置い - みる会図書館


検索対象: リング
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1. リング

122 小栗編集長の顔から、いつもの人をこばかにしたような笑いが消えていた。机に両肘を つき、目をせわしなく動かして、もう一度浅川の言った一一 = ロ葉を吟味する。 : 八月二十九日の夜、ビラ・ロッグキャビンにて間違いなくあるビデオを見たと思わ れる四人の男女が、ビデオの言葉通りちょうど一週間後に謎の死を遂げていゑそれ以後、 ビデオは管理人の目にとまって管理人室に持ち込まれ、この浅川に発見されるまでおとな しく眠っていた。ところが、浅川に発見され、こいつは見てしまったのだ。こいつが五日 後に死ぬ ? 信じられるか、そんなことが。しかし、四人の死は紛れもない事実、これを どう説明する ? 論理的な筋道は ? 小栗編集長を見降ろす浅川の顔には滅多に見られない優越感が漂っていた。経験上、 栗が今どんなことを考えているのかおおよその見当はつく。浅川は、ト / 栗の思考がデッド エンドに陥った頃を見計らって、ブリーフケースからビデオテープを取り出した。もった いぶった、ロイヤルストレートフラッシ = を開けるような手つきがいかにも芝居がかって 「もしよければ、コレ、ごらんになりますか ? 」 浅川は、窓際に置かれたソフアの横のテレビを目で示しながら、挑発と余裕の笑みを浮 のど かべて言った。ごくっとつばを飲み込む音が、小栗の喉の奥から聞こえる。小栗は窓際に は目もくれず、机の上に置かれた真っ黒なビデオテープを見つめたままだ。そして、正直 に自分の心に問うていた。 ひじ

2. リング

吉野は切らずに待っていた。「吉野さん、劇団の線はひとまずおいてください。それよ り、至急調べてもらいたいことが出てきました。南箱根パシフィックランドのことはもう お話ししたと思いますけど : : : 」 「ああ、聞いている。リゾートクラ。フだろ 「ええ、僕の記憶では、確か十年程前にゴルフ場ができ、それに付随するかたちで、現在 いいですか、調べてほしいのは、南箱根パシ の施設が整っていったと思うんですが : フィックランドができる以則、そこに何があったのかということ 吉野が走らせるべンの音が聞こえる。 「何があったって、おまえ、ただの高原じゃねえのか」 「そうかもしれない、でも、そうじゃないかもしれない そで 竜司がまた浅川の袖を引いた。「それと、配置図だ。いいか、パシフィックランドがで きる前、あの地に他の建物が建っていたとしたら、その建物の配置図も手に入れるよう、 電話の主に言ってくれ 浅川はその通り吉野に伝え、受話器を置いた。絶対に手がかりを掴んでくれと、強く念 じながら。そう、だれにだって念じる力はあるのだ。 十月十八日木曜日 つか

3. リング

「よろしいですか ? 女の声が戻り、十一桁の番号をふたっ告げた。市外局番がやけに長い。浅川は素早く書 ぎ取る。 「念のため聞くけれど、それ以外の施設はどこにあるの ? 「浜名湖と、三重県浜島町に同じような総合レジャーランドがございますー 遠すぎる ! 高校生や予備校生にそんなところまで行く軍資金はないだろう。 「なるほど、名前のとおり、太平洋に面してるってわけだ」 女はその後、。 ( シフィック・リゾートクラブの会員になると、どれほど素晴らしい恩恵 に浴することができるか、とくとくと説明を始めた。浅川は適当に聞いて、遮った。 「わかりました、あとはパンフレットを見ます。住所一言うから送ってください」 浅川は住所を告げて受話器を置いた。金の余裕ができたら会員になってもいいなと、女 の説明を聞くうちに浅川は本当にそんな気になっていた。 陽子が寝入って一時間ばかり過ぎ、足利の両親も帰っていった。静は台所に立ち、ふと グ物思いにふけりがちの姉に代わって食器を洗った。浅川も居間から食器を運ぶのをかいが ンいしく手伝った。 「ねえ、どうしちゃったのよ。あなた、ヘンよ」 静は洗い物の手を休めずに言う。 「陽子を寝かしつけたり、台所を手伝ったり。心境の変化 ? ずっとこのままだといいん けた

4. リング

そのもっと手前、ほんの数百メートル先の区画整理された宅地に、新築の二階建てがポ ツンと離れて建っている。南北に走る一方通行の道に接して玄関があり、その横には車一 台ぶんの駐車場があった。新興住宅地で見かけるごく普通の家といった感じだが、その後 方と両隣には家の影がない。交通の便が余り良くないためか、まだ買手がっかず、売り地 という立て札があちこちに見受けられる。完成と同時に人で埋まっていったマンションと 比べると、なんとも寂しい風景であった。 その家の二階の蛍光灯の光は、開け放たれた窓から暗い路面いつばいにこぼれ落ちてい た。家で明りのついているのは、二階の智子の部屋だけである。私立女子高三年の大石智 子は、その部屋の二階で机の前に座っていた。白いシャツにショートパンツ姿で、床に からだ 置かれた扇風機の風に両足を差し出し、身体をひねる無理な格好で開いた問題集に目を落 としていた。シャツの裾をパタバタさせて風を直接素肌に当てながら、暑い暑いとだれ にともなく文句ばかり言う。夏休みに遊び過ぎたせいで宿題は山ほどたまり、智子はそう なった原因を暑さのせいにしていた。しかし、今年の夏はそんなに暑くはなかった。晴天 の日も少なく、海水浴客の出も例年に比べればずっと悪かった。ところが、夏休みが終わ いらだ ったとたん、五日続けて真夏日が続いている。この皮肉な天候に智子は苛立ち、空を恨ん : このクソ暑いのに、勉強なんてできるわけねえだろ。 智子は髪をかきあげた手で、ラジオのポリームを上げた。すぐ横の網戸に止まった小 すそ

5. リング

おとうさんはでぶです。 おかあさんはでぶです。 だから、ぼくもでぶです。 四がっ十四にち 後のほうのページに強く開こうとする力が感じられるが、浅 浅川はページをめくった。《 Ⅱは順番通りにページを進めていった。順番を狂わせた結果、何かを見落とすこともあり 得るのだ。 何も書かない旅行客も多いはずだからはっきり = 一口えないが、夏休みに入るまではだいた い土曜ごとに客が入っていた。夏休みになると日付の間隔が狭くなり、八月も終わりに近 づくに従って、夏が終わることを嘆く声が多くなる。 八月二十日日曜日 グあー、夏休みも終わりだあー。なにもいいことなかったよおー。だれか助けてくれー ン哀れな僕に救いの手をー。当方、四百 00 のバイクを所有。なかなかの ( ンサム。買い得 リだゼ。 書いているうちに、文通相手を求める自己になってしまったらしい。発想は似たり

6. リング

134 「先生がお帰りになりましたら、お電話差し上げるよう伝えておきます。 : : : 浅川さん、 ですね」 受話器を置いてもなお、女の声は残っていた。柔らかな響きが耳に心地いい。 カーベット敷きのべッドルームからべッドがなくなったのは、陽子が生まれた時であっ た。赤ん坊をベッドに寝かすわけにもいかず、かといって四畳半の部屋ではベビ 1 べッド を置くスペースもない。しかたなく、これまで使っていたダブルべッドを捨て、その代わ りに布団を上げ下げすることにした。二組敷かれた布団の空いたスペースに、浅川はもぐ そろ り込んだ。三人揃って寝る場合のみ、三人の寝場所は決まっていた。静と陽子の寝相はあ まりに悪く、眠りに落ちて一時間もすれば最初の位置から大きく移動している。ために、 後からもぐり込む浅川はいつも空いたスペースを捜さざるを得ない。もし浅川がいなくな ったら、その分のスペースを埋めるのにどれほどの時間がかかるだろう。静が再婚相手を すきま 見つけるという意味ではない。人によっては、配偶者を失うことによって生した隙間を永 久に埋めることのできぬ者もいる。 ・ : 三年、三年というのが妥当な線じゃないだろうか。 実家に戻り、両親に娘の面倒を見てもらいながら仕事に出る静の顔が、それなりに生き生 きと輝いていることを浅川は無理にイメージした。女は強くあってほしかった。自分がい なくなった後、共に生き地獄に堕ちる妻と子を想像するのは、耐えられないことであった。 五年前の、千葉支局から本社出版局に移ったばかりの頃、浅川は同じ新聞社系列の旅

7. リング

137 馬鹿らしく思えた。 「とにかく、今から行く。待ってろ 浅川は受話器を置いた。 を東中野で降り、上落合に向かって十分ばかり歩いた。歩きながら浅川は、夜は酒 を飲み歩いていても竜司のことだ。きっと何か掴んだに違いないと、彼に対してささやか な期待を抱いた。ひょっとして謎が解けたんじゃないのか、だから、あいつは、平気で夜 遅くまで飲み騒いだのかもしれないと。竜司のア。ハートが近づくにつれて楽天的な気分に なり、浅川はいくぶん足を速めた。不安と期待、悲観と楽観、感情はコロコロと揺れ動き、 そのことがかえって浅川の精神を疲れさせた。 ぶしようひげ まさに今起きたばかりらしく、無精髭に。ハジャマ姿で、竜司は玄関のドアを開けた。浅 Ⅱは靴を脱ぐのももどかしく、「何かわかったかい ? 」と聞く。 「いや、べつに : 。ま、上がれよ 言いながら、竜司はポリポリと頭をかく。ぼうっとして目の焦点が定まらず、まだ脳細 りようぜん グ胞が起きてないことは一目瞭然であった。 ン 「コーヒーでも飲んで目を覚ませよ 期待を裏切られた浅川は、不機嫌そうにガチャガチャ音をたててャカンを火にかけた。 時間に対する強迫観念が突然に湧き起こる。 壁一面に本が積まれた六畳間で、ふたりはあぐらをかいて座った。 つか

8. リング

るべく左側に寄せて止めた。六本木交差点までの客がついてくれると都合がいい、この場 所で拾う客は割合赤坂、六本木方面が多く、こうやって信号待ちで止まっている間に乗り 込んでくることもしばしばであった。 タクシーの左脇を抜けて、一台のバイクが横断歩道のすぐ手前に止まった。運転してい るのは、ジーンズをはいた若い男だ。木村はチョロチョロと走り回る。ハイクが目障りで仕 方ない。特に、信号待ちしている時、平気で車の前に出てきたり、ドアのすぐ脇に止まる バイクに腹が立った。今日一日、客のツキがあまりよくなく、機嫌が悪かったこともあっ て、木村はおもしろくなさそうな目で若い男を見ていた。フルフ = イスのヘルメットで顔 からだ の表情を隠し、男は歩道の縁石に左足をかけ、股を広け、だらしのない格好で身体を揺ら せている。 足のきれいな若い女が歩道を歩いていく。男はその女の後を追って首を巡らせていった。 ところが、男は女の姿を最後まで追い切らなかった。約九十度首を回したところで、男は 左側のショウウインドウに視線を固定させてしまったのだ。視野の外に出て、女は歩き去 ってゆく。男はそのまま取り残されて、じっと何かに見入っていた。歩行者専用の信号が 点滅を始め、やがて赤に変わった。横断歩道を歩行中の人々は足を速め、タクシ 1 のすぐ 前を通り過ぎてゆく。手を上げて寄ってくる者はいない。木村はエンジンを空ぶかしして、 正面の信号が青に変わるのを待った。 その時、バイクの男は、ビクッと強く身体を震わせたかと思うと両腕を上げ、木村のタ また

9. リング

199 直接問題になってくるのは、もちろん山村貞子の半生である。 「娘のほうから頼みますよ 「わかった。じゃあ、明日さっそく劇団飛翔の事務所にでも顔を出すか」 浅川は腕時計を見た。まだ午後の六時を少し回ったところだ。劇団の稽古場なら充分に 開いている時間だろう。 「吉野さん、明日と言わず、今晩頼みますよ 吉野は大きく息をついて首を軽く振った。 「なあ、浅川。考えてくれよ、オレにだって仕事があるんだ。今晩中に書き上げなければ ならない原稿が山ほどあるんだよ。本当は明日だって : : : 」 吉野はそこで言葉を止めた。これ以上言うとあまりにも恩着せがましくなる。彼はいっ も男らしい自分を演出することに細心の注意を払っていたのだ。 「そこをなんとか頼みますよ。いし 、ですか、僕の締め切りはあさってなんです」 この業界の内幕を知っている浅川には、とてもそれ以上強く一言えなかった。ただ、無言 グで吉野の返事を待っ他ない。 : って、いってもよお。しようがねえなあ。わかった、なるべく今晩中にどうにかす るよ、ま、約束はできんが 「すみません、恩にきます 浅川は頭を下げて受話器を置こうとした。

10. リング

163 「十二のシーンは大きくふたつのグループに分けることができる。抽象的な、そうだな、 心象風景とでも呼べるような頭に思い浮かんだシーンと、実際に目を通して見ることので きる現実に存在するシーン。その区別だよ 竜司はそこで一呼吸置いた。 「これを見て、何か気付くことはないか ? 」 「そうだな、おまえの言う黒い幕は現実のシーンの中にのみ現れている 「な、そうだろ。まず、その点をよく頭に入れるんだ」 「なあ、竜司。こんなじれったいことはやめて、さっさと種明かししてくれよ。ようする に、これは何を意味するのだ ? 「まあ、待て。結論を先に与えてしまうと、直感が鈍る場合がある。オレは直感によって いったん 既にある結論に達した。一旦そう思い込むと、あらゆる事象をねじまげてでも、自分の得 た結論を正当化しようとするものなんだ。犯罪捜査においてもそうだろ。こいつが怪しい と思い込んだら、あらゆる証拠がそいつを指し示しているように思えてきてしまうのさ。 グな、今、道を踏み誤るわけにはいかねえ。おまえには、オレの得た結論を検証してもらわ ンなくてはならない。つまり、ここに並べる事実から、オレと同じ直感を得ることができる かどうか : : : 」 「わかった、続けてくれ」 「いいか、黒い幕が現実の風景の中にしか現れないという事実と一緒に、もう一度最初に