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検索対象: 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡
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1. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

りさせられた気分であったことよ。 仲の男などは、まして、人目のあることを考えて、寄るに しても近くも寄ることができず、思い嘆いているのこそお 三〇五病は もしろい。とてもきちんと長い髪をひき結んで、物を吐く ものけ 病気は胸。物の怪。あしの気。ただ何となく食物を食といって、起きあがっている様子も、ひどくいじらしく、 かれん べないの。これらは心配なものだ。 可憐に見える。 しゅじよう みどきよう 十八、九歳ぐらいの女で、髪がとてもきちんと整って、 主上におかせられてもそれをお聞きあそばして、御読経 すそ 背丈ほどの長さがあり、裾の方がふさふさしている女、そ の僧の、声のよい人を、おくだしになっているので、見舞 あいき・よ・つ してとてもよく太って、たいへん色が白く、顔は愛嬌があ の女房たちもたくさんそれを見にやって来て、経を聞きな って、美人だと見える女、そうした女が、歯をひどく病みどする姿も、隠れなく見えるので、その女房たちに目を配 ひたいがみ わずらって、額髪もじっとりと涙で泣き濡らし、髪の乱れり配り、僧が経を読んで座っているのこそ、そんな僧では ぶつばっ かかるのも気づかず、顔が赤くなって、痛むところを押え多分仏罰をこうむっているのであろうと思われることだ。 て座っているのこそ、風情がおもしろい ひとえ はかま 三〇六心づきなきもの 八月のころに、白い単衣の、しなやかなのに、袴はよい しおんうわぎ さんけい 具合なのをつけて、紫苑の表着の、とてもま新しく鮮やか 気にくわないものどこかへも行き、寺へも参詣する日 の雨。自分が召し使う人が、「わたしのことは、人は思っ 段なのを上に羽織っている人が、胸をひどく病んでいるので、 友だちである女房たちなどが、かわるがわる見舞にたずねてくれない。たれそれこそが、現在のお気に入りの人」な どと言うのを、小耳にはさんだの。ほかの人よりはやはり て来て、「何ともお気の毒なことですね。いつもこんなに 第 しいかげん お苦しみになるのですか」などと、通りいつべんにたずね少しにくらしいと思う人が、当推量をしたり、 3 る人もいる。その女に思いをかけている男は、、いの底から な物恨みをしたりして、自分だけえらそうにふるまってい たいへんなことだと思ってため息をつき、また、人知れぬるの。 せたけ

2. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

容貌がたいそうきれいで、気持も風雅を解する人が、筆持のほどがよくわかりましたとでも知ってもらいたいもの だ、といつも感じられるのである。 跡も見事に書き、歌もしみじみと詠じて、男を恨んでよこ しなどするのに、男は返事はこざかしくするものの、その 自分のことを必ず思ってくれるはずの人、自分を訪ねて 女の所へは寄りつかず、可憐なさまにため息をついて座り くれるはずの人は、それが当然のことなので、特別感激も こんでいる女を、見捨てて、ほかの女の所へ行きなどする 。しかしそんなに思ってくれるはずのない人が、ち よっとした応答をもこちらが安心するようにしてくれるの のは、全くあきれはてるばかり、公憤しきりというところ で、はたで見ている気持としても全くいやな感じがするは は、うれしい態度である。それは非常に簡単なことなのだ ずなのだけれど、男は自分の身の上のこととしてそういう けれど、実際にはほとんどあり得ないことであるよ。 ことが起った場合には、全然相手に対する気の毒さがわか 大体気だてが良い人で、ほんとうに才気がひらめくとい らないことよ。 った人は、男でも女でもめったにないことのように思われ る。しかしまた、そんな人も当然たくさんいるはずではあ 一四よろづのことよりも情あるこそ ろう。 すべてのことにまさって、情のあるのは、男はもちろん 一五人のうへ言ふを腹立つ人こそ のこと、女にも結構なことに思われる。ほんのちょっとし た言葉であるけれど、そして痛切に心の中に深くしみ通る 人のことについてうわさするのを聞いて腹を立てる人こ わけではないけれど、気の毒なことに対しては「お気の毒そ、ひどくわけがわからないものである。どうして人のこ 第 とを言わないではいられようか。自分の身のことはさてお に」とも一一 = ロ い、かわいそうなことに対しては「ほんとうに、 付 どんなに思っておいででしよう」などと言ったのを、人か き、これほど非難したくまた言いたいものが他にあろうか けれど人のことを言うのはよくないことのようでもある。 ら伝え聞いたのは、面と向って言うのを聞くよりもうれし いものだ。どうかしてこの言葉を言ってくれた人に、お気また言われた人は自然とその悪口を聞きつけて恨んだりす

3. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

すもう うにほかの女の悪口を自分に話して聞かせるのは、「格別 ってころがっているの。相撲取りの、負けて引っ込む後ろ に自分はこの男に愛されているのであるようだ」と、思っ姿。実力のない男が、家来を叱るの。老人の男が、烏幗子 もとどり ていることであろうか。「いやもう、ああ、二度とこの人をかぶらずに髻をむき出しているの。人の妻などが、むや 子 とは会わないことにしよう」と思う男に、その後に会うと、 みなやきもちをやいて、よそに隠れているのを、女は「必 草 ず夫が大騒ぎをするはずだ」と思っているのにもかかわら 「この男は不人情な人間であるようだ」と自然見られて、 枕 こちらとして気がひける感じなどはしないものなのだ。 ず、夫のほうはそうも田 5 っておらず、女にとっていまいま 男は、女について、ひどく身にしみじみと感じられて気しいような態度を見せているので、そんなふうにいつまで の毒な様子に見え、とても見捨てかねる、といったような も別の所に居つづけていることもできないので、自分のほ こまいめ ことなどを、少しも何とも思っていないのも、 うからのこのこ出て来ているの。狛犬や、獅子の舞をする ういう心なのかと、それこそあきれることだ。そのくせ、 者が、いい気持になって調子づいて、出て踊る足音。いず くちだっしゃ 男は、ほかの男の行為を非難し、ロ達者にしゃべることよ。れもかたなしだ。 また、身内など格別頼りになるような者を持っていない女 一三〇修法は 房などをうまくくどいて、女がただならぬ身になってしま ずほう ぶつげんしんごん っている現状などを、まったく知らないふりをしてなどい 修法は、仏眼真言などお読み申しあげているのは、優雅 るようであるよ。 で尊い。 一二九むとくなるもの ひがた かたなしなもの潮が引いた干潟にある大きな船。髪の 毛の短い女が、かもじを取りはずして髪を梳いている時。 大きな木が風に吹き倒されて、根を上に向けて横倒しにな 一三一はしたなきもの 中途半端で間の悪いものほかの人を呼ぶのに、自分か と思って顔を出している者。まして、物をくれる時には、 ばなし いっそう。たまたま他人のうわさ話などして、悪口などを ( 原文三〇ハー ) ひと

4. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

119 第 219 ~ 221 段 ( 現代語訳一一九九ハー ) 三青磁製の水入れ。「かめ」は瓶 かめ であろう。一説、亀形のロ。 一三〇人の硯を引き寄せて 一六体裁の悪いのなども、平気で 人の前に差し出すことよ ふみ 宅誰かの硯を自分が引き寄せて。 人の硯を引き寄せて、手習ひをも文をも書くに、「その筆な使ひたまひそ」 この段自分の硯や筆を無神経に扱 と言はれたらむこそ、いとわびしかるべけれ。うち置かむも、人わろし、なほわれる不快さを述べる。中宮が見 事な硯を作者に使わせられる折の 作者の感激も理解できよう。 使ふもあやにくなり。さおばゆる事も知りたれば、人のするも言はで見るに、 一 ^ 自分が言われたらそう憾じる とよノ、使こともわかっているので。 ことに手などよくもあらぬ人の、さすがに物書かまほしうするが、い 一九人が私の筆を使うのも。 ニ 0 自分の手のくせのように使い ひかためたる筆を、あやしのやうに、水がちにさし濡らして、「こは物ややり」 ならしてある筆。 かしら とかなにぞ、細櫃の蓋などに書き散らして、横ざまに投げ置きたれば、水に頭ニ一根元の方まで筆をおろして墨 を含ませることであろう。 ニ四 はさし入れて伏せるも、にくき事そかし。されど、さ言はむやは。人の前にゐ一三不審。歌の。一節が誤写された ため意不明となったものとみる。 くらあうよ たるに、「あな暗。奥寄りたまへ」と言ひたるこそ、またわびしけれ。さしのニ三「とか何そ」とみる。「と仮名 にぞ」とも読める。 ニセ そきたるを見つけては、おどろき言はれたるも。思ふ人のことにはあらずかし。ニ四角が立つからそうも言えない。 一宝物を書く人の前のことか。 兵驚いて文句を言われたのも、 またみじめな感じがするものだ。 二二一めづらしと言ふべき事にはあらねど、文こそなほ 毛愛する人から言われたのはま た別だ、という気持か めづらしと言ふべき事にはあらねど、文こそなほめでたきものには。はるかニ ^ 下に「あれ」が略されている。 ニ三 ほそびつ ニ六 ふみ ニ 0

5. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

て、夜鳴くものはすばらしい チトモ、それはすばらしくないよ。 二五一せめておそろしきもの 子 かみなり 二四九八月つごもりに、太秦に詣づとて ひどく恐ろしいもの夜鳴る雷。近い隣に盗人が入って 草 うずまささんけい いるの。自分が住む所に入っているのは、ただもう無我夢 八月末に、太秦に参詣するということで外出した。穂が 枕 出ている田に、人がたいへんたくさんいて騒ぐ。稲を刈る中なので、何ともわからない。 ま のであった。「さ苗取りし、いつの間に」と歌にあるのは、 かも 二五二たのもしきもの ほんとうになるほど、先だって、賀茂に参詣するとて道で ま ずほう 頼もしいもの病気のころ、坊さんがたくさんいて修法 見たそのさ苗が、いつの間にかしみじみと心にしみて感じ をしているの。愛する人が病気のころ、はんとうに頼みに られる風情にもなってしまっていたのだったよ。この場合 なる人が、話をしてなぐさめて、頼りにさせているの。何 は女性もまじってはいず、男が片手に、とても赤い稲で、 か恐ろしい時の、親たちのそば。 根もとは青いのを刈って持って、刀か何だろうか、根もと らくらく を切る様子が楽々としていてすばらしいので、ひどく自分 二五三いみじうしたてて婿取りたるに でやってみたいように見えることだよ。どうしてそんなこ りつば とをしているのだろうか、穂を上に向けて立てて、自分た たいへん立派な支度をして婿を取ったのに、たちまちの うちにそこに通って来なくなった婿が、しかるべき所など ちは並んで腰をおろしているのが、とてもおもしろく見え しゅうと で舅に出会っているのは、さすがの婿も舅を気の毒と思っ る。仮小屋の様子が変っている。 ているだろうか 二五〇いみじくきたなきもの ある人が、たいへん時めいている人の婿となって、たっ ほうき ひどく汚いものなめくじ。粗末な板敷を掃く箒。殿上た一か月ぐらいもはかばかしくも通って来ないでそれつき か り や きたな せん ′」うし の合子。 めすびと

6. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

かすみあおいかつらしようぶきり らなく聞えるもの梅。柳。桜。霞。葵。桂。菖蒲。桐。 まゆみかえで 檀。楓。小萩。雪。松。 見るにたえないもの色が黒くやせた子供で、はれもの 子 ができているの。どうということのない男で、訪ねて行く 草 すまい 女性の住居がたくさんあるのが、機嫌を悪くするの。容姿 枕 が悪い娘。 まずしい感じがするものせつかくのあめ色の牛がやせ ひたたれわた あおにび ているの。直垂の綿がうすいの。青鈍色の狩衣。黒柿の骨 に、黄色の紙をはってある扇子。ねずみにかじられた弁当 袋。香染の黄ばんだ紙に下手な字を薄い墨で書いてあるの。 思ったとおりではなくて不愉快なもの綾の衣の品質が 劣ったもの。「みやたて人」の仲が悪いの。自分からのそ んで法師となっている人が、法師らしくなくて、しかも清 らかな美しさが乏しいの。愛する人が隠しごとをするの。 自分がひいきにしている人をほかの人がけなすの。冬なの に雪が降らないの。 かりぎめくろがい

7. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

いる折に、快方に向っているという知らせをもらったのも ってしまう折が多いのだ さが 3 , つ、れー ) い 急に物を探し求める折に、だれかがそれを口に出して教 自分の愛している人が、人にもほめられ、高貴な方など えてくれたの。たった今見なくてはならない書物などを探 子 が、まんざらでもないものにお思いになり口に出しておっ すのになくしてしまって、いろいろな物をひっくり返しひ 草 しやるの。 つくり返し見ている時に、探し出したのは、とてもうれし 何かの折に詠んだ歌、あるいはまた、人と贈答した歌が、 ら・ち一き ものあわ 世間に聞えてほめられ、また打聞などに聞きとめられてほ 物合せとか、何やかやの勝負事で、勝なのは、どうして められるのは、自分の身としてはまだ経験のないことだけ うれしくないことがあろうか。また、ひどく自分こそはと れど、やはりうれしかろうと推測されるので書くのだ 思って、何でも知った顔をする人を、だますことができた あまり親しくしていない人が言った古い詩歌などの、知の。女などよりも、男の場合はいっそううれしい。相手は らないのを、だれかから聞き出したのもうれしい。そのの この仕返しは必すしようとするだろうと、こちらも自然い ほん ちに、何かの本の中などに見つけたのはおもしろく、「まつも気をつかわずにはいられないのもおもしろいのに、相 さにこうだったのだな」と、それを言っていたあの人がお手のほうでは、全くそ知らぬ顔で、何とも思っていない様 もしろく思われる。 子で、こちらを油断させて時を過すのも、おもしろい しきし みちのくに紙や、白い色紙、ただの紙でも、真っ白くき にくらしい者があらつばい目にあうのも、こちらが仏罰 れいなのは、手に入れたのもうれしい は得ているだろうと思いながらうれしいものだ。 しも さしぐし かみ りつば 挿櫛を結ばせてしゃれた様子にできたのも、またうれし こちらで気がひけるような立派な人が、歌の上の句や下 「また」という言葉がどうもたくさん重なっているけ の句をたずねた時に、ふっとそれが頭に浮んできたのは、 われながらうれし、 しいつもは田 5 い出されることも、また、れども : なんにち 人がたずねる時には、きれいさつばり忘れてそのままにな 何日も何か月も病気だったのが快方に向ったのも、とて がみ かち

8. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

( 原文一七九ハー ) どおりのありさまにして、家から出してやりなどしたいも 一晩中もこうして乗ってまわりたいのに、目的の所が近く のだ。身分の高い立派な方の御生活の御様子などが、とて なるのは、残念なことだ。 も知りたいのだ。これはよくない心であろうかしら。 二八三宮仕へする人々の出であつまりて みやづか 二八五見ならひするもの 宮仕えをする女房たちが、退出して集って、自分の御主 あくび 見ていてまねをするもの欠伸。幼児たち。末熟な、い 君がたのことを言うのを、その家の主人として聞くのこそ いかげんな、つまらない者。 おもしろいものだ。 二八六うちとくまじきもの 二八四家ひろく清げにて、親族はさらなり 気の許せそうもないもの悪いと人から言われる人。そ 自分の理想を言えば、自分の家が広く、見た目にきれい であって、親族は言うまでもなく、ちょっと親しく話し込のくせ、善い人だと知られている人よりは、表裏がなく見 える。舟の道中 んだりなどする人たちは、宮仕えをしている人、そうした おもて 日のうららかなころに、海の面がたいへんのんびりとし 人を片一方に置いておきたいものだ。しかるべき折には、 めの ていて、青緑色の打った布を一面に引きわたしてあるよう 一つ所に集って座って、話をし、人の詠んだ歌、何やかや あこめ に見えて、少しも恐ろしい様子もない折に、若い女の衵や 段とじっくり話をし合い、その宮仕え人のもとに人の手紙な さぶらい 襷を着けているのや、侍の者の、若々しいのが、一緒に どを持って来るのを、一緒に見、返事を書き、また親しく 訪れて来る男でもある時には、見た目もきれいに飾りつけ櫓という物を押して、舟歌をたいへんうまくうたっている 第 のは、とてもおもしろくて、高貴な方にもお見せ申しあげ をして迎え入れ、雨などが降って帰ることができない場合 たく思いながら行くと、風がひどく吹いて、海の面が、い 5 も、明るく快くもてなす。また、その宮仕え人たちが主君 しようき ちずに荒れに荒れてくるので、正気も失って、舟が泊る予 のもとへ参上しよう折には、そのことを世話をして、思い

9. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

りになってしまったので、その家では万事につけてひどく としても、まだ年が若くて男女の間柄についてひどく気楽 めのと な 言い立てて騒ぎ、女の乳母などというような者は、婿に対 に物馴れないような女は、やはりひたすら : して不吉な事をいろいろ言う者もいるのに、その翌年の正 くろ、つ一 二五四うれしきもの 月にその男は蔵人になってしまった。世間の人が「『意外 にも、こうした間柄なのに、どうして昇進したのか』とこ うれしいものまだ見ない物語のたくさんあるの。また、 そみんな人は思っているようだよ」などと言ってかれこれ 一つを見て、ひどく読みたく思われる物語の、二つ目を見 とうわさするのは、男もきっと聞いているだろうよ。 つけたの。ところが予想外に劣るようなこともあるよ。 ほっけはっ第 : っ 二月にあるお人が法華八講をなさった所に、人々が集っ 人の破り捨ててある手紙を拾って見る時、それのつづき てそれを聞いた折に、この蔵人になっている婿が、ロウの をたくさん見つけたの。 はかますおうがさねくろはんび 上の袴、蘇芳襲、黒半臂など、たいへん鮮やかな服装で、 どういうことなのだろうかと、夢を見て、恐ろしいこと とみお ゅめと 自分のすっかり忘れた女の車の鴟の尾を、あやうく自分の だと胸がつぶれる折に、夢解きの者が何でもないことのよ うに合せなどしたのは、ひどくうれしい 着物にひっかけてしまうぐらいの近さで居座っていたのを、 「どう思って見ているだろう」と、車に乗っている人をそ 身分の高い方の御前に人々がたくさん伺候している折に、 の女と知っている人はすべて気の毒がるのを、そうとは知昔あったことであれ、今お聞きあそばし、世間で話題にな ったことであれ、お話しあそばされることを、自分にお目 対らなかったその他の人たちも、「よくも平気で座っていた ~ ものだな」と、あとでも言った。 をお見合せになって、仰せあそばし、またはお言い聞かせ になっていらっしやるのは、とてもうれしい やはり男というものは、何かにつけて気の毒だと思う気 第 持とか、人がどう思おうかというようなことはわからない 遠い所はもちろんのこと、同じ都のうちながらでも、自 分の身にとっては大切な人と思う人が病気であるのを聞い 8 のであるようだ。 みやづか うぶな娘の場合は言うまでもない、たとい宮仕えをする て、どうだろうか、どうだろうかと不安にため息をついて かた

10. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

知ることはできなかったろうに、もし天にあって偽りを証拠 ただす 一八三したり顔なるもの なしに判断する糺の神がいらっしやらないのだったら ) というふうに、中宮様の御心持はあられるようです」とあ 得意顔なもの正月一日の早朝、最初にくしやみをした くろうど るので、すばらしいとも、残念だとも、心乱れて思うのに 人。競争のはげしい時の蔵人に、いとしくも、自分の子を じもく さカ つけて、やはり昨夜のくしやみをした人をこそ、探し出し任官させた人の様子。除目に、その年の第一等の国を自分 て聞きたいものだ。 のものとした人が、だれかがお祝いなどを言って、「たい 「薄さ濃さそれにもよらぬはなゅゑに憂き身のほどを へんお見事にも就任なさいました」などと言う応答に、 ひへい 知るそわびしき 「どういたしまして。たいへん尋常ならず疲弊しておりま ( 花なら、色の薄さ濃さ、そうしたことにうつくしさはよるす国だそうですから」などと言うのも、得意顔である。 でしようが、これは「花」ならぬ「鼻」なのですから、中宮 求婚者がたくさんあって、張り合っている中で、選ばれ 様をお思い申しあげる、いの薄さ、濃さ、そうしたことに、く て婿に取られたのも、自分こそはと、きっと得意に思うだ ちょうぶく しゅげんじゃいんふた しやみは左右されません。それだのにそのくしやみゆえに、 ろう。強情な物の怪を調伏した修験者。韻塞ぎの明けを、 せき わたくし つらい身となってしまっている私の立場を知るのは、気がめ早くしたの。小弓を射るのに、相手側の人が、咳をして妨 まと いることでございます ) 害して騒ぐのに、それを我慢して、音高く射て的に当てた ただ やはりこれだけは、よしなに正して申しあげあそばしてく のこそ、得意顔な様子である。碁を打つのに、それほどと ださいまし。式の神も自然見てくれているでしよう。たい も知らないで、欲張った心は、またあちこちほかの所にか へん恐ろしいことです」と書いて、中宮様に差しあげ申し かわりまわっているうちに、別の方から目もなくて、たく 第 あげてのちも、「不愉快にも、ああした折も折、なんだっ さん石を拾い取ったのも、うれしくないことがあろうか 自慢そうに笑って、普通の勝よりは、得意気である。 て、あんなふうに、とはいえ、くしやみなどしたのだろ としつきへ ずりよう う」と、ひどく嘆声を発したくなる感じだ。 久しい年月を経て、受領になった人の様子こそ、うれし いつわ ものけ がまん