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検索対象: 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡
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1. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

357 ( 付 ) 第 5 ~ 11 段 おおじ 大路に近い家の中で聞いていると、牛車に乗っている人っとした家に泊ったところ、とても疲れて、ただもうひた ありあけ いうし すだれ が、有明の月のおもしろさに車の簾を上げて「遊子なほ残すら寝入ってしまった。 ぎんしよう 夜が更けて、月の光が窓から洩れ入ったのだが、人々が りの月に行く」という漢詩を、すばらしい声で吟誦してい るのもおもしろい。馬に乗っていても、そんな人が外を通横になっていた上にかけてある夜着の上に、その月が白い るのはおもしろいものだ。 光をうっしなどしていたその風情は、たいへんにしみじみ あおり と、いにしみて感じられたのだった。そんな時にこそきっと、 そうした所で聞いている時に、泥障の音が耳に入ってく るので、いったいどんな人だろうかと、今している仕事も人は歌を詠むというものだ。 さし置いてのぞいて見ると、つまらない者を見つけた時に 一〇清水などにまゐりて、坂もとのばるほど は、奈一くしやくにさわる。 * 、かもと きよみずでら 清水寺やそうしたほかのお寺などにお参りして、坂本か 八森は らのばって行く時に、近くの家で柴をたく煙の香りがとて こがら もしみじみと身にしみて感じられるのこそは、おもしろい 森はうえ木の森。岩田の森。木枯しの森。うたた寝の いわせ ものだ。 森。岩瀬の森。大荒木の森。たれその森。くるべきの森。 立聞きの森。 よこたての森というのが耳にとまるのこそ妙なものだ。 森などといえるはずもなく、ただ木が一本だけあるのを、 何につけて森といったのだろう。 九九月二十日あまりのほど はせでら 九月二十日すぎのころ、長谷寺に参詣して、ほんのちょ いわた ぎっしゃ 一一夜居にまゐりたる僧を 〔ある本には「、いにくきもの」の下に次の段がある〕 夜居のために参上している僧を、まる見えではないよう ひばち にというわけで、部屋の中に入れて、冬は火鉢などを与え ずきよう ておくのに、誦経の声もしないので、眠たがってどうも寝 ているようだと思って、気を許して女房たちとあれやこれ

2. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

枕草子 306 うかと見えるものは、普通の女房としてお仕えする人が、 し」の歌のようになど不満だと感じられることこそないの も めのと からぎめ 御乳母になっているの。唐衣も着ず、裳をさえ、どうかす っ くろうど もくぞう ると、着けないようなかっこうで、御前に添い臥して、御 すけただという人は、木工の允で、蔵人になっているよ。 ちょうだい てんじようびと ひどく粗野で、いやな感じなので、殿上人や女房は「あら帳台の中を自分の居場所にして、女房たちを呼び使い、自 つばね わに」とあだ名をつけているのを、歌に作って、「強引な分の局に何か用事などを言いに行かせ、手紙を取り次がせ おわり などして、いるさまよ。その思い上がって羽ぶりをきかせ お人は、なるほど尾張人のすえであったのだったよ」とう かねとき たうよ。尾張の兼時の娘の腹なのだった。主上はこれを御ているさまといったら、言いつくせそうにさえない。 ぞうしき 雑色が蔵人になっているの。これも、去年の十一月の臨 笛でお吹きあそばされるのを、高遠はそばにお付き添い申 みこと 時の祭に、御琴を持っていた人とも見えす、若君たちと連 しあげて、「やはり調子を高くお吹きなさいませ。すけた 。しったいどこにいた人かと思わ だは聞くことはできませんでしよう」と申しあげると、主れ立って歩きまわるのま、、 上は、「どうして吹こう、そうはいっても、聞いてわかるれる。蔵人所の雑色以外の役から蔵人になっている人など ないない は、同じことだけれど、そんなにも感じられない。 だろう」と仰せられて、内々でばかりお吹きあそばされる のを、この時は向こうの御殿からこちらの中宮様の御もと 二四三雪高う降りて、今もなほ降るに へ渡御あそばされて、「ここにはこの者はいないのだった 雪が深く降り積って、今もやはり降る折に、五位も四位 な。今こそ吹こうよ」と仰せられて、心おきなくお吹きあ そばされるのは、たいへんおもしろい も、色が端麗で若々しいのが、袍の色はとてもきれいで、 とのいすがた カメの帯のついているのを、宿直姿で、腰にたくし上げて、 二四二身をかへたらむ人はかくやあらむと見 紫色のものも雪に色が映えて、濃さがまさっているのを着 あこめ ゆるものは て、袍の下の衵が紅か、さもなければ、仰々しい山吹色の いだしぎめ を出衣にして、から傘をさしているのに、風がひどく吹い 生れ変っている人がいるとしたら、その人はこうもあろ ( 原文一三一一ハー ) かさ ふ み

3. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

わらは たけばかりは衣の裾にはづれて、袴のみあざやかにて、そばより見ゆる童べの、解した。「童べ」「若き人」とも「取 りあつめおこし立てなどする」の せんぎい 若き人の、根ごめに吹き折られたる前栽などを、取りあつめおこし立てなどす主語。 一セ少女が、自分も前栽の世話な すだれ どをしたくてうらやましげに簾を るを、うらやましげに押し張りて、つき添ひたるうしろもをかし。 外に押し張って外を見ているさま。 天「小袿」を着た女性に付き添っ ている後ろ姿もおもしろい。作者 一八七、いにくきもの は室内から見ているのである。 一九おくゆかしい感じがするもの。 一九 、いにくきもの物へだてて聞くに、女房とはおばえぬ手の、しのびやかに聞ニ 0 「女房とは : ・」とわざわざ言う のは、、かにも上品な感じをいう か。「手」は、人を呼ぶためにたた えたるに、こたへわかやかにして、うちそよめきてまゐるけはひ。おものまゐ く手の音。 るほどにや、箸、匙などの取りまぜて鳴りたる。ひさげの柄の倒れ伏すも、耳ニ一「はいーと言うような返事 一三「けはひ」は、耳で聞く様子。 ニ三召しあがる意の尊敬語。 こそとまれ。 一西「取ります」は他動詞。音をと りまぜる、とみる。 打ちたる衣のあざやかなるに、さわがしうはあらで、髪の振りやられたる。 一宝提子。酒などを杯に注ぐ器。 あぶら すだれ いみじうしつらひたる所の、御との油は、まゐらで、長炭櫃にいとおほくおニ六「鉤」は、簾を巻き上げた時に 暇 ニ六 かけるかぎ形の金物。 一もかう みきちゃうひも こしたる火の光に、御几帳の紐の見え、御簾の帽額の上げたる鉤のきはやかな毛灰の掃目がきれいなこと。 ニ ^ 火鉢の内側に描いてある絵を ひをけ 第 まきえ いうか。一説、蒔絵。 るも、けざやかに見ゅ。よく調じたる火桶の、灰清げにおこしたる火に、よく ひばし ニ九 ニ九火箸が斜めに灰に刺してある さき かきたる絵の見えたる、をかし。箸のいときはやかに筋かひたるもをかし。 きめ きめすそ はしかひ てう はかま ニ七 ながすびつ え たふ きこ ひさげ

4. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

枕草子 204 すずしひとへ ひとえ かたみにうち見かはしたらむほどの、生けるかひなきよ。色黒き人の生絹単衣一練らない絹で作った単衣。 ニ薄く透いて見えるから。 着たる、いと見苦しかし。のし単衣も同じく透きたれど、それはかたはにも見三糊をつけて火のしをかけた練 絹製の単衣という。この文以下三 四 巻本にはない。 えず。ほその通りたればにゃあらむ。 四「のし単衣」に「ほそ ( ぞ ) 」とい われるものが通っているから、 「かたはにも見えす」というのであ 三二一物暗うなりて、文字も書かれずなりにたり。筆も使 ろうが「ほそーの実体不明。 ばつぶん 五跋文とみられる一段。『枕草 ひ果てて、これを書き果てばや。この草子は、目に 子』の成立事情を記すが本文の解 見え心に思ふ事を、人やは見むずると思ひて 釈如何により種々の異説があり、 今後検討を要する。「物暗う」以下 「書き果てばや」まで三巻本にはな 五くら 。「物暗うなりて」は、夕暮とみ 物暗うなりて、文字も書かれずなりにたり。筆も使ひ果てて、これを書き果 るが老眼ともみなし得る。 てばや。 六まさか人は見はすまい セ見事すっかり隠してある。 この草子は、目に見え心に思ふ事を、人やは見むずると思ひて、つれづれな ^ 「枕よりまた知る人もなき恋 を涙堰きあへずもらしつるかな」 さとゐ る里居のほど、書きあつめたるに、あいなく人のため便なき言ひ過ぐしなどし ( 古今・恋三平貞文 ) により、洩 れてしまった、の意で用いる。 なみだ 「枕」は書名とも関連あるか。 つべき所々あれば、清う隠したりと思ふを、涙せきあへずこそなりにけれ。 九伊周。正暦五年 ( 九九四 ) 八月内 さうし うちおとど 大臣。長徳二年 ( 究六 ) 四月大宰権 宮の御前に、内の大殿の奉りたまへりし御草子を、「これに何を書かまし」 帥に左遷。 しき ふみ 一 0 「まし」は仮想の助動詞。書く と、「うへの御前には史言といふ文をなむ書かせたまへる」とのたまはせしを、 き、うし よ か く ひとへ す びん

5. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

枕草子 334 ありあけ らむ 隠して、有明の月が、行き届かぬかげもなく輝いているの しろがね っ ( 山近い寺の夕暮の鐘は数多く撞くが、その音の一つごとに、 で、たいへんおもしろい。屋根の上は白銀などを葺いてあ すいしようくき かず そなたを恋しく思うわたしの心の数はわかっているであろ るような所に、水晶の岫などと言いたいような様子で、あ う ) るいは長く、あるいは短く、わざわざ掛けわたしてあるよ ながとうりゅう のに、格別な長逗留だこと」とお書きあそばしていらっし うに見えて、言うのにも言葉が足りないほどすばらしいっ したすだれ やるよ。 ららが見えるので、車は下簾も掛けない。 高々と簾を上げ 紙などの失礼にあたらなそうなのも、取り忘れて出かけ てあるので、車の奥までさし込んでいる月に、薄紫、紅梅、 はす うわぎ ている旅であるので、紫色の蓮の花びらに御返歌を書いて 白いのなど、七、八枚ばかり着ている上に、濃い紫の表着 差しあげることよ。 のとても鮮やかな光沢などが、月に映えておもしろく見え えびぞめかたもんさしぬき るそのかたわらに、葡萄染の固紋の指貫に、白い単衣をた くれないきめ 二八二十二月二十四日、宮の御仏名の初夜 くさん重ね、山吹色や紅の衣などを外にこばれて見えるよ ごぶつみようそや どうしどきよう のうし 十二月二十四日、中宮様の御仏名の初夜、御導師の読経うに着て、直衣の、とても白い紐を解いてあるので、直衣 よなか を聞いて出る人はーーー夜中もきっと過ぎてしまっているこ がはずれて、自然、肩の下に垂れて、ひどく車からその端 かよ とだろうーー・里へも下がり、もしくは、ひそかに通ってい がこばれ出ている。指貫の片一方は、とじきみの外に踏み る所へも夜のころに出かけるのでもあれ、車に一緒に乗っ 出されているかっこうなど、道で、人が出会ったら、おも ている道中こそおもしろいものだ。 しろいときっと見ることだろう。女は月の明るい光がきま 何日も降りつづいた雪が、今朝はやんで、風などがひど り悪くて、男の後ろの方へすべり出ているのを、男がしょ く吹いたので、つららがはなはだしく垂れ下がっているよ。 っちゅうそばに引き寄せて、まる見えにされて女がつらが りんりん 土などこそは、まだらに黒い所が多いけれど、建物の上は るのも、おもしろい。「凜々として氷鋪けり」という詩を、 しずや ただずっと一面に白い所に、いやしい賤の屋も雪で表面を幾度も誦んじておいでになるのは、とてもおもしろくて、 た ひも ひとえ

6. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

三〇二紋は : 三〇三夏のうは着は 三〇四かたちよき君達の、弾正にておは する : 三〇五病は : 心づきなきもの・ 三〇六 三〇七宮仕へ人のもとに来などする男の、 そこにて : 三〇八初瀬に詣でて、局にゐたるに : 三〇九言ひにくきもの 三一〇四位五位は冬。六位は夏・ : 品こそ男も女もあらまほしき事な ンめれ : 一二人の顔にとりつきてよしと見ゆる 所は 二一三たくみの物食ふこそ、いとあやし けれ 三一四物語をもせよ、昔物語もせよ : 三一五ある所に、中の君とかや言ひける ・ : 三四一一 ・ : 三四三 ・ : 三四三 ・ : 三四四 ・ : 三四四 ・ : 三四五 ・ : 三四五 ・ : 三四五 ・ : 三四五 ・ : 三四六 ・ : 三四六 人のもとに 三一六女房のまかり出でまゐりする人の、 車を借りたれば : 三一七好き好きしくて一人住みする人の一究 : 三一八清げなる若き人の、直衣も、うへ の衣も、狩衣もいとよくて : 三一九前の木立高う、庭ひろき家の : 三二〇見苦しきもの・ 一一三一物暗うなりて、文字も書かれずな りにたり。筆も使ひ果てて、これ を書き果てばや。この草子は、目 に見え心に田いふ事を、人やは見む ずると思ひて 三一三左中将のいまだ伊勢の守と聞えし 三二三わが心にもめでたくも思ふ事を、 人にり : 奥書 : ・ 一九七 : 一一 0 四 : ・ : 三四六 ・ : 三四七 ・ : 三四七 ・ : 三五 0 ・ : 三五 0 ・ : 三五四

7. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

一五「見ゅ」は、見られる、の意。 見えにしがな、とつねにこそおばゆれ。 直訳すれば ( 思い知っていると ) 見 おも られていたい。 かならず思ふべき人、とふべき人は、さるべきことなれば、とり分かれしも 一六とりたててうれしいというこ 一七 ともない。 せず。さもあるまじき人の、さしいらへをもうしろやすくしたるは、うれしき 宅ちょっとした受け答え。 天「かど」は才能・学芸・才気。 わざなり。いとやすきことなれど、さらにえあらぬことそかし。 「かどなからぬ」は「才ある」意。 おほかた心よき人の、まことにかどなからぬは、男も女もありがたきことな一九やや弁解的な言辞。 めり。また、さる人も多かるべし。 ニ 0 他人のうわさ。 ニ一非難したい気持がして。 一五人のうへ言ふを腹立つ人こそ 一三よくないことのようでもある。 ニ三噂に上った当人が自然と聞き はらだ 人のうへ言ふを腹立つ人こそいとわりなけれ。いかでか言はではあらむ。わっけて。 ニ四「もぞ」は、困ったことが起る かも知れないという懸念を表す。 が・身をばさしおきて、さばかりもどかしく一言はまほしきものやはある。されど、 段 : と困る。・ : といけない ~ けしからぬゃうにもあり、また、おのづから聞きつけて、うらみもぞする、あ一宝思い捨てるわけにはいきそう もない人。 第 ニ六考えて事情がわかる。了解す る。 ニ七 ねん ニ六と 、、とほしなど思ひ解けば、念じて一一 = ロはぬ毛「言はぬ」に感動をこめた「を」 また、思ひはなつまじきあたりは 「や」が添ったものとして、「言わ ないのだよ」のような意とみる。 をや。さだになくは、うちいで、わらひもしつべし。 み おほ 一六わ ニ四

8. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

おと るに、片っ方の人、しはぶきをしまぎらはしてさわぐに、念じて、音高う射て = 不審。一説、それほど取られ る所があるとも知らず。 当てたるこそ、したり顔なるけしきなれ。碁を打つに、さばかりと知らで、ふ三「ふくつけし」は、欲が深いこ と一 一四かた かかわる、す こと方より目もなくして、おほ一三「かかぐるは、 ノ、つけさは、またこと所にかかぐりありくに、 がるなどの意という。 かち ひろ く拾ひ取りたるも、うれしからじゃ。ほこりかにうち笑ひ、ただの勝よりはほ一四別の方から、目もなくて、の 意とみる。 こりかなり % 一五長い間ずっと同じ状態を続け ずりゃう ありありて、受領になりたる人のけしきこそうれしげなれ。わづかにある従ているさま。 一六失礼な態度で。 宅「ねたしと」は、仮に「ねたし 者もなめげにあなづりつるも、ねたしといかがせむとて、念じ過ぐしつるに、 とて」の意とみなす。 ずりよう われにもまさる者どものかしこまり、ただ「仰せうけたまはらむ」とついじゅ一 ^ 一旦受領になると。 一九「追従」。 うするさまは、ありし人とやは見えたる。女方には優なる女房うち使ひ、見えニ 0 以前と同じ人と見えようか。 いつのまにか出現する。 てうどさうぞくニ一 ざりし調度、装束のわき出づる。受領したる人の、中将になりたるこそ、もと一三近衛の中将。 ニ三もともと君達 ( 貴族の息子 ) の きんだち 段君達のなりあがりたるよりも、けだかう、したり顔に、いみじう思ひたンめれ。身分の人。 一八四位こそなほめでたきものにはあれ。同じ人ながら、 第 大夫の君や、侍従の君など聞ゆるをりは かたかた ニ 0 一七 かた ずん

9. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

て、夜鳴くものはすばらしい チトモ、それはすばらしくないよ。 二五一せめておそろしきもの 子 かみなり 二四九八月つごもりに、太秦に詣づとて ひどく恐ろしいもの夜鳴る雷。近い隣に盗人が入って 草 うずまささんけい いるの。自分が住む所に入っているのは、ただもう無我夢 八月末に、太秦に参詣するということで外出した。穂が 枕 出ている田に、人がたいへんたくさんいて騒ぐ。稲を刈る中なので、何ともわからない。 ま のであった。「さ苗取りし、いつの間に」と歌にあるのは、 かも 二五二たのもしきもの ほんとうになるほど、先だって、賀茂に参詣するとて道で ま ずほう 頼もしいもの病気のころ、坊さんがたくさんいて修法 見たそのさ苗が、いつの間にかしみじみと心にしみて感じ をしているの。愛する人が病気のころ、はんとうに頼みに られる風情にもなってしまっていたのだったよ。この場合 なる人が、話をしてなぐさめて、頼りにさせているの。何 は女性もまじってはいず、男が片手に、とても赤い稲で、 か恐ろしい時の、親たちのそば。 根もとは青いのを刈って持って、刀か何だろうか、根もと らくらく を切る様子が楽々としていてすばらしいので、ひどく自分 二五三いみじうしたてて婿取りたるに でやってみたいように見えることだよ。どうしてそんなこ りつば とをしているのだろうか、穂を上に向けて立てて、自分た たいへん立派な支度をして婿を取ったのに、たちまちの うちにそこに通って来なくなった婿が、しかるべき所など ちは並んで腰をおろしているのが、とてもおもしろく見え しゅうと で舅に出会っているのは、さすがの婿も舅を気の毒と思っ る。仮小屋の様子が変っている。 ているだろうか 二五〇いみじくきたなきもの ある人が、たいへん時めいている人の婿となって、たっ ほうき ひどく汚いものなめくじ。粗末な板敷を掃く箒。殿上た一か月ぐらいもはかばかしくも通って来ないでそれつき か り や きたな せん ′」うし の合子。 めすびと

10. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

枕草子 2 三二三わが心にもめでたくも思ふ事を、人に語り わが心にもめでたくも思ふ事を、人に語り、かやうにも書きつくれば、君のニ以下能因本の単独跋文。三二 ・三二二段とほば同内容である が単なる異文とは考えにくい しとかしこし。 御ためかるがるしきゃうなるも、 系統の本の跋文を集成付加したも のかとも考えられている。その場 されど、この草子は、目に見え心に思ふ事の、よしなくあやしきも、つれづ 合どの跋文を本来のものと認める かについては田の解説を参照のこ れなるをりに、人やは見むとするに思ひて書きあつめたるを、あいなく人のた と。必要な点のみ注するのでその びん 他は両段の注を参照されたい。 しとよく隠しおきたりと思ひしを、 め便なき言ひ過ごししつべき所々あれば、、 三「よしなくあやしき事をも」の 意とみる。 涙せきあへずこそなりにけれ。 四不審。人が見るはずがないと さ、つし うちおとど いうふうに、の意とみなす。 宮の御前に、内の大殿の奉らせたまへりける草子を、「これに何をか書かま しき こきん 五『史記』百三十巻一そろいとは し」と、「うへの御前には史記といふ文をなむ、一部書かせたまふなり。古今 考えにくい 一冊の意か。 をや書かまし」などのたまはせしを、「これ給ひて、枕にしはべらばや」と啓六『古今集』。『史記』に対応する。 え せしかば、「さらば得よ」とて給はせたりしを、持ちて、里にまかり出でて、 やがて持ておはして、いと久しくありてそかへりにし。それより染めたるなン めりとぞ。 ふみ 五 六 一底本表記「染たる」。「初む」は 「染む」と同語源であろうが上に動 詞を冠せずに用いるのは不審。三 巻本の「ありきそめたるなめりと ぞ本に」に従うべきか。仮に左中 将の心を染めたとみる。 ばつぶん