匂宮 - みる会図書館


検索対象: 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩
480件見つかりました。

1. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

たちばな 巻名宇治川を渡る舟の中で、匂宮の歌「年経ともかはらむものか橘の小島のさきに契る心は」に応えた浮舟の「橘の小島 の色はかはらじをこのうき舟ぞゆくへ知られぬ」の歌による。 梗概匂宮は、二条院で会った浮舟のことが忘れられす、中の君を責めるが、中の君は沈黙を続けている。一方、薫は悠長 にかまえて、宇治を訪れることも間遠であった。 年明けて正月、浮舟から中の君のもとに新年の挨拶が寄せられた。その文面から女の居所を知った匂宮は、家臣を通し てそれが薫の隠し女であることを知る。異常な興味につき動かされてひそかに宇治を訪れた彼は、薫を装って浮舟の寝所 に入り、強引に思いを遂げた。女が人違いと気づいたときには、もう取返しがっかない。 心と犯したわけではない過失に とうりゅう 浮舟はおののくが、身分を顧みす宇治に逗留する匂宮の、薫とは対照的な一途の情熱に、しだいに惹かれていくのであっ とーレき、 二月、ようやく宇治を訪れた薫は、物思わしげな浮舟の様子に、女としての成長を感じ取って喜ぶとともに、い はんもん も増し、京に迎える約束をする。秘密を抱く浮舟はただ煩悶するばかりである。 宮中の詩宴の夜、匂宮は、浮舟を思って古歌を口ずさむ薫の様子に焦燥の思いをつのらせ、雪をおかして再び宇治に赴 いた。邸内の人目もはばかられる。匂宮は浮舟を対岸の隠れ家に連れ出し、夢のような耽溺の二日間を過した。 歓喜と後悔、苦悶。その浮舟のもとに、薫から近く京に迎える旨が告げられてきた。一方、それを知った匂宮からは、 それに先立って彼女をわがもとに引き取ろうとの計画がひそかに知らされる。苦悩する浮舟の気持をよそに、事情を知ら めのと ぬ母や乳母は京移りの準備に余念がない。 やしき やがて匂宮との秘密が薫に察知される日がやってきた。宇治の邸で薫と匂宮双方の使者が鉢合せしてしまったのである。 薫から不倫を詰る歌が届けられる。右近の語る東国の悲話を耳にするにつけても、浮舟は身につまされるが、途方にくれ るしかない。追いつめられ、惑乱がつのり、ついには死を決意する。宇治の邸は、薫によって厳重な警戒体制が敷かれ、 無理をおして訪れた匂宮も、浮舟に逢えぬまま帰京するほかなかった。 不吉な夢見を心配して、母中将の君から文が届けられた。死を間近に思う浮舟は、薫や匂宮、母や中の君を恋いながら、 したた 匂宮と母の二人にのみ、最後の文を書き認めた。 〈薫二十七歳の春。ただし当巻本文中には一歳年長のはずの匂宮の年齢との間に矛盾がある〉 たんでき

2. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

一匂宮の手紙。 つけては、し 、とあはれにはべる。さばかりめでたき御紙づかひ、かたじけなき しいえ、人目にふれては面倒。 な一け 御言の葉を尽くさせたまへるを、かくのみ破らせたまふ、情なきこと」と言ふ。以下、匂宮の手紙を処分する理由。 語 三ひそかに死を決意しての言葉。 物浮舟「何か、むつかしく。長かるまじき身にこそあめれ。落ちとどまりて、人 0 匂宮にと 0 ても。 五自分が宮の手紙を保存してい 五 源 たと、宮に知られては恥ずかしい の御ためもいとほしからむ。さかしらにこれを取りおきけるよなど漏り聞きた 六一人死につこうとする孤独感。 まはんこそ恥づかしけれ」などのたまふ。心細きことを思ひもてゆくには、ま思いつめると、死の決意もにぶる。 七逆縁 ( 子が親より先に死ぬ ) で、 ふき、よら・ たえ思ひたつまじきわざなりけり。親をおきて亡くなる人は、、 しと罪深かなる親の追善供養のできない不孝の罪。 ^ 貴族社会の常識もなく育った ( 七五ハー六 ~ 七行 ) ものの、やはり。 ものをなど、さすがに、ほの聞きたることをも思ふ。 九三月二十余日。 いへあるじ 二十日あまりにもなりぬ。かの家主、二十八日に下るべし。一 0 匂宮は遠国の受領として下る 〔三 0 〕上京の日迫る浮 はずの人の家に、下向後、浮舟を し - もびと 舟、匂宮の文に答えず 引き取ろうと予定。↓五七ハー一行。 宮は、「その夜かならず迎へむ。下人などによくけしき = 浮舟を。以下、匂宮の手紙。 三様子を気どられぬよう。 見ゅまじき心づかひしたまへ。こなたざまよりは、ゆめにも聞こえあるまじ。 一三私 ( 匂宮 ) のほうからは。 一四無理をしておいでになったと 疑ひたまふな」などのたまふ。さて、あるまじきさまにておはしたらむに、し しても。以下、浮舟は、匂宮来訪 ひと ま一たびものをもえ聞こえず、おばっかなくて帰したてまつらむことよ、また、の場合を想像して不都合さを思う。 一五お目にかかれぬまま。 一六ま 時の間にても、 いかでかここには寄せたてまつらむとする、かひなく恨みて帰一六ほんのわずかの時間でも、こ こにお呼び申すことができない 例の、面影離れず、たへず悲しくて、この宅来訪のもなく。 りたまはんさまなどを思ひやるに、」 は九 か や 一七 くだ

3. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

うそ 一八方嘘でごまかすのに大わら 聞かせたり。よろづ右近そ、そらごとしならひける。 かいぎやく わ ( ↓一一九ハー ) 。諧謔味のある評言。 ニ二月になった。以下、匂宮。 月もたちぬ。かう思し焦らるれど、おはしますことはいと 語〔一 = 〕薫、浮舟を訪れ、 三以下、恋死にもしそうな匂宮。 物大人びたことを喜ぶ わりなし。 ↓三〇ハー一一行・三三ハー四行。 かうのみものを思はば、さらにえながらふまじ 氏 四薫。↓二三ハー一行。 源 五阿闍梨の寺に亡き八の宮の建 き身なめりと心細さを添へて嘆きたまふ。 物を移して御堂とした ( ↓東屋 大将殿、すこしのどかになりぬるころ、例の、忍びておはしたり。寺に仏な一八九ハー ) 。すぐには浮舟に逢わ す、まず寺を訪ねる点が薫らしい みずきゃう 六浮舟の居所。 ど拝みたまふ。御誦経せさせたまふ僧に物賜ひなどして、タっ方、ここには忍 セ薫。匂宮に対して「これは」。 えばうし なほし びたれど、これはわりなくもやっしたまはず、烏帽子、直衣の姿いとあらまほ匂宮はやっし姿。↓二一ハー九行。 ^ 平常服。馬を用いていない。 あゆ 匂宮は馬に乗り、狩衣姿だった。 しくきょげにて、歩み入りたまふより、恥づかしげに、用意ことなり。 九浮舟。男女関係強調の呼称。 女、いかで見えたてまつらむとすらんと、空さへ恥づかしく恐ろしきに、あ匂宮に逢ったうしろめたさから、 おうのう 薫にどうして逢えようかと懊悩。 ながちなりし人の御ありさまうち思ひ出でらるるに、またこの人に見えたてま一 0 空にまで目がついたようで。 天眼。↓若菜下圈一八三ハー注一一 = 。 こころう つらむを思ひやるなん、いみじう心憂き。我は、年ごろ見る人をもみな思ひか = 激しく一途にふるまった匂宮。 一ニ「心地なむする」まで、浮舟の のち 心に刻印された匂宮の言葉。 はりぬべき心地なむするとのたまひしを、げに、その後、御心地苦しとて、 一三中の君、タ霧の六の君など。 みずほふ 一四思いが冷めて、気持があなた づくにもいづくにも、例の御ありさまならで、御修法など騒ぐなるを聞くに、 に移ってしまいそうな気がする。 また、いかに聞きて思さんと思ふもいと苦し。この人、はこ、、とけはひこと一五匂宮は病気と騒がれたが ( 三 四

4. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

源氏物語 20 すめる方は何とも思さねば、宇治へ忍びておはしまさんことをのみ思しめぐら一 , 希望する官職があり。 ニ匂宮になんとか取り入ろうと ないき よるひるニ す。この内記は、望むことありて、夜昼、いかで御心に入らむと思ふころ、例する。昇進をねらう下心。 三匂宮は大内記の下心を見抜き、 かた よりはなっかしう召し使ひて、匂宮「いと難きことなりとも、わが言はんこと無理な案内を命ずる。 四宇治の女が昔の恋人であるか びん のように言う。以下、虚実を混じ はたばかりてむや」などのたまふ。かしこまりてさぶらふ。匂宮「いと便なき えて大内記を説得。 ことなれど、かの宇治に住むらむ人は、はやうほのかに見し人の行く方も知ら五大内記の話で思いあたったと して、下心を見抜かれぬよう装う。 ずなりにしが、大将に尋ねとられにけると聞きあはすることこそあれ。たしか六昔の恋人かどうか。 セ木幡山あたり。大内記は、以 には知るべきゃうもなきを、ただ、ものよりのそきなどして、それか、あらぬ前の匂宮の宇治行を知らぬらしい ^ 亥の時は午後九時から十一時、 子の時は午後十一時から午前一時。 かと見定めむとなむ思ふ。いささか人に知らるまじき構へま、、 : ゝ 。しカカすべき」 女のもとに忍び込むのに好都合な とのたまへば、あなわづらはしと思へど、大内記「おはしまさんことは、いと荒時間帯を設定している。 九匂宮の「人に知らるまじき・ : 」 き山越えになむはべれど、ことにほど遠くはさぶらはずなむ。タっ方出でさせを受けて言う。従者以外には誰に も知られず、微行として完璧。 ゐねとき おはしまして、亥子の刻にはおはしまし着きなむ。さて暁にこそは帰らせたま一 0 匂宮微行の深い事情。 = 中の君を迎え取る以前。 と - も はめ。人の知りはべらむことは、ただ御供にさぶらひはべらむこそは。それも、三上文から反転し、あらためて 大内記に、細心の注意を要請。 ふた 深き心はいかでか知りはべらむ」と申す。匂宮「さかし。昔も一たび二たび通一三反省しつつも、あきらめがた 。匂宮の好色ぶりが躍如。 かろがろ ひし道なり。軽々しきもどき負ひぬべきが、ものの聞こえのつつましきなり」 0 薫にも親しく仕え、しかも昇進 四 一一ひと へ

5. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

おば つばね 一薫は、他の女房より小宰相に て見えざらむかしと思いたり。大納言の君「人よりは心寄せたまひて、局などに ニ世間並のありふれた色恋沙汰 立ち寄りたまふべし。物語こまやかにしたまひて、夜更けて出でなどしたまふではないらしいとする。 三小宰相が匂宮を拒んだことは 語 めな な一け 物をりをりもはべれど、例の目馴れたる筋にははべらぬにや。宮をこそ、いと情前出。↓一二三ハー三行。 氏 四普通の女はなびくはずなのに、 の気持で、なかば戯れた言い方。 源なくおはしますと思ひて、御答へをだに聞こえずはべるめれ。かたじけなきこ 五匂宮の浮気沙汰の見苦しさを、 小宰相は十分見抜いているとする。 と」と言ひて笑へば、宮も笑はせたまひて、中宮「いと見苦しき御さまを、思 六匂宮のかっての宇治行にも苦 言を呈し、漁色を難じてきた。↓ ひ知るこそをかしけれ。いかでかかる御癖やめたてまつらん。恥づかしや、こ 総角 3 二一七・二一八・二三七ハー。 衆人承知の事実に苦笑する趣。 の人々もーとのたまふ。 セあなたがた、女房たちにも。 大納言の君「いとあやしきことをこそ聞きはべりしか。この大将の亡くなした ^ 浮舟をさす。 九二条院に住む北の方。中の君。 ひた まひてし人は、宮の御二条の北の方の御おとうとなりけり。異腹なるべし。常一 0 中将の君 ( 浮舟の母 ) の身分の 低さが知られる叙述。 ちのさきのかみ 。し力なるにか。そ = 浮舟への匂宮の密通。以下の 陸前守なにがしが妻は、叔母とも母とも言ひはべるなるよ、、ゝ 報告は、真相にほば対応している。 の女君に、宮こそ、いと忍びておはしましけれ。大将殿や聞きつけたまひたり三番人。匂宮の浮舟懸想を知っ た薫が、荘園の者たちに命じて厳 まも けむ、にはかに迎へたまはんとて、守りめ添へなど、ことごとしくしたまひけ戒した。↓浮舟〔 = 0 。 一三宇治に。↓浮舟「三一〕。 一四浮舟も匂宮になびいたために るほどに、宮も、いと忍びておはしましながら、え入らせたまはず、あやしき 投身したと判断される点に注意。 むま さまに御馬ながら立たせたまひつっそ、帰らせたまひける。女も宮を思ひきこ右近や侍従が真相をひた隠しにし め くせ ふ ことはら なハ

6. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

53 浮舟 宅薫とはじめて契り交したこと。 めより契りたまひしさまも、さすがにかれはなほいともの深う人柄のめでたき 以下、浮舟の心に即し、「かかる ニ 0 うきことあたりから直接話法。 なども、世の中を知りにしはじめなればにや。「かかるうきこと聞きつけて思 天薫を「かれ」と呼ぶのは、匂宮 に親近感を抱いているから。 ひ疎みたまひなむ世こよ、、ゝ。ゝ し。しカて力あらむ。いっしかと思ひまどふ親にも、思 一九薫が男女の仲を最初に知った はずに心づきなしとこそはもてわづらはれめ。かく心焦られしたまふ人、はた、相手だからか。挿入句的な言辞。 ニ 0 薫が、匂宮との秘事を聞いて。 ニ一早く薫に迎えられるようにと。 かかるほどこそあらめ、また、か , っ いとあだなる御心本性とのみ聞きしかば、 一三匂宮。その浮舟恋慕が「心焦 ニ六 ニ七 ニハ かず られ」の語で繰り返されてきた。 ながらも、京にも隠し据ゑたまひ、ながらへても思し数まへむにつけては、か ニ三匂宮の「あだ心」は世間の定評。 ニ四熱中している間はともかく、 の上の思さむこと。よろづ隠れなき世なりければ、あやしかりし夕暮のしるべ やがて冷めてしまうだろう。 ばかりにだに、かうたづね出でたまふめり、まして、わがありさまのともかく一宝このまま匂宮に捨てられず。 ニ六↓五一ハー二行。 きず もあらむを、聞きたまはぬゃうはありなんや」と思ひたどるに、わが心も、瑕毛末長い思い人としての世話。 夭中の君への恩義。 ありてかの人に疎まれたてまつらむ、なほいみじかるべしと思ひ乱るるをりしニ九匂宮が二条院で出会っただけ の自分 ( 浮舟 ) を見出したこと。自 分を隠れようのない存在とみる根 も、かの殿より御使あり。 拠。「 : ・たまふめり」まで挿入句。 三ニ 三 0 自分が宮にかくまわれ京のど これかれと見るもいとうたてあれば、なほ一一 = ロ多かりつるを見つつ臥したまへ こかにいても薫にすぐ知られよう。 れば、侍従、右近見あはせて、「なほ移りにけり」など、言はぬゃうにて言ふ。三一薫。次@かの殿」も薫。 三ニ匂宮の長々しい文面の手紙。 かたち 侍従「ことわりそかし。殿の御容貌を、たぐひおはしまさじと見しかど、この三三浮舟の心が薫から匂宮に。 うへ 三三 ニ九 三 0 ニ玉

7. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

ずん おほむわしいじ ねんごろ 一「大抵四時ハ心惣ペテ苦ナリ に、薫「中に就いて腸断ゆるは秋の天」といふことを、いと忍びやかに誦じっ 中ニ就イテ腸ノ断ュルハ是レ秋ノ きめ 一うじ っゐたまへり。ありつる衣の音なひしるきけはひして、母屋の御障子より通り天」 ( 白氏文集巻十四・暮立 ) 。 語 ニ前に薫と歌を詠み合った中将 物て、あなたに入るなり。宮の歩みおはして、匂宮「これよりあなたに参りつるのおもとが、御前に赴く。「母屋 の御障子」は母屋の東西の中仕切。 源は誰そ」と問ひたまへば、女房「かの御方の中将の君と聞こゅなり。なほ、 三匂宮。寝殿の東廂にいる。 四女一の宮づきの中将の君。 たれ あやしのわざや、誰にかと、かりそめにもうち思ふ人に、やがてかくゆかしげ五以下、薫の批判的な感想。浮 気な男に問われるままに、安易に めな なく聞こゆる名ざしよといとほしく、この宮には、みな目馴れてのみおばえた名を告げる女房の軽率さを非難 六中将のおもとが匂宮の好色の 対象になることに同情する気持。 てまつるべかめるも口惜し。「下り立ちてあながちなる御もてなしに、女は、 セ中宮方の女房の誰もが匂宮に さもこそ負けたてまつらめ。わが、さも、口惜しう、この御ゆかりには、ねた 馴れ親んでいるのに、妬心を抱く。 ^ 匂宮の熱心で強引なふるまい こころう に。以下、薫の心中。 く心憂くのみあるかな。いかで、このわたりにも、めづらしからむ人の、例の 九匂宮には浮舟の一件でしてや 心入れて騒ぎたまはんを語らひ取りて、わが思ひしゃうに、やすからずとだに られ、彼の同母姉の女一の宮には 思いがかなわない。 かた 一 0 ここに仕える女房のなかにも。 も思はせたてまつらん。まことに心ばせあらむ人は、わが方にそ寄るべきや。 = 例によって宮が熱中している ひと ような女をこちらが口説き落し。 されど難いものかな、人の心は」と思ふにつけて、「対の御方の、かの御あり 三自分が宮のために辛酸をなめ 一五びん むつ させられたように、せめて宮にも さまをば、ふさはしからぬものに思ひきこえて、いと便なき睦びになりゆく、 くやしい思いを味わわせたい。 おほかたのおばえをば苦しと思ひながら、なほさし放ちがたきものに思し知り一三本当に物事の分る人なら、自 かた っ はらわたた 七 もや

8. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

源氏物語 52 り来にければ、心やすくもえ見ず。かくあやしき住まひを、ただかの殿のもて一浮舟は、匂宮の手紙を。 ニ今はこんなみじめな暮しだが。 四 なしたまはむさまをゆかしく待っことにて、母君も思ひ慰めたるに、忍びたる三薫の浮舟引取りをさす。 四表だった結婚の扱いではない としても、薫の本邸三条宮近くに。 さまながらも、近く渡してんことを思しなりにければ、し 、とめやすくうれしか 五以下、母君の心情と対処。 わらは るべきことに思ひて、やうやう人もとめ、童のめやすきなど迎へておこせたま六女房や女童を雇い入れる。浮 舟の京での生活のための準備。 ふ。わが心にも、それこそはあるべきことにはじめより待ちわたれ、とは思ひセ浮舟自身も、京住いこそ。 ^ 無理押し一途のお方。匂宮。 おほむ ながら、あながちなる人の御事を思ひ出づるに、恨みたまひしさま、のたまひその宮への執着を断ち切ろうとし て断てない。「面影」「夢」に注意。 九春雨の降る晩春三月になった。 しことども面影につとそひて、いささかまどろめば、夢に見えたまひつつ、 あきら 一 0 宇治通いもかなわぬと諦めて。 まゆ = 「たらちねの親のかふ蚕の繭 とうたてあるまでおばゅ。 ごもりいぶせくもあるか妹にあは 雨降りやまで、日ごろ多くなるころ、いとど山路思し絶えずて」 ( 拾遺・恋四柿本人麿 ) 。 三 0 〕匂宮と薫から文あ 三語り手の評。宮の両親、帝と り浮舟の悩み深し てわりなく思されければ、親のかふこはところせきものに母中宮に対して畏れ多いとする。 一三「眺め」「長雨」の掛詞。「そな た」は宇治。「空さへ : こは、涙に こそと思すもかたじけなし。尽きせぬことども書きたまひて、 くれるだけでなく空までも曇る意。 一四気楽な散らし書きが、かえっ 匂宮ながめやるそなたの雲も見えぬまで空さへくるるころのわびしさ てみごと。匂宮の好色らしい美質。 筆にまかせて書き乱りたまへるしも、見どころありをかしげなり。ことにいと一五浮舟の至らぬ心には。 一六匂宮の手紙の一途な心に対し て、浮舟の恋心もつのりそうだが。 ししとかかる心を思ひもまさりぬべけれど、はじ 重くなどはあらぬ若き心地こ、、

9. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

とが なる咎もはべらずなどして、心やすくらうたしと思ひたまへつる人の、いとはする正妻ならばともかく。 一五世話をするのに、 格別の落度 なども先方になかったりして。 かなくて亡くなりはべりにける。なべて世のありさまを思ひたまへつづけはべ 一六薫らしい無常観の表現。 るに、悲しくなん。聞こしめすやうもはべるらむかし」とて、今ぞ泣きたまふ。宅あなたもご存じだろうが。匂 宮の秘事にさりげなく迫る。 これも、「いとかうは見えたてまつらじ。をこなり」と思ひつれど、こばれそ天薫。彼も涙顔を見せたくない。 一九匂宮は、薫の取り乱した態度 めてはいととめがたし。 、秘事を知られたかと気づく趣。 ニ 0 平静をよそおって。 けしき ニ一あなた ( 薫 ) が表だって世間に 気色のいささか乱り顔なるを、あやしくいとほしと思せど、つれなくて、 知らせないことだからとして、自 きのふ 匂宮「いとあはれなることにこそ。昨日ほのかに聞きはべりき。いかにとも聞分から弔問しない理由を述べた。 一三「つれなく」 ( 三行前 ) の繰返し。 こゅべく思ひたまへながら、わざと人に聞かせたまはぬことと、聞きはべりしニ三あなたのしかるべき相手とし て。匂宮の愛人として紹介したか ったとする。匂宮への痛烈な皮肉 かばなむーと、つれなくのたまへど、いとたへがたければ、一一 = ロ少なにておはし ニ四二条院にも出入りする縁故が ニ四 ます。薫「さる方にても御覧ぜさせばやと思ひたまへし人になん。おのづからあったのだから、しぜん宮のお目 にとまっていたかもしれぬ、の意。 ニ五当てこすって。 蛉さもやはべりけむ、宮にも参り通ふべきゅゑはべりしかば」など、すこしづっ ニ六病気の間は、つまらぬ世間話 ニ五 気色ばみて、薫「御心地例ならぬほどは、すずろなる世のこと聞こしめし入れで心騒がせるのはよくない、の意 浮舟の死ゆえの病臥と、皮肉る。 御耳おどろくも、あいなきわざになむ。よくつつしませおはしませ」など聞こ 0 匂宮と薫の悲嘆の質の相違に注 意。薫は自分の愚かな恥ともなり かねぬとして純粋には悲しめない。 えおきて、出でたまひぬ。 一九 な ニ六 一七 れい

10. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

77 浮舟 御文を顔に押し当てて、しばしはつつめども、 いといみじく泣きたまふ。右近、天匂宮への断ちがたい執着。 「例の」と習慣化している点に注意。 ↓四二・五二・五五ハー 「あが君、かかる御気色つひに人見たてまつりつべし。ゃうやうあやしなど思 一九こんな様子に、ついには周囲 が気づこう。当座は、病気と偽る。 ふ人はべるべかめり。かうかかづらひ思ほさで、さるべきさまに聞こえさせた ニ 0 くよくよなさらず。 まひてよ。右近はべらば、おほけなきこともたばかり出だしはべらば、かばかニ一適当にご返事なさい。浮舟に、 匂宮に従うよう、暗に勧める。 り小さき御身ひとつは空より率てたてまつらせたまひなむ」と言ふ。とばかり一三あとは自分が引き受け、なん くめん とかうまくエ面しよう、の気持。 ・ ) ころう ニ五 ニ三姫君の小さいお体一つぐらい、 ためらひて、浮舟「かくのみ言ふこそいと心憂けれ。さもありぬべきことと思 宮が空からでもお連れになろう。 ひかけばこそあらめ、あるまじきこととみな思ひとるに、わりなく、かくのみニ四自分が宮に惹かれていると決 めてかかって言うのは情けない。 一宝宮に惹かれてもよいという気 頼みたるやうにのたまへま、 しいかなることをし出でたまはむとするにかなど思 になるのならともかく、とんでも ないこととよく分っているのに。 ふにつけて、身のいと心憂きなり」とて、返り事も聞こえたまはずなりぬ。 ニ六宮は、自分 ( 浮舟 ) が宮を頼っ ニ九 宮、かくのみなほうけひくけしきもなくて、返り事さへ絶ているように言われるので。 〔三一〕匂宮厳戒下の宇治 毛宮はどんな非常手段に出るか。 三 0 に赴くが浮舟に逢えず え絶えになるは、かの人のあるべきさまに言ひしたためて、夭わが身の悲運を繰り返し思う。 ニ九まだ浮舟が承知する様子もな く。以下、匂宮の心中。 すこし心やすかるべき方に思ひ定まりぬるなめり、ことわりと思すものから、 三 0 薫が適当に言い含めたので、 いと口惜しくねたく、さりとも我をばあはれと思ひたりしものを、あひ見ぬと幾分でも安心できそうなほうに、 浮舟の心が決ったのだろう。 だえに、人々の言ひ知らする方に寄るならむかしなどながめたまふに、行く方三一浮舟がこの私を。匂宮の自信。 ニ六 ふみ 一九 ニ四 けしき ニ七 かた