女房 - みる会図書館


検索対象: 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩
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1. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

ふた あちらこちらから女房の縁をたどっては参上して、拝観する見えである。氷を何かの蓋に置いて割ろうとして騒いで めのわらわ からぎぬかぎみ る人が多いのであった。 いる人々ーー女房三人ほどと女童とがいる。唐衣も汗衫も 五日目の朝座で法会も終って、御堂の飾りつけを取り払着用せず、いずれもくつろいだ格好なので、よもやそこが 語 ひさしまふすま 物ってお部屋の模様替えをするために、北の廂の間も襖を取姫宮の御前であろうとはお思いでなかったところが、白い 氏 り払ってあったので、人々がみなはいり込んでかたづけて薄物のお召物を着ていらっしやる人が、手に氷を持ったま 源 わたどの いる間、姫宮は西の渡殿にいらっしやるのだった。聴聞に ま、皆がこうして言い合っているのをごらんになってはい つばねさが くたびれて、女房たちもめいめい局に退っているので、姫 くらか笑みをたたえておられる、そのお顔が言いようもな 宮のおそばのまったく人少なになっているタ暮に、大将殿 く美しく見える。今日はまったく暑くてたまらない日なの のうし みぐし は直衣をお召し替えになって、今日退出する僧の中にぜひ で、ふさふさとたくさんの御髪をうるさくお感じになるの つりどの 仰せになりたいご用があるので釣殿のほうへおいでになっ だろうか、少しこちらのほうになびかせて長く垂してある たところ、法師たちは誰もみな退出してしまっていたので、様子は、何にもたとえようがない。大将は、これまで多く 池に面した所で涼んでいらっしやると、このあたりは人けの美しい女人を見ているけれど、とてもこのお方には比べ きちょう がなくて、先刻の話の小宰相の君などが、かりそめに几帳られようもなかったな、と思わずにはいられない。御前に などぐらいを間仕切りに立てて休息のための上局にしてい 控えている女房たちは、まったくのところ土くれかなんそ きめ る。小宰相はここにいるのだろうか、衣ずれの音がするが、 のような感じであるのを、じっと気持を落ち着けて目をや めどう すずしひとえ とお思いになって、馬道のほうの襖が細く開いている所か ると、黄色の生絹の単衣に薄紫色の裳をつけている女房が ら、そっとのそいてごらんになると、いつもこうした女房扇を使っている様子などは深い心づかいがありそうだと、 たちがいるときのような様子とはちがって、明るくさつば ふとそう感じられるが、「氷は扱いが面倒で、かえってほ りとかたづけてあるので、かえって、几帳をいくつも立てんとに暑苦しく見えます。ただそのままでごらんあそばせ ちがえてある間からずっと見通しがきいて奥のほうまでま よ」と言って笑っている目もとには情味あふれる魅力があ

2. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

( 原文一三八ハー ) 思いよそえることのできる器量であるかもしれない、父宮時代よりもまさってさえいるのだった。兵部卿宮は、、 は八の宮と兄弟なのだから、などと例のご性分とて、亡き ものご性分であったら、この幾月かの間にどんな浮気沙汰 女君を恋しくお思いになるにつけても、女人にはまるで目 を引き起していらっしやったことだろうか、すっかりおと がないというお癖がやまず、なんとかこの女君に逢いたし なしくしておられて、はた目には、よからぬお癖が多少お ものと、お心にかけていらっしやるのだった。大将は、あなおりになったかと思われたのだが、このごろになってま の女君が宮仕え人とは、なんとも気にいらぬ仕儀というも 、本性があらわれて、しきりと宮の君への懸想にあちこ の、つい昨日今日までは、東宮におあげしようかなどとお ちしていらっしやるのであった。 考えになったり、この自分にもそうしたご意向をお漏しに 〔 5 六条院の秋薫、季節も涼しくなったというので、后 女房らと戯れる なったではないか、このようにつまらなく身を落されるく の宮が宮中に帰参あそばすことにな もみじ らいなら、それこそ水の底に身を沈めてしまっても、とやると秋の盛りの紅葉のころをこの六条院で見られないので かく非難すべきではなかろう、などと思い思いしては、誰は、などと若い女房たちは残念に思って、みな集ってまい よりもこの宮の君に同情申しあげていらっしやる。 っているころである。池の上に遊び、月の光を賞でて、管 后の宮がこの六条院に退出していらっしやるのを、宮中絃のお遊びが絶えず催されてふだんよりもはなやいでいる ふぜい よりも広々として風情があり、住み、い地よいように思い ので、兵部卿宮はこうした風流事には格別にうち興じてい いつもきまってお仕えしているのではない女房たちまでが らっしやる。朝にタに見なれていても、やはり今はじめて 蛉 みな気安く住みついては、はるばると遠くまで幾棟も続く 目にする初咲きの花のような風姿でいらっしやるが、一方、 たいのやろうわたどの 対屋や廊、渡殿がいつばいになっている。右大臣殿が、か大将の君は、宮ほどにはそう深くお立ち入りなどはなさら っての故院のご威勢にも劣らず万事至れり尽せりお世話申ないので、女房たちはみな気づまりで油断してはおられぬ 1 しあげていらっしやる。ご立派に栄えておいでになるご一 お方と思っている。いつものようにこのお二方が参上なさ 族であるから、当世風にはなやかな点ではかえって故院の って后の宮の御前にいらっしやるときに、あの侍従は、物

3. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

今にも消え失せてしまうのでは、と危うくも、また恐ろし もう一人の女房が付き添って乗り、道すがらそう急がれも くすり 肪くもお思いになる。女房たちは、「昨夜ここから見えた火せず、ときおり車を止めて薬湯を飲ませてあげたりなさる。 はそんなに仰々しい様子にも見えませんでしたのに」と言 この尼君たちは比叡の坂本に、小野という所に住んでおら 語 物う。「いえ、わざと手軽にして、さほどいかめしい葬式でれるのだったが、そこにお着きになるまではまことに遠い けが 氏 もございませんでした」とこの里人たちは言う。穢れに触道のりである。「こんなことなら中宿りの場所を用意して 源 にわさき ふ れた者たちだというので、庭前に立ったままで帰らせた。 おくのだった」などと言いながら、夜が更けてからお着き そうず 女房たちは、「大将殿は八の宮の御娘のところにお通いで になった。イ 曽都は母尼君の世話をし、娘の尼君はこの誰と いらっしゃいましたが、そのお方がお亡くなりになってか も知らない人を介抱して、それぞれ抱きかかえ車から降ろ らもう何年にもなっておりますのに、どなたのことを一 = ロう しては息を入れる。尼君は、いっともない老いの病とて、 のでしよう。降嫁あそばした姫宮をおさしおき申されて、 苦しいご気分でいらっしやったことだろう、この長旅のあ ひと としばらくの間わずらっておられたけれども、だんだんと よもやほかの女に、いをお移しになることもありますまい うわさ よかわ に」などと噂している。 快方に向われたので、僧都は横川にのばっていかれた。 〔五〕母尼回復し僧都ら母の尼君はまずまずといったご容態〔六〕女依然として意識こうした女人を連れてきたことなど、 かたふた 女を連れて小野へ帰るになられた。方塞がりもあいたので、 不明、妹尼ら憂慮する法師の身としては不都合なことであ こうした忌まわしい所に長らくとどまっておられるのも不るから、その間のことに立ち会っていなかった者には話し 都合とて帰途しつ こく。「このお方はやはりまだいかにも て聞かせることもしない。妹尼君も皆にロどめをさせては、 弱々しい様子です。道中もどうおなりになることか。ほん もしゃ捜しに来る人がありはせぬかと思うにつけても、気 いなかびと とに心配なことです」と一同話し合っている。車二両で、 が気でない。どういうわけでああした田舎人の住むあたり 老人の尼君のお乗りになるほうには、おそばに仕える尼二 にこのような身分ありげな女がさまよっていたのだろう、 人、次の車にはこのお方を寝かせて、その横に妹の尼君と物詣でなどに出かけた人で、病気になったりしたのを、継 ( 原文一五九ハー ) ひと

4. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

一女一の宮づきの女房たち。 「げにいとめづらかなることかな」とて、近くさぶらふ人々みな寝入りたるを、 ニ中宮がお起しになられる。 一いしゃう 三薫が親しくしている、女一の 恐ろしく思されて、おどろかさせたまふ。大将の語らひたまふ宰相の君しも、 宮づきの女房。小宰相。「しも」と 語 物このことを聞きけり。おどろかさせたまひける人々は、何とも聞かず。僧都、強調される点に注意。薫にこの情 氏六 報の伝わる可能性が拓けた。 けしき 四中宮があとからお起しになっ 源怖ちさせたまへる御気色を、心もなきこと啓してけりと思ひて、くはしくも、 た女房たちは。 九 によにん そのほどのことをば言ひさしつ。僧都「その女人、このたびまかり出ではべり五どんな話なのか関知しない。 六中宮のこわがられるご様子を。 つるたよりに、ト 野にはべりつる尼どもあひ訪ひはべらんとてまかり寄りたりセ不用意なことを申したもの。 〈浮舟を発見した当時のことを。 しに、泣く泣く、出家の本意深きよし、ねむごろに語らひはべりしかば、頭お九浮舟。僧侶らしい漢語表現。 一 0 母尼や妺尼を。 一ニゑもんのかみめ をむな ろしはべりにき。なにがしが妹、故衛門督の妻にはべりし尼なん、亡せにし女 = 拙僧の妹。妹尼。 一六六ハー四行。 子のかはりにと、思ひょろこびはべりて、随分にいたはりかしづきはべりける一三それ相応に。これも漢語表現。 一四自分が浮舟を出家させたのを。 かたち を、かくなりにたれば、恨みはべるなり。げにそ、容貌はいとうるはしくけ , っ一五よく整って気品高い美しさで。 身分のある女という印象 らにて、行ひやつれんもいとほしげになむはべりし。何人にかはべりけんーと、一六勤行のために尼衣に身をやっ しているとい、つのも。 ひと 宅身分ある女を、妖怪変化のも ものよく言ふ僧都にて、語りつづけ申したまへば、「いかでかさる所に、よき のがさらって行ったのだろう。 人をしもとりもて行きけん。さりとも、今は知られぬらむ」など、この宰相の天今は素姓も知れていよう。 一九でも、ひそかに素姓を妹尼に 一九 君そ問ふ。僧都「知らず。さもや語らひはべらん。まことにやむごとなき人な打ち明けているかもしれない。 をの 四 ずいぶん 五 そうづ かしら ひと

5. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

いとばかりお思い申している。「いや、気のきかないことわれ、またこの宮に対しては女房たちがすっかりなれなれ しくお打ち解け申しているらしいのも不本意でならない。 3 でした。道をあけることにいたしましよう。とりわけ、あ あして何かご遠慮なさっているのはそのわけがきっとある「宮の熱心で強引なおふるまいに、女のほうはあのように 語 して負かされ申すことになるのだろう。この自分のほうは、 物のでしようから」と言って、大将がお立ち出でになるので、 自分たちの誰もがこのように慎みのない者ばかりだろうと宮との御ゆかりのこととなると、なんとも残念なことにい 源 まいましくつらいことばかりではないか。なんぞして、こ お取りになるのがつらい、と情けながっている女房もいる。 ひと 〔一九〕薫、女房らへの感大将は東の高欄に寄りかかって、折のあたりの女房の中にも、そうありふれた女ではなく、例 想につけ中の君を偲ぶからタ日の傾いていくにつれて、花 によって宮が夢中になって打ち込んでおられるような女が にわさき のひもとくお庭前の草むらを見渡していらっしやるが、たあったら、それをこちらのものにして、自分が苦しい思い はらわた だ無性にせつないお気持になられて、「中に就いて腸断ゅをさせられてきたのと同じように、せめて宮にも穏やかな ひと るは秋の天」という句を、ひっそりと口ずさみながらすわらぬ思いを味わわせてあげたいもの。真実、思慮のある女 であったら、自分のほうに心を寄せてくれるのが当然では っておいでになる。すると、先ほどの女房のそれとはっき ふすま ないか。とはいえ、そうした物事の分る心の持ち主は、め り分る衣ずれの音がして、母屋の襖の所を通って向こうに ひょうぶきようのみや ったにいるものではない」と思うにつけても、「対の御方 はいって行くようである。ちょうどそこへ兵部卿宮が歩い ていらっしやって、「今ここからあちらへまいったのは誰が、宮のおふるまいをふさわしからぬものに思い申されて、 なのか」とお尋ねになると、「姫宮の御方の中将の君でご この自分との仲がとんでもない方向に進んでいく、そうし ざいます」と申しあげる声がする。なんと不都合な答えよ たことで世間の思惑を苦にしながらも、やはり振り捨てが まれ たいものと分ってくださっているのは、思えば世にも稀な うではないか、あの女は誰なのかと、かりそめにもせよ目 をつけている男に、すぐさまこうして無造作にその名を申お方と胸うたれるではないか。そのようなわきまえのある ふびん しあげることがあるものかと、大将はその女房が不憫に思女が、大勢の女房たちの中にいるだろうか、立ち入って見 きぬ ひと

6. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

したまふ。朝夕目馴れても、なほ今見む初花のさましたまへるに、大将の君は、宅匂宮。音楽などに堪能。 天目のさめるような匂宮の美し 一九 さにいまさらながら感嘆させられ いとさしも入り立ちなどしたまはぬほどにて、恥づかしう心ゆるびなきものに る趣。女房の感想。次の薫のあり おまへ みな思ひたり。例の、二ところ参りたまひて、御前におはするほどに、かの侍方と対比。 一九親しく奥まで出入りせぬので、 従は、ものよりのぞきたてまつるに、「いづ方にもいづ方にもよりて、めでた恥ずかしく打ち解けにくい人と。 ニ 0 薫と匂宮が、中宮のもとに。 き御宿世見えたるさまにて、世にそおはせましかし。あさましくはかなく心憂三かっての浮舟づきの女房。今 は中宮の下﨟女房。↓一三五ハー末。 かりける御心かな」など、人には、そのわたりのことかけて知り顔にも言はぬ一三存命なら薫と匂宮と、この高 貴な人のどちらかと結ばれて幸運 な人生を送っていただろうに。 ことなれば、心ひとつに飽かず胸いたく思ふ。宮は、内裏の御物語などこまや ニ三自分だって下﨟女房にならず かに聞こえさせたまへば、し にすんだろうに、との無念の気持。 、ま一ところは立ち出でたまふ。見つけられたてま ニ四宇治での出来事を。 つらじ、しばし、御はてをも過ぐさず心浅しと見えたてまつらじ、と思へば隠 = 五下﨟女房に甘んじなければな らぬ不満から、自分を重んじてく れぬ。 れた浮舟を語りたいが、語れない。 一宍宮中あたりの世間話。 蛉東の渡殿に、開きあひたる戸口に人々あまたゐて、物語など忍びやかにす毛薫をさす。 ニ ^ 侍従は薫に気づかれたくない。 むつ る所におはして、薫「なにがしをそ、女房は睦ましく思すべきや。女だにかくニ九浮舟の忌明け以前の出仕を。 蜻 三 0 薫は東の渡殿で。そのあたり に女房の局がある。 心やすくはあらじかし。さすがにさるべからんこと、教へきこえぬべくもあり。 三一私のように気のおけぬ者は。 ゃうやう見知りたまふべかめれ、 しいとなんうれしき」とのたまへば、いと答 = 三女の知らぬことをも教えよう。 三 0 ひむがし すくせ あ ニ九 ニ 0 ニセ ニ四 ニ六

7. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

宅「左」は「右」とあるべきか。タ ちなどゐて、もの言ふけはひすれば、妻戸の前にゐたまひて、薫「おほかたに 霧の子息たち。常に親しく交流し おきな かた 一九 げぎんい 、とおばえなく翁合っている。↓一二七ハー注一一 0 。 は参りながら、この御方の見参に入ることの難くはべれば、し 天寝殿の西南の角。廂にいる女 びはてにたる心地しはべるを、今よりはと思ひおこしはべりてなん。ありつか房を相手に恋の風情を楽しむ趣。 一九女一の宮の女房たちとは、親 をひ ずと若き人どもそ思ふらんかし」と、甥の君達の方を見やりたまふ。女房「今しく会うことも容易でないとする。 いつの間にか年寄じみたとし て、親交を求める。恋の下心もな よりならはせたまふこそ、げに若くならせたまふならめ」など、はかなきこと いとしながらの屈曲した物言い を言ふ人々のけはひも、あやしうみやびかにをかしき御方のありさまにぞある。ニ一女房たちを相手にする若々し い振舞を、不相応なこととする。 そのこととなけれど、世の中の物語などしつつ、しめやかに、例よりはゐたま一三タ霧の子息たちをさす。 ニ三女房の声や衣すれの音などか ら女一の宮方のみやびやかな風情 へり。 に感じ入る。主君の高雅な人柄が 姫宮は、あなたに渡らせたまひにけり。大宮、「大将のそ女房たちの挙措に表れる。 〔一巴中宮、浮舟入水の ニ四女一の宮は、中宮のもとに。 真相を聞き驚愕する なたに参りつるは」と問ひたまふ。御供に参りたる大納言中宮は寝殿の東面にいる。 一宝女一の宮づきの上﨟女房。 こさいしゃう 蛉の君、「小宰相の君に、もののたまはんとにこそははべめりつれーと聞こゆれ兵思いを寄せて言いかける意。 毛気のきかない女だったら。 ニ七 ニ六 ば、中宮「まめ人の、さすがに人に心とどめて物語するこそ、心地おくれたら「まめ人」薫だけに、相手の教養趣 味の高尚さが要求されるとする。 夭中宮と薫は姉弟の関係だが。 む人は苦しけれ。、いのほども見ゆらんかし。小宰相などはいとうしろやすし」 ニ九女房も不用意に応対しないで ほしい、と願う気持 とのたまひて、御はらからなれど、この君をばなほ恥づかしく、人も用意なく ニ八 ニ四 つまど ニ 0 ニ九

8. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

とになってしまいましたので、恨んでおるのでございます。たので、僧都の話された女人はその女ではあるまいかとは いかにも器量はまことによくととのっていて気品高く美し 思ったけれども、はっきりそうと定められることではない ゅうございまして、勤行でやつれるのもいじらしく存ぜら し、僧都も、「その女人は、自分がこの世に生きているこ れました。どういう人でございましたのでしよう」と、話とを誰にも知られたくないと、よからぬ敵のような人もあ るらしくほのめかして、隠れ忍んでおりますが、どうもそ 好きな僧都のこととて、しきりに話し続けてお申しあげに のいきさつがあまりに不思議に思われますので、申しあげ なるので、「どうしてまあ、そうした所にそのようなすぐ れたお方をさらっていったのでしようか。それにしまして たのでございます」と、どうやらあまり詳しくは知らせた おももち も、今ではどなたなのか分っているのでしよう」などと、 くない面持なので、宰相の君は誰にも告げずにいる。后の ひと この宰相の君が問い尋ねる。僧都は、「それが分らないの 宮は、「もしかしてその女なのかもしれない。大将に聞か です。あるいはもうそうしたことも打ち明けているのかもせてあげたいものです」と、この女房にはおっしやるけれ しれません。真実身分の高い人でしたら、いえどうして、 ども、大将にしてもその女にしても双方とも内密にしてい いなかびと いずれは世間に知れぬはずもございますまい。田舎人の娘ることであっては、たしかにそれにちがいなかろうとも、 でもああした器量の者はおりますでしよう。竜の中から仏分らぬままあの気がおける大将にお打ち明けになるのもは がお生れになる例もございませんのならともかく、普通のばかられる気持から、そのままになっていたのであった。 者であるとすればまことに前世の罪業の軽いと思われる、 三巴僧都、帰山の途中姫宮がすっかりよくおなりあそばし 習 すぐれた女人でございました」などとお申しあげになる。 立ち寄り浮舟を励ますて、僧都も山にのばって行かれた。 ゆくえ 途中、小野にお立ち寄りになると、尼君はたいそう恨んで、 后の宮は、その同じ時分に宇治の近辺で行方の知れなく 手 なってしまったとかいう女のことをお思い浮べになる。こ 「こうしたお姿になられたのでは、かえって罪障をつくる ことにもなりましようものを、この私とご相談もなさらす のおそばに控えている宰相の君も、その姉君からの聞き伝 えによって、不思議な有様で亡くなった人とは耳にしてい じまいだったことが恨めしくて。ほんとに不都合なことで ひと ひと ひと かたき

9. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

つばね もの の宿直で疲れきっていた女房たちはみな局に下りて休んで 必す性のよくない霊物が出入りしては棲みついて、重い病 いたりして、御前には人少なで、おそば近くに起きている人にはよからぬことがありはせぬかと心配いたしておりま いつばん みちょうだい 者もあまりいないときに、后の宮は一品の宮と同じ御帳台 したところ、案の定 : : : 」と言って、目にしたことのあれ 1 = ロ 物にいらっしやって、「昔からあなたをお頼りしておりますこれをお話し申しあげなさる。后の宮は、「いかにも、ほ 氏 が、とりわけ今度という今度は、後生も同じようにお救し んとに聞いたこともないお話ですこと」とおっしやって、 源 くださるものと、おすがりしたい気持が深くなりました」 おそば近くに控えている女房たちがみな寝入ってしまって そうず などと仰せられる。僧都は、「この世の寿命もそう長くは いるのを、恐ろしくお思いになってお起しになる。そのと さと さいしよう あるまいと、仏などのお諭しになることが数々ございますき、大将の親しくしていらっしやる宰相の君が、ちょうど が、なかんずくここ一、二年は無事に過せるかどうかとい その僧都の話を聞いていたのだった。今お起しになった女 っとめ う状態でございましたので、仏を余念なく念じてお勤行を房たちは、どんな話があったのか知らずにいる。僧都はこ おももち いたそうと存じまして、山深くこもっておりますが、こうわがっていらっしやる后の宮の御面持を拝して、心ないこ した仰せ言を承りましたので山を下りてまいったのでござ とを申しあげてしまったと思い、その間の詳しいことはそ いました」などとお申しあげになる。 れ以上申しあげずじまいになった。「その女人ですが、今 ものけ 御物の怪がしたたかであることや、さまざまに名のりを度山を下りてまいりましたついでに、小 野におります尼た あげる様子が恐ろしいことなどを后の宮が仰せになるそのちを訪ねようと存じまして、そちらへ立ち寄ってみました 折に、僧都は、「まことに合点のゆかぬ、稀有の出来事に ところ、泣く泣く、出家の望みの深い由を熱心に訴えてま 出会いましてございます。この三月に、年老いております いりましたので、髪をおろしてやったのでございました。 はっせ えもんのかみ 母親が、宿願がございまして初瀬に参詣いたしました、そ拙僧の妹で亡き衛門督の妻になっておりました尼が、亡く の帰途の中宿りに、宇治院と申します所に宿りましたとこ なった娘の身代りにと喜んでおりまして、それ相応に目を やしき ろ、あのように誰も人が住まずに何年もたった大きな邸は、 かけてたいせつに世話しておりましたところが、こんなこ とのい たち

10. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

かしら 心づよく割りて、手ごとに持たり。頭にうち置き、胸にさし当てなど、さま一小宰相に割らすともよいと言 われても。以下、氷をもてあそぶ。 おまへ あしうする人もあるべし。こと人は紙に包みて、御前にもかくてまゐらせたれニ他の女房。小宰相か。 三女一の宮の御前に 語 四女一の宮が自分の手を女房に 物ど、 いとうつくしき御手をさしやりたまひて、拭はせたまふ。女一の宮「いな、 氏 五氷が溶けて雫になるのを厭う。 しづく 源持たらじ。雫むつかし」とのたまふ、御声いとほのかに聞くも、限りなくうれ六薫の感動を直接的に叙述し、 以下の心中叙述に連なる。 し。「まだいと小さくおはしまししほどに、我も、ものの心も知らで見たてまセ前に「ほの見たてまつりし ( 椎本一七一ハー ) とあったが、こ のち こでは幼少時の経験だったとする。 つりし時、めでたの児の御さまやと見たてまつりし。その後、たえてこの御け ^ 偶然のかいま見の感動の強さ かみほとけ はひをだに聞かざりつるものを、いかなる神仏のかかるをり見せたまへるならから、神仏のなせるわざとする。 九「神仏」から転じて仏が自分を しづごころ む。例の、安からずもの思はせむとするにゃあらむ」と、かつは静心なくてま悩ませ物思いをさせるとする。前 には浮舟の死でそれを思った ( ↓ 一うじ きたおもて げらふ 一一〇ハー ) 。薫らしい述懐である。 もり立ちたるほどに、こなたの対の北面に住みける下﨟女房の、この障子は、 一 0 動揺すまいとする一方では。 お とみのことにて、開けながら下りにけるを思ひ出でて、人もこそ見つけて騒が = 西の対の北面 ( 北廂 ) に局を持 っていた下﨟女房。 たれ 一四なほし るれと思ひければ、まどひ入る。この直衣姿を見つくるに、誰ならんと心騒ぎ三薫がかいま見ている襖障子。 一三誰かが見つけて騒いでは大変。 すのこ て、おのがさま見えんことも知らず、簀子よりただ来に来れば、ふと立ち去り一四直衣姿の人。薫である。 言女房は異例にも簾外にいる。 一六薫がさりげなく退く。 て、誰とも見えじ、すきずきしきゃうなりと思ひて隠れたまひぬ 宅かいま見を知られたくない 一九きちゃう このおもとは、「いみじきわざかな。御几帳をさへあらはに引きなしてける入下﨟女房をさす。 あ のご