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検索対象: アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1
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1. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

についた。給仕の娘はモリーではなかった。その娘のいうところによると、モリーはきょ きゅうか うは休暇だということだった。 じこく ちょうど七時、まだこみあう時刻ではなかったので、その娘を相手に、ガスコイン老人 わだい の話題をもちだすのは、むずかしくはなかった。 「ええ。あのかたは、ずいぶん長いあいだ、つづけてお見えになっていましたわ。」彼女は いった。「でも、わたしたち店のものは、だれもあのかたのお名前をそんじあげなかったん しんぶんけんししんもん です。たまたま新聞に検死審問のことがでて、そこにあのかたのお写真がのっていました ろうじん の。『ねえ、これ、例の〈ひげのご老人〉じゃなくって ? 』って、わたし、モリーにいいま した。うちでは〈ひげのご老人〉でとおっていましたの。」 な 「亡くなった晩に、ここで食事をしていったそうだね ? 」 「そうですわ。三日の木曜日でした。いつでも木曜日にはおいでになるんです。火曜日と 木曜日ーー時計みたいに正確に。」 「ひょっとして、そのときなにを食べたかおぼえていないかね ? 」 A 一り・に′、い 「ええと、ちょっとお待ちくださいましよ。はじめは鶏肉入りのカレースー。フでした。ま ちがいありません。それから、ビーフステーキ・プディングーーそれともマトンだったか きゅうじむすめ ばん せいかく みせ むすめあいて しやしん ろうじん 51 ボワロの事件簿

2. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

けろと警告しておられるんだ。それを警告しに、きようわざわざここへ : ボワロはうなずいた。するとハリスンは、いきなりはじかれたように立ちあがった。 ぶんめいこく 「しかし、それはばかげていますよ、ボワ口さん。ここは文明国イギリスなんですよ。そ どく こいがたきせなかさ ういうことはこの国では起こりません。ふられた男が恋敵の背中を刺したり、毒をもった ) 」かい りすることはないんです。それにあなたは、ラングトンという男をも誤解しておられる。 あの男ははえも殺せない男ですよ。 「はえの生死はわたしには関ありません。」ボワ 0 はおちつきはら 0 てい 0 た。「しかし、 かりにあなたのおっしやるように、ラングトン氏がはえも殺せない男だとしても、その彼 じゅんび が、数千びきのすずめばちの命をとろうと準備している、それをわすれてもらってはこま ります。」 たんてい ハリスンはすぐには返事ができなかった。かわって小男の探偵が立ちあがると、友人の こうふん あいて おおがら あゆ かた そばに歩みより、その肩に手をかけた。ひどく興奮して、相手の大柄なからだをがくがく ゆすらんばかりにしながら、その耳もとで強くささやきかけた。 そら、 「しつかりしなきゃいけません。目をさますことです。そして、ごらんなさい わたしのゆびさしているところを。あの斜面の上、大きな木の根もとのところです。見え ころ け いのち しやめん ころ ゅうじん 19 ボワロの事件簿

3. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

がんらい 「ほら、 いったとおりだろう ? ーポニントンがうなるようにいった。「女ってのは、元来、 食べるもののことではあてにならないものなのさ ! 」 彼はレストランのなかを見まわした。 「世のなかというのはおもしろいものでね。そら、あのすみの席に、あごひげをはやした おかしな風体の老人がいるだろう ? モ リーにきけばわかるが、あの老人はいつもきまっ て火曜と木曜の夜にこの店にあらわれる。かれこれもう十年ちかくもかよってきているそ いわばこの店の商標みたいなものだよ。ところが、あの老人の名前とか、どこに しよくぎ ) よう 住んでるかとか、職業はなにかってことになると、店のものもだれも知らない。考えてみ ればおかしな話さ。」 しちめんちょう ウェイトレスが七面鳥をはこんでくると、彼は話しかけた。 ろうじんせいきん 「あいかわらずあのひげの老人、精勤ぶりを発揮しているようだね。」 「そうですわ。火曜日と木曜日があのかたのお見えになる日です。でも先週だけは、月曜 日にもいらっしゃいましたのよ ! あのときはすっかりあわててしまいましたわ ! 自分 が日をまちがえて、きようは火曜日だったかしらと思ったくらいですもの。でも、つぎの りんじ 晩もつづけておいでになりましたのでーーそれで、月曜日はいわば臨時だったんだなと思 ふうてい ろうじん しようひょう みせ はっき せき

4. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

感じた。クイン氏のことばのひとつひとつ、その声のひびきのすべてが、ある目的をはら んでいることはまちがいない。彼はなにかをねらっているーーーなにをねらっているのかは かいわ はんぜん まだ判然としないが、クイン氏が会話を思いどおりの方向へもってゆこうとしていること はたしかだ。 ちょっとのあいだ話がとぎれ、それからイヴシャムがまたもとの話題にもどった。 じけん 「例のアプルトン事件だが、いまはっきり思いだしたよ。どえらいさわぎだった。あの女 きんばっ ほうめん いろじろ は放免されたんだろう ? 美人だったな。とびきり色白でーーー自がさめるほどの金髪だっ ほとんど自分の意志に反して、サタースウェイト氏の目は、階段の上にうずくまってい すがた るひとの姿をさがしもとめた。あれは気のせいなのか、それともたしかに見えたのか み ひとかげ その人影がまるで打たれでもしたように、わずかに身をちちめたように思えたのは ? と どうじ 同時に、手があがって、そばのテーブルクロスにかかり、そこでためらったように見え たーーーそれも気のまよいか ? ガチャン、とガラスの落ちる音がした。アレックポータルがウイスキーをつごうとし て、デキャンターをとりおとしたのだ。 し し はん びじん し ほ、つ、」、つ かいだん わだい もくてき = クインの事件簿 137

5. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

人のそれとおなじ、ゆだんのなさそうな光がやどっている。 しにせ アイザックⅱポインツとレオⅡスタインは、ハットン・ガーデンに店をもっ老舗のダイ しよう きようふさい べっせかい ヤモンド商だった。マロウェイ卿夫妻は、いわば、彼らとは別世界の人種であるー・ーっま り、アンティーブかジュアーン・レ ンに家をもち、サン・ジャン・ド・リュッツでゴ しよとうおよ ルフをし、冬にはマデイラ諸島で咏ぐ、といった人種だ。 ろう ふさい ゆり てんけい 外から見たかぎりでは、この夫妻こそ、〈労せず、紡がざる百合〉の典型のように見え かんぜんしんじっ る。だが、おそらくこれは完全な真実ではあるまい。彼らも彼らなりの方法で、労し、か っ紡いでいるにちがいないのだ。 むすめ 「ああ、あの娘が帰ってきましたよーと、エヴァンⅡルウエリンがラスティントン夫人に . し / くろかみせいねん おおかみ ルウエリンは黒髪の青年だった。かすかにではあるが、どこか飢えた狼のような感じを みりよく ただよわせていて、ある種の女性には、それがたまらない魅力になっている。 ふじん はたしてラスティントン夫人の目にもそのようにうつっているかどうかは、いちがいに は断定しかねた。もともと、心のうちをかるがるしく外にあらわすような女性ではないの わか けっこん りこん けつか だ。ごく若いうちに結婚したが、一年とたたずに離婚する結果になった。それ以来、ジャ じん だんてい しゅじよせい じんしゅ みせ じよせい ろう ふじん 200

6. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

きんせん といって、あれほどかわっている人物もめずらしかった。金銭にこまかいことはおどろく かねも いっしゅびようき それでいてたいそうな金持ちなのだ。だがヒ ほどで、ああなると一種の病気にちかい かたみ ふじんちゅうじっ ル夫人は忠実につとめて、たいがいのことはがまんしてきた。だから、なにがしかの形見 きたい とうぜん をもらえると期待しても当然ではないか。ところがあきれたことに、それがまるでないー し ぜんざいさんつま ゆいごんじよう 古い遺言状があって、全財産を妻にのこす、妻が自分よりさきに死んだ場合は、し を弟のヘンリーにゆずるとしてあったが、それはずっとむかしに作成されたもので、どう しょち こうせい 考えてもあの処置は公正とは思えない。 ふまん それとなくエルキ = ールⅱボワロは彼女を誘導して、目算のはずれた不満から、彼女の 話題をそらしにかかった ふじんきず ふとうしょち ヒル夫人が傷つき、あきれたのもむりは それはたしかに冷酷かっ不当な処置であるー しゅうち し かね ない。なにしろガスコイン氏が金にきたなかったことは、周知の事実なのだ。聞くところ きょぜっ えんじよようせい によれば、たったひとりの弟から援助を要請されたときも、故人はすげなくそれを拒絶し しようち たそうだが、ヒル夫人もそのことはたぶん承知のことと思う。 「じゃあラムジー先生がお見えになったのは、そのことだったんですか ? 」と、ヒル夫人 は聞きかえした。「なにか弟さんのことでおいでになったのは知っていましたけど、それは わだい れいこく じんぶつ ゅうどう もくさん こじん さくせい じじっ ふじん

7. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

くろかみ せ 黒髪で背の高い、やせた人物でしよう。 「自分の好むときのほかは、だれからもその姿をかくして見えなくなれる存在です。すこし人間 じけん かんしん こいびと ばなれしていますが、人間の事件、ことに恋人たちに関心をもっています。彼は死んだ人たちの じけんば じよぶん 弁護者でもありますーと、クリスティは『クイン氏の事件簿』 ( 一九三〇年 ) の序文で語っています。 ゅうれい れんあい 肉体をもった幽霊とよぶにふさわしいクイン氏は、恋愛がらみの事件が起きそうになると、だ しゆっげん しぬけにその場に出現します。そして、愛するあまりにたがいに信じられなくなった恋人たちを むじっ つみ すくったり、無実の罪におとされた恋人を助けたりするのです。 とうじよう クイン氏が登場するとき、そこにはかならずといってよいほど、小柄なサタースウェイト老人 げんば ねこぜ たにん も現場にいあわせます。〈やや猫背で、干からびた感じの人物〉で、他人の生活ぶりに深い関心を じんせい ほうかんしゃ いだいています。いわば人生の傍観者というべき老人ですが、クイン氏のさりげないことばから、 ひげき 悲劇の裏にある真相を見ぬいて、恋人たちを助ける役をはたすことになるのです。 こうふく そうだん ハイン「あなたは幸福ですか ? そうでないかオを こよ、わたしに相談してください。 リッチモンド街一七番地 。ハイン」 べんごしゃ ページぜんぶを、ボワロ探偵の死亡記事で埋めたほどです。それほどボワロ探偵ファンが多かっ た、ということでしよう。 にくたい ー丿ー この ′ーリクイン クイン探偵役として、もっともふしぎな人物が、道化師という奇妙な名前をもつ、 すがた しんそう たんていやく たんてい ひ し じんぶつ こがら そんざい きみよう ろうじん 238

8. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

「いえ、けっこうです。いすをすこしうしろへずらしますから。」 なんていい声なんだろうーーー・例の低い、ささやくような、それでいて、いちど聞いたら きおく 彼女の顔はいまかげに いつまでも記憶にのこる声だ、そうサタースウェイト氏は思った。 , ざんねん なっている。残念しごくだ。 せき そのかげになった席から、彼女があらためてたずねた。 「その ケイベルさんとおっしやるのは ? 」 じさっ 「ええ。この家のもとのもちぬしでしてね。。ヒストル自殺をなさいましたの。ええ、ええ、 わかってますよ、トム。あなたがおいやなら、この話はやめることにしましよう。ほんと じけん に、トムにはひどいショックでしたわ。なにしろ、事件が起こったとき、この家にいあわ せたんですから。あなたも、でしたわね、リチャード卿 ? 「ええ、そうです。」 ゆかお どけい このとき、部屋のすみにおかれた大きな時代ものの箱入り床置き時計がうめきだし、ひ としきり、ぜんそく病みのようにぜいぜいうなったあげくに、おもむろに十二時を打った。 ちょうし 「新年おめでとう」と、イヴシャムがおざなりな調子でいった。 あみもの レディ ー・ローラはひざにひろげていた編物を、どこかわざとらしい手つきでゆっくり しんねん へや じだい きよう 112

9. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

「さよう、じつのところスペンス夫妻は、もつばら夫婦で踊りたがりましてね。あの二人、 もっか ねっちゅう 目下ダンスに熱中しているんです・ーーーこったステップとかなんとか、いろいろやってま すよ。」 「すると、クレイトン夫人はおもにリッチ少佐と踊ったことになりますな ? 」 「そういうわけです。」 「で、そのあとポーカーをなさった ? 「ええ。」 「おひらきになったのは ? 」 「わりと早い時間でしたね。十二時ちょっとすぎだったかな。 「みなさん、いっしょにお帰りになった ? 」 あいの 「ええ。じつのところ、タクシーに合乗りしましてね。まずクレイトン夫人をおろし、つ ふさい ぎにわたし、最後にスペンス夫妻がケンジントンまでいったはすです。」 ざいたく つぎにわたしたちがたずねたのは、スペンス家だった。在宅していたのは夫人のほうだロ しようさ けだったが、 / 彼女の話は、カーティス少佐のそれとこまかなところまで一致した。ちがっ しようさ うん ていた点といえば、リッチ少佐のカード運の強さを、いくらかいやみまじりに聞かされた ふじん ふさい しようさ おど ふうふおど ふじん ふじん

10. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

しゅ かくせいき の小屋が三つもあって、それそれがべつの音楽を拡声器から流している。 まど 「窓をしめよう。これでは話もでぎない。」 まど し ポインツ氏がふきげんにいって、自分から窓をしめにいっこ。 いちどう 一同がテーブルをかこんで席につくと、ポインツ氏は満面に笑みをたたえて客たちを見 じしん まわした。この客たちをじゅうぶんにもてなしているという自信があったし、そのうえ、 よろこ しせんじゅん 彼の視線が順ぐりに客のうえにとまった。 ひとをもてなすのがなによりの喜びでもあった。 / かんぜんほんもの じようりゅうふじん きようふじん りつばな上流夫人だ。むろん、完全な本物とはいえない。 まず、マロウェイ卿夫人 じん クレム・ド・ラ・クレム いっしよう それはよくわかっているーー、彼が一生をつうじて〈社交界の粋〉とよびならわしてきた人 しようち そんざい ふさい 種は、マロウ = ィ夫妻などとはほど遠い存在だということは、じゅうぶん承知のうえだ。 簿 し いちりゅうじんし しかし、そうよばれるほどの一流人士となると、むこうがポインツ氏を相手にしてくれ事 の ン / . し イ きようふじん いきびじん だから、たまにブリッジでい ともあれ、マロウェイ卿夫人はすばらしく粋な美人だ きよう かさまをやることがあっても、大目に見ることにしている。だが、ジョージ卿にはそんなカ まねはさせない。見るからにこすからそうな目をして、金もうけとなると、どんなことで ばあい . し、刀十 / もやりかねない男だ。しかし、このアイザックⅱポインツが相手の場合は、そうま、 こや せき おおめ え まんめん かね あいて きやく 203