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検索対象: 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩
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1. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

たちばな 巻名宇治川を渡る舟の中で、匂宮の歌「年経ともかはらむものか橘の小島のさきに契る心は」に応えた浮舟の「橘の小島 の色はかはらじをこのうき舟ぞゆくへ知られぬ」の歌による。 梗概匂宮は、二条院で会った浮舟のことが忘れられす、中の君を責めるが、中の君は沈黙を続けている。一方、薫は悠長 にかまえて、宇治を訪れることも間遠であった。 年明けて正月、浮舟から中の君のもとに新年の挨拶が寄せられた。その文面から女の居所を知った匂宮は、家臣を通し てそれが薫の隠し女であることを知る。異常な興味につき動かされてひそかに宇治を訪れた彼は、薫を装って浮舟の寝所 に入り、強引に思いを遂げた。女が人違いと気づいたときには、もう取返しがっかない。 心と犯したわけではない過失に とうりゅう 浮舟はおののくが、身分を顧みす宇治に逗留する匂宮の、薫とは対照的な一途の情熱に、しだいに惹かれていくのであっ とーレき、 二月、ようやく宇治を訪れた薫は、物思わしげな浮舟の様子に、女としての成長を感じ取って喜ぶとともに、い はんもん も増し、京に迎える約束をする。秘密を抱く浮舟はただ煩悶するばかりである。 宮中の詩宴の夜、匂宮は、浮舟を思って古歌を口ずさむ薫の様子に焦燥の思いをつのらせ、雪をおかして再び宇治に赴 いた。邸内の人目もはばかられる。匂宮は浮舟を対岸の隠れ家に連れ出し、夢のような耽溺の二日間を過した。 歓喜と後悔、苦悶。その浮舟のもとに、薫から近く京に迎える旨が告げられてきた。一方、それを知った匂宮からは、 それに先立って彼女をわがもとに引き取ろうとの計画がひそかに知らされる。苦悩する浮舟の気持をよそに、事情を知ら めのと ぬ母や乳母は京移りの準備に余念がない。 やしき やがて匂宮との秘密が薫に察知される日がやってきた。宇治の邸で薫と匂宮双方の使者が鉢合せしてしまったのである。 薫から不倫を詰る歌が届けられる。右近の語る東国の悲話を耳にするにつけても、浮舟は身につまされるが、途方にくれ るしかない。追いつめられ、惑乱がつのり、ついには死を決意する。宇治の邸は、薫によって厳重な警戒体制が敷かれ、 無理をおして訪れた匂宮も、浮舟に逢えぬまま帰京するほかなかった。 不吉な夢見を心配して、母中将の君から文が届けられた。死を間近に思う浮舟は、薫や匂宮、母や中の君を恋いながら、 したた 匂宮と母の二人にのみ、最後の文を書き認めた。 〈薫二十七歳の春。ただし当巻本文中には一歳年長のはずの匂宮の年齢との間に矛盾がある〉 たんでき

2. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

275 浮舟 ( 原文四三ハー ) ぬ面持である。 とはあるまいから、それをいかにも危なそうにしてくよくよ かすみ 山のほうは霞に隔てられており、寒々とした洲崎にたた することはないのです ) ふぜい すむ鵲の姿も、場所が場所とて風情のある眺めであるが、 わたしの気持は今にお分りになりましよう」とおっしやる。 宇治橋がはるか遠くまで見渡されるところへ、柴を積む舟女君は、 があちこちで行きちがっているなど、よそではあまり見ら 絶え間のみ世にはあやふき宇治橋を朽ちせぬものとな れないものばかりいろいろと取り集めている所なので、大 ほたのめとや 将はごらんになるたびに、やはりあの当時のことがたった ( 絶え間ばかりが多くて危ない宇治橋ですのに、それでもや 今のように感じられて、ほんとにこうした姫宮にゆかりの はり朽ち絶えるものがないものと思って頼りにせよとおっし 人でなくとも、向い合っているだけでも、なかなか得がた やるのでしようか ) おうせ い逢瀬の情けのほども尽きぬというものである。なおさら大将は、これまでよりもいっそう見捨てては帰りにくく、 とうりゅう のこと、この女君が懐かしいお方になそらえてみても、そ ほんのしばらくの間でもここに逗留していたいと思わずに うひどく劣っているわけではなく、だんだんと人の心も分はいらっしゃれないけれども、世間の取り沙汰がわずらわ ってきて、都の風情になれてゆく様子がかわいらしいにつ しいので、いまさらそれも愚かしかろう、いずれ気がねの けても、以前より格段にたちまさってきたような心地がな いらない形にして逢うことにしよう、などとお思い直しに さるのだが、女のほうは、さまざまの思いのつもる胸の中なり、夜明け前にお帰りになった。じっさいよくもあれだ に催される悲しみの涙がどうかするとあふれてくるのを、 け大人らしくなったものよと、以前にまさっていじらしく 大将はどう慰めることもおできにならず、 お思い出しになるのであった。 さくもん 「宇治橋の長きちぎりは朽ちせじをあやぶむかたに心 〔一六〕薫の浮舟を偲ぶ吟二月十日ごろ、宮中で作文の会のお さわぐな 誦に、匂宮焦慮する催しがあるというので、この宮も大 ( 長い宇治橋のように末長いわたしたちの縁は朽ち絶えるこ将もそろって参内なさった。折にふさわしい管絃のさまざ かささぎ

3. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

313 蜻蛉 いて、これまでのいきさつをもお話し申すことにしましょ御葬送のことは、こちらに知らせて、日を延ばしてでもそ う。さしあたっては、悲しさもさめてしまいそうな噂を大うした営みは執り行うべきですのに、どうしてそんな略式 ひとづて 将殿がいきなり人伝にお耳になさるようなことがあっては、 をもって急いですませてしまわれたのですか。どちらにし やはりほんとにおいたわしいことですから」と、この女房たところで同じ、 いまさらどうなるものではないけれども、 とが 二人は、深く心に咎めるところがあるので、ひた隠しにし人の一生の最後の作法なのに、山里の者たちからとやかく ていたのであった。 取り沙汰されるのでは、このわたしとしてもつらいことで おおくらのたいふ 〔四〕薫、浮舟の死を知大将殿は、入道の宮がご不例だったす」などと、あの腹心の大蔵大輔をお使者として仰せにな さんろう り拙いわが宿世を嘆くので、石山に参籠なさって、お取込 った。宇治では、このお使者がやってきたのにつけても、 みの最中なのであった。それでいっそう宇治のことが気が いよいよ悲しく思われるのに、今は何とも申しあげようの かりでいらっしやったのだが、 はっきりとカくかくのこと ない事の次第なので、ただ涙におばれていることを口実に があった由を知らせる人もいなかったので、こうした大変して、はきはきしたご返事もできすじまいであった。 な出来事があっても、まず第一に弔問のお使者の見えない 殿は、大輔の報告をお聞きになるにつけても、いくらな のを、宇治の邸では外聞のわるい情けないことと思ってい んでもあまりにあっけなく悲しいこととお思いになり、 たが、御荘園の人が石山に参上して、かようしかじかとお「なんと厭わしい宇治の地であることか。鬼でも住んでい ばうぜん 取り次ぎ願ったので、大将はあまりのことに茫然たる心地るのだろうか。どうして今まであのような所にあの女を住 になられて、お使者が、その翌日、まだ早暁にやってまい まわせておいたのだろう。思いもよらぬ筋でのまちがいが しゆったい った。「このような大事が出来したとあっては、それを聞 あったらしいのも、自分がああして放っておいたので、そ いてすぐさまにわたし自身で出向いていかなければならなれをよいことに宮も言い寄って無体なことをなさったので うかっ いところですが、こうして母宮のご不例のため身を慎んで、 はあろう」と思うにつけても、自身の迂闊で世間知らずの このような所に日限を定めてこもっていますので。昨夜の 心ばかりが悔まれて、お胸のしめつけられるようなお気持 ひと

4. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

巻名薫が宇治の姫君たちを回想して詠んだ歌、「ありと見て手にはとられず見ればまた行く方もしらず消えしかげろふ」 による。 梗概浮舟の失踪に、宇治の人々は動転した。不吉な予感を憂慮する母中将の君から再度の使者があり、匂宮も使者を遣わ した。浮舟の書置きから入水を知った右近は、雨をおかして宇治を訪れた中将の君に事実を打ち明け、薫の配下の反対を なきがら 押しきって、亡骸もないまま、その夜葬儀を営んだ。母女三の宮の病気平癒祈願に石山参籠中であった薫がこの事態を知 ったのは、葬送も終ってからである。彼は、軽率な葬儀をたしなめる使者を遣わす一方、浮舟を放置しておいたことを後 悔しつつ仏の諭しを思い、勤行に専心しようとするのであった。 匂宮は悲嘆のあまりに病床に臥した。それを耳にした薫は、浮舟との密通を確信するほかなく、恋しく悲しい気持も醒 める思いである。見舞に訪れても、さりげなく皮肉を言わずにはいられなかった。匂宮は、右近のかわりに二条院に参上 した侍従から、浮舟失踪の前後の経緯を聞きつつ、故人を追懐した。薫もやがて宇治を訪れ、浮舟の入水のことをはじめ て知る。悔い悲しむとともに、母親の悲嘆を察して中将の君を弔問し、弟たちの後見を約束した。 ひたちのすけ 薫は、浮舟の四十九日の法要を盛大に営んだ。中の君からもひそかに供物が届けられる。常陸介は、浮舟が自分の子供 たちとは比較にならない上流の生れであったことを実感するのだった。 一方、匂宮は、悲しみも少しは紛れるかと、新しい恋を求めはじめる。薫の数少ない思い人、小宰相の君 ( 女一の宮づ けそう きの女房 ) にも言い寄るが、世間並の懸想を拒む彼女は、なびかなかった。 もてあそ 夏、明石の中宮の法華八講の日、小宰相の君のもとを訪れようとした薫は、偶然氷を弄ぶ女一の宮をかいま見て、その 類ない高貴な美しさに魅了される。妻の女二の宮に同じ装いをさせてみたりもするが心は慰まず、しきりに中宮や女一の ひと 宮の身辺に出入りするようになった。女一の宮こそ、薫の思慕してやまぬあこがれの女であったのである。が、薫はそれ への近づきがたさを改めて痛感するほかなし糸。 、。吉よれなかった愛、かなわぬ恋に、薫の憂愁の思いは深まるばかりである。 しきぶきようのみや そのころ、式部卿宮 ( 蜻蛉の宮 ) の姫君が、父を喪って女一の宮のもとに出仕し、宮の君と呼ばれるようになった。か っては父宮が東宮妃にもと願い、また薫との縁談もあった姫君である。その没落、変転の運命を思い、女の宿運の定めな さを観するにつけ、薫は、いっしかまた、はかなく別れた宇治の姫君たちの上に、わが思いを馳せるのであった。 〈薫一一十七歳〉

5. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

よく言われるように、『源氏物語』には親子の情愛を取り上げることがかなり多く、有名な、 人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道にまどひぬるかな ( 『後撰和歌集』雑一・『大和物語』四十五段藤原兼輔 ) の和歌は、当面の宇治十帖に限ってみても、繰り返し三度も引歌として用いられている。その前半では八の 論宮のやさしい父親ぶりが、後半では浮舟の母中将の君が娘のことに苦労を重ねる姿が目に立つのである。 評 この母親は宿木巻に登場し、東屋巻で大活躍をするが、そのどれもが愛する娘のために奔走するものばか 巻りである。ここでは浮舟巻以降に限定して簡単にそのことについて述べる。 浮舟が薫によって宇治に囲われてから後、やがて匂宮が彼女と密通、間もなくそれを知った薫が、その裏 切りをなじる手紙を浮舟に送ったことから、事態はにわかに緊迫の度を増して、苦悩する浮舟の心中が丹念 か。この物語があのように清冽な男女の愛の賛歌を歌い上げることから出発して以来、その基調には激しい 幾変転があり、最後に宇治十帖に至って、たしかに男女の愛はとうてい人間にとって信頼に値しないものと なってしまったというほかはない。 しかし、にもかかわらず、物語の主題としては、終始ともかくも人間の 愛について語ることを放棄することは許されないのが王朝物語の宿命だったと思われる。浮舟を出家させた 後、いっさいの恩愛を断絶した信仰の世界を書こうとしなかったのはそのためであろう。 では、具体的に物語の最後の場に臨んで、浮舟には愛と名付けるべきものがまだ残っていたと言えるのか 私はそのとおりだと思う。そして、それは母への愛である。

6. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

引歌覧 427 ( 古今・恋四・六八九読人しらず ) 返歌「絶え間のみ」の歌にふまえられた。引歌の、宇治橋姫 敷物の上に衣を片敷いて、今夜も私の訪れを一人で待ってい の「絶え間」と薫訪問の「絶え間」の両意を重ねる発想を るのだろう、宇治の橋姫は。 根拠に、訪問が途絶えて薫から忘れられる身の上となって は不安だ、と切り返した。 前出 ( ↓橋姫 3 四七九ハー上段など ) 。物語では、作文会のあっ むめえ うぐひす ・・梅が枝に来ゐる鶯や春かけてはれ春か た夜、薫がこの歌を朗誦した。それを耳にした匂宮は、宇 けて鳴けどもいまだや雪は降りつつあはれそこよ治では浮舟が薫の来訪を待っているというのだろうと、嫉 むめがえ しゃ雪は降りつつ ( 催馬楽「梅枝」 ) 妬に胸騒く 梅の花の咲く枝に来て、とまっている鶯よ、冬から春にかけ ・・ 8 白雪の色わきがたき梅が枝に友待っ雪そ消え残 りたる て、ハレ、春にかけて鳴いているけれど、いまだに、雪は ( 家持集 ) 次々と降り、アハレ、ソコヨシャ、雪は次々と降り降り : 白雪の色と、その色とを見分けがたい梅の花の枝に、友を待 つかのように、あとから降ってくる雪が消え残っている。 前出 ( ↓梅枝 3 四一〇ハー上段 ) 。物語では、匂宮がこの歌を さくもんえ 謡う。二月十日ごろ、宮中で作文会があり、薫も同席して 前出 ( ↓若菜上圈三九八ハー下段 ) 。物語では、匂宮の宇治行き いる。折にかなった管絃の調べに、宮の美声が際だっ。 の道中について、京では「友待つばかり消え残りたる雪」 ・・ 6 春の夜の闇はあやなし梅の花色こそ見えね香や であるのに、こちらは「やや降り埋みたり」と対照的に述 はかくるる ( 古今・春上・四一凡河内躬恒 ) べる。なお、他にも同想の歌がある ( 前出若菜上参照 ) 。 たちばな 春の夜の闇というものは、暗闇の役目も果さず妙なものだ。 ・ 5 今もかも咲きにほふらむ橘の小島の崎の山吹の 梅の花は、その色こそ目にも見えないが、香だけは隠れよう花 ( 古今・春下・一 = 一読人しらず ) もなく分ってしまう。 今ごろはみごとに咲きほこっていることだろうか。橘の小島 の崎の山吹の花は。 一前出 ( ↓若菜上回一一九八上段など ) 。物語では、二月十日ご ろの作文会に出席した薫の生来の芳香について、「闇はあ「橘の小島」は宇治川の島か。一説には、奈良県明日香村 ゃなし」さながらのすばらしさだとして讃美する。匂宮の橘とする。この歌などが根拠になって、「橘の小島」は山 謡う「梅が枝」などともひびきあう措辞である。 吹を想起させる歌枕となった。物語では、匂宮が浮舟を伴 むしろころもかたし こよひ ・・ 6 さ筵に衣片敷き今宵もや我を待つらむ宇治の橋って宇治川を渡った時、「これなむ橘の小島」と言った。 やみ

7. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

ひとよろひころもばこ 思す。暁に帰るに、かの御料にとてまうけさせたまひける櫛の箱一具、衣箱一侍従が宇治の邸に。 ニもともと浮舟のためにと準備 一具贈物にせさせたまふ。さまざまにせさせたまふことは多かりけれど、おど した品々を、侍従に下賜した。 語 三浮舟のために。 物ろおどろしかりぬべければ、ただ、この人におほせたるほどなりけり。何心も四侍従に与えるのに相応な程度 氏 に。「おほす」は、負わせる意。 五要請のままに宮に参上して。 源なく参りて、かかることどものあるを、人はいかが見ん、すずろにむつかしき 六周囲の女房たちはどう思うだ わざかなと思ひわぶれど、 いかがは聞こえ返さむ。右近と二人、忍びて見つつ、ろう、思いがけず面倒なこと。 セどうして辞退申せよう。 ^ 以下、宇治に帰って、右近と つれづれなるままに、こまかにいまめかしうしあつめたることどもを見ても、 ともにある場面。ひそかな対話。 、うぞく しみじう泣く。装束もいとうるはしうしあつめたる物どもなれば、「かかる御九忌にこもり、来訪者もない。 にいろ 一 0 鈍色に沈む忌中のなかで、贈 物の衣料の華やかさが際だっ。 服に、これをばいかで隠さむ」など、もてわづらひける。 = 薫。「なほ」とあり、前に宇治 大将殿も、なほ、、 しとおばっかなきに、思しあまりておは行を決しかねていた気持が揺曳。 〔セ〕薫、右近から実情 三宇治に。 を聞き、嘆きつつ帰京 一三八の宮家の人々の、自分にま したり。道のほどより、昔のことどもかき集めつつ、「い つわる因縁を思う。 ちぎ かなる契りにて、この父親王の御もとに来そめけむ。かく思ひかけぬはてまで一四俗聖としての八の宮への尊敬 に始る交渉が、因縁深い出来事の 思ひあっかひ、このゆかりにつけてはものをのみ思ふよ。いと尊くおはせしあ数々を招来させたという思い 力し・ : っ 一五浮舟との思いがけない邂逅と、 のちょ たが またその思いもよらぬ死別をさす。 たりに、仏をしるべにて、後の世をのみ契りしに、、いきたなき末の違ひめに、 一六大君、中の君、浮舟がそれそ 一九 ニ 0 思ひ知らするなめり」とぞおばゆる。右近召し出でて、薫「ありけんさまもはれ自分に憂愁を抱かせた。 ( 現代語訳三一一一一ハー ) ぶく

8. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

43 浮舟 ( 現代語訳一一七五ハー ) ひと したらむだに、めづらしき中のあはれ多かるべきほどなり。まいて、恋しき人一五亡き大君にゆかりのない女を 相手にする場合でさえ。「 : ・だに」 を受け、「まして」浮舟は、と続く。 によそへられたるも、こよなからず、やうやうものの心知り、都馴れゆくあり 一六得がたい逢瀬の情感。 さまのをかしきも、こよなく見まさりしたる、い地したまふに、女はかき集めた宅↓前ハー九行。 一 ^ 都の女らしくなる様子 うち る心の中にもよほさるる涙ともすれば出で立つを、慰めかねたまひつつ、 一九宇治橋のように末長い契りは 朽ちない、不安に思って心配する な、の意。「あやぶむ」に「踏む」を 薫「宇治橋の長きちぎりは朽ちせじをあやぶむかたに心さわぐな 掛け、「朽ち」「橋」と縁語。 いま見たまひてん」とのたまふ。 ニ 0 私が薄情か否かは。 ニ一「絶え間」は、橋の断絶、訪問 の途絶え、の両意。訪問がなくて 浮舟絶え間のみ世にはあやふき宇治橋を朽ちせぬものとなほたのめとや は不安だと切り返した。「忘らる みす る身を宇治橋のなか絶えて人も通 さきギ、きよりもいと見棄てがたく、しばしも立ちとまらまほしく思さるれど、 はぬ年ぞ経にける」 ( 古今・恋五 人のもの言ひのやすからぬに、今さらなり、心やすきさまにてこそなど思しな読人しらす ) 。 一三いまさら長居すべきでもない、 して、暁に帰りたまひぬ。いとようも大人びたりつるかなと、心苦しく思し出京に引き取ってから気楽な所でゆ つくり逢おう。匂宮とは対照的。 つることありしにまき、りけり。 0 逢瀬の二人の心の距離に注意。 宇治の秀逸な風物も薫の大君追慕 きさらギ一 二月の十日のほどに、内裏に文作らせたまふとて、この宮の心象風景でしかなく、狂熱的な 〔一六〕薫の浮舟を偲ぶ吟 匂宮の場合とは対照的。 さくもん 誦に、匂宮焦慮する も大将も参りあひたまへり。をりにあひたる物の調べども = 三漢詩を作り合う作文の会。 そら・じよう ニ四双調 ( 春の調べ ) に整えられる。 に、宮の御声はいとめでたくて、梅が枝などうたひたまふ。何ごとも人よりは一宝↓梅枝 3 一八九ハ ' 注の歌。 ニ 0 一九 むめ ふみ ニ四

9. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

渡してむーと思ひてのたまふも、「かの人の、のどかなるべき所思ひまうけた一匂宮が。以下、浮舟の心中。 ニ昨日も宮から文が届けられた。 きのふ 三薫の浮舟引取りの計画も。 りと、昨日ものたまへりしを、かかることも知らで、さ思すらむよ」と、あは 語 四先日逢った時の匂宮の姿が。 物れながらも、そなたになびくべきにはあらずかしと思ふからに、ありし御さま = ↓四〇【 ' 一一行に、「心憂き」。 六こんなくよくよせずおっとり こころう 源 していたときのほうが、私は気楽 の面影におばゆれば、我ながらも、うたて心憂の身やと思ひつづけて泣きぬ。 でうれしかった。薫は、浮舟が自 薫「御心ばへの、かからでおいらかなりしこそのどかにうれしかりしか。人の分 ( 薫 ) の途絶えを悲しむと勘違い セ少しでも並々の情愛だったら、 いかに聞こえ知らせたることかある。すこしもおろかならむ心ざしにては、か身分も重く道中も険しいのだから、 こうして訪れはすまい、の気持。 ついたち うまで参り来べき身のほど、道のありさまにもあらぬを」など、朔日ごろのタ ^ 月はじめの日は、タ月夜。男 が女を訪ねるのにふさわしい時刻。 をとこ づくよ 月夜に、すこし端近く臥してながめ出だしたまへり。男は、過ぎにし方のあは九大君に似る浮舟を前に、大君 を追慕。「男」「女」の呼称に注意。 れをも思し出で、女は、今より添ひたる身のうさを嘆き加へて、かたみにもの一 0 薫と匂宮の板挟みになる苦悩。 それを、身の不運ととらえる趣。 = 以下、宇治川周辺の秀逸な景。 思はし。 ぶうのはれ かんてい 寺 : つば・ 「蒼茫タル霧雨之霽ノ初メニ寒汀 すさき かすみ さぎ えんらんの 山の方は霞隔てて、寒き洲崎に立てる鵲の姿も、所がらはいとをかしう見ゅニ鷺立テリ重畳セル煙嵐之断工 タル処ニ晩寺ニ僧帰ル」 ( 和漢朗詠 しばっ さぎ るに、宇治橋のはるばると見わたさるるに、柴積み舟の所どころに行きちがひ集下・僧 ) 。「鵲」は鷺。 一ニ宇治を特徴づける橋。↓注一一一。 めな たるなど、ほかにて目馴れぬことどものみとり集めたる所なれば、見たまふた一三↓総角一一三ハー注五。 一四宇治の景に、やはり亡き大君 かみ を回想。宇治は大君追慕の故地。 びごとに、なほ、その昔のことのただ今の心地して、いとかからぬ人を見かは ふ かささぎ ゅふ

10. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

源氏物語 20 すめる方は何とも思さねば、宇治へ忍びておはしまさんことをのみ思しめぐら一 , 希望する官職があり。 ニ匂宮になんとか取り入ろうと ないき よるひるニ す。この内記は、望むことありて、夜昼、いかで御心に入らむと思ふころ、例する。昇進をねらう下心。 三匂宮は大内記の下心を見抜き、 かた よりはなっかしう召し使ひて、匂宮「いと難きことなりとも、わが言はんこと無理な案内を命ずる。 四宇治の女が昔の恋人であるか びん のように言う。以下、虚実を混じ はたばかりてむや」などのたまふ。かしこまりてさぶらふ。匂宮「いと便なき えて大内記を説得。 ことなれど、かの宇治に住むらむ人は、はやうほのかに見し人の行く方も知ら五大内記の話で思いあたったと して、下心を見抜かれぬよう装う。 ずなりにしが、大将に尋ねとられにけると聞きあはすることこそあれ。たしか六昔の恋人かどうか。 セ木幡山あたり。大内記は、以 には知るべきゃうもなきを、ただ、ものよりのそきなどして、それか、あらぬ前の匂宮の宇治行を知らぬらしい ^ 亥の時は午後九時から十一時、 子の時は午後十一時から午前一時。 かと見定めむとなむ思ふ。いささか人に知らるまじき構へま、、 : ゝ 。しカカすべき」 女のもとに忍び込むのに好都合な とのたまへば、あなわづらはしと思へど、大内記「おはしまさんことは、いと荒時間帯を設定している。 九匂宮の「人に知らるまじき・ : 」 き山越えになむはべれど、ことにほど遠くはさぶらはずなむ。タっ方出でさせを受けて言う。従者以外には誰に も知られず、微行として完璧。 ゐねとき おはしまして、亥子の刻にはおはしまし着きなむ。さて暁にこそは帰らせたま一 0 匂宮微行の深い事情。 = 中の君を迎え取る以前。 と - も はめ。人の知りはべらむことは、ただ御供にさぶらひはべらむこそは。それも、三上文から反転し、あらためて 大内記に、細心の注意を要請。 ふた 深き心はいかでか知りはべらむ」と申す。匂宮「さかし。昔も一たび二たび通一三反省しつつも、あきらめがた 。匂宮の好色ぶりが躍如。 かろがろ ひし道なり。軽々しきもどき負ひぬべきが、ものの聞こえのつつましきなり」 0 薫にも親しく仕え、しかも昇進 四 一一ひと へ