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検索対象: アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1
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1. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

しんちょう エルキュール日ボワロは真重にことばをえらんだ。 しよう じたい ちょうさ ひつよう 「それにからんで、調査を必要とする事態が生じたのですよ。 「ほう。で、わたしになにをせよとおっしやる ? 」 おうしゅう しようこしよるい けんししんもんていしゆっ 「たしか、検死審問で提出された証拠書類を、そのあと破棄するか、それとも押収するか は、あなたの権限で、適当と思われるほうに決定できるはずでしたな。そこでです、ヘン ガスコインのポケットから、一通の手紙が発見されたとのことですがー・ー ? 」 「そのとおりです。」 「故人の甥、ジョージラムジー医師からの手紙ですね ? 」 やく しほうじこく けんししんもんていしゆっ 「そうです。その手紙は検死審問に提出され、死亡時刻を決定するのに役だちました。」 「その手紙、いまでも見られますか ? あいて エルキ = ールボワロは、やや気がかりそうに相手の返事を待ちうけた。そして、手紙 ほぞん がまだ保存してあると聞くと、ほっとしたようにため息をついた。 てつびつがたまんねんひっ ねんい けんしかん 検死官がそれをもちだしてくると、ボワロは念入りに目をとおした。鉄筆型万年筆を もじ ぶんめん 使って、やや読みにくい文字で書かれたもので、文面はつぎのとおりだった こじんおい けんげん てきと、つ つう けってい はつけん けってい 0 53 ボワロの事件簿

2. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

つうこうにん しゅんかん この瞬間に、サタースウェイト氏は、通行人の目から見れば、ふいに気がくるったとし しんぶんやぶ こうどう ま一度、新聞を破れんばかりのいきおいでひらくと、ラジ か思われない行動をとった。い がいろ ばんぐみらんいちへつ オの番組欄を一瞥し、しずかな街路を死にものぐるいに走りだしたのだ。通りのはずれで、 ゆっくり走ってくるタクシーを見つけた彼は、それにとびのるなり行く先を告げ、ついで もんだい に、生死にかかわる問題だ、いそいでくれとどなった。 かねも 運転手は彼のようすを見て、頭はおかしいらしいが金持ちらしいと見てとり、せいいっ ようきゅう ばいその要求にこたえる努力をした。 だんべんてきそうねん ざせきせ サタースウ = イト氏は座席の背にもたれた。頭のなかは、さまざまな断片的な想念で かがくちしき がくせいじだい 、つばいだった。学生時代にならったうろお・ほえの科学知識、今夜ィーストニーの使った しゅうき ′」くきようめい しぜんしゅうき たしか、 語句。共鳴ーーー自然周期ーー・もしもある力の周期が自然周期と一致すれば ほちょう しゅう こうしん つばしかん 吊り橋に関した例があったーー兵隊が吊り橋の上を行進する。そして彼らの歩調が橋の周 もんだい けんきゅう き : ィーストニーはその問題を研究していた。ィーストニーは知ってい 期と一致すると : てんさい る。そしてイーストニーは天才なのだ。 ほうそう ョアシ = ビンが放送するのは十時四十五分。ちょうどいまだ。そう。しかし、最初は うんてんしゅ 0 し どりよく へいたい し し つばし こんや っ 186

3. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

外へでると、さっそくわたしはたずねた。 ついたてけん ゅうりしようこ 「ねえボワロ、あの衝立の件だがーーーあれはリッチに有利な証拠になるのかね。」 せいはんたい ふり ちんつう ついたてひっ 「正反対だよ、彼にはたいへん不利になる。」彼は沈痛なおももちでいった。「衝立が櫃を どうじ けっこん やくめ 室内の客の目からかくしていた。それは同時に、じゅうたんの血痕をかくす役目もする。 ちひっ おそかれ早かれ、血が櫃をとおしてにじみたし、じゅうたんにしみこむことはわかってい るんだ。衝立はとりあえずそれをかくすのに使われた。それはいい。 しかしーーー・ちょっと なっとく じゅうほく だけ納得しかねるところがある。あの従僕だよ、〈イスティングズ。あの従僕だ。 「あの男がどうかしたのかね ? なかなかかしこい男のように見えるが。」 「そのとおり、ひじようにりこうだ。そうだとすると、すこしへんだとは思わないかね ? したい しようさ あの男が朝になれば死体を発見しないわけがない。そんなことにリッチ少佐が気づかな きようこうちよく′」 かったと思うかね ? 凶行の直後は時間がないから、なんとも手のうちょうがなかったの したいひっ ついたて きやく はわかる。そこでとりあえず死体を櫃におしこみ、衝立でそれをかくして、客が帰るまで なにくわぬ顔でおしとおす。だが、客が帰ったあとはどうかね ? それこそ死体を処分す るのにうってつけの時間じゃないか。」 じゅ、つほく けっこん 「従僕が血痕には気がつくまいと考えたのかもしれんよ。」 しつないきや′、 ついたて はつけん しよぶん

4. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

ただ、弟さんから仲なおりを申しでていらしたんだとばかり思っていましたわ。ごそんじ きようだい なか でしようが、あのご兄弟は長年仲たがいをしてらしたんです。」 きょぜっ 「それでたしか、ガスコイン氏ははっきり拒絶なさったんでしたな ? 」ボワロはいった。 ふじん ヒル夫人はうなずいた。 だんな 「まあそうでしようね。旦那さまは、どっちかというとよわよわしくおっしゃいましたわ。 『なに、ヘンリー ? ヘンリーがどうしたというんだ ? もう長いあいだ会っていないし、 会いたいとも思わん。なにかというとけんかをふつかけてくる男でな、ヘンリーというの は。』ーーーそれだけでした。」 ふじんじしんふまん べんごしれいたんたいどぎやく そこでまた話を - よ、ヒル夫人自身の不満と、故ガスコイン氏の弁護士の冷淡な態度に逆も どりした。 とうとつあいて くしん あまり唐突に相手の話の腰を折らぬよう、エルキュール日ボワロはいくらか苦心したが、 簿 じきょ 件 それでもまもなくそこを辞去した。 事 すがた つぎに、ちょうど夕食時間がすぎたころ、彼が姿をあらわしたのは、ウインブルドンはロ ワ ーセット街のエルムクレスト、ジョージ日ラムジー医師の住まいだった。 しざいたく しんさっしつ 医師は在宅していた。エルキュール日ボワロは診察室へとおされ、やがて、ジョージ なか こし お し こ し し

5. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

「どうかしたのか、おまえ ? ー彼女の父親がきいた。 ィーヴは、かすれた声でいった。 「ないのよ : : なくなっちゃったの : : : 」 「なにがどうしたんですって ? ーポインツ氏がすすみでてたすねた。 ィーヴは、はげしいいきおいで彼のほうにむきなおった。 とがね もぞうほうせきかざ 「こうなんですーーこのあたしのバッグ、留め金のまんなかに大きな模造宝石の飾りがっ いてるんです。それがゆうべとれちゃって、おじさまからあのダイヤモンドを見せても らったとき、ちょうどおなじぐらいの大きさだなあって、あたし思ったんです。それで寝 もぞうほうせき ながら考えたんだけど、この模造宝石のはめこんであったあとに、おじさまのダイヤを粘 簿 ほんもの 土でくつつけたらどうだろう。そうすればきっと、だれもそれが本物だとは思わないわ事 の こんや ン そう思って、今夜、そのとおりにやってみたんです。 イ はじめそれを床に落として、、、ハッグを手にもったままテーブルの下をさがす。そして、 ねんど とがねあな 用意しといた粘土でそれを留め金の穴にくつつけたら 、、、ハッグをテーブルの上において、 ダイヤをさがしつづけるようなふりをする。 ほら、ポオの『盗まれた手紙』とおんなじよ 最初から最後ま ゆか ぬす ごそんじでしよう ねん 217 ハーカ

6. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

えんしゆっか ようとして前にのりだしたのだが、のりだしたひょうしに、二階の回廊の手すりぎわに、 すがた じっとうずくまっている女の姿が目にはいったのだ。その女は、手すりに身をひそめるよ うにかがみこんでいるので、サタースウェイト氏以外、だれの位置からも目につかない。 かいか み どうやら階下の男たちの会話に聞き耳をたてているらしく、うずくまったまま身じろぎも しないので、一瞬サタースウェイト氏は、自分の目をうたがったほどだった。 もよう ふく と、つよ、つ だが、その女の着ている服の模様は容易に見わけられたーー・東洋ふうのデザインのプロ ケード そう、エリナーⅱポータルだ。 どうじ ずがら そして、それと同時に、ふいにその夜の出来事のすべてが、びたりとあるべき図柄のな ししゆっげん ぐうぜん かにおさまった。クイン氏の出現ーーーあれはけっして偶然などではない。きっかけととも 簿 とうじよう ぶたいはいゅう こんや そうおおひろま に登場してくる舞台俳優のそれなのだ。今夜、このロイストン荘の大広間では、ひとつの事 の えん えそらごと やくしゃ 芝居が演じられているーー芝居とはいっても、けっして絵空事ではない。。 けんに役者のひン しばい ク とりは死んでいるのだ。いかにも ! デレク日ケイベルはこの芝居のなかで、ひとつの役 し かくしん をうけもっている。サタースウェイト氏はそのことを確信した。 こうみよう と、ふいにまた新たな光明がさした。これはクイン氏のたくらんだことにちがいない。 かくはいゅう なぞちゅうしん 1 人 演出家は彼なのだ。彼が各俳優にきっかけをあたえているのだ。 / 彼こそはこの謎の中心 し いっしゅん あら でき′」と し ち かいろう み やく

7. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

あれはデレク日ケイベルのことをいっているのだろうか、それともそれにかこつけて、 自分のことをいっているのだろうか ? 彼を観察していたサタースウェイト氏は、どうも あとのほうらしいと思わずにはいられなかった。そうだ、それがまさにアレック日ポータ やくわり うんめいちょうせん そうぞうりよく ルの演じている役割なのだ。ーー・運命に挑戦する男。酒のせいでにごっていた想像力が、い きようめい そう まとっぜん、この会話のなかのひびきと共鳴しあい、それまでひそかにあたためていた想 ねん 念をよびさましたのだ。 彼女はまだそここ サタースウェイト氏は、ちらと上を見た。 , 冫いた。見まもり、耳をそば しにん だてているーーーあいかわらず凍りついたようにうごかず、死人のように身じろぎもせず。 、こうふん 「まったくそのとおりだ」と、コンウェイがいった。「ケイベルはたしかに興奮していた あっとうてき 異様なほど、といっても、 しい。いうなれば、大きな賭けをした男が、圧倒的なハンディ をくつがえして勝った、とでもいったところかな。」 「でなければ、なにかやろうと心にきめたことがあって、それにたいして勇気をふるいお こそうとしていたのかもしれない。」 ポータルがほのめかした。そして、まるで自分のことばに触発されたかのように、席を ても 立っと、またしてもお手盛りで自分のグラスをみたした。 えん こお かんさっ しよくはっ ゅうき せき 130

8. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

と巻きおさめた。それから、「さて、新しい年が明けましたわーというと、ポータル夫人を おく かえりみてつけくわえた。「ところで奥さんはどうなさいます ? 」 エリナーポータルはすばやく立ちあがると、「べッドにはいりますわ、なにはともあ かいかっくちょう れ」と、やや軽薄なくらいに快活な口調でいった。 ( 顔がまっさおだ。 ) そうサタースウェイト氏は思いながら、自分も立ちあがって、せわ しよくだいじゅんび しなく燭台の準備にかかった。 ( もともと色白らしいが、ふだんはあれほど青白くはある まい。 ) サタースウェイト氏はろうそくに火をつけると、古風なかるい会釈とともに、それを ふじん 彼女は礼をいってそれをうけとり、それで足もとを照らしなが ポータル夫人にわたした。 / かいだん ら、ゆっくり階段をの・ほっていった。 しようどう ふかかい 彼女のあとを追ってゆ ふいに、ある不可解な衝動がサタースウェイト氏をおそった。 , しようどう きけん あんしん き、彼女を安心させてやりたいという衝動だ。彼女がなんらかの危険にさらされている、 しようどう きみよう そんな奇妙な感じがしてならない。だが、すぐにその衝動は消え、彼は気恥ずかしさをお しんけいしつ ・ほえた。これでは、自分までが神経質になっているといわれてもしかたあるまい。 ポータル夫人は二階へあがるとき、夫のほうへは目もくれなかったが、いま、階段のと ふじん おっと いろじろ こふう えしやく かいだん ふじん = クインの事件簿 113

9. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

おっと ふつうのボワロもの短編とはちがって、犯人 ( の心 ) を救済するエンディングになっています。 ぎじゅっ ボワ口にもクイン探偵らしい心があるのですね。ボワ口がスリの技術を身につけていること ( ま りゅう どくしゃ た、その理由も ) が語られていて、おもしろく思われた読者もいらっしやるでしよう。 むすこ にわし ばちたいじ 生・ロのトリック クリスティの家の庭師の小さな息子が、すすめ蜂を退治するつもりで、逆 さ ほんべんたんじよう に刺されて大さわぎになったことがあります。これがヒントになって本編が誕生した、というこ ばちとうじよう ちょうへん とです。また長編『大空の死』でも、すすめ蜂が登場しています。 ねずみ わ たんべんしゅう びき 「ニ十四羽の黒っぐみ」 (FourandTwentyBlackbirds) 短編集『三匹のめくらの鼠』 ( 一九四八年 ) しゅうろく どうよう りようりてんじようれんきやく みせ に収録された一編で、題名はマザー・グース ( 童謡 ) からかりたもの。料理店の常連客が、店に じんぞう くる日をちがえてあらわれ、ふだんはけっして口にしない腎臓の。フディングと黒いちごのタルト そうさ ちつじよす たんていほう を食べたことが捜査の鍵となるあたり、 いかにも〈秩序〉好きなボワロらしい探偵法がみられ ます。 じけん 「バグダッドの櫃の秘密」 (The Mystery of Bagdad Chest) 短編集『ョット・レース事件』 ( 一 ちょうじだい れんあい ものがたり 九三九年 ) に収録された一編。ホームズ物語には、ヴィクトリア朝時代にふさわしく恋愛がらみの りよこうしゆっぱっ 事件が数多くありますが、クリスティの作品にも、同じことがいえます。旅行に出発したはずの ゅうじんたくひろま ひっ しさっ : というセンセーショナルな事件も、男 夫が、友人宅の広間にある櫃のなかで刺殺されていた : さんかくかんけい 女の三角関係が背景となっています。 ひっ たんてい たんべん ひみつ かぎ はんにん きゅうさい ぎやく 240

10. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

し力、ないよ一つに、 そうよ、 こっちでちゃんと手をうってあるのだ。 わる ながだんぎ レザーンのやつは悪い男ではない。アメリカ人の通弊として、長談義が好きで、しゃべ なんてん りだしたらきりがないのが難点といえば難点だが。そのうえ、こまかいことを根掘り葉掘 り知りたがるという、やっかいなくせもある。やれダートマスの人口はどれほどか、とか、 そうせつ りよこうあんないしょ えいこくかいぐんへいがっこう 英国海軍兵学校はいっ創設されたか、とか、招待主を歩く旅行案内書とこころえているふ しがある。 ようき ィーヴのほうは、陽気で気だてのいい娘だ この娘をからかっていると、けっこうお りはつむすめ もしろい。声はくいなみたいだが、なかなか機知にとんでいて、利発な娘だ。 なや せいねん つぎはルウエリン青年だがーーすこししずかすぎる。なにか悩みでもあるようだ。たぶ ものか れんちゅう ん金にこまっているのだろう。ああいう物書きという連中にはめずらしいことじゃない。 それともうひとつ、ジャネット日ラスティントンにむをひかれているようすでもある。教 きり : よ、つ 養のあるしつかりした女性で、器量もいいし、頭もいい。 しかもそれでいて、自分の書く たにん ぶんしよう いけん ないよう 文章にでてくるような意見を、他人におしつけることはない。書くものの内容はきわめて こうと、ってき ほんにん 高踏的だが、それを本人の口から聞かされるおそれはないのだ。 そしてもうひとり、古なじみのレオ。あいつも年ごとに腹がでて、みつともなくなって かね じよせい こ しようたいぬし つうへい じんこう す きよう 204