時間 - みる会図書館


検索対象: リング
126件見つかりました。

1. リング

138 「さあ、調べたことを教えてくださいなあ」 貧乏ゆすりをして、竜司が言う。時間の無駄は許されない。浅川はきのうわかったこと をうまく整理して、時間の経過に従って並べていった。まず、例のビデオテープは八月二 十六日の夜八時から、ビラ・ロッグキャビンにてテレビより録画されたものらしいこと。 「ほう ? 」 竜司は意外そうな顔をする。やはり彼も、ビデオカメラで録画されたものが持ち込まれ たと考えていたのだ。 「そいつはおもしろい。ところでと、おまえさんの言うようにそれが電波ジャックだとす れば、他にもあの映像を見てしまった人間がいることになるが : : : 」 「一応、熱海と三島の通信部に問い合わせてそのことは聞いてみた。だが、今のところ、 八月二十六日の夜、南箱根に怪電波が飛び交ったという情報は入ってないらしい 「なるほど、なるほど : : : 」竜司は腕組みをして、しばらく考えた。「ふたっ考えられる な。ひとつは、映像を見た人間がすべて死んだことにより・ : まてよ、テレビに流れた 時点ではオマジナイの方法は消えてなかったはずだから : ・ ましいや、とにかく、地 元の新聞社もこの事件をキャッチできずにいるということ : : : 」 「その可能性も確認済みだ。あの四人以外の犠牲者の有無だろ。それも、いない。ゼロな んだよ、ゼロ。電波が飛んだとすればもっと多くの人間があれを見ているはずなのに、犠 牲者はひとりも出ていないし、不思議な噂もない」 うわさ

2. リング

271 て、自分を保ち続ける自信がなかった。ここは、すべて竜司の命令に服従しよう。それが きよ、つじん 一番だ。自分を消し去り、強靭な精神力を持った人間の配下に下るのだ。自分をなくして しまえ ! そうすれば、恐怖からさえ逃れることができる。土に埋まって自然と一体にな るんだ ! その願いが通じたのか、浅川は急激な睡魔に襲われて意識を失いかけた。そし よみがえ て、眠りに落ちる瞬間、娘の陽子を高い高いする幻想と共に、さっきふと甦った小学校の 頃のエ。ヒソードをもう一度思い出した。 浅川の育った街のはずれに市営のグラウンドがあり、その横の崖を降りたところにはザ リガニのいる沼があった。小学校の頃、浅川はよく友達と一緒にその沼にザリガニを取り に出かけた。その日、むき出しの崖の赤土は春の日差しに照らされ、挑発するように沼の 横にそそり立っていた。水の中につりざおをたらすことにも飽き、浅川は陽の当った崖の 急斜面に何気なく穴を掘ろうとした。土は柔らかく、板切れを差し込むだけでポロポロと 、それ 赤土は足元にこ・ほれていく。そのうち、友達も仲間に加わった。三人だったか : ・ とも四人。横穴を掘るにはちょうど手頃な人数であった。これ以上多いと頭と頭がかち合 グって邪魔になるし、少ないと一人一人の労力が多くなり過ぎる。 ン一時間ばかり掘ると、小学生ひとりがすつ。ほりと入れるくらいの横穴が誕生した。さら に掘り続けた。学校の帰り道だったから、中のひとりはそろそろ家に帰ると言い出した。 言い出しつべの浅川だけは黙々と掘った。そして、日が沈む頃、横穴は、その場にいた子 ひざ 供たち全員が身をかがめて入れるくらいの大きさに成長した。浅川は膝を抱え、友人とク がけ

3. リング

できなかった。見つめているうちに、イメージが形となって現れそうでしかたない。 外から冷たい風が強く吹き込んだ。窓を閉め、カーテンを引こうとして、チラッと外の 闇に目をやる。すぐ前にはー 5 号棟の屋根があり、その影になっている部分が一際濃い 闇を作っていた。テニスコートにも、レストランにも、人は大勢いた。なのに、なぜか、 ここには、浅川ひとりだった。カーテンを引き、時計を見る。八時五十六分。この部屋に 入ってまだ三十分もたってなかった。ゅうに一時間が過ぎたように感じる。ここに居るこ とが、そのまま、危険につながるわけではない。なるべくそう考えて、気持ちを落ち着け た。というのも、ビラ・ロッグキャビンができてもう半年、ー 4 号棟に泊まった客の数 もかなりの人数に上るはずであった。ところが、泊まった人間が皆、変死しているわけで はない。今までの調べでは、死んだのはあの四人だけ。時間をかけて調べればもっと出て くるかもしれないが、△フのところ他には見当らなかった。ようするに、ここにいることが ここで何をしたのか、である。 問題なのではない。 : 彼らは、ここで一体、何をしたのだ ? グ浅川は微妙に質問の仕方を変えた。 いや、この部屋でできることは何だ ? トイレにも、浴室にも、押し入れにも、冷蔵庫にも、手がかりらしきものはない。仮に あったとしても、さっきの管理人が片付けてしまっただろう。とすれば、こんなところで のんびりウイスキーなど飲んでいるより、管理人にあたったほうが早くはないか。

4. リング

280 「オレ、閉所恐怖症なんだ」 気力もやすみやすみ言え」 浅川は身をすくめたまま、動こうとしない。井戸の底で水面が揺れている。 「無理だ、オレにはできないよ 竜司は浅川の胸倉をつかんで顔を引き寄せ、一発二発と平手で張った。 「どうだ、少しは目が覚めたか。オレにはできないだと ? ハカ言ってんじゃねえそ。死 を前にして、助かる方法があるかもしれないってのになにもしねえ奴は人間のクズだ。お まえが抱えているのは自分の命だけじゃねえんだそ、さっきの電話を忘れたか ? え、か わいいべイビーちゃんが暗いところに連れていかれてもいいのかい ? 妻と娘の運命を思うと、臆病に身をすくめているわけこよ、 冫をしかない。確かにふたりの命 からだ は自分の手にある。しかし、どうも身体がいうことをきかない。 「なあ、本当に、こんなことをして意味があるのか ? いまさらこんな質問をしても無意味と知りつつ、カなく浅川は聞く。竜司は胸倉を掴む 手の力を抜いた。 おんねん 「三浦博士の理論をもう少し詳しく教えてやろうか。現世に怨念が強烈に残るには三つの 条件が必要なんだ。閉ざされた空間、水、そして死に至るまでの時間。この三つだ。つま り水のある閉ざされた空間でゆっくり時間をかけて死に至った場合、死者の怨念がその場 ひょうい に憑依してしまうことが多いってわけさ。ほら、この井戸を見ろよ。閉ざされた狭い空間 やっ つか

5. リング

は明らかだ。これで、四人の共通の時間と場所がはっきりした。八月二十九日水曜日、南 箱根。ハシフィックランド、ビラ・ロッグキャビンー 4 号棟と考えて間違いない。謎の死 をとげるちょうど一週間前のことである。 浅川はすぐその場で受話器を取り上げ、ビラ・ロッグキャビンの番号を回した。 CQ—< 号棟の今晩の宿泊を予約するためである。明日の午前十一時の編集会議に間に合えばいし のだから、その地で夜を過ごす時間は充分にあった。 : 行ってみよう、とにかく、現場に行ってみよう。 気は急いてした。 , 、 - 彼の地で待ち構えているものが何なのか、彼にはまるで想像がっかな っこ 0 カオ トンネルを抜けるとすぐ料金所があり、浅川は百円玉を三枚手渡しながら聞いた。 「南箱根パシフィックランドはこの先 ? 」 わかりきったことであった。地図で何度も確認してある。久しぶりで人間に出合ったよ うな気がして、なんとなく一一 = ロ葉を交わしてみたくなったのだ。 「この先に案内が出ていますから、そこを左に折れてください」 領収書を受け取った。こんなに交通量が少なければ、人件費のほうがはるかに高くつく ように思われた。一体いつまでこの男はポックスの中に立っているつもりだろう。なかな けげん か車を出そうとしない浅川を、男は怪訝な顔で見ている。無理に笑い顔をつくり、ゆっく

6. リング

りと車を出した。 四人に共通な時と場所を発見したという数時間前の喜びが嘘のように萎んでいる。ビ まぶた ラ・ロッグキャビンで一泊したちょうど一週間後に死んた四人の顔が臉に明滅し、引き返 すなら今のうちだぜとニタニタ笑っている。しかし、ここで引き返すわけこよ、 一方では新聞記者としての本能が強く働いていた。たった一人、という状況がどうしよう もなく恐怖をかきたてていることは確かだ。吉野に声をかければ、おそらくふたっ返事で 飛びついただろうが、同じ職業の人間ではうまくない。浅川はこれまでの経過を文書にま とめ、既にフロッピーディスクの中にしまい込んである。ひっかき回し、邪魔することな く、この事件を共に追ってくれる男 : : : 。当てがないわけではない。純粋な興味だけで付 き合ってくれそうな男が彼には一人いた。しかも、そっちの方面に関する知識は深い。大 学の非常勤講師のため、時間の余裕もある。うってつけだった。ただ、癖のある特異な人 格にがまんできるかどうかは自信が持てない。 山の斜面に南箱根パシフィックランドの案内が立っていた。ネオンサインはなく、白地 グのパネル板に黒いペンキで書かれているだけなので、ヘッドライトに照らされる一瞬をは ンずすと、うつかり見過ごしてしまう。浅川は左に折れ、段々畑の中の山道を上った。リゾ ートクラ。フに至るにしては道はやけに細く、このまま行き止まりになるのではないかと心 細い。カープがきつく、街路灯もないため、ギアをローに入れたままゆっくりと上る。対 向車が来てもすれ違うスペースもなかった。

7. リング

244 ねるため、わざわざ船の便を利用したのだ。 前方に、熱海後楽園の観覧車が見えてくる。時間通り、十時五十分の着。浅川はタラッ プを降りると、レンタカーを止めてある駐車場に走った。 「おい、そう焦るなって 竜司があとからのんびりと続く。長尾の医院は、伊東線来宮駅のすぐ近くにあった。竜 司が車に乗り込むのをいらいらした気分で見届けると、浅川は坂と一方通行の多い熱海市 街に向かって車を走らせた。 「おい、この事件の裏で手を引いているのは、ひょっとして悪魔かもしれねえな」 乗り込むやいなや、竜司が真顔で言った。浅川には、道路標識を見るのに忙しくて答え る余裕がない。竜司は続ける。 「悪魔はなあ、いつも異なった姿でこの世に現れるんだ。十四世紀後半にヨーロッパ全土 を襲ったベストを知ってるかい。全人口の約半数近くが死んだ。信じられるか ? 半分、 日本の人口が六千万に減るのと同じだ。もちろん、当時の芸術家はベストを悪魔になそら えた。今だってそうだろ、エイズのことを現代の悪魔とかって呼ばないかい。だがなあ、 やっ 悪魔は決して人間を死滅に追いやることはない。なぜか : : : 、人間がいなければ、奴らも 存在できないからだ。ウイルスはなあ、ウイルスも宿主である細胞が滅んでしまったら、 てんねんとう もはや生きられないんだ。ところが、人間は天然痘ウイルスを死滅に追いやった、本当か

8. リング

181 時間がなかったが、どうも台風が近づいている気配だ。波が荒く、揺れもひどい。 浅川は熱い缶コーヒーを飲みながら、これまでの経過をもう一度頭の中で繰り返してみ る。よくここまでたどり着いたと誉めるべきか、それとももっと早く「山村貞子」の名前 を掴んで大島に向かうべきであったと怠慢を責めるべきなのか、浅川にはどちらともっか ない。ポイントは全て、一瞬ビデオを覆う黒い幕が″まばたき〃であることに気付くか気 力ない力にかかっていたのだ。映像を記録したのがビデオカメラではなく人間の感覚器 官であり、しかも、その人間がビラ・ロッグキャビンー 4 号棟の録画状態になったまま のビデオデッキに向けて強い″念写〃を行ったとすれば、確かにその人物の持っ超能力は 計り知れないことになる。竜司はそういった常人とは異なる「目立った」特徴に目をつけ て、とうとう名前を探り出すことに成功した。いや、まだはっきり「山村貞子ーが犯人と 決まったわけではない。単なる容疑者に過ぎない。その容疑をはっきりさせるために今ふ たりは大島に向かっている。 そろ 波は荒く、船が大きく揺れた。浅川は嫌な予感に襲われた。果たしてふたり揃って大島 グに来てしまってよかったものかと。台風に閉じ込められ、ふたりとも大島から出られなく ンなったら、妻と娘は誰が救うのだ ? 締め切りはもうすぐそこまで迫っている。あさって の午後十時四分。 からだ 缶コーヒーで両手を暖めながら、浅川はますます小さく身体を屈める。 「信じられないんだ、オレにはまだ。一体、人間にそんなことが可能なのかどうか つか

9. リング

182 「信じる信じないの問題じゃねえだろ」 大島の地図に目を落としたまま、竜司は答えた。 「とにかく、おまえはこの現実に直面してるんだ。いいかい、オレたちに見えるのは、連 続して変化する現象の一部だけだ」 ひざ 竜司は地図を膝の上に置いた。「ビッグバンのことは知ってるだろ。宇宙は二百億年前 すさ に凄まじい爆発を起こして誕生したと信じられている。誕生してから現在までの宇宙の姿 を、オレは数式で表すことができる。微分方程式さ : この宇宙のほとんど の現象は微分方程式で表現することが可能なんだ。これを使えば、一億年前、百億年前、 あるいは爆発後一秒、〇・一秒の宇宙の姿も明らかになる。しかし、だ、どんどん時間を さかのぼ 遡って、〇の瞬間、ようするに爆発したまさにその瞬間のことを表現しようとしても、 これがどうしてもわからねえ。それと、もうひとつ、我々の宇宙が最後にはどうなっちま うのか : : : 。宇宙は開いているのか、あるいは閉じているのカオ 、。よあ、始まりと終わりが わからねえまま、ただオレたちは途中経過だけを知ることができる。これってよお、人間 の人生に似てねえか」 竜司はそう言って浅川の腕をつついた。 「そうだな、アルバムを見れば自分の三歳だった頃の様子、生まれたばかりの赤ん坊だっ た頃の様子がある程度わかるもんな」 「だろ、生まれる前のこと、それから死んだ後のこと、こいつだけは人間にわからないん ゼロ

10. リング

この映像を見た時の感覚を思い出してくれ。赤ん坊のシーンに関しては、昨日言ったとお りだな。それ以外は ? たとえば、無数の顔のシーンはどうだい ? 」 竜司はリモコンを操作して、そのシーンを映し出した。 「よーく、見ろ。この顔」 壁にはめ込まれた数十の顔が徐々に後退して、数百、数千の数に膨れ上がっていく。顔 のひとつひとつをよく見ると、人間の顔のようでいてどこか異なる。 「どんな感じだい ? 竜司が聞いた。 うそ 「なんだか、オレ自身が非難されているような : : : 、嘘つき、ペテン師と」 「そうだろ、実は、オレも同じ、いや、恐らくおまえと近い感覚を抱いた」 浅川は神経を集中させた。この事実が導く先。竜司は待っている。明確な返事を。 「どうだ ? もう一度竜司が聞いた。浅川は頭を振る。 「だめだ、何も思い浮かばない 「もっと、のんびりと時間をかけて考えりや、きっとオレと同じことを思い付くかもしれ ねえな。いいか、オレもおまえも、この映像はテレビカメラ、ようするに機械のレンズに よって撮影されたものと考えていたんじゃねえかい」 「違うのか ? 」