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検索対象: 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩
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1. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

のち一 せうそこ その後、姫宮の御方より、二の宮に御消息ありけり。御手一女一の宮から、女二の宮に。 〔三〕薫の女一の宮思慕 薫の願望がかなえられた。 と、わが半生の回顧 ニ女一の宮に。 などのいみじううつくしげなるを見るにもいとうれしく、 語 三「芹川の大将ーは散佚物語の題 物かくてこそ、とく見るべかりけれと思す。あまたをかしき絵ども多く、大宮も名。「とほ君」は、主人公の芹川の 氏 大将の幼名か。この絵は、女一の 源奉らせたまへり。大将殿、うちまさりてをかしきども集めて、まゐらせたまふ。宮に恋する主人公が、思い余 0 て 女君を訪れる秋の夕暮の場面。 せりかは 芹川の大将のとほ君の、女一の宮思ひかけたる秋の夕暮に、思ひわびて出でて四今の自分の気持にそっくり。 女一の宮の名も共通している。 かた 行きたる絵をかしう描きたるを、いとよく思ひ寄せらるかし。かばかり思しな五自分を、女から思慕される物 語主人公に仮想して、かえって現 実の憂愁を際だたせる。 びく人のあらましかばと思ふ身そ口惜しき。 六物語の主人公に託してかなわ をぎ ゅふべ 薫荻の葉に露ふきむすぶ秋風もタそわきて身にはしみける ぬ恋を詠む。秋の夕暮の景に照応。 セ帝や中宮の寵遇の特に厚い女 と書きても添へまほしく思せど、さやうなるつゆばかりの気色にても漏りたら一の宮は、懸想してはならぬ相手。 〈憂愁を重ねた末に思うところ は。以下、薫の心中叙述に転ずる。 しいとわづらはしげなる世なれば、はかなきことも、えほのめかし出づまじ。 九亡き大君。憂愁の原点として かくよろづに何やかやと、ものを思ひのはては、「昔の人ものしたまはましか大君に回帰する点が、薫らしい 一二七ハー四 ~ 五行にも同様の叙述。 いかにもいかにも外ざまに心を分けましゃ。時の帝の御むすめを賜ふとも、一 0 大君との死別がなければ、女 二の宮の降嫁はありえぬとする。 得たてまつらざらまし。また、さ思ふ人ありと聞こしめしながらは、かかるこしかし薫は、皇女を得た世俗的繁 栄に浴すればこそ、反世俗の退嬰 こ、 ) ろう ともなからましを、なほ心憂く、わが心乱りたまひける橋姫かな」と思ひあま的な思念に身を委ねてもいる。 ( 現代語訳三三八ハー ) ほか けしき たいえい

2. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

いつでも母尼を見舞ってやれ りはべる間は、夜半、暁にもあひとぶらはんと思ひたまへおきてはべる」など一 るという考えからである。 申したまふ。薫「そのわたりには、ただ近きころほひまで、人多う住みはべり = 小野の山里は、つい近ごろま 語 で。落葉の宮の山莊があったこと 物けるを、今ま、、 も念頭にあるか。↓手習一六七ハー 。しとかすかにこそなりゆくめれなどのたまひて、いますこし 氏 三内密の話に移ろうとする趣。 四とりとめのない感じもするし。 源近うゐ寄りて、忍びやかに、薫「いと浮きたる心地もしはべる、また、尋ねき 根拠のない話だが、の気持。 こえんにつけてま、、ゝ レカたカオ五お尋ね申すについては、こち 。し力なりけることにかと心得ず思されぬべきこ、 らとどんな関係があったのかと。 レ冫カ うわさ 憚られはべれど、かの山里に、知るべき人の隠ろへてはべるやうに聞きはべり六噂の実否も確かめす、またこ ちらとの関係も説明せず。 しを。たしかにてこそよ、、ゝ 。し力なるさまにてなども漏らしきこえめ、など思ひ七私が世話をしなければならぬ 女が身を隠しているらしく。 〈はっきり確かめたうえで、こ たまふるほどに、御弟子になりて、忌むことなど授けたまひてけりと聞きはべ ちらとどんな事情であったか、な るは、まことか。まだ年も若く、親などもありし人なれは、ここに失ひたるやどとも打ち明け申そう。 九話題の女があなた ( 僧都 ) の弟 かごとかくる人なんはべるを」などのたまふ。 子になり。女の突然の出家をいう。 一 0 私が死なせてしまったように、 そうづ カ一一 = ロいがかりをつける者がいる。親 僧都、「さればよ。ただ人と見えざりし人のさまそかし。 〔ニ〕僧都、浮舟発見以 などから非難されるとする。 かろがろ 来の始終を薫に語る くまでのたまふは、軽々しくは思されざりける人にこそあ = 思ったとおり。僧都は当初か ら浮舟が並の身分の人とは思わな めれ」と思ふに、法師といひながら、心もなく、たちまちにかたちをやっしてかった。↓手習一五六ハー三行。 三薫の情愛が並々でないと推測 けること、と胸つぶれて、答へきこえんやう思ひまはさる。「たしかに聞きた一三僧侶としては出家勧奨が当然 よなか 六 ひと

3. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

ひとよろひころもばこ 思す。暁に帰るに、かの御料にとてまうけさせたまひける櫛の箱一具、衣箱一侍従が宇治の邸に。 ニもともと浮舟のためにと準備 一具贈物にせさせたまふ。さまざまにせさせたまふことは多かりけれど、おど した品々を、侍従に下賜した。 語 三浮舟のために。 物ろおどろしかりぬべければ、ただ、この人におほせたるほどなりけり。何心も四侍従に与えるのに相応な程度 氏 に。「おほす」は、負わせる意。 五要請のままに宮に参上して。 源なく参りて、かかることどものあるを、人はいかが見ん、すずろにむつかしき 六周囲の女房たちはどう思うだ わざかなと思ひわぶれど、 いかがは聞こえ返さむ。右近と二人、忍びて見つつ、ろう、思いがけず面倒なこと。 セどうして辞退申せよう。 ^ 以下、宇治に帰って、右近と つれづれなるままに、こまかにいまめかしうしあつめたることどもを見ても、 ともにある場面。ひそかな対話。 、うぞく しみじう泣く。装束もいとうるはしうしあつめたる物どもなれば、「かかる御九忌にこもり、来訪者もない。 にいろ 一 0 鈍色に沈む忌中のなかで、贈 物の衣料の華やかさが際だっ。 服に、これをばいかで隠さむ」など、もてわづらひける。 = 薫。「なほ」とあり、前に宇治 大将殿も、なほ、、 しとおばっかなきに、思しあまりておは行を決しかねていた気持が揺曳。 〔セ〕薫、右近から実情 三宇治に。 を聞き、嘆きつつ帰京 一三八の宮家の人々の、自分にま したり。道のほどより、昔のことどもかき集めつつ、「い つわる因縁を思う。 ちぎ かなる契りにて、この父親王の御もとに来そめけむ。かく思ひかけぬはてまで一四俗聖としての八の宮への尊敬 に始る交渉が、因縁深い出来事の 思ひあっかひ、このゆかりにつけてはものをのみ思ふよ。いと尊くおはせしあ数々を招来させたという思い 力し・ : っ 一五浮舟との思いがけない邂逅と、 のちょ たが またその思いもよらぬ死別をさす。 たりに、仏をしるべにて、後の世をのみ契りしに、、いきたなき末の違ひめに、 一六大君、中の君、浮舟がそれそ 一九 ニ 0 思ひ知らするなめり」とぞおばゆる。右近召し出でて、薫「ありけんさまもはれ自分に憂愁を抱かせた。 ( 現代語訳三一一一一ハー ) ぶく

4. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

方と思ひて、薫「さもはべらん。さやうの人離れたる所は、よからぬ物なんか一中宮の言う「恐ろしき物や住 むらん」 ( 前ハー ) を受ける。 ならず住みつきはべるを。亡せはべりにしさまもなんいとあやしくはべる」と = 亡くなられた事情も、実に不 1 = ロ 可解。具体的な事実にはふれない 物て、くはしくは聞こえたまはず。なほかく忍ぶる筋を聞きあらはしけりと思ひ三以下、中宮の心中。 氏 四こちらで一部始終を聞き知っ ているのだと、薫のお思いになる 源たまはんがいとほしく思され、宮の、ものをのみ思して、そのころは病になり ことがお気の毒で。 六 五浮舟失踪当時、匂宮が消沈し たまひしを思しあはするにも、さすがに心苦しうて、かたがたにロ入れにくき て病気になったのを想起する。 六匂宮の横恋慕が原因とはいえ、 人の上と思しとどめつ。 やはり心痛む。母としての責任感。 ト宰相に、忍びて、中宮「大将、かの人のことを、いとあはれと思ひてのたセ薫の立場からも、匂宮の立場 からも、自分 ( 中宮 ) からロ出しし ひしこ、 にくい人 ( 浮舟 ) のこと。 しいとほしうてうち出でつべかりしかど、それにもあらざらむものゆ ^ 薫の愛人 ( ↓二〇二ハー ) 。自分 ゑとつつましうてなむ。君そ、ことごと聞きあはせける。かたはならむことは、の口からは言いにくいので、薫に 親しい小宰相に言わせようとする。 そうづ 九薫が、浮舟のことを。 とり隠して、さることなんありけると、おはかたの物語のついでに、僧都の言 一 0 薫への憐憫から彼に話そうと。 おまへ ひしこと語れ」とのたまはす。小宰相「御前にだにつつませたまはむことを、ま = その人かどうか分らぬのに。 一ニ小宰相は事情に詳しいとする。 ことひと して別人はいかでか」と聞こえさすれど、中宮「さまギ、まなることにこそ。ま横川の僧都の話以外に、姉からも 伝え聞いている。↓二〇三ハー四行。 一七 た、まろはいとほしきことそあるや」とのたまはするも、心得て、をかしと見一三薫に対して、不都合と思われ ることは、話さずに。 たてまつる。 一四中宮様でさえ遠慮なさるよう ・ ) さいしゃう うへ れんびん

5. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

81 浮舟 ( 現代語訳三〇一一ハー ) き露 こしめりたる御香のかうばしさなど、たとへむ方なし。泣く泣くぞ帰り来一五侍従を。 一六侍従も。宮の歌の表現による。 たる。 宅匂宮に、浮舟の対面をきつば り断った由を。↓七八ハー六行。 。しよいよ一 ^ 侍従が戻って来て。 右近は、言ひ切りつるよし言ひゐたるに、君ま、、 〔三ニ〕浮舟死を前に、匂 一九「枕浮く」は恋ゆえの悲しみの ふ 宮と薫を思い親を恋う 思ひ乱るること多くて臥したまへるに、入り来てありつる表現。↓須磨 3 四一ハー注一 = の歌。 一九 ニ 0 右近や侍従らがどう見るか。 まくら さま語るに、答へもせねど、枕のやうやう浮きぬるを、かつはいかに見るらむニ一夜通し泣き腫らした目もとを。 一三掛け帯を肩にかける。読経の とつつまし。っとめても、あやしからむまみを思へば、無期に臥したり。もの際の作法。↓椎本 3 一七一ハー注 = = 。 ニ三↓七六ハー注七。 はかなげに帯などして経読む。親に先立ちなむ罪失ひたまへとのみ思ふ。あり = 四宮の描いた絵。↓三三ハー一行。 一宝前ハー四行の匂宮の言葉に照応。 し絵を取り出でて見て、描きたまひし手つき、顔のにほひなどの向かひきこえ匂宮に再び逢えぬ悲しみを思う。 ニ五 ニ六以下、落ち着いた邸で逢おう よべひとこと ひとへ たらむやうにおばゆれば、昨夜一言をだに聞こえずなりにしは、なほいま一重と末長くと約束した薫を顧みる。 毛自分の死後、何と思うだろう。 ス′わィ一 夭死後、いやな噂をする人もあ まさりていみじと思ふ。かの、心のどかなるさまにて見むと、行く末遠かるべ ろう、それを田 5 うと恥すかしいが きことをのたまひわたる人もいかが思さむといとほし。うきさまに言ひなす人ニ九浅薄でけしからぬ女だと世間 の物笑いになるのを、薫に聞かれ ニ九 もあらむこそ、思ひやり恥づかしけれど、心浅くけしからず人笑へならんを聞るよりは。同様の発想を繰り返し て、死を決意。↓五五・七五ハー かれたてまつらむよりはなど思ひつづけて、 三 0 身を投げても醜聞は消えまい とする。前述の死の美化をも疑う 三 0 ほかない絶望的な歌。 浮舟なげきわび身をば棄っとも亡き影にうき名流さむことをこそ思へ か ニ六 ニ七 ニ 0 ニ四

6. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

一 ^ うち 心より外に世にありと知られはじむるをいと苦しと思す心の中をば知らで、男てくれるな、と前歌を切り返した。 一六浮舟の歌として取り次ぐ趣。 宅以下、簾中の尼たちの反応。 君をもあかず思ひ出でつつ恋ひわたる人々なれば、女房「かく、はかなきつい 「知らで、男君をも : ・」に続く。 ニ 0 ほか でにも、うち語らひきこえたまへらむに、、いより外に、世にうしろめたくは見天浮舟の心内を察知せす。 一九亡き姫君のことはもちろん、 な ) け えたまはぬものを。世の常なる筋に思しかけずとも、情なからぬほどに、御答昔の婿の中将のことをも。 ニ 0 女君 ( 浮舟 ) の意思に背いて、 中将は油断のならぬふるまいは決 へばかりは聞こえたまへかし」など、ひき動かしつべく言ふ。 してしないお方なのに、の意。 さすがに、かかる古代の心どもにはありつかず、いまめきつつ、腰折れ歌好三世間並の色恋沙汰には受け取 らすとも、人情の分る程度に ニ四 かたぎ ましげに、若やぐ気色どもは、、 しとうしろめたうおばゅ。限りなくうき身なり一三年寄の昔気質とは不似合いに。 昔の女房気質のままに、の意。 けりと見はててし命さへ、あさましう長くて、いかなるさまにさすらふべきなニ三下手な歌。 ニ四浮舟は、誰かが強引に中将を な す らむ、ひたぶるに亡きものと人に見聞き棄てられてもやみなばやと思ひ臥した手引しかねないと不安である。以 下、己が悲運の身を思う。 一七七ハー注天。 まへるに、中将は、おほかたもの思はしきことのあるにや、いといたううち嘆ニ五↓ ニ六「山里は秋こそことにわびし ニ六 ね けれ鹿の鳴く音に目をさましつ 習きつつ、忍びやかに笛を吹き鳴らして、中将「鹿の鳴く音に」など独りごっけ つ」 ( 古今・秋上壬生忠岑 ) 。 毛昔の妻との思い出。 はひ、まことに、い地なくはあるまじ。中将「過ぎにし方の思ひ出でらるるにも、 手 ニ ^ 今から思いを寄せてくれそう かた なかなか心づくしに、今はじめてあはれと思すべき人、はた、難げなれば、見な方とて、いそうにないので。暗 、浮舟の冷淡さをいう。 やまぢ えぬ山路にも、え思ひなすまじうなん」と、恨めしげにて出でたまひなむとすニ九↓賢木一五九ハー注 = 五の歌。 けしき ニ•P ふ ニ九

7. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

源氏物語 68 しと、うちうめきたまひて、薫「人に見えでをまかれ。をこなり」とのたま一「を」は強意の助詞。 ニ自分が身分卑しい道定ふぜい あない と女を争ったら、物笑いになる意。 ふ。かしこまりて、少輔が、常に、この殿の御事案内し、かしこのこと問ひし 三式部少輔。道定の兼官。 な も思ひあはすれど、もの馴れてえ申し出でず。君も、下衆にくはしくは知らせ四薫の動静を探ったり、宇治の ことを尋ねたりしたのも。 五随身のような下々の者に。 じと思せば、問はせたまはず。 六薫・匂宮の双方から。 セ薫・匂宮を思う浮舟の物思い かしこには、御使の例よりしげきにつけても、もの思ふことさま、さまなり。 ^ 薫からの文面は。 九↓明石 3 八八ハー注九の歌。他 ただかくそのたまへる。 者に心を移したと詰問。 一 0 私を世間の物笑いにするな。 薫「波こゆるころとも知らず末の松待つらむとのみ思ひけるかな = 歌意が分ったように返事する 人に笑はせたまふな」とあるを、いとあやしと思ふに、胸ふたがりぬ。御返りと匂宮との仲を認めたことになる。 三何かの間違いだったら不都合。 こころえがほ 事を心得顔に聞こえむもいとつつまし、ひが事にてあらんもあやしければ、御一三他者への手紙がまちがって届 けられたと存じますので。 一三たが 文はもとのやうにして、浮舟「所違へのやうに見えはべればなむ。あやしくな一四なぜか気分がすぐれないので。 一五薫は。 やましくて何ごとも」と書き添へて奉れつ。見たまひて、さすがに、「いたく一六うまく言いのがれたものと。 宅浮舟を。彼女への執着である。 もしたるかな、かけて見およばぬ心ばへよ」とほほ笑まれたまふも、憎しとは 0 浮舟の不倫を知った薫は、彼女 の身分の卑しさを思うことで自ら の執着を合理化して詰問するだけ。 え思しはてぬなめり。 それが浮舟を窮地に追いつめる。 一〈浮舟の不倫を。 ふみ 六つかひ せうふ ゑ げ五

8. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

57 浮舟 匂宮「いと忍びたる人、しばし隠いたらむ」と語らひたまひけれま、 。いかなる一六「いと忍びて」とはいえ。 宅薫が浮舟を引き取ってしまっ 人にかはと思へど、大事と思したるにかたじけなければ、受領「さらばと聞ては一大事、という焦燥感。 天宮自身の乳母で、遠国の受領 まう ニ 0 つごもり こえけり。これを設けたまひて、すこし御心のどめたまふ。この月の晦日方にの妻として下る者の、その夫の家 が下京あたりにあるのを。 くだ 下るべければ、やがてその日渡さむと思し構ふ。匂宮「かくなむ思ふ。ゅめゅ一九内密の女をかくまいたい意。 薫に先立ち浮舟を引き取りたい。 うち め」と言ひやりたまひつつ、おはしまさんことはいとわりなくある中にも、こ ニ 0 乳母らは三月末ごろに離京。 ニ一決して人に気取られぬように。 こにも、乳母のいとさかしければ、難かるべきよしを聞こゅ。 一三宮自身が宇治を訪れることは。 ニ三↓「さかしき乳母」 ( 五一ハー末 ) 。 うづき 大将殿は、四月の十日となん定めたまへりける。さそふ水 = 四浮舟引取りの日程を。 三三〕中将の君来訪、弁 一宝「わびぬれば身をうき草の根 の尼と語る浮舟苦悩 を絶えて誘ふ水あらばいなむとそ あらばとは思はず、いとあやしく、いかにしなすべき身に 思ふ」 ( 古今・雑下小野小町 ) 。 ニ六 かあらむと、浮きたる心地のみすれば、母の御もとにしばし渡りて、思ひめぐ = 六「浮き」は、前注の歌にもよる が、「浮舟」の歌 ( 四七ハー ) 以来、わ ずほふ が身を形象。↓五五ハー注一三。 らすほどあらんと思せど、少将の妻、子産むべきほど近くなりぬとて、修法、 毛左近少将の妻、浮舟の異父妹。 どきゃう 読経など隙なく騒げば、石山にもえ出で立つまじ、母ぞこち渡りたまへる。乳昨年八月結婚。出産は五月ごろか。 夭こちら宇治の浮舟のもとに。 さうぞく 三 0 母出で来て、「殿より、人々の装束などもこまかに思しやりてなん。いかでき ニ九薫から、女房の着物までも。 三 0 なんとか無難に万事準備を。 よげに何ごともと思うたまふれど、ままが心ひとつには、あやしくのみぞし出三一乳母。ここは自称。↓一一三 三ニ宮に連れ出されることや、宮 との仲が露顕することなど。 ではべらむかし」など言ひ騒ぐが、心地よげなるを見たまふにも、君は、「け ひま ニ九 だいじ ニ七 ニ四 め かた 三ニ

9. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

んではなさらぬ性分なので、今はなおさらのこと、親しく りあいのない思いになって、「こういう気持の深かった人 筋を立てて話し合える相手もいないのだから、思案にあま だったからこそ、かりそめの返事をもはじめからさし控え すずり る折は、ただ硯にむかって手習歌のすさび書きばかりを精て、この自分をかまいつけないのだった。それにしてもな 語 ふぜい 物いつばいの仕事にしていらっしやる。 んとあっけないことか。ほんとに美しく見えた髪の風情を 氏 「亡きものに身をも人をも思ひつつ棄ててし世をそさ もっとよく見せてほしいと、先夜も頼み込んだところ、し 源 らに棄てつる かるべき折に、と少将の尼が返事をしてくれたものを」と、 ( 自分自身をも、また思いを寄せた人をも、もうこの世にな まったく残念でならず、すぐ折り返し、「何とも申しあげ いものとあきらめて、一度捨ててしまった世の中を、今出家ようのないことですが、 してさらにまたまた捨ててしまったことよ ) 岸とほく漕ぎはなるらむあま舟にのりおくれじといそ がるるかな 今はこうして、すべておしまいにしてしまった」と書いて みるにつけても、やはりご自身ではまことに悲しくせつな ( 彼岸を目ざして俗世から遠く離れようとなさるあなたにお い思いで、それをごらんになる。 くれをとるまいと、この私も出家を急がせられることで 限りそと思ひなりにし世の中をかへすがヘすもそむき す ) 」 ぬるかな 女君は、いつになくこの度は手にとってごらんになる。し ( かってもうこれでおしまいだと、あきらめてしまった世の みじみうら悲しい思いにひたっている折とて、これですべ 中を、また繰り返して捨ててしまったことよ ) ておしまいになったという感慨がもよおされるものの、な 同じ向きのことを、あれこれとすさび書きしていらっし んと思われたものか、ほんのちょっとした紙の端に、 やるところへ、中将のお手紙が寄せられる。突然の出来事 心こそうき世の岸をはなるれど行く方も知らぬあまの ばうぜん に一同が立ち騒ぎ、茫然としているところなので、しかじ うき木を ( 心だけは厭わしい俗世を離れておりますものの、これから かのしだいで、と返事をしたのだった。中将はまったくは す へ

10. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

源氏物語 60 九 一匂宮。その好色癖は世間周知。 はべりて」と言ふ。尼君うち笑ひて、弁の尼「この宮の、いと騒がしきまで色に ニ分別のある若い女房。 三匂宮の好色癖という点で。 おはしますなれば、心ばせあらん若き人、さぶらひにくげになむ。おほかたは、 四「上」は中の君。宮とかかわる いとめでたき御ありさまなれど、さる筋のことにて、上のなめしと思さむなむ女房を無礼なと思う事態が不都合。 五大輔は中の君づきの女房。そ わりなきと、大輔がむすめの語りはべりし」と言ふにも、さりや、ましてと君の娘、右近も中の君づき。浮舟づ きの右近とは別人。↓一三ハー注一四。 ふ 六やはりそうか、他人でもそう は聞き臥したまへり。 なのに、まして妹の私は。 みかど セ匂宮の好色ぶりへの非難。 母君「あなむくつけや。帝の御むすめをもちたてまつりたまへる人なれど、 ^ 薫が女宮を妻としている意。 よそよそにて、あしくもよくも、あらむま、、 : ゝ 。しカカはせむと、おほけなく田 5 ひ九その女宮とは血縁もないので、 よかれあしかれどうなろうとも。 なしはべる。よからぬことを引き出でたまへらましかば、すべて、身には悲し一 0 女二の宮には畏れ多い気持。 一一姉の夫との過ち。二条院で匂 くいみじと思ひきこゆとも、また見たてまつらざらまし」など、言ひかはすこ宮に迫られた一件を念頭に置く 「・ : ましかば・ : まし」が反実仮想。 こころぎも とと・もこ、、 一ニ私 ( 母 ) にとっては。 しとど心肝もつぶれぬ。なほ、わが身を失ひてばや、つひに聞きに 一三二度と浮舟をお世話しなかっ ゅ 一七 たろう。親子の縁を切る覚悟。 くきことは出で来なむと思ひつづくるに、この水の音の恐ろしげに響きて行く 一四浮舟は。 あら を、母君「かからぬ流れもありかし。世に似ず荒ましき所に、年月を過ぐした一五死ぬほかないと、はじめて決 意。「なほ」は、今までも死が脳裏 をかすめていたが、の気持。 まふを、あはれと思しぬべきわざになむーなど、母君したり顔に言ひゐたり。 一六匂宮との醜聞。五八ハー一行 わたしもりむまごわらは 「人笑へ」とも照応。↓注二。 昔よりこの川のはやく恐ろしきことを言ひて、女房「先っころ、渡守が孫の童、 たいふ さい 四 うへ