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検索対象: 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩
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1. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

のち一 せうそこ その後、姫宮の御方より、二の宮に御消息ありけり。御手一女一の宮から、女二の宮に。 〔三〕薫の女一の宮思慕 薫の願望がかなえられた。 と、わが半生の回顧 ニ女一の宮に。 などのいみじううつくしげなるを見るにもいとうれしく、 語 三「芹川の大将ーは散佚物語の題 物かくてこそ、とく見るべかりけれと思す。あまたをかしき絵ども多く、大宮も名。「とほ君」は、主人公の芹川の 氏 大将の幼名か。この絵は、女一の 源奉らせたまへり。大将殿、うちまさりてをかしきども集めて、まゐらせたまふ。宮に恋する主人公が、思い余 0 て 女君を訪れる秋の夕暮の場面。 せりかは 芹川の大将のとほ君の、女一の宮思ひかけたる秋の夕暮に、思ひわびて出でて四今の自分の気持にそっくり。 女一の宮の名も共通している。 かた 行きたる絵をかしう描きたるを、いとよく思ひ寄せらるかし。かばかり思しな五自分を、女から思慕される物 語主人公に仮想して、かえって現 実の憂愁を際だたせる。 びく人のあらましかばと思ふ身そ口惜しき。 六物語の主人公に託してかなわ をぎ ゅふべ 薫荻の葉に露ふきむすぶ秋風もタそわきて身にはしみける ぬ恋を詠む。秋の夕暮の景に照応。 セ帝や中宮の寵遇の特に厚い女 と書きても添へまほしく思せど、さやうなるつゆばかりの気色にても漏りたら一の宮は、懸想してはならぬ相手。 〈憂愁を重ねた末に思うところ は。以下、薫の心中叙述に転ずる。 しいとわづらはしげなる世なれば、はかなきことも、えほのめかし出づまじ。 九亡き大君。憂愁の原点として かくよろづに何やかやと、ものを思ひのはては、「昔の人ものしたまはましか大君に回帰する点が、薫らしい 一二七ハー四 ~ 五行にも同様の叙述。 いかにもいかにも外ざまに心を分けましゃ。時の帝の御むすめを賜ふとも、一 0 大君との死別がなければ、女 二の宮の降嫁はありえぬとする。 得たてまつらざらまし。また、さ思ふ人ありと聞こしめしながらは、かかるこしかし薫は、皇女を得た世俗的繁 栄に浴すればこそ、反世俗の退嬰 こ、 ) ろう ともなからましを、なほ心憂く、わが心乱りたまひける橋姫かな」と思ひあま的な思念に身を委ねてもいる。 ( 現代語訳三三八ハー ) ほか けしき たいえい

2. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

いつでも母尼を見舞ってやれ りはべる間は、夜半、暁にもあひとぶらはんと思ひたまへおきてはべる」など一 るという考えからである。 申したまふ。薫「そのわたりには、ただ近きころほひまで、人多う住みはべり = 小野の山里は、つい近ごろま 語 で。落葉の宮の山莊があったこと 物けるを、今ま、、 も念頭にあるか。↓手習一六七ハー 。しとかすかにこそなりゆくめれなどのたまひて、いますこし 氏 三内密の話に移ろうとする趣。 四とりとめのない感じもするし。 源近うゐ寄りて、忍びやかに、薫「いと浮きたる心地もしはべる、また、尋ねき 根拠のない話だが、の気持。 こえんにつけてま、、ゝ レカたカオ五お尋ね申すについては、こち 。し力なりけることにかと心得ず思されぬべきこ、 らとどんな関係があったのかと。 レ冫カ うわさ 憚られはべれど、かの山里に、知るべき人の隠ろへてはべるやうに聞きはべり六噂の実否も確かめす、またこ ちらとの関係も説明せず。 しを。たしかにてこそよ、、ゝ 。し力なるさまにてなども漏らしきこえめ、など思ひ七私が世話をしなければならぬ 女が身を隠しているらしく。 〈はっきり確かめたうえで、こ たまふるほどに、御弟子になりて、忌むことなど授けたまひてけりと聞きはべ ちらとどんな事情であったか、な るは、まことか。まだ年も若く、親などもありし人なれは、ここに失ひたるやどとも打ち明け申そう。 九話題の女があなた ( 僧都 ) の弟 かごとかくる人なんはべるを」などのたまふ。 子になり。女の突然の出家をいう。 一 0 私が死なせてしまったように、 そうづ カ一一 = ロいがかりをつける者がいる。親 僧都、「さればよ。ただ人と見えざりし人のさまそかし。 〔ニ〕僧都、浮舟発見以 などから非難されるとする。 かろがろ 来の始終を薫に語る くまでのたまふは、軽々しくは思されざりける人にこそあ = 思ったとおり。僧都は当初か ら浮舟が並の身分の人とは思わな めれ」と思ふに、法師といひながら、心もなく、たちまちにかたちをやっしてかった。↓手習一五六ハー三行。 三薫の情愛が並々でないと推測 けること、と胸つぶれて、答へきこえんやう思ひまはさる。「たしかに聞きた一三僧侶としては出家勧奨が当然 よなか 六 ひと

3. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

一 ^ うち 心より外に世にありと知られはじむるをいと苦しと思す心の中をば知らで、男てくれるな、と前歌を切り返した。 一六浮舟の歌として取り次ぐ趣。 宅以下、簾中の尼たちの反応。 君をもあかず思ひ出でつつ恋ひわたる人々なれば、女房「かく、はかなきつい 「知らで、男君をも : ・」に続く。 ニ 0 ほか でにも、うち語らひきこえたまへらむに、、いより外に、世にうしろめたくは見天浮舟の心内を察知せす。 一九亡き姫君のことはもちろん、 な ) け えたまはぬものを。世の常なる筋に思しかけずとも、情なからぬほどに、御答昔の婿の中将のことをも。 ニ 0 女君 ( 浮舟 ) の意思に背いて、 中将は油断のならぬふるまいは決 へばかりは聞こえたまへかし」など、ひき動かしつべく言ふ。 してしないお方なのに、の意。 さすがに、かかる古代の心どもにはありつかず、いまめきつつ、腰折れ歌好三世間並の色恋沙汰には受け取 らすとも、人情の分る程度に ニ四 かたぎ ましげに、若やぐ気色どもは、、 しとうしろめたうおばゅ。限りなくうき身なり一三年寄の昔気質とは不似合いに。 昔の女房気質のままに、の意。 けりと見はててし命さへ、あさましう長くて、いかなるさまにさすらふべきなニ三下手な歌。 ニ四浮舟は、誰かが強引に中将を な す らむ、ひたぶるに亡きものと人に見聞き棄てられてもやみなばやと思ひ臥した手引しかねないと不安である。以 下、己が悲運の身を思う。 一七七ハー注天。 まへるに、中将は、おほかたもの思はしきことのあるにや、いといたううち嘆ニ五↓ ニ六「山里は秋こそことにわびし ニ六 ね けれ鹿の鳴く音に目をさましつ 習きつつ、忍びやかに笛を吹き鳴らして、中将「鹿の鳴く音に」など独りごっけ つ」 ( 古今・秋上壬生忠岑 ) 。 毛昔の妻との思い出。 はひ、まことに、い地なくはあるまじ。中将「過ぎにし方の思ひ出でらるるにも、 手 ニ ^ 今から思いを寄せてくれそう かた なかなか心づくしに、今はじめてあはれと思すべき人、はた、難げなれば、見な方とて、いそうにないので。暗 、浮舟の冷淡さをいう。 やまぢ えぬ山路にも、え思ひなすまじうなん」と、恨めしげにて出でたまひなむとすニ九↓賢木一五九ハー注 = 五の歌。 けしき ニ•P ふ ニ九

4. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

57 浮舟 匂宮「いと忍びたる人、しばし隠いたらむ」と語らひたまひけれま、 。いかなる一六「いと忍びて」とはいえ。 宅薫が浮舟を引き取ってしまっ 人にかはと思へど、大事と思したるにかたじけなければ、受領「さらばと聞ては一大事、という焦燥感。 天宮自身の乳母で、遠国の受領 まう ニ 0 つごもり こえけり。これを設けたまひて、すこし御心のどめたまふ。この月の晦日方にの妻として下る者の、その夫の家 が下京あたりにあるのを。 くだ 下るべければ、やがてその日渡さむと思し構ふ。匂宮「かくなむ思ふ。ゅめゅ一九内密の女をかくまいたい意。 薫に先立ち浮舟を引き取りたい。 うち め」と言ひやりたまひつつ、おはしまさんことはいとわりなくある中にも、こ ニ 0 乳母らは三月末ごろに離京。 ニ一決して人に気取られぬように。 こにも、乳母のいとさかしければ、難かるべきよしを聞こゅ。 一三宮自身が宇治を訪れることは。 ニ三↓「さかしき乳母」 ( 五一ハー末 ) 。 うづき 大将殿は、四月の十日となん定めたまへりける。さそふ水 = 四浮舟引取りの日程を。 三三〕中将の君来訪、弁 一宝「わびぬれば身をうき草の根 の尼と語る浮舟苦悩 を絶えて誘ふ水あらばいなむとそ あらばとは思はず、いとあやしく、いかにしなすべき身に 思ふ」 ( 古今・雑下小野小町 ) 。 ニ六 かあらむと、浮きたる心地のみすれば、母の御もとにしばし渡りて、思ひめぐ = 六「浮き」は、前注の歌にもよる が、「浮舟」の歌 ( 四七ハー ) 以来、わ ずほふ が身を形象。↓五五ハー注一三。 らすほどあらんと思せど、少将の妻、子産むべきほど近くなりぬとて、修法、 毛左近少将の妻、浮舟の異父妹。 どきゃう 読経など隙なく騒げば、石山にもえ出で立つまじ、母ぞこち渡りたまへる。乳昨年八月結婚。出産は五月ごろか。 夭こちら宇治の浮舟のもとに。 さうぞく 三 0 母出で来て、「殿より、人々の装束などもこまかに思しやりてなん。いかでき ニ九薫から、女房の着物までも。 三 0 なんとか無難に万事準備を。 よげに何ごともと思うたまふれど、ままが心ひとつには、あやしくのみぞし出三一乳母。ここは自称。↓一一三 三ニ宮に連れ出されることや、宮 との仲が露顕することなど。 ではべらむかし」など言ひ騒ぐが、心地よげなるを見たまふにも、君は、「け ひま ニ九 だいじ ニ七 ニ四 め かた 三ニ

5. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

源氏物語 60 九 一匂宮。その好色癖は世間周知。 はべりて」と言ふ。尼君うち笑ひて、弁の尼「この宮の、いと騒がしきまで色に ニ分別のある若い女房。 三匂宮の好色癖という点で。 おはしますなれば、心ばせあらん若き人、さぶらひにくげになむ。おほかたは、 四「上」は中の君。宮とかかわる いとめでたき御ありさまなれど、さる筋のことにて、上のなめしと思さむなむ女房を無礼なと思う事態が不都合。 五大輔は中の君づきの女房。そ わりなきと、大輔がむすめの語りはべりし」と言ふにも、さりや、ましてと君の娘、右近も中の君づき。浮舟づ きの右近とは別人。↓一三ハー注一四。 ふ 六やはりそうか、他人でもそう は聞き臥したまへり。 なのに、まして妹の私は。 みかど セ匂宮の好色ぶりへの非難。 母君「あなむくつけや。帝の御むすめをもちたてまつりたまへる人なれど、 ^ 薫が女宮を妻としている意。 よそよそにて、あしくもよくも、あらむま、、 : ゝ 。しカカはせむと、おほけなく田 5 ひ九その女宮とは血縁もないので、 よかれあしかれどうなろうとも。 なしはべる。よからぬことを引き出でたまへらましかば、すべて、身には悲し一 0 女二の宮には畏れ多い気持。 一一姉の夫との過ち。二条院で匂 くいみじと思ひきこゆとも、また見たてまつらざらまし」など、言ひかはすこ宮に迫られた一件を念頭に置く 「・ : ましかば・ : まし」が反実仮想。 こころぎも とと・もこ、、 一ニ私 ( 母 ) にとっては。 しとど心肝もつぶれぬ。なほ、わが身を失ひてばや、つひに聞きに 一三二度と浮舟をお世話しなかっ ゅ 一七 たろう。親子の縁を切る覚悟。 くきことは出で来なむと思ひつづくるに、この水の音の恐ろしげに響きて行く 一四浮舟は。 あら を、母君「かからぬ流れもありかし。世に似ず荒ましき所に、年月を過ぐした一五死ぬほかないと、はじめて決 意。「なほ」は、今までも死が脳裏 をかすめていたが、の気持。 まふを、あはれと思しぬべきわざになむーなど、母君したり顔に言ひゐたり。 一六匂宮との醜聞。五八ハー一行 わたしもりむまごわらは 「人笑へ」とも照応。↓注二。 昔よりこの川のはやく恐ろしきことを言ひて、女房「先っころ、渡守が孫の童、 たいふ さい 四 うへ

6. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

方と思ひて、薫「さもはべらん。さやうの人離れたる所は、よからぬ物なんか一中宮の言う「恐ろしき物や住 むらん」 ( 前ハー ) を受ける。 ならず住みつきはべるを。亡せはべりにしさまもなんいとあやしくはべる」と = 亡くなられた事情も、実に不 1 = ロ 可解。具体的な事実にはふれない 物て、くはしくは聞こえたまはず。なほかく忍ぶる筋を聞きあらはしけりと思ひ三以下、中宮の心中。 氏 四こちらで一部始終を聞き知っ ているのだと、薫のお思いになる 源たまはんがいとほしく思され、宮の、ものをのみ思して、そのころは病になり ことがお気の毒で。 六 五浮舟失踪当時、匂宮が消沈し たまひしを思しあはするにも、さすがに心苦しうて、かたがたにロ入れにくき て病気になったのを想起する。 六匂宮の横恋慕が原因とはいえ、 人の上と思しとどめつ。 やはり心痛む。母としての責任感。 ト宰相に、忍びて、中宮「大将、かの人のことを、いとあはれと思ひてのたセ薫の立場からも、匂宮の立場 からも、自分 ( 中宮 ) からロ出しし ひしこ、 にくい人 ( 浮舟 ) のこと。 しいとほしうてうち出でつべかりしかど、それにもあらざらむものゆ ^ 薫の愛人 ( ↓二〇二ハー ) 。自分 ゑとつつましうてなむ。君そ、ことごと聞きあはせける。かたはならむことは、の口からは言いにくいので、薫に 親しい小宰相に言わせようとする。 そうづ 九薫が、浮舟のことを。 とり隠して、さることなんありけると、おはかたの物語のついでに、僧都の言 一 0 薫への憐憫から彼に話そうと。 おまへ ひしこと語れ」とのたまはす。小宰相「御前にだにつつませたまはむことを、ま = その人かどうか分らぬのに。 一ニ小宰相は事情に詳しいとする。 ことひと して別人はいかでか」と聞こえさすれど、中宮「さまギ、まなることにこそ。ま横川の僧都の話以外に、姉からも 伝え聞いている。↓二〇三ハー四行。 一七 た、まろはいとほしきことそあるや」とのたまはするも、心得て、をかしと見一三薫に対して、不都合と思われ ることは、話さずに。 たてまつる。 一四中宮様でさえ遠慮なさるよう ・ ) さいしゃう うへ れんびん

7. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

すずろなる嘆きのうち忘れてしつるも、あやしと思ひ寄る人もこそと紛らはし一わけもない嘆息。 四 りちしら 薫は、女一の宮への思慕を人 に気どられぬよう警戒する。 に、さし出でたる和琴を、ただ、さながら掻き鳴らしたまふ。律の調べは、あ 語 三御簾の中からさし出した。 物やしくをりにあふと聞こゆる声なれば、聞きにくくもあらねど、きはてたま 0 秋の調子。女の調子とも。 氏 五音楽に熱心な女房は、薫が弾 源はぬを、なかなかなりと心入れたる人は消えかへり思ふ。「わが母宮も劣りた奏を中止したのを心底残念がる。 六わが母女三の宮も、女一の宮 きさいばら みかどみかど に負けをとる身分でないとする。 まふべき人かは。后腹と聞こゅばかりの隔てこそあれ、帝々の思しかしづきた 以下、薫の心中。 こと′一と るさま、異事ならざりけるを。なほ、この御あたりはいとことなりけるこそあセ女一の宮は后 ( 中宮 ) 腹、女三 の宮は女御腹。その相違はあるが、 それそれの父帝の愛育は同じ。だ やしけれ。明石の浦は、いにくかりける所かな」など思ひつづくることどもに、 が女一の宮の高貴さは格別とする。 九すくせ わが宿世はいとやむごとなしかし、まして、並べて持ちたてまつらばと思ふそ ^ 明石の中宮一族の幸運を思う。 九女二の宮を妻にいただく自分 いと難きや。 の異数な宿運に思いを致し、さら に女一の宮をも加えて二人の皇女 を妻とすることを夢想する。あま 宮の君は、この西の対にそ御方したりける。若き人々のけ 三一〕薫、宮の君を訪い りにもしたたかな願望である。語 世間の無常を思う はひあまたして、月めであへり。「いで、あはれ、これも り手の「いと難きや」とするゆえん。 一 0 式部卿宮の姫君。↓一三七ハー また同じ人そかし」と思ひ出できこえて、親王の、昔心寄せたまひしものをと = 局 ( 自分の部屋 ) としていた。 三宮の君も同じ皇族の血筋で、 わらは とのゐ あり 父宮に愛育されたのに。薫の心中。 言ひなして、そなたへおはしぬ。童のをかしき宿直姿にて、二三人出でて歩き 一三亡き式部卿宮の生前の厚志。 などしけり。見つけて入るさまどももかかやかし。これそ世の常と思ふ。南面薫を婿に所望。↓東屋一五〇ハー かた わごん か ひ

8. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

27 浮舟 はじめて気づく語法に注意。 女君は、あらぬ人なりけりと思ふに、あさましういみじけれど、声をだにせ 天匂宮は浮舟に声をさえ。 一九 させたまはず、いとつつましかりし所にてだに、わりなかりし御心なれば、ひ一九ねばならなか 0 た場所で さえ、無理強いをした人だから。 。しかが言ふかひもある二条院で匂宮が言い寄った一件。 たぶるにあさまし。はじめよりあらぬ人と知りたらま、 ニ 0 何の気がねもない放埒ぶりだ。 ニ四 べきを、夢の心地するに、やうやう、そのをりのつらかりし、年月ごろ思ひわ宮への、語り手の評言。 ニ一薫ではない人と。 ニ五うへ たるさまのたまふに、この宮と知りぬ。いよいよ恥づかしく、かの上の御事なニニなんとかあしらうすべもあろ うが。「いかが」の語法やや不審。 ニセ ど思ふに、またたけきことなければ、限りなう泣く。宮も、なかなかにて、たニ三匂宮が浮舟にはじめて言い寄 った時、周囲から阻止されて思い あ を遂げられなかったこと。 はやすく逢ひ見ざらむことなどを思すに泣きたまふ。 ニ四実際には五か月ぶりの再会。 夜はただ明けに明く。御供の人来て声づくる。右近聞きてニ五中の君の。↓二四ハー注一 0 。 〔一 0 〕翌朝匂宮逗留を決 ニ六なすすべもないので。 三 0 意右近終日苦慮する 毛なまじ逢ってかえってつらく。 参れり。出でたまはん心地もなく、飽かずあはれなるに、 夭情交の後の、早速に過ぎ去る と思われる心理的時間。 またおはしまさむことも難ければ、京には求め騒がるとも、今日ばかりはかく ニ九出立の準備を促す咳ばらい。 てあらん、何ごとも生ける限りのためこそあれ、ただ今出でおはしまさむはま三 0 浮舟のもとに。 三一匂宮は。後半、心内語に移る。 三ニ「恋ひ死なむ時は何せむ生け ことに死ぬべく思さるれば、この右近を召し寄せて、匂宮「いと心地なしと思 る日のためこそ人は見まくほしけ をのツ ) はれぬべけれど、今日はえ出づまじうなむある。男どもは、このわたり近かられ」 ( 拾遺・恋一大伴百世 ) 。 三四 三三無分別と思われようが ときかた む所に、よく隠ろへてさぶらへ。時方は、京へものして、山寺に忍びてなむと、 = 西↓二一ハー注 ニ八 かた ニ九 三三

9. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

一僧都の、浮舟への言葉。 ことをなむ。いとあやしき」などのたまへど、かひもなし。僧都「今は、ただ、 ニこの世を無常と思い定めて出 御行ひをしたまへ。老いたる、若き、さだめなき世なり。はかなきものに思し家なさったのも。浮舟の受戒を願 った言葉 ( 一九三 ~ 四ハー ) を受ける。 語 物とりたるも、ことわりなる御身をや」とのたまふにも、 いと恥づかしうなむお三浮舟の、物の怪に取り憑かれ 氏 る運命を思い、出家を当然とする。 四ほふぶく あやうすものきめ 四尼衣や袈裟など。 源ばえける。僧都「御法服あたらしくしたまへーとて、綾、羅、絹などいふもの、 五中宮からの布施の品々らしい 奉りおきたまふ。僧都「なにがしはべらん限りは仕うまつりなん。何か思しわ六何のご心配もいるまい。 セ以下、俗世間での栄耀栄華。 えいぐわ づらふべき。常の世に生ひ出でて、世間の栄華に願ひまつはるる限りなん、と ^ 不自由で出離しがたいと、誰 しもがお思いのようだ。 す ころせく棄てがたく、我も人も思すべかめる。かかる林の中に行ひ勤めたまは九あなた ( 浮舟 ) のように山林の 中で勤行なさろうとするお方は。 ん身は、何ごとかは恨めしくも恥づかしくも思すべき。このあらん命は、葉の一 0 何ごとに不満を抱いたり引け めを感ずることがあろう。 しようもん はいくわい 薄きが如し」と言ひ知らせて、僧都「松門に暁到りて月徘徊す」と、法師なれ = 人間の寿命は、草木の葉の薄 いようにはかない。「顔色ハ花ノ いとよしよししく恥づかしげなるさまにてのたまふことどもを、思ふやう如ク命ハ葉ノ如シ、命葉ノ如クニ まさ 薄キヲ将に奈如ニセン」 ( 白氏文集 第四・陵園妾 ) 。「陵園妾」は、後宮 にも言ひ聞かせたまふかなと聞きゐたり。 の女官が、讒言で罪を得て、天子 今日は、ひねもすに吹く風の音もいと心細きに、おはしたの陵墓に奉仕する役に配されて生 三五〕中将来訪、浮舟の 涯を送るのを憐れむ詩。浮舟の出 やまぶし 尼姿を見る浮舟精進 る人も、僧都「あはれ山伏は、かかる日にそ音は泣かるな家生活の痛ましさからの連想 三前注「陵園妾」の続き。 るかし」と言ふを聞きて、「我も、今は、山伏そかし。ことわりにとまらぬ涙一三前の「松門に : ・」の句にすぐ続 ( 現代語訳三八六ハー ) 六

10. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

一浮舟の隠しだてを難ずる妹尼 ば、とばかりためらひて、浮舟「げに隔てありと思しなすらむが苦しさに、もの の言葉 ( 二三三ハー九行・二三五ハー も言はれでなん。あさましかりけんありさまは、めづらかなることと見たまひ二行 ) を逆手にとり、なるほど私 が隠しているとお考えなのがつら 語 たましひ いとして、相手の勧めに応じない。 物てけんを、さてうっし心も失せ、魂などいふらんものもあらぬさまになりにけ 氏 ニ情けない姿だったらしい私の 源るにゃあらん、いかにもいかにも、過ぎにし方のことを、我ながらさらにえ思様子。宇治院で発見された時の姿。 三「うっし心」は現実に醒めた精 きのかみ ひ出でぬに、紀伊守とかありし人の世の物語すめりし中になん、見しあたりの神、「魂な心的活動の根源。 四過去を喪失したようだとする。 のち 五以下、小野を訪ねた母尼の孫、 ことにやと、ほのかに思ひ出でらるることある、い地せし。その後、とざまかう 紀伊守の語った話題。↓手習〔一一七〕。 ひとり ざまに思ひつづくれど、さらにはかばかしくもおばえぬに、ただ 一人ものした六昔知っていたお方のことかと。 紀伊守の語った、薫のことをさす。 まひし人の、いかでとおろかならず思ひためりしを、まだや世におはすらむと、セ母親をさす。小君の姿にも、 真っ先に母を思った。前ハー。 わらは そればかりなん心に離れず悲しきをりをりはべるに、今日見れば、この童の顔 ^ 「いかで」の下に、私 ( 浮舟 ) を 幸福にしたい、ぐらいの意。東屋 は小さくて見し心地するにもいと忍びがたけれど、ムフさらに、かかる人にもあ巻以来、繰り返された母の願望。 九母の身の上ばかりが。 一 0 弟であることを、思わず認め りとは知られでやみなんとなん思ひはべる。かの人もし世にものしたまはば、 た言葉。弟だとの認識が、いよい よ母を懐かしませる。↓前ハー注一一六。 それ一人になん対面せまほしく思ひはべる。この僧都ののたまへる人などには、 一一出家して。次 ~ かの人」も母。 さらに知られたてまつらじとこそ思ひはべれ。かまへて、ひが事なりけりと聞三僧都の手紙に記されている薫。 一三なんとか工夫して、人違い かた こえなして、もて隠したまへ」とのたまへば、妹尼「いと難いことかな。僧都ったと申しあげるようにして。 たいめん セ 六