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反・幸福論 (新潮新書)

りに阿弥陀仏と名付けて、すべての山も河も弥陀の光で覆いつくされているというのは、 この世における自然法爾を示すものだ、というわけです。 このとき、われわれは一度は形あるものを脱ぎ捨てた世界へはいらねばならない。そ れが「無心」であり、褝宗的にいえば「心身脱落の無分別の世界」ということになるの でしよう。 嵐が吹く。すると家が倒れる。嵐は別に家を倒そうとしたわけではない。それは吹い ただけのことで、家は倒れただけのことである。また大地が震えだす。そして私なら私 が死ぬ。死んでしまえば死んだだけのことである。それ以上でもそれ以下でもない。こ れはたいへんに非人情な言い方だ、しかし、人情のあるところに即して非人情があり、 人情では動かない世界がある。それが「心非心」だという。「こころのあるところに同 時にこころがない」というわけです。大拙はこういいます。ひとっ引用してみましよう。 「親しい人、愛する人が死んだとする、それを否定しない、否定しないのみか、自分 は慟哭する。が、どこやらに慟哭せぬものがちゃんとそこにいる。しかし慟哭するも のをみて、それと一緒に慟哭していながら、ちゃんと無喜、無憂という奴がある。こ 788

反・幸福論 (新潮新書)

できても、その魂まで奪うことはできない。そして魂が残る限り、この悲惨な出来事は 語り継がゆくだろう」と。 いや、もう少しいえば、ルースの発言さえも本当に腑に落ちているのでしようか。ど どうこく うしようもない苦痛の中で慟哭しながらもある被災者はいう。「いったいどうしてこん な目にあわなければならないのか」と。また別の被災者はいう。「苦しいけれど自然災 害だからどうしようもない」と。 私はふと宮澤賢治の「無声慟哭」という一一一「葉を思い出しました。これは妹トシを病気 で亡くしたときに歌った詩のタイトルですが、確かに声を忍ばせ、声を押し殺して慟哭 するのです。 こんなにみんなにみまもられながら おまへはまだここでくるしまなければならないか ああ巨きな信のちからからことさらにはなれ また純粋やちひさな徳性のかずをうしなひ しゆら わたくしが青ぐらい修羅をあるいてゐるとき ふ 758

反・幸福論 (新潮新書)

おまへはじぶんにさだめられたみちを ひとりさびしく往かうとするか きむろん地震災害と病死とは違っています。なにもかもいっしよくたにして論じるわけ にはいきません。 い としかしこの「無声慟哭」にあらわされている賢治の心理は、私には、無言で涙を流す 被災者ときわめて近いものと思われるのです。 ふんまん に ここには妹の命を奪った病気というものに対する怒りや医療に対する憤懣といったこ わとはまったくなく、むしろ、そのどうしようも 人れ、 不尽をどようにし い ' ' 、、 0 ・ぎた・い ' の・をど・のよ・プに・し・て納得すなが・、ーという心象がまさに押し殺された慟哭 . しようか 災として昇華されている。肉体が滅びた後の魂の救済などというテーマもみられません。 そのかわり、どこか生き残った自分を責めるような調子が見てとれるのです。どうし 人 て妹が死んで私が生き残ったのか。修羅の道を歩んでいる自分がどうして生き残ったの 六か。しかしこの正体不明の罪悪感のようなものが、いっそう彼を修羅の道に投げ込んで 9 ゆくのでしよう。

文學界 2016年08月号

ム 1 ンナイト・ダイバ 1 天童荒太 なぜ潜る。 聖域かもしれないのに 禁を侵せば、 罰せられるかもしれないのに。 大切な人 つながる品物を 海の底から 探し出せないか 3 ・ 11 から五年目となるフクシマ 非合法のダイバーは 人と町をさらった立入禁止の海に潜降する 慟哭の夜から圧倒的救済の光さす海へ 鎮魂と生への祈りをこめた著者の 新たな代表作誕生 ・定価 ( 本体 1500 円十税 ) 写真・岡本隆史 文菘春火〒 102-8008 東京都千代田区紀尾井町 3-23 Tel.03-3265-1211 ( 代 ) http://www.bunshun.co.jp

反・幸福論 (新潮新書)

第四章「遁世」という幸せ わからぬでもない事情 / 「無縁死やむをえず」 / 家族、この激しい軋轢の場 / 無用者の系譜 / 諸行は無常、生者は必滅 / うたかたの夢 第五章人間蛆虫の幸福論 「違い」は「不平等」か ? / 「ポジテイプ」、まかり通る / 「死生観」も崩壊する社会 / トルストイのディレンマ / 「私」を保障するもの / どこから来てどこへ行く 第六章人が「天災」といわずに「天罰」というとき 「我利」にはしる日本人 / 普通人の感覚 / ヴォルテールの結論とは / カントの言い分 / 宮澤賢治の「無声慟哭」 / 日本人の自然観 777

反・幸福論 (新潮新書)

成立するものではありません。「生」のうちに「死」を、「有」のうちに「無」を組み込 むことで初めて成り立つものなのです。日本的な「霊性」の目覚めとはこのようなもの だと私には思われる。 今日こうした「宗教的なるもの」からわれわれは随分遠ざかってしまったように見え ます。確かに法然の時代とはまったく違う。しかし自然災「への恐怖やャ者の慟哭は、 「がんばれニッポン」「みんなで乗り切ろう」の合唱によって中和されるものではありま せん。を 0 か・でわルわれは今日の霊性 ( の覚醒を求めているのではないでしようか。災 害のもたらす死への「恐れ」ではなく、死への「畏れ」と「おののき」こそが「宗教的 なもの」へと触れる瞬間をもたらすのです。 794

日輪の遺産

荒れ果てた縁先の土の上に、将校がひとり呆然と正座していた。帽子もなく、裸足であ る。暗闇に目を凝らし、その横顔が抗戦派のひとりとみなされていた陸軍省の参謀である ことに気付いて、真柴は足を止めた。 しようすい 憔悴しきった顔で中佐は振り返った。 「ああ、真柴か。もういい、すべては終わった。兵を引け。夜の明けるまでに、兵を引け」 うわごとのように中佐は言った。真柴を反乱軍のひとりと思いちがえたのであろう。 「俺たちは夢を見たのだ。真夏の夜の夢だ。そう思って、いさぎよく兵を引いてくれ」 「阿南閣下は ? 胸さわぎを押しとどめながら、真柴は訊ねた。 「われわれを置き去りにして行かれた。すべては終わったのだ」 ど - っこく ふる 土の上に両手を突くと、中佐は肩を慄わせて慟哭した。真柴は靴も脱がずに、官邸の廊 下に駆け上がった。 廊下の突き当たりの壁に向かって、阿南大将はやや前かがみに端座していた。太りじし くびすじ 遺の上半身がゆらゆらと不安定に揺れ、その動きに合わせて、右の頸筋から鮮血が溢れ出た。 「誰かーー」 すでに腹を一文字にかき切り、頸動脈を断った将軍は、ひごろと少しも変わらぬ、むし ろ力のこもった低い声でそう訊ねた。 ばうぜん

小説新潮 2016年12月号

村田沙耶香 @タダイマトビラ 池波正太郎 @鰤子 真田幸村の兄、信之。藩の存亡を賭け、 老中酒井忠清と対決する ! 「真田太平記」の後日譚。 夢野久作 @死後の恋ー夢野久作傑作選ー 、ト説の奇才が描く究極の甘美と狂気。 怪奇幻想 / ; 夢野ワールドから厳選した全川編。 白洲正子 @, んものー白洲次郎のことなどー一 美しく激しく儚く生きた、男と女を語り尽くす。 白洲正子史上もっとも危険な随筆集 ! まがい物 帰りませんか、「家族」の無い純粋な世界へ。 新芥川賞作家が放っ衝撃の自分探し物語。 水戸岡鋭治 @電車をデザインする仕事 ーななっ星、九州新幹線はこうして生まれた ! ろ 乗客を旅の主人公にしよう ! 九州が仕掛けた「物語力」とは ? 何サンドラ・ブラウン驫蕊 0 ~ は @ コビーフェイスー消された私ー 飛行機事故が招いた凄絶な運命の捩れを描く、 ラブサスペンスの女王の最高傑作。 感 王城タ紀 の載@青の数学 2 4 ーラー 数学に高校生活を賭す少年少女たちの青春譚、第 2 弾。 。壊れた黒の叫び趣 柏原第一一高校に転校してきた安達。 真辺由宇と接触した彼女は、次第に堀を追い詰めていく : ・ 心を穿っ青春ミステリ。 0 いなくなれ、群青一慟哭の第 4 弾 , ※表示の価格には消費税が含まれておりません。 トラマ原作ー 円 9

反・幸福論 (新潮新書)

きるのです。 ここに「霊性」や魂」の不滅を説 , ・ ) 、・キ・リ、ス・・ト教の影を見る・ 4 と・は・容日勿でしよう。通 常は近代的啓蒙主義者とみなされるカントも、明らかにキリスト教文化の強い影響下に きありました。「神」というものを明示しないにしても、物理的な世界や人間の感覚から は厳然と区別された「理性」や「心意」といった観念は、あくまでキリスト教的なもの い とを背景にしてでてきているのです。 罰 天 宮澤賢治の「無声慟哭」 に わ 私はこのカントのような考えがよくわかる。ルースのいうこともよくわかる。だから い と被災者の多くが確かにルースの一言で励まされたのでしよう。 災しかし、何か少し違った感じもするのです。ルースははっきりと言っていませんが、 西欧人なら多分こう考えるでしよう。「自然は人の命を奪うことはできても、その魂ま 人 がて自然の脅威を克服するだろ で奪うことはできない。そして・魂・が残・み限り、 章 六う」と。 しかし、日本人ならこう考えるのではないでしようか。「自然は人の命を奪うことは 157

クインテット! 1

どうこく みつとし 篠塚光利、魂の慟哭であった。 その瞬間、「先生、よく言ったっ ! ー「見直したよ ! 」「さすが職員室で生徒から没収したエロ かいらくてん 本読みふけってるだけあるぜ ! 」「ていうか返せよ、俺の快楽天 ! 」と、日頃篠塚先生の勤務態 かんるい 度に反感を抱いていたはずの男子生徒が感涙し、一斉に立ち上がった。運動部員たちから悪鬼 たんか のごとく恐れられる敬介に向かって正面から啖呵を切った篠塚先生の勇姿に彼らもまた奮い立 ったのである。 てつつい 「みんな、今こそ椿の恐怖政治に鉄槌を下す時だ ! 」 今立ち上がらずにいっ立ち上がるというのだ ! 」 「そうだー 「恐れるな、敵は一人だー 「名こそ惜しけれ ! 玉と砕けんー 男子たちは見事なまでに統制の取れた動きで敬介を取り囲み、 ク 「かかれーいっ ! 」 ロ 篠塚先生の号令一下、「うおおおおっ ! と雄叫びを上げ敬介に向かって飛びかかっていっ ウ た。それはまさにクラスが一体となった感動の瞬間であった。 学 「うお、つつ ? 普段学校行事では見せないほどの団結カ見せやがってーーと、あっ ! やりやが 話 ったな、ちくしよう ! 手加減しねえぞ、コラア ! 」 と、教室内は騒然となり、朝のホ 1 ムル 1 ムは敬介を始めとした男子たちの怒声に包まれた