編集長 - みる会図書館


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1. リング

わかりきっていた。編集長に全てを打ち明け、しばらくの間仕事からはずしてもらうのが 得策と思われた。編集長の協力を得られれば、それに越したことはない。問題は、編集長 がソレを信じるかどうかだ。また、例の偶然を持ち出して、鼻先で笑うに決まっている。 証拠のビデオがあっても、最初から否定してかかればあらゆるものは自分の論理に従って : おもしろい、と浅川は思う。 配列され、納得のいくように変形されてしまう。しかし、 一応、ブリーフケースに入れてビデオを持ってきているが、もしこれを編集長に見せれば、 どんな反応をするだろうかと。いや、それ以前に、彼はこれを見ようとするかどうか。昨 夜遅く吉野に事の次第を話したところ、彼は信じた。そして、その言葉を裏づけるように、 絶対にビデオは見たくない、見せないでくれとも言った。その代わり、できるだけのこと は協力しようとも : : : 。吉野の場合、信じるべき土壌があったことは確かだ。芦名の県道 沿いの車の中から辻遥子と能美武彦の変死体が発見された時、吉野はいち早く駆けつけて 現場の空気に触れている。化け物以外にこんなことは為し得ないとわかっているはずなの に、捜査員のだれもがそのことを言い出さない、あの息詰った雰囲気。もし吉野が、あの グ時の空気に触れていなかったら、こうすんなりと信じたかどうかわからない。 とにかく、浅川は今、一個の爆弾を抱えていた。編集長の目の前でチラつかせて威嚇す れば、そこそこの効果は上げるはずであゑ単なる興味という点からも、浅川は使ってみ 1 たいという誘惑に駆られるのだった。

2. リング

197 に調べ上げることができただろう。自分は東京に残り、竜司からの連絡を待って吉野とふ たりで取材に回ったほうがずっと効率がよかったに違いない。 「やるだけはやってみる。しかしよお、ちょっと、人手が足りなくないかい ? 」 「小栗編集長に電話して、何人か回してもらうよう頼んでみますよ」 「ああ、そうしてくれ」 をししが、浅川には自信がなかった。いつも編集部員が足りないと・ほゃいている 言ったま、 編集長が、こんなことに貴重な人員をさくとは思えない。 「さて、母親に自殺された貞子はそのまま差木地に残って母の従兄弟の世話になることに なった。その従兄弟の家というのが現在民宿をやっていて : : : 」 浅川は、竜司と共に今まさにその民宿に泊まっていることを言おうとしてやめた。余分 なことと思われたからだ。 「小学校四年の貞子は翌年すぐ、三原山の噴火を予言して、校内で有名になります。いい ですか、一九五七年、三原山は貞子の予一一一口通りの日時に噴火しているんですー グ「そいつは、すごい。こういう女がいれば、地震予知連なんていらねえな」 うわさ ン 予一一一一口が的中したという噂が島中に広まり、それが三浦博士のネットワークにひっかかっ リたことも、やはり、ここでは言う必要もないだろう。ただ、ここで、重要なのは : 「そのことがあって以来、貞子はよく島の人々から予言してくれるよう頼まれた。でも、 彼女は決してそれに答えたりはしなかった。まるで自分にそんな能力はないとばかり : とこ

3. リング

態が発生してしまったのではないか。もちろん、この説明が全てを納得させるものではな いことぐらい、小栗はよく知っている。しかし、小栗はなんとか合理的な理屈をつけ、事 態に対処しなければならなかった。 以後、小栗編集長以下の編集部員は、送られてくる郵便物を開封することなく焼却炉に 運んだ。そして、世間に対してはまったくいつもとかわらない態度をとった。もちろん、 オカルトに関する内容はなんであれシャットアウト、無関心を決め込んだ。そのせいかど みぞう うか、未曾有の投稿熱は徐々に引いていく気配を見せた。そんな時、浅川は愚かにも、消 えかかった火に油を注ぐ行為に走りかけたのだ。小栗はまじまじと浅川の顔を見る。 ・ : 二年前の痛手をもう一度繰り返すつもりかい ? 「おまえさんねえ」 小栗はなんと言うべきか困ると、必ず相手のことをおまえさんと呼ぶ。 「編集長が何を考えているのか、僕にはよくわかりますよ」 「いや、まあ、おもしろいことはおもしろい。一体ここから何が飛び出すか、わからねえ もんな。でも、よお。飛び出すのが、また例の奴だったら、チト困るんじゃないかい 例の奴。二年前のオカルト。フームが人為的なものであったと、小栗はまだ信じている。 それと、憎しみ。多大な迷惑を被った故、オカルト的なもの全てに対する偏見を彼はまだ 持ち続けていた。 「ⅱ。こ、 ことさら神秘性に触れようとは思ってませんよ。こういった偶然はあり得ない、 やっ

4. リング

リング らねえ。 「ようするに個人差じゃねえのか。数学の問題が解けないで頭かきむしる奴もいれば、 煙草をふかす奴もいる。腹に手をあてる奴だっているかもしれねえ」 小栗は言いながら椅子を回転させた。 「とにかく、今の段階では、まだ何も言えねえじゃねえか。載せるスペースはないよ。わ かってるだろ、二年前のことがあるからな。こういった類のことにはうかつに手を出せね え。思い込みで書こうと思えば、書けてしまうものさ そうかもしれない。本当に編集長の言う通り、ただ単に偶然が重なっただけかもしれな 。しかし、どうだろう、最終的に医者は首をかしげるのみであった。心臓発作で頭の毛 、こ、医者は顔をしかめて「うー をごっそりと抜いてしまうことがあるのですかというし冫 うな んと唸っただけであった。その顔は告げている、少なくとも彼の診た患者にそういった 例がなかったことを。 「わかりました」 今は素直に引き下がる他なかった。このふたつの事故の間にもっと客観的な因果関係が 発見できなければ、編集長を説得するのはむずかしい。もし、何も発見できなかったら、 その時は黙って手を引こう、浅川はそう心に決めていた。 やっ

5. リング

124 いします。わかるでしよ、僕の命がかかってるんです」 小栗は両目をかたく閉じていた。 「記事にするつもりかい ? 」 「これでも記者ですからねえ : 一応事実は書きとめておきます。僕と高山竜司の死に よって、すべてが闇に葬られるわけこよ、 冫をしかないでしよう。もちろん、載せる載せないの 決断は、編集長にお任せしますが」 小栗は大きくふたつうなずく。 「ま、いいだろう。トップインタビ = ーはヒラメに任せるとするか」 浅川は軽く頭を下げ、ビデオテープをブリーフケースに戻そうとしたが、しまい込む前 にちょっといたずら心を起こして、もう一度小栗の前にテープを差し出した。 「コレ、信じたんでしょ ? うな 小栗は「うーん」という長い唸り声を上げたまま、首を横に振るだけであった。信じる とも、信じないとも言い切れない、 まあ、そういったと とにかく一抹の不安がある : ころだろう。 「僕も編集長と同じ気分ですよー 浅川はそう言い残して立ち去った。小栗は後ろ姿を見ながら、もし彼が十月十八日を過 ぎても生きていたら、その時はこの目でビデオを見てやろうかと思う。しかし、その時が くれば、やはり体が拒否するかもしれない。「ひょっとしたら」という不安はいつまでた

6. リング

122 小栗編集長の顔から、いつもの人をこばかにしたような笑いが消えていた。机に両肘を つき、目をせわしなく動かして、もう一度浅川の言った一一 = ロ葉を吟味する。 : 八月二十九日の夜、ビラ・ロッグキャビンにて間違いなくあるビデオを見たと思わ れる四人の男女が、ビデオの言葉通りちょうど一週間後に謎の死を遂げていゑそれ以後、 ビデオは管理人の目にとまって管理人室に持ち込まれ、この浅川に発見されるまでおとな しく眠っていた。ところが、浅川に発見され、こいつは見てしまったのだ。こいつが五日 後に死ぬ ? 信じられるか、そんなことが。しかし、四人の死は紛れもない事実、これを どう説明する ? 論理的な筋道は ? 小栗編集長を見降ろす浅川の顔には滅多に見られない優越感が漂っていた。経験上、 栗が今どんなことを考えているのかおおよその見当はつく。浅川は、ト / 栗の思考がデッド エンドに陥った頃を見計らって、ブリーフケースからビデオテープを取り出した。もった いぶった、ロイヤルストレートフラッシ = を開けるような手つきがいかにも芝居がかって 「もしよければ、コレ、ごらんになりますか ? 」 浅川は、窓際に置かれたソフアの横のテレビを目で示しながら、挑発と余裕の笑みを浮 のど かべて言った。ごくっとつばを飲み込む音が、小栗の喉の奥から聞こえる。小栗は窓際に は目もくれず、机の上に置かれた真っ黒なビデオテープを見つめたままだ。そして、正直 に自分の心に問うていた。 ひじ

7. リング

小栗編集長は、浅川の報告を聞きながら顔をしかめていた。ふっと二年前の浅川の姿が 頭をよぎったからだ。狐に憑かれたように昼夜ワープロに向かい、取材で得た以上の情報 を盛り込んで教祖影山照高の半生を克明に綴っていった、あの時の異常さ。本気で精神科 の医者に診せようとしたぐらい、鬼気迫るものがあった。 ちょうど、時期が重なったのも悪い。二年前、空前のオカルトブームが出版界を飲み込 み、編集室には心霊写真の山が築かれた。一体世の中どうなってるんだと思わせる程、あ らゆる出版社に送りつけられた幽霊譚や心霊写真と称するマヤカシ物の山。世界の仕組み 木村はうれしそうに言った。なぜか、そうするのが自分の使命に思われる。 「後日お電話しますー 「電話番号 : : : 」 「あ、大丈夫。会社の名前メモしましたから。すぐ近くなんですね」 ちゅうちょ 浅川は車から降り、ドアを閉めようとしてしばし躊躇した。確認することに、いい知れ ぬ恐布を感じたのだ。変なことに首を突っ込まないほうがいいんじゃないか、またあの時 の二の舞だそ。しかし、こうまで興味をそそられた以上、黙って見過ごすことは決してで きない。わかりきっている、そんなことは。浅川は、もう一度木村に聞いた。 「その男、確かにヘルメットを取ろうともがき苦しんでいたんですね たん つづ

8. リング

はある程度判読可能と自負していた小栗ではあるが、あの現象だけにはどうしても納得の みぞう いく答えを見つけることがでぎない。それほど、まさに常軌を逸して、投稿者は未曾有の 数に上った。誇張でもなんでもなく、一日に送られてくる郵便物は編集室を埋め尽くし、 しかも、その全てがオカルト的な内容のものであった。新聞社だけが投稿の的になった のではない。日本中の出版社という出版社は同時に嵐に巻き込まれ、理解の範囲を越えた 現象に苦しんだ。時間のロスを覚悟で調査した結果、投稿者は一人で幾通も出しているわ ′」と けではなく、当然の如く匿名がほとんどであった。ざっと概算しても、約一千万もの人間 がこの時期、どこかの出版社に手紙を送ったことになゑ一千万 ! この数字に出版界は 震えた。投稿の内容にそれ程恐いものはなかったが、この数字にだけは心底震えたのだ。 つまり、十人集まればそのうちの一人は投稿の経験者ということになるが、出版に携わる 人間やその家族、友人に当っても、だれ一人投稿の経験者を見つけることができないのだ。 一体、どうなっている ? 手紙の山はどこからやって来るんだ ? 編集者は皆首をひねっ た。そして、回答を見つけられないまま、波は引いていった。約半年に及ぶ異常事態の後、 夢であったかのように編集室は正常に戻り、この種の手紙は一通も届かなくなったのだ。 グ ン新聞社が発行する週刊誌として、この現象にどう対処するか、小栗は明確な態度でこれ よ、徹底した無視。ひょっとして、この現 に臨まなければならなかった。彼の下した結論を 象の火付け役を果たしたのは、小栗が常々クダラナイと評しているところの雑誌ではない だろうか。写真や経験談を掲載することによって読者の投稿熱をあおった結果、異常な事

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角川文庫発刊に際して 角川源義 第二次世界大戦の敗北は、軍事力の敗北であった以上に、私たちの若い文化力の敗退であった。私たちの文 化が戦争に対して如何に無力であり、単なるあだ花に過ぎなかったかを、私たちは身を以て体験し痛感した。 西洋近代文化の摂取にとって、明治以後八十年の歳月は決して短かすぎたとは言えない。にもかかわらず、近 代文化の伝統を確立し、自由な批判と柔軟な良識に富む文化層として自らを形成することに私たちは失敗して 来た。そしてこれは、各層への文化の普及滲透を任務とする出版人の責任でもあった。 一九四五年以来、私たちは再び振出しに戻り、第一歩から踏み出すことを余儀なくされた。これは大きな不 幸ではあるが、反面、これまでの混沌・未熟・歪曲の中にあった我が国の文化に秩序と確たる基礎を齎らすた めには絶好の機会でもある。角川書店は、このような祖国の文化的危機にあたり、微力をも顧みず再建の礎石 たるべき抱負と決意とをもって出発したが、ここに創立以来の念願を果すべく角川文庫を発刊する。これまで 刊行されたあらゆる全集叢書文庫類の長所と短所とを検討し、古今東西の不朽の典籍を、良心的編集のもとに、 廉価に、そして書架にふさわしい美本として、多くのひとびとに提供しようとする。しかし私たちは徒らに百 科全書的な知識のジレッタントを作ることを目的とせず、あくまで祖国の文化に秩序と再建への道を示し、こ の文庫を角川書店の栄ある事業として、今後永久に継続発展せしめ、学芸と教養との殿堂として大成せんこと を期したい。多くの読書子の愛情ある忠言と支持とによって、この希望と抱負とを完遂せしめられんことを願 一九四九年五月三日

10. リング

本作品は 1991 年 6 月に小社より単行本 として刊行したものの文庫化です。 ( 編集部 )