浅川 - みる会図書館


検索対象: リング
263件見つかりました。

1. リング

312 立ち去ろうとする浅川を、舞は玄関まで見送った。 「舞さんは、まだ今晩、ここに ? 」 「ええ、原稿の整理がありますから、 「そうですか、忙しいところお邪魔してすみませんでした」 浅川は行きかけた。 「あの、ちょっと : : : 」 「え」 「浅川さん、私と先生のこと、誤解してるんじゃありません ? 」 「え、誤解って ? 「つまり、その、男と女の関係だと : : : 」 いや、べつに、そんな」 この男とこの女はデキているんだな、とそんな視線を投げかける男を、舞は見分けるこ とができる。浅川から浴びる視線には、強くその意味合いが込められていて、舞は気にか かっていた。 「私が初めて浅川さんにお会いした時、先生、あなたのことを親友の浅川ですって紹介し たでしよ。わたし、ちょっとびつくりしちゃった。だって、先生が親友って呼び方をした の、あなたが初めてなんですもの。ですから、先生にとって、あなたは特別な人なんだと

2. リング

270 竜司は浅川の手を払った。竜司はしばらく浅川を睨みつけていたが、溜め息をついてし ささや やがみ、穏やかな声で囁いた。 「おまえ、少し、休んでいろや 「そんな暇はない」 「気を落ち着けろってことさ。焦るとロクなことがねえ」 竜司は、しやがんだ浅川の胸元をポンと軽く押した。浅川はバランスを崩して仰向けに ひっくりかえり、足の裏を空に向けて転がった。 「ほら、そうやって、寝転がっていろ、赤ん坊みたいによ 浅川は起き上がろうともがいた 「動くな ! 寝てろ ! 無駄に体力を使うな」 竜司は、浅川がじたばたするのをやめるまで胸を足で踏みつけた。浅川は目を閉じ、抵 あきら からだ 抗を諦めた。竜司の足の重みが身体から離れ遠のいていく。そっと目を開けると、竜司が 短い足を力強く動かしてー 4 号棟 2 ( ルコニーの陰に回っていくのが見えた。足取りが 物語っていた。遠からず井戸の場所が見つかるだろうというインスビレーションが湧いて、 焦る気持ちは薄くなった。 竜司が行ってしまっても、浅川は動こうとしなかった。手足を伸ばし、大の字になって 空を見上げた。太陽がまぶしい。自分の精神が、竜司と比べてあまりに軟弱なのでいやに なってしまう。呼吸を整え、冷静に考えようとした。これから七時間、刻々と時を刻まれ にら

3. リング

浅川は、壁を埋め尽くすビデオのタイトルに軽く目を通した。レイダース、スターウォ cog-v を中心に、洋画の話 ズ、バック・トウ・ザ・フューチャー、十三日の金曜日 : 題作ばかりが並んでいて、新作も多い。たぶんこのロッグキャビンを利用するのは、若い グループばかりなのだろう。興味を引く映画はなかった。それに第一、浅川がここに来た のは一応仕事のためである。 「あいにくと、仕事でね」 浅川は床に置いてあったポータブルワープロを持ち上げて見せた。管理人はそれを見て、 こんなところに一人で泊まるわけを納得したようであった。 「食器などは、全部揃ってますね」 浅川は念を押した。 「はい、ご自由にお使い下さい」 使うといっても、浅川に必要なのは、カップラーメンの湯を沸かすためのヤカンだけだ。 シーツとルームキイを受け取ってオフィスを出ようとする浅川に、管理人は号棟の 場所を説明し、その後、妙に丁寧に「ごゆっくりどうそ」と言った。 ノブに触れる前に、浅川は用意しておいたゴム手袋を取り出して両手にはめた。正体不 明のウイルスから身を守るためのオマジナイであり、気休めである。 ドアを開け、玄関脇のスイッチを O にすると、二十畳ほどのリビングルームが百ワッ

4. リング

232 浅川は不服そうな顔をしていた。 「なあ、少しは自分の頭で考えろや、おまえさん、ちょっと人に甘え過ぎだぜ。もし、オ レになにかあって、おまえ一人でオマジナイの謎を解くハメになったらどうする ? 」 そんなことは有り得ない。浅川が死に、竜司ひとりでオマジナイを解くことはあるかも しれない、しかし、その逆のパターンはない。浅川はその点にだけは確信を持っていた。 通信部に戻ると早津が言った。 「吉野って方から電話がありましたよ。外からなので、十分したらもう一度かけ直すって 言ってました」 浅川は電話の前に座り込み、いい知らせであることを祈った。ベルが鳴った。吉野から であった。 「さっきから何度も電話してるんだが : : : 」 吉野の声にはささやかな非難が含まれている。 「すみません、食事に出ていてー 「それでと、 : ファックス届いたかい 吉野の口調がわずかに変わった。非難の響きが消え、その代わりに優しさが含まれる。 浅川はいやな予感がした。 「ええ、おかげでとても参考になりました」 浅川はそこで受話器を持つ手を左から右に代えた。

5. リング

に行き着いたのだ。なぜ、近代的なビルに魅せられて、のこのことレストランの中にまで 入って来てしまったのか、浅川はある程度自分の心理を分析することができる。どことな く、ほっとしたのだ。浅川は、『十三日の金曜日』の舞台となりそうな、つまり、近代的 し / し、カ という言葉とはまるでかけ離れた暗い丸木小屋を想像していたのだが、そう、つこ、 にもという雰囲気はここにはなかった。この地にも近代科学の力がちゃんと及んでいると をしくらか心強くもなる。引っ掛かるのは、下界からここに至 いう証拠を目の前にすれま、、 るまでの道の悪さ、そして、それにもかかわらずテニスや食事を楽しむ人々が上の世界に 多くいるということ。どうして、そこに引っ掛かるのか、浅川にはわからない。ただ、な んとなく、ここにいる人々には、生きているというニュアンスが感じられない。 テニスコートもレストランも込んでいたのだから、数棟のロッグキャビンからは夕食後 だんらん の楽しげな団欒の声が聞こえるはずであった。浅川はそれを期待した。ところが、駐車場 の端に立って谷底を見下ろしても、まばらな林のゆるやかな斜面に建つ十棟のロッグキャ ビンの、六つまでしか確認できない。そこより下は、街路灯の明かりさえ届かず、また、 室内からあふれ出る一筋の光もないために、夜の木陰の深い闇に沈んでいる。ー 4 号棟、 浅川が今晩泊まるべき部屋は、それでもどうにか光と闇の境目にあり、玄関ドアの上部の みが浅川の目にとまった。 浅川は正面に回り、管理人室のドアを開けて中に入った。テレビの音は聞こえても、オ フィスに人影はなかった。管理人は左手奥の和室に居て、浅川が入ってきたことに気付か

6. リング

133 がる立日がした。 「なにやってんだよお ! 今頃まで : : : 」 どな 浅川は相手を確かめもせず怒鳴りつけた。相手が竜司だと、知らぬ間に言葉遣いが汚く なゑそう考えると不思議な存在であった。どんな友人に対してもある程度の距離を置き、 ばりぞうごん 決して態度を崩さない浅川が、竜司にだけは平気で罵詈雑言を浴びせかけることができる のだ。だからといって、彼は竜司を親友と思ったことは一度もなかった。 しかし、返事は意外にも竜司の声ではなかった。 「もしもし : 、あの・ : いきなり怒鳴られ、おどおどした女の声。 「あ、すみません。間違えました 浅川は受話器を置こうとした。 「あの、高山先生のところにおかけでは ? 」 「あ、ええ、そうですけれど : : : 」 グ「先生はまだ帰っておられませんが : : : 」 ン浅川は、この若く魅力的な声の主が誰か気になった。高山先生と呼ぶところをみると、 : : : ? ・まさ力とう田じ 、、。竜司を好きになる女 家族の者でないことは察しがつく。恋人 性などいるはずがない、浅川は先入観でそう思い込んでいた。 「そうですか、僕は浅川という者ですけど」

7. リング

103 「別に、なにも : 浅川は竜司の母親の声を初めて聞いたが、特別緊張の響きが含まれていたとは思えない。 「背後でガャガヤ人の声がしたとか : : : 」 「いや、べつに。そんなことはなかった。ごく普通の朝の食卓って雰囲気だ」 「そうか、それならいいんだ。ありがとよ」 「なあ、どういうことなんだ ? なぜ、こんなことをする ? 」 竜司はどこかほっとした表情を浮かべ、浅川の肩に腕を回して顔をぐっと自分のほうに みみもと 引きつけ、ロを耳許にもっていった。 「おまえは、ロもかたそうだし、信頼が置ける。だから、話してやる。実はよお、オレ、 今朝の五時頃、女を犯してきた」 浅川は驚きのあまり声も出なかった。明け方の五時頃、竜司は、アパートに一人住まい の女子大生の部屋に忍び込んで乱暴し、警察に訴えたら承知しないそと脅し文句を残して、 そのまま学校に来てしまったというのだ。だから、ひょっとして今頃、警察が家のほうに グ来てはいないかと気になり、浅川に電話をかけさせて家の様子を探らせた。 ンそのことがあって以来、浅川と竜司はしばしば口をきくようになった。もちろん浅川は イの砲 竜司の犯罪を人に言いふらしたりはしなかった。そして、翌年、竜司はインター ( 丸投けで三位に入賞し、そのまた翌年には現役で大学医学部に入学した。浅川といえば、 そのまた翌年、一浪の末、ようやく有名大学の文学部に合格したのだった。

8. リング

318 かわからない。浅川はいつの間にか、床に倒れ込んで眠っていた。うーんと、朝の光に眩 しそうに目を細める。柔らかな光の中を、人の影がすうっと引いていった。恐くはなかっ た。浅川ははっと我に返り、影の方向に目を凝らした。 竜司、そこにいるのかい ? 」 ひだ 影はなにも答えず、まるで頭の襞に直接焼き付けられるように、本の題名が浮かんだ。 「人類と疫病。 目を閉じた浅川の瞼の裏に、白くはっきりと題名は浮かび、その後余韻をもって消えて いった。その本は浅川の書斎にあるはずであった。この事件を調べ始めた頃、彼は四人の 人間を同時に死に至らしめたモノの正体をある種のウイルスではと疑ったが、その興味か ら購入したものであった。まだ読んではいなかったが、彼はその本が本棚のどこに仕舞わ れているのかよく覚えていた。 東向きの窓から朝日が当っている。立ち上がろうとして、頭がずきんと痛んだ。 ・ : 夢だったのだろうか。 浅川は、書斎のドアを開けた。そして、何者かによって暗示された本、「人類と疫病」 を手に取る。もちろん、浅川には暗示を与えたのがだれであるか想像がつく。竜司だ。竜 司はオマジナイの秘密を教えるため、ほんの一瞬舞い戻ったのだ。 三百ページばかりの厚さのこの本のどこに、オマジナイの答えが載っているのか。浅川 は再び、直感が閃いた。百九十一ページ ! その数字も、さっきほど強烈ではないが、脳 ひらめ まぶた まぶ

9. リング

のろ ・ : おい、浅川、聞いてんのか ? 生きてるんだろ、おまえ。呪いは解けた。オレたち は助かったんだ。おい、 浅川 ! そんな所で死ぬと山村貞子の二の舞だそ。死んでもオレ にだけは呪いをかけるなよ。どうせ死ぬならおとなしく成仏しろ。おい、浅川 ! 生きて るんなら、返事をしろや。 竜司の声を聞いても、助かったという実感は湧かなかった。浅川はまるで別の空間を浮 遊し、夢見心地で山村貞子のしゃれこうべを胸に抱いてうずくまっていた。

10. リング

147 っていた ! そういう関係だというのか ? あまりに不釣り合いなカップルを見ると腹立 たしくなることがあるが、この場合度を越えている。何もかもが狂っているのだ、竜司の まなざ 回りでは。しかも、舞を見つめる時の竜司の慈愛のこもった眼差し ! 言葉遣い、それか ら顔つきまで変化させてしまう見事なカメレオンぶり。浅川は一瞬、竜司の犯罪行為を全 てばらし、高野舞の目を覚まさせてやりたい程の怒りを覚えた。 「先生、そろそろお昼よ。なにか作りましようか。浅川さんも食べてらっしやるでしよ。 リクエストはございまして ? 」 浅川は返事に困って竜司を見た。 「遠慮するなよ。舞さんの料理の腕、なかなかのもんだぜ」 「お任せします」 浅川はそう言うのがやっとだった。 舞はその後すぐ、料理の材料を買うために近くのマーケットに買い物に出た。そして、 彼女がいなくなっても、浅川は夢見ごこちでドアのほうばかりを見つめるのだった。 グ「おい、なに鳩が豆鉄砲くらったような顔してんだよ」 ン 竜司はさもおかしそうにニャニヤしている。 いや、別にー 「おい、こら、いつまでもぼうっとしてるんじゃねえそ」竜司は浅川の頬を。ヒシャビシャ たた と軽明・ ~ 、。 ほお