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検索対象: アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1
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1. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

たんです。」 きみよう わらごえ 奇妙なかるい笑い声をたてて、彼はことばを切った。その目はいまだに、あるおさえた こうふん ひげきてき 興奮のためにぎらぎらしていた。しかもそれでいて、そのようすには、なにか悲劇的なも のがただよっているのだ。 ゆかい 「いや、なに、とても愉快でしたよ。」サタースウェイト氏は答えた。「きみとお話しした ことは、わたしにとってもひじようにおもしろく、有益でした。」 ていちょう それから彼は、いつもの丁重な、いくらかこつけいなところのある会釈をして、レスト ランをでた。 夜はあたたかく、ゆっくりと通りを歩いてゆきながら、サタースウェイト氏は、ひどく きみようげんそう 奇妙な幻想にとらわれた。自分がひとりではないという感じ だれかがそばを歩いてい さつかく るという感じ。それは錯覚にすぎないと自分にいいきかせようとしてみたが、むだだった。 ひとけ それはしつこくつきまとってきた。だれかがそばを歩いている。その暗い、人気のない通 こんなにもはっき りを、だれか目に見えぬ人物が。いったいなんのしわざなのだろう しすがた りと、自分の心にクイン氏の姿をえがきだしてみせるのは ? 自分のそばをクイン氏が歩 いているーー・・たしかにそんな感じがする。だがそれでいて、あたりを見まわしてたしかめ じんぶつ ゅうえき し えしやく し 182

2. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

もののもっ魅力があって、どんな相手でもーー・どんな男でもそれを見のがすことはあるま し サタースウェイト氏の男性としての一面はそうささやく。 どうじ たぶん だが、女性的な面 ( 彼には多分に女性的な要素があった ) は、同時にもうひとつの問題 そ ふじんかみ かんしん にも関心をいだいているーーーなぜポータル夫人は髪を染めているのだろう ? そ ほかの男ならば、たぶん髪を染めているのには気がっかなかったろう。だがサタース けしよ、つ じよせい ウェイト氏は気がついた。女性の化粧とか、そういったことにはくわしいのだ。それにし そ ても、ちょっとおかしい。黒い髪の女性が金髪に染めることはよくある。しかし、金髪の 女性が、わざわざ髪を黒く染めているのにであったのははじめてだ。 きみようちょっかん し こうきしん 彼女のすべてが、サタースウ = イト氏の好奇心をかきたてた。奇妙な直観が彼に、彼女 簿 ふこう こうふく はひじように幸福であるか、さもなければ、ひじように不幸であるかのどちらかにちがい事 かた ン と語っているーーーだが、どちらかはわからない。そのわからないことが彼をなやま イ きみようえいきようりよく ク せた。さらにふしぎなのは、彼女が夫にたいして奇妙な影響力をもっていることだ。 しむね ( 彼は細君にそっこんまいっている ) と、サタースウ = イト氏は胸のうちでつぶやいた。 ( にもかかわらす、ときどきー・ー、そう、彼女をおそれているようなそぶりを見せる。ひじよ うにおもしろい。なんともはや、たいへんおもしろい。 ) さいくん じよせいてきめん みりよく だんせい かみ かみ おっと いちめん きんばっ ようそ もんだい 109

3. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

車がスビードを落とした。 たくでんわ 「お宅に電話はありますか ? ー彼はたずねた。 「ええ。」 「なんでしたら、わたしがなりゆきをくわしく調べて、お宅に電話してもいいですよ。」 むすめ 娘の顔がばっと明るくなった。 「まあ ! それはご親切に。でも、ごめいわくじゃありません ? 「いや、ぜんぜん。 じたくでんわばんごう 彼女はまた礼をいって、自宅の電話番号を教え、ややはにかみがちにつけくわえた。 「あたし、ジリアン日ウエストと申します。」 しめい 託された使命をになって夜の町に車を走らせながら、サタースウェイト氏は奇妙な微笑 を口もとにただよわせていた。 彼は考えた。 ( それではこれが、あのことばの意味するところだったんだなーー・「ひとつの顔の形、あご のまるみが : : : 」か ! ) だが彼は約束をはたした。 たく やくそく しんせつ しら たく し きみようびしよう 166

4. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

ポータルはそうとうの酒飲みだ。それはまちがいない。それに、細君が気づいていない きみよう ときに、こっそり彼女を観察しているという奇妙なくせがある。 ( 気がたっている ) と、サタースウェイト氏は思った。 ( あの男は神経をびりびりさせてい さいくん る。細君もそれを知っているが、それをどうにかしようとする気はないらしい。 ) こうきしん お この夫婦にたいして、いよいよ好奇心がわいてきた。なにかが起こりかけているーーーーサ し すいそく タースウェイト氏には推測できないなにかが。 おおどけい めいそう そのとき大時計がおごそかに鳴りだして、彼の瞑想をうちゃぶった。 あ 「十二時だ」と、イヴシャムがしナ 、つこ。「新しい年が明けた。新年おめでとう、諸君。じっ お をいうと、あの時計は五分すすんでいるんだがね。子どもたちも、もうわずかだから、起 きていて、新年をむかえればよかったのに。」 「あの子たちがほんとにべッドにはいったなんて、あたくしはこれつばかりも信じちゃい ・ローラがおちつきはらっていった。「きっといまごろは、おとな ませんよ」と、レディー たちのべッドのなかに、ヘアブラシやらなにやらをかくしているにちがいありません。そ ういういたずらが大好きなんです。なぜでしようね ? あたくしたちの子どものころは、 とうていそんないたずらはゆるされなかったものでしたけど。」 ふうふ さけの かんさっ し しんねん しんけい さいくん しよくん 110

5. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

大晦日の夜だった。ロイストン荘のホーム・ ーティーに出席した客たちは、全員、大 ひろま 広間にあつまっていた。 きやく 客のひとり、サタースウ = イト氏は、子どもたちが寝てしまったのでほっとしていた。 にがて しゅうだん おおぜいの子どもにわいわいさわがれるのは、どうも苦手だった。集団ともなると、子ど みりよく そんざい もは魅力のない、そうそうしい存在になる。繊細さにも欠ける。年をとるにつれて、サター にんじようきび スウェイト氏は、人情の機微というものを愛するようになっていた。 サタースウ = イト氏は六十二歳・ーーやや猫背で、干からびた感じである。人をうかがう きみよう かんしん ような顔つきが、奇妙に小鬼じみていて、他人の人生になみはずれた強い関心をもってい しようがい かんきやくせきさいぜんれつ る。生涯をつうじて、いわば観客席の最前列で、目のまえにくりひろげられるさまざま おおみそか と、つじ、よ、つ 日クイン登場 し こおに そう し ねこぜ たにんじんせい せんさい しゆっせき きやく ぜんいんおお 106

6. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

きんちょうかんへや もぞう でみんなの目の前にあるのに、見たところは、ただの模造ダイヤにしか見えない。たしか にうまい考えだったと思うわーーだれも気がっかなかったもの。」 「さあ、どうかな。」スタイン氏がいった。 「え、なにかいったかね ? 」 し うらおもて とがねちゅうしんあな ポインツ氏がバッグをとりあげると、裏表をあらためた。たしかに留め金の中心に穴が ねんど あり、そこに粘土のかすがこびりついている。彼はのろのろといっこ。 「落ちたのかもしれん。もういちど、よくさがしてみましよう。 きみよう あらためて捜索がおこなわれたが、こんどは、みんな奇妙にだまりこくったままだった。 緊張感が部屋じゅうにみなぎっていた。 けつきよく、全員がつぎつぎと立ちあがって、つっ立ったままたがいに顔を見あわせた。 「この部屋にはないな。」スタインがいった 「そして、この部屋からでたものはひとりもいない。 ジョージ卿が意味ありげにいっこ。 ちんもく ちょっと沈黙があって、それからイーヴがわっと位きだした。 かた 父親が彼女の肩をたたいて、「さあさあ、泣くんしゃない」と、無器用になぐさめた。 きよう ジョージ卿がレオスタインにむきなおった。 そうさく ぜんいん し な な きよう ぶきよう 218

7. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

にりゅう も、二流の声でしかないことをはっきり見ぬいていた。いままでに彼女が、歌の世界で多 しようせいこう ようばう 少の成功をおさめてきたとすれば、それは、声ではなく、容貌がかちとったものにほかな るまい。 と ~ 、こヾ、 ーンズに会いたいという気持ちもなかったので、しばらくするとサタースウェ し じきょ イト氏は、辞去するために立ちあがった。 だんろ そうしよくひん このときはじめて、暖炉の上にのっている装飾品が目をひいた。それは他のがらくたの ほうせき ゅうびだい なかにあって、ごみの山の上の宝石のようにきわだっていた。脚の長い優美な台つきの大 みどりいろ さかずきで、うすい緑色のガラスでできている。ふちに大きなシャポン玉のような、虹色 のガラスの球がのっている。見とれていると、ジリアンがそれに気づいて、いっこ。 けっこんいわ 「それもフィルの贈りものですのよ。結婚祝いにそえてきたんですけど、なかなかきれい でしょ ? あのひと、ガラス工場のようなところではたらいていますの。」 し ゅうめい 「美しいものですな。サタースウェイト氏は、うやうやしくいった。「有名なヴェネチア しよくにん じまん のガラス職人だって、これなら自慢するでしよう。 きみよう 彼は外にでながら、奇妙にフィリツ。フィーストニ ーにたいする興味がかきたてられる せいねん びばうむすめ のを感じた。じつに興味ぶかい青年だ。だがそれでいて、あのすばらしい美貌の娘は、 うつく たま おく こうじよう きようみ た にじいろ た 176

8. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

彼はただあっさりとこういっこ。 じっさい 「いつも思っているんですがねーー・ああいう女性たちは、実際にはどんなふうだったんで しよう ? ・」 「というと ? 」 「トロイのヘレンとか、クレオ。ハトラとか、メアリ日スチ = アートといった女性ですよ。」 し しあん クイン氏は思案げにうなずいた。 「外にでてみればーーーわかるかもしれませんよ。」 たんさく ふたりづ 二人はつれだってロビーへでた。探索はむくわれた。さがしていた二人連れは、階段を きゅうけいじよ 半分あがったところにある休憩所にすわっていた。このときはじめて、サタースウェイト 簿 むすめつ ちゅうもく くろかみ 氏は、娘の連れの男に注目した。黒髪で、色あさ黒く 、ハンサムではないが、気まぐれな事 ふんいき の せいねん みよう ン 炎を思わせる雰囲気をもった青年だ。顔は妙にごっごっしていて、とびだしたほお骨、 イ りようがん ク がっしりした、わずかにつきでたあご、くぼんだまなこーーーそしてその両眼は、黒い秀で きみよう たまゆの下で、奇妙に明るくかがやいている。 ないしん ( 興味ぶかい顔だ。 ) サタースウェイト氏は内心で考えた。 ( ひたむきな顔だ。なにかあり そうだな。 ) ほのお し きよ、つみ じよせい じよせい かいだん 157

9. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

きみよう クイン氏は笑った。それは奇妙な笑いだった。あざけるような、それでいて悲しけな笑 いちどう いだ。それは一同をぎくりとさせた。 「申しわけありません。」彼はいった。「しかし、イヴシャムさん、あなたはまだ過去に生 せんにゆうかん きておられる。まだ先入観にとらわれておいでになる。ですがわたしはーーー部外者であ じじっ り、とおりがかりの人間にすぎない。わたしはただーーー事実だけを見ます。」 じじっ 「事実を ? 」 「さようーー事実をです。」 「どういう意味です ? 」イヴシャムがいった じじっ 「みなさんの話された事実と事実をつなげると、全体がひとつづきのものとして見えてき 簿 ます。みなさんはその意味するものに気づいておられない。十年まえに立ちかえり、そこ事 の いけんかんしようさゆう ン に見えているものを見てごらんなさいーー個人的な意見や感傷に左右されない、あるがま イ ク まの事実を。 ちょうしん いちどう すがた クイン氏は立ちあがった。一同の目には、その姿がひじように長身に見えた。その背後 だんろ では、暖炉の火がちらちらおどっている。低い、おさえつけるような声で、クイン氏は話 しだした。 し わら し ひく こじんてき かな ぶがいしゃ 141

10. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

きんちょう せいしんてき 精神的な緊張のために、深くそれが心に焼きつけられてしまったからなんですな。それ かべがみもよう も、ごくとりとめのない、ちつ。ほけなこと たとえば壁紙の模様とかーーーそれでいて、 けっしてわすれることはないのです。」 「あなたの口からそういう話がでるとは、おどろきましたな、クインさん」と、コンウェ イがいった。「というのも、いまあなたが話しているうちに、ふいにわたしは、またデレ し クケイベルの部屋にもどったような気がしてきたんです。デレクが床にたおれて死んで かげ いるーーー窓の外には、はっきりと大きな木が見えるーー・そしてその木の影が、戸外の雪の 上にうつっている。そう、月光だ、それに雪、木の影ー・ー・いまでもありありと目にうかん できますよ。絵に描こうと思えば描けるくらいだ。だがそのくせそのときは、それを見て いしき いるなんてことは、ぜんぜん意識していないんです。」 し げんかん まうえ 「そのケイベル氏の部屋というのは、玄関の真上の大きな部屋でしたな ? 」クイン氏がた ずねた。 「さよう。そしてその木というのは、あのぶなの大木ですーーーちょうど車回しの曲がり角 にあるやつです。」 し まんぞく きみよう クイン氏は満足げにうなずいた。それを見たサタースウェイト氏は、奇妙なおののきを まど げつこう や たいぼく かげ ゆか くるままわ こがい ま し かど 136