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検索対象: アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1
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1. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

ア時代ふうのロマンス。 けつか だがその結果、彼の心には、キ = ー植物園にたいするロマンティックな愛着が生まれ、 れいねん その後も、しばしば、そこへブルーベルを見にいったり、あるいは例年よりおそくまで 海外ですごしてきた年には、しやくなげを見にいったりするのだった。そして、ひとりそっ こふう かんしようてき とため息をつき、ちょっぴり感傷的になって、そのひとときを古風な、ロマンティックな 気分で、せいいつばいたのしむのである。 きゅうけいじよ もんだい ところで、この問題の日の午後、園内の休憩所の前をぶらぶらとひきかえしてくると、 しばふ 芝生の小さなテーブルのひとつに、ひと組の男女がすわっているのが目にとまった。ジリ どうじ きんばっせいねん アンⅱウエストとあの金髪の青年で、こちらが気づくのと同時に、むこうもサタースウェ むすめじようき イト氏をみとめた。娘が上気して、なにか熱つ。ほく連れにささやくのが見えた。 れいぎただ まもなくサタースウェイト氏は、もちまえの礼儀正しい、やや四角ばった態度で、二人 おう いっしょにお茶をどうかというおずおずしたさそいに応じて、そ の両方と握手をかわし、 こに腰をおろしていた。 「せんだっての晩、ジリアンに親切にしてくださったそうで、なんとお礼をいっていいカ ーンズ氏がいった。 わかりません。この娘からすっかり聞きましたよ」と、 かいがい じだい あくしゅ こ しんせつ えんない しよくぶつえん しかく あいちゃく 168

2. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

ようにはげましてくれましたし、そのためにーーカをかしてもくれました。でもあたしに は、はじめからわかっていたんですーーーあたしの歌がそれほどたいしたものじゃない、 しごと じんりよく いちりゅう けっして一流じゃないってことは。もちろん、彼の尽力もあって、仕事はもらえました。 でもーーー」 彼女はロをつぐんだ。 かわってバーンズがいた くろう ひつよう わかじよせい 「でも、そのために苦労もした。若い女性には、うしろだてになってくれる人間が必要な ふゆかい んだ。ねえサタースウェイトさん、ジリアンはずいぶん不愉快な思いをしてきたんですよ。 ふゆかい びじん とにかくいやってほどの不愉央な思いをね。ごらんのとおり、この娘は美人だし、それが まあ、若い女性には、しばしばいざこざのもとになるんです。」 ふゆかい かた 彼らのこもごも語ることから、サタースウェイト氏には、、、ハーンズが〈不愉央なこと〉 だいもくばくぜんぶんるい すいさっ という題目で漠然と分類しているのがどんなことか、おぼろげながら推察できた。ビスト じさっ わか ぎんこうとうどり いじようこうどう ル自殺をとげた若い男、銀行頭取の異常な行動 ( しかもその男には妻子まであったの しよろう げいじゅっか ばうりよくてきがいこくじん だ ! ) 、暴力的な外国人 ( きっと頭がいかれていたのだろう ! ) 、初老の芸術家の気ちがい ほうりよくひげき じみたふるまい。ジリアン日ウエストのいくところ、あとにはかならず暴力と悲劇の航跡 わかじよせい こ さいし こうせき = クインの事件簿 171

3. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

とですよ。」 「しかしね、きみ ! 事件当時なにもでてこなかったものが、いまになってでてくるはず はないじゃないか もう十年もたっているんだよ。」 し クイン氏はおだやかに首をふった。 いけん どうい れきし しようめい 「わたしはそのご意見には同意しかねますな。そうでないことは歴史が証明しています。 どうじだい れきしか こうせい もんだい 同時代の歴史家は、後世の歴史家ほど正確な歴史は書けないものです。問題は、事実を正 ちかんけい しい位置関係において見られるか、正しいつりあいをもって見とおせるかということでし てね。なんならそれは、他のすべてのものとおなじように、相対性の問題だといってもい しでしよう。」 簿 くのう アレックポータルがひざをのりだした。その顔は、なぜか苦悩に耐えているようにび事 の ン くびくひきつっていた。 イ 「あなたのいうとおりだ、クインさん」と、彼はいった。「たしかにあなたのいうとおり = もんだい ていじ だ。時は問題を解決しはしない ただ、新たなかたちでそれを提示するだけなんだ。」 びしよう イヴシャムが寛大な微笑をうかべた。 いけん 「すると、クインさん、あんたのご意見では、今晩われわれがここで、いわば、デレク日ケ かいけっ かんだい じけんとうじ た せいかく あら こんばん そうたいせい もんだい た じじっ 123

4. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

しきようみ ふさい サタースウェイト氏の興味をひいたのは、このポータル夫妻だった。 しょたいめん アレック日ポータルとはこれが初対面だったが、この男のことはすっかりわかっていた。 じしん てんけい 父や祖父とも知りあいだったし、アレック自身も、そのタイプの男の典型といっていい。 けとくゆ、つ す しよ、つぶ 年は四十にちかく、ポータル家特有の金髪に青い目、スポーツや賭事が好きで、勝負に強 そうぞうりよくひんこん ぜんりよう く、だが想像力は貧困である。どこにもかわったところなどない : さらにある善良かっ健 えいこくじんけっとう 全な、よき英国人の血統だ。 し だが細君はそうではなかった。サタースウェイト氏の見たところ、どうやらオーストラ リア人らしい。ポータルは二年まえにオーストラリアへいき、そこで彼女と知りあって結 けっこん 婚し、故国へつれてかえってきたのだ。 , 彼女は結婚するまでイギリスにきたことがなかっ た。にもかかわらす彼女には、サタースウ = イト氏の知っている、どのオーストラリア女 性ともちがったところがあった。 いまサタースウェイト氏は、ひそかに彼女を観察していた。 きようみ じつに興味ぶかい女性だ。ものしずかで、それでいてひじように いきいきしている。 そう、それたー まさしく、いいしているということばがびったりだー かならずし びじん ましよう も美人ではない そう、彼女を美人とよぶことはできないだろう。が、ある種の魔性の ぜん こん さいくん じよせい し きんばっ かんさっ かけ ) 」と しゅ けん 108

5. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

ちくおんき ている。カーティスはふたをあげ、ナイフをふるうーーーそばでは蓄音機が〈ウォーキン・ ー・バック・ホーム〉を流しているという寸法さ。」 マイ・ベビ わたしはやっとのことで声をし・ほりだした。 「しかし、どうして ? なぜそんなことを ? 」 かた ボワロは肩をすくめた。 じさっ 「男はなぜ。ヒストル自殺をするんだろうかね ? なぜ二人のイタリア人は決闘なんかし ひ じようねっ じみ ないめん た ? カーティスは地味だが、内面に強い情熱を秘めた男さ。彼はマーガリータⅱクレイ ていしゅ トンに思いを焦がした。じゃまものの亭主とリッチをとりのそけば、かならず自分になび いてくるーーーすくなくとも本人はそう考えたわけだ。」 かんがい そのあと彼は、感慨をこめてつけくわえた。 きけんしゅぞく じよせい てんしん 「ああいった天真らんまんな子どもつ。ほい女性 : : : あの手の女性はきわめて危険な種族だ 簿 てぐち げいじゅってき モン・デュ よ。それにしても、まったく、なんとみごとな、芸術的な手口だったろう ! あんな男を事 じしんてんさい だんちょう こうしゆだい ロ ワ 絞首台に送るなんて、断腸の思いだよ。はばかりながら、わたし自身天才であるだけに、 かんぜんはんざい れんちゅうてんぶん ほかの連中の天分をおしむことしきりなんだ。完全犯罪だよ、きみ。このエルキュール タ ン かんぜん ボワ口がそういうんだからまちがいない。完全なる殺人 : : : たいしたものだ ! 」 ほんにん さつじん すんばう 工 モナミ けっと、つ

6. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

俳優といったおもむきがあった。 ふかかい じけんかんぜんなぞ 2 「不可解もなにもーーー」コンウ = イがいきおいこんでロをはさんだ。「あの事件は完全な謎 ですよーー・・おそらくこれからもずっとね。」 「さあ、どうですかな。」クイン氏はあいま、こ、 し ~ しった。「あ、失礼しました、リチャード きよう 卿。どうかお話しを。」 じけん しゅやくおとこざか 「おどろくべき事件だーーそういっとるのですよ。事件の主役は男盛り、明朗にして快 くろう かつじんせい ゅうじん しようたい 活、人生の苦労なんてこれっぽっちもない。親しい友人を五、六人招待していた。夕食の じよう しようらい けいかく 席では上きげんそのもの、将来の計画をあれこれ話しておった。ところが、食事がすむ じしっちょっこう ひきだ けんじゅう と、そのまま二階の自室へ直行して、引出しから拳銃をとりだし、自分にむけて引き金を ひいた。なんのために ? わからん。だれにも永久にわからんでしよう。」 きよう 「そうですかな、リチャード卿 ? その断定はいささかあらつ。ほすぎるのでは ? クイン氏がかすかにほほえみながらいった。 コンウェイはむっとしたように彼を見つめた。 「どういう意味かね、あらつぼすぎるとは ? わたしにはよくわからんが。」 かいけっ かいけっふのう 「いままで解決されなかったからといって、解決不能ときめてかかる必要はないというこ せき はいゅう し し した えいきゅう しつれい ひつよう めいろう ひがね

7. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

つうこうにん しゅんかん この瞬間に、サタースウェイト氏は、通行人の目から見れば、ふいに気がくるったとし しんぶんやぶ こうどう ま一度、新聞を破れんばかりのいきおいでひらくと、ラジ か思われない行動をとった。い がいろ ばんぐみらんいちへつ オの番組欄を一瞥し、しずかな街路を死にものぐるいに走りだしたのだ。通りのはずれで、 ゆっくり走ってくるタクシーを見つけた彼は、それにとびのるなり行く先を告げ、ついで もんだい に、生死にかかわる問題だ、いそいでくれとどなった。 かねも 運転手は彼のようすを見て、頭はおかしいらしいが金持ちらしいと見てとり、せいいっ ようきゅう ばいその要求にこたえる努力をした。 だんべんてきそうねん ざせきせ サタースウ = イト氏は座席の背にもたれた。頭のなかは、さまざまな断片的な想念で かがくちしき がくせいじだい 、つばいだった。学生時代にならったうろお・ほえの科学知識、今夜ィーストニーの使った しゅうき ′」くきようめい しぜんしゅうき たしか、 語句。共鳴ーーー自然周期ーー・もしもある力の周期が自然周期と一致すれば ほちょう しゅう こうしん つばしかん 吊り橋に関した例があったーー兵隊が吊り橋の上を行進する。そして彼らの歩調が橋の周 もんだい けんきゅう き : ィーストニーはその問題を研究していた。ィーストニーは知ってい 期と一致すると : てんさい る。そしてイーストニーは天才なのだ。 ほうそう ョアシ = ビンが放送するのは十時四十五分。ちょうどいまだ。そう。しかし、最初は うんてんしゅ 0 し どりよく へいたい し し つばし こんや っ 186

8. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

いじよう ハリスンはけげんそうにボワ口を見つめた。相手の態度になにか異常なものを感じたら しく、ややあって、ためらいがちに先をうながした。 じゅうだい はんざいちょうさ 「犯罪の調査にきたとおっしゃいましたね ? 重大な犯罪ですか ? 」 よ 「重大です。この世のなかでもっとも重大な犯罪ですよ。 「 A 」い、つ A 」 : さつじん 「殺人です。ー くちょう そういったときのエルキュールⅱボワロの口調があまりにおもおもしかったせいか、ハ しようめん しせん たんてい リスンはぎくりとした。探偵は正面から彼を見つめていて、その視線にもなにやら異様な っ ハリスンはことばの接ぎ穂にこまった。 気配がうかがわれたので、 ややしばらくして、ようやく彼はいっこ。 さつじんじけん 「しかし、この土地に殺人事件があったという話は聞いていませんが。」 「そうでしよう。お聞きになってはいないはずですよ。」ボワロはいっこ。 「だれが殺されたのです ? 」 「まだいまのところは」と、エルキュール日ボワロはいった。「だれも殺されてはいませ 0 じゅうだい ころ はんざい あいて

9. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

いじゅう のうじようけいえい ちょうさ じけんきろく の調査する事件を記録するのですが、のちに南米のアルゼンチンに移住して農場経営をするよう しよじよさく エービーシーさつじんじけん そうかいじけん になります。処女作『スタイルズ荘の怪事件』 ( 一九二〇年 ) 、『 0 殺人事件』 ( 一九三三年 ) な とうじよ、つ どに登場。 ーテイ』 ( 一九 アリアドネⅡオリヴァー夫人は、この本にはでてきませんが、『ハロウィーン たいい 、」、つき ぞうわす 六九年 ) 、『象は忘れない』 ( 一九七二年 ) など後期の作品で、ヘイスティングズ大尉のようにボワロ じよしゅ じよせい さつか の助手をつとめる女性ミステリー作家で、はじめて登場するのは、『ひらいたトランプ』 ( 一九三六 はいいろかみとくちょう ーのプロットを考えるとき 年 ) です。ゆたかな灰色の髪が特徴のリンゴ好きな女性で、ミステリ には、リンゴなしではいられません。 ボワロは、『カーテン』 ( 一九七五年 ) で、病気のために死にました。『カーテン』は第二次大戦 びよういん しがんかんごふ 中、クリスティがロンドンの病院で志願看護婦をしながら書いた作品です。また、クリスティ リー。ヒング・マーダー』 ( 一九七六年 ) も書いていま は、同じ時代に最後のミス・マープルもの『ス たんてい すが、作者みずからが、シリ ーズとなった探偵を殺すのは異例のことです。ドイルは、ホームズ たき にうんざりして、ライへン、、ハッハの滝に落として、いちじ殺してしまったことがありますが、結 きよくどくしやしゆっぱんしゃようせい ふつかっ 局、読者や出版社の要請によって復活させました。 クリステイも、ボワ口にうんざりしている、と別の作家に話したことがありますが、ほんとう に殺してしまったときには、世界じゅうのミステリー読者がおどろきました。ある新聞では、一 ちゅう ふじん びようき なんべい ころ れい しんぶん だい じたいせん 237

10. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

はっげん 沈黙には、なにか奇妙に挑発的なものがあり、まるでいまのコンウェイの発言にたいし むごん て、無言のうちに異議をとなえているかのようにうけとれた。コンウェイが知らずしらず べんかい くちょう 弁解がましい口調になったのは、そのせいだったかもしれない。 「そうだろ、ほかに考えられたかね ? え、イヴシャム ? 「わからんな。」トムイヴシャムはのろのろといった。「あのときデレクは、正確にはな しんこんしゃ んといったつけな ? たしか、新婚者レースに出走しようとしているとかいうことーー・相 て きよか はっぴょうだんかい 手の許可があるまでは、そのご婦人の名はいえないということーー・まだ発表の段階ではな いということ。ああそうだ、こうもいってたなーー自分はひじように幸運な男だ、来年の さいたいしゃ こうふく いまごろは、自分も妻帯者として幸福に暮らしているだろうということを、二人の親友に 。こザつ、 . っ 知ってもらいたかったんだ、とね。むろんわれわれは、相手の女性をマージョリー すいそく と推測した。二人は長いっきあいだったし、よくいっしょこ 冫いたからね。」 「ただひとっ コンウェイがいいかけて、ロをつぐんだ。 「なんだね、ディック ? 」 こんやく 「いや、つまりね、もし相手がマージョリ ーだったら、すぐに婚約を発表できないという ひみつ のは、ちとおかしいと思うのさ 。いったいなぜ秘密にするんだろう ? なんだか、相手の ちんもく きみようちょうはってき ふじん しゆっそう じよせい はっぴょう こううん せいかく らいねん しんゅう 128