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検索対象: 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩
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1. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

( 現代語訳四〇一一ハー ) とて帰りたまふ。 を捨ててしまったつもりでいても。 以下、僧都の心中。 せうとわらは ともゐ かの御兄弟の童、御供に率ておはしたりけり。ことはらか一四女にひかれる淫欲の気持。 〔三〕薫、浮舟について 一五出家の浮舟を破戒者にする罪 かたち 他意ないと僧都に語る をつくるのではないか、の懸念。 らどもよりは、容貌もきょげなるを、呼び出でたまひて、 情に流れやすい女ゆえ、浮舟は薫 ニ 0 に逢えば動揺するだろうと思う。 薫「これなむ、その人の近きゅかりなるを、これをかつがつものせん。御文一 一六つまらぬ承諾をしたと、困惑。 くだり 行賜へ。その人とはなくて、ただ、尋ねきこゆる人なんあるとばかりの心を非情の僧ではないだけに、つらい 宅修行上の都合であろう。 知らせたまへ」とのたまへば、僧都「なにがし、このしるべにて、かならす罪天今日は九日。来月はほど遠い え 一九浮舟の異父弟。小君。 得はべりなん。事のありさまはくはしくとり申しつ。今は、御みづから立ち寄 = 0 とりあえず派遣しよう。 ニ一自分 ( 薫 ) の名は伏せて、ただ、 と・か らせたまひて、あるべからむことはものせさせたまはむに、何の咎かはべらお捜し申す人がいるぐらいの趣を。 一三浮舟を破戒者にする罪を犯し む」と申したまへば、うち笑ひて、薫「罪得ぬべきしるべと思ひなしたまふらそうだ。それに直接加担すること は、僧侶の身として堪えがたい。 ニ四 ぞく んこそ恥づかしけれ。ここには、俗のかたちにて今まで過ぐすなんいとあやし = 三僧都の「罪」 ( 一一行前 ) に照応。 一西以下、自分の生来の道心にふ 橋き。いはけなかりしより、思ふ心ざし深くはべるを、三条宮の心細げにて、頼れる。浮舟の道心を邪魔だてする などありえない、との論法を導く。 ほだし 浮 もしげなき身ひとつをよすがに思したるが避りがたき絆におばえはべりて、か = 五薫の母、女三の宮。 ニ六自分の出家の絆だとする。 かづらひはべりつるほどに、おのづから位などいふことも高くなり、身のおき 毛出家を願いながら留保してい るうちに、他にも避けがたい事情 ニセ が。女二の宮降嫁などをさす。 ても心にかなひがたくなどして、思ひながら過ぎはべるには、またえ避らぬこ

2. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

こたま りし。事の心推しはかり思ひたまふるに、天狗、木霊などやうのものの、あざ 一その時の事情から推察すると。 前には「狐、木霊ゃうのもの」 むきてたてまつりたりけるにやとなむうけたまはりし。助けて京に率てたて ( 手習一五一一【 -) 。「天狗」の人に取 語 のち り憑いた話は『今昔物語集』巻一一十。 みつき な 物まつりて後も、三月ばかりは亡き人にてなんものしたまひけるを、なにがし 三宇治からみれば小野は「京」か。 氏五 四手習巻 ( 一五九ハー ) には、看護 いもうとこゑもんのかみ の期間が「四五月も過ぎぬ」とある。 源が妹、故衛門督の北の方にてはべりしが尼になりてはべるなむ、一人持ちては をむなご 五三行後、この人いたづらに : ・」 のち に続く。「故衛門督の : ・」以下、妹 べりし女子を失ひて後、月日は多く隔てはべりしかど、悲しびたへず嘆き思ひ 尼の経歴紹介。妹尼は、亡き娘へ かたち たまへはべるに、同じ年のほどと見ゆる人の、かく容貌いとうるはしくきよらの悲嘆が今も消えず、浮舟を身代 りと思い、熱心に看護する。 くわんおん なるを見出でたてまつりて、観音の賜へるとよろこび思ひて、この人いたづら六初瀬の観音が身代りを授けて 、べー 0 くれた。↓手習一五五・一六〇ジ になしたてまつらじとまどひ焦られて、泣く泣くいみじきことどもを申されしセ私 ( 僧都 ) に、浮舟を救ってほ しいとの願いを。↓手習一五九ハー。 のち ごしん ^ 前ハー末の「 ( 浮舟のことを ) く かば、後になん、かの坂本にみづから降りはべりて、護身など仕まつりしに、 はしくも見たまへす・ : 」に照応。 らう 九比叡山の西坂本。小野をさす。 ゃうやう生き出でて人となりたまへりけれど、なほこの領じたりける物の身に 一 0 身心守護の修法。印を結んで、 ) また のち 陀羅尼を唱える。 離れぬ心地なんする、このあしき物の妨げをのがれて、後の世を思はんなど、 = 「死に入る」の反対語。 悲しげにのたまふことどものはべりしかば、法師にては、勧めも申しつべきこ 三やはり私に憑いた物の怪が、 まだ身から離れぬ気がする。「後 とにこそはとて、まことに出家せしめたてまつりてしにはべり。さらに、しろの世を思はん」まで、浮舟の言葉。 一三出家して、物の怪から逃れる しめすべきこととはいかでかそらにさとりはべらむ。めづらしき事のさまにも とともに、後生の往生を願って修 九 すけ お てんぐ つか ・一たま

3. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

見しなかったというわけでございます。事情を推察いたし お勧めもいたすべきことであろうかと存じまして、確かに こだま まするに、天狗や木霊などといったものが、たぶらかして 出家おさせ申したのでございます。まったくのところ、あ お連れ申したのではなかったか、と耳にいたしました。助なた様のお世話あそばすべきご関係のお方とは、なんの手 語 物けて京にお連れ申してからのちも、三月ばかりは死人同然がかりもないこととて、どうして気づくわけがございまし えもんのかみ でいらっしゃいましたのを、拙僧の妹で故衛門督の北の方 よう。事のいきさつがめったにないことでございますので、 源 でございましたものが今は尼になっておりますのが、一人世間話の種にいたしてもよかろうと存じたのでございまし うわさ おりました娘を亡くしてのち、長い月日がたっておりまし たが、噂がひろまって面倒なことにでもなったらと、あの たのですが、悲しみに堪えず嘆き暮しておりましたところ老人たちがあれこれと申しますので、この幾月かのあいだ へ、ちょうど同じ年格好と思われる人で、ああして器量の内密にしておったというわけでございます」とお申しあげ まことにととのってきれいなお方をお見つけ申しまして、 になるので、右大将は、これこれだそうなと、それとなく これは観音がお授けくださったものと喜びまして、このお 小宰相から聞かされて、それでこうしてまではっきりとお 方を死なせ申してはなるまいとうろたえ騒いで、泣く泣く 聞き出しになったことであるけれど、まったく今は亡き人 是が非にもとせつないことを申してまいりましたので、そ とばかりあきらめきっていた人なのに、それでは実際に生 ののちあの坂本に拙僧自身下山いたしまして、護身の加持きていたのかとお思いになると、まるで夢を見ているよう ばうぜん などしてさしあげましたところ、だんだんと生気をとりも であまりの意外さに茫然として、ついはばかりも忘れて涙 そうず どして普通の御身におなりでしたが、『やはり、この私に ぐんでおしまいになるが、僧都の手前なんといっても気恥 取り憑いたものが身から離れないような心地がする。この ずかしく、自分がこうまで取り乱した姿を見せてよいもの 悪い魔物の妨げからのがれて、後の世の安楽を求めたい』 かと思い直して、さりげなくふるまわれるけれども、僧都 などと 、、かにも悲しそうにいろいろおっしやったりする は、大将殿がこうも大事に思っていらっしやったお方であ ことがございましたので、法師の身としては、こちらから るものを、この世に亡き人も同然の尼姿にしてしまったも てんぐ

4. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

ゆる木の下を、疎ましげのわたりやと見入れたるに、白き物のひろごりたるそ妖怪が住みつきやすいとされた。 一 ^ 「物」は、本来、霊魂の意。 あか 見ゆる。「かれは何ぞ」と、立ちとまりて、灯を明くなして見れば、もののゐ一九「変化」は、人間以外のものが 一九 人の姿に化けること。古来、狐は きつねへんぐゑ ひとり こ化けると信じられていた。 たる姿なり。僧「狐の変化したる。憎し。見あらはさむ」とて、一人はいます人し ニ 0 まあ、およしなさい ニ 0 よう こし歩みよる。いま一人は、「あな用な。よからぬ物ならむ」と言ひて、さや = 一「印」は、仏・菩薩などの悟り や誓願を、手の指で種々の形に結 しぞ いん かしら うの物退くべき印を作りつつ、さすがになほまもる。頭の髪あらば太りぬべきんで表すこと。変化退散には、不 ニ四 動の印を結び、陀羅尼などを読む。 ひとも ーカ あう 心地するに、この灯点したる大徳、憚りもなく、奥なきさまにて近く寄りてそ = ニ正体が分らぬので、やはり。 ニ三恐怖感を、頭髪を剃った僧侶 かいやく たちなので、諧謔的に表現した。 のさまを見れば、髪は長く艶々として、大きなる木の根のいと荒々しきに寄り 一西恐れもせず気にかけもせぬ様 ′ばう ゐて、いみじう泣く。僧「めづらしきことにもはべるかな。僧都の御坊に御覧子で。勇敢な態度を見せたい。 一宝女人の体。狐が化けたか。 まう ぜさせたてまつらばや」と言へば、「げにあやしきことなり」とて、一人は参 = 六寝殿から裏庭へ。高徳の僧な がら好奇心旺盛で、柔軟な人柄。 へんぐゑ でて、かかることなむと申す。僧都「狐の人に変化するとは昔より聞けど、ま毛尼君一行が、宇治院に。 ニ六 ニ ^ 僧都一行の下人たち。 ニ九調理場。寝殿とは別棟か。調 習だ見ぬものなり」とて、わざと下りておはす。 ニ九理やその他の雑用を、宿泊先では かの渡りたまはんとすることによりて、下衆ども、みなはかばかしきは、御支度しなければならぬので、の意。 手 三 0 仕事にかかりきりなので、こ づしどころ ちらはひっそり。下人たちは調理 厨子所などあるべかしきことどもを、かかるわたりには急ぐものなりければ、 場などに入ったままで、裏庭には ゐしづまりなどしたるに、ただ四五人してここなる物を見るに、変ることもな見に来ない ニセ あ ニ五 かみ つやつや ニ三

5. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

呼び寄せてと思ひはべる。昔より、異ゃうなる心ばへはべりし身にて、世の中一「異ゃうなる心ばへ」「例の人 ならで」は、現世に否定的な世捨 を、すべて例の人ならで過ぐしてんと思ひはべりしを、かく見たてまつるにつ人の姿勢。薫独自の自己主張。 語 ニ女二の宮降嫁をさす。 三そんな人がいるとは誰にも知 物けて、ひたぶるにも棄てがたければ、ありと人にも知らせざりし人の上さへ、 らせなかった身分低い者まで。女 え 心苦しう罪得ぬべき心地してなむ」と聞こえたまへば、女二の宮「いかなること宮を気づかい、浮舟を低めて言う。 四捨て置いては気の毒で自分の に心おくものとも知らぬを」と答へたまふ。薫「内裏になど、あしざまに聞こ罪障にもなろう。薫の発言は、浮 舟を引き取るための合理化で一貫。 しめさする人やはべらむ。世の人のもの言ひそ、いとあぢきなくけしからずは五どんなことに気がねすべきも のか分らぬ。嫉妬心はないとする。 べるや。されど、それは、さばかりの数にだにはべるまじ」など聞こえたまふ。高貴な女性の常套的な応答。 六薫は、女宮の女房らの、父帝 れう への告げ口を、先回りして封ずる。 造りたる所に渡してむと思したつに、「かかる料なりけり」 〔一三〕薫の準備の様子こ 七浮舟。問題にもならぬとする。 とごとく匂宮に漏れる ^ 薫の新築の家。↓四一ハー注一一八。 など、はなやかに言ひなす人やあらむなど苦しければ、し 九女を迎えるための家だったか。 さ、つレ と忍びて、障子張らすべきことなど、人しもこそあれ、この内記が知る人の親、一 0 世間体を気にして困惑。 = 他にも人はあろうに。事の経 むつ おほくらのたいふ 大蔵大輔なる者に、睦ましく心やすきままにのたまひつけたりければ、聞きっ緯に対する、語り手の評言。 三大内記の妻の親で、大蔵大輔。 一五ずいじん 薫の家司であった。↓一九ハー八行。 ぎて、宮には隠れなく聞こえけり。「絵師どもなども、御随身どもの中にある、 一三大内記は妻を介して知り、そ 一六 とのびと の情報が匂宮の耳に入る。 睦ましき殿人などを選りて、さすがにわざとなむせさせたまふ」と申すに、し ふすま 一四襖などの絵を描く絵師。 し - も ずらうめ めのと 一五薫は大将なので随身は六人。 とど思し騒ぎて、わが御乳母の遠き受領の妻にて下る家、下っ方にあるを、 え こと 一セ

6. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

もろこししらぎ とんどなく、唐土や新羅の舶来品でもって飾りたてたいとれにつけてもやはり嘆いてもかいのない女君のことをお忘 0 ころだったが、身分の限りがあることとてまったくお粗末れになれない。 きようぶく なものだったのである。この御法事が、内々にとのおつも〔一 0 〕薫、小宰相の君と后の宮が御叔父宮の御軽服の間は、 語 思いをかわす 物りであったけれども、守はこのうえもなく立派なのを見る そのままやはりこうしてお里でお過 しきぶきよう 氏 につけても、もしも女君が生きていたのだったら、この自 しあそばしているうちに、二の宮が式部卿になられたのだ 源 分などそばにも寄りつけないようなご運勢だったのだと思 った。重々しいご身分におなりなので、そういつも母宮の ずぎよう きようおう う。宮の上も、誦経の布施をお寄せになり、七僧への饗応おそばへ参上なさることもない。一方この三の宮は、心寂 みかど いつほん もおさせになるのだった。今となって、帝も、大将がこの しく無性に悲しいお気持なので、一品の宮の御所を慰めど ような女人を持っておられたのかとお聞きあそばして、一 ころにしていらっしやる。そこには器量のよい女一房がいる ひと 通りの間柄ではなかったこの女を女二の宮にご遠慮申しあ のに、その顔かたちをとくとごらんになれないのが三の宮 げて、秘密にしていらっしやったのだ、とそのことを不憫 にはご不満である。大将殿が、どうにか人目を忍んで親し 第」 * 一いしよう におばしめすのであった。 くしていらっしやる小宰相の君という人が、その顔だちな たしな ひと 宮と大将と、お二人のお胸のうちは、いつまでも悲しみ ども美しくととのっているし、嗜みのある女であると殿は が去らず、宮は、どうにも抑えがたい恋の高まりの最中に 思っておられるが、その女房は同じ琴をかき鳴らすにも、 つまおとばちおと 絶たれた仲とあっては、じつに堪えがたくせつないお気持爪音、撥音がほかの者よりすぐれていて、手紙を書くのに であるけれども、もともと移り気なご性分なので、この悲 もものを一一 = ロうのにも一趣向を添えて見せるのだった。三の けそう しみが紛れるやもしれぬと、ほかの女に懸想してごらんに 宮も、以前から小宰相をほんとにみごとな女房だと思って なることもだんだん多くなるのであった。一方、あの大将 いらっしやって、例によって、大将との仲に水をさすよ , っ 殿のほうは、このようにお世話をして何やかやとお心を配 なことをおっしやるけれども、小宰相はどうしてほかの女 られ、あとに残された人の面倒をみていらっしやるが、そ房と同じようにそうやすやすと宮に従うことがあろうと、 ( 原文一二一一ハー ) かみ ) なか ふびん

7. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

一簀子の座というよそよそしい ば、簾のもとについゐて、小君「かやうにてはさぶらふまじくこそは、僧都は、 お扱いは受けるはずがないと。 ふみ ニ浮舟が見ると。 のたまひしかーと言へば、尼君そ答へなどしたまふ。文とり入れて見れば、 三上包みの宛名。浮舟をさす。 語 物「入道の姫君の御方に。山より」とて、名書きたまへり。「あらじ」などあらが四僧都の法名で署名してある。 氏 五人違いなどと抗弁もできない。 源ふべきゃうもなし。いとはしたなくおばえて、いよいよ引き入られて、人に顔六自信をもたず内気なお方だが。 セこの手紙は昨晩書いた。 いとうた ^ あなた ( 浮舟 ) の身辺の事情 も見あはせず。妹尼「常に、誇りかならずものしたまふ人柄なれど、 九宇治での浮舟発見以来の経緯。 - ) ころう 一 0 薫が情愛を深く寄せた仲。 て心憂し」など言ひて、僧都の御文見れば、 = 仏の賞賛どころか、かえって 今朝、ここに、大将殿のものしたまひて、御ありさま尋ね問ひたまふに、は仏の責めをあらためてお受けにな らねばならぬこと。浮舟が薫の愛 じめよりありしゃうくはしく聞こえはべりぬ。御心ざし深かりける御仲を背執を処理せずに出家したから。 一ニ薫と結ばれるご縁をそこなわ きたまひて、あやしき山がつの中に出家したまへること、かへりては、仏のす、薫が浮舟を思う愛執の罪を晴 らし申されて。「もとの御契り」は せめ 責そふべきことなるをなん、うけたまはり驚きはべる。いかがはせん。もと一説に、浮舟の前世以来の宿縁。 一三『心地観経』その他の仏典にみ あやま の御契り過ちたまはで、愛執の罪をはるかしきこえたまひて、一日の出家のえる。↓幻一八七ハ , 注 一四やはり功徳のあることを。 くどく 功徳ははかりなきものなれば、なほ頼ませたまへとなん。ことごとには、み一五詳細は私が後日参上の折に。 0 僧都の言う「もとの御契り・ : 」を、 薫との縁と解すると、彼は浮舟に づからさぶらひて申しはべらむ。かつがっこの小君聞こえたまひてん。 還俗を勧奨したことになる。古来 の難問である勧奨か非勧奨かはと と書きたり。 すだれ あいしふ おほむ おほむ そうづ すのこ

8. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

お交しになり、昔の心細くいらっしやった御身の上のお二 れしくも存じあげるのでございますよ。世にまたとなく思 人がほんとにこのうえなくお幸せなものにおなりでござい 慮深いお方のようにお見受けいたします大将殿のお人柄で ましたでしように」と言うにつけても、母君は、自分の娘すから、こうしてお尋ね出し申されましたのも、並大抵の おばしめしではございますまいとこれまでも申しあげてお とてお二人とどこがちがおう、大将殿との申し分のないこ りましたことは、根も葉もない話ではございませんでした の宿縁を全うされることになれば、けっして負けをとるこ でしよう」などと一一 = ロう。母君は、「さきざきのことは分り とはあるまいに、などと思い続けて、「これまでいつもこ ませんけれど、ただ今のところは、こうして大将殿がお見 の君のことにつきましては、何かと心配ばかりしてきまし たが、そうした事情が多少は安心のゆくようになりまして、捨てにならぬように仰せくださいますにつけても、ただあ なた様のお引合せをありがたくお思い出し申さずにはいら こうして京に引き取られるようになりましたので、この私 ふびん がこちらに伺うことも、これからは是が非にもとわざわざれません。宮の上がもったいなくも不憫にお思いください こ , っしてお目にか ましたが、それもこちらでご遠慮申さねばならないことな 思いたつよ , つなこともごギ、いますまし どがつい持ちあがってまいりましたので、寄るべない肩身 かる折々に、昔のこともゆっくりとお話し申しあげもし、 の狭い身の上なのだと、心を痛めたりしておりまして」と また承りとうございます」などと話しかける。尼君は、 言う。尼君が笑って、「その宮が、まったく人騒がせなく 「この私は忌まわしい尼の身の上と深く自覚しておりまし らい好色なお方でいらっしやる由ですから、気のきいた若 たので、女君にお目にかかってこまかくお話し申しあげる 舟 のもどんなものかと遠慮申しあげてこれまで過してまいり い女房はいかにもお仕えしにくい様子です。『たいがいは まことにご立派なお人柄ですけれど、そちらの筋から宮の ましたが、ここをお見捨てになって京に移っておしまいに 浮 なりましたら、この私はさそ心細いことと思われますけれ上が身分をわきまえず無礼な、とおとりになるのがやりき たいふ 7 ど、こうしたお住いでは万事気がかりなことばかりとお察れないことです』と、大輔の娘が申しておりました」と言 うにつけても、女君は、やはりそうであったか、女房たち し申しあげておりますこととて、お移りのことは心からう ひ

9. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

るべきを、ただ今は、、ゝ。、かばかりも、人に声聞かすべきものとならひた一親王の姫君ともあろうお方が。 男に直接応答するような身分に下 かたち まひけんとなまうしろめたし。容貌もいとなまめかしからむかしと、見まほし落した無残さを思う。 ニ匂宮の心を乱すことになろう。 語 ひとまれ 物きけはひのしたるを、この人そ、また、例の、かの御心乱るべきつまなめると、三すぐれた女は稀、の意。 氏 四宮の君こそ、この上ない身分 の父式部卿宮が愛育した姫君なの 源をかしうも、ありがたの世やとも思ひゐたまへり。 に。以下、薫の心中。 四 「これこそは、限りなき人のかしづき生ほしたてたまへる五八の宮をさす。 〔一三〕薫、宇治のゆかり 六宇治の山里で育った姫君たち。 を想いわが人生を詠嘆 姫君、また、かばかりそ多くはあるべき。あやしかりける大君と中の君。難点がないとする。 セこの、頼りない、思慮がない、 五 ひじり ひと などと思われる女。浮舟をさす。 ことは、さる聖の御あたりに、山のふところより出で来たる人々の、かたな ^ 八の宮の一族。 九どうしてか恨めしい結果に終 るはなかりけるこそ。この、はかなしや、軽々しゃなど思ひなす人も、かやう った縁。大君とは死別、中の君は のうち見る気色は、いみじうこそをかしかりしか」と、何ごとにつけても、た他人の妻、浮舟は行方不明。 一 0 成虫になってから短命なので、 八 だかの一つゆかりをそ思ひ出でたまひける。あやしうつらかりける契りどもを、古来、はかないものの象徴。 = 宇治の姫君三人との邂逅を、 かげろふ つくづくと思ひつづけながめたまふ夕暮、蜻蛉のものはかなげに飛びちがふを、「蜻蛉」のはかなさとしてかたどる。 「ありと見て頼むそかたきかげろ ゅ 薫「ありと見て手にはとられず見ればまた行く方もしらず消えしかげろふふのいっとも知らぬ身とは知る知 る」 ( 古今六帖一 ) 。 一ニ「たとへてもはかなきものは あるかなきかの」と、例の、独りごちたまふとかや。 世の中のあるかなきかの身にこそ ありけれ」 ( 源氏釈 ) など。 ひと けしき かろがろ へ

10. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

源氏物語 398 〔一〕薫、横川に僧都を大将は山におのばりになると、毎月野のあたりにあなたの領有しておられる家がございます 訪い、噂を確かめるおさせになるように経典や仏像の供か」とお尋ねになると、僧都は、「仰せのとおりございま よかわ 養をさせなさる。その翌日には、横川におまわりになったす。まことに粗末な住いでして。拙僧の母であります年老 すみか そうず いた尼がおりますが、京には、これといって適当な住処も ので、僧都は驚いて恐縮申される。大将は何年も前からこ やまごも ございませんし、こうして拙僧が山籠りをしております間 の僧都と御祈疇などのことでお知合いでいらっしやったの は、夜中でも、早朝でも見舞ってやることができようと、 だが、格別に親しい間柄ではなかったのを、このたび、一 ばん 心がけてのことでございます」などと申しあげなさる。大 品の宮のご病気の際に僧都が奉仕なさったときに、なんと もすぐれた験力をお示しになったことを、目のあたりにご将は、「そのあたりには、つい近ごろまでは人家が多かっ たとのことですが、今は、まったく人少なにさびれていく らんになってからは、このうえもなくご尊崇になられて、 ようですね」などとおっしやって、いま少し僧都のそばに これまでよりも多少深いご縁を結んでおられたのだから、 このように重々しい地位にいらっしやる大将殿が、こうし近寄り、声をひそめて、「まことにあやふやな心地もいた しますし、また、お尋ね申しあげるについては、どういう てわざわざお出向きになったとは、と下にも置かずおもて ねんご いきさつがあったのかと不審にお思いになるにちがいあり なし申される。懇ろにあれこれの世間話などしていらっし ませんので、あれやこれや遠慮もされるのでございますが、 やるので、御湯漬などをおさしあげになる。 その山里に、この私が世話をしてやらねばならない女が人 供人などの騒ぎが少し静まったところで、大将が、「 4 きとう ゅめのうき 夢浮橋 ひと