死ん - みる会図書館


検索対象: リング
82件見つかりました。

1. リング

とそう言ってるだけです 「偶然ねえ 小栗は耳の横に手をやって、もう一度話の内容を整理した。 ほんもく : ・浅川の妻の姪、大石智子が九月五日の午後十一時前後に本牧の自宅で死亡。死因は 急性心不全。まだ高校三年生、十七歳の若さであゑ同日、同時刻、品川駅前にて、 こうそく 十九歳の予備校生が・ハイクに乗って信号待ちをしていたところ、やはり心筋梗塞で死亡。 「ただ単に、偶然が重なったとしか思えねえなあ、オレには。タクシーの運転手から事故 のことを聞いて、女房の姪ごさんが亡くなったことをたまたま思い出しちまっただけじゃ ねえのか」 「いいですか」 浅川は編集長の注意を引きつけた。「バイクに乗っていた青年は、死ぬ間際にヘルメッ トを取ろうともがき苦しんでいたんですよ」 「智子も、死体で発見された時、頭をかきむしったらしく、両手の指にごっそりと自分の グ ン髪の毛を巻きつけていたのです」 浅川は智子に数回会ったことがある。女子高生らしくいつも髪には気を遣い、朝シャン も欠かしたことのない娘だった。そんな子が、ごっそりと大切な髪の毛を引き抜いてしま うなんてあり得るだろうか。彼女にそうさせたモノの正体がわからない。浅川は、髪の毛

2. リング

「ちえ、おまえがそう一一一一口うんじゃよお : 浅川は懇願する目を向けた。話の続きを促す視線。 「何かが起こったとしか考えられないんだよな。男と女が、今からやろうって時に窒息す るかよ、笑い話にもならねえ。あらかじめ飲まされた毒が効き始めたってことも考えられ 、まあ、反応が出ない毒物もあるにはあるが、予備校生と女子高 るがその反応はなし : 生の男女にそう簡単に手に入るものとは思えねえしなあ 吉野は、車の発見された場所を思い浮かべた。実際に足を運んだため、かなりはっきり おおくすやま と印象が残っている。芦名から大楠山に上る未舗装の県道沿いに、小さな谷間の、木々の うっそうと茂った空き地があり、上ってくる車からテールがチラッと目に留まるような格 好で、車は止められていたのだ。運転していた予備校生がどういうつもりでこの場所に車 ほとん を運んだのか、想像に難くない。夜になるとこの道を通る車は殆ど一台もなく、山肌から 横に伸びた樹の葉が目隠しとなって、お金のないカップルにとっては格好の密室となる。 「そこで、男はハンドルとサイドウインドウに頭を押しつけるように、女は助手席のシー トとドアの間に頭を埋めるようにして、死んでいた。オレはこの目で、ふたりの死体が車 から運び出されるところを見たんだ。ドアを開けたとたん、ふたつの死体はそれぞれのド アから転がり出た。死の間際、内側から強いカで押されたように、そして、その力が死後 三十時間たってもまだ残っていたかのように、捜査員がドアに手をかけたとたん、弾かれ るように飛び出したんだ。いいか、その車はな、 2 ドアで、キイを中に置いたままではド はじ

3. リング

183 「死んだ後って : 、死ねばそれで終わり、何もなくなる、それだけじゃないのかー 「おまえ、死んだことあるのかい ? 」 浅川は妙にまじめくさって首を横に振った。 「じゃあ、わからねえだろ。死後の世界がどうなっているのか」 「魂が存在するってこと ? 「だから、オレにはわからねえとしか言いようがねえ。だがな、生命の誕生を考えた場合、 魂なるものの存在を仮定したほうがすんなりいくような気もする。現代の分子生物学者の ぎれごと 言っている戯言には、とうてい現実味がないんだよ。いい力い、彼らはなんと言っている か。ポールの中に二十数種類のアミノ酸を数百個入れまして、電気工ネルギーをふりかけ ながらぐちゃんぐちゃんにかき混ぜましたところ、ほらこの通り生命の元であるたんばく 質が出来上がりましたって、そう言ってんだそ。あほらしくて信じられるか、そんなこと。 グ神様の創造物でありますと言われたほうがまだ。ヒーンとくらあ。なあ、オレはなあ、誕生 の瞬間には、もと全く違うタイプのエネルギー、というよりもある種の意志が働いたと思 竜司は浅川のほうにほんの少し顔を近づけたと思うと、すっと話題を転じていった。 「なあ、おまえさっき、三浦記念館で熱心に先生の著作に目を通していただろ。何かおも

4. リング

238 げ、ファックスで送ってきたものだ。南箱根パシフィックランドができる前、やはりその 地には珍しい施設が存在した。しかし、珍しいといっても、当時にしてみればごくありふ れた建物であった。以前そこにあったのは、結核療養所、いわゆるサナトリウムである。 結核、現在ではもうこの病気を恐れる者はあまりいないが、戦前の小説を読めば必ずと いっていいほどこの名を目にしたものだ。ト ーマス・マンに「魔の山を書くきっかけを うた 与えたのも結核菌ならば、梶井基次郎をして澄みきった退廃を詩わしめたのも結核菌であ った。しかし、一九四四年に発見されたストレプトマイシン、五〇年に発見されたヒドラ ジドは、結核から文学的な香りを奪い去り、一介の伝染病の地位にまで追いやってしまっ た。大正から昭和にかけて、この病気で死ぬ者は毎年二十万人にも上ったが、その数字は 戦後急激に下降してゆく。それでも、結核菌は死滅したわけではない。現在でもこの菌に 冒されて死ぬ者は毎年五千人ほどいる。 さて、結核が猛威をふるった時代、この病気を治すために必要とされたのは、きれいに 澄んだ空気と閑静な環境であった。したがって、結核療養所は皆高原などに建てられたわ けだが、科学療法の進歩にともなって患者の数が減ると、療養所としての機能を変えざる を得なくなってくる。つまり、内科、胃腸科、外科などを併せて設けないと経営面におい て成り立たなくなってしまったのだ。一九六〇年代の半ば、南箱根にあったサナトリウム にもこうした変革期が訪れた。しかし、状況は困難を極めた。あまりに交通の便の悪い場 いったん 所に位置したからだ。結核の場合、一旦入院すればなかなか退院できないので、交通の便

5. リング

244 ねるため、わざわざ船の便を利用したのだ。 前方に、熱海後楽園の観覧車が見えてくる。時間通り、十時五十分の着。浅川はタラッ プを降りると、レンタカーを止めてある駐車場に走った。 「おい、そう焦るなって 竜司があとからのんびりと続く。長尾の医院は、伊東線来宮駅のすぐ近くにあった。竜 司が車に乗り込むのをいらいらした気分で見届けると、浅川は坂と一方通行の多い熱海市 街に向かって車を走らせた。 「おい、この事件の裏で手を引いているのは、ひょっとして悪魔かもしれねえな」 乗り込むやいなや、竜司が真顔で言った。浅川には、道路標識を見るのに忙しくて答え る余裕がない。竜司は続ける。 「悪魔はなあ、いつも異なった姿でこの世に現れるんだ。十四世紀後半にヨーロッパ全土 を襲ったベストを知ってるかい。全人口の約半数近くが死んだ。信じられるか ? 半分、 日本の人口が六千万に減るのと同じだ。もちろん、当時の芸術家はベストを悪魔になそら えた。今だってそうだろ、エイズのことを現代の悪魔とかって呼ばないかい。だがなあ、 やっ 悪魔は決して人間を死滅に追いやることはない。なぜか : : : 、人間がいなければ、奴らも 存在できないからだ。ウイルスはなあ、ウイルスも宿主である細胞が滅んでしまったら、 てんねんとう もはや生きられないんだ。ところが、人間は天然痘ウイルスを死滅に追いやった、本当か

6. リング

感じられる。 ( デに外を飛び回って様々な人間と交わるより、こういった仕事のほうが浅 , 冫をロしていた。 九月七日の夕刊 : : : 、浅川が記憶していた通りの場所に、目当ての記事はあった。三十 四人の犠牲者を出した海難事故のニ = ースに押しやられ、その記事のスペースは想像して いたよりもずっと小さかった。これでは見落とすのも無理はな、。 浅川は銀縁のメガネを 取り、紙面に顔を近づけて一字一句漏らさないように本文を読んでいった。 レンタカーに若い男女の変死体 七日午前六時十五分ごろ、横須賀市芦名の県道沿いの空き地に止められた乗用車の 前部シートで、若い男女が死んでいるのを通りかかった軽トラックの運転手が見つけ、 横須賀署に通報した。 車のナイハーから、死亡した男女は東京都渋谷区の予備校生 ( 十九 ) と、横浜市磯 子区の私立女子高生 ( 十七 ) と判明。車は二日前の夕方、渋谷区のレンタカーで予備 校生が借りたものであった。 発見当時、車はロックされキイはイグニッションに差し込まれたままになっていた。 死亡推定時刻は五日の深夜から未明にかけて。車の窓が締まっていたことから、眠り 込んでしまっての酸欠死とも見られたが、薬物による心中の可能性もあり、詳しい死

7. リング

266 自殺ととらなければ、この矛盾はどうも解けそうにない。 ごうかん 「よし、じゃあ、仮に自殺として、貞子はなぜ死ぬ前に強姦されなければならなかったの だ ? おっと、処女のまま死ぬのが心残りだったなんてバカなことは言うなよ」 くぎ 浅川は釘をさした。そのおかげで、竜司は返事に窮してしまった。まさにそう言おうと 思っていたからだ。 「バカなことかな ? 」 「処女のまま死にたくないって気持ちは、そんなにバカげてるのかよー竜司はやけに真剣 な顔で詰め寄った。「オレだったら、もし、オレだったら、やはりそう思うぜ。童貞のま ま死ぬのはいやだってな」 いつもの竜司らしくない、と浅川は感じた。理屈ではうまく説明できないが、言うこと も顔つきも竜司らしくなかった。 「おまえ、本気でそんなこと言ってるのか ? 男と女は違うぜ、特に山村貞子の場合は 「へへ、冗談さ。つまりよ、山村貞子は強姦なんてされたくなかったんだ。そうに決まっ てる。だれが自ら好んで犯されたいと思うものか。現に彼女は、骨が見えるくらい長尾の 肩に噛みついているもんな。ャラれちまった直後、死にたいという思いがふと頭をよぎり、 ま、そんなところさ」 知らず長尾城太郎に働きかけてしまった : ・

8. リング

のろ ・ : おい、浅川、聞いてんのか ? 生きてるんだろ、おまえ。呪いは解けた。オレたち は助かったんだ。おい、 浅川 ! そんな所で死ぬと山村貞子の二の舞だそ。死んでもオレ にだけは呪いをかけるなよ。どうせ死ぬならおとなしく成仏しろ。おい、浅川 ! 生きて るんなら、返事をしろや。 竜司の声を聞いても、助かったという実感は湧かなかった。浅川はまるで別の空間を浮 遊し、夢見心地で山村貞子のしゃれこうべを胸に抱いてうずくまっていた。

9. リング

237 風はいくぶん強く、晴れ渡った空に白い雲が低く流れていた。台風二十一号は昨日のタ 方房総半島をかすめるようにして北東の海上に消え去り、その後を襲ったのは目が痛むば かりに青々とした海の色であった。さわやかな秋晴れとは裏腹に、浅川は、まるで死刑執 行を目前にした死刑囚の心境で船のデッキに立ち、波頭を眺めていた。視線を上に向けれ りようせん ば、伊豆高原の稜線がゆったりと中空を走っている。とうとう「締め切りの日を迎えて しまったのだ。今、午前十時、あと十一一時間もすれば、その時は間違いなくやってくる。 ビラ・ロッグキャビンでビデオを見てしまってから一週間が過ぎようとしていた。長かっ 、というのが実感だ。普通の人が一生かかっても経験できないほどの恐怖を、たっ た一週間ですべて体験してしまったのだから、長いと感じるのも当然だろう。 水曜日まる一日大島に閉じ込められたのがどう響くか、浅川にはわからない。電話ロで はつい興奮して調査の遅れをなじってしまったが、今になって冷静に考えれば、吉野は実 によくやってくれたと感謝の気持ちは大きかった。もし、浅川自ら調査に走り回っていた グら、焦慮に駆られてポイントのずれた方向に迷い込んでいたかもしれない。 ン : これでよかったのだ、台風はこっちに味方してくれた。 そう思わなければやり切れなかった。死ぬ瞬間、ああすればよかった、こうするべきだ ったと後毎しないよう、浅川は心の準備をしていた。 最後に残された手がかりは手元にある三枚の。フリント。きのう半日かけて吉野が調べ上

10. リング

209 「で、そのことを、あなたはどなたかに話しましたか ? 「ええ、もちろん。うっちゃん : 、さっきお会いになった演出家の内村とか、重森さん なんかに : 「重森さん ? 」 「この劇団の事実上の創立者です。内村は二代目の劇団代表なんですよ 「ほう、それで、重森さんはあなたのお話を聞いてどんな反応を ? 」 「マージャンをやりながらでしたけど、重森さんはずいぶんと興味を持ちましてねえ。も ともと女には目がないほうでしたから : どうも、前から狙ってたようなんです、いっ か山村貞子をモノにするんだって。で、その夜、酒の酔いも手伝って、重森さん、今から 山村貞子のアパート を襲うそって、無茶苦茶なこと言い出して : 参りましたよ、私た ざれごと ちは : : : 、酔っぱらいの戯言にまともに付き合うことなんてできませんし。結局、彼ひと りその場に残して他のみんなは帰ったのですが、重森さんがその夜、本当に山村貞子のア じま ハートに行ったかどうか、とうとうわからず終い。と言いますのもね、翌日、重森さん、 グ稽古場に顔を出すには出したんですが、まるつきり人が変わったみたいに、押し黙ったま ンま、ロもきかず、青白い顔でぼうっと椅子に座って動こうともしないで、眠るように死ん でしまったのです」 吉野はびくっとして顔を上げた。 「それで、死因は ? 」