思う - みる会図書館


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289件見つかりました。

1. リング

ないのだ。カウンターに妨げられて、奥の様子がわからない。テレビ番組ではなく洋画の ビデオを見ているらしく、英語のセリフとともにちかちかと揺れる画像の影が、正面のキ ャビネットのガラスに反射している。その、作り付けのキャビネットいつばいに、ケース に入ったビデオテー。フが並んでいた。浅川はカウンターに手をついて、声をかけた。すぐ に、六十前後の小柄な男が顔を出し、「あ、いらっしゃい」と頭を下げた。弁護士を伴っ そう思 た熱海通信部の調査に応じ、快く宿帳を見せてくれたのはこの男に違いない : って、浅川は愛想よく笑いかけた。 「予約してある浅川です」 男はノートを開けて予約を確認する。 「ー 4 号でしたね。ここに、お名前と、住所をお願いします」 あて 浅川は本名を記入した。野々山名義の会員証はきのう本人宛に郵送したばかりで、もう 手元にはなかっこ。 「お一人ですか ? 」 管理人は顔を上げ、不思議そうに浅川を見た。これまで、こんなところに一人で泊まる グ ン客はいなかった。一般料金の場合、一人ならホテルに泊まるほうが経済的だ。管理人は一 組のシーツを差し出し、キャビネットを振り返った。 そろ 「もしよかったら一本どうです。けっこう、話題作が揃ってると思うんですが」 「ほう、ビデオのレンタル ? 」

2. リング

たことを耳打ちするんじゃねえのか、昔の方一一一一口使ってよお。おまえも気付いただろうが、 ほとん この島の言葉は殆ど標準語といっていい。 あのばーさん、かなりの年寄りだぜ。鎌倉時代 に生きていたとかよお、それとも、ひょっとしたら、役小角となにか係わりがあるのかも しれねえ」 ・ : うぬはだーせんよごらをあげる。おまえは来年子供を産む。 「あの予一一一口、本当なのかな」 「ああ、あれか。次にすぐ男の赤ん坊のシーンがあるだろ。だから、オレは、最初、山村 貞子が男の赤ん坊を産んだものと考えたんだが、このファックスを見ると、どうも違うよ うな気がするな」 「生後四ヶ月で死んだ弟 : : : 」 「そう、そっちのほうだと思う 「じゃあ、どうなる、予言のほうは。老婆はどう見ても山村貞子に向かって『うぬ』と呼 びかけてるんだぜ、貞子は子供を産んだのか ? 「わからねえ、ばーさんの言葉を信じりや、たぶん、産んだんじゃねえかい 「だれの子を ? 「知るか、そんなこと。なあ、おまえ、オレがなんでも知ってると思うなよ。オレはただ 推測でものを言っているに過ぎないんだからな」 もし、山村貞子の子供が存在するのなら、それはだれの子で今何をしている ?

3. リング

192 早津が言った。「ただ、山村貞子って女性はもうここにはいないと思いますがね。まあ、 詳しいことは山村敬さんに聞いてみて下さい。山村さんは確か、山村貞子の母の従兄弟に あたると聞いてます」 「山村貞子って女性、今何歳なんですかー 浅川が聞いた。竜司はさっきから後部シ ートにうずくまっているだけで、一言も口をき こうとしない。 「さあ、わたしは直接会ったことはないんですが : 、もし生きていれば、今頃は、四十 二、三歳ってとこじゃないでしようかね : もし生きていれば。なぜこんな表現を使うのだろうと、浅川はいぶかしんだ。ひょ っとして現在消息不明なのではないか、せつかく大島まで来ても消息を掴めぬまま、デッ ドエンドを迎えてしまう、そんな危惧がさっと頭をよぎったのだ。 そうこうしているうちに、車は「山村荘」という看板のある二階建ての家の前で泊まっ た。眼前に海を見渡せるなだらかな斜面にあり、晴れていれば素晴らしい風景が楽しめる に違いない。沖には三角形の島影がに まんやりと浮かんでいる。利島だった。 「天気がよければね、あの向こうに新島、式根島、それに神津島まで、見渡せるんです 早津は、はるか南の沖合を指差して自慢気に言った。 つか

4. リング

258 「いや、できない てんねんとう 「それともうひとっ確認したい。山村貞子を犯した時、あんたはもう既に天然痘にかかっ ていたんだな」 長尾はうなずいた。 「てことはよお、日本で最後に天然痘に感染したのは山村貞子ってことになるんじゃねえ か ? 」 死の間際、山村貞子の身体に天然痘ウイルスが侵入したのは間違いない。しかし、彼女 はその後すぐ死んだのだ。宿主である肉体が滅べば、ウイルスも生きていることはできな 、感染したとはいえないだろう。長尾はどう答えていいかわからず、伏し目がちに竜司 の視線を避けるだけで、はっきりとした返事は返さなかった。 「おい、なにしてる ! 早く行くそ」 浅川は玄関口に立って、竜司を急かした。 「けつ、 しい思いしやがってよ 竜司は人差指でピンと長尾の鼻頭を弾くと浅川の後を追った。 理屈で説明できるわけではないが、小説を読んだり、くだらないテレビドラマを見たり じようとう の経験から、話の展開がこうなった場合の常套手段のように感じられた。しかも、展開の からだ せ はじ

5. リング

小栗編集長は、浅川の報告を聞きながら顔をしかめていた。ふっと二年前の浅川の姿が 頭をよぎったからだ。狐に憑かれたように昼夜ワープロに向かい、取材で得た以上の情報 を盛り込んで教祖影山照高の半生を克明に綴っていった、あの時の異常さ。本気で精神科 の医者に診せようとしたぐらい、鬼気迫るものがあった。 ちょうど、時期が重なったのも悪い。二年前、空前のオカルトブームが出版界を飲み込 み、編集室には心霊写真の山が築かれた。一体世の中どうなってるんだと思わせる程、あ らゆる出版社に送りつけられた幽霊譚や心霊写真と称するマヤカシ物の山。世界の仕組み 木村はうれしそうに言った。なぜか、そうするのが自分の使命に思われる。 「後日お電話しますー 「電話番号 : : : 」 「あ、大丈夫。会社の名前メモしましたから。すぐ近くなんですね」 ちゅうちょ 浅川は車から降り、ドアを閉めようとしてしばし躊躇した。確認することに、いい知れ ぬ恐布を感じたのだ。変なことに首を突っ込まないほうがいいんじゃないか、またあの時 の二の舞だそ。しかし、こうまで興味をそそられた以上、黙って見過ごすことは決してで きない。わかりきっている、そんなことは。浅川は、もう一度木村に聞いた。 「その男、確かにヘルメットを取ろうともがき苦しんでいたんですね たん つづ

6. リング

リング らねえ。 「ようするに個人差じゃねえのか。数学の問題が解けないで頭かきむしる奴もいれば、 煙草をふかす奴もいる。腹に手をあてる奴だっているかもしれねえ」 小栗は言いながら椅子を回転させた。 「とにかく、今の段階では、まだ何も言えねえじゃねえか。載せるスペースはないよ。わ かってるだろ、二年前のことがあるからな。こういった類のことにはうかつに手を出せね え。思い込みで書こうと思えば、書けてしまうものさ そうかもしれない。本当に編集長の言う通り、ただ単に偶然が重なっただけかもしれな 。しかし、どうだろう、最終的に医者は首をかしげるのみであった。心臓発作で頭の毛 、こ、医者は顔をしかめて「うー をごっそりと抜いてしまうことがあるのですかというし冫 うな んと唸っただけであった。その顔は告げている、少なくとも彼の診た患者にそういった 例がなかったことを。 「わかりました」 今は素直に引き下がる他なかった。このふたつの事故の間にもっと客観的な因果関係が 発見できなければ、編集長を説得するのはむずかしい。もし、何も発見できなかったら、 その時は黙って手を引こう、浅川はそう心に決めていた。 やっ

7. リング

ガラス 床の間にあるおじいちゃんの仏壇。八畳間のカーテンは開いていて、硝子窓の向こうに草 こうしじま の生えた宅地とマンションの明りが格子縞に小さく見えるはず、ただそれだけのはず。 二杯目のコーラを半分飲んだところで、智子はまったく身動きがとれなくなってしまっ た。気のせいですますには、あまりに気配が濃密であった。今にも何かがニ = ッと伸び、 自分の首筋に触れそうでならない。 : もし、アレだったらどうしよう。 それ以上考えたくはなかった。このまま、こうしていたら、あのことばかりが思い起こ され、肥大した恐怖に耐えられなくなってしまうだろう。もうとっくに忘れていた一週間 前のあの事件。秀一があんなこと言い出したからいけないんだ。みんな、あとに引けなく しんびよう なってしまって : でも、都会に戻ると同時に信憑性がなくなっていった例の、鮮明な 映像。誰かのイタズラ。智子は、他のもっと楽しいことを考えようとした。もっと、別の でも、もしアレだったら : ・ アレが、本当のことだったら、そうよ、だって、電 話がかかってきたじゃない、あの時。 ああ、 パとママったら何してるの。 「早く帰ってきてよ ! 」 智子は声を上げた。声を出しても不気味な影は一向に引く気配を見せない。じっと後ろ でうかがっている。機会が来るのを待っている。 十七歳の智子には恐怖の正体はまだよくわからない。しかし、想像の中で勝手に膨らん

8. リング

り、信じてもいないくせに。人から非科学的な奴だとバカにされぬがために、そのことを 口にしないのではない。想像もっかない恐怖を身近に引きつけてしまうようで認めるのが 恐いのだ。それならまだ、納得はいかなくても科学的な説明に甘んじているほうが、なに かと都ムロがいし 同時に浅川と吉野の背筋に悪寒が走った。やはりふたりとも同じことを考えていた。し ばらくの沈黙が、ふたりの胸に湧き上がったある種の予感を確認し合った。これで終わっ たわけじゃない、何かが起こるのはコレカラダ。どれほど科学的な知識を身につけようと、 根本的なところで、人間は科学の法則で説明できないある存在を信じている。 「発見された時、男と女は手をどこに置いていましたか ? 」 唐突に浅川が聞いた。 いや、頭というより、両手で顔を被っていたって感じかな」 「こんなふうに、髪の毛をごっそり抜いていたとか」 浅川は自分の髪を引っ張って見せた。 「あん ? 」 「つまり、その、自分の頭をかきむしって、毛髪を抜いていたかどうか 「いや、そんなことはなかったと思う 「そうですか。吉野さん、その予備校生と女子高生の住所と名前、教えてもらえないでし ようかねえ」 おお やっ

9. リング

「で、死因は、突然死だったわけですか」 突然死という病名があるかどうかはわからない。浅川は聞き急いでいた。この事故が、 自分の心のどこに引っ掛かっているのか知らぬまま 「ふざけた話ですよ。わたしの車は止まってたんですよ。勝手に倒れてきたのは、あっち のほうなんだ。なのに、事故証明、おまけにもうちょっとでこっちの保険汚すところで : 。降って湧いた災難ってやつですよ」 「はっきりした日時、わかりますか 「おやおや、何か事件の匂いでも嗅ぎ当てましたか ? 九月の四日か五日、うーん、その あたりだな。時間は午後十一時前後だったと思いますよ」 よみがえ 言ったとたん、木村の脳裏にあの時の光景が甦った。生暖かい空気 : : : 、倒れたバイク から流れ出した真っ黒なオイル。まるで生き物のようにオイルは下水に向かって、這って いた。表面でヘッドライトを照り返し、ドロリとした滴となって、下水に落ちて消えてゆ く、音もなく。感覚器官が一時的な障害に陥ったような具合だった。そして、ヘルメット グを枕にした男の死顔、びつくりした顔。何に驚いているのだ ? ン信号が青に変わった。木村はアクセルを踏む。リヤシートからポールペンの走る音が聞 リこえた。浅川がメモをとっている。木村は吐き気を覚えた。どうして、こう生々しく思い 出してしまうのか。木村はすつばい唾液を飲み込んで、吐き気に耐えた。 「で、死因は何だったんですか ? だえき

10. リング

わかりきっていた。編集長に全てを打ち明け、しばらくの間仕事からはずしてもらうのが 得策と思われた。編集長の協力を得られれば、それに越したことはない。問題は、編集長 がソレを信じるかどうかだ。また、例の偶然を持ち出して、鼻先で笑うに決まっている。 証拠のビデオがあっても、最初から否定してかかればあらゆるものは自分の論理に従って : おもしろい、と浅川は思う。 配列され、納得のいくように変形されてしまう。しかし、 一応、ブリーフケースに入れてビデオを持ってきているが、もしこれを編集長に見せれば、 どんな反応をするだろうかと。いや、それ以前に、彼はこれを見ようとするかどうか。昨 夜遅く吉野に事の次第を話したところ、彼は信じた。そして、その言葉を裏づけるように、 絶対にビデオは見たくない、見せないでくれとも言った。その代わり、できるだけのこと は協力しようとも : : : 。吉野の場合、信じるべき土壌があったことは確かだ。芦名の県道 沿いの車の中から辻遥子と能美武彦の変死体が発見された時、吉野はいち早く駆けつけて 現場の空気に触れている。化け物以外にこんなことは為し得ないとわかっているはずなの に、捜査員のだれもがそのことを言い出さない、あの息詰った雰囲気。もし吉野が、あの グ時の空気に触れていなかったら、こうすんなりと信じたかどうかわからない。 とにかく、浅川は今、一個の爆弾を抱えていた。編集長の目の前でチラつかせて威嚇す れば、そこそこの効果は上げるはずであゑ単なる興味という点からも、浅川は使ってみ 1 たいという誘惑に駆られるのだった。