少将 - みる会図書館


検索対象: 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩
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1. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

ようものを」などとあるので、少将の尼は、「尼君がご不らしても、人の情けがお分りにならないはずもないお方で 在では、おとりなし申しあげられる人もおりませんし、こ あるのに、まるで何のわきまえもない人よりもあまりにひ のままではほんとに世間知らすのようでございましよう」 どいおあしらいなのが心外です。それというのも何かお懲 とうながすものだから、女君が、 りになったことでもあるのでしようか。やはりなんそわけ うきものと思ひも知らですぐす身をもの思ふ人と人は があって、こうしていつまでも世の中を恨んでおられるお . 知 . ーり . ・け「り . 方なのでしようか」などと様子を尋ねて、じっさいもっと おももち ( 情けない身の上かどうかもよく分らずにおります私のこと立ち入って知りたそうな面持でいらっしやるけれども、少 を、物思いのある身とあなたはお察しになるのですね ) 将の尼も詳しいことはどうして話して聞かせられよう、た ことさら返事をするというのでもなく口にするのを、少将だ、「尼君がお世話申しあげなければならないお方ですの の尼が聞いてお伝え申しあげると、中将はほんとに感にオ 、長年のあいだ離れ離れの有様で過しておられましたの えぬ思いで、「やはり、ほんの少しでもこちらへお出にな を、初瀬にお参りの折お出会いになって、お引き取り申さ ってくださるようにお勧めしてください」と、その場の人れたのです」と言う。 たちをどうしてよいか困らせるほど恨み言をおっしやる。 女君は、話に聞いてはただ気味わるくばかり思っている 少将の尼が、「不思議なくらいにすげないご様子なのでご老尼君の近くにうつぶせに臥して、眠ることもできずにい ざいますよ」と言って、奥にはいって見ると、姫君は、、 る。宵のうちから寝入っている老尼君は、なんとも言いよ 習 つもはかりそめにものぞかれたことのない老尼君のお部屋うのない大げさないびきをかきつづけて、そのそばにはま にはいってしまわれたのであった。なんともあきれる思い た、それに劣らず年老いた尼たちが二人、我劣らじといっ 手 で、これこれの次第と中将に申しあげると、中将は、「こ ししびきをかいている。女君はじつに恐ろしくて、今 うした所で物思しし、 、、こ沈んでいらっしやるご心中を思えばお夜この人たちに食い殺されてしまうのではないか、と思う いたわしく思われますし、それにおおよそのご様子などか につけても、 いまさら惜しまれる身ではないけれど、例の はっせ

2. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

い心地でおりますので、このあたりの紅葉もどんなにか美のお約束のしるしにしてくだされ」とお責めになるので、 しかろうと存じまして。やはり昔にたち返って旅寝もして 少将の尼が、部屋にはいって見ると、女君はわざわざでも みたいような木陰です」と言って、外を眺めていらっしや人に見せてやりたくなるほど美しい姿をしておられる。薄 にびいろあやうわぎ かんぞういろ る。尼君は、例のとおり涙もろくて、 鈍色の綾の表着、その下に萱草色などの落ち着いた色のも こがらし 木枯の吹きにし山のふもとにはたち隠るべきかげだに のを着て、まことに小柄で、姿かたちも美しくはなやかな いっえ ぞなき 顔だちに、髪は五重の扇をひろげたかのように、うるさい ふもと すそふぜい ( 木枯が紅葉を吹き散らしてしまった山の麓には、身を隠す ほど豊かな裾の風情である。きめこまやかでかわいらしい ことのできるような木陰すらもございません。女君も尼にな面ざしが、まるで念入りに化粧したようで、つややかに赤 じゅ ってしまったこちらは、あなたのお泊りいただける所ではな みがさしている。そして勤行などをなさるにも、やはり数 きちょう どくじゅ くなりました ) 珠はそば近くの几帳にうちかけて、一心にお経を読誦して とおっしやるので、中将は、 いらっしやるお姿は、絵にも描きたいくらいである。この こずゑ 待つ人もあらじと思ふ山里の梢を見つつなほそ過ぎう ようなご様子を目にするたびに少将の尼は涙を抑えきれな い心地がするものだから、なおさらのこと、思いを寄せて ( わたしを待っていてくださる人もあるまいと思うこの山里 いらっしやる男ならどんな気持で拝見なさることかと思っ ふすま の木々の梢を眺めながらも、やはりこのまま素通りはできか て、ちょうど格好な機会でもあっただろう、襖の掛け金の 習 ねるのです ) そばにあいていた穴を中将に教えて、じゃまになりそうな しまさら何を言おうともかいのないお方のことを、なお几帳などを引いてのけておいた。中将は、まったくこれほ 手 も際限なくおっしやって、「尼におなりになったという、そ どまで美しい人とは思ってもみなかった、なんとも申し分 あやま のない女だったのに、とまるで自分が過ちを犯しでもした のお姿を、ほんの少しでもよいからのぞかせてください」 と、少将の尼におっしやる。「せめてそれだけでも、さき かのように惜しくも残念にも思われ、悲しくてたまらず、 ひと

3. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

思ふ。 一妹尼が、奥に入っている間に。 ニ中将は、雨の降りやまぬ様子 まらうと に困って。かいま見た女のことを 尼君、入りたまへる間に、客人、雨のけしきを見わづらひて、少将といひし 語 尋ねるのに格好の機会を得た。 四 物人の声を聞き知りて、呼び寄せたまへり。中将「昔見し人々は、みなここにも三↓「少将の尼君」 ( 一六七ハー ) 。 氏 かって女房として少将と名のった。 かた 源のせらるらんやと思ひながらも、かう参り来ることも難くなりにたるを、心浅四自分が婿として通 0 ていた往 時の女房たち。 たれ な きにや誰も誰も見なしたまふらん」などのたまふ。仕うまつり馴れにし人にて、五自分 ( 中将 ) が薄情な男ゆえと。 こう言って相手の考えをさぐる。 らう あはれなりし昔のことどもも思ひ出でたるついでに、中将「かの廊のつま入り六少将は当時親しく自分に世話 をしてくれた女房なので。 すだれひま つるほど、風の騒がしかりつる紛れに、簾の隙より、なべてのさまにはあるまセ寝殿に通ずる廊の端。寝殿の 南廂に招き入れられた時のこと。 じかりつる人の、うち垂れ髪の見えつるは、世を背きたまへるあたりに、誰ぞ ^ 並々ならぬ身分の美しい女。 九後ろに長く垂れた髪。浮舟。 うしろで となん見驚かれつる」とのたまふ。姫君の立ち出でたまへりつる後手を見たま一 0 少将の尼は。 = まして、もっとよく浮舟を見 へりけるなめり、と思ひて、「ましてこまかに見せたらば、心とまりたまひなせたら。以下、少将の心中。 三亡き姫君 ( 中将の妻 ) は。浮舟 が格段にまさるとする。 んかし。昔人はいとこよなう劣りたまへりしをだに、まだ忘れがたくしたまふ 一三独り決めにして。中将の浮舟 めるを」と、心ひとつに思ひて、少将の尼「過ぎにし御事を忘れがたく、慰めか執着を予測する少将は、慎重にか まえて、以下の返答もはぐらかす。 ねたまふめりしほどに、おばえぬ人を得たてまつりたまひて、明け暮れの見も一四尼君 ( 妹尼 ) は。 三思いもかけぬ人。浮舟をさす。 のに思ひきこえたまふめるを、うちとけたまへる御ありさまを、いかでか御覧一六見て心慰められるもの。 がみ 六 七 ひと

4. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

一浮舟をも自分をも「もの思ふ 中将「山里の秋の夜ふかきあはれをももの思ふ人は思ひこそ知れ 人」として、共感を求める歌。 ニうまく取りつくろって、返歌 おのづから御心も通ひぬべきを」などあれば、少将の尼「尼君おはせで、紛らは 語 を代作できる者もいないとする。 三世間知らずのようだ、の意。 物しきこゅべき人もはべらず、いと世づかぬゃうならむ」と責むれば、 氏 四自分では情けない身とも思わ 四 源 ぬのに、として、苦悩をおしたて 浮舟うきものと思ひも知らですぐす身をもの思ふ人と人は知りけり る中将の懸想を切り返した歌。 五特に返歌というのでもないが。 わざと言ふともなきを、聞きて伝へきこゆれば、 いとあはれと思ひて、中将 六少将の尼が、中将に。 セ少将の尼や左衛門 「なほ、ただ、いささか出でたまへと聞こえ動かせ」と、この人々をわりなき ひさし ^ 浮舟を廂に連れ出そうとして、 まで恨みたまふ。少将の尼「あやしきまで、つれなくそ見えたまふや」とて、入奥の母屋に入って見ると。 九母尼のもとに。 おいびと りて見れば、例は、かりそめにもさしのぞきたまはぬ老人の御方に入りたまひ一 0 少将の尼は、中将を拒む浮舟 の態度があまりにも意外。 にけり。あさましう思ひて、かくなん、と聞こゆれば、中将「かかる所になが = 以下、浮舟のこと。 三心中を察するとかわいそうで。 なき一け めたまふらん心の中のあはれに、おほかたのありさまなども情なかるまじき人一三おおよその様子などから察し て、人の情けの分らぬはずもない の、いとあまり思ひ知らぬ人よりもけにもてなしたまふめるこそ。それももの方なのに、まるでものの分らぬ人 以上に薄情なあしらいぶり。 懲りしたまへるか。なま、、ゝ をし力なるさまに世を恨みて、いつまでおはすべき人一四男との関係でひどいめに遭わ された経験でもあるのか、の意。 おば そなどありさま問ひて、いとゆかしげにのみ思いたれど、こまかなることは、三以下の事柄について、やはり、 お聞かせください、と尋ねる趣。 一九 いかでかは言ひ聞かせん、ただ、少将の尼「知りきこえたまふべき人の、年ごろ一六どんな事情で。

5. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

ていたのだからかえって気が楽であった、今はどうしたら 気弱な性分から、丸木橋をこわがって戻ってきたとかいう よかろう、と思う無気味さにつけても、あられもない姿で 人のように、、い細くやるせない気持である。この部屋には この世に生き返り、人並に回復したばかりに、またしても こもきを伴っていらっしやったのだが、もう年ごろの女ら 語 物しく、たまさか訪れたこの客人の中将が風流めかしくかま昔の疎ましかったあれこれのことを思い出しては心も乱れ、 氏 、らにわずらわしいこと、恐ろしいことに、いを・砕くことよ、 えておられる所へ戻ってしまっていたのだった。女君は、 源 あのときに死んでしまっていたら、地獄に堕ちてこれより もう帰ってくるかもう帰ってくるか、と待っていらっしゃ もの もっと恐ろしい姿をした鬼どものなかにいたことだろうに、 るけれども、なんともはや頼りにならぬ付き人ではある。 と想像せずにはいられない。 中将は、いかに言い寄ってみたところでそのかいもない まんじりともせぬままに、日からのことをいつにもまし のに閉ロして帰ってしまったので、少将の尼は、「ほんと て思い続けていると、ほんとにわが身の上が情けなく、 に思いやりもなく引込み思案でいらっしゃいますこと。せ 「父上とうかがっていたお方のお顔を拝見したこともなく、 つかくのご器量なのにもったいない」などと悪口を言い 遠くはるかな東国に幾年月を送って、たまたまお近づきが みな同じ部屋で寝てしまった。 もう夜中になっていようかと思われるころに、老尼君が得られて、うれしくも頼もしくも存じあげていた姉上のお せき そばも、思いがけぬことでそのままご無沙汰になってしま 咳にむせんで起き出してきた。炉影に見る頭髪は真っ白で、 、ああいう形にしろこの自分を迎えてくださるおつもり 黒いものをかぶっていて、この女君が臥せっておられるの をいぶかしがって、鼬とかいうものがそういうしぐさをすでいらっしやった大将の君のご縁にすがって、おいおいこ ひたい の身のったなさも慰められようかと思ったその間際のとこ るそうだが、額に手を当てて、「おかしな。これはどなた」 ろで、嘆かわしくもまちがいを犯してしまった身の上のこ と、からみつくような声をかけてこちらを見ているのは、 とを考え続けていくと、宮を少しでもいとしいお方と思し まったく今にも取って食おうとするのだという気がする。 りようけん 自分が鬼にさらわれてきたあのときのことは、正気も失せ申しあげたというその了簡が、そもそもまことに不都合だ

6. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

445 各巻の系図 △八の宮 常陸介 中将の君 ( 親、母君、母、上 ) 匂宮の乳母 受領 ( 家主 ) 女 ( 少将の妻、少将の方 ) 薰の随身 ( 舎人 ) 女 内舎人 左近少将 ( 少将 ) 右近大夫 姉 ( 女 ) 浮舟の乳母曾ど、 ) 占 右近 大内記 ( 家司、 0 婿、内記、式部少輔、 侍従の君・ ( 若き人 ) 大輔の君 ( 大輔のおとど ) ーー右近 大蔵大輔 ( 仲信 ) 女 少将 因幡守 弁の尼 ( 尼、尼君 ) 山雲権守時方 ( 御 守 0 君、左衛門大夫、時方朝臣 ) 宿守 △大君 ( 故姫君 ) 中の君 ( 女君、宮の御方、上、 対の御方、宮の上 浮・卅 ( 君、女君、女 )

7. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

447 各巻の系図 前の北の方 《蜻蛉の宮 ( 蠍第宮、父宮、父 《八の宮 ( 父親王 中将の君の母、親、 常陸介 ( 常陸守、守、常陸前守 ) 宇治の宮 △大君 ( 昔の人、橋姫 ) 左近少将 ( 少将 ) 子 出雲権守時方 ( 大夫 ) 侍従の君 子達阿闍梨 ( 律師 ) 弁の尼 ( 尼君 ) 右近大夫 ( 大夫 ) 内舎人ー女 浮舟の乳母 叔父の阿闍梨 女 侍従 宮の君 ( むすめ、女君、君、姫君 ) の君 ( 右大 近徳 宮、女君、宮の上、対の御 方、宮の御二条の北の方 浮舟電 ~ 君、女、 大蔵大輔 ( 仲信 ) 大弐 小宰相の君 ( 小 大納言の君 弁のおもと 中将のおもと ( 中将の君 ) 宰相の君、

8. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

によりて碁聖といへり」 ( 花鳥余 ばれしうもてなしておはしませ。あたら御身を。いみじう沈みてもてなさせた 情 ) 。『大和物語』『古今著聞集』 くちを まふこそ口惜しう、玉に瑕あらん心地しはべれ」と言ふ。夕暮の風の音もあは『今昔物語集』などにもみえる人物。 一四三番勝負に一一敗した意。 三暗に、浮舟のほうが僧都より れなるに、思ひ出づること多くて、 強かろう、との推測 そで ゅふべ 一六尼削ぎの、頬に垂れた前髪が、 浮舟心には秋のタをわかねどもながむる袖に露ぞみだるる みつともない意。髪が薄いカ ニ 0 ふみ 月さし出でてをかしきほどに、昼、文ありつる中将おはし宅少将の碁の趣味から、今後も 〔一九〕中将来訪浮舟、 相手をさせられないかと厄介。 母尼の傍らに夜を過す たり。あなうたて、こはなぞ、とおばえたまへば、奥深く一 ^ せつかく年若の御身なのに。 一九「露」に涙を、「みだるる」に心 乱れる意をもこめる。自分には秋 入りたまふを、少将の尼「さもあまりにもおはしますかな。御心ざしのほども、 のタの情趣も解せないが、とする。 あはれまさるをりにこそはべるめれ。ほのかにも、聞こえたまはんことも聞かニ 0 ↓前ハー三行。 ニ一以下、浮舟の心中に即す。 しとうし一三中将の厚志。秋の夜更け、遠 せたまへ。しみつかんことのやうに思しめしたるこそ」など言ふに、、 路はるばるの訪問を感動的とする。 つかひ ろめたくおばゅ。おはせぬよしを言へど、昼の使の、一ところなど問ひ聞きたニ三中将の申される言葉を。 ニ四言葉を聞くだけで深い仲にで いと言多く恨みて、中将「御声も聞きはべらじ。ただ、け近くてもなりそうに恐れて。「しみつく」 習るなるべし、 ↓東屋一九四ハー一一行。 一宝少将が中将を手引せぬかと。 聞こえんことを、聞きにくしとも思しことわれ」と、よろづに言ひわびて、 手 実浮舟が一人居残っているのを こ、 ) ろう ニ七 中将「いと心憂く。所につけてこそ、もののあはれもまされ。あまりかかるは」聞き出していたのだろう。 8 毛寂しい山里だから、物事に感 ずる度合も深かろうに、の気持。 などあはめつつ、 ニ四 ニ六

9. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

った。↓浮舟八四ハー二行。 へなしと思ひて、「かかる心の深くありける人なりければ、はかなき答へをも 一四浮舟の出家で人々が動転。 しそめじと思ひ離るるなりけり。さてもあへなきわざかな。いとをかしく見え一五中将に浮舟の出家を知らせた。 一六中将の落胆する気持。以下に ひとよ も、「あへなし」が繰り返される。 し髪のほどを、たしかに見せよと、一夜も語らひしかば、さるべからむをりに 宅出家の願望を強く抱いていた ひと 女だったので。以下、中将の心中。 と言ひしものを」と、いと口惜しうて、たち返り、中将「聞こえん方なきは、 一 ^ ↓一七二謇八行・一七四ハー末。 一九手引を求めた言葉。 岸とほく漕ぎはなるらむあま舟にのりおくれじといそがるるかな」 ニ 0 少将の尼も、折を見て浮舟に 例ならず取りて見たまふ。もののあはれなるをりに、今は、と思ふもあはれな手引することを約束していたか。 しがん ニ一「岸」は此岸 ( 彼岸に対する ) 。 「海人」「尼」、「乗り」「法」の掛詞。 るものから、いかが思さるらん、いとはかなきものの端に、 「岸」「漕ぎはなる」「海人舟」「乗 ニ四 り」が縁語。自分も出家したい意。 浮舟心こそうき世の岸をはなるれど行く方も知らぬあまのうき木を 一三これで終り、と思うのも。 と、例の、手習にしたまへるを包みて奉る。浮舟「書き写してだにこそ」とのニ三これまで返歌を拒んできた浮 舟が返歌を詠む理由を語り手も知 らぬとする。実は、出家後の心の たまへど、少将の尼「なかなか書きそこなひはべりなん」とてやりつ。めづらし 余裕がそうさせたのであろう。 ニ四「海人」「尼」の掛詞。「うき 習きにも、言ふ方なく悲しうなむおばえける。 ニセ 木」は水に漂う木。憂き世を離れ ものまうで ても、わが身の寄るべなさを嘆く。 物詣の人帰りたまひて、思ひ騒ぎたまふこと限りなし。 〔一三〕妹尼小野に帰り悲 手 一宝少将の尼が、中将に。 嘆にくれ法衣を整える 妹尼「かかる身にては、すすめきこえんこそはと思ひなしニ六中将の感懐。 毛初瀬詣でに出かけた妹尼一行。 はべれど、残り多かる御身を、いかで経たまはむとすらむ。おのれは、世にはニ ^ 自分が出家の身として。 かみ ニ五 へ ニ六 のり

10. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

まさかこうして中将が訪ねて来られるにつけても、珍しく と忌まわしい昔のことを思い出さずにはいられまい。そう もまたしみじみと深い感慨のわいてくるような問わず語り した筋のことはいっさい考えず忘れてしまいたい」と思っ ている。 をも話し出すにちがいない。 姫君のほうは、自分は自分なりに思い出すことが多くて、 尼君が奥にはいっておられる間に、客人の中将は雨のあ 虚ろに外を眺めていらっしやる様子がまことに美しくかわがる様子も見えないのに困って、少将といった尼の声を聞 きおばえていたのでお呼び寄せになる。「昔お会いした いらしく見える。白い単衣のまるで風情もなくさつばりし はかま ひわだ たものに、袴も、こうした所では檜皮色が習わしになって方々は今もみなこちらにおいでなのだろうかと心こよゝ りながらも、こうしてやってまいりますこともむすかしく いるのだろうか、つやもなく黒ずんだのをお着せ申してい なりましたのを、薄情者とどなたもお思いでしようか」な るので、このような着物も昔とはちがって妙な格好になっ たものよと思い思い、ごわごわした肌ざわりのよくないも どとおっしやる。少将の尼は以前いつもおそばでお世話申 していた人なので、中将はしみじみと悲しい昔のことをあ のを着ていらっしやるのが、かえってじつにひと風情のあ ろう る姿である。尼君のおそばに仕える女房たちが、「ただ亡れこれ思い出している、その話のついでに、「あの廊の突 すき すだれ 当りをはいったところ、風が強く吹いて簾の揺れ動いた隙 き姫君が生き返っていらっしやったような心地がしており 間から、並々の様子とはとても思われない人の垂れ髪の姿 ますところへ、中将殿までお見えになったのですから、ほ が見えたのですが、世をお捨てになった方々のお近くで、 んとに胸もいつばいになります。どうせなら、昔と同じく 習 いったいこれはどなたなのだろうと、目を疑わずにはおら こちらにお通いになるようにしてさしあげたいもの。ほん とに似合いの御仲でございましようよ」と話し合っているれませんでした」とおっしやる。少将の尼は、姫君が端近 手 くお立ち出でになった後ろ姿をごらんになったものらしい のを聞いて、女君は、「まあなんということを。この世に と思って、「なおもっとよく見せたらきっと心ひかれるに 生き長らえて、この先どんなことがあろうと人に縁づくよ うなことがあってよいものか。そんなことになったらきっ ちがいない。亡くなった姫君はこのお方とは比べものにも うつ ひとえ