだにをかし。ま 宅『一切如来金剛寿命陀羅尼経』。 しておろかならぬ事にそあらぬゃ。心も乱れて、啓すべきかたもなければ、た延命祈願の経文。一説、女房の 「息災の祈り」をふまえ、短い経文 である寿命経も書けそうもないけ れど、と中宮が言われたもの。 一 ^ この一文整わない。並一通り 「かけまくもかしこき神のしるしには鶴のよはひになりぬべきかな ではないこと、と言ってすまされ つかひき だいばんどころざふし あまりにやと啓せさせたまへ」とて、まゐらせつ。台盤所の雑仕を御使に来たることではないのだ、と仮に解く。 一九「紙」に「神」をかける。「鶴の ニニひとへ よはひ」は長寿で「寿命経」をふむ。 る。青き単衣など取らせて。 ニ 0 「鶴 : ・」は、大げさすぎましょ うか、の意か 段まことに、この紙を草子に作りてもてさわぐに、むつかしき事もまぎるる心 三取次の女房への伝言。 一三作者から雑仕への禄。 地して、をかしう心のうちもおばゅ。 ニ三退紅色の狩衣。召使の服装。 第 あかきめ 二日ばかりありて、赤き衣着たる男の、畳を持て来て、「これ」と言ふ。「あ = 四庭先などに来たので、とがめ たものか。 一宝男が間が悪く感じるように。 れはたれそ。あらはなり」など、物はしたなう言へば、さし置きていぬ。「い ニ 0 一九 へ さ、つし きこ つつ ニ五 をとこ

3. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

きよみづ 一三巻本「清水」。 ワん ニ階段のついた屋根のある長廊 一二四正月寺に籠りたるは みたらし 下。一説御手洗川にかけた「呉橋」。 子 三不審。腰衣の掛け帯か。 こも くしゃ あびだつまくしやろん 草正月寺に籠りたるは、いみじく寒く、雪がちに氷りたるこそをかしけれ。雨 0 「倶舎」は『阿毘達磨倶舎論』の 略。「頌」は偈と同じく、字句を一 ふうじゅ 枕 定して諷誦しやすくしたもの。 、とわろし。 などの降りぬべきけしきなるは、し 五「衣うへさま」以下は、作者の まう さんナい つばね 初瀬などに詣でて、局などするほどは、くれ階のもとに、車引き寄せて立て一行のこととも一般参謌人のこと とも解かれているが、後者がよい あしだ 六「強し」。堅苦しい。儀式ば るに、おびばかりしたる若き法師ばらの、足駄といふ物をはきて、いささかっ っている。 くしゃのじゅ まらにしき セ下部を革で作り上部は薔薇錦 つみもなくおりのばるとて、何ともなき経の端をよみ、倶舎頌をすこし言ひっ をつけ細い革緒で締めた沓という。 くろうるし づけありくこそ、所につけてはをかしけれ。わがのばるはいとあやふく、かた〈木を浅く彫り黒漆で塗った沓。 深沓の頸を短くした形のもの。 ゅ かうらん はらに寄りて、高欄おさへて行くものを、ただ板敷などのやうに思ひたるもを九主家の内にも外にも ( 奥方・ 主人方 ) 出入りを許された若い男 。も たちや一門の子弟たち、という。 かし。「局したり」など言ひて、沓ども持て来ておろす。 一 0 三巻本「あまた」。 - も 六 からぎぬ 衣うへさまに引き返しなどしたるもあり。裳、唐衣などこはごはしく装束き = 追い越して行く他の者。 一ニ以下は、作者自身の体験を中 くっ ふかぐっはうくわ 心とする。 たるもあり。深沓、半靴などはきて、廊のほどなど沓すり入るは、内わたりめ 一三仏堂の内陣と外陣とを仕切る 作り付けの格子。内陣には本尊が きて、またをかし。 安置されている。 内外などのゆるされたる若き男ども、家ノ子など、また立ちつづきて、「そ一四「御あかし、は「燃えたる」の主 ( 現代語訳二四〇ハー ) はっせ きめ ないげ らう いたじき うち さうぞ

4. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

かねずみ しとをかしくて、「『言はば一一 = ロはむ』と、兼澄が事を思ひた言はなむ」は、文句を言いたいな く」と倒し取るに、、 ら言ってもよかろう、の意。 るにや」とも、よき人ならば言はまほしけれど、「かの花盗む人はたれぞ。あ一六源兼澄か。歌の中に該当する ものはない。作者の記憶の誤りか。 宅歌のことがわかりそうな人な しかンめり。くてんしらざりけるよ」と言へば、笑ひて、いとど逃げて、引き ら言いたいところだが。 天作者の言葉。新参の作者では もていぬ。なほ殿の御心はをかしうおはすかし。茎どもに、濡れまろがれつき なく他の女房の言とみる説もある。 「くてん」不審。三巻本ナシ。 て、いかに見るかひなからましと見て、入りぬ 一九見苦しい桜をひそかに取り去 とのもりにようくわん みかうしニニ かもんづかさ 掃部司まゐりて、御格子まゐり、主殿寮の女官御きよめまゐり果てて、起ったから。 ニ 0 茎に、花がまるまってついて、 っちいにける」もしそのままだったら、さぞかし。 きさせたまへるに、花のなければ、「あなあさまし。かの花はい。 三後宮十二司の一。清掃・用度 つかさど あかっきニ四 と仰せらる。「暁、『盗む人あり』と言ふなりつるは、なほ枝などをすこし折るの雑事を司る。 一三お上げ申しあげ。 ニ五はべ ニ三宮中の清掃・乗物・灯火・燃 にやとこそ聞きつれ。誰がしつるぞ。見つや」と仰せらる。「さも侍らず。 ニ六 料などを司る。 しろ まだ暗くて、よくも見はべらざりつるを、白みたる物の侍れば、花折るにゃな = 四「かの花盗む人 : ・、をさす。 一宝作者の言。一説他の女房の言。 段ど、うしろめたさに申しはべりつると申す。「さりとも、かくはいかでか取兵下衆の白布の狩衣をさすか。 毛作者の言。春風がいたしまし -6 らむ。殿の隠させたまへるなンめり」とて笑はせたまへば、「いでよも侍らじ。 ニ ^ 「春風 : ・」と言おうと思って。 第 ニ八 春風のして侍るならむ」と啓するを、「かく言はむとて、隠すなりけり。盗み = 〈「降 ( 古 ) りにこそ降 ( 古 ) る」で、 雨が降るので古びてしまった、と ・ 4 いうわけだったのね、の意とみる。 にはあらで、ふりにこそふるなりつれ」と仰せらるるも、めづらしき事ならね ニ九 ニ 0 くき ニ七

5. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

113 第 211 ~ 214 段 つま 一九「皮」で、爪皮に類したもの。 ニ 0 「いみじう」は「見まほしけれ」 二一三行幸はめでたきもの にかかる。 三門の近くにある建物。作者が きんだち ぎゃうかうニニ かんだちめ そこにいる時に、その前を通る、 行幸はめでたきもの、上達部、君達の車などのなきそ、すこしさうざうしき。 のような意か。一説、作者の家。 一三言い切りになるのは不審。 「めでたきものの」の意で解する。 二一四よろづの事よりも、わびしげなる車に ニ三騎馬、あるいは徒歩でお供す ニ四 るからであろう。 ぎふしき よろづの事よりも、わびしげなる車に雑色わろくて物見る人、いともどかし。ニ四雑役に従事する無位の官人や ニ六 下男。ここでは車に付き添ってい せきゃう る男をいうものか 説経などはいとよし、罪うしなふ方の事なれば。それだになほあながちなるさ 一宝非難したい気持。気に入らぬ したすだれ ニ六説経などを聞く場合はそれで まにて見苦しかるべきを、まして祭などは、見でありぬべし。下簾もなくて、 もよい、もともと滅罪のためにす れう ひとへニ九 白き単衣うちあげなどしてあンめりかし。ただその日の料にとて、車も下簾もることなのだから。 毛度をすぎた身勝手な感じで見 したてて、いとくちをしうはあらじと出で立ちたるに、まさる車など見つけて苦しいのに。 夭まして賀茂祭などはそんなか っこうで見てほしくない は、何しになどおばゆるものを、ましていかばかりなる、い地にて、さて見るら ニ九車の上に乗せることと解する。 三巻本「うち垂れてあめりかし」。 む。 三 0 みすばらしい車の主は。 きんだち おりのばりありく君達の車の、押し分けて、近う立っ時などこそ、心ときめ三一京の町を内裏を中心として往 来してまわる。 三ニ供が作者を。一説作者が供を。 きはすれ。よき所に立てむといそがせば、とく出でて待つほど、い と久しきに、 ニ七 かた 三 0

6. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

枕草子 1 一「ありく」は移動してまわるこ 思へば、舟に乗りてありく人ばかりゆゅしきものこそなけれ。よろしき深さ と。漕ぎまわる、往来する。 ニ並一通りの深さ。 にてだに、さまはかなきものに乗りて、漕ぎ行くべきものにそあらぬゃ。まし 四 三何とも頼りない様子のものに みづぎは ちひろ てそこひも知らず、千尋などあらむに、物いと積み入れたれば、水際は一尺ば乗って。 ひろ 四一尋は両手をひろげた長さ。 約六尺 ( 約一・八 ) 。 かりだになきに、下衆どもの、いささかおそろしとも思ひたらず走りありき、 五舟べりから海面までの間が一 っゅあらくもせば沈みやせむと思ふに、大きなる松の木などの、一一三尺ばかり尺 ( 約〇・三 ) にも足りないほど 舟が沈み入っているさま。 やかた いつつむつ七 六現代語の「大きい」に当る中古 にてまろなるを、五六ほうほうと投げ入れなどするこそいみじけれ。屋形とい 語は「おほきなり」。 かた 。しささかたのもし。端に立てる者セ「ばんばん」という擬声語。 ふものの方にておはす。されど、奥なるま、、 ^ 舟の中に投げ入れる、とみる。 、一こち・ はやを 九舟上に設けた屋根付きの部屋。 どもこそ、目くるる心地すれ。早緒つけて、のどかにすげたる物の弱げさよ。 「おはす」は唐突すぎて不審。仮に、 絶えなば、何にかはならむ。ふと落ち入りなむ。それだにいみじう太くなども主語を「尊い御方は」とみる。 一 0 目がくらむような気持。「端 に立てる者どもではなく作者が あらず。 「目くるる」のか。 もかうすきかげつまどかうし = 櫓に付ける綱。一端を舟べり わが乗りたるは、清げに、帽額の透影、妻戸、格子上げなどして、されど、 に結び付け一端を櫓の柄にかける。 三「すぐ」は、穴に緒などを通し ひとしうおもげになどもあらねば、ただ家の小さきにてあり。 て結ぶこと。 こと舟見やるこそいみじけれ。遠きは、まことに笹の葉を作りてうち散らし一三この一文わかりにくい 「わたしの乗っているのは、見た 目がきれいに作ってあって、帽額 たるやうにそ、いとよく似たる。とまりたる所にて、舟ごとに火ともしたる、 おく

7. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

二八三宮仕へする人々の出であつまりて 子 みやづか 宮仕へする人々の出であつまりて、おのが君々、その家あるじにて聞くこそ一主君の家から退出して来て同 草 じ所に集って。 ニ不審。おのが君々のことを言 枕をかしけれ。 うのを、の意と仮に解する。 二八四家ひろく清げにて、親族はさらなり 三前段に続く一段ともみられる しんぞく 家ひろく清げにて、親族はさらなり、ただうち語らひなどする人々は、宮仕が「校本」の段分けに従う。自分の 理想を言えば、次のような宮仕え ひとところ へ人、片っ方にすゑてあらまほしけれ。さるべきをりは、一所にあつまりゐて、人の合宿所を作りたいといった趣。 四「人々は」は主語とみなす。 六ふみ 物語し、人のよみたる歌、なにくれと語り合はせ、人の文など持て来る、もろ五三巻本「宮仕へ人を方々にす ゑて」。 ともに見、返事書き、またむつましう来る人もあるは、清げにうちしつらひて六「宮仕へ人」の相手の人。 セ訪れて来る男性、とみる。 入れ、雨など降りてえ帰らぬも、をかしう。まゐらむをりは、その事見入れて、 ^ 「をかしう」の下に「もてなす」 の意があるものとみなす。 思はむさまにして、出だしたてなどせばや。よき人のおはします御ありさまな九主君のもとに出仕する時。 一 0 「思ふ」のは主人であろう。 = この表現から作者が宮仕えを ど、いとゆかしきそ。けしからぬにゃあらむ。 退いてのちの感想とみる考えもあ る。 かへりごと

8. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

む。かしこき陰とささげたる扇をさへ取りたまへるに、ふりかくべき髪のあや一作者は髪にやや劣等感を持っ ていたらしい しささへ思ふに、「すべてまことに、さるけしきやつれてこそ見ゆらめ、とくニ「やつる . 、は、容貌や服装が衰 子 えてみすばらしくなること。 た 三「せ」を使役とみる。 草立ちたまへーなど思へど、扇を手まさぐりにして、「絵は誰がかかせたるそ」 四「も」に「裳」を当てたが、下の そで 枕 などのたまひて、とみにも立ちたまはねば、袖を押しあてて、うつぶし臥した「またくらんかしあ意によっては 四 「 : ・臥したるも」と読むべきかもし からぎめ れない る、裳、唐衣に白い物うつりて、またくらんかし。 五不審。三巻本「まだらならむ こころえ ろん かし」の意に仮に解する。 久しうゐたまひたりつるを、論なう苦しと思ふらむと心得させたまへるにや、 た 「これ見たまへ。これは誰がかきたるそ」と聞えさせたまふを、うれしと思ふ六中宮様は察してくださるのか。 大納言の気を作者からそらさせる に、「給はりて、見はべらむ」と申したまへば、「なほここへ」とのたまはすれのである。 セ大納言の冗談。 ば、「人をとらへて立てはべらぬなり」とのたまふ。いと今めかしう、身のほ ^ 万葉仮名の草体をさらに簡単 にした文字。「こりと」不審。三巻 さうし さうがな ど年には合はず、かたはらいたし。人の草仮名こりと書きたる草子取り出でて本「こりと」なし。仮に「など」の意 にロ訳する。 御覧ず。「たれがにかあらむ。かれに見せさせたまへ。それそ世にある人の手九作者。 は見知りてはべらむ」と、あやしき事どもを、ただいらへさせむとのたまふ。 なほし ひとところ 一所だにあるに、またさきうち追はせて、同じ直衣の人まゐらせたまひて、 きよう ごと 一 0 これはいますこし花やぎ、さるがう言などうちし、ほめ笑ひ興じ、われも「な かげ て 五 一 0 猿楽言。ふざけた言葉。 = 仮に聞いている女房たちの方 も、とみる。

9. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

53 第 146 段 ( 現代語訳一一六〇ハー ) これちか 日没。道隆没後、嗣子伊周は叔父 道長と対立して、この一族の運命 一四六故殿などおはしまさで、世ノ中に事出で来 は急変した。政権は道隆の弟道兼 に移ったが、一か月のちに没し、 ことの 故殿などおはしまさで、世ノ中に事出で来、物さわがしくなりて、宮また内さらに道長の手に移った。道長は 長徳一一年伊周・隆家を不敬事件の にも入らせたまはず、ト 一条といふ所、おはしますに、何ともなくうたてあり主謀者として配流せしめた。この 段は長徳二年の夏か秋のこと。 しかば、久しう里にゐたり。御前わたりのおばっかなさにそ、なほえかくては一六三月中宮は伊周の一一条邸に移 ていはっ り、五月剃髪。六月二条邸焼失の たかしなあきのぶ あるまじかりける。 ため、さらに高階明順邸に移った。 宅不明。三巻本には「小二条殿 左中将おはして物語したまふ。「今日は、宮にまゐりたれば、いみじく物こといふ所に」とあり、これも明順 邸、明順邸からさらに移られた所 さうぞくもからぎめ などの説がある。 そあはれなりつれ。女房の装束、裳、唐衣などのをりにあひ、たゆまずをかし 天藤原斉信または正光。三巻本 * ) ぶら うても候ふかな。御簾のそばのあきたるより見入れつれば、八九人ばかりゐて、「右中将」は源経房。従うべきか。 一九 一九黄ばんだ枯葉の色。 きくちば うすいろ しをんはぎ おまへ 黄朽葉の唐衣、薄色の裳、紫苑、萩など、をかしうゐ並みたるかな。御前の草 = 0 藤原女。中宮付きの女房。 才女として名高い。↓田二〇段。 三以下女房たちの言葉。作者 のいと高きを、『などか、これはしげりてはべる。はらはせてこそ』と言ひっ ニ 0 ( 清少納言 ) の里住みは情けない。 さいしゃう 一三作者にとって大事な用事があ れば、『露置かせて御覧ぜむとて、ことさらに』と、宰相の君の声にていらへ るとしても。つらいこと、とみる ニ一さとゐ つるなり。をかしくもおばえつるかな。『御里居、いと心憂し。かかる所に住こともできる。中宮が望んでおら れるのに出仕しない作者に対する まひせさせたまはむはどは、いみじき事ありとも、かならず候ふべきものにお女房たちの批判。 うち

10. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

一五人が見るはずのものとは思わ にもあらず。 なかったので。執筆事情を知る上 みなひと ばつぶん また、あと火の火ばしといふ事、などてか。世になき事ならねば、皆人知りで跋文と合せて考えるべき段。 いわしみず 一六臨時の祭は、石清水 ( 三月中 たらむ。げに書き出で、人の見るべき事にはあらねど、この草子を見るべきもの午の日 ) と賀茂 ( 十一月下の酉の 日 ) とにある。「おまへ」は主上の のと思はざりしかば、あやしき事をも、にくき事をも、ただ思はむ事の限りを御前の儀。 一セ祭の当日社頭で奏する舞曲を あらかじめ主上の御前で奏するも 書かむとてありしなり。 の。 一 ^ 季節からみて以下は石清水の 臨時の祭。 一四五なほ世にめでたきもの臨時の祭のおまへばかりの つばにわ 一九不審。仮に壺庭とする。三巻 本にはない。 事 ニ 0 宮内省に属し、宮中の席・ つかさど 床・清掃・施設のことを司る官人。 りんじ ニ一社に参向する勅使。近衛中・ なほ世にめでたきもの臨時の祭のおまへばかりの事にかあらむ。試楽もい 少将の役。石清水は故実によると せいりゃうでん とをかし。春は、空のけしきのどかにて、うらうらとあるに、清凉殿の御前の南向きなので作者の記憶ちがいか 一三記憶がまちがっているかもし つかひきたむき まひびと かもりづかさ たたみ れない 段庭に、つばも、掃部司の、畳どもを敷きて、使は北向に、舞人は御前の方に。 くろうどどころ ニ三蔵人所の所の衆。雑用をつと める六位の役人。故実によるとこ これらはひが事にもあらむ。 くらづかさ の役は内蔵寮の役人の仕事。 ぺいじゅう ニ四 ところのしゅう 第 ひのき 所衆ども、ついがさねども取りて、前ごとにすゑわたし、陪従も、その日 = 四檜で作った膳冖食器をのせる。 一宝身分の低い地下の楽人。この てんじゃうびと さかづき 日は御前に出ることができる。 力はるがはる杯取りて、果てに は御前に出で入るぞかしこきや。殿上人は、ゝ ごと まつり さうし しがく かた