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検索対象: 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩
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1. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

いかだ 語 ところで、物語の大尾と密接な関係のある巻名「夢浮橋ーの意味するものは何か。「浮橋」は、小舟や筏 つな 氏を繋ぎ集めてその上に板を渡して橋の代用とするものであり、『後撰集』ごろから歌語として用いられ、も 源つばら男女の愛の危機、「中絶え」の不安を託するものであった。たとえば『後撰集』にはこんな歌が見え 男の、女の文を隠しけるを見て、もとのめ ( 本妻 ) の書き付けはべりける四条御息所女 うきはし へだてける人の心の浮橋をあやふきまでもふみ ( 文・踏み ) みつるかな 宇治十帖では、この語とともに「宇治橋ーの語も男女の「中絶え」を暗示する語として用いられているが、 その意味するところは深い。『河海抄』は一説として「夢浮橋」の巻名は、古歌の、 世の中は夢の渡りの浮橋かうちわたしつつ物をこそ思へ に拠ると言っている。「世の中」とは男女の仲の意である。この歌はすこし形を変えながらも薄雲巻や若菜 上巻に引歌として用いられていることは、つとに藤原定家も『奥入』に指摘していることであって、男女の 仲の危うさを浮橋にたとえることは、紫式部の習性でもあった。また定家には、周知のとおり、 春の夜の夢の浮橋とだえして峰に分かるる横雲の空 ( 『新古今和歌集』春上 ) の名歌がある。『源氏物語』末巻は幽艶の美を誇りながら、しかも不安に満ちた男女の愛の世界であること を、彼は知っていたのであった。 しかし問題は残っている。『源氏物語』は、それでは人間の営みのすべてをむなしいものと観じ去ったの ふみ

2. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

源氏物語 6 4 見出しは、本文に付した見出しと同じものを現代語訳の該当箇所に付けた。 5 原文と現代語訳との照合の検索の便をはかり、それぞれ数ベージおきの下段に、対応するべージ数を 示した。 一、巻末評論は、本巻所収の巻々に関連して問題となるテーマを一つとりあげて論じた。 一、巻末付録として、「引歌一覧」「官位相当表」「各巻の系図」「源氏物語引歌索引」「源氏物語引用漢詩文 索引」「源氏物語引用仏典索引」を収めた。 一、本巻の執筆にあたっての分担は、次のとおりである。 本文は、阿部秋生が担当した。 脚注は、秋山虔と鈴木日出男が執筆した。 3 現代語訳は、秋山虔が執筆した。 4 巻末評論は、今井源衛が執筆した。 付録の「引歌一覧」は、鈴木日出男が執筆した。 一、その他 1 ロ絵の構成・選定・図版解説については田口栄一氏を煩わした。 2 ロ絵に掲載した『源氏物語図扇面』については浄土寺の、『源氏物語図色紙』については東京国立博 物館・徳川黎明会の協力を得た。

3. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

5 凡例 本文の見開きごとに注番号を通して付け、その注釈は見開き内に収めるように心がけた。だが、スペ ースの関係で、時には前のページあるいは後のページの注を参照するよう、↓を付してページと注番号 を示した。 3 『源氏物語一 ~ 九』 ( 第一冊 ~ 第九冊 ) を参照すべきことを示す場合は、次のようにした。 ↓帚木田四九ハー ( 本文を参照する場合 ) ↓紅賀葉五七ハー注一一三 ( 脚注を参照する場合 ) ↓須磨 3 「一四〕 ( 本文中の太字見出しの章段を参照する場合 ) 4 語釈は、スペースの許すかぎり、語義・語感・語法・文脈・物語の構成・当時の社会通念などにもふ れながら、読解・鑑賞の資となるよう心がけた。 5 段落全体にわたる問題、とくに鑑賞・批評などには、 0 を付して記した。 6 引歌がある部分の注は、当該引歌とその歌が収録されている作品および作者とをあげるにとどめ、引 歌の現代語訳と解説とは、巻末付録「引歌一覧に掲げた。 7 登場人物・官職・有職故実については、本文の読解・鑑賞に必要な範囲内にとどめたので、巻末付録 の「系図」「官位相当表ーをも併せて参照されたい。 一、現代語訳については、次のような配慮のもとに執筆した。 原文に即して訳すことを原則としたが、 また独立した現代文としても味わい得るようにつとめた。 2 そのために、必要に応じて、は主語・述語の補充、②語順の変更、③会話・独白 ( モノローグ ) ・心内 謡・引用における「」の添加、④文中の言いさしの一一 = ロ葉には下に補いの言葉の付加などの工夫をした。 3 和歌は、全文を引用したのち、その現代語訳を ( ) 内に示した。

4. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

浮舟・ 蜻蛉・ 手習・ 夢浮橋・ 校訂付記 : 巻末評論・ 凡例 目次 原文現代語訳 : ・三四八 ・ : 三九八 ・ : 三 0 六

5. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

御心にこそと聞こえ動かして、几帳のもとに押し寄せたてまつりたれば、あ一浮舟を。この几帳のすぐ外に っ 0 小君がいる。↓前ハー四行。 れにもあらでゐたまへる、けはひこと人には似ぬ心地すれば、そこもとに寄り = 人心地もないような思いで。 ひと 語 三几帳の向こうの女の気配を紛 四 五 こころ 物て奉りつ。小君「御返りとく賜りて、参りなん」と、かくうとうとしきを、心れもなく姉だと小君は直感する。 氏 四薫からの手紙を。 源憂しと思ひて、急ぐ。 五姉の他人行儀の態度が情けな 。早く返書を得て帰りたい気持。 尼君、御文ひき解きて見せたてまつる。ありしながらの御六浮舟に、薫の手紙を。 〔一 0 〕浮舟、薫の手紙を 七昔のままの薫の筆跡と思う。 見、人違いと返事せず 手にて、紙の香など、例の、世づかぬまでしみたり。ほの薫の筆跡。↓浮舟五四ハー一一行。 ^ 何にでも感心したがる出過ぎ 者。妹尼など ( ↓手習一七三ハー七 かに見て、例の、ものめでのさし過ぎ人、いとありがたくをかしと思ふべし 行 ) 。以下、浮舟の心内とは無縁 九 そうづ の妺尼を揶揄する語り手の評言。 薫さらに聞こえん方なく、さまざまに罪重き御、いをば、僧都に思ひゆるしき 0 薫の使者として立ち現れたのは ゅめがたり こえて、今ま、、ゝ。、 。しカてあさましかりし世の夢語をだにと急がるる心の、我紛れもないわが弟である。しかし 浮舟は、弟に心開けば、薫らとの ながらもどかしきになん。まして、人目はいかに。 関係を蘇らせ、忌まわしい過去に 戻りかねないことを恐れる。肉親 と、書きもやりたまはず。 への懐かしさをも抑えるほかない。 九浮舟が匂宮と密通したこと、 のり 自殺しようとして失踪したこと、 薫法の師とたづぬる道をしるべにて思はぬ山にふみまどふかな 救われても素姓を隠していたこと、 ゅ この人は、見や忘れたまひぬらむ。ここには、行く方なき御形見に見るもの無断で出家したことなど。 一 0 僧都の恩義を受け庇護されて にてなん。 いる浮舟の罪を、僧都の徳に免じ ( 現代語訳四〇八ハー ) ふみ きちゃう 六 へ

6. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

巻名本文中に「夢浮橋」の語はないが、「夢」の語は数回用いられている。薄雲巻に引かれる出典不明の古歌「世の中は 夢のわたりの浮橋かうち渡りつつ物をこそ思へ」との関係が考えられている。 よかわそうず 梗概横川に僧都を訪ねた薫は事のあらましを聞き、思わず落涙した。その薫の様子を見て、僧都は浮舟を出家させたこと を後悔もするが、小野の里への案内を希望する薫の懇請には、自らの僧としての立場からも、応じることはできない。わ ずかに浮舟への手紙を薫に伴った小君 ( 浮舟の弟 ) に託しただけであった。 たいまっ その夜、初夏の闇の中を横川から下山する薫一行の松明の光は、小野の山荘からも遥かに望まれた。浮舟は思い出を振 り捨てて、一心に阿弥陀仏を念じ続けるのであった。 薫は人目をはばかって小野に立ち寄ることはやめ、翌日あらためて小君を使者に立てた。僧都の手紙には、薫の愛執の 罪の消えるようにしてさしあげなさい、とあった。小君の姿を目のあたりに見る浮舟は、母のことなども無性に懐かしく、 すぐにも身を乗り出したいと思いながらも厳しく自省し、懸命な妹尼のとりなしにもかかわらす、小君との対面も拒み、 薫の手紙にも、人違いとして返事を書こうともしなかった。むなしく帰京した小君から話を聞いた薫は、あらぬ疑いさえ 抱くのであった。 〈薫二十八歳〉 やみ

7. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

のち一 せうそこ その後、姫宮の御方より、二の宮に御消息ありけり。御手一女一の宮から、女二の宮に。 〔三〕薫の女一の宮思慕 薫の願望がかなえられた。 と、わが半生の回顧 ニ女一の宮に。 などのいみじううつくしげなるを見るにもいとうれしく、 語 三「芹川の大将ーは散佚物語の題 物かくてこそ、とく見るべかりけれと思す。あまたをかしき絵ども多く、大宮も名。「とほ君」は、主人公の芹川の 氏 大将の幼名か。この絵は、女一の 源奉らせたまへり。大将殿、うちまさりてをかしきども集めて、まゐらせたまふ。宮に恋する主人公が、思い余 0 て 女君を訪れる秋の夕暮の場面。 せりかは 芹川の大将のとほ君の、女一の宮思ひかけたる秋の夕暮に、思ひわびて出でて四今の自分の気持にそっくり。 女一の宮の名も共通している。 かた 行きたる絵をかしう描きたるを、いとよく思ひ寄せらるかし。かばかり思しな五自分を、女から思慕される物 語主人公に仮想して、かえって現 実の憂愁を際だたせる。 びく人のあらましかばと思ふ身そ口惜しき。 六物語の主人公に託してかなわ をぎ ゅふべ 薫荻の葉に露ふきむすぶ秋風もタそわきて身にはしみける ぬ恋を詠む。秋の夕暮の景に照応。 セ帝や中宮の寵遇の特に厚い女 と書きても添へまほしく思せど、さやうなるつゆばかりの気色にても漏りたら一の宮は、懸想してはならぬ相手。 〈憂愁を重ねた末に思うところ は。以下、薫の心中叙述に転ずる。 しいとわづらはしげなる世なれば、はかなきことも、えほのめかし出づまじ。 九亡き大君。憂愁の原点として かくよろづに何やかやと、ものを思ひのはては、「昔の人ものしたまはましか大君に回帰する点が、薫らしい 一二七ハー四 ~ 五行にも同様の叙述。 いかにもいかにも外ざまに心を分けましゃ。時の帝の御むすめを賜ふとも、一 0 大君との死別がなければ、女 二の宮の降嫁はありえぬとする。 得たてまつらざらまし。また、さ思ふ人ありと聞こしめしながらは、かかるこしかし薫は、皇女を得た世俗的繁 栄に浴すればこそ、反世俗の退嬰 こ、 ) ろう ともなからましを、なほ心憂く、わが心乱りたまひける橋姫かな」と思ひあま的な思念に身を委ねてもいる。 ( 現代語訳三三八ハー ) ほか けしき たいえい

8. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

「招ぎ」をもひびかす語。物語では、中将から浮舟へ頻繁浮舟が薫を回想して、「薄きながらものどやかにものした まひし人とする。ここでいう「薄き」は、薫の思い方が 4 にもたらされる消息についていう。この歌の「荻の葉 : ・音 深くないという意であるから、必ずしもこれを引歌としな はしてまし」を底流させながら、「荻の葉に劣らぬほどほ 語 くてもよいかもしれないが、「薄きながらも・ : 」の語気が、 どに」とする。「荻の葉」からその葉ずれの音を想像させ、 物 この歌の文脈に近い 氏さらに「訪れ」の語音をも重ねて律調的になっている。 はっせがはふるかはヘ ふたもと 源 ・・ 6 山鳥のほろほろと鳴く声聞けば父かとそ思ふ母 ・・ 7 初瀬川古川の辺に二本ある杉年を経てまたも あ ( 玉葉・釈教・ = 六一四行基 ) かとそ思ふ 逢ひ見む二本ある杉 ( 古今・雑体・旋頭歌・一 00 九読人しらず ) 山鳥のほろほろと鳴く声を聞くと、父かと思う、あるいは母 初瀬川の古川のほとりの二本杉。年をとったら再び逢おう一一 かとも思 , つのだ。 本杉。 けそう 前出 ( ↓玉鬘団四二七ハー下段 ) 。物語では、浮舟の孤独な手物語では、中将の懸想を避けるべく母尼の部屋に身を隠し た浮舟が、ようやく夜明けを迎え、鶏の声を聞いてほっと 習歌「はかなくて・ : 」にふまえられた。浮舟自身の意識で は、初瀬の地の象徴として「二本の杉」と詠んだにすぎなする。その鳴き声から、「母の御声を聞きたらむは、まし ていかならむ」と思うところに、この歌をふまえた。 かったが、おのずと匂宮と薫との関係を詠んでしまったこ ・・たらちめはかかれとてしもむばたまのわが黒髪 とになる。この手習歌を見つけた妹尼は、その具体的な人 ( 後撰・雑三・一一一四一僧正遍照 ) をなですやありけむ 間関係など知るよしもないが、「二本は、またもあひきこ 母親は、このように髪を削ぎ落して出家せよというつもりで、 えん・ : 」と、あなたには恋人がいたらしいとの冗談を言い 幼いころの私の黒髪を撫でたのではなかっただろうに。 かける。浮舟と妹尼の、「二本杉」をめぐる何気ないやり 詞書によれば、遍照が出家剃髪した時の歌。「たらちめ」 とりが、浮舟を震えあがらせることになった。 ひとへ ・ 1 夏衣薄きながらぞ頼まるる一重なるしも身に近は「たらちね」に同じ、母親の意。物語では、出家を決意 ( 拾遺・恋三・全三読人しらす ) ければ した浮舟が、大事な美しい黒髪を惜しみながら、「かかれ 夏衣は薄いながらも頼もしく思われる。一重であることが、 とてしも」と、この歌を口ずさむ。いよいよ出家となると、 かえって身近で親しいものだから。 慈母の情も顧みられて、感情が複雑に揺れ動く ・・ 2 白雪の降りてつもれる山里は住む人さへや思ひ 夏の薄衣に、男女の仲の親近感を見てとった歌。物語では、

9. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

宇治十帖では、作者が全身的な共感とともに自身の思想や感清を投入しようとしたのは、薫や匂宮ではな 大君あるいは浮舟である。薫がこの後どうしたか、というようなことは作者にと 0 てはさしたる関心事 語ではなかったであろう。浮舟の姿をこのように描き終 0 た意味を我々は十分に汲み取るべきだろう。 物 古典と現代とを限らず、日本文学に一貫するものとして、しばしば母性への帰依とか思慕が指摘されるが、 氏 源『源氏物語』もまたその例外ではなかったのである。

10. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

ニニ〕薫、浮舟の心をは大将が今か今かとお待ちになってい れかりかねて、思い迷うらっしやるところへ、こうして不確 かなことで小君が帰ってきたので、おもしろからぬお気持 語 物になられて、なまじ使者をやらなければよか ? たと、あれ 氏 やこれや気をおまわしになり、誰かが人目につかぬよう女 源 君を隠し住まわせているのだろうかと、ご自分がかって捨 てておおきになったご経験から、あらゆる場合をご想像に なられて : : : と、もとの本にございますそうな。