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検索対象: 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩
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1. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

あまごろも 一「かけて」は、衣を掛けて、昔 浮舟尼衣かはれる身にゃありし世のかたみに袖をかけてしのばん のことを心にかけて、の両意。尼 のち の身に、往時の形見として華麗な と書きて、「いとほしく、亡くもなりなん後に、ものの隠れなき世なりければ、 衣の袖を掛けて昔を偲ばうか。忘 一 = ロ四 物聞きあはせなどして、疎ましきまで隠しけるとや思はんなど、さまざま思ひれたはずの昔日が懐かしまれる。 氏 ニこれも手習歌であろう。 源つつ、浮舟「過ぎにし方のことは、絶えて忘れはべりにしを、かやうなることを = 不憫なことに。以下、浮舟の、 妹尼への思い 四他人から私 ( 浮舟 ) のことを。 思しいそぐにつけてこそ、ほのかにあはれなれ」とおほどかにのたまふ。妺尼 五自分が、尼君たちに疎々しく ′ : 」ろう 「さりとも、思し出づることは多からんを、尽きせず隔てたまふこそ心憂けれ。し、素姓などを隠していた意。 六漠然とした懐旧の念、の趣 ここには、 かかる世の常の色あひなど、久しく忘れにければ、なほなほしくはセ動揺を見透かされぬため。 ^ あなたが隠しだてなさるのが。 九私 ( 妺尼 ) などは。 べるにつけても、昔の人あらましかばなど思ひ出ではべる。しかあっかひきこ 一 0 世俗の人の着る華麗な色合い = 縫い方や染色など、平凡にし えたまひけん人、世におはすらんや。かく亡くなして見はべりしだに、なほい かできない意。 一ニ亡き娘をさす。 づこにあらむ、そことだに尋ね聞かまほしくおばえはべるを、行く方知らで、 一三あなたをそのようにお世話し てあげた人。浮舟の母を暗に言う。 思ひきこえたまふ人々はべらむかし」とのたまへば、浮舟「見しほどまでは、 一四私のように娘を死なせてしま ひとり 一人はものしたまひき。この月ごろ亡せやしたまひぬらん」とて、涙の落つるった母親でさえも。 一五やはりどこかに生きているだ を紛らはして、浮舟「なかなか思ひ出づるにつけて、うたてはべればこそ、えろう、せめてどこなりとその場所 を知りたいと思われるのに。 一六まして、あなたは行方不明で。 聞こえ出でね。隔ては何ごとにか残しはべらむ」と、言少なにのたまひなしつ。 五 六 そで ゅ へ

2. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

源氏物語 94 心などあしき御乳母やうの者や、かう迎へたまふべしと聞きて、めざましがり一薫の正室、女二の宮の周辺に、 四 意地悪な乳母のような存在を想定。 て、たばかりたる人もやあらむと、下衆などを疑ひ、母君「今参りの心知らぬニ薫が浮舟を京に。 三誘拐をたくらんだ人もいるか。 四乳母のような人 ( ↓注 I) の指 ゃある」と問へど、女房「いと世離れたりとて、ありならはぬ人は、ここにて、 図で、この邸にもぐりこんだ下人 かいるかもしれない、と疑う。 はかなきこともえせず、いまとく参らむと言ひつつなむ、みな、そのいそぐべ 五前にも母君は「今参りはとど きものどもなど取り具しつつ、かへり出ではべりにし」とて、もとよりある人めたまへ」 ( 浮舟六一ハー ) と言い 女二の宮方からの潜入を警戒。 六住みなれていない新参者。 たにかたへはなくて、いと人少ななるをりになんありける。 セ裁縫など、転居の準備をさす。 けしき 侍従などこそ、日ごろの御気色思ひ出で、「身を失ひてばや」など泣き入り ^ 京のそれそれの実家に 九もとからいる女房さえ一部は。 一 0 ↓浮舟六〇ハー・七四ハー たまひしをりをりのありさま、書きおきたまへる文をも見るに、「亡き影に = 浮舟の「なげきわび : ・」の歌が すずり と書きすさびたまへるものの、硯の下にありけるを見つけて、川 の方を見やり硯箱の下にあったのを見つけ、入 水を想像。視線が宇治川に向く。 おと つつ、響きののしる水の音を聞くにも疎ましく悲しと思ひつつ、侍従「さて亡三↓浮舟六〇ハー一一行。 一三鬼のしわざか狐のしわざか、 せたまひけむ人を、とかく言ひ騒ぎて、いづくにもいづくにも、 いかなる方にまた薫の正妻方のしわざかと。 一四母君など誰もが。 なりたまひにけむと思し疑はんも 、いとほしきこと」と言ひあはせて、「忍び一五浮舟が 一六侍従が、右近と。 のち 宅匂宮との秘事とはいえ、女君 たることとても、御心より起こりてありしことならず。親にて、亡き後に聞き ( 浮舟 ) 自身が起したことではない。 たまへりとも、 いとやさしきほどならぬを、ありのままに聞こえて、かくいみ一〈恥ずかしくない。秘事ながら、 めのと うと 六 ふみ 九

3. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

( 現代語訳三一四ハー ) ばえたまふ。なやませたまふあたりこ、 レカかること思し乱るるも , ったてあれば、母君も「鬼」を思った。↓九三ハー。 天男女間の心外なまちがい。匂 きゃう 宮が秘かに、 京におはしぬ。 浮舟にかかわったこと。 一九「人」は、匂宮。 うかっ 宮の御方にも渡りたまはず、薫「ことごとしきほどにもはべらねど、ゆゅしニ 0 自らを女性関係に迂闊で不慣 れだとする。薫らしい自己認識。 ニ一母宮が病気でおられる折に。 きことを近う聞きはべれば、心の乱れはべるほどもいまいましうてなむ」と聞 一三正室女二の宮のもとにも。 ニ四 かたち こえたまひて、尽きせずはかなくいみじき世を嘆きたまふ。ありしさま容貌、ニ三浮舟を、低い身分で表だった 妻妾でないとする。暗に死を言う。 あいぎゃう うつつ いと愛敬づき、をかしかりしけはひなどのいみじく恋しく悲しければ、現の世ニ四下の「世」は、直接には浮舟と の仲をさすが、漠然と一般化され ニ六 ニ七 た無常感の表現。薫らしい感懐 には、などかくしも思ひ入れずのどかにて過ぐしけむ、ただ今は、さらに思ひ 一宝生前の浮舟の美貌。以下、薫 の回想と感慨 しづめん方なきままに、悔しきことの数知らず、「かかることの筋につけて、 ニ六↓前ハー末「たゆく世づかぬ心」。 すくせ ニ九こと いみじうもの思ふべき宿世なりけり。さま異に、いざしたりし身の、思ひの外に、毛死別して執着が強まる。 夭大君以来の女性関係を回顧し れい かく、例の人にてながらふるを、仏なども憎しと見たまふにや。人の心を起こて、わが憂愁の宿世を思う。 ニ九世人に異なって道心を身上と はうべん じひ したはずのわが人生なのに、現世 させむとて、仏のしたまふ方便は、慈悲をも隠して、かやうにこそはあなれ」 蛉 に執着する結果となったと反省。 三 0 仏が自分に道心を起させよう と思ひつづけたまひつつ、行ひをのみしたまふ。 と、浮舟の死というつらい目に遭 かの宮、はた、まして、二三日はものもおばえたまはず、わせたらしいと合理化する。 〔五〕薫、匂宮を見舞う 三一悲嘆の度合は、薫にもまして。 9 浮舟の密通を思い煩悶 現し心もなきさまにて、いかなる御物の怪ならんなど騒ぐ三ニ女房らは物の怪のせいと驚く。 うつ 三 0 三ニ ニ八 ものけ ニ五

4. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

いたのではないだろうか。 京に帰ると、薫は浮舟の弟の小君を呼んで、文使いを頼むが、その際に「お母さんには早まって言わない ように。なまじっか、びつくりして騒ぎ立てられると、このことを隠しておきたい人まで知ってしまうだろ う。親御の心配がお気の毒だからこそ、こうして探し出そうとしているのだ」と口止めをする。もちろん匂 宮に感づかれないための用心であるが、死んだとばかり思っていた我が子が生きていたと知ったときの喜び ようは、薫には容易に想像できたのである。 小君は薫の文を携えて小野を訪ねる。浮舟は恋しさをこらえて会おうとしない。そして、心中に、 まづ、母のありさまいと問はまほしく、こと人々の上はおのづからやうやう聞けど、親のおはすらんや うはほのかにもえ聞かずかしと、なかなかこれ ( 小君 ) を見るにいと悲しくて、ほろほろと泣かれぬ 出家後の浮舟の心の大半を占めているものが何であるかは、もはや明らかだろう。小君に会うことを勧め る妹尼に、彼女は今までのことはみな忘れてしまったけれど、と言ったあとに付け加えてこう一言う。 ひとり ただ一人ものしたまひし人の、いかでとおろかならず思ひためりしを、まだや世におはすらむと、それ ばかりなん心に離れず悲しきをりをりはべるに ( 中略 ) 、かの人もし世にものしたまはば、それ一人に たいめん なん対面せまほしく思ひはべる。 論 評 この世でたった一人お母様に会いたい これが浮舟の最後の、しかも彼女としては最も長くまた最もまと 巻まった言葉である。「中略」の部分には弟の小君にも会いたいのはやまやまだけれど、やはりこうしている とは知られたくない、とある。『源氏物語』全編の帰結を主人公の最後の姿によって判断しようとする限り は、浮舟の母への帰依は甚だ重要である。

5. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

源氏物語 62 思へば、浮舟「、い地のあしくはべるにも、見たてまつらぬがいとおばっかなく一母のもとに私が。浮舟には母 だけが支え。↓五七ハー九行。 おばえはべるを、しばしも参り来まほしくこそ」と慕ふ。母君「さなむ思ひはニ出産を前に騒がしい状況。 三浮舟づきの女房たち。彼女た べれど、かしこもいともの騒がしくはべり。この人々も、はかなきことなどえちが来ても手狭な家なので、裁縫 など上京の準備ができないとする。 たけふ 四「道のロ武生の国府に我 しやるまじく、せばくなどはべればなむ。武生の国府に移ろひたまふとも、忍 はありと親に申したべ心あひ 五 びては参り来なむを。なほなほしき身のほどは、かかる御ためこそいとほしくの風やさきむだちゃ」 ( 催馬楽・ 道ロ ) 。 五人数ならぬ母の身では。薫へ はべれ」など、うち泣きつつのたまふ。 の手前、浮舟が不憫、の気持。 殿の御文は今日もあり。なやましと聞こえたりしを、いか 0 浮舟は母を唯一の支えとしなが 三四〕薫、随身の探索に らも、宮との秘事ゆえに心を隔て より初めて秘密を知る るほかない。彼女の孤絶した、いに、 がととぶらひたまへり。「みづからと思ひはべるを、わり 入水しかないとの決意が固まる。 なき障り多くてなむ。このほどの暮らしがたさこそ、なかなか苦しく」などあ六薫からの手紙。 セ浮舟病気と伝えられていた。 ただよ り。宮は、昨日の御返りもなかりしを、「いかに思し漂ふそ。風のなびかむ方 ^ あなたが京に移るまでを待つ、 その待っ身のつらさ。 もうしろめたくなむ、いとどほれまさりてながめはべる」など、これは多く書九母君の滞在で、浮舟は匂宮へ の返事が書けなかった。 一 0 京の隠れ家にとの心づもりな きたまへり。 のに、何を思い迷っているのか。 一四みずいじん一五 けぶり 雨降りし日、来あひたりし御使どもそ、今日も来たりける。殿の御随身、か = 「須磨の浦の塩焼く煙風をい たみ思はぬ方にたなびきにけり をのこ の少輔が家にて時々見る男なれば、随身「まうとは、何しにここにはたびたび ( 古今・恋四読人しらず ) 。 ( 現代語訳一一八九ハー ) つかひ

6. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

思はじと思ふも物を思ふなり言はじと言ふもこれも言ふなり 葵一一 0 ( 三八一 l) 思はむと頼めしこともあるものをなき名を立ててただに忘れね 東屋一六九 ( 三七九 ) かがりび 思ひあまり出でにし魂のあるならむ夜ぶかく見えば魂結びせよ 篝火の影となる身のわびしきは流れて下に燃ゆるなりけり 葵一一三 ( 三八三 ) ・柏木一六 ( 三尖 ) 薄雲団六六 ( 四一七 ) ひな 思ひきや鄙の別れに衰へて海人の縄たき漁りせむとは かきくらす心の闇にまどひにき夢うつつとは今宵さだめよ 須磨 3 四五 ( 三五六 ) ・蓬生 3 一六一 ( 三六九 ) ・玉鬘一五一 ( 四一一六 ) 紅葉賀七六 ( 三天 ) 思ひつつ寝なくに明くる冬の夜の袖の氷はとけずもあるかな 限りある別れのみこそ悲しけれ誰も命を空に知らねば 真木柱一五一 ( 四 0 五 ) 初音団一一 0 七 ( 四三一 D 思ひやる心ばかりはさはらじを何へだつらむ峰の白雲 限りなく思ひながらの橋柱思ひながらに中や絶えなむ 橋姫一一六 ( 四大 ) 紅葉賀六八 ( 三七四 ) 思ふこと昔ながらの橋柱ふりぬる身こそ悲しかりけれ かくてこそ見まくほしけれよろづ世をかけてにほへる藤波の花 紅葉賀六八 ( 三七五 ) 宿木 3 一一一一一 ( 三七六 ) - 一と 思ふてふ言よりほかにまたもがな君一人をばわきてしのばむ かくばかり惜しと思ふ夜をいたづらに寝であかすらむ人さへぞ憂き 蜻蛉⑩一四五 ( 四三六 ) 横笛六七 ( 三九一 I) 思ふどちいざ見にゆかん玉津島入江の底に沈む月影 かずかずに思ひ思はず問ひがたみ身を知る雨は降りぞまされる 明石 3 会 ( 三六一 ) 浮舟 2 五五 ( 四 = 九 ) すりごろも 索思ふとていとこそ人になれざらめしかならひてぞ見ねば恋しき 春日野の若紫の摺衣しのぶの乱れ限り知られず帚木田四三 ( 四四 0 ) 歌 タ顔田一五三 ( 四四七 ) ・須磨 3 五四 ( 三毛 ) 数ならぬ身には思ひのなかれかし人なみなみに濡るる袖かな 語思ふとも恋ふとも言はじロなしの色に衣を染めてこそ着め 東屋 3 一六七 ( 三七九 ) 物 真木柱 3 一七五 ( 四 0 八 ) 数ならぬ身のみもの憂く思ほえて待たるるまでになりにけるかな 氏 源思ふには忍ぶることそ負けにける色には出でじと思ひしものを 賢木一八三 ( 三八九 ) 明石 3 七九 ( 三五九 ) 風はやみ峰の葛葉のともすればあやかりやすき人の心か 思へども身をしわけねば目に見えぬ心を君にたぐへてそやる タ霧第一三八 ( 一一一九七 ) 末摘花盟一一 ( 三六七 ) かぞいろはあはれと見ずや蛭の子は三年になりぬ足立たすして 親の親と思はましかばとひてまし我が子の子にはあらぬなるべし 朝顔団八一 ( 四一一 0 )

7. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

憂かなれ。いま、大宮の御前にて、恨みきこえさせたまふと啓せん」とのたま 0 薫の、女一の宮が手の届かぬ存 在だとする悲嘆は、宇治の姫君た ふ。女一一の宮「いかが恨みきこえん。うたて」とのたまへば、薫「下衆になりにたちとのかなわぬ恋の悲傷に矛盾な く繋がる。その憂愁は反俗的な感 りとて、思しおとすなめりと見れば、おどろかしきこえぬとこそは聞こえめ」情として彼の日常的栄華を支える。 一六匂宮。↓一二二ハー とのたまふ。 宅宮の衣。黄色を帯びた薄紅色。 はなだ 天濃い縹 ( 薄い藍 ) 。ともに夏用。 あした 一九女一の宮の過日の美しさが、 その日は暮らして、またの朝に大宮に参りたまふ。例の、 〔一三〕薫、女一の宮を慕 弟匂宮に共通。その姉宮が「まづ ちゃうじ い中宮のもとにまいる 宮もおはしけり。丁子に深く染めたる薄物の単衣をこまや恋しき」と慕われる。「女」の呼称 は、恋情をこめた表現である。 なほし かなる直衣に着たまへる、いとこのましげなり。女の御身なりのめでたかりしニ 0 浮舟への悲嘆ゆえの面やつれ。 ニ一一面では、恋情を抑制 にも劣らず、白くきよらにて、なほありしよりは面痩せたまへる、いと見るか一三なまじ女一の宮の姿をかいま 見たばっかりに、せつない思い。 ひあり。おばえたまへりと見るにも、まづ恋しきを、いとあるまじきこととしニ三物語絵を匂宮が持参。 一西女一の宮に。「我」は匂宮。 づむるぞ、ただなりしよりは苦しき。絵をいと多く持たせて参りたまへりける、ニ五薫も、中宮の御前に ニ六源氏や紫の上の思い出話か。 毛女一の宮に献呈した残りの絵。 蛉女房してあなたにまゐらせたまひて、我も渡らせたまひぬ。 ニ ^ 自邸にいる女一一の宮をさす。 ー・カ、つ 大将も近く参りよりたまひて、御八講の尊くはべりしこと、 いにしへの御事、ニ九宮中から離れて。 三 0 もとは皇女なのに、の気持。 すこし聞こえつつ、残りたる絵見たまふついでに、薫「この里にものしたまふ三一女一の宮から女二の宮への文 通のないことを訴え、その文面に ニ九 三 0 皇女の、雲の上離れて思ひ屈したまへるこそ、いとほしう見たまふれ。姫宮の接したい願望をかなえようとする。 ニ四 ニセ まへ ニ三 ニ 0 おもや ニ六 ひとへ

8. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

らず思ほし疑ふこともあらむを、宮、はた、同じ御仲らひにて、さる人のおは一五以下、薫の思惑を顧慮。 一六匂宮か誰かが隠したかの疑い しおはせず、しばしこそ、忍ぶとも思さめ、つひには隠れあらじ。また、さだ宅匂宮もまた同族の親しい間柄 ゆえ、浮舟が宮のもとにいるかど 一九 , つか、薫はしばらくは疑うだろう めて宮をしも疑ひきこえたまはじ。、ゝ し力なる人か率て隠しけんなどそ、思し寄 が、結局は分ってしまうだろう。 すくせ けだか 天匂宮だけを疑うとは限るまい せむかし。生きたまひての御宿世はいと気高くおはせし人の、げに亡き影にい 一九下賤の男か、ぐらいの疑い ーレ - もび - レ」 みじきことをや疑はれたまはん」と思へば、ここの内なる下人どもにも、今朝ニ 0 高貴な薫や匂宮とかかわった 浮舟の人生をすぐれた果報とする。 あない のあわたたしかりつるまどひにけしきも見聞きつるには口かため、案内知らぬニ一浮舟の「なげきわび」の歌のと おり、死後つらい疑いを受ける意。 たれ には聞かせじなどぞたばかりける。「ながらへては、誰にも、静やかに、あり一三浮舟不在の様子を。 ニ三悲嘆のあまり生き長らえそう オしか、もしも生きていたら。 しさまをも聞こえてん。ただ今は、悲しささめぬべきこと、ふと人づてに聞こ 一西悲しみも覚めるような噂を薫 ふたり ひとづて しめさむは、なほいといとほしかるべきことなるべし」と、この人二人ぞ、深が人伝に聞かれては。真相を知っ ては疑惑が先立っとする。 一宝過失を思う良心の苛責。 く心の鬼添ひたれば、もて隠しける。 0 浮舟の死が醜聞として世間に取 いしやまこも り沙汰されかねない。死して美化 大将殿は、入道の宮のなやみたまひければ、石山に籠りた 蛉〔四〕薫、浮舟の死を知 される処女塚伝説 ( ↓浮舟七五ハー ニ七 り拙いわが宿世を嘆く まひて、騒ぎたまふころなりけり「さて、いとど、かしこ注一五 ) の話とは対極的である。 ニ六母女三の宮の病気平癒を祈願 して石山寺 ( 浮舟三〇ハー ) に参籠中。 をおばっかなう思しけれど、はかばかしう、さなむと言ふ人はなかりければ、 毛宇治の浮舟のことが気がかり。 つかひ かかるいみじきことにも、まづ御使のなきを、人目も心憂しと思ふに、御庄の = 〈宇治の人々は世間体もつらく。 ニ 0 ニ六 ニ四 、一ころう み一う

9. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

43 浮舟 ( 現代語訳一一七五ハー ) ひと したらむだに、めづらしき中のあはれ多かるべきほどなり。まいて、恋しき人一五亡き大君にゆかりのない女を 相手にする場合でさえ。「 : ・だに」 を受け、「まして」浮舟は、と続く。 によそへられたるも、こよなからず、やうやうものの心知り、都馴れゆくあり 一六得がたい逢瀬の情感。 さまのをかしきも、こよなく見まさりしたる、い地したまふに、女はかき集めた宅↓前ハー九行。 一 ^ 都の女らしくなる様子 うち る心の中にもよほさるる涙ともすれば出で立つを、慰めかねたまひつつ、 一九宇治橋のように末長い契りは 朽ちない、不安に思って心配する な、の意。「あやぶむ」に「踏む」を 薫「宇治橋の長きちぎりは朽ちせじをあやぶむかたに心さわぐな 掛け、「朽ち」「橋」と縁語。 いま見たまひてん」とのたまふ。 ニ 0 私が薄情か否かは。 ニ一「絶え間」は、橋の断絶、訪問 の途絶え、の両意。訪問がなくて 浮舟絶え間のみ世にはあやふき宇治橋を朽ちせぬものとなほたのめとや は不安だと切り返した。「忘らる みす る身を宇治橋のなか絶えて人も通 さきギ、きよりもいと見棄てがたく、しばしも立ちとまらまほしく思さるれど、 はぬ年ぞ経にける」 ( 古今・恋五 人のもの言ひのやすからぬに、今さらなり、心やすきさまにてこそなど思しな読人しらす ) 。 一三いまさら長居すべきでもない、 して、暁に帰りたまひぬ。いとようも大人びたりつるかなと、心苦しく思し出京に引き取ってから気楽な所でゆ つくり逢おう。匂宮とは対照的。 つることありしにまき、りけり。 0 逢瀬の二人の心の距離に注意。 宇治の秀逸な風物も薫の大君追慕 きさらギ一 二月の十日のほどに、内裏に文作らせたまふとて、この宮の心象風景でしかなく、狂熱的な 〔一六〕薫の浮舟を偲ぶ吟 匂宮の場合とは対照的。 さくもん 誦に、匂宮焦慮する も大将も参りあひたまへり。をりにあひたる物の調べども = 三漢詩を作り合う作文の会。 そら・じよう ニ四双調 ( 春の調べ ) に整えられる。 に、宮の御声はいとめでたくて、梅が枝などうたひたまふ。何ごとも人よりは一宝↓梅枝 3 一八九ハ ' 注の歌。 ニ 0 一九 むめ ふみ ニ四

10. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

ひ出づるに、、い強き人なくあはれなり。右近あひて、いみじう泣くもことわり的に見たが、今宇治を訪ねると感 動がこみあげる。 ニ 0 宅以下、過往の匂宮と浮舟。 なり。時方「かくのたまはせて、御使になむ参り来つる」と言へば、右近「今さ 一 ^ 浮舟が匂宮に。橘の小島に舟 で渡った時の逢瀬。↓浮舟四七ハー。 らに、人もあやしと言ひ思はむもつつましく、参りても、はかばかしく聞こし 一九宮が右近の来邸を望む由。 いみ ニ 0 いまさら参上しては同僚の女 めしあきらむばかりもの聞こえさすべき心地もしはべらず。この御忌はてて、 房も不審がろう、の意。今までせ つかく隠蔽してきたのに、の気持。 あからさまにものになんと人に言ひなさんも、すこし似つかはしかりぬべきほ 三忌籠りの三十日間。 どになしてこそ、心より外の命はべらば、いささか思ひしづまらむをりになん、一三京に用事がと言いつくろって も、おかしくない時期を待って。 おほ′一と 仰せ言なくとも参りて、げにいと夢のやうなりしことどもも、語りきこえさせニ三自分も浮舟の跡を追いたいが、 意外にも生き長らえていたら。 一西前ハー六行の宮の気持を受ける。 はべらまほしき」と言ひて、今日は動くべくもあらず。 一宝時方。左衛門大夫。 大夫も泣きて、時方「さらに、この御仲のこと、こまかに知りきこえさせはニ六宮の、浮舟への無類の情愛。 毛あなたがた ( 右近や侍従 ) とも、 ニ六 べらず。ものの心も知りはべらずながら、たぐひなき御心ざしを見たてまつりあわててお近づきになることもあ るまい、いすれ宮が女君 ( 浮舟 ) を ニ七 蛉はべりしかば、君たちをも、何かは急ぎてしも聞こえうけたまはらむ、つひに迎えられた時にはお仕えする方々 だと思っていたのに。 は仕うまつるべきあたりにこそと思ひたまへしを、言ふかひなく悲しき御事の夭浮舟の死をさす。 ニ九 蜻 ニ九私個人としてお寄せする気持 のちわたくし もかえって深くなった。浮舟存命 後は、私の御心ざしも、なかなか深さまさりてなむ」と語らふ。時方「わざと 中は主人の命にだけよったので。 御車など思しめぐらして、奉れたまへるを、むなしくてはいといとほしうなむ。三 0 匂宮が格別に迎えの車などを。 一九 ニ三 ニ四 つかひ 三 0