確か - みる会図書館


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1. リング

296 浅川と竜司は熱海の駅で別れた。浅川は山村貞子の遺骨を差木地の親戚の元に届け、彼 おとさた らの手で供養してもらうつもりであった。三十年近くも音沙汰のなかった従姉妹の娘の遺 骨を今頃になって持ってこられても、彼らは迷惑するだけだろう。しかし、モノがモノで ある以上、放置するわけにもいかない。身元不明ならば、無縁仏として埋葬してもらう手 もあるが、山村貞子とわかっているからには差木地で引き取ってもらうほかない。時効は とっくに過ぎているし、今さら殺人を持ち出しても面倒になるだけなので、差木地には自 殺らしいということで話を通すつもりでいた。浅川は遺骨を渡してすぐ東京に戻りたかっ レンタカーを熱 たが、あいにくと船の便がなく、今からだと大島で一泊せざるを得ない。 海港に置いていく以上、飛行機を使うとかえって面倒くさくなる。 「骨を届けるくらいおまえひとりでもできるよな」 熱海駅の前で車から降りる時、竜司はばかにしたように言った。山村貞子の遺骨はこの ふろしき 時ビニール袋ではなく、黒い風呂敷に包まれてリヤシートに置かれていたが、確かにこん な小さな包みを差木地の山村に届けるくらい子供でもできる。要は、彼らに受け取らせる ことであった。拒まれて、持っていきどころがなくなると、やっかいなことになる。身寄 りの者によって供養されなければ、オマジナイの実行は完全に終了しないような気がした。 「山村貞子は、一体、なにを産んだのだ ? 」

2. リング

176 封状態のままで送り返してもらう方法であゑこれならば、相手が遠隔地にいても能力を 試すことができる。しかも、念写能力というのはかなり基本的な力であって、この能力を 持つ者は同時に予知あるいは透視能力を持っことが多い。一九五六年、三浦博士は出版社 や新聞社にいる教え子たちの力を借りて、全国から広く能力者を募集し始めた。教え子た うわさ ちはネットワークを張り巡らし、能力のありそうな人間の噂を聞きつけると、それを三浦 博士に報告した。しかし、送り返された封書を調べても、確かに能力ありと思われたのは 全体の約一割に過ぎず、ほとんどのフィルムは封をじようずに切って擦り替えられていた。 明らかにトリックとわかるものはその場で破り捨て、どちらとも疑わしいものはなるべく 保管することにしたのだが、その結果ご覧の通り収拾のつかない程のコレクションが出来 上がってしまった。その後、マスメディアの発達と教え子の数の増加により、このネット ワークはより完備され、データの数は年を追うごとに増え、博士の亡くなる年まで続いた のだ。 「なるほどね : : : 」浅川はつぶやいた。「このコレクションの意味はわかった。でも、こ の中にオレたちが追っている人間の名前があると、どうしてわかるんだい ? 」 「確実にこの中にあるとは言ってないぜ。ただ、可能性として極めて強いってだけだ。い やっ いか、あれだけのことをした奴なんだ、おまえだってわかるだろ、念写のできる奴はまあ 実際何人かいるだろう。しかしなあ、なんの装置も使わず。フラウン管に映像を送り込める 超能力者はそうザラにはいねえ。超ド級の力だ。それたけの能力者となると、普通に生活

3. リング

まれない気持ちになった。自分自身に対するごうごうたる非難 : : : 、そんな気がしたのだ。 画面が変わると、木製の台の上に、一台のテレビがあった。回転式のチャンネルを持っ たかなり古い型の四型で、うさぎの耳の形をした室内アンテナを木枠でできたキャビネッ トに乗せている。劇中劇ならぬ、テレビの中のテレビ。中のテレビにはまだ何も映っては いなかった。電源が入っているらしく、チャンネル横のパイロットラン。フが赤く灯ってい る。画像の中の、テレビ画面がジジッと揺れた。元に戻り、またジジッと画面が乱れる。 その間隔が短くなったかと思うと、。ほんやりとではあるが、ひとつの文字が浮かんだ。ど うにか「貞」と読める。貞の字は時々乱れ、歪んで、貝という字になったりしながら消え ぞうきんふ ていった。チョークで書かれた黒板の文字が、濡れ雑巾で拭き取られるような消え方であ っこ 0 見ているうちに、浅川は妙な息苦しさに襲われていった。心臓の鼓動が聞こえ、動脈を 流れる血の圧迫を感じる。それから、匂い、感触、舌を刺す甘酸つばい味。時々ふと思い 出したように現れる映像と音以外の媒体が、どういう仕組みで五感を刺激してくるのかと、 不思議に思う。 急に、男の顔が現れた。これまでの映像と違い、この男には確かに生ぎているという生 命の鼓動があった。見ているうちに嫌悪感を覚えた。なぜ自分が嫌悪感を抱いてしまうの かわからない。特に醜男というわけでもなかった。額がわずかに後退してはいるが、どち らかといえばいい男の部類に入る。ただ、目に危険な色を宿している。獲物を狙う獣の目。 ゆが ねら とも

4. リング

218 たという。ところが、小角の示した予知能力は文武の世を治める権力者たちを恐れさせ、 彼は社会を惑わす罪人としてここ伊豆大島に流されてしまった。今から千三百年近くも前 どうくっ の話である。小角は海際の洞窟にこもってますます修行を積み、島人たちに農業や漁業を 教えその人徳を敬われたが、その後許され、本土に戻り修験道を開くことになる。彼が大 島に居た期間は三年ほどとされているが、その間に鉄の下駄をはいて富士山にまで飛んだ という伝説も残っている。島人の彼を慕う気持ちは強く、行者窟は島内一の霊場となり、 行者祭と呼ばれる祭りは毎年六月十五日に行われていた。 ところが太平洋戦争の終戦直後、神仏に対する政策の一環として、占領軍は、行者窟に 祭られた役小角の石像を海中に投棄してしまう。この瞬間を志津子は見逃さなかったらし い。小角への信仰の厚い志津子はミミズ鼻の岩陰に隠れ、米海軍の巡視艇から投げ込まれ たた た石像の位置をしつかりと頭の中に叩き込んだのだった。 釣り上げるのが行者様の石像と聞いて、源次は耳を疑った。漁師としての腕は確かだっ たが、石像を釣り上げた経験はこれまでに一度もない。しかし、密かに思いを寄せる志津 子の頼みをむげに断れるはずもなく、ここはぜがひでも彼女に恩を売ろうとばかり、夜の 海に舟を出した。なによりも、こんなきれいな月夜にふたりだけで海に出られるのはとて も素晴らしいことと思われた。 行者浜とミミズ鼻のふたところに火をたいて目印とし、沖へ沖へとこぎ出した。ふたり ともこのあたりの海は熟知していた。海底がどうなっていて、深さがどのくらいなのか :

5. リング

234 「ま、私のこと忘れてる、いやあね とちゃちやを入れたが、浅川は相手にしないで続けた。 「まだ他にも手はあるでしよ。研究生以外に山村貞子の消息を知っている人がいるかもし れないし。ねえ、家族の命がかかってるんです」 「そうとも限らないだろ 「、ん、どういうことフ・ 「締め切りを迎えても、おまえさんが生きてるってことさ」 「信じてないんですね . 浅川は目の前が真っ暗になる思いであった。 「百パーセント信じろってほうが、無理な話さ」 「いいですか、吉野さん、どう一言えばいいんだ、どうすればこの男を説得できる ? 「オレ だってねえ、もちろん半分も信じちゃいませんよ。ばからしい、なにがオマジナイだ。で もね、 しいですか、仮に、六分の一の確率でこれが真実だとして、あなたは、六発中一発 けんじゅう の割合で弾丸の飛び出す拳銃をこめかみに当て、その引き金を引くことができますか。あ なたは、あなたの家族をそんな危険なロシアンルーレットの賭けに巻き込むことができま すか。できないでしよ、銃口を下におろし、できれば拳銃ごと海の中にでも投げ込もうと するのが当り前だろ」 浅川は一気にまくしたてた。 / 後ろのほうで竜司が、「オレたちはばかだ、ばかだ」とわ

6. リング

135 行社のであった静と知り合った。彼女のフロアーは三階で浅川は七階、時々エレベー ターで顔を合わす程度であったが、たまたま取材のための周遊券を取りに行ったおり、担 当の者がいなくて静が応対したのだ。この時彼女は二十五歳、旅行が好きでしかたがない せんぼうまなざ という静は、取材であちこち飛び回る浅川に羨望の眼差しを向けたのだが、彼はその目に 初恋の女性の面影を見いだした。互いの顔と名前を知ったことにより、エレベーターの中 で出会えば挨拶を交わすようになり、ふたりの仲は急速に深まった。二年後、ふたりは家 族の反対もなくすんなりと結婚した。実家に頭金を援助してもらって北品川にのマ ンションを購入したのは結婚する半年前のことだった。地価高騰を予想し、あわてて結婚 前に新居を購入したわけではない。ただ単に、なるべく早く口ーンを払い終わろうとした だけである。もしこの時期を逃していたら、浅川夫婦は永久に都心部に住居を構えること はできなかっただろう。マンションは一年後に約一一一倍に値上がりしたのだ。しかも、毎月 のローンは賃借りした場合の半分以下に過ぎない。狭い狭いと常に文句を言ってはいるが、 この財産によってふたりとも大きな余裕を得ていることは確かだった。残してやれるもの グがあってよかった、と浅川は思う。生命保険の受け取りを残りのローンにあてれば、ここ ンはそっくりそのまま妻と娘のものになる。 ・ : 死亡時に受け取る生命保険の額は確か一一千万だと思ったけれど、ちゃんと確認して おく必要があるな。 も、つろう 浅川は、朦朧とした頭で金額をあちこちに振り分け、アドバイスできることがあったら あいさっ

7. リング

確かに、カーテンを引く前に、サッシのガラス戸をしつかりと締めたはずであった。記 憶に間違いはなかった。震えがとまらない。理由もなく、彼の脳裏に、都会の超高層ビル の夜景が浮かんだ。ビルの壁面を彩る碁盤目状の窓明かりの模様は、ついたり消えたりし、 ある文字になろうとしていた。ビル自体が巨大な長方形の墓石とすれば、窓の明かりによ って形造られる文字は墓碑銘に見える。そのイメージが消えてもなお、白いレースのカー テンはふわふわと舞っていた。 浅川はほとんど半狂乱になって、押し入れからバッグを取り出し、荷物をまとめた。こ れ以上、一秒たりともここに居ることはできない。 : だれがなんと言おうともだ。これ以上ここに居たら、オレの命は一週間どころか一 晩で終わってしまう。 彼はジャージとトレーナーのまま、玄関に降りた。外に出る前に理性を働かせる。ただ 単に恐怖から逃れるだけでなく、自分が助かる方法を考えよ ! 瞬間に湧き上がる生存へ の本能。浅川はもう一度部屋に戻り、ビデオテープの取り出しボタンを押した。。ハスタオ グルでビデオテープをぐるぐる巻きにして、バッグの中に入れる。手がかりはこのテー。フだ ンけなんだから、置いていくわけこよ 冫をいかなかった。連続したシーンの謎が解ければ、ひょ っとして助かる方法も見つかるかもしれない。しかし、なんと言っても、期限はたったの 一週間。時計を見た。十時八分を指している。見終わったのは、確か、十時四分くらいだ った。時間は、のちのち重要な意味を持つ。浅川は、ルームキイをテーブルの上に乗せ、

8. リング

288 十月十九日金曜日 管理人室からの電話で、浅川は眠りから覚めた。午前十一時がチェックアウトの時間で すが、もう一泊されるんですかという催促の電話であった。浅川は、受話器をつかんだま ま枕もとの腕時計に手を伸ばした。腕がだるく、持ち上げるのさえおっくうであった。ま だ痛くはなかったが、明日になれば激しい筋肉痛に悩まされるだろう。メガネをかけてな いため、目の前に持ってこないと時間を読むことができない。十一時を数分過ぎている。 とっさ 浅川はなんと答えるべきか咄嗟に思いっかなかった。ここがどこなのかすらわからないの 0- 」 0 「 : : : 延泊されますか」 いらだ 管理人は苛立ちを押さえて聞いた。すぐ横で竜司のうめき声がする。自分の部屋でない ことは確かだ。世界の色が知らぬ間に塗り替えられてしまった。過去から現在、そして未 第四章波紋

9. リング

154 ・ : 待てよ、なにかがヘンだそ。 どこがどうおかしいのか浅川にはわからない。しかし、第六感は働くものだ。ビデオテ ープを手にした時の、ヘンだなという気分が思い過ごしでないという確信は徐々に高まっ ていく。ほんのちょっとした変化だった。 : どこだ ? 変わったところはどこだ ? 動悸がする。 : 悪いことなんだ。事態をよくする方向へのナニかではない。思い出せ、よく思い出 すのだ。オレが最後にこれを見終わった時、確かにオレはテープを巻き戻した。しかるに、 今、巻かれたテープの厚さは左側が二とすれば右側は一。ちょうど、録画された映像が終 わったところあたりで止まったまま、巻き戻してはない。だれかが見たのだ。オレの留守 中・ : 浅川はべッドルームに走った。静と陽子は折り重なるように眠っている。静を仰向けに なおすと、浅川はその肩を揺らした。 「おい、起きろ。おい、静 ! 」 浅川は陽子まで起こしてしまわないよう声を低めた。静は顔を不機嫌そうに歪ませ、体 を右に左にくねらせる。 「おい、起きろってば ! 」 浅川の声はいつもと違った。 どうき ゆが

10. リング

吉野は切らずに待っていた。「吉野さん、劇団の線はひとまずおいてください。それよ り、至急調べてもらいたいことが出てきました。南箱根パシフィックランドのことはもう お話ししたと思いますけど : : : 」 「ああ、聞いている。リゾートクラ。フだろ 「ええ、僕の記憶では、確か十年程前にゴルフ場ができ、それに付随するかたちで、現在 いいですか、調べてほしいのは、南箱根パシ の施設が整っていったと思うんですが : フィックランドができる以則、そこに何があったのかということ 吉野が走らせるべンの音が聞こえる。 「何があったって、おまえ、ただの高原じゃねえのか」 「そうかもしれない、でも、そうじゃないかもしれない そで 竜司がまた浅川の袖を引いた。「それと、配置図だ。いいか、パシフィックランドがで きる前、あの地に他の建物が建っていたとしたら、その建物の配置図も手に入れるよう、 電話の主に言ってくれ 浅川はその通り吉野に伝え、受話器を置いた。絶対に手がかりを掴んでくれと、強く念 じながら。そう、だれにだって念じる力はあるのだ。 十月十八日木曜日 つか