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検索対象: 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩
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1. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

していた間は気が紛れていたものの、女君の亡き今は情け 思いながらあれこれ過している。 なく忌まわしく無性に恐ろしくばかり感じられるので、つ 〔を宮の君、女一の宮この年の春お亡くなりになった式部 きようのみや ままはは いこのごろ京に、それもみすばらしい家に移ってきていた に出仕匂宮懸想する卿宮の姫君を、継母の北の方がさ 語 うまのかみ 物のだったが、宮はそれをお捜し出しになって、「こうして して目をかけてあげるでもなく、北の方の兄弟の、馬頭で けそう 氏 こちらに仕えていよ」とおっしやるけれども、ご配慮はそ人柄のさほどでもない男が懸想しているのを、かわいそう 源 れとしてありがたいが、世間の取り沙汰もどうだろうか、 とも考えずそれへ縁づけてもいいように約束している、と うわさ ああした関係のこみいっているあたりでは聞きづらい噂が后の宮が何かのついでにお聞きあそばして、「なんとおか 立ちはせぬかと思うので、ご辞退申しあげて、后の宮におわいそうな。父宮がたいそう大事にしていらっしやった女 仕えしたいとの意向を申し出たところ、「それも結構なこ君を、そのかいもなく情けない身の上にしてしまうとは」 とだろう。そうしておいてわたしが内々で目をかけてやる などと仰せになったので、当人もまことに心細く嘆いてば ことにしよう」と仰せになるのだった。侍従は、心細い寄かりおられたことでもあるし、「おやさしくこのようにお るべのなさもこれで紛れることもあろうかと、ってを求め 心にかけ、お声をかけてくださるものを」などと女君の御 て后の宮に出仕した。そう見苦しくもなく、ほどほどの下兄にあたる侍従の勧めもあって、后の宮は、ついこのごろ ろう 﨟であることが認められて、誰もとやかく言う者はいない この女君をおそばにお引き取りあそばしたのだった。姫宮 大将殿もしじゅうここにはまいられるので、侍従はそのお のお相手として、じっさいこれ以上は望めぬご身分のお方 姿を見るたびにただ無性に悲しい気持になっている。ほん なので、重々しく格別のお扱いでお仕えしていらっしやる。 とに身分の高い、れつきとした家の姫君ばかりたくさんま とはいえ、宮仕え人という身分の限りがあるのだから、宮 やしき いり集っているお邸であると世間で噂されているが、だん の君などと呼んで、裳ぐらいはお着けになっていらっしゃ るのが、ほんとにおいたわしいことであった。 だん注意してよく見るけれども、やはりかってお仕え申し ひょうぶきようのみや あげていた宇治の女君に並ぶほどの人はいないものだ、と 兵部卿宮は、この宮の君ぐらいなら恋しい宇治の女に ひと しきぶ

2. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

ついでのようではございますけれど、貴いお方もいやしい さてさて、宮は、ほんとにもったいないほどのご執心のご 者も、こうした筋のことでは、お心を迷わされるのはまこ様子でしたから、大将殿がこうしてお支度を急いでいらっ とによからぬことです。お命までどうこういうことではな しやっても、そちらのほうにはお気持も向かないのです。 くても、それそれのご身分なりに恐ろしいことが持ちあが しばらくは身をお隠しになってでも、お気持のまさってい るものでございます。貴いご身分の方にはかえって死んで らっしやるお方をお頼りなさいましと、そう私は存じよる ー ) き 6 , つほ , つ、が 6 ーしで亠め「 0 レ , っ↓な恥辱・と ) い , っ , とも′、い士 のでご」います」と、宮をたいそ , つひいき申しあげている いちず す。どちらか一方にお決めなさいまし。宮も、お気持が大 ! 者なので、一途にこう言っている。 将殿よりも深くて真剣にそうおっしやってくださるのでさ 〔毛〕警固の厳重なるを右近は、「さあいかがなものでしょ えあれば、そのほうへお定めなさいまして、もうくよくよ 聞き、浮舟の苦悩ますう。右近はどちらになるにせよ、た とお嘆きなさいますな。こんなことにお悩みになってやせ だ穏やかにお暮しになるようにと初瀬や石山などに願を立 衰えておしまいになるのもほんとにつまりません。あれほ てているのでございます。この大将殿の御荘園の人々とい どにも母上があなた様のことを案じ申して苦労していらっ うのがひどく乱暴な者たちでして、その一族がこの宇治の しやるのでございますものを、それに、乳母がお移りのお里 にたくさん住んでいるそうです。だいたいこの山城や大 支度に懸命になっておろおろしておりますにつけても、宮和に、殿が領有していらっしやるあちらこちらの土地の人 うどねり のほうで大将殿よりも先にご自分のほうへと申しあげてい は、みなこの内舎人という者の縁者になっておりますとか。 かしら 舟 らっしやるのが、つらくおいたわしく存ぜられます」と言 それの婿の右近大夫という者を頭として、殿は万事その者 うと、もう一人が、「まあいやな、恐ろしくなるようなお にお命じになっておられるのだそうです。ご身分の高い 浮 話を申しあげなさいますな。何もかも前世からのご縁によ方々同士は、不人情なことをせよとはお思いにならなくて とのいびと 5 るのでございましよう。ただお心の中に少しでもどちらか も、ものの道理をわきまえない田舎者たちが、宿直人とし にお気持が傾くのでしたら、それが因縁とお考えあそばせ。 てかわるがわるお詰め申しているのですから、自分の当番

3. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

が起るようなことはすまい」とお考え直しになっては、困 いうものだろう。こうも急に、いったいどういう女なのか 2 ったことになったとはお思いになりつつも、お打ち明け申しら、いっから関係があったのだろう、などと世間で取り さず、そうかといって、事実に反することをもっともらし沙汰されるのもうるさいことだし、。こ、、 オししち当初の意図に 語 物く言いつくろうこともおできになれないので、ただ胸ひと反することにもなろう。また宮の北の方がお耳になさって ねた 氏 つに押し込めて夫の仕打ちを妬む世間普通の女のふうをよ なんとお思いになるか、ふるさとの宇治ときれいさつばり 源 そおっていらっしやるのであった。 縁を切って女を連れ出し、 いかにも昔を忘れたという顔つ きに見られるのもまったく不本意なことだ」などと気持を 〔ニ〕薫、悠長にかまえあの大将のほうは、またとなくおっ て、浮舟を放置するとりと構えておいでになって、宇治抑えていらっしやるのも、例によって、悠長すぎるご性分 の女君がさぞ待ち遠しく思っていることだろうと、ただお ゆえというものであろう。その宇治の女君を京に引き取る いたわしいことと思いやっていらっしやるものの、自由の おつもりの場所をご用意になって、内々でお造らせになっ ているのであった。 きかぬご身分のこととて、しかるべき機会もなく、また容 易にお通いになれるような道中でもないから、神のいさめ 〔三〕薫なお中の君に心大将は、以前よりも多少ご多忙らし る道よりももっとつらいお気持である。けれども、「その 寄せる中の君の境涯くおなりになったけれど、宮の北の うちにほんとに十分な扱いをしてやるとしよう。もともと方に対しては、今もやはりこれまでと同様に怠りなく心を 山里の慰めにという心づもりだったのだから、多少は日数お寄せしてお世話申しあげていらっしやる。そのご奉仕ぶ もかかりそうな用事をこしらえて、ゆっくりと出かけて行りを拝見している人もいぶかしくさえ思うくらいであるけ って逢うことにしよう。そうして、しばらくは誰からも知れども、北の方は男女の仲らいもだんだんとお分りになり、 られないような住処を設け、そういうふうにしてだんだん また大将の人となりを見聞きなさるにつれて、これこそ真 とあの女の気持をも落ち着かせておいて、自分としても世実、亡きお方をいつまでも忘れずに、あとあとまでも深い 間の非難を受けないよう目だたぬ扱いをするほうが得策と情けをもちつづけていらっしやる例であろうと、しみじみ ひと すみか ひと

4. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

おば つばね 一薫は、他の女房より小宰相に て見えざらむかしと思いたり。大納言の君「人よりは心寄せたまひて、局などに ニ世間並のありふれた色恋沙汰 立ち寄りたまふべし。物語こまやかにしたまひて、夜更けて出でなどしたまふではないらしいとする。 三小宰相が匂宮を拒んだことは 語 めな な一け 物をりをりもはべれど、例の目馴れたる筋にははべらぬにや。宮をこそ、いと情前出。↓一二三ハー三行。 氏 四普通の女はなびくはずなのに、 の気持で、なかば戯れた言い方。 源なくおはしますと思ひて、御答へをだに聞こえずはべるめれ。かたじけなきこ 五匂宮の浮気沙汰の見苦しさを、 小宰相は十分見抜いているとする。 と」と言ひて笑へば、宮も笑はせたまひて、中宮「いと見苦しき御さまを、思 六匂宮のかっての宇治行にも苦 言を呈し、漁色を難じてきた。↓ ひ知るこそをかしけれ。いかでかかる御癖やめたてまつらん。恥づかしや、こ 総角 3 二一七・二一八・二三七ハー。 衆人承知の事実に苦笑する趣。 の人々もーとのたまふ。 セあなたがた、女房たちにも。 大納言の君「いとあやしきことをこそ聞きはべりしか。この大将の亡くなした ^ 浮舟をさす。 九二条院に住む北の方。中の君。 ひた まひてし人は、宮の御二条の北の方の御おとうとなりけり。異腹なるべし。常一 0 中将の君 ( 浮舟の母 ) の身分の 低さが知られる叙述。 ちのさきのかみ 。し力なるにか。そ = 浮舟への匂宮の密通。以下の 陸前守なにがしが妻は、叔母とも母とも言ひはべるなるよ、、ゝ 報告は、真相にほば対応している。 の女君に、宮こそ、いと忍びておはしましけれ。大将殿や聞きつけたまひたり三番人。匂宮の浮舟懸想を知っ た薫が、荘園の者たちに命じて厳 まも けむ、にはかに迎へたまはんとて、守りめ添へなど、ことごとしくしたまひけ戒した。↓浮舟〔 = 0 。 一三宇治に。↓浮舟「三一〕。 一四浮舟も匂宮になびいたために るほどに、宮も、いと忍びておはしましながら、え入らせたまはず、あやしき 投身したと判断される点に注意。 むま さまに御馬ながら立たせたまひつっそ、帰らせたまひける。女も宮を思ひきこ右近や侍従が真相をひた隠しにし め くせ ふ ことはら なハ

5. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

私どもがきついことを申しあげましたので立ち去られまし を思いついたわけなのであろう。もしわたしがここにこの 姫君はそのことをこわがられまして、あの見苦しくも まま放っておかなかったなら、どんなにつらい日々を過し ございました家へお移りになったのでございます。そのの ていようとも、どうしてわざわざ深い谷を求めて身投げな ちは、絶対に宮のお耳にはいらぬようにとお思いになって、 どする気になっただろう」と思うと、なんとも情けない水 そのまま何事もなかったのでございますが、どうやってお との因縁よと、この宇治川の流れを心底から疎ましく思わ 聞きつけあそばしたものか、ついこの二月ごろから、宮かずにはいらっしゃれない。 この幾年か、深い思いを寄せて らお便り申されるようになりました。お手紙はじつにたびきた方々の住む所とて険しい山路を行き帰りしたものだが、 たびございましたようですけれど、姫君はそうよくはごら それも今はさらに情けなくて、この里の名をさえも聞きた おそ んになることもございませんでした。あまりに畏れ多いこ くないとい , っ心地がなさる。 とですので、それはかえって失礼なことになりましような 宮の上がこの女君のことをお言い出しになって、はじめ どと、この右近などが申しあげましたので、一度か二度は に人形と呼んだことまで忌まわしく、何もかも自分の手落 ご返事申しあげていらっしやったでしようか。そのほかの ちからあの女を死なせてしまったのだと、次から次へと考 ことは存じあげておりません」と申しあげる。 え続けていくと、あの母親がやはり軽い身分の者ゆえに亡 どうせこんなふうに返事をするにきまっている、それを くなった娘の葬いもじっさい普通ではなくお粗末なものに 無理に問いつめるのもかわいそうな気もするので、大将は してしまったのだろうと、ご不満であったのだが、事の子 ひと 蛉 深い思いにじっと身を委ねては、「あの女は宮をすばらし細をお聞きになっては、「母親がどんなにせつなく思って いお方、慕わしいお方と思い申しあげたにしても、さすが いることだろう。あれくらいの身分の者の娘としては、ま にこのわたしのことをおろそかに思わなかったために、じ ことにすぐれていた人だったのに、宮との内緒事について 5 っさい物事のわきまえもなく、いかにも心のもろい人だっ はよくも知らずに、このわたしのほうとの間にどんなつら たから、この川の流れが近いのをよいことにああしたこと いことがあったのだろう、と恨めしく思っているにちがい ひとがた いんねん ひと とむら

6. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

317 蜻蛉 胸にしみて悲しいお話ではありませんか。わたしも昨日ち お方であろう。宮がお目をかけておられる方々にしても、 らと耳にしたことでした。あなたがどんなにお嘆きかと、 それそれに並一通りでなく、このうえない方々ばかりなの ひと お見舞も申しあげなければと考えておりながら、ことさら に、それをさしおいて、この女にお心のありたけを傾けら どキ、よう ずほう 他人にお漏しにならぬことのようにお聞きしておりましたれ、世間で大騒ぎをして修法だの読経だの祭りだの祓えだ ので」と、何くわぬふうにおっしやるけれども、ご自身で のと、その道々の者たちが忙しくお勤めしているのは、こ ひと もまったくこらえがたいお気持になられるので、言葉少な の女をお思いになるあまりのご病気のせいだったのだ。い にしていらっしやる。大将は、「しかるべき筋のお相手とや、この自分とても、これほどの高い身分で、当代の帝の してでもお目にかけたいと考えておりました者でして。 御娘を賜っておりながら、この女をいとしく思わずには、 や、しぜんお目にとまることもごギ、いましたでしょ , つか、 られなかった気持は宮に劣っていただろうか。まして、今 やしき お邸にもお出入りする縁故がございましたのですから」な は亡くなってしまったのだと思うと心を静めようにもすべ どと、少しずつ当てつけて、「ご気分のすぐれないときに がないではないか。とはいえ、もう嘆いてみたところで、 は、こうした埒もない世間話をお耳にお入れ申してお心を それも愚かしいことだ。未練がましいことはやめよう」と 騒がせられるのも不都合なことでございます。どうそ十分悲しみをこらえてみるけれども、あれやこれやさまざまに お大事になさいまし」などと申しあげておいて、大将はお 心が乱れて、「人木石にあらざればみな情あり」とロすさ 帰りになった。 んで臥せっておいでになる。 大将は、「よくもまあ宮は思いつめていらっしやったも 女君の野辺送りの作法なども、じっさい簡単にすませて ひと のよ。してみると、あの女はほんとに薄命な一生だったけ しまったのを宮のほうではどうお思いであろうか、と大将 れど、さすがにすぐれた宿運に恵まれたのだった。宮は当 はいたわしくもあり、またはりあいもないことともお思い みかどきさき 代の帝や后があれほどまでに大事にしておられる親王であ になり、「母親の身分が低く、残された兄弟のある者は簡 り、顔だちや風姿からして、当今の世の中にはまたとない 略に、などと世間ではよくそんなことを言うようだし、そ ひと

7. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

るべきを、ただ今は、、ゝ。、かばかりも、人に声聞かすべきものとならひた一親王の姫君ともあろうお方が。 男に直接応答するような身分に下 かたち まひけんとなまうしろめたし。容貌もいとなまめかしからむかしと、見まほし落した無残さを思う。 ニ匂宮の心を乱すことになろう。 語 ひとまれ 物きけはひのしたるを、この人そ、また、例の、かの御心乱るべきつまなめると、三すぐれた女は稀、の意。 氏 四宮の君こそ、この上ない身分 の父式部卿宮が愛育した姫君なの 源をかしうも、ありがたの世やとも思ひゐたまへり。 に。以下、薫の心中。 四 「これこそは、限りなき人のかしづき生ほしたてたまへる五八の宮をさす。 〔一三〕薫、宇治のゆかり 六宇治の山里で育った姫君たち。 を想いわが人生を詠嘆 姫君、また、かばかりそ多くはあるべき。あやしかりける大君と中の君。難点がないとする。 セこの、頼りない、思慮がない、 五 ひじり ひと などと思われる女。浮舟をさす。 ことは、さる聖の御あたりに、山のふところより出で来たる人々の、かたな ^ 八の宮の一族。 九どうしてか恨めしい結果に終 るはなかりけるこそ。この、はかなしや、軽々しゃなど思ひなす人も、かやう った縁。大君とは死別、中の君は のうち見る気色は、いみじうこそをかしかりしか」と、何ごとにつけても、た他人の妻、浮舟は行方不明。 一 0 成虫になってから短命なので、 八 だかの一つゆかりをそ思ひ出でたまひける。あやしうつらかりける契りどもを、古来、はかないものの象徴。 = 宇治の姫君三人との邂逅を、 かげろふ つくづくと思ひつづけながめたまふ夕暮、蜻蛉のものはかなげに飛びちがふを、「蜻蛉」のはかなさとしてかたどる。 「ありと見て頼むそかたきかげろ ゅ 薫「ありと見て手にはとられず見ればまた行く方もしらず消えしかげろふふのいっとも知らぬ身とは知る知 る」 ( 古今六帖一 ) 。 一ニ「たとへてもはかなきものは あるかなきかの」と、例の、独りごちたまふとかや。 世の中のあるかなきかの身にこそ ありけれ」 ( 源氏釈 ) など。 ひと けしき かろがろ へ

8. 完訳 日本の古典 第二十三巻 源氏物語 ㈩

源氏物語 68 しと、うちうめきたまひて、薫「人に見えでをまかれ。をこなり」とのたま一「を」は強意の助詞。 ニ自分が身分卑しい道定ふぜい あない と女を争ったら、物笑いになる意。 ふ。かしこまりて、少輔が、常に、この殿の御事案内し、かしこのこと問ひし 三式部少輔。道定の兼官。 な も思ひあはすれど、もの馴れてえ申し出でず。君も、下衆にくはしくは知らせ四薫の動静を探ったり、宇治の ことを尋ねたりしたのも。 五随身のような下々の者に。 じと思せば、問はせたまはず。 六薫・匂宮の双方から。 セ薫・匂宮を思う浮舟の物思い かしこには、御使の例よりしげきにつけても、もの思ふことさま、さまなり。 ^ 薫からの文面は。 九↓明石 3 八八ハー注九の歌。他 ただかくそのたまへる。 者に心を移したと詰問。 一 0 私を世間の物笑いにするな。 薫「波こゆるころとも知らず末の松待つらむとのみ思ひけるかな = 歌意が分ったように返事する 人に笑はせたまふな」とあるを、いとあやしと思ふに、胸ふたがりぬ。御返りと匂宮との仲を認めたことになる。 三何かの間違いだったら不都合。 こころえがほ 事を心得顔に聞こえむもいとつつまし、ひが事にてあらんもあやしければ、御一三他者への手紙がまちがって届 けられたと存じますので。 一三たが 文はもとのやうにして、浮舟「所違へのやうに見えはべればなむ。あやしくな一四なぜか気分がすぐれないので。 一五薫は。 やましくて何ごとも」と書き添へて奉れつ。見たまひて、さすがに、「いたく一六うまく言いのがれたものと。 宅浮舟を。彼女への執着である。 もしたるかな、かけて見およばぬ心ばへよ」とほほ笑まれたまふも、憎しとは 0 浮舟の不倫を知った薫は、彼女 の身分の卑しさを思うことで自ら の執着を合理化して詰問するだけ。 え思しはてぬなめり。 それが浮舟を窮地に追いつめる。 一〈浮舟の不倫を。 ふみ 六つかひ せうふ ゑ げ五

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269 浮舟 もご立腹申しあげておられまして、どなたにもご内密のお ろはどんなに騒がれているだろう、と京をお思いやられる 忍び歩きは、まったくご身分をわきまえぬ軽々しいことで、 につけても、「窮屈なこの身がなんともつまらない。身軽 てんじようびと それにご無礼なまちがいも起りますものを、何によらず主な身分の殿上人などにしばらくでもなっていたいものだ。 上などのお耳にはいってどうおばしめされるかと、自分と どうしたらよいものか。こうして人目を恐れるといったと しても責任上まことにつらい立場です』と、きつく申して ころで、いつまでも気にしてはいられまい。大将もこれを ひじり おられました。宮は東山へ聖に会いにお出かけでと人前に 知ったらなんと思うことだろう。それが当然の親しい間柄 によーしレ - う むつ 言いつくろっておきましたが」などと話して、「女性とい とはいうものの、昔から不思議なくらい睦まじくしてきた うものはまったく罪深くていらっしやるものでございます仲であるのに、その裏でこのような隠し事をしているのを な。取るにも足らぬ手前ども家来まであたふたおさせにな知られた場合、合せる顔もなかろうし、それにまた、なん って、作り言までお言わせになるのですから」と言うので、 とやら世間のたとえにもあることだから、相手に待ち遠し 右近は、「聖という名までおつけ申されたとは、ほんとに い思いをさせて放っておいた怠慢も棚に上げて、あなたの うそ さかうら 結構なことですわ。ご自分の嘘つきの罪もそれで帳消しに ほうが大将から逆恨みされることになりはせぬかとそんな おなりでしよう。本当のこと、宮様はまったく合点のゆか ことまでが心配になります。夢にも人にお気づかれになら ぬご性分ですが、いかにも、どうしてこんなお方になられ ぬようにして、どこかほかの場所へお連れすることにしょ きのう たのでしよう。もし前もってこれこれでお越しになります う」とおっしやる。昨日に続いてムフ日までもこのまま閉じ おそ と承っているのでしたら、まことに畏れ多いことですから、 こもっていらっしやるわけにもいかないので、お帰りにな そで なんとかひと工夫させていただきましたでしように、軽は ろうとするにつけても、ご自分の魂だけは恋しい女君の袖 ずみなお忍び歩きでございますよ」と、お相手申している。 の中にお残し置きになったことであろう。 せき 右近は、宮の御前へ参上して、これこれでございますと、 夜の明けきらぬうちにと、供人たちが咳ばらいをして催 時方の一一 = ロ葉をそのまま申しあげると、宮は、、かにも今ご促申しあげる。宮は女君を妻戸のところまでごいっしょに つまど

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分るはずがございましよう」と申しあげる。宮は、「そう とてもおできになれないご身分でいらっしやるのが、こと % であろうな。昔も一、二度通ったことのある道なのだ。そ もあろうに粗末な身なりにお姿をやっして、御馬でお越し とが の山越えの険しさよりも、身分をわきまえぬと非難される になるのは、なんとなく恐ろしく気が咎める心地でもある 語 物にちがいないので、その何かと取り沙汰されるのが心配な けれども、こうした向きでの好奇心は並はずれたご性分で 氏 のだ」とおっしやって、どう考えてみても不都合なことだあるから、山が深くなって宇治へ近づくにつれて、なんと 源 とご自身の、いにもお思いになるけれども、こうまでお言い か早くその女に逢いたいもの、どんな結果になるだろうか、 出しになったことなので、もう思いとどまることはおでき もし逢うこともできずに帰るようなことにでもなったら、 になれない どんなに物足りなく、おかしなことになるだろう、とお思 いになると、胸も波うつお気持でいらっしやる。法性寺の 〔を匂宮、大内記の案宮は、お供として、昔からあちらの 内により宇治に赴く様子を知っている者二、三人とこの あたりまではお車で、それからあとは御馬にお乗りになる くろうど めのとご のであった。 内記、そのほかには御乳母子の蔵人から五位に叙せられた 若い男など、内輪の者ばかりをお選びになって、大将は今 道を急いで、宵を過ぎるころにお着きになった。内記は、 日明日万が一にもお越しになることはあるまいなどと、内勝手をよく知っているあちらのお邸の者から前もって様子 とのいびと 記によくそちらの事情をお聞きになってご出立になるにつをよく尋ねておいたので、宿直人の控えているほうには近 あしがき けても、昔の宇治へのお忍びをお思い出しになっている。 寄らずに、葦垣をめぐらした西面をそっと少しばかりこわ あのころ、不思議なくらい自分に味方してくれて、いっし して中にはいった。内記自身も、やはりはじめてのお住い ょに往き来してくれた大将に対してなんと後ろ暗いふるま であるから、さすがに心もとないけれど、人が大勢いるわ いをするものよ、と、い中に去来する思いがさまざまである けでもないので、どうやら寝殿の付近までたどりつくと、 きぬ につけても、宮は京の中でさえ、まったく他人に気づかれその南面に灯がほの暗く見えて、さやさやと衣すれの音が ないようなお忍び歩きま、 。いくら浮気なお方とはいっても している。内記は宮のおそばに戻ってまいり、「まだ女房 ひとあ やしき