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天皇の世紀 1

常御殿と言うのは、清涼殿より東の奥にあって江戸時代の初期になってから建てられ、 清涼殿の中世風の御起居に不便が感じられてから日常のお住居となったもので、ひはだ けん ぶき まかず 葺の屋根で、間数も多い大きな建物であるが、清涼殿などと異って畳も敷いてある。劒 璽の間もある。常御殿から奥が御内儀と呼ばれ私的性格が守られ、ここでは天皇は女房 たちばかりに囲まれて生活された。男性は公家の子息の中から選ばれた御稚児がふたり、 始終お側についている。この子供たちも女装して化粧していた。 女房たちは平安朝時代の姿で暮していたが、源氏物語の中にあるような自由は失われ て、外からは見えぬ消息のうかがわれ得ぬ生活をしていた。御内儀は、禁裏の中でも禁 域であった。 すぐ近くに広い内庭があって、御涼所やそこから優雅な吹き抜けの渡り廊下で通じる ちょうせつ 茶室「聴雪」があり、美しい流水と面白い石組の林泉が入組んだ景色を作っている。庭 むら 木も多い。清涼殿の中世の庭が漢竹呉竹の二叢を小さい囲いに置いて、あとは白く川砂 を敷いただけの清潔で美しいものなのとは対照的で、人間的な桃山時代を通って江戸に 入った近世の築庭を示している。「聴雪」は茶室でありながら襖の絵など華やかである。 武家風が入ってないとは一一 = ロえないだろう。しかし、この一連の建物は、桂離宮と同じく 巻 の 優雅で軽らかで、やかな安定感を覚えさせる。こんこんときれいな湧き水が石をめぐ 序って流れるのに、山茶花の落花の白いのが波紋に載って漂っているのを見た。 さて下橋老人の談話にまたもどる。雑煮が済むと摂家五軒の朝賀を受けられる。この

小説すばる2020年12月号

身の手で切ったハサミの傷も、かすかに白「最終目標は、プロだから」 からそう思った。涼香は元気だ。先のこと く盛り上がり残っている。 扉を開けたその向こうに、中原が立ってはわからないが、今この瞬間、彼女は健や かに、それなりの速度でこの道を歩くこと 「はやくボラボラ島に行きたいのに」 「あんたたまにそれ言ってるけど、なんでサンタクロースの体型をした、この店のができている。吾輩はそれを、友として喜 ボラボラ島なのー マネ 1 ジャ 1 の男だ。そこで彼がずっと聞ばしく思う。その姿を見ることができてよ かった。 き耳を立てていたことを、吾輩は知ってい 「まえ飼ってたサメの実家なんで」 、」 0 「 : : : あんたさあ、喋るときはちゃんと、 さて、と、再び考える。さて、では、吾 相手に伝わる言葉で喋んなさいよー 「お疲れさま , 輩はど、つしよ、つか。考えている時間にも、 エーテルは消費されていく。 生きる目的の 「ああ、はい。 やつばみんな、サメと同じ「 : : : さーっす」 こと言いますね 微笑みを浮かべる中原に、涼香は視線を定まらぬまま、着実に死期は近づいてく 「だからさあ」 そらし低い声で答えた。店内で違法薬物をる。思うのは、「ボラボラ島に行きたいー リノは呆れたように吐き捨てたが、その売りさばく彼の、涼香はかって客だった。 と言った涼香の、声に滲んだ渇望。あれ 声に以前のような真剣な悪感情は含まれてしかし今、涼香からそれに該当する煙の匂が、少し羨ましかった。泳ぎ着くまでエー 、よすっかり消えている。横をすり抜けるテルが持つかはわからないが、ひとまず旅 いないように聞こえた。涼香のほうもそ、つし ( いらだ だ。時に苛立った声を出してはいるが、そ涼香の背中を、中原の目が追う。サンタクを続けてみようか。故郷の海、ボラボラ島 れは当人のコントロールのもと示されていロースにしては、愛情に欠けた目だ。 る感情に思える。共通の話題で、人間の距 上昇しようとヒレをくねらせたとき、左 たやす 離は容易く縮まる。ダイビング。それが美大通りに出たところでリノと別れ、涼香右のエラが、不穏なにおいを捉えた。雑多 しい海の話ならなおさらだ。 はひとり、家路をたどった。吾輩はその頭な街の匂いに紛れたそれを嗅ぎ分けること 「なにもダイマスまで取らなくたって、遊の上を、一定の距離を保ちついていった。 ができたのは、以前にもすっかり同じもの びで潜りに行けばいいじゃない」 歩く速度が以前より速い。靴底が地面をこを、もっと近くで嗅いだことがあるから 「そうだけど : ・・ : でも するようだった足も、一歩ごとに高く上がだ。 涼香の着替えが終わったタイミングで、っている。水中のスポ 1 ツを始めて、筋肉 どうすべきか、と考えた。少女の声が頭 かついたのだろう。 で響く。ィッツノットユアビジネス リノも立ち上がる。先立って歩く涼香が、 ロッカールームの扉に手をかけた。 しかし、吾輩は結局、ひとり来た道を引 涼香を食べなくてよかった。吾輩は、心

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スに干渉するつもりはない。ただ、会しオ 、こ間は、全国を泳ぎ回っていたことになる。 を食べることだって」 いから、会いに行くだけだ。 「ありがとう。参考にしてみるよ サメ部屋の入ったビルを裏手に回り、窓 を数えながら七階まで昇った。まず、日を 「どういたしまして」 少女が、手を差し出した。友好の印、握日本の美しい風景を見て回っていた吾輩遮っていた厚手のカーテンがなくなってい 手を求めているようだ。吾輩は右ヒレを差にとって、久しぶりに見る涼香の街はこまることに気がついた。窓の隙間から中に入 し出し、それに応えた。濃縮されたエ 1 テごまとして薄汚く、しかし、ぎっしり詰まる。水槽はまだそこにあった。しかし、水 ルは物理的干渉も可能である。少女の小さった街の表面を人間や光が這うように行きの匂いがしない。暗い部屋の中、水の抜け な手の感触も、吾輩はしつかりと記憶に刻かう様は、緻密な細工の器械が力強く動くた乾いたアクリルの箱だけが、ひっそりと むことができた。 のを見るようで、それはそれで愉快に感じそこに残されていた。隅にあった発泡スチ ロ 1 ルの箱もない。むせかえるような死臭 そうして吾輩は、日本全国津々浦々名所時刻は十七時。吾輩が旅立ったときの朝も、すっかり消え去っていた。吾輩は懐か 巡りの旅を開始した。日本三名園と呼ばれ焼けと同じ色で、反対の空が燃えている。しい水槽の中を回遊し、薄く積もった埃を る兼六園、後楽園、偕楽園を見て巡り、日覚えのある道を見つけ、高度を下げた。涼舞い上がらせながら、眠った。 本三名泉と呼ばれる有馬温泉、草津温泉、香の職場から、吾輩のいたサメ部屋のごく 下呂温泉に浸かり、日本三景と呼ばれる、近くまで続く賑やかな道だ。浮かれた大学夜半過ぎに目覚め、部屋を出た。目指す 天橋立、宮島、松島を泳ぎ巡った。少女の生の集団の頭の上を、彼らと同じペースでのは、涼香の職場だ。 祖母と吾輩は、なかなかに旅の好みが合っのんびり泳いだ 涼香の働いていた店は、繁華街のメイン たようだ。各所を満喫し、松島まで北上し涼香は元気だろうか。そもそも生きてい通りを横道に逸れた先にあるキャパクラ たついでに、イカの水揚げ量ナンバーワンるだろうか。距離が離れてしまうと、さすだ。高級路線とセクシ 1 路線のどちらにも を誇る八戸市にもお邪魔した。久しぶりに がに個人の発するささやかな情報までは嗅振り切れていない感のある、良く言えば親 海に出て新鮮なイカを齧っているとき、涼ぎ取れない。きちんと数えてこなかったのしみやすい、入りやすい店である。ありふ 香に与えられたイカの、鮮度には欠けるがで、吾輩が旅立ってから何日が経過していれたデザインの看板を奥に進み、吾輩は客 るのかも、よくわからなかった。が、 発っ用の入り口から堂々と入店した。営業時間 趣の深い味わいを思い出した。 そして吾輩は、最後にもういちど涼香のたときと比べ、人々の服装がやや厚手に変は既に終了したらしく、フロアの照明は落 様子を見に行こうと決めた。彼女のビジネ化している。季節が移り変わるくらいの期とされていた。一段下がったカウンターの かじ

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混乱を味わわずに済んだだろう。自らをゴ相談を打ち明けた吾輩に、少女は真剣な 「どうぞ」 瞳で腕を組んだ。そして、 「君は、なんのために生きている ? ミだと話して疑わない、憐れな友。 「君は、マジカルまりえるオメガにはなれ「仕事がないときは、旅をするといいって 「相談って言ったのに質問してる」 おばあちゃんが言ってた」 「失礼質問をさせてほしい。君は、自分ない , がなんのために生まれてきたと考える ? 」 吾輩は、少女のあどけない顔に語りかけ 「旅か」 少女は大きく天を仰ぎ、「うーんーと考た。 えこんだ。重たそうな頭が後ろに倒れはし「信じてほしい。 絶対に、なれないのだ。「うん。おばあちゃんはもう仕事がないか ないかと不安になり、吾輩は少女の背後に君には残酷な話かもしれない。しかし、事ら、よく旅してる」 回った。少しして、少女が振り返った。 実だ。君の夢は叶わない。ならば、どうし「ほう。ちなみに、おばあちゃんはどこに たい ? もし、それならば、そんな命は要旅をしたと言っていた ? 「私は、マジカルまりえるオメガになりた らないとい、つならば、」 「待ってて ! 」 そう言うと、少女は弾かれたように駆け マジカルまりえるオメガ。それが、現在「イツツノッテュアビジネス 日曜日の早朝に放送されている女児向けの 少女が、いきなり英語で答えた。素晴ら出した。また転ぶのではないか、と不安に アニメを指している、というのはすぐにわしい発音だった。 , 彼女の通う子供英会話教なるスピードで、しかし懸命に両足を交互 に出して、巨大水槽エリアへと消えて行 かった。少女まりえるが惑星の昇交点黄経室はなかなか良い仕事をするようだ。 ィッツ・ノット・ユア・ビジネス。それく。言われた通り、吾輩は待っことにし に手を加えようとする悪の軍団から字宙を 守るため戦う、という作品だ。つまは君の仕事じゃない。即ち、「君には関係た。相変わらず人気のないウニエリアを眺 優 めて回る。サンショウウニ、アカウニ、 り、少女は自らの生まれた意味を、少女まのないことだ」。 ノ辺 渡 フンウニ。なるほど、ウニとは、確かにク りえるになるため、あるいは字宙を守るた「なるほど。確かに」 リのようだ。 め、と定めている 「そうだよ。サメにはわかんないことだか 後 「サメ ! 」 サメになりたいと言った、涼香の姿が重ら、ほっといて。私がなりたいんだもん」 やがて息を切らし、少女が戻ってきた。話 なった。離れても、なにかと思い返してし「確かに : : : 君の命は、君のビジネスだ」 「あのね」と、祖母から聞いたというお勧メ まう友。彼女にも、この少女と同じくらい 涼香の命も、涼香のビジネスか に幼い日々があったのだ。そのころサメに 「吾輩は、自らのビジネスを探しているのめの旅スポットを教えてくれる 「あとね、旅のだいご味は、美味しいもの 食べられていれば、その後の人生の苦痛やだが」

裸の王様・流亡記 (角川文庫)

ち夫役人にとってもこれはかわらない。私たちの歩行能力は全将兵の運命を決する。それは事 実である。しかしこれは特権ではないのだ。皇帝の新体制においてはいかなる意味でも特権を もつ人間は存在しないのだ。もし私たちが長途の旅行の苦役にたえかねてサポタージュをおこ ない、日程が遅れたら、たちまち殺されてしまうのである。夫役人も兵士も、すべての人間が 時間の囚人となった。私たちの悪は肉のうちにとどまってよどみ、腐りはじめた。 いっぽう官吏たちのおかれた立場も奇怪なものであった。長城の建設計画が実施に移される と、中央と地方と、あるいは幹部と末端とを問わす、おびただしい事務が発生した。三十万の 辺境守備軍と数億人の労働部隊を維持し、活動させるための計算と管理の事務である。それは かんよう 想像するだけで私たちを硬直させてしまう。のみならず、咸陽に到着してからわかったことだ が、皇帝は壮大な宮殿の建築を人民に要求したのだ。彼は全国の建築学者を首都に呼びあつめ あぼうきゅ、つ て、阿房宮は世界の核たるべきことをいいわたした。その規模はかって私が行商人から帳場台 ばうぜん に略図を描かれて茫然自失した想像をはるかにこえるもので、各国首都の王宮そのままの様式 をもっ二百七十の宮殿から成り、ひとつひとつの宮殿は独立して、両側に壁のある舗道で連絡 記されるはずたという。そのために動員される人夫の数は七十万人、完成の日はいっか、誰にも 亡 わからない。さらにこの宮殿のほかに、首都から主要な地方都市に放射する、皇帝の温涼車の 流 ための軍用道路七千二百キロが決議され、工事に着手されたのであゑ国務大臣はこれらいっ 四さいの事務の洪水を解決するため、計算に計算をかさねたあげく、破天荒な法令を発布した。 ばうだい 彼はありとあらゆる角度から事態の厖大な複雑さを検討した結果、かってどんな為政者も思い

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涼香が叫んだ。まっすぐに吾輩を指差 中原が振り返る。吾輩を見る。 「サメだー 叫んだ中原の頭に、吾輩は噛みついた。 下顎の歯がこめかみに食い込む感触がす る。熱い血がロ腔内に広がった。溢れる血 の匂いにテンションが上がる。尾ピレで鋭 くターンし、膝をついた中原の首にさら に噛みつく。こめかみからふき出し続ける 血が、左の胸ビレに降り注いだ。 涼香の声に、吾輩は顔を上げた。支えを 失った中原の身体がゆっくりと床に沈む その上にい吾輩の口からあふれた血がボタ ボタと滴った。 「マネするなよ。吾輩はサメだから許され 優 る」 辺 渡 「マネしないよ。うつわ 顔中を顰めて涼香が言った。血の匂いが編 不快なようだ。中原の血は複数の人工物の後 混じりあった複雑な匂いがした。あまり吾話 輩の好みではない。テンションを上げておメ いてなんだが。 「なんで、サメがここにいるの」 3 す。

天皇の世紀 1

ぐ長大な廊下や塀を全部取払ってしまった。現在は、その礎石だけが、あけひろげた敷 地に冬の光をあびて点々と連なっている。 清涼殿の殿上の間あたりが、吹きさらしで、ひどくあけひろけて見えるのも、実は幾 重にも立ち塞がって外部と遮断していた塀や建物を失ったせいなのである。地下の者が 足を入れるのを許されなかった場所の趣きは失われた。どこか大きな学校か役所の古い 建物を放課後の閑散な時間に裏から見たように淋しくさえある。 こよ、もとより、これらの御殿は外からは決して見えぬように目隠し 太平洋戦争以前冫。 きんり されていた。禁裏 ( 裡 ) と称えられたのもその故だし、グリフィスがフォービイドウ ン・エンクロージュアと字義どおり訳した意味が当っている。さらにこの禁園の四方を、 屋根のある高い築地がめぐり、始終清らかな水が流れている溝が囲んでいた。 せんとう その外側、今日御所の御苑となっている四方の土地が、仙洞御所、各宮家の御殿とと もに十世紀に近い代々を御所に仕えて来た公卿殿上人の屋敷で埋まっていた。これにさ らに一重、今日も在る石垣をめぐらせ、外の町と通じる出入りの門を九つに限ってあっ 広さ二七七、〇〇〇坪。外の町の辻を吹く風は九門から奥に入りにくい。幕府の方針 のが神棚に上げて隔離しておくことで、この幾重にも囲まれた奥に中世の時間をそのまま 序残しておくようにすることだった。古事故実だけを守るのを生活としている公卿たちが 天皇を囲んでいた。

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痙攣する中原の身体と吾輩を交互に見なの組織に猟奇的な方法で消されたと思われ「わかった。私はボラボラ島にする」 がら、」 - 杳が問、つ るさ。生きていたなら、自らサメに噛まれ「素晴らしい。君に向いていると思うよ」 「これといった理由はないんだ」 たと証言する」 吾輩は胸ビレを振り、高度を上げた。左 「そうなの ? うわ、本当にサメだ。どう はあ、と大きく息を吐くと、涼香はポケ右に揺れる尾ビレの先を、涼香が目で追 して ? でも、嬉しい。ああ、でも、ちょ ットから携帯を取り出し、救急車両を要請う。 っと、ヤバいね。サメって、危ない生きした。なんとも社会的な行動だ。文明人と「さらばだ」 して正しい。通話を終えると、頭上を漂、つ鼻先を星の広がる宇宙に向け、吾輩は空 「ああ、吾輩のようなタイプは普段、人に吾輩を見上げ、目を細めた。 へと昇った。流線形のこの身体の美しいフ 噛みついたりしないのだがね。うつかり小 「久しぶりだね、サメ、元気だった ? ォルムを、涼香はいつまでも見送ってくれ 魚と間違えることもある。海に入るとき涼香が吾輩をどういう生き物としてとらるだろう。ヒレの先から、少しずつ工 1 テ は、ある程度気を張ったほうがいい。とこえているのかはわからない。しかし、かっルが空に溶け出す。吾輩は、自分の生涯に ろで、人に見られてはまずいな。外に出よて飼っていた水槽の中のサメと、空を泳ぐっいて考えた。 、つか」 吾輩とを同一の個体として認識してくれた友を得て、イカを食べ、清潔な水の中を ことは、吾輩には喜ばしいことだった。普泳いだ。同胞を見て、自らの美しさを知 裏口のドアノブを吾輩が噛んで回し、涼通に会話をしてしまえるところは、一般的り、少女に学び、旅をした。友と再会し、 香と共に路地へ出た。シンと冷えた空気がな文明人として少々正しくない気もするひとりの人間を殺して、友と別れる。 身体を包む。空を仰ぐと、昨日よりも幾分が。とにかく、最後に会えてよかった。ど短い生涯を振り返り、そして理解した。 またた かはっきりとした星の瞬きが見えた。 うやら本当に、吾輩はもう、最後のよう 吾輩が生まれた意味は、特になかった。 「中原は死んだのかな ? ただ、吾輩が楽しかっただけだ。 ゴミ捨て場近く、人気のない路上で足を「ああ、元気だ。だが、もう行かなくてそして吾輩は、ボラボラ島を目指す。吾 止め、涼香は言った。 輩は、なにかのために生まれたものではな 「どうだろうか。まあ、気にすることはな「そう。またここに来る ? 」 工 1 テルがすべて宙へと還る瞬間ま 、。廊下には監視カメラもない。涼香が一 「いや、もう来ない。人食いザメは殺処分で、この生を謳歌する。吾輩は自由なサメ 緒だったとは誰も知らないし、奴から出てされるからな。各々、好きな場所で、人生である くるのは動物に噛まれた痕だ。きっと、闇を謳歌しよう」 ( 了 ) けいれん

THE MEN'S CASUAL BIZ STYLE BOOK : カジュアルビズを成功させる男の着こなし新常識

8 月 真夏のビズボロスタイル ・ポイント ・ビズボロ十コッパンのときはメッシュベルトを。 ・目元 ( 眼鏡 ) もブルーで涼しげに。 ポロシャッ ( ラコステ ) 眼鏡 ( エマニュエルカーン / ブリンク青山本店 ) パンツ ( ザ・スーッカンパニー / ザ・スーッカンパニー新宿本店 ) ベルト ( サドラーズ / シップス銀座店 ) 靴 ( トレーディングボスト / トレーディングボスト青山本店 ) 138

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野々宮からパックを奪って、ゴールに向かれるからじゃないよ。それくらいわかるで さあ、と野々宮は首を傾げた。 : それなのに、俺なんかとか言わ 「そういう状況じゃなかったし : : : それよって投げた。ゴールに入ったパックは後ろしよ。 ないでよ。役に立てないならいないほうが り一番怖かったのは、自分が何をするかわの壁に当たって、コツンと床に落ちた。 いいとか勝手に決めないでよ ! 」 からないことでした。正気をなくして叫び「ぜんぜんおかしくないよ。つらかった話、 出すとか、気を失うとかしそうで。一刻も笑ってしないでよ ! 悲しかった話、冷静そう叫んだとたん、ふいに鈴江姉さんの にしないでよ ! ひどいめにあったら、怒声が頭のなかで響いた。 早く、あの場から抜け出したかった」 さくやがべンチに座っててくれるだ 野々宮はスティックでパックをすくい上んなきやだめだよ ! 不安だったら、ちゃ けで、どんなに私が心強いか、考えたこと げ、落とさないようにして空中でドリプルんと話してよ ! 」 ある ? 一つでは気がすまず、私は落ちていたパ を始めた。コンコン、という単調なその音 私は茫然とした。「私なんか」というの を聞いているうちに、なんだかすごく、腹ックを拾って、次々に投げた。 が立ってきた。 「バカなの ? 野々宮君。なんでわかんなは、「役に立てないならいないほうが」と いうのは、私がずっと、自分自身に言い続 いの ? もし、みんなが野々宮君のこと 「あのさ」怒りを抑えながら、私は言っ た「私にはわからないけど、試合が怖いで、困ったり、怒ったりするとしたら、そけてきた言葉だった。悔しさをバネにする のとか、どうしたらいいのかわからないけれは野々宮君のこと、真剣に考えてるからんじゃなく、笑ってごまかしていたのは、 だよ。どうでもいいやつのことで誰も悩ま私だったのだ。 ど、でもさ、やめることないよ。きっと、 私は手に持っていたパックを下に落とし ないよ。野々宮君が一人で黙って消えちゃ ど、つにかなるよ」 「そう言ってくれるのは、さくやさんだけって、みんなどんなに探したと思う ? 三た。野々宮はあっけにとられた顔で私を見 ですよ。俺知ってます。みんな、俺のことピリ戦って、ポロボロに疲れ果ててたけている。 子 おおくち 「なんで、そこまでするんですかって、さ でいろいろ困ってますよね。戸森や大口はど、それでも建物の隅々まで探して、遠く 千 原 露骨にいやな顔するし。俺はどういうわけのトイレの個室一つ一つ、ロッカーの扉まっき聞いたよね。理由は、野々宮君は、私 河 か人に合わせられなくて、迷惑をかけるんで全部開けて、戸森君や大口君は駐輪場のにとって、大事な後輩だから」野々宮の顔 ・ : ・ : 、つをまともに見られないまま、私は言った。音 で。自分ではそういうつもり、全然ないん自転車全部チェックしてくれたよ すけどね、野々宮はまた自嘲的に笑った。ちの部員たちは、まあ、ああいう人たちだ「私は大事な人が、よくわからない理由 から、直接言葉にはしないけどさ、野々宮で、ある日突然いなくなっちゃうのは我慢無 「試合で役に立てないなら俺なんかいない もう一一度と。ただそれだけ」 君のこと、本気で心配してた。それはさ、できない ほ、つか : : : 」 「ねえ、何で笑うの ? 」私は立ち上がり、野々宮君がスキルがあるからとか、点を取私は石油ストープのそばまで戻り、床に かし