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検索対象: 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩
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1. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

ありしさまなど、すこしはとりなほしつつ語りきこえたまふ。匂宮「隠したま一中の君にうまくとりつくろい。 ニ中の君が浮舟の素姓や境遇を。 ヤとひと むつ ひしがつらかりし」など、泣きみ笑ひみ聞こえたまふにも、他人よりは睦まし三中の君は浮舟の異母姉ゆえ。 語 四大げさに格式ばって、宮が病 物くあはれなり。ことごとしくうるはしくて、例ならぬ御事のさまもおどろきま気だとあれば大騒ぎする邸。以下、 氏 正室六の君のいる六条院のさま。 ちちおとど 源どひたまふ所にては、御とぶらひの人しげく、父大臣、せうとの君たちひまな = 六の君の父右大臣。タ霧。 六こちら二条院は。 きーもいと , つるさきに、 セ以下、匂宮の心中。いまだに ここはいと、いやすくて、なっかしくぞ思されける。 浮舟の死が信じられない。「なほ」 は「いぶせければ」にかかる。 いと夢のやうにのみ、なほ、いかでいとにはかなりけることにかはとのみい ^ 宮の宇治行に従う時方や道定。 ぶせければ、例の人々召して、右近を迎へに遣はす。母君も、さらにこの水の九右近に事の潁末を語らせたい。 一 0 母中将の君は雨の日に宇治に おと こころう 音けはひを聞くに、我もまろび入りぬべく、悲しく心憂きことのどまるべくも来て葬送に立ち会った。↓九三ハー。 = 忌にこもって念仏する僧たち。 あらねば、し 、とわびしうて帰りたまひにけり。念仏の僧どもを頼もしき者にて、彼ら以外に頼れる者とてない。 三匂宮の使者の時方らが。 とのゐびと いとかすかなるに、入り来たれば、ことごとしくにはかに立ちめぐりし宿直人一三薫の命で厳重に警戒し ( 浮舟 七三ハー ) 、匂宮の接近を拒んだが みとが どもも見咎めず。あやにくに、限りのたびしも入れたてまつらずなりにしよと、 ( 浮舟八〇ハー ) 、今は警戒を解いた。 一四皮肉にも、今にして思えば最 一六 思ひ出づるもいとほし。さるまじきことを思ほし焦がるることと、見苦しく見後の対面の機会だったのに、宮を 邸内に導くことができなかった。 一七 たてまつれど、ここに来ては、おはしましし夜な夜なのありさま、抱かれたて以下、時方らの回想である。 一五宮がおいたわしい 一六かっては匂宮の横恋慕と批判 まつりたまひて舟に乗りたまひしけはひのあてにうつくしかりしことなどを思 れい い一 だ八

2. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

いたづらになして思ふらん親の、いに、よほ、このゆかりこそ面だたしかりけれ一娘の縁で面目を施すことがで 0 きたと、母君から思われたい。浮 舟の縁者を後援する心算。 と思ひ知るばかり、用意はかならず見すべきこと」と思す。 ニ母君の居所。三条の小家か。 語 ひたちのかみ 物かしこには、常陸守、立ちながら来て、「をりしもかくてゐたまへることな三浮舟の住いなどを、母君は常 氏 陸介に知らせていなかった。薫に 源む」と腹立つ。年ごろ、いづくになむおはするなど、ありのままにも知らせざ迎えられた後に、面目を施すべく 知らせようの心づもりだった。 りければ、はかなきさまにておはすらむと思ひ言ひけるを、京になど迎へたま四浮舟が死んでしまったので。 五これまでの事情を。 のちめいばく ひてむ後、「面目ありて」など知らせむと思ひけるほどに、かかれば、今は隠六薫の弔問の手紙。↓一一七ハー セ貴人をあがめて、田舎人らし く、何にでも感心する人で。常陸 さんもあいなくて、ありしさま泣く泣く語る。大将殿の御文もとり出でて見す 介の性分。↓東屋一三七ハー一行。 ひな ^ 薫の手紙を繰り返し見て。 れば、よき人かしこくして、鄙び、ものめでする人にて、おどろき臆して、う 九以下、薫につながる幸運を喜 す ち返しうち返し、常陸守「いとめでたき御幸ひを棄てて亡せたまひにける人かな。ぶ気持から、常陸介の言動が急変。 一 0 自分も薫の家来として。 とのびと と = もしも浮舟が存命ならば。夫 おのれも殿人にて参り仕うまつれども、近く召し使ひたまふこともなく、い の喜ぶ態度に、あらためて浮舟の けだか 気高くおはする殿なり。若き者どものこと仰せられたるは頼もしきことにな死を悲嘆せざるをえない。 一ニ「さるは」と、観点を変え、薫 んーなど、よろこぶを見るにも、まして、おはせましかばと思ふに、臥しまろの心情に即しての語り手の評言。 薫の常陸介後援が浮舟の死の代償 によるものだけに、浮舟存命なら びて泣かる。守も、今なんうち泣きける。 ば考えられぬことだとする。 一三浮舟を放置したとする悔恨。 さるは、おはせし世には、なかなか、かかるたぐひの人しも、尋ねたまふべ 五 ふみ おも おく ふ

3. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

一気持が落ち着くとかえって。 に、やうやう涙尽くしたまひて、思し静まるにしもそ、ありしさまは恋しうい ニ無性に涙顔でいるのを。 おほむやまひ ひと みじく思ひ出でられたまひける。人には、ただ、御病の重きさまをのみ見せて、三どんな女のことで。 語 五かねての推測の的中する思い 物かくすずろなるいやめのけしき知らせじと、かしこくもて隠すと思しけれど、 氏 六文通のみならず、情交もあっ あやふ 源おのづからいとしるかりければ、「いかなることにかく思しまどひ、御命も危たろうと推測。「 : ・けり」と、確信。 セ宮が必ず執心するはずの女。 きまで沈みたまふらん」と言ふ人もありければ、かの殿にも、いとよくこの御男を魅了させる浮舟の美貌をいう。 ^ もしも浮舟が存命ならば。 ふみ 五 けしき 気色を聞きたまふに、「さればよ。なほよその文通はしのみにはあらぬなりけ九他人の場合よりも。匂宮と自 分 ( 薫 ) が同族で近親の関係だから、 り。見たまひてはかならずさ思しぬべかりし人ぞかし。ながらへましかば、た愚かしく恥をさらすところだった。 一 0 浮舟の死に胸をなでおろす気 だなるよりは、わがためにをこなることも出で来なましと思すになむ、焦が持さえまじる。 一一匂宮は東宮候補とされるだけ 、世人から重視されている。 るる胸もすこしさむる心地したまひける。 三たいした身分でもない者 ( 浮 宮の御とぶらひに、日々に参りたまはぬ人なく、世の騒ぎとなれるころ、こ舟 ) の喪にこもり。女二の宮にも 同じ言い方をした。↓九九ハー三行。 きは とごとしき際ならぬ思ひに籠りゐて、参らざらんもひがみたるべしと思して参一三前に娘を薫にと志したが果せ なかった人 ( ↓東屋一五〇ハー ) 。 おほむをぢぶく しきぶきゃうのみや りたまふ。そのころ、式部卿宮と聞こゆるも亡せたまひにければ、御叔父の服薫の叔父とあるので源氏の異母弟。 きようぶく 一四叔父の服喪は三か月で、軽服。 うすにび 一五うち にて薄鈍なるも、心の中にあはれに思ひょそへられて、つきづきしく見ゅ。す一 = 表だった妻妾ではない浮舟の ための喪服でないが、叔父のため のそれに浮舟を悼む気持をこめる。 こし面痩せて、いとどなまめかしきことまさりたまへり。 おもや ひび 一も 四 九 ひと

4. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

91 蜻蛉 一五けが ひきこえさせたまへりしありさまなども、聞こえさせはべるべき。この穢らひ一五死の穢れの。近親者が三十 日間家にこもる など、人の忌みはべるほど過ぐして、いま一たび立ち寄りたまへーと言ひて泣一六乳母の声かと、時方が推測。 宅浮舟を親しんでの呼称。 一〈以下、普通の死を一一 = ロうにして こといといみじ。 は、不審のこもる言辞である。 うち なきがら 内にも、泣く声々のみして、乳母なるべし、「あが君や、いづ方にかおはし一九亡骸さえ見てないとする。尋 常の死ではないと思わせる一一 = ロ辞。 一九 から ましぬる。帰りたまへ。むなしき骸をだに見たてまつらぬが、かひなく悲しくニ 0 乳母が思い申し、の意。 一 = 以下、薫に迎えられるのが、 もあるかな。明け暮れ見たてまつりても飽かすおばえたまひ、いっしかかひあ浮舟の生きがいだったとする。 一三浮舟の「かひある御さま」は、 あしたゆふべニニ る御さまを見たてまつらむと、朝夕に頼みきこえつるにこそ命も延びはべりつ自分たちの生きがいでもある意。 ニ三たとえ、人間ならぬ鬼神でも。 す おにがみ しゆみ れ、うち棄てたまひて、かく行く方も知らせたまはぬこと。鬼神も、あが君を = 四帝釈天。仏教の守護神。須弥 せん とうりてん ニ四 山の頂上、朷利天に住む。老齢の りゃう たいしやく 長者夫妻が、国王に誤って殺され ばえ領じたてまつらじ。人のいみじく惜しむ人をば、帝釈も返したまふなり。 せんし た孝行息子の談子を悲しむあまり な あが君を取りたてまつりたらむ、人にまれ鬼にまれ、返したてまつれ。亡き御祈願すると、帝釈天がその子を蘇 生させたという ( 『仏説談子経』。 から 骸をも見たてまつらん」と言ひつづくるが、心得ぬことどもまじるをあやしと『三宝絵』上巻に類話 ) 。 ニ五前には今夜すぐ埋葬とありな 思ひて、時方「なほ、のたまへ。もし人の隠しきこえたまへるか。たしかに聞がら、ここでは遺骸を返せとする。 ニ六浮舟を誰かが隠したか。もし ニセ つかひ かすると薫のしわざかと疑う。 こしめさんと、御身の代はりに出だし立てさせたまへる御使なり。今は、とて ニハ 毛私は匂宮ご自身の代理で。 のち 夭匂宮が。 もかくてもかひなきことなれど、後にも聞こしめしあはすることのはべらんに、 めのと へ

5. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

75 浮舟 めやすからめ。昔は、懸想する人のありさまのいづれとなきに思ひわづらひて一四以下、浮舟の心中。薫と宮の どちらになびくにしても。 だにこそ、身を投ぐるためしもありけれ。ながらへばかならずうきこと見えぬ一五懸想する男たちの誠意がどち らとも優劣のつけがたいのに苦し べき身の、亡くならんは何か惜しかるべき。親もしばしこそ嘆きまどひたまはんでさえ。『万葉集』巻九の真邯の てこな うないおとめ 手児奈・菟原処女 ( 『大和物語』百 さくら め、あまたの子どもあっかひに、おのづから忘れ草摘みてん。ありながらもて四十七段と同類 ) 、巻十六の桜 こかずらこ おとめづか 児・縵児など、処女塚伝説をさす。 そこなひ、人笑へなるさまにてさすらへむは、まさるもの思ひなるべし」など一六以下、醜く生き恥をさらすよ りも、と死を選ぶ。六一ハ 思ひなる。児めきおほどかに、たをたをと見ゆれど、気高う世のありさまをも行と同じ発想を繰り返し、死の決 意が固まる。「人笑へ」にも注意。 お 知る方少なくて生ほしたてたる人にしあれば、すこしおずかるべきことを思ひ宅自分の死後。 一〈浮舟の性格。↓東屋一六一一 寄るなりけむかし。 ハ二行・同一九九ハー一行。 一九貴族らしい身の処し方をほと や とうだい むつかしき反故など破りて、おどろおどろしく一たびにもしたためず、灯台んど知らずに。浮舟の東国育ちを さす。死の決意は貴族社会の常識 の火に焼き、水に投げ入れさせなどやうやう失ふ。心知らぬ御達は、ものへ渡を超えたものとする。 ニ 0 「おずし」は乱暴な、の意。 てならひ りたまふべければ、つれづれなる月日を経て、はかなくし集めたまへる手習な東屋 3 一七二ハー注一一。自殺をさす。 三残しておいては厄介な文反故。 どを破りたまふなめりと思ふ。侍従などぞ、見つくる時に、「などかくはせさ匂宮の手紙類。死の準備である。 一三人目につくのをはばかる。 せたまふ。あはれなる御仲に、心とどめて書きかはしたまへる文は、人にこそ = 三浮舟の心が匂宮に傾いている として、相思相愛の仲という。 一西文箱の底などに。 見せさせたまはざらめ、ものの底に置かせたまひて御覧ずるなん、ほどほどに や ほぐ けさう ニ四 ひと っ けだか ニ 0 1 九 ごたち

6. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

41 浮舟 八ハー ) 、中の君にも六の君にも会 に、、い深く、なまめかしきさまして、久しかりつるほどの怠りなどのたまふも うわさ わぬとの噂が宇治に伝わる。それ お を根拠に宮の言葉に「げに」と納得。 言多からず、恋し悲しと下り立たねど、常にあひ見ぬ恋の苦しさを、さまよき 一六匂宮が、今夜の薫との対面を。 ニ 0 ほどにうちのたまへる、いみじく言ふにはまさりて、いとあはれと人の思ひぬ宅薫をさす。 一 ^ 薫は昨秋浮舟を連れて来て以 べきさまをしめたまへる人柄なり。艶なる方はさるものにて、行く末長く人の来、宇治を訪れていない。 一九それに熱中するのではないが。 オニ 0 「、いには下行く水のわきかへ 頼みぬべき心ばへなど、こよなくまさりたまへり。思はずなるさまの、いばへよ り言はで思ふぞ言ふにまされる」 ( 古今六帖五 ) 。 ど漏り聞かせたらむときも、なのめならずいみじくこそあべけれ。あやしう、 一 = やさしく美しい面は無論。 かろ うっし心もなう思し焦らるる人をあはれと思ふも、それはいとあるまじく軽き = ニ匂宮よりも。 ニ三薫が心外と思う自分の不心得 などを。匂宮に逢ったことをさす。 ことそかし。この人にうしと思はれて、忘れたまひなむ心細さは、し 、と深 , っし 一西不思議なまで正気の沙汰と思 けしき えぬほど恋い焦れなさる匂宮を。 みにければ、思ひ乱れたる気色を、月ごろに、こよなうものの心知りねびまさ ニ五薫に捨てられはしまいかの危 ニ七 りにけり、つれづれなる住み処のほどに、思ひ残すことはあらじかしと見たま惧を、途絶えの間に抱いてきた。 ニ六以下、薫の浮舟への感動。途 絶えの間に情理をわきまえて女ら ふも、心苦しければ、常よりも心とどめて語らひたまふ。 しい成長ぶりを遂げたとする。 毛物思いの限りを尽していよう。 薫「造らする所、やうやうよろしうしなしてけり。一日なむ見しかば、ここ 夭浮舟を引き取るための京の新 ハー三 ~ 四行。 よりはけ近き水に、花も見たまひつべし。三条宮も近きほどなり。明け暮れお築中の家。↓一三 ニ九やさしい感じの川。賀茂川か ばっかなき隔ても、おのづからあるまじきを、この春のほどに、さりぬべくは三 0 薫の本邸。女三の宮も住む。 か えん 三 0

7. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

47 浮舟 一五このあたり、源氏がタ顔や紫 とどまりて、侍従をぞ奉る。 の上を連れ出した場面に類似。 いとはかなげなるものと、明け暮れ見出だす小さき舟に乗りたまひて、さしタ顔田一二九ハー・若紫田二〇八ハー。 一六留守居役に残って。後をとり つくろうため。 渡りたまふほど、遥かならむ岸にしも漕ぎ離れたらむやうに、い細くおばえて、 宅↓注五。 おもて っとっきて抱かれたるもいとらうたしと思す。有明の月澄みのばりて、水の面天柴積舟か。はかなさの象徴。 一九現世から彼岸浄土に連れ出さ た . ちばなこじま も曇りなきに、「これなむ橘の小島」と申して、御舟しばしさしとどめたるをれるような幻想的感覚。死への恐 怖もあり、匂宮に寄り添うゆえん。 ときはぎ ニ 0 二十日以後の月。夜半に出る。 見たまへば、大きやかなる岩のさまして、されたる常磐木の影しげれり。匂宮 三「今もかも咲きにほふらむ橘 ちとせふ の小島の崎の山吹の花」 ( 古今・春 「かれ見たまへ。いとはかなけれど、千年も経べき緑の深さを」とのたまひて、 下読人しらず ) 。 ニ四ふ 一三「橘は実さへ花さへその葉さ 匂宮年経ともかはらむものか橘の小島のさきに契る心は へ枝に霜置けまして常磐木」 ( 岷江 入楚 ) 。 女も、めづらしからむ道のやうにおばえて、 ニ三タ顔田一二八ハー一一行に類似。 ニ五 ニ四注 = = の歌の「橘」からの連想で、 浮舟橘の小島の色はかはらじをこのうき舟ぞゆくへ知られぬ 変らぬ契りを誓った歌。 一宝「浮舟」「憂き」の掛詞。薫と をりから、人のさまに、をかしくのみ、何ごとも思しなす。 匂宮のどちらに従うか分らぬ不安。 いだ タ顔田一一一九ハー末の歌にも似通う。 かの岸にさし着きて下りたまふに、人に抱かせたまはむはいと心苦しければ、 浮舟の呼称はこの歌による。 なにびと 抱きたまひて、助けられつつ入りたまふを、いと見苦しく、何人をかくもて騒ニ六折も折、浮舟の美貌ゆえにも。 毛供人たちは。 らう をぢ いなばのかみ 夭↓注九。 ぎたまふらむと見たてまつる。時方が叔父の因幡守なるが領ずる庄にはかなう ニ六 ニセ 一九 ニ 0 さう

8. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

なるものを見たまへつる」とのたまふ。うち聞くままに、妹尼「おのが寺にて一三遣戸 ( 引き違えの板戸 ) の内側 の板の間。 一四下人らにも知らせていない。 見し夢ありき。いかやうなる人ぞ。まづそのさま見ん」と泣きてのたまふ。 うわぎ 一五衵姿。表着をつけていない。 ひむがしやりど 僧都「ただこの東の遣一尸になんはべる。はや御覧ぜよ」と言へば、急ぎ行きて綾は斜線模様を織り出した絹織物。 妹尼は、衣、香と観察していく。 す 見るに、人も寄りつかでぞ棄ておきたりける。、 一六衣にたきしめた薫香。 しと若ううつくしげなる女の、 一セただよう気品から身分ある女 一五あやきめかさねくれなあはかま か と推量される。 白き綾の衣一襲、紅の袴そ着たる、香はいみじうかうばしくて、あてなるけ 天↓注一一一。亡き娘については、 はひ限りなし。妹尼「ただ、わが恋ひ悲しむむすめのかへりおはしたるなめり」後文でしだいに明らかにされる。 ごたち いだ ニ 0 とて、泣く泣く御達を出だして、抱き入れさす。いかなりつらむともありさま一九妹尼づきの年配の女房たち。 ニ 0 木の根もとでどのようにその 見ぬ人は、恐ろしがらで抱き入れつ。生けるやうにもあらで、さすがに目をほ女が見出されたか知らない御達は。 三当初は妖怪かと思われた女が、 ふびん しだいに不憫な女と見られていく。 のかに見あけたるに、妹尼「もののたまへや。いかなる人か、かくてはものし 一三夢告があったと思うだけに、 たまへる」と言へど、ものおばえぬさまなり。湯とりて、手づからすくひ入れ素姓・事情などを知りたい。 ニ三亡き娘の身代りと思って介抱 しても、その生命が危惧される。 習などするに、ただ弱りに絶え入るやうなりければ、「なかなかいみじきわざか げん ニ四 ニ四前に「弟子の中にも験あるし かぢ げんざ あぎり て」 ( 一四九ハー ) とあった人か。 な」とて、「この人亡くなりぬべし。加持したまへ」と、験者の阿闍梨に言ふ。 手 ニ五つまらぬ世話やきをなさる意。 ニ六 僧「さればこそ。あやしき御ものあっかひなり」とは言へど、神などの御ため = 六加持の前に、魔性を退けて神 LO の加護を願うために『般若心経』を しんぶん 読む。神分という。 に経読みつつ祈る。 一九 ニ五 な あこめ

9. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

源氏物語 54 「水まさるをちの里人いかならむ晴れぬながめにかきくらすころ 一四しきし 常よりも、思ひやりきこゆることまさりてなん」と、白き色紙にて立文なり。 御手も、こまかにをかしげならねど、書きざまゆゑゅゑしく見ゅ。宮は、、 多かるを小さく結びなしたまへる、さまギ、まをかし。 侍従「まづかれを。人見ぬほどに」と聞こゅ。浮舟「今日は、え聞こゅまじ」 一八 てならひ 月っ ) 、 と恥ぢらひて、手習し あいぎゃう かばか一匂宮の優麗な姿をいう。 御ありさまはいみじかりけり。うち乱れたまへる愛敬よ、まろならば、 四 ニ冗談など言う戯れ姿に魅了さ き一い りの御思ひを見る見る、えかくてあらじ。后の宮にも参りて、常に見たてまつれるとする。好色者の魅力である。 三一日も離れていられない意。 五 四明石の中宮に宮仕えして、匂 りてむーと言ふ。右近、「うしろめたの御心のほどや。殿の御ありさまにまさ 宮と親しくなりたいとする。 たれ かたち 六 五右近は逆に、薫を称揚。 りたまふ人は誰かあらむ。容貌などは知らず、御心ばへけはひなどよ。なほこ 六浮舟と匂宮の仲をいう。 ふたり の御事はいと見苦しきわざかな。いかがならせたまはむとすらむ」と、二人しセ右近一人より、嘘をつくにも 好都合。右近が侍従をまきこむ。 ^ あとから来た薫の手紙。 て語らふ。心ひとつに田 5 ひしよりは、そらごともたより出で来にけり。 九気にかけながらのご無沙汰。 のち 九 後の御文には、薫「思ひながら日ごろになること。時々は、それよりもおど一 0 あなたもお便りをくだされば。 = あなたを並々には思ってない。 三「をち」は「遠」。「眺め」「長 ろかいたまはんこそ、思ふさまならめ。おろかなるにやは」など。はしがきに、 雨」の掛詞。匂宮が自らの恋のせ つなさを訴えるのとは対照的に、 相手を気づかう発想に徹する。 一三歌から直接続く趣。 一四白の料紙も立文も恋文のよう でない。いかにも薫らしい趣向。 一五長々しい文面を。 一六人目を忍ぶ恋文の体である。 宅まず匂宮への返事をと勧める。 天相手への返歌よりも、自らの 思いを独詠的に書きつける趣。 一九宇治にあるわが身を「宇治 . ふみ たてぶみ

10. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

人だに、今はと背きはべる時は、いともの、い細くおばえはべりしものを、世を一前途のある若盛りの年齢では。 一一最後まで出家生活を通せるか。 こめたる盛りにては、つひにいかがとなん見たまへはべる」と、親がりて言ふ。三妹尼が、浮舟のいる奥の方に。 四思いやりのないなさりよう。 語 . なさけ 物入りても、妹尼「情なし。なほ、いささかにても聞こえたまへ。 かかる御住五山里住いでは、ちょっとした つまらぬことでも、人の情けに応 源まひは、すずろなることも、あはれ知るこそ世の常のことなれ」など、こしらずるのが当然というもの、の意。 六何のとりえもない者。 へても言へど、浮舟「人にもの聞こゆらん方も知らず、何ごとも言ふかひなくセすげない態度で。 ^ さあどうか。なんと情けない。 まらうと こころ ふ のみこそ」と、 いとつれなくて臥したまへり。客人は、中将「いづら。あな心九秋になったらとの約束は。妹 尼の引歌 ( ↓前ハー注一九 ) の下の句の 「秋と契れる人ぞ・ : 」の「人」を、自 憂。秋を契れるは、すかしたまふにこそありけれ」など、恨みつつ、 分のことととりなして訴える。 をギ ) はら 一 0 「松虫」「待っ」の掛詞。「荻 中将松虫の声をたづねて来つれどもまた荻原の露にまどひぬ 原」は暗に浮舟をさす。待ってい 妹尼「あないとほし。これをだに」と責むれば、さやうに世づいたらむこと言てくれると思って訪ねたのに、つ れないお方のために涙に濡れた意。 ひ出でんもいと心憂く、また言ひそめては、かやうのをりをりに責められむも、 = せめてこの返事なりと。 三以下、浮舟の心に即した叙述。 むつかしうおばゆれば、答へをだにしたまはねば、あまり言ふかひなく思ひあ一三一度返歌したら。過往の酷烈 な体験を根拠に固く心を閉ざす。 一四出家前は、当世風に気のきい へり。尼君、はやうは、、 しまめきたる人にそありけるなごりなるべし、 た人、その名残からだろう。 かりごろも 一五「来たる」「着たる」の掛詞。 妹尼「秋の野の露わけきたる狩衣むぐらしげれる宿にかこつな 秋の野を踏み分けて露に濡れたの むぐら に、この葎の宿のせいだとは言っ となん、わづらはしがりきこえたまふめる」と言ふを、内にも、なほ、 一五