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大往生

中村八大さんは軍国少年の中で大きくなったら作曲家と言って、教官に叱られている。 同世代で二人とも一月二十日生まれ。 お互いのメロディを意識しあっていたが、例えば坂本九の場合、「上を向いて歩こう」 ( 中村八大作曲 ) でスターになるが「見上げてごらん夜の星を」 ( いずみたく作曲 ) を好んで 歌っていた。コンサートでいえば、「上を向いて歩こう」で幕をあけるが、その幕が降り る時は「見上げてごらん夜の星を」だった。 作詞をした僕には二人に気を遣う複雑な想いがあって、これが作詞をやめる理由のひと つになった。僕だけでなく、一一人に詞を提供した岩谷時子さん、青島幸男さん、山上路夫 さんたちも同じ思いだったと思う。 チンタオ ドイツの植民地だった青島で生まれ育ち、クラシックからジャズのトップピアニストに なった中村八大さん。 左翼演劇から組合活動、そして歌声運動を経てきた下町ッ子のいずみたくサン。 その基礎になる音楽の背景は対照的だったが、晩年はお互いの健康を心配しあっていた 仲良しだった。 八大さんはメロディを優先するので僕の詞はしばしばズタズタになり、原形をとどめな

小説新潮 2016年12月号

「ドライアイス」 上機嫌な声で西野は言い、僕をコンテナの外に出るように 促した。西野もクーラーポックスと二本のペットボトルを持 って外に出てきた。試してみたら人浴剤よりこっちのほうが よかった、と西野は言いながら、片方のペットボトルの中に 細かく砕いたドライアイスを、トングを使って大量に人れ始 めた。。ヘットボトルの中にはあらかじめ大小の釘やカッター の刃が人っていた。ドライアイスを投人されたペットボトル の口から白い水蒸気が立ちのぼる。西野はドライアイス・ 釘・カッターの刃が。ハン。ハンに詰まったペットボトルに、も う一本のペットボトルから水を注いだ。素早くふたを閉め、 それをコンテナの中、テディベアの足元に転がるように投げ 込むとコンテナの引き戸を閉め、十五秒くらい、と言った。 数秒後、これまでと規模の違う大きな爆発音とともに、コン テナの壁に金属が叩きつけられる音がした。コンテナの引き 戸を開けて中を見ると、水蒸気で白く煙った空間の向こうに テディベアの姿が見えた。僕は息を飲んだ。壁際の角に背中 をつけて座っていた巨大なテディベアは爆発の前と同じ姿勢 でそこにいたが、腹や腕や足や顔に大小の釘やカッターが刺 さり、もこもこした布地の表面は引き裂かれぼろぼろになっ ていた。 西野は右目があった場所から太い釘を生やしたテディベア の頭に手を置き、ね、と僕に笑いかけて、 「これで殺すんだ。たくさん反省してもらわなくちゃ」 きわめて通常の トーンで言った。 その顔と声で、僕はまったく西野のことをつかみきれてい なかったのだと理解した。西野は本当に、最初から、松岡を 殺すつもりで爆弾の作り方を研究していたのだ。 分量と爆発までの時間はもうつかんだから、あとはいつ計 画を実行するか決めなくちゃ。すぐ溶けちゃうから工夫しな いとなー。嬉々として話す西野が僕は怖かった。いまのロぶ りからすると、西野は僕のいないときに、すでに何度かいま のような実験を繰り返しているのだろう。僕は松岡に、この テディベアみたいな姿になってほしくなかった。あのさ、西 野、本当に、と僕は言った。 「なあに、海老原君」 西野の目はあの平板な目、女子トイレでスト 1 カーと僕に 言ったときと同じ、僕の心を見透かすみたいな目で、また僕 は射すくめられたみたいになって、言葉を封じられた。本当 にやるの ? そんなことを言えば西野は僕を軽蔑するだろ う。僕は西野に軽蔑されたくなかった。西野にがっかりされ たくなかった。 僕が黙っていると西野は僕の手を取って自分の頬に触れさ 。せ、それから、歯形がつくくらい僕の指を強く噛んだ。鋭い 痛みが痺れになって全身に走った。西野の、端正とは言えな い顔が、恐ろしく美しく見えた。西野の体から目に見えない 何かが立ちのぼっていた。それは匂いみたいなもので、でも 匂いとは違って、僕は、西野のことが怖いのに、その匂いみ

「ドイツ帝国」が世界を破滅させる : 日本人への警告

左翼こそ保護主義を主張せよ 保守派が保護主義に関するあなたの考え方をこ都合主義的に取り込むことを心配して いませんか ? 一一コラ・サルコジが、国民を「保護する必要ーということを言い出してい ます。 そういう側面から問題を立てたことはありません。予想しているのはむしろ激烈な選挙 戦〔このインタビューは、二〇一二年四月の仏大統領選の約四カ月前に行われた〕で、それ を通して、左翼が改めて左翼に立ち帰ることがありそうだと思っています。 実際、ある種のファンタジー ( 「左翼の左翼」、トロッキズム等 ) が消えて、これまでに すあまり例のない規律が徹底し、選挙で保守派と対決する陣形が整ってきているように見え 落 陥ます ロ向かい側には、保守派がーーーニコラ・サルコジという大統領の無意味さにもかかわらす ュ 、国民運動連合と 存在しており、その支持層を構成する二つのカテゴリー 国民戦線 (c-æz) はこのところ、非常に近い関係になりました。両者を隔てる壁に多くの 2 01

「ドイツ帝国」が世界を破滅させる : 日本人への警告

孔が空いていることは明白です。 ですから私は、イデオロギーの面で、この保守勢力に対して左翼は正面から激突するだ ろうと思います。経済危機、「欧州統合至上主義」的な自由貿易の正当性喪失、国の指導 層への信頼の破綻などの結果、左翼は率直に左翼たらざるを得ない状況だからです。 こうして攻勢を強めるように左翼はプレッシャーを受け、真の敵を指定しなけれはなら なくなる。真の敵、それは新たな寡頭制、新たな権力システム、階級間の新たな力関係で す。 フランスの左翼は、状況それ自体の拘東カによって、社会的でもあり自由主義的でもあ る姿勢をとりつつイエスマンに終始するというような状態から、抜け出さざるを得なくな ります。 対面にいる保守派は、今や何ひとっ具体的な提案を持たす、それゆえにナショナル・ア イデンティテイだの、「イスラームが : : : 」だの、「アラブ人が : : : 」だのといったテーマ をまたも持ち出すに違いないのです この保守派はかって人びとが「大金融資本」と呼んだものに緊密に結びついていて、手 っ取り早く一一一口うと「フーケツツ」〔パリのシャンゼリゼ通りの贅沢なカフェレストラン。二 202

ホンキでいくだろ! : 青桃院学園風紀録

ノ〃を跡形もなく追放だよ。マスコミは大騒ぎで、学園は大混乱。僕は長年にわたる苦しみか らついに解放されて、押しも押されぬ〃お坊ちゃま〃につ」 「ああ、躑躅先輩 : : : こうやって近くから見上げると、いつもより少うし力強い感しがしま す。麗しくってワイルドな僕の白百合。あなたの子鹿がいまおそばにつ。いしゅううう ) せんばああ : : : あっ ? 」 あっ ? と鹿ヶ谷が小さく声を上げたのは、立ち上がり駆けだそうとしたその瞬間に、地面 が突然なくなったからだ。 スッポリと落ちたのは、菖蒲がすでに掘り終えていた穴のなか。 ク愛しの躑躅先輩みがもうすぐ目のまえというところで、見事に自分の背丈はどの落とし穴に ハマッてしまう。 「きゃああああっ ! ひどいつ。もしかしてコレは、僕をさしおいて伊集院先輩のおそばに仕 ねた きさらぎつるぎいんぼう える、あの如月剣の陰謀っ ? もしくは、僕のかわいらしさを妬んだキューピッドの落とし穴 ろ 0 だねつ。でも、先輩、僕は負けませんつ。愛のカで、いまおそばに ! 」 で と、そこへ、パタバタと小走りの足音が聞こえてきた。 ン校舎のほうから走ってきたのは、制服にエプロン姿の高等部一年生。一直線に菖蒲のそばま ホ で駆け寄って、 「あのう、 伊集院先輩っ ! 僕、先輩の穴掘り姿に感動してしまって : : : こうし

「ドイツ帝国」が世界を破滅させる : 日本人への警告

現実には、われわれは オランドは、「マルク圏」の中のローカルな大統領にすぎない。 フランス銀行がいわゆる「二〇〇家族」〔かってフランス経済は、金融資本を握る約二〇〇 の家族に牛耳られていると言われていた〕の専有物であった時代に戻ってしまったのだ。た だし、今日すべてを仕切っているのはもはやフランスの「二〇〇家族」ではなく、ドイツ なのだけれども。 真の権力中枢はメルケルでなくドイツ経済界 ということは、アンケラ・メルケル首相と真っ向対決することが必要という考えに賛 同するのですね ? 経済の悪循環を断ち切り、ふたたび成長を見出し、そして左翼を再強 化するために : メルケルを攻略するというのは、フランス社会党の最後の幻想だよ。とりもなおさす、 代理人を攻略するということだからね。 メルケルよりも、その背後のドイツ経済界こそが、ユーロ圏が吹っ飛んでしまうのを嫌 がっている。ドイツ式に組織されたあちらの経営者たちの支持のおかげで、マリオ・ドラ 工 40

チャタレイ夫人の恋人 : 完訳

518 あの女がまだ僕から解放されていないとしたら、それは、 「いや決してそんなことはないー あいつがたけり狂って僕をおどそうと執念を抱いているからだ」 「でも以前は愛していたにちがいないわー 「いや ! そういうことがあったとしてもほんのちょっとだ。あいつは僕に引きつけられた。 そのことさえあいつはいまいましく思っていた。時たま僕を愛したこともあった。だがいっ もそれを引っこめてわがままをやり始める。あいつのいちばん深い欲望は、僕を苦しめたい ということなんだ。その点だけは絶対に変らない。あいつの持っている意志は、最初から間 人 恋違っていた」 人「でもあのひとは、あなたが本当は愛していないということを知ってて、あなたの気持ちを イ 直そうとしたのではないかしら ? 」 レ タ 「そのやり方がとんでもないやり方だったんだ」 ャ チ 「でもあなたは本当はあの人を愛していなかったんでしよう ? その点ではあなたが悪かっ たのよ」 「そんなことはない。僕は愛そうとしはじめたのだ。あの女を愛そうと。だがいつも僕はあ の女に引き裂かれてしまった。いや、もうその話はやめよう。これは宿命だったのだ。あの てん 女も宿命を背負った女だった。今度という今度は、僕はできることなら、あの女を、貂のよ うに撃ち殺したいぐらいだった。あの女は、女の皮をかぶった狂乱という宿命だ。あれを撃 みじ ってこの惨めな事件を終わりにすることができさえしたら ! それは許されるのが当然のこ

小説新潮 2016年12月号

のロッカーや机の中にはどこから調達してきたのか、カエル やコウモリの死骸、ムカデーーーこれは生きたものだったが が毎日のように出てきた。体操服はハサミでバラ。ハラに 切り裂かれ、使い物にならなくされた。給食の汁物にはチョ ークや画鋲はもちろん、ひどいときは僕の小蜘蛛の何倍もの 大きさの黄色と黒の縞模様をした蜘蛛が人っていた。怖いか ら刃向かいこそしないものの、松岡の暴走に、松岡傘下の部 下たちでさえ引いているようだった。気味の悪い生き物を調 達するのは松岡の部下たちなのだ。 西野は相変わらずだった。表面上は、心を別空間に放り投 げた顔。 担任は西野が何も言わないのをいいことに見て見ぬふり だ。こんなことを続けていたら西野の気が変わり、松岡は いっか本当に殺されてしまうのではないか。僕はそのこと が心配だった。松岡を爆殺する想像をしながらおもちゃみ たいなペットボトル爆弾を作り、僕に架空の爆殺計画を話 すことで西野が我慢していられるうちはまだいい。でもそ の範囲を超えてはだめだ。西野より先に、病的な、いや、 病気の松岡に付き合いきれなくなった松岡傘下の女子たち が革命を起こす可能性だってある。松岡はいったい何を考 えているのだろう。西野の何が、松岡をそこまでさせるの だろう。 ある日、いつものとおりに西野とコンテナに寄って帰り、 家から最も近いところにあるコンビニを曲がったところで僕 % は松岡と鉢合わせた。十九時過ぎだった。松岡は所属するバ レー部の練習を終えたその帰りだった。家まで歩いて七分か 八分ほどの地点。三軒隣の家に住んでいるので、普通に歩け ば隣同士、並んで歩くことになる。でも松岡は僕の姿を認め てすぐに、僕の存在を意識から抹消するみたいに目をそらし た。あるときから僕たちはこうだ。もう何年も、僕は松岡と 会話を交わしていない。 僕はちんたら歩く松岡の斜め後ろを一定の距離を保って同 じスピードで歩いた 0 松岡の歩き方は一見普通の歩き方に見 えるが、でもどこかぎこちなかった。言葉は交わさなくなっ ても昔から彼女のことを知っているし、いまだって毎日見て いるから僕にはわかる。松岡は、僕の存在をとくに意識して いない感じ、を出すために苦心している。 松岡、と僕は言った。僕の中で、松岡はもう「くみちゃ ん」ではないのだ。 「なに」 松岡は振り向かずに返事をした。松岡が普通に返事をした ことが亠思外だった。 「最近、ちょっとやりすぎじゃない」 「なにが」松岡はやはり僕に背を向けたまま短い言葉で答え 「西野のこと」 「うるせー、いじめられっ子」

Xazsa : ザザ ver.1

「だいたい俺、体育祭の当日、学校に来れてるかどうかもわからないし」 どうして。 「だから、他の奴にしとけよ」 かばん やつばりとても無造作に言って、真砂は鞄を持ちあげる。 きおくそうしつ これじゃまるで記憶喪失か一一重人格じゃないか。 言えよ、真砂。説明しろよ、しつかりー 「じゃ、お先」 あっさり彼が教室を出て行く。 「あ・・ : : ・ハイ・ハイ」 だああああーっ、僕って奴はほんとにつ : びこう というわけで : : : 笑いたければ笑っていいけど、僕は尾行を決行した。 尾行と言っても、彼はどうせバイク通学だし、真砂の家は青山にある ( ちゃんと知ってる ) ひの じゅうにん 〕し、僕は反対方向の日野市の住人だし、だから彼を追 0 かけられるのは学校から駅までの徒歩 十三分間だけだ。別にこんなの尾行のうちに入らないと思う。 みれん ただ、僕は単に、未練がましく彼の背中についていっただけなんだ。 あおやま

Xazsa : ザザ ver.1

いっからそんな笑い方するようになったの。 「ねえ、ザザ、少し背が伸びてない ? 痩せてない ? 優亜に嘘ついたって駄目よっー : ・卵なんて優亜は割っ 片手で卵のカラを割ってポールに中身を落とす。すごく簡単に。た : ・ たこともないつ。 「どうしてか ? 背が伸びたっていうなら、優亜のほうでしよう ? : え、私 ? マジメな顔でザザが言う。 「半年くらいしか経ってないのに・ : コンロのほうに向きなおって、こっちには背を向けて、ザザは続ける。 「優亜はどんどん大きくなる。見るたびに、びつくりしてます。僕はね」 なんでそんなこと言うの。 だって。後ろザザの背中。 違うんだもの。 なんだか違うんだもの。 「そんな話、したくないわっ ! 」 いきなり、かんしやくを起こしたみたいに怒鳴りつけてた。ふつ、とザザが見返った。 どな