場所 - みる会図書館


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1. リング

しかたにテンポがある。山村貞子がひそんでいる場所を捜していたわけでもないのに、あ れよあれよという間に彼女の身にふりかかった災難と、その埋葬場所が明らかになってし まったのだ。だから竜司から「大き目の金物屋の前で車を止めてくれ」と言われた時、浅 日は、ああこいつもオレと同じことを考えているなと安心した。それがどれ程苦しい作業 になるのか、浅川にはまだ想像できなかった。もし完全に埋められてなかったら、ビラ・ ロッグキャビンの周辺から古井戸を発見することはそう難しくはない。そして、井戸の場 所がわかれば、その中から山村貞子の遺骨を拾い出すこともたやすい。すべて簡単なこと のように思われたし、そう思いたかった。午後一時の日差しが温泉街の坂道に反射して眩 しい。平日ののんびりした街のムードと、この眩しさが、浅川の想像力を濁らせていた。 たった四、五メートルの深さではあっても、狭い井戸の底は光溢れる地上とはまるで違う 世界を形成していることに、浅川はまだ気付かない。 きやたっ 西崎金物店の看板が目に入って、浅川はブレーキを踏んだ。店先に並んだ脚立や芝刈り そろ 機から、必要なものは全部この店で揃うだろうと確信できる。 グ「買う物はおまえに任せるよ」 ンそう言い残して、浅川は近くの電話ポックスに走った。ドアの手前で立ち止まってカー ド入れからテレホンカードを一枚抜き出す。 「おい、呑気に電話かけてる場合じゃねえだろ 竜司の文句は、浅川の耳に届かない。竜司はぶつぶつ呟きながら店に入り、ロープ、 259 のんき つぶや あふ まぶ

2. リング

159 に質問攻めにすることもなく、妙に黙り込んだまま自分なりに察してしまったらしい。ど ぬぐ のような解釈に達したのか知るよしもないが、不安感は拭えないらしく、朝の連続ドラマ を見ながら何度も腰を浮かせかけて、外の音に敏感に反応していた。 「一切、このことには触れるな。オレ自身、どう答えていいのかわからないんだよ。とに かく、オレに任せろ」 静の不安を押さえるため、浅川はそう言う他なかった。決して、弱気な姿を妻の前にさ らしてはならない。 まさに家を出ようとしたちょうどその時、電話が鳴った。竜司からである。 「おもしろい発見があるんだ。おまえの意見をぜひ聞きたいー 竜司の声は少し興奮気味である。 「電話では無理かい ? 実は、今、レンタカーを取りに行くところなんだ」 「レンタカー ? 「電波の発信場所を捜してこいと言ったのはおまえだろ」 グ「なるほどね。まあ、そっちのほうは放っておいて、とにかくすぐに来いよ。ひょっとし ンたら、アンテナなんて捜す必要がなくなるかもしれねえ。前提そのものが崩れちまう : かもネ」 南箱根パシフィックランドに行く必要が生じた場合、彼の部屋からそのまま直行できる ように、浅川はレンタカーを借りた上で竜司の部屋に寄ることにした。

3. リング

リング 「北品川まで : : : 」 行ぎ先を聞いて、木村は小躍りしたい気分になった。北品川は会社の倉庫のある東五反 田のすぐ先で、そろそろ帰庫しようとしていた木村の進行方向と同じである。タクシード ライバーが仕事のおもしろさを実感するのは、自分の読みに従って流れがうまくつながっ じようぜっ た時だ。木村はいつになく饒舌になった。 「これから取材ですか ? 」 疲れのせいで充血した目を窓の外に向け、ぼうっと考えごとをしていた浅川は「え ? 」 と聞き返した。自分の職業をなぜ知っているのだろうと、疑問に思いながら。 「お客さん、新聞記者じゃないんですか」 「週刊誌のほうだけど、よくわかりますねえ」 二十年近くタクシーに乗っている木村は、乗せた場所や服装、言葉遣いから、ある程度 客の職業を推測することができた。一般的に人気のある職業に就いて、しかもそれを誇り に思っている客の場合、仕事に関係した話題にはすぐ乗ってくる。 「たいへんですねえ。こんな早くから」 「いや、逆です。今から帰って寝るところですよ 「あ、じゃあ、わたしと同じだ」 普段の浅川には仕事に対する誇りなどなかった。しかし、今朝は、初めて自分の記事が 、リーズをようやく終え、 活字になった時の、あの満足感を取り戻していた。ある企画のゾ

4. リング

ここにあるのだ。とすると、残りの三人の家族と連絡を取れば、ひょっとして、野々山の 住尸が判明するかもしれない。今晩さっそく電話するべぎだ。もしそれで手がかりが得ら れなかったら、このカードが四人に共通の時と場所の提供者であるという可能性は薄くな る。しかし、野々山にはどうしても会って話を聞きたかった。いざとなったらパシフィッ ク・リゾートの会員番号から住所を割り出す他ない。おそらく、直接会社に問い合わせて じゃ も簡単には教えてくれないだろうが、蛇の道はヘび、新聞社のコネを使えばどうにでもな る。 ・ : あなたあ。子供の泣き声 誰かが浅川を呼んでいた。遠くからの声、 : : : あなたあ、 に混ざり、妻の声はオロオロしていた。 「ねえ、あなたあ、ちょっと来てくださらない」 浅川は我に返った。ふと、今まで、自分が何を考えていたのかもわからなくなった。ど ことなく娘の泣き方が異常である。階段を上るほどに、その思いは強くなった。 「どうしたんだフ とカ グ浅川は妻を咎めるように言った。 ン「おかしいのよね、この子。どうかしちゃったみたい。泣き方がいつもと違うの。ねえ、 病気かしら」 浅川は陽子の額に手を当てた。熱はない。しかし、小さな手が震えている。その震えが 体全体に伝わり、時々ビクン。ヒクンと背中を揺らせている。顔は真っ赤で、両目ともぎゅ

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257 一方で彼女の肉体の消滅を望み、一方では肉体が傷つくのを惜しんでいたのだ」 語り終わった長尾の前に、浅川は一枚のプリントを差し出した。南箱根。ハシフィックラ ンドの配置図である。 「その井戸は、この図のどこに位置するんだ ? 」 浅川は勢い込んで尋ねた。長尾はその図の意味を理解するのに少々手間取ったが、かっ て療養所のあった場所にレストランがあることを教えられると、その位置関係から土地勘 を取り戻していった。 「このあたりだと思う」 長尾はおおよその場所を指差した。 「間違いない。。 ヒラ・ロッグキャビンのある場所だ」浅川は立ち上がって言った。「さあ、 いくそ ! 」 しかし、竜司は落ち着いていた。 グ「まあ、そう慌てなさんな。オレたちはまだこのおっさんに聞きたいことがある。なあ、 ンあんた、そのナントカって症候群 : こうがん 「睾丸性女性化症候群ー 「の女は、子供を産むことができるのか ? 」 長尾は首を横にふった。

6. リング

それ以外、一体なんと言ったらいいのか。意味不明なシーンの連続、しかし、たったひ とつだけ理解できたのは、コレを見た者はちょうど一週間後に死ぬということ。そして、 それを避ける方法が記されている個所が、テレビのによって消されてしまっているこ と。 : だれが消したんだ ? この四人かフ 顎ががくがくと震えた。もし、四人の若者たちが同時刻に死んだことを知らなければ、 こんな馬鹿なことがと笑い飛ばすことができただろう。ところが、彼は知っている、言葉 通り、四人が謎の死を遂げたことを。 その時、電話が鳴った。浅川はその音に心臓が飛び出す思いであった。受話器を取って 耳にあてる。ナニモノかが身をひそめ、じっと闇の中でこちらをうかがっている気配がす る。 「 : : : もしもし」 浅川は、震える声でやっとそれだけ言った。返事はない。暗く狭い場所で、なにかが渦 グを巻いている。地鳴りに似たゴーツという低い音と、湿った土の匂いがあった。耳もとに ン伝わる冷気に、うなじのあたりが総毛立つのがわかる。胸への圧迫は強くなり、地中深く おも 逾い回る虫が足首や背中にくねくねとまとわりついてくすぐっている。言うに言われぬ想 いと、時をかけて熟成した憎しみが、受話器の中を伝ってすぐそこにまで上ってきた。浅 川はがしゃんと受話器をたたきつけた。ロもとを押さえながら、トイレに走る。背筋を走 あご

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212 ほど美しいにもかかわらず、二十五年という時の流れに浸食され、残った印象は「不気 味」、あるいは「気持ちのワルイ女」。本来なら、「素晴らしく美しい女だった、と言うの が普通だろう。吉野は、明らかな特徴を押しやってまで顔を覗かせる「不気味ーさの正体 に、強く興味をそそられた。 十月十七日水曜日 吉野は、表参道と青山通りの交差点に立って、もう一度手帳を取り出した。 南青山六ー一、杉山荘。それが、二十五年前の山村貞子の住所であった。番地とアパ ト名とのアイハランスさに、吉野は絶望的な気分を味わっていた。通りを曲がって、根津 美術館のすぐ横のプロックが六ー一であるが、吉野が心配した通り、杉山荘なる安アパ トがあったはずの場所には、豪壮な赤レンガのマンションがそびえていた。 ・ : どだい無理な話さ。二十五年前の女の足取りなんて、わかるわけねえ。 あと残る手がかりは、山村貞子と同期で入団した四人の研究生。貞子と同期で入った七 人のうち、どうにか連絡先がわかったのは四人だけであった。彼らが貞子の消息に関して 何も知らなかったら、完全に糸は途切れてしまう。吉野は、そうなりそうな気がしてしか たがない。時計を見ると午前十一時を回っていた。吉野は近くの文房具店に飛び込み、こ のぞ

8. リング

くわかる。浅川はここでも驚かされた。レストランの営業は八時で終わりだけれど、まだ 半分ほどの席がうまっていたのだ。家族連れや、女の子だけのグループ。一体どういうこ とだ。浅川は首をひねった。この連中はどこから来たのだろう。不思議でならない。自分 が今通って来たあの同じ道を通って、ここにいる人々がやって来たとはどうしても思えな いのだ。ひょっとして、今通ってきたのは裏道で、本当はもっと他に明るく広い道がある のではないだろうか。しかし、パシフィックランドの場所を説明して、女は電話ロで言っ : ・熱函道路の中ほどを左に折れて、山道を上ってきてください。 浅川はその通りにした。他の抜け道があるとは考えられない。 オーダーストップを承知で、浅川はレストランの中に入った。広々としたガラス窓の下 には、よく手入れされた芝生がなだらかなカーブを描いて夜の街へと傾斜している。室内 の照明が薄暗く保たれているのは、より美しい夜景をお客に披露するためと思われる。浅 Ⅱは近くを通りかかったポーイをつかまえて、ビラ・ロッグキャビンの場所を聞いた。ポ ーイは、浅川が入って来たばかりの玄関ホールを指差した。 グ ン「そこの道を右にまっすぐ、二百メートルばかり行くと管理人室がございますー 「駐車場はあるの ? 」 「管理人室の前が駐車場になっておりますー なんのことはない。 こんなところに寄らず、まっすぐ進んでいれば、自然と目的の場所

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134 「先生がお帰りになりましたら、お電話差し上げるよう伝えておきます。 : : : 浅川さん、 ですね」 受話器を置いてもなお、女の声は残っていた。柔らかな響きが耳に心地いい。 カーベット敷きのべッドルームからべッドがなくなったのは、陽子が生まれた時であっ た。赤ん坊をベッドに寝かすわけにもいかず、かといって四畳半の部屋ではベビ 1 べッド を置くスペースもない。しかたなく、これまで使っていたダブルべッドを捨て、その代わ りに布団を上げ下げすることにした。二組敷かれた布団の空いたスペースに、浅川はもぐ そろ り込んだ。三人揃って寝る場合のみ、三人の寝場所は決まっていた。静と陽子の寝相はあ まりに悪く、眠りに落ちて一時間もすれば最初の位置から大きく移動している。ために、 後からもぐり込む浅川はいつも空いたスペースを捜さざるを得ない。もし浅川がいなくな ったら、その分のスペースを埋めるのにどれほどの時間がかかるだろう。静が再婚相手を すきま 見つけるという意味ではない。人によっては、配偶者を失うことによって生した隙間を永 久に埋めることのできぬ者もいる。 ・ : 三年、三年というのが妥当な線じゃないだろうか。 実家に戻り、両親に娘の面倒を見てもらいながら仕事に出る静の顔が、それなりに生き生 きと輝いていることを浅川は無理にイメージした。女は強くあってほしかった。自分がい なくなった後、共に生き地獄に堕ちる妻と子を想像するのは、耐えられないことであった。 五年前の、千葉支局から本社出版局に移ったばかりの頃、浅川は同じ新聞社系列の旅

10. リング

神的に疲れる場合が多い。 浅川は四階の資料室に向かった。明日のインタビューの下調べもあったが、それ以上に 気に掛かることがあった。興味深い二つの事故を結ぶ客観的な因果関係。ふと頭に浮かん だのだ。どこから手をつけていいかわからなかったが、俗物社長の声を頭から振り払った すきま 隙間にすっとさし挟まれた疑問。 ・ : 果たして、九月五日の午後十一時前後に生じた原因不明の突然死はこの二件だけな のだろうか ? そうでなければ、つまり他にもこれと同様の事件が起こっているとしたら、偶然である 確率はより一層ゼロに近づく。浅川は九月初旬の新聞に目を通してみることにした。商売 柄、新聞は丹念に読んではいる。しかし、社会面の記事などは見出しだけ目を通してさっ とページをめくってしまうことが多く、何かを見落としている可能性が充分にあった。そ んな予感がした。引っ掛かることがある。一ヶ月ばかり前、社会面のほんの片隅に奇妙な 見出しが載っていたような気がする。掲載されたのは左下の小さなスペースで : : : 、載っ グた場所だけは覚えている。見出しを読んでおやっと思ったが、「おい、浅川」と呼ぶデス ンクの声に振り向き、そのまま忙しさに紛れて読みかけのままになってしまったのだ。 浅川は九月六日の朝刊から調べ始めた。必ず手がかりを発見できるという確信があり、 宝物を捜す子供のように胸をときめかせていた。暗い資料室で一ヶ月近く前の新聞を読む という、ただそれだけの行為にすら、俗物のインタビューでは味わえない精神的高揚感が