薫 - みる会図書館


検索対象: 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩
472件見つかりました。

1. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

巻名本文中に「夢浮橋」の語はないが、「夢」の語は数回用いられている。薄雲巻に引かれる出典不明の古歌「世の中は 夢のわたりの浮橋かうち渡りつつ物をこそ思へ」との関係が考えられている。 よかわそうず 梗概横川に僧都を訪ねた薫は事のあらましを聞き、思わず落涙した。その薫の様子を見て、僧都は浮舟を出家させたこと を後悔もするが、小野の里への案内を希望する薫の懇請には、自らの僧としての立場からも、応じることはできない。わ ずかに浮舟への手紙を薫に伴った小君 ( 浮舟の弟 ) に託しただけであった。 たいまっ その夜、初夏の闇の中を横川から下山する薫一行の松明の光は、小野の山荘からも遥かに望まれた。浮舟は思い出を振 り捨てて、一心に阿弥陀仏を念じ続けるのであった。 薫は人目をはばかって小野に立ち寄ることはやめ、翌日あらためて小君を使者に立てた。僧都の手紙には、薫の愛執の 罪の消えるようにしてさしあげなさい、とあった。小君の姿を目のあたりに見る浮舟は、母のことなども無性に懐かしく、 すぐにも身を乗り出したいと思いながらも厳しく自省し、懸命な妹尼のとりなしにもかかわらす、小君との対面も拒み、 薫の手紙にも、人違いとして返事を書こうともしなかった。むなしく帰京した小君から話を聞いた薫は、あらぬ疑いさえ 抱くのであった。 〈薫二十八歳〉 やみ

2. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

巻名薫が宇治の姫君たちを回想して詠んだ歌、「ありと見て手にはとられず見ればまた行く方もしらず消えしかげろふ」 による。 梗概浮舟の失踪に、宇治の人々は動転した。不吉な予感を憂慮する母中将の君から再度の使者があり、匂宮も使者を遣わ した。浮舟の書置きから入水を知った右近は、雨をおかして宇治を訪れた中将の君に事実を打ち明け、薫の配下の反対を なきがら 押しきって、亡骸もないまま、その夜葬儀を営んだ。母女三の宮の病気平癒祈願に石山参籠中であった薫がこの事態を知 ったのは、葬送も終ってからである。彼は、軽率な葬儀をたしなめる使者を遣わす一方、浮舟を放置しておいたことを後 悔しつつ仏の諭しを思い、勤行に専心しようとするのであった。 匂宮は悲嘆のあまりに病床に臥した。それを耳にした薫は、浮舟との密通を確信するほかなく、恋しく悲しい気持も醒 める思いである。見舞に訪れても、さりげなく皮肉を言わずにはいられなかった。匂宮は、右近のかわりに二条院に参上 した侍従から、浮舟失踪の前後の経緯を聞きつつ、故人を追懐した。薫もやがて宇治を訪れ、浮舟の入水のことをはじめ て知る。悔い悲しむとともに、母親の悲嘆を察して中将の君を弔問し、弟たちの後見を約束した。 ひたちのすけ 薫は、浮舟の四十九日の法要を盛大に営んだ。中の君からもひそかに供物が届けられる。常陸介は、浮舟が自分の子供 たちとは比較にならない上流の生れであったことを実感するのだった。 一方、匂宮は、悲しみも少しは紛れるかと、新しい恋を求めはじめる。薫の数少ない思い人、小宰相の君 ( 女一の宮づ けそう きの女房 ) にも言い寄るが、世間並の懸想を拒む彼女は、なびかなかった。 もてあそ 夏、明石の中宮の法華八講の日、小宰相の君のもとを訪れようとした薫は、偶然氷を弄ぶ女一の宮をかいま見て、その 類ない高貴な美しさに魅了される。妻の女二の宮に同じ装いをさせてみたりもするが心は慰まず、しきりに中宮や女一の ひと 宮の身辺に出入りするようになった。女一の宮こそ、薫の思慕してやまぬあこがれの女であったのである。が、薫はそれ への近づきがたさを改めて痛感するほかなし糸。 、。吉よれなかった愛、かなわぬ恋に、薫の憂愁の思いは深まるばかりである。 しきぶきようのみや そのころ、式部卿宮 ( 蜻蛉の宮 ) の姫君が、父を喪って女一の宮のもとに出仕し、宮の君と呼ばれるようになった。か っては父宮が東宮妃にもと願い、また薫との縁談もあった姫君である。その没落、変転の運命を思い、女の宿運の定めな さを観するにつけ、薫は、いっしかまた、はかなく別れた宇治の姫君たちの上に、わが思いを馳せるのであった。 〈薫一一十七歳〉

3. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

たちばな 巻名宇治川を渡る舟の中で、匂宮の歌「年経ともかはらむものか橘の小島のさきに契る心は」に応えた浮舟の「橘の小島 の色はかはらじをこのうき舟ぞゆくへ知られぬ」の歌による。 梗概匂宮は、二条院で会った浮舟のことが忘れられす、中の君を責めるが、中の君は沈黙を続けている。一方、薫は悠長 にかまえて、宇治を訪れることも間遠であった。 年明けて正月、浮舟から中の君のもとに新年の挨拶が寄せられた。その文面から女の居所を知った匂宮は、家臣を通し てそれが薫の隠し女であることを知る。異常な興味につき動かされてひそかに宇治を訪れた彼は、薫を装って浮舟の寝所 に入り、強引に思いを遂げた。女が人違いと気づいたときには、もう取返しがっかない。 心と犯したわけではない過失に とうりゅう 浮舟はおののくが、身分を顧みす宇治に逗留する匂宮の、薫とは対照的な一途の情熱に、しだいに惹かれていくのであっ とーレき、 二月、ようやく宇治を訪れた薫は、物思わしげな浮舟の様子に、女としての成長を感じ取って喜ぶとともに、い はんもん も増し、京に迎える約束をする。秘密を抱く浮舟はただ煩悶するばかりである。 宮中の詩宴の夜、匂宮は、浮舟を思って古歌を口ずさむ薫の様子に焦燥の思いをつのらせ、雪をおかして再び宇治に赴 いた。邸内の人目もはばかられる。匂宮は浮舟を対岸の隠れ家に連れ出し、夢のような耽溺の二日間を過した。 歓喜と後悔、苦悶。その浮舟のもとに、薫から近く京に迎える旨が告げられてきた。一方、それを知った匂宮からは、 それに先立って彼女をわがもとに引き取ろうとの計画がひそかに知らされる。苦悩する浮舟の気持をよそに、事情を知ら めのと ぬ母や乳母は京移りの準備に余念がない。 やしき やがて匂宮との秘密が薫に察知される日がやってきた。宇治の邸で薫と匂宮双方の使者が鉢合せしてしまったのである。 薫から不倫を詰る歌が届けられる。右近の語る東国の悲話を耳にするにつけても、浮舟は身につまされるが、途方にくれ るしかない。追いつめられ、惑乱がつのり、ついには死を決意する。宇治の邸は、薫によって厳重な警戒体制が敷かれ、 無理をおして訪れた匂宮も、浮舟に逢えぬまま帰京するほかなかった。 不吉な夢見を心配して、母中将の君から文が届けられた。死を間近に思う浮舟は、薫や匂宮、母や中の君を恋いながら、 したた 匂宮と母の二人にのみ、最後の文を書き認めた。 〈薫二十七歳の春。ただし当巻本文中には一歳年長のはずの匂宮の年齢との間に矛盾がある〉 たんでき

4. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

御心にこそと聞こえ動かして、几帳のもとに押し寄せたてまつりたれば、あ一浮舟を。この几帳のすぐ外に っ 0 小君がいる。↓前ハー四行。 れにもあらでゐたまへる、けはひこと人には似ぬ心地すれば、そこもとに寄り = 人心地もないような思いで。 ひと 語 三几帳の向こうの女の気配を紛 四 五 こころ 物て奉りつ。小君「御返りとく賜りて、参りなん」と、かくうとうとしきを、心れもなく姉だと小君は直感する。 氏 四薫からの手紙を。 源憂しと思ひて、急ぐ。 五姉の他人行儀の態度が情けな 。早く返書を得て帰りたい気持。 尼君、御文ひき解きて見せたてまつる。ありしながらの御六浮舟に、薫の手紙を。 〔一 0 〕浮舟、薫の手紙を 七昔のままの薫の筆跡と思う。 見、人違いと返事せず 手にて、紙の香など、例の、世づかぬまでしみたり。ほの薫の筆跡。↓浮舟五四ハー一一行。 ^ 何にでも感心したがる出過ぎ 者。妹尼など ( ↓手習一七三ハー七 かに見て、例の、ものめでのさし過ぎ人、いとありがたくをかしと思ふべし 行 ) 。以下、浮舟の心内とは無縁 九 そうづ の妺尼を揶揄する語り手の評言。 薫さらに聞こえん方なく、さまざまに罪重き御、いをば、僧都に思ひゆるしき 0 薫の使者として立ち現れたのは ゅめがたり こえて、今ま、、ゝ。、 。しカてあさましかりし世の夢語をだにと急がるる心の、我紛れもないわが弟である。しかし 浮舟は、弟に心開けば、薫らとの ながらもどかしきになん。まして、人目はいかに。 関係を蘇らせ、忌まわしい過去に 戻りかねないことを恐れる。肉親 と、書きもやりたまはず。 への懐かしさをも抑えるほかない。 九浮舟が匂宮と密通したこと、 のり 自殺しようとして失踪したこと、 薫法の師とたづぬる道をしるべにて思はぬ山にふみまどふかな 救われても素姓を隠していたこと、 ゅ この人は、見や忘れたまひぬらむ。ここには、行く方なき御形見に見るもの無断で出家したことなど。 一 0 僧都の恩義を受け庇護されて にてなん。 いる浮舟の罪を、僧都の徳に免じ ( 現代語訳四〇八ハー ) ふみ きちゃう 六 へ

5. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

241 夢浮橋 人知れずゆかしき御ありさまをもえ見ずなりぬるを、おばっかなく口惜しくて、三山の風が吹くにしても。 一六待っていても返事を得られそ 心ゆかずながら参りぬ。 うにない状態。用もなく日暮れま で長居するのを避けた。 っしかと待ちおはするに、かくたどたどしくて帰り来た宅姉に心ひそかに会いたいと思 〔三〕薫、浮舟の心をはし う、弟の気持である。 かりかねて、思い迷う れば、すさまじく、なかなかなりと思すことさまざまにて、一〈薫は、小君がいっ帰るかと。 一九小君が、わけも分らぬことで。 人の隠しすゑたるにゃあらんと、わが御心の、思ひ寄らぬ隈なく落としおきたニ 0 期待が外れて、なまじ使者を 派遣しなければよかったと。浮舟 まへりしならひにとぞ、本にはべめる。 との再縁を希求するのではない、 薫の本心が透視されよう。 ニ一誰か男がひそかに浮舟を隠し 住まわせているのだろうかと。薫 自身が、あれこれ気をまわしたう えで、かって浮舟を宇治あたりに 捨て置いた経験から邪推する。 0 俗世の人間関係を断ち、阿弥陀 仏にすがって未来の平安を祈る浮 舟は、今さらどうして後戻りでき ようか。僧都の手紙さえ鵜呑みに することなく、孤立無援のなかで 必死に薫との交渉を拒むほかない。 その孤独できびしい生き方はおの ずと、薫の「人の隠しすゑたるに ゃあらん : こという、無理解と俗 情を際だたせることにもなる。 一七 ニ 0 一九

6. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

方と思ひて、薫「さもはべらん。さやうの人離れたる所は、よからぬ物なんか一中宮の言う「恐ろしき物や住 むらん」 ( 前ハー ) を受ける。 ならず住みつきはべるを。亡せはべりにしさまもなんいとあやしくはべる」と = 亡くなられた事情も、実に不 1 = ロ 可解。具体的な事実にはふれない 物て、くはしくは聞こえたまはず。なほかく忍ぶる筋を聞きあらはしけりと思ひ三以下、中宮の心中。 氏 四こちらで一部始終を聞き知っ ているのだと、薫のお思いになる 源たまはんがいとほしく思され、宮の、ものをのみ思して、そのころは病になり ことがお気の毒で。 六 五浮舟失踪当時、匂宮が消沈し たまひしを思しあはするにも、さすがに心苦しうて、かたがたにロ入れにくき て病気になったのを想起する。 六匂宮の横恋慕が原因とはいえ、 人の上と思しとどめつ。 やはり心痛む。母としての責任感。 ト宰相に、忍びて、中宮「大将、かの人のことを、いとあはれと思ひてのたセ薫の立場からも、匂宮の立場 からも、自分 ( 中宮 ) からロ出しし ひしこ、 にくい人 ( 浮舟 ) のこと。 しいとほしうてうち出でつべかりしかど、それにもあらざらむものゆ ^ 薫の愛人 ( ↓二〇二ハー ) 。自分 ゑとつつましうてなむ。君そ、ことごと聞きあはせける。かたはならむことは、の口からは言いにくいので、薫に 親しい小宰相に言わせようとする。 そうづ 九薫が、浮舟のことを。 とり隠して、さることなんありけると、おはかたの物語のついでに、僧都の言 一 0 薫への憐憫から彼に話そうと。 おまへ ひしこと語れ」とのたまはす。小宰相「御前にだにつつませたまはむことを、ま = その人かどうか分らぬのに。 一ニ小宰相は事情に詳しいとする。 ことひと して別人はいかでか」と聞こえさすれど、中宮「さまギ、まなることにこそ。ま横川の僧都の話以外に、姉からも 伝え聞いている。↓二〇三ハー四行。 一七 た、まろはいとほしきことそあるや」とのたまはするも、心得て、をかしと見一三薫に対して、不都合と思われ ることは、話さずに。 たてまつる。 一四中宮様でさえ遠慮なさるよう ・ ) さいしゃう うへ れんびん

7. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

源氏物語 68 しと、うちうめきたまひて、薫「人に見えでをまかれ。をこなり」とのたま一「を」は強意の助詞。 ニ自分が身分卑しい道定ふぜい あない と女を争ったら、物笑いになる意。 ふ。かしこまりて、少輔が、常に、この殿の御事案内し、かしこのこと問ひし 三式部少輔。道定の兼官。 な も思ひあはすれど、もの馴れてえ申し出でず。君も、下衆にくはしくは知らせ四薫の動静を探ったり、宇治の ことを尋ねたりしたのも。 五随身のような下々の者に。 じと思せば、問はせたまはず。 六薫・匂宮の双方から。 セ薫・匂宮を思う浮舟の物思い かしこには、御使の例よりしげきにつけても、もの思ふことさま、さまなり。 ^ 薫からの文面は。 九↓明石 3 八八ハー注九の歌。他 ただかくそのたまへる。 者に心を移したと詰問。 一 0 私を世間の物笑いにするな。 薫「波こゆるころとも知らず末の松待つらむとのみ思ひけるかな = 歌意が分ったように返事する 人に笑はせたまふな」とあるを、いとあやしと思ふに、胸ふたがりぬ。御返りと匂宮との仲を認めたことになる。 三何かの間違いだったら不都合。 こころえがほ 事を心得顔に聞こえむもいとつつまし、ひが事にてあらんもあやしければ、御一三他者への手紙がまちがって届 けられたと存じますので。 一三たが 文はもとのやうにして、浮舟「所違へのやうに見えはべればなむ。あやしくな一四なぜか気分がすぐれないので。 一五薫は。 やましくて何ごとも」と書き添へて奉れつ。見たまひて、さすがに、「いたく一六うまく言いのがれたものと。 宅浮舟を。彼女への執着である。 もしたるかな、かけて見およばぬ心ばへよ」とほほ笑まれたまふも、憎しとは 0 浮舟の不倫を知った薫は、彼女 の身分の卑しさを思うことで自ら の執着を合理化して詰問するだけ。 え思しはてぬなめり。 それが浮舟を窮地に追いつめる。 一〈浮舟の不倫を。 ふみ 六つかひ せうふ ゑ げ五

8. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

人々まかでてしめやかなるタ暮なり。宮、臥し沈みてのみはあらぬ御心地な一【憂愁の表情の優美な主人像。 宅他の見舞客の退散した後 れば、疎き人にこそあひたまはね、御簾の内にも例入りたまふ人には、対面し天儀礼的に見舞に来る人々。 一九簾中にいつも入れる身内のよ うな人。薫をさす。 たまはずもあらず。見えたまはむもあいなくつつまし、見たまふにつけても、 ニ 0 薫と顔を合すのも具合わるく いとど涙のまづせきがたさを思せど、思ひしづめて、匂宮「おどろおどろしき気がひけるし。浮舟との秘事ゆえ。 ニ一薫が浮舟ゆかりの人だから。 みなひと 一三ひどい病状でもないが。 、い地にもはべらぬを、皆人は、つつしむべき病のさまなりとのみものすれば、 ニ三匂宮は今上帝と明石の中宮か 内裏にも宮にも思し騒ぐがいと苦しく、げに世の中の常なきをも、、い細く思ひら格別に目をかけられている。繰 り返し語られてきた。 はべる」とのたまひて、おし拭ひ紛らはしたまふと思す涙の、やがてとどこほ一西現世の無常が薫の口癖。それ に「げに」と納得しながら、浮舟の らずふり落つれば、し。 、とよしたなけれど、かならずしもいかでか心得ん、ただ死を悼む気持も言外に出る趣。 一宝以下、匂宮の心中。必ずしも ニ六 めめしく心弱きとや見ゆらんと思すも、「さりや。ただこのことをのみ思すな薫は浮舟との秘事に気づくまい。 ニ六前ハー六 ~ さればよ : ・」に照応。 ニセ 以下、秘事を確信する薫の心中。 いつよりなりけむ。我を、いかにをかしともの笑ひしたまふ心地に、 毛匂宮と浮舟の関係は。 ニ ^ 薫はなんと薄情な人か。以下、 蛉月ごろ思しわたりつらむ」と思ふに、この君は、悲しさは忘れたまへるを、 冷静な薫を見ての匂宮の心中。 ニ九死別などでない場合でさえ。 「こよなくもおろかなるかな。ものの切におばゆる時は、いとかからぬことに 三 0 景物に感情の増幅される趣。 つけてだに、空飛ぶ鳥の鳴きわたるにも、もよほされてこそ悲しけれ。わがか三一薫が自分と浮舟の仲を知った ら、それほど、人の悲しみの分ら くすずろに、い弱きにつけても、もし心を得たらむに、さ言ふばかり、もののあぬ人でもないのに。 一七 三 0 のご みす せち ふ ニ九 たいめん

9. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

53 浮舟 宅薫とはじめて契り交したこと。 めより契りたまひしさまも、さすがにかれはなほいともの深う人柄のめでたき 以下、浮舟の心に即し、「かかる ニ 0 うきことあたりから直接話法。 なども、世の中を知りにしはじめなればにや。「かかるうきこと聞きつけて思 天薫を「かれ」と呼ぶのは、匂宮 に親近感を抱いているから。 ひ疎みたまひなむ世こよ、、ゝ。ゝ し。しカて力あらむ。いっしかと思ひまどふ親にも、思 一九薫が男女の仲を最初に知った はずに心づきなしとこそはもてわづらはれめ。かく心焦られしたまふ人、はた、相手だからか。挿入句的な言辞。 ニ 0 薫が、匂宮との秘事を聞いて。 ニ一早く薫に迎えられるようにと。 かかるほどこそあらめ、また、か , っ いとあだなる御心本性とのみ聞きしかば、 一三匂宮。その浮舟恋慕が「心焦 ニ六 ニ七 ニハ かず られ」の語で繰り返されてきた。 ながらも、京にも隠し据ゑたまひ、ながらへても思し数まへむにつけては、か ニ三匂宮の「あだ心」は世間の定評。 ニ四熱中している間はともかく、 の上の思さむこと。よろづ隠れなき世なりければ、あやしかりし夕暮のしるべ やがて冷めてしまうだろう。 ばかりにだに、かうたづね出でたまふめり、まして、わがありさまのともかく一宝このまま匂宮に捨てられず。 ニ六↓五一ハー二行。 きず もあらむを、聞きたまはぬゃうはありなんや」と思ひたどるに、わが心も、瑕毛末長い思い人としての世話。 夭中の君への恩義。 ありてかの人に疎まれたてまつらむ、なほいみじかるべしと思ひ乱るるをりしニ九匂宮が二条院で出会っただけ の自分 ( 浮舟 ) を見出したこと。自 分を隠れようのない存在とみる根 も、かの殿より御使あり。 拠。「 : ・たまふめり」まで挿入句。 三ニ 三 0 自分が宮にかくまわれ京のど これかれと見るもいとうたてあれば、なほ一一 = ロ多かりつるを見つつ臥したまへ こかにいても薫にすぐ知られよう。 れば、侍従、右近見あはせて、「なほ移りにけり」など、言はぬゃうにて言ふ。三一薫。次@かの殿」も薫。 三ニ匂宮の長々しい文面の手紙。 かたち 侍従「ことわりそかし。殿の御容貌を、たぐひおはしまさじと見しかど、この三三浮舟の心が薫から匂宮に。 うへ 三三 ニ九 三 0 ニ玉

10. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

とが なる咎もはべらずなどして、心やすくらうたしと思ひたまへつる人の、いとはする正妻ならばともかく。 一五世話をするのに、 格別の落度 なども先方になかったりして。 かなくて亡くなりはべりにける。なべて世のありさまを思ひたまへつづけはべ 一六薫らしい無常観の表現。 るに、悲しくなん。聞こしめすやうもはべるらむかし」とて、今ぞ泣きたまふ。宅あなたもご存じだろうが。匂 宮の秘事にさりげなく迫る。 これも、「いとかうは見えたてまつらじ。をこなり」と思ひつれど、こばれそ天薫。彼も涙顔を見せたくない。 一九匂宮は、薫の取り乱した態度 めてはいととめがたし。 、秘事を知られたかと気づく趣。 ニ 0 平静をよそおって。 けしき ニ一あなた ( 薫 ) が表だって世間に 気色のいささか乱り顔なるを、あやしくいとほしと思せど、つれなくて、 知らせないことだからとして、自 きのふ 匂宮「いとあはれなることにこそ。昨日ほのかに聞きはべりき。いかにとも聞分から弔問しない理由を述べた。 一三「つれなく」 ( 三行前 ) の繰返し。 こゅべく思ひたまへながら、わざと人に聞かせたまはぬことと、聞きはべりしニ三あなたのしかるべき相手とし て。匂宮の愛人として紹介したか ったとする。匂宮への痛烈な皮肉 かばなむーと、つれなくのたまへど、いとたへがたければ、一一 = ロ少なにておはし ニ四二条院にも出入りする縁故が ニ四 ます。薫「さる方にても御覧ぜさせばやと思ひたまへし人になん。おのづからあったのだから、しぜん宮のお目 にとまっていたかもしれぬ、の意。 ニ五当てこすって。 蛉さもやはべりけむ、宮にも参り通ふべきゅゑはべりしかば」など、すこしづっ ニ六病気の間は、つまらぬ世間話 ニ五 気色ばみて、薫「御心地例ならぬほどは、すずろなる世のこと聞こしめし入れで心騒がせるのはよくない、の意 浮舟の死ゆえの病臥と、皮肉る。 御耳おどろくも、あいなきわざになむ。よくつつしませおはしませ」など聞こ 0 匂宮と薫の悲嘆の質の相違に注 意。薫は自分の愚かな恥ともなり かねぬとして純粋には悲しめない。 えおきて、出でたまひぬ。 一九 な ニ六 一七 れい