侍従 - みる会図書館


検索対象: 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩
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1. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

一せめてもうお一方。侍従。 いま一ところにても参りたまへーと言へば、侍従の君呼び出でて、右近「さば、 ニ右近にもまして。 三浮舟の忌中にある自分が訪ね 参りたまへ」と言へば、侍従「まして何ごとをか聞こえさせむ。さても、なほ、 ては宮も死の穢れに触れるとする。 語 いみ 四 物この御忌のほどこま、 冫。いかでか。忌ませたまはぬかーと言へば、時方「なやま四宮の病気平癒のための祈願が 氏 行われている。↓一〇四ハー五行。 源せたまふ御響きに、さまざまの御つつしみどもはべめれど、忌みあへさせたま = 匂宮はいっそ亡き浮舟のため に忌籠りしたい気持だとする。 けしき ふまじき御気色になん。また、かく深き御契りにては、籠らせたまひてもこそ六忌明けまで残り少ない。 セ侍従は匂宮びいき。橘の小島 おはしまさめ。残りの日いくばくならず、なほ一ところ参りたまへ」と責むれにも同行し、匂宮の最後の訪問に も立ち会っている。 しいかならむ世にかは ^ 今回お目にかからなかったら。 ば、侍従そ、ありし御さまもいと恋しう思ひきこゆるこ、 九侍従の、喪に服しているさま。 きめ 見たてまつらむ、かかるをりにと思ひなして、参りける。黒き衣ども着て、ひ一 0 裳は、唐衣とともに、主人の 前に出る際の礼装。今はお仕えす かたち かみ る主人も亡くなったので、油断し きつくろひたる容貌もいときょげなり。裳は、ただ今我より上なる人なきにう て鈍色のを染めておかなかった。 ちたゆみて、色も変へざりければ、薄色なるを持たせて参る。「おはせましか = 薄い紫色。 一ニ浮舟存命なら自分 ( 宮 ) が人目 ば、この道にそ忍びて出でたまはまし。人知れず心寄せきこえしものを」などを避けつつこの道を京に上っただ ろうに。↓浮・世〔三一一〕。 一三侍従の匂宮びいき。↓注七。 思ふにもあはれなり。道すがら泣く泣くなむ来ける。 一四中の君の手前がはばかられる。 宮は、この人参れりと聞こしめすもあはれなり。女君には、あまりうたてあ中の君のいる西の対にいた匂 宮は、自室のある寝殿に赴く。 わたどの れば、聞こえたまはず。寝殿におはしまして、渡殿におろさせたまへり。あり一六寝殿の東の渡殿に、侍従を。 五 こも 九

2. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

じみと悲しい気持である。道すがら泣く泣く京へ上ってき ができなかったのか、と胸の沸きかえる心地がなさるけれ たのである。 ども、いまさらどうなるものでもない。侍従は、「お手紙 宮は、この女房が参上したとお聞きあそばすにつけても、 を焼き捨てたりしていらっしやったのに、どうしてそれと お胸にせまるものがある。お邸の女君に対しては、どうも気づくことができなかったのでございましよう」などと、 具合がわるいので何もお申しあげにならない。寝殿にお出宮が一晩じゅうお相手をおさせになるものだから、明け方 わたどの ましになって、渡殿に侍従の車をお着けさせになる。その までお話し申しあげる。あの巻数にお書きつけになった母 折どういう有様であったのかをこまごまとお尋ねになるの君へのご返事のことなどもお話し申しあげる。 で、侍従は何日もずっと思案にくれていらっしやった女君 宮は、何ほどの者ともおばしめしにはならなかったこの のご様子、そしてまたその晩は泣いておられたことなどを女房まで、しみじみと懐かしくもいじらしくもお感じにな お話し申して、「女君は不思議なくらい何もおっしやらず、 り、「そなたはわたしのところで暮すがよい。あちらの女 まるで頼りなくいらっしやって、ひどく悲しいとお思いに 君とも縁がないわけではないのだから」とおっしやるので、 なることも人にお漏しになることはめったになく、い つも「仰せのようにお勤めさせていただきますにしても、ただ ご自分のお胸にばかりおさめていらっしやったせいでしょ もう悲しいことばかりのように存ぜられますから、いずれ うか、お言い残しになったこともございません。あのよう御周忌などを過しまして」と申しあげる。「では、あらた な気丈なことをお思いっきになろうとは、夢にも思いよら めて参上しなさい」などと、この侍従をまでも残り惜しく 蛉 ぬことでございました」などと、事細かに申しあげると、 お思いになっている。明け方になって侍従が帰っていくと 宮はいっそう悲しいお気持になられて、なんその因縁でと きに、宮は女君のお召料にと用意させておおきになった櫛 そろ にもかくにもなるというのだったらまだしも、どんなにか の箱一揃い、衣箱一揃いを贈物としてお与えになる。あれ 幻思いつめてああした水のなかに身を投げたのであろう、と これと調えさせておおきになったお支度はたくさんあった お思いやりになると、なぜそれを見つけてやめさせること けれども、仰々しいことになりそうなので、ただこの女房 やしき

3. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

の自分にそうした思い人がいるということを帝がお聞きあ〔一六〕匂宮、侍従と語らいったい心持が穏やかで、ほどよく そばしたなら、こうしたご降嫁のこともなかったであろう う侍従中宮に出仕ふるまっておいでになる人でも、こ に。なんといっても情けなくもわが心を悩ませてくださっ うした色恋の筋では身をもって思い悩まねばならぬことも た宇治の橋姫ではあるよ」と思案にあまっては、また宮のおのずと起ってくるものだが、なおさらのこと、宮はお心 上のことが心にかかって、恋しくもありせつなくもあり、 の紛らわしようもなくて、亡き女君の身代りとして、いっ どうにもならないのが、我ながら愚かしいまでに悔まれて までもあきらめきれぬ悲しさをもお打ち明けになれる人さ ならない。 こうしたことに思い悩んで、さてその次には、 えいないのでーー・対の御方ぐらいは、亡き女君のことをお 嘆かわしい有様で死んでいった宇治の女君の、まったく無かわいそうになどとおっしやりはするけれど、それとて、 分別な、自らの進退を熟慮する点の欠けていた軽々しさを もともと深いおなじみではいらっしやらなかったのだし、 恨みながらも、それでもさすがになりゆきを深刻に思いっ ほんの近ごろのお付合いなのだから、そう心底からはどう めていたということや、こちらの出方がいつものようでは してお思いやりになれようか、また、宮もそのお気持のま なくなったと、そのことを心の鬼に責められて嘆き沈んで まに、恋しいとか、せつないなどとかおっしやるのは具合 やしき いたという様子を右近からお聞きになったことも思い出さ がわるいことなので、あの宇治の邸に仕えていた侍従を、 ひと れてきては、あの女は、重々しい妻としての扱いではなく、 またもや迎えにおやりになるのであった。 めのと ただ気がねのいらぬかわいい言し相手にしておこうと田 5 っ 女房たちはみな散り散りに去っていって、乳母とこの二 蛉 たのであって、そうした向きではまったくいとしい女だつ人の女房、右近と侍従とが亡き女君のとくに目をかけてく たものを、こう考えてくると、宮をもお恨み申すまい、あ ださったのも忘れがたくてーー、・もっとも侍従は、あとから の女をもつらいと思うまい、ただこの身のありようが俗世仕えた人であるけれども、やはり話し相手になってどうや うつ 9 になじまぬ、その不運ゆえなのだ、などと虚けた物思いに ら過していたのだが、異常にはげしい川水の音も、こうし 沈みがちでいらっしやる。 ていればいずれはうれしい幸運にも恵まれようかと頼みに ひと

4. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

301 浮舟 からも詳しく宮にお話し申しあげてくだされ」と、侍従を とこの世を生きてゆくこともならぬ身なのだろう、とお思 誘う。「まったく困ってしまいます」と言い合いをしてい い続けになって、とめどなくお泣きになる。侍従は、気弱 るうちに、夜もたいそう更けてゆく。 な女の身にはなおさらのことほんとにたまらなく悲しく、 あだがたき 宮は、御馬を召したまま、少し遠い所でお待ちになって そのご様子を拝している。たいへん恐ろしい仇敵を鬼の姿 いなか いらっしやるが、田舎びた声をした犬が何匹も出てきて呎 に作ったとしても、その鬼さえおろそかに見捨てがたかろ えたてるのもじつに恐ろしく、供人も少数でひどく身なり うと思われる宮のご容姿である。宮は少しお気持をお静め をやっしたお忍び歩きだから、やたらな何者かがとび出し になってから、「ほんの一言さえもお話し申すことができ て来もしたらどうなるかと、お供の者は皆はらはらしてい ないのか。どういうわけで今になってからこんなことにな るのであった。「もっと早く、急いでまいりましよう」と、 ったのか。やはり女房たちが何かと告げロしたのであろ 時方がうるさくせきたてて、この侍従を宮の御前に連れて う」とおっしやる。侍従は、これまでの事情を詳しく申し まいる。髪を脇の下から前へまわして手で抱えて、姿かた あげて、「このまま、姫君をお引取りあそばすおつもりの ちのまことに美しい女房である。馬に乗せて連れてこよう 日取りを、前もってよそに漏れないようにご用意ください すそ とするけれども、どうしても承知しないので、着物の裾を まし。このように畏れ多いことをさまざま拝見いたしまし 手に持って、付き添って行く。自分の沓を侍従にはかせて たからには、そのままこの私も命がけでひと工夫させてい 自らは供の者の粗末なものをはいている。宮のおそばにま ただきましよう」と申しあげる。宮ご自身も、人目をひど いって、かくかくと申しあげると、そのままではお言葉を く気にしていらっしやるので、ただ一途に恨み言ばかりお やまがっ おかけになることすらおできになれないので、山賤の家の っしやるわけにもいカオし むぐら あおり 垣根の葎の生い茂った陰に障泥というものを敷いて、宮を 夜はたいそう更けてゆくうえに、この咎めだてして吠え お下ろし申しあげる。宮ご自身のお気持にも、なんと見苦る犬の声が絶え間もなく、供人たちが追い払ったりすると、 しい姿よ、こうした恋路につまずいて、これからしつかり弓弦を引き鳴らし、気味のわるい男たちの声々がして、 くっ とが

5. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

一以下、宇治の動静。女房の多 従をそ、例の、迎へさせたまひける。 、 6 くは、見切りをつけて退散。 めのと 一一侍従と右近の一一人。 皆人どもは行き散りて、乳母とこの人二人なん、とりわきて思したりしも忘 三浮舟が特に目をかけてくれた。 語 おと 四右近が乳母子であるのに対し 物れがたくて、侍従はよそ人なれど、なほ語らひてあり経るに、世づかぬ川の音 氏 て、侍従は後に仕えた。 こころう 源も、うれしき瀬もやあると頼みしほどこそ慰めけれ、心憂くいみじくもの恐ろ五例のないほど荒々しい宇治川 六以下、「慰めけれ」まで挿入句。 しくのみおばえて、京になん、あやしき所に、このごろ来てゐたりける、尋ね「祈りつつ頼みぞ渡る初瀬川うれ しき瀬にもながれあふやと」 ( 古今 六帖一一 l) 。浮舟の上京に期待。 出でたまひて、匂宮「かくてさぶらへ」とのたまへど、御心はさるものにて、 セ匂宮が、侍従を。 人々の言はむことも、さる筋のことまじりぬるあたりは聞きにくきこともあら ^ 私のもとに出仕せよ、の意。 九宮の配慮はありがたいが。 き一い むと思へば、うけひききこえず、后の宮に参らむとなんおもむけたれば、匂宮一 0 二条院の女房たち。 = 浮舟が中の君の異母妹であり 「いとよかなり。さて人知れず思しつかはん」とのたまはせけり。、い細くよるながら中の君の夫匂宮の情愛を受 けたという、複雑な関係に遠慮。 げらふ べなきも慰むやとて、知るたより求めて参りぬ。きたなげなくてよろしき下﨟一 = 明石の中宮への出仕を希望。 一三以下、侍従について。 そし 一四中宮方に縁故を求めて。 なりとゆるして、人も譏らず。大将殿も常に参りたまふを、見るたびごとに、 一五中宮への出仕では、その身分 から下﨟女房でしかない。 もののみあはれなり。いとやむごとなきものの姫君のみ多く参り集ひたる宮と 一六格式ある上流貴族の娘たち。 人も言ふを、やうやう目とどめて見れど、なほ見たてまつりし人に似たるはな宅浮舟ほど美しい人はいない意。 一 ^ 式部卿宮 ( 蜻蛉の宮 ) の薨去。 ↓一〇〇ハー一二行。 かりけりと思ひありく。 ふたり

6. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

けんさまなど、くはしう問はせたまふに、日ごろ思し嘆きしさま、その夜泣き宅浮舟の苦悩しつづけた様子 一〈入水を決意したらしい当夜。 たまひしさま、侍従「あやしきまで一言少なに、おばおばとのみものしたまひて、 一九以下、浮舟の性格。「言少な」、 「おばおば」 ( ばんやりした感じ ) 、 かた いみじと思すことをも、人にうち出でたまふことは難く、ものづつみをのみし「ものづつみ」 ( 遠慮がち ) で、タ顔 にも類似する性癖。 たまひしけにや、のたまひおくこともはべらず。夢にも、かく、い強きさまに田 5 ニ 0 その性格から、浮舟の入水は、 予想さえできぬ行為だとする。 しかくらむとは、思ひたまへずなむはべりし」など、くはしう聞こゆれば、ま = 一入水と知らされた匂宮は。 一三避けられぬ前世の因縁によっ して、いといみじ , つ、さるべきにて、ともかくもあらましよりも、 、い、カは、か」り , て病死することなどよりも。 ニ三入水の現場を見つけて、止め おば ものを思ひたちて、さる水に溺れけんと思しやるに、これを見つけてせきとめることができていたら。臨場感の ある想像である。「せ ( 堰 ) き」「わ き返る」が、「水」の縁語。 たらましかばと、わき返る心地したまへどかひなし。侍従「御文を焼き失ひた ふみほご 一西浮舟が死を決意して文反故な よひとよ まひしなどに、などて目を立てはべらざりけん」など、夜一夜語らひたまふに、 どを処分していた。↓浮舟七五ハー 一宝母君への返事として巻数に書 ニ五くわんず 聞こえ明かす。かの巻数に書きつけたまへりし、母君の返り事などを聞こゅ。 きつけた、「のちにまた」「鐘の音 ニ六 の」の歌。↓浮舟八三・八四ハー。 むつ 蛉何ばかりのものとも御覧ぜざりし人も、睦ましくあはれに思さるれば、匂宮 ニ六一介の女房にすぎない侍従を、 匂宮は浮舟追慕のよすがと思う。 ニ ^ 「わがもとにあれかし。あなたももて離るべくやは」とのたまへば、侍従「さて毛わが邸に仕えよ、の意。 夭あちら ( 中の君 ) も縁がなくは ニ九 さぶらはんにつけても、もののみ悲しからんを思ひたまへれば、、 しま、この御 ない。中の君は浮舟の異母姉。 ニ九この「はて」は一周忌をさすか。 三 0 はてなど過ぐして」と聞こゅ。匂宮「またも参れ」など、この人をさへ飽かず = 0 侍従にまで執着する。 ニ七 一九 ニ 0 ニ四

7. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

源氏物語囲 、とおばっかなくてやあらむ。な一そうかといって、真相をつき はべらむを」と聞こゅ。匂宮「さりとては、し とめずにはいられぬ、とする。 ニ時方は前にも「とかく言ひ構 ほ、とかくさるべきさまに構へて、例の、心知れる侍従などにあひて、い力な へて」 ( 浮舟七八ハー ) 宇治を訪ねた。 こと あない 三時方と侍従は親しい ( ↓浮舟 ることをかく言ふそと案内せよ。下衆はひが言も言ふなり」とのたまへば、し 四九ハー ) 。「案内すーは、尋ねる意。 けしき 四身軽な者。時方をさす。 とほしき御気色もかたじけなくて、タっ方行く。 五↓八八ハー二行。 四 六難儀な山越えの道中に、粗末 かやすき人は、とく行き着きぬ。雨すこし降りやみたれど、わりなき道に、 な身なりで。下人を装って、匂宮 の家来とは気づかせぬ用意。 やつれて下衆のさまにて来たれば、人多く立ち騒ぎて、「今宵、やがて、をさ セ死者をすぐに火葬埋葬するの せうそこ は身分低い者に限られるという。 めたてまつるなり」など言ふを聞く心地も、あさましくおばゅ。右近に消自 5 し 死への不審を招きかねない。 たれども、えあはず、右近「ただ今ものおばえず、起き上がらん心地もせでな ^ それにしても、おいでになる のは今宵限りだろうに、の意。浮 む。さるは、今宵ばかりこそは、かくも立ち寄りたまはめ、え聞こえぬこと」舟が死ねば交渉もなくなるとする。 九事情も分らぬままでは。 と言はせたり。時方「さりとて、かくおばっかなくてはいかが帰り参りはべら一 0 せめてもうお一方、侍従に。 = 浮舟ご自身も思いがけぬ状態 せち で。突然の死だとする。 む。いま一ところだに」と切に言ひたれば、侍従そあひたりける。侍従「いと 一ニ動転がおさまった後日に詳細 あさましく、思しもあへぬさまにて亡せたまひにたれば、いみじと = = ロふにも飽をと約束する点が右近とは異なる。 一三浮舟の日ごろの物思い たれ かず、夢のやうにて、誰も誰もまどひはべるよしを申させたまへ。すこしも心一四先夜、匂宮を、浮舟に逢えぬ まま帰らせたことに、浮舟が恐縮 したとする。↓浮舟八一ハー。 地のどめはべりてなむ、日ごろももの思したりつるさま、一夜いと心苦しと思 五 ゅ こよひ七 ひとよ 六

8. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

した折に仰せ言がなくてもこちらから参上して、いかにも っております間はどうして伺えましよう。宮は穢れをお忌 まるで夢のようでございましたあれこれのいきさつをもお みあそばさないのでしようか」と言うので、大夫は、「ご 話し申しあげとう存じます」と言って、今日は立ち上がる病気のための御騒ぎでさまざまの御慎みがございますよう 語 物こともできそうにない。 ですが、こちら様の御忌ばかりはとてもはばかりあそばす 氏 お使者の大夫も泣いて、「お二方の御間柄のことはいっ ことがおできになれそうもないご様子でございまして。そ 源 いんねん こうに詳しくは存じあげておらないのでございます。この れにまた、このような深いご因縁がおありですと、 私はものの道理のわきまえもない者ではありますが、宮の のこと宮ご自身が御忌におこもりあそばしてもよろしゅう ございましよう。御忌明けまで残りの日数もわずかなので またとないご執心を拝見しておりましたので、あなたがた すから、やはりお一方まいられますよう」とせきたてるも に対しても何も急いでお近づきになることもなかろう、 のだから、侍従が、この女房はいっぞやの宮のお姿をほん ずれはご用をお勤め申すことになる方々なのだからと存じ とに恋しくお思い申しあげているので、今をのがしてはい ておりましたところが、いまさら取返しのつかぬ悲しいこ とが起りましてからは、この私個人としてお寄せする気持つになったら宮にお目にかかることができよう、こうした ねんご もかえって深くなってまいりまして」と懇ろに話し込む。 折に、という気になって参上するのだった。黒い衣装を重 「宮がわざわざお車などご配慮あそばしておさし向けになねて身づくろいした侍従の姿もまことにすっきりした感じ あるじ りましたのに、それを無にすることになってはまったくお である。裳は、今は自分がお仕えする主の君もいないので、 に、ろ 気の毒なことになります。せめてもうお一方でもどうか参着用することもあるまいとつい油断して鈍色のを染めてお 上していただきたい」と言うので、右近は侍従の君を呼び かなかったものだから、薄紫色のを持たせて参上する。も 出して、「それならあなたがまいられるように」と言うと、 し女君がご存生であったら、目だたぬようにしてこの道を 京にお出になったのであろうに、この自分も心ひそかに、 侍従は、「この私などはなおさらのこと何を申しあげるこ とができましよう。それにしてもやはり、この御忌にこも宮にお味方申していたものを、などと田 5 うにつけてもしみ

9. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

79 浮舟 ら、かえって事態は最悪、の意。 まひつべからむ夜、ここにも人知れず思ひ構へてなむ、聞こえさすべかめる」。 宮の計略も失敗に終ろう、の気持。 めのと一七 乳母のいざときことなども語る。大夫、「おはします道のおばろけならず、あ一六匂宮が = 一月一一十八日の夜、浮 舟を京へ連れ出そうとする計略 けしき ながちなる御気色に、あへなく聞こえさせむなむたいだいしき。さらば、いざ 宅目覚めがちで油断ならぬ意。 一 ^ 時方。 たまへ。ともにくはしく聞こえさせたまへ」といざなふ。侍従「いとわりなか一九何が何でもという宮の様子。 ニ 0 逢えずにがっかりすることを。 らむ」と言ひしろふほどに、夜もいたく更けゆく。 ニ一従者の任務が果せず不都合。 一三宮のもとに侍従の同行を勧誘。 宮は、御馬にてすこし遠く立ちたまへるに、里びたる声したる犬どもの出で = 三警護の者に気づかれぬよう。 ニ四「家ヲ守ル一犬ハ人ヲ迎へテ あり 来てののしるもいと恐ろしく、人少なに、い とあやしき御歩きなれば、すずろ吠工野ニ放テル群牛ハ犢ヲ引イ テ休ス」 ( 和漢朗詠集下都良香 ) 。 ならむ者の走り出で来たらむもいかさまにと、さぶらふかぎり心をそまどはし = 五宮とは知らずに襲う盗賊など。 ニ六侍従は髪を脇の下から前にま わし。歩行のため髪を手に持っ趣。 ける。時方「なほとくとく参りなむーと言ひ騒がして、この侍従を率て参る。 ニ六 毛時方が侍従の衣の裾を持って。 かみわき むま 髪、脇より掻い越して、様体いとをかしき人なり。馬に乗せむとすれど、さら = ^ 外出用の毛皮の沓か。 ニセ ニ九わら沓の類か。 きめすそ ニ八くっ に聞かねば、衣の裾をとりて、立ち添ひて行く。わが沓をはかせて、みづから三 0 匂宮のもとに。 三一宮が馬に乗ったままでは。 三 0 三ニ馬の鞍の下につけた、毛皮製 は、供なる人のあやしきものをはきたり。参りて、かくなんと聞こゆれば、語 の馬具。『大和物語』百五十四段に、 むぐら あふり 竜田山中で障泥を敷いて女と寝た らひたまふべきゃうだになければ、山がつの垣根のおどろ葎の蔭に、障泥とい 話。『宇津保物語』俊蔭巻にも兼雅 ふものを敷きて下ろしたてまつる。わが御心地にも、「あやしきありさまかな。 がこれを敷いて女に逢う話。 ニ九 ニ 0 ゃうだい ふ ニ四 一九

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447 各巻の系図 前の北の方 《蜻蛉の宮 ( 蠍第宮、父宮、父 《八の宮 ( 父親王 中将の君の母、親、 常陸介 ( 常陸守、守、常陸前守 ) 宇治の宮 △大君 ( 昔の人、橋姫 ) 左近少将 ( 少将 ) 子 出雲権守時方 ( 大夫 ) 侍従の君 子達阿闍梨 ( 律師 ) 弁の尼 ( 尼君 ) 右近大夫 ( 大夫 ) 内舎人ー女 浮舟の乳母 叔父の阿闍梨 女 侍従 宮の君 ( むすめ、女君、君、姫君 ) の君 ( 右大 近徳 宮、女君、宮の上、対の御 方、宮の御二条の北の方 浮舟電 ~ 君、女、 大蔵大輔 ( 仲信 ) 大弐 小宰相の君 ( 小 大納言の君 弁のおもと 中将のおもと ( 中将の君 ) 宰相の君、