可能性 - みる会図書館


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1. リング

187 ても、東京に帰ってからこっそりと実行に移すことだってできる」 嫌な予感が強まった。実は、浅川自身、このことにふと考え及んだことがあったのだ。 : つまり、もしオマジナイが実現不可能なことであったらどうしようと。 「実現不可能であったから、信じないことによって自分を納得させてしまったというわけ 浅川がその時思い浮かべたのはこんな喩えであった。何者かに殺された女が、現世にメ ッセージを残し、人の手を借りて自分の恨みを晴らそうとしている : 「おまえが何を考えているかわかるぜ、オレには。どうする ? もし、そうだったら」 もし、ある一人の人間を殺せという類の命令が込められているとしたら、自分の命を救 うために見ず知らずの人間を殺すことができるかどうか : : : 、浅川は自問した。それより も問題なのは、もしそうなった場合、オマジナイを実行するのはだれかということ。浅川 は頭を強くふった。こんなばからしいことを考えるのはやめろと。今はただ「山村貞子」 なる人物の望みが、だれにとっても実現可能なものであることを祈る他ない。 グ島の輪郭がはっきりし、元町港の桟橋が徐々にたぐり寄せられてくる。 「なあ、竜司。頼みがある」 浅川は声に力を込めた。 「なんだ ? 」 「もし、オレが間に合わなくて、つまり : : : 」浅川は死という言葉を口にしたくなかった。 たぐい

2. リング

「なあ、よく考えてみろ。オレたちの将来にはなあ、確実なものなんて何もねえんだ。常 に、あやふやな未来が待ち構えている。それでも、おまえは生きていくだろ。あやふやだ という理由だけで生命活動を停止することはできねえ。可能性の問題よ。オマジナイ 山村貞子の望むものはもっと他にあるのかもしれない。しかし、彼女の遺骨をここから拾 のろ い出すことによってビデオに込められた呪いそのものが消失する可能性だって高い 浅川は顔を歪め、声を出さずに叫んだ。 そろ ・ : 閉ざされた空間と水と死に至るまでの時間だと ? この三つの条件が揃った場合も 0 とも強い怨学が残 0 てしまうだと ? 三浦とか 0 ていうインチキ学者のそんな戯一言が真 実だという根拠が一体どこにあるフ 「さあ、わかったら、おまえ、下に降りろ : わかってねえ、オレにはそんなことわからねえよー 「ぐずぐずしてる場合しゃないだろ。おまえの締め切り時間はすぐそこだそ 竜司の声が次第に優しくなっていった。 「戦わずに人生を乗り切れると思うなよ」 ハカヤロ ! てめえの人生観なんて聞きたくもねえ。 浅川はそれでも井戸の縁から身を乗り出していった。 「そうだ、やっとその気になったかい」 浅川はロープにしがみついて井戸の内側にぶら下がった。竜司の顔がすぐ目の前にある。 ゆが

3. リング

177 してても目立つものなんだ。それを、みすみす三浦さんのネットワークが見逃すとは思え ねえ」 : 可能性はある。確かに浅川も認めざるを得ない。ファイルをめくる指に力が入る。 「ところで、オレはなぜ一九六〇年のファイルから調べてるんだ ? 」 浅川はふと思いついて、頭を上げた。 「ビデオテープの中にテレビが一台映っていただろ。あれは、かなり古い型だ。五〇年代 から六〇年代の初めの、テレビ草創期の頃の」 「だからって、なにも : : : 」 「うるせえな、可能性の問題だって言ってるだろ さっきからなにを苛ついているのだと、浅川は自分を戒めた。しかし、無理もなかった。 時間が制限されている上に、この膨大なファイル。落ち着いてるほうが余程不自然だ。 その時、浅川はファイルの中に伊豆大島という文字を目にした。 「おい、あったそー のぞ グ鬼の首でも取ったような叫び方であった。竜司はびつくりして振り向き、覗き込む。 ・ : 伊豆大島、元町。土田昭子。三十七歳。六〇年二月十四日の消印。黒地に白い稲妻 のようなものが走った白黒の写真が一枚。その解説には、「十という文字を念写する旨書 ぎ送ったところ、この念写を得る。擦り替えた跡なし」とある。 「どうだ ! 」

4. リング

139 「なあ、エイズが文明社会に登場した時のこと覚えているかい ? 最初、アメリカの医者 は何が起こっているのかわからなかった。ただ、出会ったこともない症状で死ぬ奴を見て、 妙な病気が起こっているらしいという予感を抱いたたけだ。ェイズという名前で呼ばれ出 : な、そういうこともある」 したのは、発生してから二年ばかりたってからなんだぜ。 たんな 丹那断層を境にしてその西側の山間部では、熱函道路の下方に。ほっぽっと民家が散在す るだけであった。そこから南を仰げば、現実感の希薄な高原、南箱根パシフィックランド。 この地にて、目に見えぬなにかが進行しているというのか。実際、原因不明の突然死が多 おもてざた 数生じているにもかかわらず、表沙汰になってないだけかもしれない。ェイズだけではな 。日本で最初に発見された「川崎病」は、約十年もの年数をかけて新しい病気としての 地位を築いていったのだ。怪電波が飛び、偶然ビデオに収録されてから、まだ一ヶ月半。 症候群として認知されるに至ってない可能性は充分にある。もし浅川が、姪を含む四人の 死に共通なファクターを見つけていなかったら、未だこの「病気」は地下に眠ったままで あったろう。そう考えるほうがより恐い。「病気」としての地位を確立するのは、常に数 グ百数千という犠牲者が出てからのことだ。 ン「あのあたりの住民一戸一戸にあたっている暇はないな。ところで、竜司、もうひとつの 可能性は ? 」 「もうひとつ。映像を見た人間は例の四人とオレたち以外には存在しないということ。な あ、これを偶然に録画したという小学生のガキ、地方に行くと周波数が変わるってことを やっ

5. リング

129 とはまずあり得ない。少なくとも浅川には、音楽用カセットテープだろうが、ビデオテー プだろうが、そのケースだけを捨てた経験はなかった。 「お宅、ビデオテープをケースに入れて保管していますか ? 「ええ、もちろん」 から 「まことに恐れ入りますが、そちらに空のケースがひとっ余ってないかどうか、調べても らえないでしようか」 「はあ ? 」 間の抜けた声であった。質問の意味は理解できても、その奥にある動機がわからず、行 動を鈍らせてしまっている。 「お願いします。 : : : 実は、人の命がかかってるのです」 特に家庭の主婦の場合、人の命うんぬんには弱い。手間を省いて行動に走らせたい場合、 この言葉は充分なインパクトを持つ。しかも、浅川は嘘を言っているのではない。 「ちょっと、お待ちください」 グ 思った通り、声の響きが変わった。受話器を置いたあと、かなりの間があった。もしケ ン ースも一緒にビラ・ロッグキャビンに忘れてきたとすれば、あの管理人に捨てられている 。声が戻った。 リだろう。しかし、そうでなければ、金子宅に残っている可能性が高い 「中身のカラのケースですね ? 」

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210 「心臓麻痺、今で言うところの急性心不全ってやつですよ。公演が迫ってかなり無理して ましたからねえ、疲れがたまってたんだと思います」 「山村貞子と重森の間に何があったのか、結局だれも知らないのですねー 吉野が念を押すと、有馬は大きくうなずいた。なるほど、これだけの原因があれば、山 村貞子の印象が強烈に残るのも無理はない。 「その後、彼女は ? 」 「やめましたよ、うちの劇団にいたのは、一年か一一年だと思ったけど 「ここをやめて、どうしました ? 「さあ、そこまではちょっとわかりません」 「ふつうの人はどうするんです、劇団をやめた後・ : やっ 「やる気のある奴は他の劇団に入り直しますよ」 「山村貞子の場合はどうでしようかね 「なかなか頭もよかったし、演技の勘も悪くはなかった。でも、性格的に欠陥があったか らねえ、ほら、この世界、ようするに人と人との関係でしよ。彼女のような性格だとちょ っと合わないんじゃないかな」 「つまり、芝居の世界から足を洗った可能性もある ? 「ま、なんとも一一一口えませんがね 「彼女のその後の消息を知っている人、いないですかねえ まひ

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214 浅川は怒りをどこにぶつけていいかわからない。 : こんなところに来るんじゃなかった。毎ゃんでも毎やみきれない、しかし、どこま さかのぼ で遡って後悔すればいいのか、あんなビデオなど見るべきじゃなかった、大石智子と岩田 秀一の死に疑念をはさむべきじゃなかった。あんなところでタクシーを拾うんじゃなかっ た。ええい、クソったれー 「おい、落ち着けっていうのが、わからねえのかい ? 早津さんに文句言ったって仕方ね えだろうが」 妙に優しく竜司は浅川の腕を握った。「考えようによっちゃあよお、オマジナイの実行 はこの島でなければできないかもしれないだろ。な、そういう可能性だってある。例の四 人のガキどもがなぜオマジナイを実行しなかったか : : : 、大島まで来るゼニがなかったか ら : ・ : 、な、有り得るだろ。この嵐を恵みの風と考えてみろや。そうすりゃあ、気分も治 まる」 「それは、オマジナイを発見してからのことだろう ! 」 浅川は竜司の手を振り払った。いい年をした男がふたり、オマジナイオマジナイと騒い でいるのを見て、早津と妻のふみ子は顔を見合わせたが、浅川にはふたりが笑っているよ うに見えた。 「なにがおかしいんですか ? ふたりに詰め寄ろうとした浅川の手を、竜司は以前よりも強く引いた

8. リング

を夢中で引きちぎろうとする智子の姿を思い浮かべるたびに、目に見えないモノの影を想 たと 像した。そして、彼女を駆り立てた喩えようのない恐怖を。 「わからねえな。おまえさんよお、先入観を持ち過ぎてるんじゃねえか。どんな事件だっ て、共通点を捜そうと思えば何かしら見つかるものだ。ふたりともようするに心臓の発作 で死んだってことだろ。なら、苦しかったはずだ。頭かきむしったり、夢中でヘルメット を取ろうとしたり : : : 、案外、普通のことじゃねえのか」 その可能性もあると認めながら、浅川は頭を横にふった。簡単に言い負かされるわけに をい力ないのだ。 「編集長、胸ですよ、胸、苦しかったのは。どうして、頭をかきむしる必要があるんです 「おまえさん、心臓の発作を起こしたことあるのかい ? 」 : ないですよ 「じゃ、医者に聞いたのかい ? 「何を ? 」 「心臓発作を起こした人間が頭をかきむしるかどうか 浅川は黙る他なかった。 , を : そりや、 彼よ実際に医者に聞いていた。医者はこう答えた。 ないとも限りませんねえ。あやふやな答えであった。逆の場合はありますがね つま りクモ膜下出血や脳出血の場合、頭が痛くなると同時にお腹のあたりが気持ち悪くなるか か」

9. リング

123 : 見ようと思えば今すぐにでも再生できる。おまえにはそれができるのだ。いつもの ように、くだらねえと笑い飛ばして、あそこのデッキにこいつを押し込めばいいじゃねえ か。やれよ、さあ、やってみろよ。 小栗の理性は自分の肉体に命令を下す、 : : : こんな馬鹿なことはあり得ないんだから、 さっさと見ちまえと。見ることは、ようするに浅川の言葉を信じないということだろうが。 冫ししか、よく考えてみろよ、見ることを拒めば、こいつのヨタ話を信じることにな 逆こ、 おび るんだぜ。だから、さっさと見てしまえ。おまえは現代科学の信奉者だろう。幽霊に怯え るガキじゃあるまいし。 実のところ、九十九パーセントまで、小栗はこの話を信じてはいなかった。しかし、心 の奥にほんの少し、ひょっとしたらという思いがあった。ひょっとして、本当だったら : 、世界にはまだ現代科学の及ばない領域があるのかもしれないと。その危険性がある限 いくら理性が働きかけたところで、肉体は拒否するに決まっている。現に、小栗は椅 や、動けなかったのだ。頭での理解以上に、体が 子に座ったまま、動こうともしない。い グ いうことをきかない。危険の可能性が少しでもある以上、肉体は正直に防衛本能を働かせ ンる。小栗は顔を上げ、乾ききった声で言った。 「で、どうしてもらいたいんだね、君は ? 」 ・ : 勝った、と浅川は確信した。 「今の仕事からはずしてください。このビデオに関して徹底的に究明したいんです。お願

10. リング

119 残り時間はあと五日」 竜司は片手を広げた。 「わかった 「どこかでな、悪のエネルギーが渦を巻いているんだ。オレにはわかる。懐かしい香りが するもんな」 念を押すようにそう言うと、竜司はダビングしたテープを胸に抱えて玄関に立った。 「次の作戦会議はおまえの部屋でやろう 浅川は低い声で、はっきりと言う。 「わかった、わかった 竜司の目が笑っていた。 竜司が帰るとすぐ、浅川はダイニングルームの柱時計を見た。結婚のお祝いに友人から もらったもので、ちょうちょの形をした赤い振り子が揺れている。十時二十一分 : : : 。今 グ日一日、何度時計を見たことだろう。とにかく、時間が気になってならない。竜司が言っ た通り、夜が明ければあと残された期限は五日間。果たしてそれまでに消された個所の謎 がん ほとん を解明できるかどうか。成功の可能性の殆どない手術を前にした癌患者の心境であった。 浅川はこれまで、癌は告知すべきであると考えていた。しかし、こんな精神状態が続くと すれば、やはり知りたくないなと思う。人によっては、死を前にして生命を完全燃焼させ