感じ - みる会図書館


検索対象: リング
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1. リング

この映像を見た時の感覚を思い出してくれ。赤ん坊のシーンに関しては、昨日言ったとお りだな。それ以外は ? たとえば、無数の顔のシーンはどうだい ? 」 竜司はリモコンを操作して、そのシーンを映し出した。 「よーく、見ろ。この顔」 壁にはめ込まれた数十の顔が徐々に後退して、数百、数千の数に膨れ上がっていく。顔 のひとつひとつをよく見ると、人間の顔のようでいてどこか異なる。 「どんな感じだい ? 竜司が聞いた。 うそ 「なんだか、オレ自身が非難されているような : : : 、嘘つき、ペテン師と」 「そうだろ、実は、オレも同じ、いや、恐らくおまえと近い感覚を抱いた」 浅川は神経を集中させた。この事実が導く先。竜司は待っている。明確な返事を。 「どうだ ? もう一度竜司が聞いた。浅川は頭を振る。 「だめだ、何も思い浮かばない 「もっと、のんびりと時間をかけて考えりや、きっとオレと同じことを思い付くかもしれ ねえな。いいか、オレもおまえも、この映像はテレビカメラ、ようするに機械のレンズに よって撮影されたものと考えていたんじゃねえかい」 「違うのか ? 」

2. リング

り、信じてもいないくせに。人から非科学的な奴だとバカにされぬがために、そのことを 口にしないのではない。想像もっかない恐怖を身近に引きつけてしまうようで認めるのが 恐いのだ。それならまだ、納得はいかなくても科学的な説明に甘んじているほうが、なに かと都ムロがいし 同時に浅川と吉野の背筋に悪寒が走った。やはりふたりとも同じことを考えていた。し ばらくの沈黙が、ふたりの胸に湧き上がったある種の予感を確認し合った。これで終わっ たわけじゃない、何かが起こるのはコレカラダ。どれほど科学的な知識を身につけようと、 根本的なところで、人間は科学の法則で説明できないある存在を信じている。 「発見された時、男と女は手をどこに置いていましたか ? 」 唐突に浅川が聞いた。 いや、頭というより、両手で顔を被っていたって感じかな」 「こんなふうに、髪の毛をごっそり抜いていたとか」 浅川は自分の髪を引っ張って見せた。 「あん ? 」 「つまり、その、自分の頭をかきむしって、毛髪を抜いていたかどうか 「いや、そんなことはなかったと思う 「そうですか。吉野さん、その予備校生と女子高生の住所と名前、教えてもらえないでし ようかねえ」 おお やっ

3. リング

心の奥で弾ける音がして、ふと心に芽生えた闇が徐々に大きくなる気配を感じた。オレは もう一度、順に見回した。やはり、同じところで闇が渦を巻く。しかも、はっきりと確信 できた。その部屋には鍵がかかっていないことをな。単なるかけ忘れなのかどうかはわか トの階段を上り、その部屋の前に らない。オレは心の中に生じた闇に導かれるままアパ 立った。表札はローマ字で書かれている。オレは右手でド アのノブを強く握った。しばらくそうやって握った後、力を込めてノブを左に回した。し かし、回らない。そんなばかなと思う。瞬間、カチッと音がして、ドアが開いた。いいか、 かけ忘れなどではなく、その瞬間に鍵があいてしまったのだ。なんらかのエネルギーが働 いてな。女は机の横に布団を敷いて眠っていた。てつきりべッドに寝ているものと思って いたが、そうじゃなかった。掛け布団の横から片方の足をのぞかせて : いったん 竜司はそこで一旦話を中断させた。そして、その後の光景を素早く脳裏に再現させたの か、いとおしさと残酷さが混ざりあった表情で遠い記憶を見つめるのだった。こんなあや ふやな竜司の顔を、浅川は初めて見る思いだった の前を通りかかると、二トントラック グ「 : : : その、二日後、学校からの帰り道、アパート ンが止まって、家具などを部屋から運び出していやがった。引っ越そうとしていたのは、 だった。父親らしい男に付き添われ、はなにするでもなく・ほーっ 片と塀に寄りかかり、運び出されていく家具を見つめていた。なぜ、娘が急に引っ越すのか、 父親は本当の理由を知らないに決まってる。そうやって、は、オレの前から はじ

4. リング

118 姿を消していった。実家に帰ったのか、それとも、住所を変えて以前と同じ女子大に通い 続けたのか : : 。ただ、あのアパートにだけはもう一秒たりとも住むことができなかった んだ。へへ、かわいそうによお。よほど恐かったんだなあ」 浅川は聞いていて息苦しかった。一緒にビールを飲むことにさえ嫌悪感を感じた。 「おまえ、それで、気が咎めたりはしないのかい ? 」 こぶし 「慣れちまったよ、もう。毎日、コンクリートに拳をぶつけていてみろ、しまいには痛み なんて感じなくなる だから、今でも、同じことを続けているのか。浅川はもう二度とこの男を家に上げ ないと胸に誓った。とにかく、妻と娘のそばにだけは寄せまいと。 「心配するな、おまえのべイビーちゃんにはそんなことしないから 心の中を見透かされたようで、浅川はあわてて話を逸らした。 「ところで、その、予感ってなんだ ? 」 「だから、悪の予感さ。とてつもない悪のエネルギーがなければ、こんな手のこんだイタ ズラはできやしねえだろ 竜司は立ち上がった。立っても、椅子に座っている浅川と頭の高さがそう変わらない。 しかし、百六十センチに満たない短身ながら、インター ハイの砲丸投げで入賞しただけあ って、肩のあたりの筋肉の盛り上がりがすばらしい 「オレはそろそろ帰るぜ。宿題、ちゃんとやっておいてくれよ。夜が明ければ、おまえの と・か

5. リング

258 「いや、できない てんねんとう 「それともうひとっ確認したい。山村貞子を犯した時、あんたはもう既に天然痘にかかっ ていたんだな」 長尾はうなずいた。 「てことはよお、日本で最後に天然痘に感染したのは山村貞子ってことになるんじゃねえ か ? 」 死の間際、山村貞子の身体に天然痘ウイルスが侵入したのは間違いない。しかし、彼女 はその後すぐ死んだのだ。宿主である肉体が滅べば、ウイルスも生きていることはできな 、感染したとはいえないだろう。長尾はどう答えていいかわからず、伏し目がちに竜司 の視線を避けるだけで、はっきりとした返事は返さなかった。 「おい、なにしてる ! 早く行くそ」 浅川は玄関口に立って、竜司を急かした。 「けつ、 しい思いしやがってよ 竜司は人差指でピンと長尾の鼻頭を弾くと浅川の後を追った。 理屈で説明できるわけではないが、小説を読んだり、くだらないテレビドラマを見たり じようとう の経験から、話の展開がこうなった場合の常套手段のように感じられた。しかも、展開の からだ せ はじ

6. リング

149 とした。しかし、その移行がうまくいかず、彼は全身を水に濡らした裸の舞を想像してし 「あのシーンを見た時、オレは、自分の手に、妙な感触を受けた。こう、まるで、自分が あの男の子を抱いているような : : : 」 ・ : 感触 ? : : : 抱いた感触 ? 想像の腕の中で、舞と男の赤ん坊とが目まぐるしく入れ 替わっていった。そうして、浅川はようやく手に入れた。あの時、赤ん坊が腕の中にいる 気がして、両手をビクンと上げてしまった感覚 ! そして、竜司がまったく同じ感覚を抱 いたということの重要性。 「オレもそうなんだ。ヌルッとした感触を確かに感じた 「おまえもか。とすると、これはどういうことだ ? 」 竜司は四つんいになってテレビに近づくと、ビデオのそのシーンを再現させた。時間 にして約二分間、男の赤ん坊は穏やかな産声を上げ続けていゑ赤ん坊の首とお尻の下か ら、しなやかな手が二本のそいていた。 グ「おい、これはなんだ ? ン 竜司は映像を一時停止させ、コマ送りにすゑ画面がほんの一瞬ではあるが黒くなった のだ。連続して見れば、瞬時のことでなかなか気づかない。しかし、何度も繰り返してコ マ送りにすると、映像が真っ黒に塗りつぶされる瞬間を捉えることができる。 「あ、また ! とら

7. リング

305 む直前、竜司は自分が助からないことを悟り、浅川の野郎にビデオテープの謎を教えてや りてえもんだ、と強く念じるのを忘れなかった。 彼女は受話 高野舞は何度も「もしもしと、電話の向こうに呼びかけた。返事はない。 , 器をフックに置いた。うめき声には聞き覚えがある。嫌な予感が胸を走り、もう一度受話 器を持ち上げると、尊敬する先生の番号を回した。話中を知らせるプープーという音がし た。一度フックを押し、また同じ番号を回す。やはり話中。この時、高野舞は、電話をか けてきたのが竜司で、彼の身にとんでもないことが起こったらしいことを知った。 十月一一十日土曜日 久しぶりの我が家ではあったが、妻と子供がいないとなんとなく寂しかった。何日ぶり グだろうと、浅川は指を折って数えた。鎌倉で一泊、嵐に閉じ込められ大島で二泊、その翌 ン日、南箱根パシフィックランドのビラ・ロッグキャビンで一泊、さらにまた大島で一泊。 たった五泊しただけであった。もっとずっと長い間外に出ていたような気がしてならない。 取材旅行で四泊五日なんてのはザラにあるが、帰ってきてふりかえると、いつも短かった なあと感じるものだ。

8. リング

浅川は、フリーザーから取り出した氷でグラスを満たし、買ってきたウイスキーを半分 ほど注いだ。その後、水道の水をつぎ足そうとしたが、一瞬ためらい、オンザロックが飲 みたかったのさ、と自分を納得させて蛇口を締める。この部屋のモノを口にする勇気はま だなかった。しかし、フリーザーの氷に不用心なのは、微生物は熱と氷に弱いという先入 観が働いたためであった。 ソフアに深々と体を沈めて、テレビのスイッチを入れる。新人歌手の歌声が流れ出した。 東京でもこの時間帯同じ番組をやっている。浅川はチャンネルをかえた。見るわけでもな いのに、音声を適当に調節し、バッグの中からビデオカメラを取り出し、テー。フルの上に 置く。異変が生じた場合、起こったことを逐一録画するつもりだった。 ウイスキーを一口すすった。ほんの少しではあるが、肝がすわったように感じる。浅川 いきさっ は、今までの経緯をもう一度頭の中で追う。もし、今晩、ここで、何の手がかりも得られ なければ、書こうとしている記事は暗礁に乗り上げることになる。しかし、逆に考えれば、 そのほうがいいのだ。なんの手がかりも得られないとは、つまり、例のウイルスを拾わな いということだから、妻と子を持っ身で、妙な死に方はしたくない。浅川はテーブルの上 に足を投げ出した。 果たして、オレは何を待っているのだ ? 恐くないのかい ? おい、恐くないのか 死神に襲われるかもしれないんだそ。 落ち着きなく視線をあちこちに飛ばし、浅川はどうしても壁の一点に目を据えることが

9. リング

310 明日の日曜日午前十一時には、浅川の妻と娘がデッドラインを迎える。今、もう夜の九 時だった。それまでになんとかしなければ、彼は妻と子を失うことになる。 とら のろ 竜司はこの事件を不慮の死を遂げた山村貞子の呪いという観点で捉えたが、その点がど あざわら うも怪しくなってきたのを、浅川はひしひしと感じた。もっと何か、人の苦しみを嘲笑う かのような、底知れぬ悪意の予感がする。 ひざ 高野舞は和室に正座して、竜司の未発表の論文を膝に乗せていた。一枚一枚めくって目 を通してはいるのだが、ただでさえ難解な内容はなかなか頭に入ってこない。部屋はがら んとしている。竜司の遺体は今朝早く川崎の両親のもとに引き取られ、もうそこにはなか 「昨夜のこと、詳しく聞かせてください 友の死 : : : 、特に戦友ともいえる竜司の死は悲しいが、今は感傷に浸っている余裕はな 。浅川は舞の横に座って頭を下げた。 「夜の九時半過ぎでしたか、先生から電話がかかってきまして : : : 」 舞は昨夜のことを詳しく話した。受話器から漏れた悲鳴、その後の静寂、あわてて竜司 のアパートに駆けつけたところ、竜司はべッドにもたれかかって、両足を広げ : : : 。舞は、 竜司の死体があった場所に視線を固定させ、その時の彼の様子を語るうちに涙ぐんでいっ

10. リング

116 「乾杯しよう ! 」 乾杯の理由がわからず、浅川はグラスを持ち上げようとしない。 「オレは予感がするんだ」 竜司の土色の頬に少し赤みがさしてくる。 「この出来事には、普遍的な悪のイメージがっきまとうんだよな。匂ってくるんだ、どこ からともなく、あの時の衝動が : 。おまえにも話しただろ、おれが一番最初に犯した女 のこと」 「ああ、覚えている」 「もう十五年も前のことだ。あの時も、妙に胸をくすぐる予感があった。十七歳、高校一一 年の九月。オレは夜中の三時まで数学をやり、その後一時間ばかりドイツ語を勉強して頭 を休めた。いつもそうしてるんだ。疲れた脳細胞をもみほぐすには、語学がちょうどいし からな。四時になると、やはりいつも通りビールを二本飲み、日課である散歩に出かけた。 出かける時、オレの頭にはいつもと違う何かが芽生え始めていた。深夜の住宅街を歩いた ことがあるかい ? 気持ちがいいそ。犬も眠っている。おまえのべイビーちゃんのように な。オレはあるアパート の前にまで来ていた。しゃれた木造の二階建てで、このうちのど せいそ こかに時々通りで見かける清楚な感じの女子大生が住んでいることを、オレは知っていた。 どの部屋かはわからない。オレは八つある部屋の窓を順に見渡していった。この時、別に 考えがあって見回したわけじゃない。ただ、なんとなく、な。二階の南端に目が留まると、 ほお