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検索対象: 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩
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1. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

巻名救い出されて小野の山荘に移された浮舟が、憂悶の情をわずかに手習に託したことによる。 よかわそうず はっせもう 梗概そのころ、横川の僧都という高徳の僧がいた。僧都の母が、僧都の妹の尼との初瀬詣での帰途、にわかに発病したの やま一ろ で、山籠りをしていた僧都も、母尼の病と聞いて下山し、一行は宇治院に宿泊することになった。その院の裏手で、僧都 は、変化のもののような姿で倒れていた若い女を発見し、これを助けた。妹尼は、この正体不明の女を、亡くなった娘の かわりに初瀬の観音から授かったものと信じて、手厚く看護した。この女こそ宇治で失踪した浮舟である。 ふもと 浮舟は、比叡の麓の小野の庵に移されてもなかなか正気に戻らなかったが、夏の終りごろ、妹尼の懇請に応じて下山し た僧都の加持によって、ようやく意識を回復した。自分が死にそこなったことを知った浮舟は、ただただ情けなく、尼に してほしいと頼む。熱心な懇願に、僧都はやむなく五戒だけを授けた。妹尼は浮舟を娘と思って慈しみ世話をするが、浮 舟はかたくなに口を閉ざして、わが身の上を語ろうとはしなかった。秋の夜、尼君たちは月をめでて琴を弾いたりもする が、浮舟はその中に加わろうともしない。わずかに、その憂悶の情を手習に託すのみである。 小野の庵を妹尼の亡き娘の婿であった中将が訪れてきた。妹尼は、娘を忘れかねて時折この僧庵を尋ねてくる中将に、 めあわ 是非とも浮舟を娶せたいと思っていたのである。中将は浮舟をかいま見て心を動かすが、浮舟は、そうした周囲に、冊わ しさをつのらせるばかりであった。九月、礼参りのために初瀬に出かけた妹尼の留守中に中将が訪れ、執拗に浮舟に迫っ たが、浮舟は、母尼の居室に逃れた。不安な一夜を、眠れぬままに、わが半生の不幸な流転の足どりを振り返りつつ明か した彼女は、その翌日、折よく明石の中宮の招きで下山し立ち寄った僧都に懇望して、ついに出家を遂げた。帰庵した妹 尼は驚き悲しむが、本人はようやく心の安らぎを得た思いである。 おいきのかみ 翌年の春、仏道にいそしむ浮舟は、ト / 野を訪れた妹尼の甥の紀伊守の話から、その後の薫の動静を知った。悲嘆が一通 りでないこと、一周忌の法要を営むことーーー浮舟は、どこまでも自分を忘れることのない薫の噂に、無量の感慨に沈むの であった。一方、浮舟生存の消息は、女一の宮の夜居に侍した横川の僧都の口から明石の中宮の耳にも入っていた。春雨 の夜、浮舟のことを嘆く薫に、中宮は、同じく事情を知る小宰相の君を介して、僧都の語っ・た話を伝えさせた。事の真相 に驚いた薫は、叡山を訪れる折に横川まで足をのばしてみることにした。 〈薫二十七歳から二十八歳の夏。ほば蜻蛉巻と重なる〉

2. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

あるじ この家の主人、妹尼が、小君 主そこの君に物語すこし聞こえて、妹尼「物の怪にやおは一 0 〔 = 〕小君、姉に会わず、 。浮舟に代っての対話である。 むなしく帰途につく すらん、例のさまに見えたまふをりなく、なやみわたりたニ物の怪のせいか。以下、発見 語 されて以来の浮舟について語る。 三出家して尼姿になったこと。 物まひて、御かたちも異になりたまへるを、尋ねきこえたまふ人あらばいとわづ 氏 四浮舟を捜し求める人々が、浮 源らはしかるべきことと、見たてまつり嘆きはべりしもしるく、カくいとあはれ舟の尼姿に失望するだろうと、妹 尼らは懸念したとする。自分たち 六 も出家には反対だった、の気持。 に心苦しき御事どものはべりけるを、今なんいとかたじけなく思ひはべる。日 五いたわしく胸の痛む事情があ ごろも、うちはヘなやませたまふめるを、いとどかかることどもに思し乱るるれこれあったのを。深い情愛を寄 せていた薫が捜し当てたこと。 にや、常よりもものおばえさせたまはぬさまにてなんーと聞こゅ。所につけて六以前から知っていたら、出家 などさせなかったのに、の気持。 あるじ セ薫の手紙などをいただいて。 をかしき饗などしたれど、幼き心地は、そこはかとなくあわてたる、い地して、 ^ 山里らしい 、しゃれたご馳走。 小君「わざと奉れさせたまへるしるしに、何ごとをかは聞こえさせんとすらむ。 九いたたまれないような気持。 一 0 薫がわざわざ私をお遣わしに なったしるしとして。 ただ一言をのたまはせよかし」など言へば、妹尼「げに」など言ひて、かくな 一一妹尼は、小君の言葉に納得。 むと移し語れども、ものものたまはねば、かひなくて、妹尼「ただ、かく、お三浮舟にそのまま伝えるが。 一三はっきりしないご様子をお話 し申すほかあるまい ばっかなき御ありさまを聞こえさせたまふべきなめり。雲の遥かに隔たらぬほ 一四この地は雲のはるか遠くに隔 たった所でもないので。「雲の遥 どにもはべるめるを、山風吹くとも、またも、かならず立ち寄らせたまひなん かに・ : 山風吹くともあたりは引 歌表現らしいが、末詳。 かし」と言へば、すずろにゐ暮らさむもあやしかるべければ、帰りなんとす。 、一と ものけ

3. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

( 現代語訳三五四ハー ) かかる人なん率て来たるなど、法師のあたりにはよからぬニ 0 女を自分の娘にしたいので、 〔六〕女依然として意識 その血縁の者が捜し出して連れ戻 不明、妹尼ら憂慮する ことなれば、見ざりし人にはまねばず。尼君も、みな口がすのではないかと、気が気でない。 ニ一以下、妹尼の推測 しづごころ ゐなか ひと 一三高貴な身分に思えるこの女。 ためさせつつ、もし尋ね来る人もやあると思ふも静心なし。 いかで、さる田舎 ニ三宇治は初瀬・奈良への物詣で びと ものまうで 人の住むあたりに、かかる人落ちあぶれけん、物詣などしたりける人の、心地の途中にあるので、こう推測する。 ニ四 一西継母などが、悪だくみをして ままはは などわづらひけんを、継母などやうの人のたばかりて置かせたるにゃなどそ思置き去りにさせたのだろうか。 ↓一五六ハー一三行。 第一と ひ寄りける。「川に流してよ」と言ひし一言よりほかに、ものもさらにのたま = 六女への敬語の初出。身分ある 女と察する妹尼の気持の反映。逆 はねば、し に妹尼に敬語がっかないのは、彼 、とおばっかなく思ひて、いっしか人にもなしてみんと思ふに、つく 女の心中に即した語り口による。 づくとして起き上がる世もなく、いとあやしうのみものしたまへば、つひに生毛妹尼は、どうにも不安に思い 三 0 夭人並の健康状態に。 す ゅめがたり くまじき人にやと思ひながら、うち棄てむもいとほしういみじ。夢語もし出で = 九以下、女のさま。後文による と、物の怪のため。↓一六二ハー あぎり 三 0 長谷寺で見た夢 ( ↓一五五ハー ) て、はじめより祈らせし阿闍梨にも、忍びやかに芥子焼くことせさせたまふ。 の内容を、ここで人々に明かす。 うちはヘ、 かくあっかふほどに、四五月も過ぎぬ。いとわ三一護摩をたく意。 習〔を僧都の加持により、 三ニ浮舟が入水をはかったのは三 物の怪現れ、去る 月末。一一か月が経過。 びしうかひなきことを思ひわびて、僧都の御もとに、 手 三三看護、祈疇の効果が見えない。 お 妹尼なほ降りたまへ。この人助けたまへ。さすがに今日までもあるは、死ぬ三四死ぬはずのない運命の人に、 深く取り憑き正気を失わせた魔物。 りゃう まじかりける人を、憑きしみ領じたるものの去らぬにこそあめれ。あが仏、 = 宝懇願しての呼びかけ。 ニ七 っ 三三 ニ八 三五 三四 ニ九

4. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

( 現代語訳四〇四ハー ) そうづ かしこには、まだっとめて、僧都の御もとより、 一四かしこまった態度での返事 〔セ〕妹尼、僧都の手紙 「唯唯」があたるか。 よべ こぎみまう で浮舟・薫の事を知る 昨夜、大将殿の御使にて、小君や参でたまへりし。事の一五涙を隠すべく、わざとぶつき 、らば , つに一一 = ロ , っ 一六小野の邸には。 、いうけたまはりしに、あぢきなく、かへりて臆しはべりてなむと姫君に聞こ 宅小君訪問の当日の早朝。 けふあす えたまへ。みづから聞こえさすべきことも多かれど、今日明日過ぐしてさぶ一 ^ 僧都は、小君が昨夜のうちに 小野の家を訪れただろうと推測。 らふべし。 一九浮舟の真相。 ニ 0 困ったことと、かえって気後 と書きたまへり。これは何ごとそと尼君驚きて、こなたへもて渡りて見せたてれして。よかれと思って浮舟を出 家させたが、それが薫の気持に背 おもて くものと知り、後悔している気持。 まつりたまへば、面うち赤みて、ものの聞こえのあるにやと苦しう、もの隠し 一三妹尼。 しけると恨みられんを思ひつづくるに、答へん方なくてゐたまへるに、妹尼 ニ三浮舟のもとに。 一ころう 「なほのたまはせよ。心憂く思し隔つること」と、いみじく限みて、事の心を = 四自分のことが世間に知れたの だろうか、と困って。 せうそこ 一宝隠し隔てをしていたと、妹尼 知らねば、あわたたしきまで思ひたるほどに、「山より、僧都の御消息にて、 に恨まれるようなことを。 ニ六事情が分らぬので、おろおろ 橋参りたる人なんあるーと言ひ入れたり。 するほど気をもんでいると。 浮 あやしけれど、妹尼「これこそは、さは、たしかなる御消毛小君に同行した者の、案内を 〔 ^ 〕小君来訪浮舟、 請うロ上。 ニ九 小君を見て母を思う 息ならめ」とて、「こなたに」と言はせたれば、し ときょニ ^ 少し前に僧都からの消息が届 いたばかりなのにと、不審な気持。 わらは さうぞ あゆ わらふだ げにしなやかなる童の、えならず装束きたるそ歩み来たる。円座さし出でたれ = 九以下、小君のさま。 ニ ^ ニ 0 一セ つかひ おく ニ七 ニ五 一九

5. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

人だに、今はと背きはべる時は、いともの、い細くおばえはべりしものを、世を一前途のある若盛りの年齢では。 一一最後まで出家生活を通せるか。 こめたる盛りにては、つひにいかがとなん見たまへはべる」と、親がりて言ふ。三妹尼が、浮舟のいる奥の方に。 四思いやりのないなさりよう。 語 . なさけ 物入りても、妹尼「情なし。なほ、いささかにても聞こえたまへ。 かかる御住五山里住いでは、ちょっとした つまらぬことでも、人の情けに応 源まひは、すずろなることも、あはれ知るこそ世の常のことなれ」など、こしらずるのが当然というもの、の意。 六何のとりえもない者。 へても言へど、浮舟「人にもの聞こゆらん方も知らず、何ごとも言ふかひなくセすげない態度で。 ^ さあどうか。なんと情けない。 まらうと こころ ふ のみこそ」と、 いとつれなくて臥したまへり。客人は、中将「いづら。あな心九秋になったらとの約束は。妹 尼の引歌 ( ↓前ハー注一九 ) の下の句の 「秋と契れる人ぞ・ : 」の「人」を、自 憂。秋を契れるは、すかしたまふにこそありけれ」など、恨みつつ、 分のことととりなして訴える。 をギ ) はら 一 0 「松虫」「待っ」の掛詞。「荻 中将松虫の声をたづねて来つれどもまた荻原の露にまどひぬ 原」は暗に浮舟をさす。待ってい 妹尼「あないとほし。これをだに」と責むれば、さやうに世づいたらむこと言てくれると思って訪ねたのに、つ れないお方のために涙に濡れた意。 ひ出でんもいと心憂く、また言ひそめては、かやうのをりをりに責められむも、 = せめてこの返事なりと。 三以下、浮舟の心に即した叙述。 むつかしうおばゆれば、答へをだにしたまはねば、あまり言ふかひなく思ひあ一三一度返歌したら。過往の酷烈 な体験を根拠に固く心を閉ざす。 一四出家前は、当世風に気のきい へり。尼君、はやうは、、 しまめきたる人にそありけるなごりなるべし、 た人、その名残からだろう。 かりごろも 一五「来たる」「着たる」の掛詞。 妹尼「秋の野の露わけきたる狩衣むぐらしげれる宿にかこつな 秋の野を踏み分けて露に濡れたの むぐら に、この葎の宿のせいだとは言っ となん、わづらはしがりきこえたまふめる」と言ふを、内にも、なほ、 一五

6. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

かしたまふにこそありけれ」 ( 一七八ハー七行 ) と妹尼に訴え残しながら、演奏をやめて出て行く中将に、妹尼が「など、 るのも、この妹尼の引歌表現を受けての物言いである。 あたら夜を御覧じさしつる」と言って、彼を引きとめよう 00 11 山里は秋こそことにわびしけれ鹿の鳴く音に目 とする一言葉となっている。 ・一とね をさましつつ ( 古今・秋上・ = 一四壬生忠岑 ) ・川・ 9 琴の音に峰の松風かよふらしいづれのをより調 山里は秋こそ格別にもの寂しいもの。鹿の鳴く声にしばしば べそめけむ ( 拾遺・雑上・四五一徽子女王 ) 目を覚しては、物思いに屈することだ。 琴の音色に、峰の松を吹く風が通じているらしい。琴のどの 前出 ( ↓タ霧三九八ハー上段 ) 。物語では、中将が妹尼と対 緒から、またどこの峰で、その音色を掻き鳴らしはじめたの だろうか 面する場で、笛を吹き鳴らして「鹿の鳴く音に」と独誦す な ひ る。亡き妻を追慕しつつ、それゆえに浮舟に心惹かれる気前出 ( ↓賢木三八五ハー下段など ) 。物語では、小野の山里の、 持を、妹尼に訴える前提にもなっている。 秋の風情のなかで松籟とひびきあう合奏をいう。 たけふ 00 世の憂きめ見えぬ山路へ入らむには思ふ人こそ ・・ 9 道のロ武生の国府に我はありと親に申し もののべのよしな みちのくち ほだしなりけれ ( 古今・雑下・空五物部吉名 ) たべ心あひの風やさきむだちゃ ( 催馬楽「道ロ」 ) 世の中のつらさにあわすにすむ山の中に入ろうとすると、捨前出 ( ↓四三〇ハー下段 ) 。物語では、ト野の山里の合奏で、 てがたく思う人が修行の妨げになるものだった。 老齢の母尼が「たけふ、ちちりちちり、たりたんな」など ひな 前出 ( ↓賢木三八七ハー上段など ) 。物語では、中将の、妹尼と謡う。老齢の尼の謡う鄙びた古謡だけに、やや異様な雰 への訴えの言葉。浮舟が自分に関心を寄せてくれそうもな囲気がかもし出される。 いので、尼たちの住むこの山里を、世の中のつらさのない ・・ 1 秋風の吹くにつけても訪はぬかな荻の葉ならば なかっかさ 覧山中とは思えぬ、と恨んでみせた。 音はしてまし ( 後撰・恋四・八四七中務 ) ・ 1 あたら夜の月と花とを同じくは心知れらむ人に 秋風が吹くようになったが、私のことを飽きたのか、訪れて 歌 見せばや ( 後撰・春下・一 0 三源信明 ) はくれないのだ。人を招くという荻の葉ならば、風に音をた この惜しむべき夜の月と花を、どうせ同じことなら、情理を てて、音信ぐらいありそうなものなのに。 わきまえているような人に見せたいものだ。 詞書によれば、平かねきとの仲がしだいに疎遠になったこ 前出 ( ↓明石 3 三六〇ハー下段など ) 。物語では、浮舟に恨みを ろ詠んでやった歌。「秋」に「飽き」をひびかす。「荻」は 439

7. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

なるものを見たまへつる」とのたまふ。うち聞くままに、妹尼「おのが寺にて一三遣戸 ( 引き違えの板戸 ) の内側 の板の間。 一四下人らにも知らせていない。 見し夢ありき。いかやうなる人ぞ。まづそのさま見ん」と泣きてのたまふ。 うわぎ 一五衵姿。表着をつけていない。 ひむがしやりど 僧都「ただこの東の遣一尸になんはべる。はや御覧ぜよ」と言へば、急ぎ行きて綾は斜線模様を織り出した絹織物。 妹尼は、衣、香と観察していく。 す 見るに、人も寄りつかでぞ棄ておきたりける。、 一六衣にたきしめた薫香。 しと若ううつくしげなる女の、 一セただよう気品から身分ある女 一五あやきめかさねくれなあはかま か と推量される。 白き綾の衣一襲、紅の袴そ着たる、香はいみじうかうばしくて、あてなるけ 天↓注一一一。亡き娘については、 はひ限りなし。妹尼「ただ、わが恋ひ悲しむむすめのかへりおはしたるなめり」後文でしだいに明らかにされる。 ごたち いだ ニ 0 とて、泣く泣く御達を出だして、抱き入れさす。いかなりつらむともありさま一九妹尼づきの年配の女房たち。 ニ 0 木の根もとでどのようにその 見ぬ人は、恐ろしがらで抱き入れつ。生けるやうにもあらで、さすがに目をほ女が見出されたか知らない御達は。 三当初は妖怪かと思われた女が、 ふびん しだいに不憫な女と見られていく。 のかに見あけたるに、妹尼「もののたまへや。いかなる人か、かくてはものし 一三夢告があったと思うだけに、 たまへる」と言へど、ものおばえぬさまなり。湯とりて、手づからすくひ入れ素姓・事情などを知りたい。 ニ三亡き娘の身代りと思って介抱 しても、その生命が危惧される。 習などするに、ただ弱りに絶え入るやうなりければ、「なかなかいみじきわざか げん ニ四 ニ四前に「弟子の中にも験あるし かぢ げんざ あぎり て」 ( 一四九ハー ) とあった人か。 な」とて、「この人亡くなりぬべし。加持したまへ」と、験者の阿闍梨に言ふ。 手 ニ五つまらぬ世話やきをなさる意。 ニ六 僧「さればこそ。あやしき御ものあっかひなり」とは言へど、神などの御ため = 六加持の前に、魔性を退けて神 LO の加護を願うために『般若心経』を しんぶん 読む。神分という。 に経読みつつ祈る。 一九 ニ五 な あこめ

8. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

183 手習 ざなどしたまはず、埋もれてなんものしたまふめる」と、われ賢にうちあざ笑一 = 浮舟をさす。 一六「もはら」は漢文訓読語。この ひて語るを、尼君などはかたはらいたしと思す。これに事みなさめて帰りたま物語中五例あるが、他は男の用語。 宅つまらぬ遊び事などなさらず。 一九 ね ふほども、山おろし吹きて、聞こえ来る笛の音いとをかしう聞こえて、起き明浮舟への軽い皮肉であろう。 天大声で笑う意。嘲笑ではない。 かしたる。 一九風に乗って聞えてくる中将の 笛。中将は笛を吹きながら帰る。 よペ っとめて、中将「昨夜は、かたがた心乱れはべりしかば、 ニ 0 妹尼あての消息。 〔宅〕中将妹尼と歌を贈 一 = 亡き妻のこと、浮舟のこと。 答浮舟経を習い読む 急ぎまかではべりし。 一三「事」「琴」の掛詞。「笛竹」は 笛の歌語で、自分の吹いた横笛、 忘られぬむかしのことも笛竹のつらきふしにも音そ泣かれける 竹の縁で、「ふし ( 節 ) 」の序ともな る。忘れえない亡妻、つれない浮 ニ四 なほ、すこし思し知るばかり教へなさせたまへ。忍ばれぬべくは、すきずきし舟ゆえに声に出して泣いた意。 ニ三浮舟を説得してほしい意。 けしき きまでも、何かは」とあるを、いとどわびたるは、涙とどめがたげなる気色に = 四堪えがたい思いから色めかし い言動にまで出た、とする気持。 て、書きたまふ。 一宝どうしてよいか分らぬ妹尼は。 ニ六あなたの笛の音に亡き娘を偲 ニ六ね そで 妹尼「笛の音にむかしのこともしのばれてかへりしほども袖ぞぬれにし んだとする。「こと」に「琴」をひび かす。娘の弾奏をも回顧するか。 ニセ あやしう、もの思ひ知らぬにやとまで見はべるありさまは、老人の問はず語り毛人の情けも知らぬほどの態度。 返歌もせず合奏にも加わらない。 三 0 夭↓前ハー末の母尼の言葉。 に聞こしめしけむかし」とあり。めづらしからぬも見どころなき心地して、う 堯本人の返歌を期待したので。 ち置かれけんかし。 三 0 語り手の推測による。 ニ九 ニ ^ かし、一

9. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

一↓早蕨 3 一一〇ハー注四の歌 閨のつま近き紅梅の色も香も変らぬを、春や昔のと、こと花よりもこれに心 ニはかなかった匂宮との逢瀬が ごゃあか 忘れられぬのか、とする語り手の 寄せのあるは、飽かざりし匂ひのしみにけるにや。後夜に閼伽奉らせたまふ。 評言。「飽かざりし君が匂ひの恋 = ロげらふ しさに梅の花をそ今朝は折りつ 物下﨟の尼のすこし若きがある召し出でて花折らすれば、かごとがましく散るに、 ともひら 氏 る」 ( 拾遺・雑春具平親王 ) 。 三紅梅。閼伽とともに仏に奉る。 源いとど匂ひ来れば、 四 四「袖ふれし人」は匂宮。彼の袖 そで の香かと思われるほど花の香が匂 浮舟袖ふれし人こそ見えね花の香のそれかとにほふ春のあけばの 五 うと、執心を抑えがたいとする歌。 おほあまぎみむまごきのかみ のば 「色よりも香こそあはれと思ほゅ 大尼君の孫の紀伊守なりけるが、このころ上りて来たり 〔毛〕紀伊守小野に来た れ誰が袖ふれし宿の梅そも」 ( 古 かたち り、薫の動静を語る 今・春上読人しらす ) 。 三十ばかりにて、容貌きょげに誇りかなるさましたり。 0 浮舟の習慣化した手習歌が、胸 こぞをととし 紀伊守「何ごとか、去年一昨年」など問ふに、ほけほけしきさまなれば、こなた奥の執心をも引き出す点に注意。 出家生活に徹して過去と絶縁しょ うとしながらも、その過去からは に来て、紀伊守「いとこよなくこそひがみたまひにけれ。あはれにもはべるかな。 自由ではありえない かた 残りなき御さまを、見たてまつること難くて、遠きはどに年月を過ぐしはべる五母尼。孫の紀伊守は妹尼の甥。 六無事だったか、昨年一昨年は。 のち よ。親たちものしたまはで後は、一ところをこそ御かはりに思ひきこえはべり七母尼の老いばけた様子。 〈妹尼の部屋に おとづ ひたち もよノ - つく 九正常ではない。母尼の耄碌。 も , っとなるべし。 つれ。常陸の北の方は、訪れきこえたまふや」と言ふは、し 一 0 紀伊守の両親はすでに死去。 妹尼「年月にそへては、つれづれにあはれなることのみまさりてなむ。常陸は = 母尼 ( 祖母 ) 一人を親代りに。 三常陸守の北の方。下に紀伊守 いと久しくおとづれきこえたまはざめり。え待ちつけたまふまじきさまになむの妹とある。浮舟の継父とは無縁。 ねや 六 か

10. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

一女一の宮づきの女房たち。 「げにいとめづらかなることかな」とて、近くさぶらふ人々みな寝入りたるを、 ニ中宮がお起しになられる。 一いしゃう 三薫が親しくしている、女一の 恐ろしく思されて、おどろかさせたまふ。大将の語らひたまふ宰相の君しも、 宮づきの女房。小宰相。「しも」と 語 物このことを聞きけり。おどろかさせたまひける人々は、何とも聞かず。僧都、強調される点に注意。薫にこの情 氏六 報の伝わる可能性が拓けた。 けしき 四中宮があとからお起しになっ 源怖ちさせたまへる御気色を、心もなきこと啓してけりと思ひて、くはしくも、 た女房たちは。 九 によにん そのほどのことをば言ひさしつ。僧都「その女人、このたびまかり出ではべり五どんな話なのか関知しない。 六中宮のこわがられるご様子を。 つるたよりに、ト 野にはべりつる尼どもあひ訪ひはべらんとてまかり寄りたりセ不用意なことを申したもの。 〈浮舟を発見した当時のことを。 しに、泣く泣く、出家の本意深きよし、ねむごろに語らひはべりしかば、頭お九浮舟。僧侶らしい漢語表現。 一 0 母尼や妺尼を。 一ニゑもんのかみめ をむな ろしはべりにき。なにがしが妹、故衛門督の妻にはべりし尼なん、亡せにし女 = 拙僧の妹。妹尼。 一六六ハー四行。 子のかはりにと、思ひょろこびはべりて、随分にいたはりかしづきはべりける一三それ相応に。これも漢語表現。 一四自分が浮舟を出家させたのを。 かたち を、かくなりにたれば、恨みはべるなり。げにそ、容貌はいとうるはしくけ , っ一五よく整って気品高い美しさで。 身分のある女という印象 らにて、行ひやつれんもいとほしげになむはべりし。何人にかはべりけんーと、一六勤行のために尼衣に身をやっ しているとい、つのも。 ひと 宅身分ある女を、妖怪変化のも ものよく言ふ僧都にて、語りつづけ申したまへば、「いかでかさる所に、よき のがさらって行ったのだろう。 人をしもとりもて行きけん。さりとも、今は知られぬらむ」など、この宰相の天今は素姓も知れていよう。 一九でも、ひそかに素姓を妹尼に 一九 君そ問ふ。僧都「知らず。さもや語らひはべらん。まことにやむごとなき人な打ち明けているかもしれない。 をの 四 ずいぶん 五 そうづ かしら ひと