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検索対象: 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩
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1. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

あるじ この家の主人、妹尼が、小君 主そこの君に物語すこし聞こえて、妹尼「物の怪にやおは一 0 〔 = 〕小君、姉に会わず、 。浮舟に代っての対話である。 むなしく帰途につく すらん、例のさまに見えたまふをりなく、なやみわたりたニ物の怪のせいか。以下、発見 語 されて以来の浮舟について語る。 三出家して尼姿になったこと。 物まひて、御かたちも異になりたまへるを、尋ねきこえたまふ人あらばいとわづ 氏 四浮舟を捜し求める人々が、浮 源らはしかるべきことと、見たてまつり嘆きはべりしもしるく、カくいとあはれ舟の尼姿に失望するだろうと、妹 尼らは懸念したとする。自分たち 六 も出家には反対だった、の気持。 に心苦しき御事どものはべりけるを、今なんいとかたじけなく思ひはべる。日 五いたわしく胸の痛む事情があ ごろも、うちはヘなやませたまふめるを、いとどかかることどもに思し乱るるれこれあったのを。深い情愛を寄 せていた薫が捜し当てたこと。 にや、常よりもものおばえさせたまはぬさまにてなんーと聞こゅ。所につけて六以前から知っていたら、出家 などさせなかったのに、の気持。 あるじ セ薫の手紙などをいただいて。 をかしき饗などしたれど、幼き心地は、そこはかとなくあわてたる、い地して、 ^ 山里らしい 、しゃれたご馳走。 小君「わざと奉れさせたまへるしるしに、何ごとをかは聞こえさせんとすらむ。 九いたたまれないような気持。 一 0 薫がわざわざ私をお遣わしに なったしるしとして。 ただ一言をのたまはせよかし」など言へば、妹尼「げに」など言ひて、かくな 一一妹尼は、小君の言葉に納得。 むと移し語れども、ものものたまはねば、かひなくて、妹尼「ただ、かく、お三浮舟にそのまま伝えるが。 一三はっきりしないご様子をお話 し申すほかあるまい ばっかなき御ありさまを聞こえさせたまふべきなめり。雲の遥かに隔たらぬほ 一四この地は雲のはるか遠くに隔 たった所でもないので。「雲の遥 どにもはべるめるを、山風吹くとも、またも、かならず立ち寄らせたまひなん かに・ : 山風吹くともあたりは引 歌表現らしいが、末詳。 かし」と言へば、すずろにゐ暮らさむもあやしかるべければ、帰りなんとす。 、一と ものけ

2. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

一浮舟をも自分をも「もの思ふ 中将「山里の秋の夜ふかきあはれをももの思ふ人は思ひこそ知れ 人」として、共感を求める歌。 ニうまく取りつくろって、返歌 おのづから御心も通ひぬべきを」などあれば、少将の尼「尼君おはせで、紛らは 語 を代作できる者もいないとする。 三世間知らずのようだ、の意。 物しきこゅべき人もはべらず、いと世づかぬゃうならむ」と責むれば、 氏 四自分では情けない身とも思わ 四 源 ぬのに、として、苦悩をおしたて 浮舟うきものと思ひも知らですぐす身をもの思ふ人と人は知りけり る中将の懸想を切り返した歌。 五特に返歌というのでもないが。 わざと言ふともなきを、聞きて伝へきこゆれば、 いとあはれと思ひて、中将 六少将の尼が、中将に。 セ少将の尼や左衛門 「なほ、ただ、いささか出でたまへと聞こえ動かせ」と、この人々をわりなき ひさし ^ 浮舟を廂に連れ出そうとして、 まで恨みたまふ。少将の尼「あやしきまで、つれなくそ見えたまふや」とて、入奥の母屋に入って見ると。 九母尼のもとに。 おいびと りて見れば、例は、かりそめにもさしのぞきたまはぬ老人の御方に入りたまひ一 0 少将の尼は、中将を拒む浮舟 の態度があまりにも意外。 にけり。あさましう思ひて、かくなん、と聞こゆれば、中将「かかる所になが = 以下、浮舟のこと。 三心中を察するとかわいそうで。 なき一け めたまふらん心の中のあはれに、おほかたのありさまなども情なかるまじき人一三おおよその様子などから察し て、人の情けの分らぬはずもない の、いとあまり思ひ知らぬ人よりもけにもてなしたまふめるこそ。それももの方なのに、まるでものの分らぬ人 以上に薄情なあしらいぶり。 懲りしたまへるか。なま、、ゝ をし力なるさまに世を恨みて、いつまでおはすべき人一四男との関係でひどいめに遭わ された経験でもあるのか、の意。 おば そなどありさま問ひて、いとゆかしげにのみ思いたれど、こまかなることは、三以下の事柄について、やはり、 お聞かせください、と尋ねる趣。 一九 いかでかは言ひ聞かせん、ただ、少将の尼「知りきこえたまふべき人の、年ごろ一六どんな事情で。

3. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

一せつかくのすばらしい夜を。 るに、尼君、「など、あたら夜を御覧じさしつる」とてゐざり出でたまへり。 「あたら夜の月と花とを同じくは 心知れらむ人に見せばや」 ( 後撰・ 中将「何か。をちなる里も、こころみはべりぬれば」と言ひすさみて、「いたう 語 春下源信明 ) 。 びん 物すきがましからんも、さすがに便なし 。、とほのかに見えしさまの、目とまりニあちら ( 浮舟 ) の気持も分った ので。「をち」は宇治の地名 ( ↓浮 源しばかり、つれづれなる心慰めに思ひ出でつるを、あまりもて離れ、奥深なる舟五四注一 = ) 。引歌があるか。 三あまり好色がましくふるまう セね のも。以下、中将の心中。 けはひも所のさまにあはずすさまじ」と思へば、帰りなむとするを、笛の音さ 四浮舟の。 へ飽かずいとどおばえて、 五所在ない気持の慰めとして。 六あまりによそよそしく奥深く 引き籠ったきりの態度も、山里の 妹尼ふかき夜の月をあはれと見ぬ人や山の端ちかき宿にとまらぬ 風情には不似合いでしらけた感じ。 セ中将のみならず笛の音にまで。 と、なまかたはなることを、「かくなん聞こえたまふ」と言ふに、、いときめき ^ 「ふかき夜」は前の「あたら夜」 して、 に照応。「月」は浮舟。深夜の月に 感動せぬ人は月の入る山の端近い ねゃいたま この家に泊らぬのか、と恨んで、 中将山の端に入るまで月をながめ見ん閨の板間もしるしありやと 中将の求婚を受諾しようとする歌。 など言ふに、この大尼君、笛の音をほのかに聞きつけたりければ、さすがにめ九浮舟の気持を無視して、代作。 一 0 「板間」は粗末な板葺きの家の ねや 板と板の隙間。ここは、その閨の でて出で来たり。 隙間からさし込む月光の風情。月 を眺め続け、閨に近づきたい気持。 ここかしこうちしはぶき、あさましきわななき声にて、な 〔一六〕母尼和琴を得意げ = 僧都の母尼君。 たれ に弾き、一座興ざめる かなか昔のことなどもかけて言はず。誰とも思ひわかぬな三八十余歳の老齢なのに。 ( 現代語訳三六九ハー )

4. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

源氏物語 270 連れておいでになって、なかなかお出ましになれない 乗る。水際の氷を踏みならす馬の足音までも心細くもの悲 世に知らすまどふべきかなさきに立っ涙も道をかきく しく宮には感じられる。昔もこの宇治通いの恋路にだけこ いんねん らしつつ うした山越えもなさったのだから、なんと不思議な因縁の ( この世にこんな経験をしたこともないくらいわたしは途方あるこの山里よ、とお思いになる。 にくれるほかないのです。まず先に立っ涙にかきくらされ、 〔一三〕匂宮ニ条院に戻り、宮は二条院にご到着になって、こち 道も見えなくなって ) 中の君に恨み言をいうらの女君がまことに情けなくも宇治 女も、このうえなくしみじみとせつない思いなのであった。 のお方を隠しておおきになったことも恨めしいので、気の やす 涙をもほどなき袖にせきかねていかに別れをとどむべ おけないご自分のお部屋のほうでお寝みになったが、寝入 き身ぞ ることもおできになれず、独り寝のさびしさに物思いがっ ( この狭い袖では涙をさえ抑えかねておりますのに、なおさ のるものだから、意気地なくも対にお越しになった。女君 らのこと、このような私にあなた様とのお別れをどうしてせ は何もご存じなく、いかにもきれいにととのったお姿でい きとどめることができましよう ) らっしやる。愛らしく美しいなとごらんになった宇治の女 風の音もほんとに荒々しく、霜の深い夜明け方なので、そ よりも、またこの女君はやはり世間にめったにないみごと れそれに別れ着る衣も冷え冷えとした心地がして、御に なご器量でいらっしやることよ、とお思いになるものの、 お乗りになるときには、また引き返して逢いに戻りたいと あの女がこの女君とじつによく似ているのをお思い出しに いった情けないお気持になられるけれども、お供の人たち なるにつけても胸がふさがるので、宮は、ひどくもの思わ おももちみちょう がまったく冗談事ではないと思ってひたすら急がせて出立しげな御面持で御帳にはいってお寝みになる。女君をもお するので、宮はまるで正気も失せたご様子でお発ちになっ連れ申しておはいりになり、「気分がひどくわるいのです。 どうなることかと心細くてなりません。わたしのほうでど た。この五位二人が御馬のロを取ってお仕えするのだった。 険しい山を越えてしまってから、自分たちもそれぞれ馬に んなにあなたをいとしくお思い申していても、わたしがど ひと ひと

5. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

やしき け、あの邸はとりわけこの私に道、いを起させようと、わざ 三凸浮舟の一周忌過ぎ、大将は、女君の一周忌の法要などを ひじり 3 薫、中宮に悲愁を語るなさって、はかなく終ってしまったわざ造っておかれた聖の宮のお住いだったのだと感ぜずに ひたちの 縁ではあった、としみじみ悲しくお思いになる。あの常陸はおられませんでした」と言上なさるので、后の宮は例の 語 くろうど 物介の子供たちは、元服していたのは蔵人にしてやったり、 一件をお思い出しになり、ほんとにいたわしいお気持にな ぞう 氏 ご自分のお役所の将監に任じたりなど目をかけておやりに られて、「そこには恐ろしい魔性のものでも棲んでいるの 源 わらわ なるのだった。まだ童で、兄弟のなかでもこぎれいなのを でしようか。どのようないきさつで、そのお方は亡くなっ おそばでずっと召し使ってやろう、と思っていらっしやる たのですか」とお尋ねあそばすのを、やはり引き続いて二 のであった。 人まで亡くなったことを宮がお気づかいあそばすのだと思 雨などが降って静かな夜、大将は后の宮に参上なさって って、「そういうことでもございましよう。あのような人 いる。御前も人少なのお暇な日だったので、お話などお聞里離れた所には、よからぬ魔物がきまって棲みついている ひな かせ申しあげるついでに、「鄙びた山里にこの幾年か通っ ものでございますから。亡くなりました事情もまことに不 もの て世話をしておりました女について、人からとやかく言わ可解なのでございます」と言って、詳しいことはお申しあ いんねん れましたが、これも前世の因縁というものであろう、人は げにならない。大将が今もやはりこうして内密にしておき 誰でも心ひかれる向きのことはそうしたものなのだと、つ たいことを、宮ご自身がすっかり聞き知っていたのかと分 とめてそう考え考えいたしまして、やはりときどき逢ってれば、つらい気持になられるだろうとお思いになって、そ ひょうぶきようのみや いたのでございましたが、あの土地が不吉なせいではなかれにまた兵部卿宮があの当座すっかり消沈しておられて病 ろうかと情けなく思うようになってしまいましてからあと気にさえなられたことをお考え合されるにつけても、后の は、道のりも遠い心地がしまして長らくそちらへ出かけず宮は、さすがに気の毒になり、どちらのためにも口出しは しにくい身の上の女なのだとお思いになって、お控えにな におりましたところ、先日、何そのついでに訪れまして、 つつ ) 0 はかないこの世の有様をあれこれと痛感いたしましたにつ ( 原文一一一五ハー ) ひと

6. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

す」などとおっしやるけれども、いまさらどうなるもので 三五〕中将来訪、浮舟の今日は、一日じゅう吹きつのる風の っとめ もない。「このうえは、ひたすらお勤行をなされ。老少不尼姿を見る浮舟精進音もまことに心細く感ぜられるので、 定の世の中なのです。はかないものと見きりをつけられた お立ち寄りになった僧都も、「ああ、山伏は、こうした日 語 そうず 物のも、それが当然の御身の上ではありませんか」と僧都の には声をあげて泣かずにはいられないそうだが」と一一 = ロうの 氏 おっしやるにつけても、女君はほんとに恥ずかしく思わすを聞いて、女君は、この自分も今は山伏の身よ、道理で涙 源 にはいられないのだった。僧都は、「御法服を新しくお仕がとめどなく流れてくるではないか、と思いながら、端近 あやうすもの かりぎめすがた 立てになるよう」と言って、綾や羅や絹などというものを に出てきて外を見ると、軒端からはるか遠方に、狩衣姿の さしあげておおきになる。「拙僧の生きております間は、 色さまざまに立ちまじっているのが見える。山にのばって お世話申すことにいたしましよう。何のご心配がいるもの いく人であるにしても、こちら小野の道のほうには行き来 ですか。現世に生い育って、世間の栄華を願い執着してい する人もめったにないのである。黒谷とかいう方向からや るかぎりは、それに束縛されてこの世を捨てにくいものと ってくる法師の姿だけがたまさかに見えるだけであるから、 誰しも皆お考えになるようです。しかし、このような山林俗界の人の姿を見つけたのをわけもなく珍しく思っている の中で勤行に精を出される御身には、何ひとっ恨めしくも と、これは女君のつれなさを嘆き恨んでいたあの中将なの 恥ずかしくもお思いになることがありましようか。この世であった。いまさらどうにもならない恨み言をも言おうと もみじ の命は草木の葉が薄いのと同じくはかないのです」と、よ 思って訪れてきたのだったが、紅葉がまことに美しくて、 しようもん くれない く言い聞かせて、「松門に暁到りて月徘徊す」と、法師で よその山の紅よりも一段と濃く染まっている色どりなので、 ありながらもまことに奥ゆかしく、こちらが気おくれする こちらにはいってくるなりしみじみとした感慨にとらわれ ような様子でおっしやることの数々を、女君は、ご自分の ているのだった。中将は、こうした山里でまったく屈託も さと 望みどおりにお諭しくださることよ、とありがたく思って なげな女を見つけもしたら、かえっておかしなものであろ 聞いている。 う、などと思って、「このところ暇がありまして、所在な ( 原文二〇四ハー ) ひと のきば くろだに

7. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

ぼん 品の宮に参上しなければならないのです。明日からでも御人ともお供をしてきていたので、呼び入れて、「御髪をお 0 ずほう 修法が始ることになりましよう。その七日間が終って退出ろしてさしあげよ」と言う 。、かにもあのように大変なめ する帰りがけに、お授け申すことにいたしましよう」とお にあっておられたお方のことだから、そのまま俗人として 語 物っしやるので、女君は、あの尼君が初瀬から帰って来られ生きておられるのも情けなくお思いなのだろうと、この阿 じゃり 氏 たら、必ずじゃまを入れるにちがいない、そうなったらど 闍梨も女君の発心を無理からぬことと思っているが、さて 源 きちょうかたびらすきま うにも残念なことと思われて、「前々から気分がすぐれま几帳の帷子の隙間から御髪をかき寄せてこちらへお出しに せんでしたのが、今は力も失せてまいりましたようでほん なっているのがまったくもったいないくらいに美しいので、 とに苦しゅうございますから、これ以上重くなりましたら しばらくは鋏を持ったままためらっているのであった。 受戒の効もなくなりましよう。やはり今日は願ってもない こうしている間、少将の尼は自分の兄の阿闍梨が僧都の 折と存じましたのに」と言って、はげしくお泣きになるも お供で下山して来ているのに会うために、下の部屋のほう ふびん のだから、さすが聖僧の、いにはまことに不憫に思われて、 にした。左衛門は、自分の知合いの人に応対するというわ 「もう夜も更けてしまったことでしよう。山から下りて来けでーーーこうした山里なりに皆それぞれ懇意の人々が珍し ますことも、昔はなんとも思っておりませんでしたが、年 く姿を見せたとあればちょっとしたもてなしをしたものだ しんばう をとるにつれて辛抱もしにくくなっておりますので、こち が、そのほうにかまけていた間に、女君のそばにはこもき らで一休みしてから宮中には参上しようと存じますが、そ 一人だけが控えていて、これこれのことがと、少将の尼に のようにお急ぎになるのでしたら、今日これから勤めさせ知らせたものだから、尼があわててやってきて見ると、僧 うえ ていただきましよう」とおっしやるので、女君は、ほんと都は、自分自身の御表の衣や袈裟などを形ばかりでもとの はさみ ふた に救われる思いである。鋏を取り出して、櫛の箱の蓋をさ お気持からお着せ申して、「親御のおられる方角を礼拝申 そうず だいとこ し出すと、僧都は、「さあ大徳たち、こちらへおいでくだ しあげなされ」と一言うが、女君は、それがどちらの方角な され」と声をかける。最初に女君をお見つけ申した僧が二 のかも分らないものだから、こらえきれずお泣きになるの はっせ みぐし

8. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

ここもまこ にはいられない。あの宇治の地と同じように、 やましく思われまして、よく訪ねていくのでございますが、 とに心細く所在ない日々であるけれど、住みなれている人 こちらへも同じことならいっしょになどといって付いて来 たちはこざっぱりと風情のある暮しぶりで、垣根に植えて たがる者たちにじゃまされるようなことになりまして。今 語 なでしこ おみなえしききよう 日は誰も彼も振り捨ててまいったのでございます」とおっ 物ある撫子もおもしろく、女郎花や桔梗なども咲きはじめて かりぎぬ 氏 いる、そうした前栽のなかに色さまざまの狩衣姿の若い男しやる。尼君は、「山籠りがうらやましいとおっしゃいま 源 まね たちを大勢引き連れて、中将の君自身も同じような装束をすのは、どうも当世風のおロ真似のようにうかがえます。 それよりも、昔のことをお忘れにならないお心づかいにつ してはいってくるのを南面に招じ入れると、その人はあた ふうさい けても、世間のならいに染まぬお志でいらっしやったと、 りを眺めてすわっている。年は二十七、八ぐらいで風采も 大人大人しくととのい、分別のありげな様子が身にそなわひとかたならず感謝申しあげずにはおられない折々も多う っている。 ございまして」などと言う。 ふすまぐちきちょう 尼君は、襖口に几帳を立てて対面なさる。まず涙がこみ 一行の人たちに水飯などのようなものを食べさせて、こ はす の君にも蓮の実などといったものを肴に出したので、昔は あげてきて、「年月の数も積ってゆくにつれまして、過ぎ 去った昔のことがいよいよ遠々しく思われますばかりでご通いなれていた妻の里方のこととて、そうした接待にも遠 むらさめ ざいますが、それでもやはりこの山里の光としてあなた様慮のいらぬ心地がして、おりから降り出した村雨に足をと のお越しをお待ち受け申しあげます気持が忘れることなくめられて、しみじみと話をしておられる。尼君は、「いま そのまま続いておりますのを、一方では不思議なことに存さらどうなるものでもない亡き娘のことよりも、この君の ご気性などがほんとに申し分のないものだったのに、それ じております」とおっしやると、中将は、「心の中ではし よそ を他人と思うほかないのが、なんと悲しいことか、どうし みじみと悲しく昔のあれこれのことが思い出されぬ折とて てせめて忘れ形見の子なりと残しておいてくださらなかっ ないのですが、ひたすらに俗世を離れてお暮しのご様子で やまごも たのだろう」と、心の中で恋いルんでいるものだから、た すので、ご無沙汰をも重ねております。弟の山籠りもうら せんぎい し さかな

9. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

まに疑ひ多くて、たしかなることはえ聞きはべらざりつるになん。罪軽めても一浮舟の出家の境涯。出家によ って在俗時の諸々の罪が軽減する。 のすなれば、 いとよしと心やすくなんみづからは思ひたまへなりぬるを、母なそれを薫自身、結構で安心だと冷 静にかまえるが、本音でない。 語 ニ自身の感想から反転して、母 物る人なんいみじく恋ひ悲しぶなるを、かくなん聞き出でたると告げ知らせまほ 氏 ( 中将の君 ) の悲嘆をとりあげる。 たが 三「かく」は僧都の語った内容。 源しくはべれど、月ごろ隠させたまひける本意違ふやうに、もの騒がしくやはべ それを母にも知らせたいと言う。 らむ。親子の中の思ひ絶えず、悲しびにたへで、とぶらひものしなどしはべり四僧都や妹尼などは、知れては 厄介だと隠していた。↓前ハー びん なんかしーなどのたまひて、さて、薫「いと便なきしるべとは思すとも、かの五浮舟の母は、自分とは異なり、 恨み言などをうるさく言いたてよ う。自らの執心を隠蔽し、母の悲 坂本に降りたまへ。かばかり聞きて、なのめに思ひ過ぐすべくは思ひはべらざ 嘆にかこつけて事情を追求する。 りし人なるを、夢のやうなることどもも、今だに語りあはせんとなん思ひたま六母が尋ね来るに違いない。 セ母親には知らせまいと宣言し たうえで。以下、浮舟との交渉を ふる」とのたまふ気色、いとあはれと思ひたまへれば、「かたちを変へ、世を 僧都に依頼する趣。 かみひげそ 背きにきとおばえたれど、髪、鬢を剃りたる法師だに、あやしき心は失せぬも ^ 僧侶にとって、男女再会の案 内をするのは「便なきしるべ」。 一五え あなり。まして女の御身はいかがあらん。いとほしう、罪得ぬべきわざにもあ九小野の山里。 一 0 尼になったらなったで、知ら けふあす るべきかな」と、あぢきなく心乱れぬ。僧都「まかり降りむこと、今日明日はぬ顔のできる相手ではないとする。 = 浮舟失踪以来の出来事。↓二 せうそこ 二七ハー五行。 障りはべる。月たちてのほどに、御消急を申させはべらん」と申したまふ。 三せめて、出家後の今なりと。 と心もとなけれど、なほなほとうちつけに焦られんもさまあしければ、さらば、一三浮舟本人が尼姿になって俗世 お けしき 八 六 お 一かろ

10. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

けふあす 一巻頭に「五十ばかり」とあった。 べらんこと、今日明日とも知りがたきに、いかでうしろやすく見おきたてまっ 8 ニ浮舟を結婚させ、自分の死後 ふ らむと、よろづに思ひたまへてこそ、仏にも祈りきこえつれ」と、臥しまろびも安心できるようにさせたかった。 三初瀬観音にもお祈りしたのに。 語 物つつ、いといみじげに思ひたまへるに、まことの親の、やがて骸もなきものと四他人でさえそうだから、まし 氏 て実の母が、そのまま亡骸もない 源思ひまどひたまひけんほど推しはかるそ、まづいと悲しかりける。例の、答へのかと悲嘆にくれただろう様子を 想像するにつけ。浮舟の心中。 もせで背きゐたまへるさま、いと若くうつくしげなれば、妹尼「いとものはか五妹尼の目には、出家前と同様、 無ロでかわいらしい人と見える。 にしろ なくぞおはしける御心なれ」と、泣く泣く御衣のことなどいそぎたまふ。鈍色六無謀の出家と悲しむ気持。 セ浮舟の尼衣。 てな こうちきけさ は手馴れにしことなれば、小袿、袈裟などしたり。ある人々も、かかる色を縫 ^ 尼衣の、濃いねずみ色。 うわぎ 九表着の上に着る略礼装。 ひ着せたてまつるにつけても、「いとおばえず、うれしき山里の光と、明け暮一 0 思いもかけず浮舟が小野の山 里に住むようになったこと。 そうづ れ見たてまつりつるものを、口惜しきわざかな」と、あたらしがりつつ、僧都 0 出家を敢行した浮舟は、それゆ えにいよいよ孤立するほかない。 そし しかし彼女の無分別に泣く妹尼も、 を限み譏りけり。 人情の美しい機微を見せていよう。 = 「僧都参りたまはでは : ・」 ( 一 一品の宮の御なやみ、げにかの弟子の言ひしもしるく、 三三〕僧都、女一の宮の 九二ハー一行 ) と言ったとおり。 夜居に侍し浮舟を語る 一ニ僧都の祈疇ではっきりした効 ちじるきことどもありて、おこたらせたまひにければ、し 験が現れ。物の怪を退散させた。 みほふり よいよいと尊きものに言ひののしる。なごりも恐ろしとて、御修法延べさせた一三平癒あそばしたので。 一四病後も油断ならぬとて。 まへば、とみにもえ帰り入らでさぶらひたまふに、雨など降りてしめやかなる一五明石の中宮が、僧都を。 四 から