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検索対象: 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩
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1. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

せうそこ す 御方より御消息もはべらぬを、かく品定まりたまへるに思し棄てさせたまへる一臣下の妻という身分に。 こうした絵 ( 物語絵 ) など。 けしき 三薫が持参するのではその絵も ゃうに思ひて、心ゆかぬ気色のみはべるを、かやうのもの、時々ものせさせた 見るかいがないとする。女一の宮 語 から直接贈られ、その手紙などに 物まはなむ。なにがしがおろして持てまからん、はた、見るかひもはべらじか 氏 触れたいとする下心がある。 源し」と聞こえたまへば、中宮「あやしく。などてか棄てきこえたまはむ。内裏四薫の言う「思し棄て : こに反発。 五宮中での過往の姉妹の親しい にては、近かりしにつけて、時々聞こえ通ひたまふめりしを、所どころになり文通。女二の宮の居所は藤壺。 六女二の宮が、薫の三条宮に移 った折をさす。 たまひしをりに、とだえそめたまへるにこそあらめ。いま、そそのかしきこえ セ女二の宮からも。 ん。それよりもなどかはと聞こえたまふ。薫「かれよりはいかでかは。もと ^ 女二の宮には遠慮がある趣。 九 九近親の者と考えがたい人でも。 かず より数まへさせたまはざらむをも、かく親しくてさぶらふべきゅかりに寄せて、中宮と女二の宮には血縁がない。 一 0 中宮と薫は姉弟。その縁故で じっこん 思しめし数まへさせたまはんこそ、うれしくははべるべけれ。まして、さも聞女二の宮への眤懇を求める。 = かって宮中にあって姉妹が親 な しく文通していたというのだから。 こえ馴れたまひにけむを、今棄てさせたまはんは、からきことにはべり」と啓 三語り手の批評をこめた言辞。 けしき 中宮が薫の下心に気づかぬとする。 したまふを、すきばみたる気色あるかとは、思しかけざりけり。 一三小宰相。↓一二五ハー注三三。 わたどの ひとよ 一四八講の折に女一の宮をかいま 立ち出でて、一夜の心ざしの人に逢はん、ありし渡殿も慰めに見むかしと思 見た西の渡殿。恋情を慰める意図。 みすうち 一五まへあゆ して、御前を歩み渡りて、西ざまにおはするを、御簾の内の人は心ことに用意一五中宮のいる寝殿の南面の簀子 を通って、西面の方に行く。 一セおほとの す。げにいとさまよく、限りなきもてなしにて、渡殿の方は、左の大殿の君た一六廂の簾中にいる女房たち。 あ

2. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

一九 こわ 一四口実にして。 の隅の間に寄りてうち声づくりたまへば、すこしおとなびたる人出で来たり。 一五女童。「宿直姿」は、ト / 袿・袴 みなひと 薫「人知れぬ心寄せなど聞こえさせはべれば、なかなか、皆人聞こえさせふるの略装。夜、主人の側に侍す姿。 一六恥ずかしそうだ。 しつらむことを、うひうひしきさまにて、まねぶやうになりはべり。まめやか宅不用意な夜歩きについて思う。 一 ^ 西の対の南廂の隅の間 になむ、言より外を求められはべる」とのたまへば、君にも言ひ伝へず、さか一九来訪を告げる合図。 ニ 0 年配の女房。 一 = これまで誰もが言い古してき しだちて、女房「いと思ほしかけざりし御ありさまにつけても、故宮の思ひき たような言葉。 ・一と こえさせたまへりしことなど、思ひたまへ出でられてなむ。かくのみ、をりを一三「思ふてふ言よりほかにまた もがな君一人をばわきてしのば しりう ) 」と む」 ( 古今六帖五 ) 。 り聞こえさせたまふなる御後一一 = 口をも、よろこびきこえたまふめる」と言ふ。 ニ三主人の宮の君にも伝えず。 ニ四意想外の宮仕えなどの運命。 並々の人めきて心地なのさまやとものうければ、薫「もとより思し棄つまじき ニ五故宮が薫を婿にと思ったこと。 ニ九 筋よりも、今は、まして、さるべきことにつけても、思ほし尋ねんなんうれしニ六折々申しあげてくるらしい陰 ながらのご親切な一一 = ロ葉にも。 三 0 かるべき。うとうとしう、人づてなどにてもてなさせたまはば、えこそ」との毛女房の取次だけでは、世間並 の扱いのようで。 ゆる 蛉たまふに、げにと思ひ騒ぎて、君をひき揺がすめれば、宮の君「松も昔の、との = ^ もともと見捨てられぬ間柄と い , っ点はともかく。二人はいとこ。 みながめらるるにも、もとよりなどのたまふ筋は、まめやかに頼もしうこそニ九宮仕えの今は、まして。 蜻 三 0 とてもお伺いできない。 あいぎゃう は」と、人づてともなく言ひなしたまへる声、いと若やかに愛敬づき、やさし三一宮の君を。 三ニ↓松風団一一七ハー注 = 五の歌。 しとを一かしか 三三局住いをする人。宮の君。 きところ添ひたり。ただ、なべてのかかる住み処の人と田 5 はば、 ニセ ニ四 三三 ニ 0

3. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

91 蜻蛉 一五けが ひきこえさせたまへりしありさまなども、聞こえさせはべるべき。この穢らひ一五死の穢れの。近親者が三十 日間家にこもる など、人の忌みはべるほど過ぐして、いま一たび立ち寄りたまへーと言ひて泣一六乳母の声かと、時方が推測。 宅浮舟を親しんでの呼称。 一〈以下、普通の死を一一 = ロうにして こといといみじ。 は、不審のこもる言辞である。 うち なきがら 内にも、泣く声々のみして、乳母なるべし、「あが君や、いづ方にかおはし一九亡骸さえ見てないとする。尋 常の死ではないと思わせる一一 = ロ辞。 一九 から ましぬる。帰りたまへ。むなしき骸をだに見たてまつらぬが、かひなく悲しくニ 0 乳母が思い申し、の意。 一 = 以下、薫に迎えられるのが、 もあるかな。明け暮れ見たてまつりても飽かすおばえたまひ、いっしかかひあ浮舟の生きがいだったとする。 一三浮舟の「かひある御さま」は、 あしたゆふべニニ る御さまを見たてまつらむと、朝夕に頼みきこえつるにこそ命も延びはべりつ自分たちの生きがいでもある意。 ニ三たとえ、人間ならぬ鬼神でも。 す おにがみ しゆみ れ、うち棄てたまひて、かく行く方も知らせたまはぬこと。鬼神も、あが君を = 四帝釈天。仏教の守護神。須弥 せん とうりてん ニ四 山の頂上、朷利天に住む。老齢の りゃう たいしやく 長者夫妻が、国王に誤って殺され ばえ領じたてまつらじ。人のいみじく惜しむ人をば、帝釈も返したまふなり。 せんし た孝行息子の談子を悲しむあまり な あが君を取りたてまつりたらむ、人にまれ鬼にまれ、返したてまつれ。亡き御祈願すると、帝釈天がその子を蘇 生させたという ( 『仏説談子経』。 から 骸をも見たてまつらん」と言ひつづくるが、心得ぬことどもまじるをあやしと『三宝絵』上巻に類話 ) 。 ニ五前には今夜すぐ埋葬とありな 思ひて、時方「なほ、のたまへ。もし人の隠しきこえたまへるか。たしかに聞がら、ここでは遺骸を返せとする。 ニ六浮舟を誰かが隠したか。もし ニセ つかひ かすると薫のしわざかと疑う。 こしめさんと、御身の代はりに出だし立てさせたまへる御使なり。今は、とて ニハ 毛私は匂宮ご自身の代理で。 のち 夭匂宮が。 もかくてもかひなきことなれど、後にも聞こしめしあはすることのはべらんに、 めのと へ

4. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

一宮との一件が原因なのか。 さやうなるにつけてや、いとかたはに人の心をまどはしたまふ宮なれば、常に 一一まったく不都合にも女の心を あひ見たてまつらぬ嘆きに身をも失ひたまへるとなむ思ふ。なほ言へ。我には、惑わしなさる匂宮の性分だから。 三浮舟が匂宮に。 語 物さらにな隠しそ」とのたまへば、たしかにこそは聞きたまひてけれといといと四右近 ( 自分 ) も常に浮舟に近侍。 氏 自分の報告は信頼に足る、の気持。 こころう 源ほしくて、右近「いと心憂きことを聞こしめしけるにこそははべるなれ。右近 = 発言をためらう趣。 六二条院の中の君の所に、浮舟 もさぶらはぬをりははべらぬものを」とながめやすらひて、右近「おのづから母娘が秘かに訪れた ( 東屋〔一五〕 ) 。 その後、匂宮が浮舟を発見して執 聞こしめしけん、この宮の上の御方に、忍びて渡らせたまへりしを、あさまし拗に言い寄ったが、乳母や右近が 宮に手きびしいことを申したので、 く思ひかけぬほどに入りおはしましたりしかど、いみじきことを聞こえさせは事なきを得た ( 同〔話〕〔 = 五〕 ) 。 セ三条の隠れ家への、浮舟の転 べりて、出でさせたまひにき。それに怖ぢたまひて、かのあやしくはべりし所居をさす。↓東屋〔 = = 〕。 〈噂としてでも宮に知られまい のちおと 九匂宮が浮舟の宇治の住いをか には渡らせたまへりしなり。その後、音にも聞こえじと思してやみにしを、 ぎつけたのは一月上旬 ( 浮舟〔四〕 ) 、 きさらギ一 九 かでか聞かせたまひけん、ただ、この二月ばかりより、訪れきこえさせたまひ同月下旬に宇治行を実行 ( 浮舟 〔七〕 ) 。事実を意識的にばかして過 小の言い方をした。 し。御文はいとたびたびはべめりしかど、御覧じ入るることもはべらざりき。 一 0 以下も事実をばかして言う。 いとかたじけなく、なかなかうたてあるやうになどぞ、右近など聞こえさせし = 畏れ多く、かえって失礼にな ろう。宮への不都合さを女房たち ひと ふた が難じたほどだとして浮舟を弁護。 かば、一たび二たびや聞こえさせたまひけむ。それよりほかのことは見たまへ 三密通などなかったとする言い ぶり。事実をまげて語り収める。 ず」と聞こえさす。 うへ

5. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

憂かなれ。いま、大宮の御前にて、恨みきこえさせたまふと啓せん」とのたま 0 薫の、女一の宮が手の届かぬ存 在だとする悲嘆は、宇治の姫君た ふ。女一一の宮「いかが恨みきこえん。うたて」とのたまへば、薫「下衆になりにたちとのかなわぬ恋の悲傷に矛盾な く繋がる。その憂愁は反俗的な感 りとて、思しおとすなめりと見れば、おどろかしきこえぬとこそは聞こえめ」情として彼の日常的栄華を支える。 一六匂宮。↓一二二ハー とのたまふ。 宅宮の衣。黄色を帯びた薄紅色。 はなだ 天濃い縹 ( 薄い藍 ) 。ともに夏用。 あした 一九女一の宮の過日の美しさが、 その日は暮らして、またの朝に大宮に参りたまふ。例の、 〔一三〕薫、女一の宮を慕 弟匂宮に共通。その姉宮が「まづ ちゃうじ い中宮のもとにまいる 宮もおはしけり。丁子に深く染めたる薄物の単衣をこまや恋しき」と慕われる。「女」の呼称 は、恋情をこめた表現である。 なほし かなる直衣に着たまへる、いとこのましげなり。女の御身なりのめでたかりしニ 0 浮舟への悲嘆ゆえの面やつれ。 ニ一一面では、恋情を抑制 にも劣らず、白くきよらにて、なほありしよりは面痩せたまへる、いと見るか一三なまじ女一の宮の姿をかいま 見たばっかりに、せつない思い。 ひあり。おばえたまへりと見るにも、まづ恋しきを、いとあるまじきこととしニ三物語絵を匂宮が持参。 一西女一の宮に。「我」は匂宮。 づむるぞ、ただなりしよりは苦しき。絵をいと多く持たせて参りたまへりける、ニ五薫も、中宮の御前に ニ六源氏や紫の上の思い出話か。 毛女一の宮に献呈した残りの絵。 蛉女房してあなたにまゐらせたまひて、我も渡らせたまひぬ。 ニ ^ 自邸にいる女一一の宮をさす。 ー・カ、つ 大将も近く参りよりたまひて、御八講の尊くはべりしこと、 いにしへの御事、ニ九宮中から離れて。 三 0 もとは皇女なのに、の気持。 すこし聞こえつつ、残りたる絵見たまふついでに、薫「この里にものしたまふ三一女一の宮から女二の宮への文 通のないことを訴え、その文面に ニ九 三 0 皇女の、雲の上離れて思ひ屈したまへるこそ、いとほしう見たまふれ。姫宮の接したい願望をかなえようとする。 ニ四 ニセ まへ ニ三 ニ 0 おもや ニ六 ひとへ

6. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

出 5 なりはてば ( 明・穂・柏・横・池・ 肖・ = D ーすそろなる △肖・三・別 ) ーなりては 8 恥づかしくなむ ( 穂 : 幽・柏・横・ たまひけむ ( 穂・△幽・柏・横・池・ 池・肖・三・河・別 ) ーはつかしう 肖・三・別 ) ー給つらん 1 、 1 思さんをば ( 明・証・穂・△幽・柏・ 入りおはしましたりしかど ( 証・穂・ 横・池・肖・三・河 ) ーおばさんは のち 柏・横・池・△肖・三・河 ) ーいりおはしたり 5 たまひてむ後 ( 穂・△幽・柏・横・池・ しかと 三・河 ) ーむかへ給てのち Ⅲ 2 きこえさせたまひし ( 摠・△幽・柏・ 召し使ひたまふ ( 穂・△幽・柏・横・ 横・池・肖・三・河 ) ーきこえ給へし 池・肖・三・河 ) ーめしつかふ ⅢⅡはべめりしかど ( 穂 : 幽・柏・横・ Ⅱおはする ( 明・証・穂・幽・柏・横・ 池・肖・三・河 ) ー侍しかと 池・△肖・三・河・別 ) ーおもはする Ⅱなかなかうたてあるやうに ( 明・穂・ 盟 5 寺にてなん ( 穂・△幽・柏・横・池・ △幽・柏・横・池・肖・三・河・別 ) ーうたて 肖・三・河 ) ーてらにて あるやうに 盟 2 ことも ( 穂・△幽・柏・横・池・肖・三・ 7 思ひそめてし ( 穂・△幽・柏・横・池・ 河 ) ー事 肖・三・河 ) ー思そめたりし 2 帝まで ( 明・穂・△幽・柏・横・池・肖・ Ⅲ 1 まじりにけむ ( 穂・柏・横・池・肖・ 三・河・別 ) ーみかとまても 三 ) ーましりけむ 3 隠しおきたまへりけるを ( 穂・△幽・ 深うも ( 明・証・穂・幽・柏・横・池・ 柏・横・池・肖・三 ) ーかくしをき給たりけ る 肖・三・河 ) ーふかうしも コし 0 11 、よ きこえさせ ( 穂 : 幽・柏・横・池・ 6 いみじけれど ( 明・証・穂・幽・柏・ 一三ロ 付肖・三・河 ) ーきこえ 横・池・肖・三・河 ) ーいみしけれは 訂 きこえさせ ( 穂・△幽・柏・横・池・ 語らひ ( 穂・幽・柏・横・肖・三・河・ 校肖・三・河 ) ーきこえ 別 ) ーかたらはせ くれはべりて ( 穂 : 幽・柏・横・池・ 見し人 ( 明・証・穂・幽・柏・横・池・ 肖・三・河・別 ) ーみえし人 肖・三・河・別 ) ーくれて 5 すずろなる ( 明・穂・幽・柏・横・池・ 7 つきつつ ( 穂 : 幽・柏・横・池・肖・ 118 5 118 12 118 13 114 7 三 ) ーっきて 5 着たまへる ( 明・証・穂・幽・柏・横・ 池・肖・三・河・別 ) ーきかへ給へる 4 限りなく ( 穂・△幽・柏・横・池・三・ 河 ) ーかきりもなく さうじ 盟 2 障子は ( 穂 : 幽・柏・横・池・肖・三・ 河・別 ) ーさう / 、 ( し ) ( 朱 ) 盟 6 乱らましや」など ( 横・池・肖 ) ーみ たれましやはなと 盟あてにかをり ( 証・穂・△幽・柏・池・ 肖・三・河 ) ーあてに 7 このましげなり ( 明・証・摠・幽・柏・ 横・池・三・別 ) ーこのましけなる Ⅱ我も渡らせ ( 明・証・穂・幽・柏・横・ 池・肖・三・河 ) ーわたらせ 2 ものせさせたまはなむ ( 明・証・穂・ 幽・柏・横・池・ lll)—ものせさせはなむ 4 聞こえたまへば ( 穂・柏・横・池・肖・ 三・河・別 ) ーの給へは 5 つけて ( 穂 : 幽・柏・横・池・三・河 ) ーっきて 5 時々 ( 穂・柏・横・池・肖・三 ) ーとき 5 聞こえ通ひたまふめりし ( 明・証・ 穂・幽・柏・横・池・肖・三・河 ) ーきこえ給 めりし 6 とだえそめたまへる ( 穂・△幽・柏・

7. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

あるじ この家の主人、妹尼が、小君 主そこの君に物語すこし聞こえて、妹尼「物の怪にやおは一 0 〔 = 〕小君、姉に会わず、 。浮舟に代っての対話である。 むなしく帰途につく すらん、例のさまに見えたまふをりなく、なやみわたりたニ物の怪のせいか。以下、発見 語 されて以来の浮舟について語る。 三出家して尼姿になったこと。 物まひて、御かたちも異になりたまへるを、尋ねきこえたまふ人あらばいとわづ 氏 四浮舟を捜し求める人々が、浮 源らはしかるべきことと、見たてまつり嘆きはべりしもしるく、カくいとあはれ舟の尼姿に失望するだろうと、妹 尼らは懸念したとする。自分たち 六 も出家には反対だった、の気持。 に心苦しき御事どものはべりけるを、今なんいとかたじけなく思ひはべる。日 五いたわしく胸の痛む事情があ ごろも、うちはヘなやませたまふめるを、いとどかかることどもに思し乱るるれこれあったのを。深い情愛を寄 せていた薫が捜し当てたこと。 にや、常よりもものおばえさせたまはぬさまにてなんーと聞こゅ。所につけて六以前から知っていたら、出家 などさせなかったのに、の気持。 あるじ セ薫の手紙などをいただいて。 をかしき饗などしたれど、幼き心地は、そこはかとなくあわてたる、い地して、 ^ 山里らしい 、しゃれたご馳走。 小君「わざと奉れさせたまへるしるしに、何ごとをかは聞こえさせんとすらむ。 九いたたまれないような気持。 一 0 薫がわざわざ私をお遣わしに なったしるしとして。 ただ一言をのたまはせよかし」など言へば、妹尼「げに」など言ひて、かくな 一一妹尼は、小君の言葉に納得。 むと移し語れども、ものものたまはねば、かひなくて、妹尼「ただ、かく、お三浮舟にそのまま伝えるが。 一三はっきりしないご様子をお話 し申すほかあるまい ばっかなき御ありさまを聞こえさせたまふべきなめり。雲の遥かに隔たらぬほ 一四この地は雲のはるか遠くに隔 たった所でもないので。「雲の遥 どにもはべるめるを、山風吹くとも、またも、かならず立ち寄らせたまひなん かに・ : 山風吹くともあたりは引 歌表現らしいが、末詳。 かし」と言へば、すずろにゐ暮らさむもあやしかるべければ、帰りなんとす。 、一と ものけ

8. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

いともの思ひしげきさまにて、世にありと人に知られんことを、苦しげに思ひ一生きていることを世人に知ら れまいとする浮舟の固い決意。 たれ てものせらるれば、かかる谷の底には誰かは尋ね聞こえんと思ひつつはべるを、ニ小野は山あいの谷間。誰もそ こまで尋ね来るとは思えない意。 語 四 物いかでかは聞きあらはさせたまへらん」と答ふ。中将「うちつけ心ありて参り三あなた ( 中将 ) につきとめられ 氏 るはずもないのに、の気持で言う。 四たとえ当座の浮気心から訪れ 源来むにだに、山深き道のかごとは聞こえつべし。まして思しよそふらん方につ た場合でさえ、山深い道を尋ねて きた苦労を訴えてもよかろう。 けては、こと」とに隔てた十 ( ふまじきことにこそま。 。いかなる筋に世を限みた 五まして自分の場合は。 ひと 六あなた ( 妹尼 ) がその女を亡き まふ人にか。慰めきこえばやなど、ゆかしげにのたまふ。 娘の代りと思われる点で、私を他 たたうがみ 人扱いにすべきでない意。昔同様 出でたまふとて、畳紙に に婿として遇してほしい気持。 をみなへし ゅ セ旅先で風雅な料紙がないか 中将あだし野の風になびくな女郎花われしめ結はん道とほくとも ^ 「あだし野」は嵯峨の地の歌枕、 と書きて、少将の尼して入れたり。尼君も見たまひて、妹尼「この御返り書かあだ心を言いこめた。「女郎花」は 浮舟のたとえ。「しめ」は占有の証。 せたまへ。いと、いにくきけつきたまへる人なれば、うしろめたくもあらじ」と浮気な男には従わず、わがものに なるべきだと呼びかけた求愛の歌。 そそのかせば、浮舟「いとあやしき手をよ、 。いかでか」とて、さらに聞きたま九奥ゆかしいところのある人。 一 0 性急な行動に出て困らせるこ ともあるまい、とする。 はねば、妹尼「はしたなきことなりとて、尼君、「聞こえさせつるやうに、世 一一下手な筆跡。 三相手をきまり悪くさせること。 づかず、人に似ぬ人にてなむ。 一三以下、中将にむかって言う。 一四「女郎花」は浮舟。尼の住いゅ うっし植ゑて思ひみだれぬ女郎花うき世をそむく草の庵に

9. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

ひ出づるに、、い強き人なくあはれなり。右近あひて、いみじう泣くもことわり的に見たが、今宇治を訪ねると感 動がこみあげる。 ニ 0 宅以下、過往の匂宮と浮舟。 なり。時方「かくのたまはせて、御使になむ参り来つる」と言へば、右近「今さ 一 ^ 浮舟が匂宮に。橘の小島に舟 で渡った時の逢瀬。↓浮舟四七ハー。 らに、人もあやしと言ひ思はむもつつましく、参りても、はかばかしく聞こし 一九宮が右近の来邸を望む由。 いみ ニ 0 いまさら参上しては同僚の女 めしあきらむばかりもの聞こえさすべき心地もしはべらず。この御忌はてて、 房も不審がろう、の意。今までせ つかく隠蔽してきたのに、の気持。 あからさまにものになんと人に言ひなさんも、すこし似つかはしかりぬべきほ 三忌籠りの三十日間。 どになしてこそ、心より外の命はべらば、いささか思ひしづまらむをりになん、一三京に用事がと言いつくろって も、おかしくない時期を待って。 おほ′一と 仰せ言なくとも参りて、げにいと夢のやうなりしことどもも、語りきこえさせニ三自分も浮舟の跡を追いたいが、 意外にも生き長らえていたら。 一西前ハー六行の宮の気持を受ける。 はべらまほしき」と言ひて、今日は動くべくもあらず。 一宝時方。左衛門大夫。 大夫も泣きて、時方「さらに、この御仲のこと、こまかに知りきこえさせはニ六宮の、浮舟への無類の情愛。 毛あなたがた ( 右近や侍従 ) とも、 ニ六 べらず。ものの心も知りはべらずながら、たぐひなき御心ざしを見たてまつりあわててお近づきになることもあ るまい、いすれ宮が女君 ( 浮舟 ) を ニ七 蛉はべりしかば、君たちをも、何かは急ぎてしも聞こえうけたまはらむ、つひに迎えられた時にはお仕えする方々 だと思っていたのに。 は仕うまつるべきあたりにこそと思ひたまへしを、言ふかひなく悲しき御事の夭浮舟の死をさす。 ニ九 蜻 ニ九私個人としてお寄せする気持 のちわたくし もかえって深くなった。浮舟存命 後は、私の御心ざしも、なかなか深さまさりてなむ」と語らふ。時方「わざと 中は主人の命にだけよったので。 御車など思しめぐらして、奉れたまへるを、むなしくてはいといとほしうなむ。三 0 匂宮が格別に迎えの車などを。 一九 ニ三 ニ四 つかひ 三 0

10. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

59 浮舟 すくせ 思ふやうなる宿世のおはしはてば劣らじをなど思ひつづけて、母君「世ととも劣らぬ幸運を得てよい、と反発。 宅薫との縁がすっと続くなら、 けしき に、この君につけては、ものをのみ思ひ乱れし気色の、すこしうちゅるびて、 大君や中の君に負けをとるまいが 天八の宮の高貴の血を受ける浮 かくて渡りたまひぬべかめれば、ここに参り来ること、かならずしもことさら舟にそれ相応の幸運をと願ってき たが、左近少将に侮られたり、匂 たいめん には、え思ひたちはべらじ。かかる対面のをりをりに、昔のことも心のどかに宮に迫られるなどの不運が続いた 一九薫との縁で運が開けたと安堵 聞こえうけたまはらまほしけれ」など語らふ。弁の尼「ゆゅしき身とのみ思うたニ 0 浮舟が京に ニ一浮舟転居後は宇治にわざわざ まへしみにしかば、こまやかに見えたてまつりきこえさせむも何かはと、つつ来ることもあるまい。弁が浮舟を 軽んずるとする反感が潜む言い方。 ニ五す ましくて過ぐしはべりつるを、うち棄てて渡らせたまひなば、、 しと心細くなむ = ニ昔の大君・中の君のこと。本 心からでなく、社交辞令的に言う。 はべるべけれど、かかる御住まひは、、いもとなくのみ見たてまつるを、うれし = 三仕えてきた柏木、八の宮、大 君に死別し、今は出家の不吉な身 ニ六 くもはべるべかなるかな。世に知らず重々しくおはしますべかめる殿の御あり = 四浮舟に対して。 ニ五浮舟が私一人を残して、京に。 ニ六薫。 さまにて、かく尋ねきこえさせたまひしも、おばろけならじと聞こえおきはべ 毛浮舟への薫の並々ならぬ情愛 のち りにし、浮きたることにやははべりける」など言ふ。母君「後は知らねど、た = 〈弁は、薫の意向の伝達役であ った。彼女は母君に、浮舟の幸運 三 0 が誰のおかげかと言いたい気持。 だ今は、かく、思し離れぬさまにのたまふにつけても、ただ御しるべをなむ思 ニ九根拠のあることだった、の意。 うへ 三 0 薫が浮舟を見捨てることなく。 ひ出できこゆる。宮の上の、かたじけなくあはれに思したりしも、つつましき 三一弁の伝達の仲介に謝意を言う。 なかぞら ことなどのおのづからはべりしかば、中空に、ところせき御身なりと思ひ嘆き三 = 匂宮が浮舟に言い寄った事件 ニ九 一九 ニハ ひ