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検索対象: 写楽失踪事件

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写楽失踪事件


第 1 章 写 楽 失 踪 事 件 ・ も く じ 写 楽 が 十 カ 月 て 消 え た 理 由 。 い ま だ 解 決 さ れ な い 謎 の 数 々 大 衆 に あ き ら れ た 写 楽 能 役 者 の 非 番 が 終 っ た 幕 府 が 嫌 っ た 西 洋 画 あ ま り に 真 を 描 い て 役 者 達 に 嫌 わ れ る 勝 川 派 の 敗 退 ど 美 意 識 の 転 換 写 楽 は 素 性 を 隠 す 必 要 が あ っ た ◎ 0

写楽失踪事件


あ い ば ん お お く び え 十 七 枚 、 間 判 大 首 絵 十 一 枚 、 計 五 十 八 枚 の 役 者 絵 を 刊 行 し 、 こ の 他 に 相 撲 絵 、 追 善 絵 も 描 い て い る 。 翌 寛 政 七 年 正 月 に は 十 枚 の 細 判 役 者 絵 等 を 刊 行 し た 後 に 、 写 楽 は 突 然 制 作 を 断 念 し 姿 を 消 し て し ま っ た 。 写 楽 は 、 ど う し て 、 き っ ち り 十 カ 月 間 だ け 浮 世 絵 に 携 わ り 、 何 処 へ 姿 を 隠 し て し ま っ た の で あ ろ う か ? こ う し た 謎 を 順 次 解 い て ゆ く た め に 、 写 楽 役 者 絵 の 取 材 対 象 で あ る 江 戸 歌 舞 伎 界 の 状 況 や 動 向 、 う た が わ と よ く に 同 じ 舞 台 を 競 作 し た 歌 川 豊 国 と の 役 者 絵 比 較 や 西 洋 肖 像 画 を 描 い た 絵 師 達 の 生 き 様 を 通 じ 、 写 楽 が あ の 役 者 絵 で 何 を 表 現 し た か っ た の か 、 写 楽 が ど う し て 短 期 間 で 姿 を 消 し て し ま っ た の か 等 の 謎 の 核 心 部 分 に 迫 っ て み る こ と に し た 。 大 衆 に あ き ら れ た 写 楽 に ど の か け か つ い ろ そ が 寛 政 七 年 正 月 、 桐 座 「 再 魁 罧 曾 我 」 か ら 、 写 楽 は 細 判 三 枚 揃 を 刊 行 し た 後 、 突 然 、 浮 世 絵 界 か ら 姿 を 消 し た 。 な ぜ か ? 寛 政 六 年 五 月 、 写 楽 は 、 黒 雲 母 摺 大 首 絵 の 役 者 絵 一 一 十 八 枚 を 引 っ 下 げ て 、 浮 世 絵 界 に 突 如 登 場 す る 。 舞 台 で 演 技 す る 役 者 の 姿 態 ・ 性 格 ・ 表 情 を リ ア ル に 写 し 出 し た 徹 底 し た 写 実 描 法 は 、 江 戸 っ 子 の 度 肝 を 抜 か せ る 程 、 迫 真 力 に 富 ん で い た 。 な か で も 、 写 楽 ら し い 個 性 を 発 揮 し て い る の は 、 実 悪 、 敵 役 等 、 演 技 力 の あ る 役 者 の 半 身 像 を 描 第 1 章 ・ 写 楽 が 十 カ 月 で 消 え た 理 由

写楽失踪事件


写 楽 が 、 三 座 の 舞 台 を 駆 け め ぐ り 、 血 ま な こ に な っ て い る 時 に 、 芝 神 明 町 、 和 泉 屋 と 組 ん だ 豊 国 は 、 ゆ っ く り 、 あ せ ら ず 自 己 の 画 技 を 磨 い て い た 。 開 板 さ れ た 、 写 楽 の 役 者 絵 を 見 て 、 豊 国 は 、 「 写 楽 さ ん 、 線 の 乱 れ が 出 て き た よ う た ね 。 大 分 疲 れ て い る ん じ ゃ な い の か ね え 」 う る お う と し め い か の ほ ま れ 都 座 「 閨 訥 子 名 歌 誉 」 の 舞 台 か ら 、 関 西 下 り の 実 悪 の 名 人 、 七 世 片 岡 仁 左 衛 門 の 紀 名 虎 と 、 三 世 沢 村 宗 十 郎 の 孔 雀 三 郎 の 一 一 枚 揃 を 、 写 楽 、 豊 国 、 春 英 が 揃 っ て 競 作 し た 。 写 楽 二 枚 揃 は 、 背 景 に 卒 都 婆 、 や ぶ 畳 、 土 坡 を 描 い て い る 。 性 格 描 写 は 、 相 変 ら ず 鋭 い 。 豊 国 の 孔 雀 三 郎 は 、 小 道 具 の 編 笠 を 足 元 に 書 き 添 え る 等 、 芝 居 の つ ば を よ く 知 っ た 者 の 描 き っ ふ り で あ る 。 春 英 の 二 枚 揃 は 、 若 々 し く 、 カ の み な ぎ っ た 、 か な り 切 れ 味 の 良 い 二 枚 揃 で あ る 。 三 者 の 絵 師 が 、 各 々 腕 を 競 っ て い る が 、 今 の と こ ろ 、 三 者 各 々 遜 色 な い 。 写 楽 は 、 顔 見 世 興 行 の 狂 一 一 一 一 口 内 容 に 沿 っ て 、 各 々 の ハ イ ラ イ ト シ ー ン を 順 序 良 く 描 い て い る 。 写 楽 お う し ゆ く ば い こ い の は つ ね が 舞 台 を 見 て 、 シ ョ ッ ク を 受 け る 程 お ど ろ い た シ ー ン は 「 鶯 宿 梅 恋 初 音 」 か ら 白 拍 子 姿 で 踊 る 瀬 川 菊 之 丞 と 、 仲 蔵 扮 す る 荒 巻 耳 四 郎 が 、 突 然 、 肩 脱 ぎ し て 早 替 り す る 場 面 。 そ し て 「 閏 訥 子 名 歌 誉 」 で は 、 三 世 坂 東 彦 三 郎 扮 す る 五 代 三 郎 と 三 世 大 谷 広 次 扮 す る 秦 の 大 膳 が 、 二 世 瀬 川 富 三 郎 扮 す る 大 伴 家 腰 元 若 草 に 下 心 を 隠 し 、 酒 を 飲 ん で い る う ち に 女 装 し た 腰 元 若 草 が 、 実 は 男 性 で 惟 仁 親 王 で あ る こ と を 見 破 る 、 正 体 見 顕 わ し の 場 面 は よ ほ ど 写 楽 を 驚 か し た の で あ ろ う 。 写 楽 は そ の 場 面 を 一 気 に 描 き あ げ る 。 こ う し た 場 面 を す か さ す 写 し 取 っ て い る の は 、 演 技 の 本 質 を 見 極 め る 目 を も っ て い 第 2 章 ・ 写 楽 を 追 い つ め る

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な か っ た の で あ る 。 写 楽 が 、 浮 世 絵 界 か ら 姿 を 消 し た 最 大 の 理 由 は 、 勝 川 派 の 写 実 主 義 で は 、 も は や 、 大 衆 を 引 き っ け る こ と が 出 来 な い 現 実 を 、 写 楽 が は や く も 見 通 し て い た か ら に 他 な ら な い 。 写 楽 の カ で は ど う に も な ら な い 時 代 の 趨 勢 が 、 写 楽 を 置 き 去 り に し て し ま っ た の で あ る 。 時 代 物 を 得 意 と し た 勝 川 派 は 、 世 話 狂 言 勃 興 の 波 に 乗 り 、 台 頭 し て き た 歌 川 派 に 敗 れ 去 っ て し ま っ た わ け で あ る 。 時 代 物 の 覇 者 写 楽 も 、 こ う し て 時 代 の 波 に 呑 み 込 ま れ て し ま っ た 。 写 楽 は 素 性 を 隠 す 必 要 が あ っ た 浮 世 絵 類 考 は 、 写 楽 が あ の 大 首 絵 を 刊 行 し た 六 年 後 の 寛 政 十 二 年 、 漢 詩 、 狂 歌 の 大 御 所 大 田 蜀 山 人 が 浮 世 絵 師 の 略 伝 を 記 し 、 笹 屋 邦 教 が 古 今 大 和 絵 浮 世 絵 始 系 を 附 記 し 、 享 和 一 一 年 、 山 東 京 伝 が 浮 世 絵 追 考 を 書 き 入 れ 、 文 政 元 年 、 蜀 山 人 が 一 冊 に 綴 り 合 わ せ た と い う 。 蜀 山 人 が 論 評 し た 写 楽 の 記 述 は 、 何 故 か 、 そ の 身 分 、 素 性 に は 触 れ て お ら ず 、 た だ 、 写 楽 、 歌 舞 伎 役 者 の 似 顔 を 写 せ し が 、 あ ま り に 真 を 画 か ん と て 、 あ ら ぬ さ ま に か き し か ば 長 く 世 に 行 わ れ す 一 両 年 に し て 止 む と 素 っ 気 な い 書 き つ ぶ り で あ る 。

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る こ と が 出 来 た こ と 。 写 楽 大 首 絵 の 単 純 化 さ れ た フ ォ ル ム 、 簡 潔 な 色 彩 、 写 実 を 突 き 抜 け 、 人 間 の 心 の 奥 に 潜 む 喜 怒 哀 楽 を 激 し い 線 や 原 色 の 対 比 で 表 現 し た 、 ド イ ツ 表 現 主 義 に 相 通 ず る 写 楽 の 描 法 が 、 ド ラ マ テ ィ ッ ク な 表 現 を 好 む ド イ ツ 人 の 嗜 好 に マ ッ チ す る と 読 ん だ か ら で あ る 。 ま た 、 そ の 頃 、 ア フ リ カ 黒 人 の 彫 刻 や 、 仮 面 芸 術 が 見 直 さ れ て い た こ と も 、 ク ル ト の 心 を 動 か し た の で あ ろ う 。 ク ル ト の 評 伝 「 」 に 喧 伝 さ れ 、 写 楽 は 、 北 斎 や 歌 麿 に 遅 れ る こ と 半 世 紀 、 や っ と 、 世 界 的 に 光 を 浴 び た の で あ る 。 ク ル ト の 評 伝 「 」 は 、 阿 波 の 斎 藤 十 郎 兵 衛 が 写 楽 で あ る と 論 じ て い る が 、 写 楽 の 大 首 絵 が あ ま り に 真 に 迫 っ た 描 き 方 を し た た め に 、 歌 舞 伎 役 者 に 恨 ま れ て 、 一 旦 姿 を 消 し 、 寛 政 八 年 、 歌 舞 伎 堂 艶 鑑 と 名 を 変 え て 、 ま た 浮 世 絵 界 に 舞 い 戻 る と い う 筋 立 て で あ る 。 ク ル ト の 評 伝 「 」 刊 行 を 契 機 に 、 国 内 で も 写 楽 プ ー ム が 巻 き 起 こ り 、 阿 波 藩 抱 え の 能 役 者 写 楽 を 捜 せ と ば か り 、 競 っ て 阿 波 ( 徳 島 ) へ 押 し か け 、 写 楽 捜 し が 始 ま る 。 大 正 十 四 年 ( 一 九 二 五 年 ) 六 月 写 楽 熱 が い よ い よ 高 ま る 中 、 徳 島 の 人 類 学 者 ・ 鳥 居 龍 蔵 氏 は 、 徳 島 市 東 光 寺 の 過 去 帳 か ら 、 春 藤 流 能 役 者 春 藤 次 左 衛 門 ( 戒 名 ・ 寶 蓮 院 釋 蛙 水 居 士 ) が 、 写 楽 で あ る と 発 表 さ れ た 。 鳥 居 氏 が 次 左 衛 門 こ そ 写 楽 で あ る と さ れ た 根 拠 は 、 春 藤 の 祖 先 が 斎 藤 で あ る と い う と こ ろ に 因 っ た も の と 思 わ れ る 。

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頭 と な り 、 美 貌 を 誇 る 三 世 瀬 川 菊 之 丞 、 憎 々 し い 顔 の 三 世 佐 野 川 市 松 、 金 壺 眼 、 顎 の 張 っ た 二 世 小 佐 川 常 世 等 、 女 形 達 が 一 団 と な っ て 立 ち 上 が り 座 元 を 通 し て 版 元 の 蔦 屋 に 食 い 下 が り 、 写 楽 大 首 絵 制 作 を 断 念 さ せ た の で あ ろ う 。 蔦 屋 重 三 郎 の 死 写 楽 と 、 版 元 蔦 屋 重 三 郎 の コ ン ビ は 、 約 十 カ 月 間 に 百 四 十 数 種 の 役 者 絵 、 相 撲 絵 、 武 者 絵 、 追 善 絵 を 刊 行 し て い る 。 写 楽 が 、 ど う い う 経 緯 で 重 三 郎 に 見 出 さ れ 、 浮 世 絵 界 に 登 場 し た の か 、 は っ き り わ か ら な い も の の 、 写 楽 に 惚 れ 込 み 、 写 楽 の 力 を 信 頼 し 、 デ ヴ ュ ー さ せ た 蔦 屋 重 三 郎 も 、 才 気 溢 れ る 剛 腹 の 男 だ っ 蔦 屋 が 十 カ 月 間 に 、 写 楽 に 描 か せ た の は 役 者 大 首 絵 、 細 判 揃 物 の 数 々 、 別 の ジ ャ ン ル で あ る 相 撲 絵 、 追 善 絵 、 武 者 絵 と 、 美 人 画 、 花 鳥 画 、 風 景 画 を 除 く あ ら ゆ る ジ ャ ン ル に わ た る 。 こ れ は 、 写 楽 の 並 々 な ら ぬ 才 能 に 驚 い た 蔦 屋 が 、 限 ら れ た 時 間 に あ ら ゆ る 才 能 を 引 き 出 そ う と し た 挑 戦 で あ っ た よ う に も 受 け 取 れ る 。 写 楽 も 、 蔦 屋 の 期 待 と 情 熱 に 応 え て 、 体 力 の 限 界 を 越 え て 大 量 の 版 画 に 没 頭 し た こ と が 窺 わ れ る 。 写 楽 の あ の 奇 異 な 迫 真 的 魅 力 を 放 つ 大 首 絵 刊 行 時 、 江 戸 の 町 は 蜂 の 巣 を つ つ い た よ う な 状 態 で 大 騒 ぎ と な っ た こ と が 予 想 さ れ る 。 当 然 、 絵 草 子 関 係 、 歌 舞 伎 界 、 芝 居 で 喰 っ て い る 人 々 に と っ て 、 ろ 第 1 章 ・ 写 楽 が 十 カ 月 で 消 え た 理 由

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こ れ ら 、 関 西 下 り の 役 者 の 演 技 に 、 写 楽 は 余 程 興 味 を そ そ ら れ た の で あ ろ う か ? そ れ ら を 、 逐 一 画 面 に 捉 え て い る 。 都 座 「 閏 訥 子 名 歌 誉 」 か ら 、 菊 之 丞 扮 す る 花 園 御 前 、 宗 十 郎 扮 す る 黒 主 を 要 に 、 一 一 世 中 村 野 塩 扮 す る 小 野 小 町 の 三 枚 揃 。 仲 蔵 の 荒 巻 耳 四 郎 と コ ン ビ を 組 ん で 踊 る 菊 之 丞 の 白 拍 子 が 突 然 肩 脱 ぎ し て 、 野 塩 扮 す る 此 の 花 と 入 れ 替 わ る 場 面 。 野 塩 の は ん な り 、 お っ と り し た 芸 風 を 、 写 楽 は 的 確 に 画 面 に 捉 え て い る 。 同 じ く 「 名 歌 誉 」 か ら 関 西 下 り の 実 悪 の 名 人 七 世 片 岡 仁 左 衛 門 と 、 都 座 座 頭 宗 十 郎 の コ ン ビ が 評 判 を 呼 ん だ の か 、 写 楽 、 春 英 、 豊 田 が 競 っ て 二 枚 揃 に 作 画 し て い る 。 余 程 仁 左 衛 門 の 演 技 に 各 絵 師 が 注 目 し た た め で あ ろ う 。 黒 幕 、 敷 畳 、 石 塔 、 卒 都 婆 の 墓 所 を 背 景 に 、 写 楽 は 黒 の 着 流 し 、 大 柄 な 体 驅 、 容 貌 怪 異 な 浪 人 姿 の 仁 左 衛 門 が 、 今 に も 斬 り か か ら ん と 大 刀 を 抜 き 、 宗 十 郎 扮 す る 孔 雀 三 郎 に 迫 る 。 ど は 春 英 描 く 二 枚 揃 は 、 背 景 に 垣 根 、 土 坡 を 描 き 込 む 、 黒 の 着 流 し 浪 人 姿 の 紀 名 虎 、 写 楽 と ほ ば 同 じ ポ ー ズ で あ る が 、 表 情 は 写 楽 よ り 一 層 き つ い 。 宗 十 郎 の 孔 雀 三 郎 、 ロ に 提 灯 を 咥 え 、 紀 名 虎 に 斬 り か か ろ う と す る 立 廻 り の 場 面 。 目 隈 赤 く 、 写 楽 描 く 孔 雀 三 郎 よ り 鋭 い 殺 気 に あ ふ れ る 。 豊 国 の 孔 雀 三 郎 は 提 灯 の 明 か り を 両 袖 で 隠 し 、 相 手 を う か が う 体 。 三 郎 の 足 元 に 深 編 笠 を 描 き 添 え る 等 、 豊 国 の 役 者 絵 は 芝 居 の ツ ポ を よ く 心 得 て い る 。 関 西 下 り の 実 悪 の 名 人 、 七 世 片 岡 仁 左 衛 門 は 、 こ の 舞 台 で は ま だ 江 戸 っ 子 に は 馴 染 ま す 、 落 首 に て い か な め

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写 楽 の 素 性 は 、 写 楽 の 全 作 品 を 刊 行 し た 版 元 蔦 屋 重 三 郎 や 、 蔦 屋 の 店 か ら 戯 作 を 刊 行 し た 大 田 蜀 山 人 、 山 東 京 伝 、 式 亭 三 馬 、 十 返 舎 一 九 、 写 楽 と 同 時 期 に 美 人 大 首 絵 を 刊 行 し た 歌 麿 や 栄 松 斎 長 喜 も 知 っ て い た は す で あ る 。 蜀 山 人 、 三 馬 、 歌 麿 、 京 伝 、 長 喜 、 一 九 等 は 、 い ず れ も 写 楽 に 興 味 を も た こ え っ て い た こ と は 、 各 々 の 戯 作 文 や 、 団 扇 や 凧 絵 に 描 か れ た 写 楽 大 首 絵 か ら も 明 ら か で あ る 。 し か し 、 あ え て 、 写 楽 の 素 性 や 身 分 に 触 れ て い な い の は 、 写 楽 の 身 分 が 公 表 を 憚 る 立 場 に あ り 、 素 性 を 隠 さ な け れ ば な ら な い 理 由 が あ っ た か ら で あ ろ う 。 写 楽 が 、 能 役 者 、 斎 藤 十 郎 兵 衛 で あ る な ら ば 、 十 郎 兵 衛 は 幕 府 抱 え の 能 役 者 で あ る か ら 身 分 は 士 分 で あ り 町 人 に 混 っ て 、 役 者 絵 刊 行 に 血 道 を 上 げ る こ と な ど 到 底 許 さ れ る は ず は な か っ た わ け で あ る 。 し ん 士 分 で あ る 身 分 を 隠 す た め に 、 東 洲 斎 写 楽 と い う 画 号 を 使 い 、 役 者 絵 刊 行 に 踏 み 切 っ た の で は な い か と 思 わ れ る 。 五 十 年 後 、 月 岑 が 写 楽 の 身 分 を 明 ら か に し た の は 、 関 係 者 が す べ て 世 を 去 り 、 写 楽 の 素 性 を 隠 す 必 要 が 無 く な っ た か ら だ と 考 え ら れ る 。 月 岑 が 写 楽 の 素 性 を 突 き と め た の は 、 大 田 蜀 山 人 、 山 東 京 伝 、 弟 の 京 山 、 式 亭 三 馬 、 栄 松 斎 長 喜 ほ う か い し 等 と 関 わ る 人 間 関 係 や 、 相 棒 の 蔵 書 家 、 及 び 歌 舞 伎 通 の 石 塚 豊 芥 子 等 の 調 査 か ら 、 聞 き 出 す こ と が 出 来 た の で は な か ろ う か ? ぶ ん

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写 楽 は 、 山 下 金 作 の 芸 が 余 程 気 に 人 っ た の か 。 八 百 蔵 扮 す る 佐 伯 蔵 人 が 扇 で 金 作 の 岩 手 を 責 め た ち ょ う ち ゃ く て 、 膝 を つ き 、 肩 脱 ぎ し て 打 擲 に 耐 え る 金 作 の 貞 任 妻 岩 手 を 二 枚 揃 で 描 く 。 続 い て 、 貞 任 妻 岩 手 の 姿 か ら 、 道 具 打 変 わ り 、 雪 中 の 場 面 に 変 わ る 。 馬 士 鐙 摺 の 岩 蔵 相 手 に 、 蛇 の 目 傘 を 手 に 、 見 得 を 切 る 金 作 の 芸 が 大 き く 見 え る 立 姿 を 、 写 楽 は 的 確 に 捉 え る 。 以 上 、 写 楽 は 三 座 の 舞 台 か ら 、 顔 見 世 興 行 の ハ イ ラ イ ト シ ー ン で あ る 暫 、 四 立 目 の 美 し い 浄 瑠 璃 の 所 作 事 、 短 い だ ん ま り の 場 に あ る 暗 闇 の 中 の 、 顔 と 身 振 り た け の 無 言 の 演 技 を 描 く 。 五 立 目 、 一 番 目 、 時 代 物 の シ 1 ン で は 、 ク ラ イ マ ッ ク ス の 立 廻 り の 場 面 、 踊 り の 場 面 転 じ て 突 如 早 替 り す る シ ー ン 、 道 具 打 変 わ り 、 正 体 を 現 す ド ラ マ チ ッ ク な 場 面 や 、 二 番 目 、 世 話 物 で は 、 町 人 の 生 き 生 き し た 生 活 を ユ ー モ ラ ス に 捉 え 、 二 枚 揃 、 三 枚 揃 、 も し く は 、 五 枚 揃 で 描 い て い た 。 写 楽 が 描 い た こ れ ら 顔 見 世 興 行 の ハ イ ラ イ ト シ ー ン を 順 序 通 り 見 て ゆ け ば 、 そ の ま ま 三 座 上 演 の 狂 言 の 内 容 が 再 現 さ れ る 段 取 り に 作 成 さ れ て い る 。 む ろ ん 、 蔦 屋 や そ の プ レ イ ン の ア ド バ イ ス も あ っ て 顔 見 世 興 行 の 、 ハ イ ラ イ ト シ ー ン が 選 ば れ た わ け で あ ろ う が 、 写 楽 は 、 芝 居 が ド ラ マ テ ィ ッ ク に 展 開 す る 場 面 や 、 正 体 見 顕 わ し の 場 面 、 カ と カ の ぶ つ か り 合 う 立 廻 り シ ー ン 、 美 し い 所 作 事 の き ま っ た 場 面 等 、 歌 舞 伎 の 真 髄 、 演 技 の 肝 心 な 部 分 を 冷 徹 に 写 し 出 し て い る 。 こ れ は 、 演 技 、 も し く は 、 演 技 と 関 わ る 立 場 に 居 た 人 物 で な け れ ば 、 描 け る 仕 業 で は な い 。 し か し 、 何 よ り 不 思 議 な 事 は 、 写 楽 が 芝 居 の ハ イ ラ イ ト シ 1 ン 、 芝 居 の 要 の シ ー ン を 客 観 的 、 冷 176

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写 楽 、 歌 舞 伎 役 者 の 似 顔 を 写 せ し が 、 あ ま り に 真 を 画 か ん と て 、 あ ら ぬ さ ま に か き し か ば 長 く 世 に 行 わ れ ず 一 両 年 に し て 止 む と 、 甚 し く 、 素 っ 気 な い 。 写 楽 作 画 期 ( 寛 政 六 年 ) よ り 、 四 半 世 紀 後 の 文 政 元 年 ( 一 八 一 八 年 ) ー 文 政 四 年 ( 一 八 二 一 年 ) に か け 、 戯 作 者 の 式 亭 三 馬 が 、 写 楽 の 項 に 、 写 楽 、 号 東 周 斎 、 江 戸 八 丁 堀 に 住 す 僅 に 半 年 余 行 わ る る の み 項 の 楽 写 ー = 希 に 、 , 八 イ 協 、 行 の 蝕 世 浮 補 増 の 、 を 、 第 の 底 ふ セ 4 い あ う 丿 な ん と て 3 な 岑 月 藤 斎 7 3 章 ・ 写 楽 の 正 体 は 斎 藤 十 郎 兵 衛 だ っ た