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検索対象: 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡
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1. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

なほしくれなゐぞ さしめき あをにびかたもん 殿わたらせたまへり。青鈍の固紋の御指貫、桜の直衣に紅の御衣三つばかり、一青みがかったねずみ色。 -4 ニ紋様を固くしめて織ったもの。 いだしうちき のうし ただ御直衣に重ねてぞ奉りたる。御前よりはじめて、紅梅の濃き薄き織物、固三出袿をせず直衣の下に重ね た簡略な服装。 子 紋、りうもんなど、そのをりはこの八丈といふたけたかはことになかりき、あ四縦糸は紫、横糸は紅の織物。 草 五「綾文」の字音の訛りか。 からぎめもえぎゃなぎ 六「八丈 - 「たけたか」不審。挿 枕る限り着たれば、ただ光り満ちて、唐衣は萌黄、柳、紅梅などもあり。 入句であろうが誤りがあるか 御前にゐさせたまひて、物など聞えさせたまふ。御いらへのあらまほしさを、七関白は中宮の御前に 〈理想的なすばらしさ。 里なる人々にはつかにのそかせばやと見たてまつる。女房どもを御覧じわたし九「に」は敬意をこめた格助詞と みる。客におかせられては。 て、「宮に何事をおばしめすらむ。ここらめでたき人々を並めすゑて御覧ずる一 0 容貌などを中心とした表現。 = 良家の子女たち。 ひとり一 0 一ニ中宮に対する感動の語とみる。 こそ、いとうらやましけれ。一人わろき人なしゃ。これ家々のむすめそかし。 一三以下道隆の冗談ごと。 さぶら あはれなり。よくかへり見てこそ、候はせたまはめ。さても、この宮の御心を一四いまだにお下がりのお召物一 つだって私にくれてやってはくだ ばいかに知りたてまつりて、あつまりまゐりたまへるぞ。いかにいやしく物をさらないで。「給ぶ」は、身分の低 い者に「くれておやりになる」の意。 む しみせさせたまふ宮とて、われは生まれさせたまひしより、いみじうつかうま一五陰ロでなく堂々と悪口を申し あげますよ。「しりう言」は「後っ ごと つれど、まだおろしの御衣一つ給ばぬそ。なにかしりう言には聞えむ」などの言」の音便。陰ロ。 一六「め」は「奴」の誤りか。 たまふがをかしきに、皆人々笑ひぬ。「まことに、めをこなりとて、かく笑ひ宅「あり、「をり」の尊敬語。会 話中に多い。「ふりはづかし」不審。 つかひしきぶのぞう のりま、 いますかり。ふりはづかし」などのたまはするほどに、内より御使にて式部丞一〈三巻本後文によれば源則理 一セ かさ た きこ 四 うち な

2. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

みくしげどの もからぎめ いる限りの人はすべて、裳、唐衣を、御匣殿にいたるまで へノホドゾ」などと言うけれど、そこに入って座って見物 こうちき が着ていらっしやる。関白様の北の方は、裳の上に小袿を するのは、たいへん光栄だ。「こんなことがあった」など と、自分から言うのは、自己宣伝でもあり、また、中宮様着ていらっしやる。関白様は「絵に描いてあるようなすば の御ためにも、高貴な御身分がら軽々しく、「こんな程度らしいみなさんの御様子ですね。イマイラへ今日ハと申し ′ : つよう・あい の人間をまで御寵愛なさったのだろう」などと、自然、物あげなさるのですよ。三、四の君よ、中宮様の御裳をお脱 おんあるじ がせなさい ここの御主としては中宮様こそがそれでいら 事を心得て、世間のことをかれこれ非難などする人は : そんなわけで、わたしには、もったいながったところでど っしやるのだから。御桟敷の前に陣屋をおすえ置きあそば していらっしやるのは、並一通りのことだろうか」と言っ うしようもないことながら、恐れ多い中宮様の御事がかか て、感にたえずお泣きあそばす。なるほどお喜びももっと わってもったいないけれど、事実あることなどは、また、 どうして書かすにおかれようか。ほんとうにわたしの身の もだと、女房たち一同も涙ぐむような気持でいる折に、わ からぎぬ たしが赤色の表着に桜襲の五重の唐衣を着ているのを、関 はどに過ぎたこともきっとあるであろう。 キ一じき ひと ・よろ・いん 白様は御覧あそばして、「法服一そろいを僧にくださった 女院の御桟敷、また、方々のたくさんの桟敷を見わたし のだが、急に、もう一つ入用だったから、これをこそお借 ているのは、すはらしい。関白様は、先に女院の御桟敷に り申しあげればよかったのだったな。それでは、もしかし 参上なさって、しばらくたってから、こちらに参上なさっ ちぢ ていらっしやる。大納言お二方が御供としておいでになり、 たらまたそのような物を切って縮めたのか」と仰せあそば 以さんみ 三位の中将は、陣に近く参上したままの姿で、道具を背負すので、また笑った。大納言様、それは少し後ろに下がっ て座っておいでになったのだが、それを聞いて、「きっと 2 って、とても似つかわしくしゃれたかっこうでおいでにな ひとこと せいそうず 第 る。殿上人、四位、五位の人々が、たくさん連れ立って、 清僧都の法服であろう」とおっしやる。一言だっておもし ろくないことはないのだ。 御供に伺候して並んで座っている。関白様が桟敷にお入り 僧都の君は、赤色の薄色の御衣、紫の袈裟、とても薄い あそばして中宮様をお見申しあげあそばすと、女房たちの、 かたがた うわぎ がさねいっえ 、一ろも かた

3. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

したがさね 着て人に見えぬる同じ下襲ながら宮の御供にあらむ、わろしと人思ひなむとて、宅劣った所業だ。みつともない。 天別の下襲をお縫わせになった こと下襲縫はせたまひけるほど、おそきなりけり。、 しとすきたまへりな」とて、その間。 一九風流心がおありなことよ。一 うち笑はせたまへる、いとあきらかに晴れたる所、いますこしけざやかにめで説、前の「人」を特定の女性とみて、 好き者の意に解する。 たく、御額あげさせたまへりける釵子に、御わけめの御髪の、いささか寄りてニ 0 正装の折の頭髪の飾り。 ニ一一双。二基。 きちゃうニ一 一三畳一枚を横長に縁を出して。 しるく見えさせたまふなどさへぞ。三尺の御几帳ひとよろひをさしちがへて、 ニ三下長押 たたみひと こなたのへだてにはして、そのうしろには、畳一ひらを、ながさまにはしをしニ四女房名。 もろすけ 一宝右大臣師輔の子。兼家の弟。 なげし うへし うひやうゑのかみただきみきこ て、長押の上に敷きて、中納言の君といふは、殿の御をぢの右兵衛督忠君と聞道隆のおじに当る。 あき ニ六三巻本の「右大臣」に従う。顕 ふたり とみのこうぢニ六 ただ えけるが御むすめ、宰相の君とは富小路の左大臣殿の御孫、それ二人そ上にゐ忠。左大臣時平の子。 毛三巻本「あなたに行きて、人 うへびと て見えたまふ。御覧じわたして、「宰相はあなたにゐて、上人のとものゐたるどものゐたる所にて見よ」。 ニ ^ 自分たちと清少納言と。 所、行きて見よ」と仰せらるるに、、い得て、「ここに三人、いとよく見はべりニ九長押の上にお召しになるので。 三 0 三巻本「しもにゐたる」。 三一下にいる女房たちがそねみの 段ぬべし」と申せば、「さは」とて、召しあげさせたまへば、しもゐたる人々、 気持から冗談を言ったもの。内舎 てんじゃう 「殿上ゆるさるるうどねりあンめり」と、笑へば、「こそあらせむと思へると人は身分の低い役人。以下は三巻 第 本前田本によっても必すしも意味 おも が明らかではない。 、と面だた 言へば、「むまへのほどぞ」など言へど、そこに入りゐて見るは、し 三ニ自分の中宮からの御寵愛を吹 三ニがた し。「かかる事」などぞみづから言ふは、吹き語りにもあり、また、君の御た聴することにもなるし。 ひたひ さいしゃう ニ四 さいし ニ九 ニ七 ま′一 へり

4. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

完訳日本の古典第十三巻枕草子 昭和年 8 月引日初版発行 定価一七〇〇円 校注・訳者松尾聰永井和子 発行者相賀徹夫 印刷所図書印刷株式会社 発行所株式会社小学館 〒期東京都千代田区一ッ橋一一ー三ー 振替口座東京八ー一一〇〇番 電話編集 ( 〇三 ) 一一三〇ー五六六九業務 ( 〇三 ) 二 三〇ー五三一一一三販売 ( 〇三 ) 一一三〇ー五七六八 ・造本には十分注意しておりますが、万一、落丁・乱丁 などの不良品がありましたらおとりかえいたします。 ・本書の一部あるいは全部を、無断で複写複製 ( コピー ) することは、法律で認められた場合を除き、著作者およ び出版者の権利の侵害となります。あらかじめ小社あて 許諾を求めてください。 Printed in Japan ( 著者検印は省略 ◎ SMatuo K. Nagai 1984 ISBN4 ・ 09 ・ 556013 ・ 4 いたしました )

5. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

りさせられた気分であったことよ。 仲の男などは、まして、人目のあることを考えて、寄るに しても近くも寄ることができず、思い嘆いているのこそお 三〇五病は もしろい。とてもきちんと長い髪をひき結んで、物を吐く ものけ 病気は胸。物の怪。あしの気。ただ何となく食物を食といって、起きあがっている様子も、ひどくいじらしく、 かれん べないの。これらは心配なものだ。 可憐に見える。 しゅじよう みどきよう 十八、九歳ぐらいの女で、髪がとてもきちんと整って、 主上におかせられてもそれをお聞きあそばして、御読経 すそ 背丈ほどの長さがあり、裾の方がふさふさしている女、そ の僧の、声のよい人を、おくだしになっているので、見舞 あいき・よ・つ してとてもよく太って、たいへん色が白く、顔は愛嬌があ の女房たちもたくさんそれを見にやって来て、経を聞きな って、美人だと見える女、そうした女が、歯をひどく病みどする姿も、隠れなく見えるので、その女房たちに目を配 ひたいがみ わずらって、額髪もじっとりと涙で泣き濡らし、髪の乱れり配り、僧が経を読んで座っているのこそ、そんな僧では ぶつばっ かかるのも気づかず、顔が赤くなって、痛むところを押え多分仏罰をこうむっているのであろうと思われることだ。 て座っているのこそ、風情がおもしろい ひとえ はかま 三〇六心づきなきもの 八月のころに、白い単衣の、しなやかなのに、袴はよい しおんうわぎ さんけい 具合なのをつけて、紫苑の表着の、とてもま新しく鮮やか 気にくわないものどこかへも行き、寺へも参詣する日 の雨。自分が召し使う人が、「わたしのことは、人は思っ 段なのを上に羽織っている人が、胸をひどく病んでいるので、 友だちである女房たちなどが、かわるがわる見舞にたずねてくれない。たれそれこそが、現在のお気に入りの人」な どと言うのを、小耳にはさんだの。ほかの人よりはやはり て来て、「何ともお気の毒なことですね。いつもこんなに 第 しいかげん お苦しみになるのですか」などと、通りいつべんにたずね少しにくらしいと思う人が、当推量をしたり、 3 る人もいる。その女に思いをかけている男は、、いの底から な物恨みをしたりして、自分だけえらそうにふるまってい たいへんなことだと思ってため息をつき、また、人知れぬるの。 せたけ

6. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

一人目につくから格別に品格が めり。ましてまじらひする人は、いとこよなし。猫の土におりたるやうにて。 あってほしいものだ、の意向。 ニ前とのつながり不審。猫が土 の上におりているように人目につ 子 三一二人の顔にとりつきてよしと見ゆる所は くから、と仮にみる。一説「 : ・猫 草 のように品格がなくては困る。 枕人の顔にとりつきてよしと見ゆる所は、日ごとに見れど、あなをかしと見ゅ = = 一巻本「とりわきて」。 四道具類。一説、顔の造作。 れ。絵などは、あまたたび見つれば、目も立たずかし。近く立てる屏風の絵な五自然に見つめられる。 六「さ」は「常にまもらるる」こと とみるが、下文の「まもらるる」が しとめでたけれど、見もやられず。人のかたちは、をかしうこそあれ。 重複するので不審。三巻本「さこ にくげなる調度の中にも、一つつよき所の、常にまもらるる。にくきも、さこそはあらめと思ふこそわびしけ セこの段三巻本にはない。大工 そはあらめとまもらるるこそわびしけれ。 の食事を活写する珍しい一段。 ^ 寝殿の東面。 九「取りて : こにかかる。 二一三たくみの物食ふこそ、いとあやしけれ 一 0 汁物の容器として用いた素焼 の陶器。 しんでん たくみの物食ふこそ、いとあやしけれ。寝殿を建てて、東の対だちたる屋を = 「突き据う」の音便。もう不用 だという意味の動作をいうか ひんがしおもてい 三副食物。おかず。 造るとて、たくみどもゐ並みて、物食ふを、東面に出でゐて見れば、まづ、 一三副食に対する「飯」。 まら・け一 持て来るやおそきと、汁物取りてみな飲みて、土器はついすゑつ。次にあはせ一四たちまち食べ尽したさま。 一五そうしたのだから。 をみな食ひつれば、おものは不用なンめりと見るほどに、やがてこそ失せにし一六多分そういうものだ、と思う。 てうど しるもの っち びやうぶ や

7. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

43 第 140 段 た のち とうのべん きこえむ」などのたまひて後に、経房の中将、「頭弁はいみじうほめたまふと = 「思ひ隈なし」は分別が十分に 行き届かないことをいう。深い考 ゃ。知りたりや。一日の文のついでに、ありし事など語りたまふ。思ふ人、人えがなくますいことをやった、と。 三御礼。感謝。 一三「を」は感動の間投助詞。 にほめらるるは、いみじくうれしく」など、まめやかにのたまふもをかし。 一四源経房。高明の四男。長徳一一 ふたき 「うれしき事二つ来てこそ。かのほめたまふらむに、また、思ふ人の中に侍り年 ( 究六 ) 七月右近衛中将。四年十 月左に転ず。 けるを」など言へば、「それは、めづらしう、今の事のやうにもよろこびたま一五私あての手紙の中で、頭弁が 語る、とみる。 一六「こそ」の下に「あれ」など省略。 ふかな」とのたまふ。 三巻本「にて」。 宅頭弁がほめたことと、経房の 「思ふ人」の中にはいっていること。 一四〇五月ばかりに、月もなくいと暗き夜 一 ^ あなたが私の思い人であるこ とをば、珍しがって今更のように さぶら 五月ばかりに、月もなくいと暗き夜、「女房や候ひたまふ」と、声々して一一 = ロお喜びになるとは。前からわかっ ていたと思ったのに、の気持 へば、「出でて見よ。例ならず言ふはたれそ」と仰せらるれば、出でて、「こは一九長保元年 ( 九究 ) 五月。 ニ 0 際立っている声は。 す 誰そ。いとおどろおどろしうきはやかなるは」と言ふに、物も言はで、簾をも三擬声語。がさつ、ごそっ。 はちく 一三淡竹の一種。 くれたけ ニ三おお。この君でしたか。「こ たげて、そよろとさし入るるは、呉竹の枝なりけり。「おい。この君にこそ」 おうきし の君」は竹の異称。『晋書』王徽之 てんじゃう と言ひたるを聞きて、「いざや。これ殿上に行きて語らむ」とて、中将、新中伝に「何ゾ一日モ此ノ君無力ル可 ケムャト」と見える。 ニ四中将以下特定しにくい。 将、六位どもなどありけるは、いぬ。 一九 ひとひ つねふさ

8. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

ゅ こもとは落ちたる所に侍るめり。あがりたるーなど教へ行く。何者にかあらむ、語。 一五仏前に不断に点ぜられている いと近くさし歩み、さいだつ者などを、「しばし。人のおはしますに、かくは灯明。「常灯には・ : 奉りたる、は 「御あかし」の説明句 たかくら まじらぬわざなり」など言ふを、「げに」とてすこし立ちおくるるもあり、ま一六仏前にある高座で、仏を礼拝 し読経などする時に導師が座る。 つばね ほとけ た聞きも入れず、「われまづとく仏の御前に」と、行くもあり。局に行くほど宅「ろき」不審。「論義」を当てて も意は十分には通じまい。「ちか ゅ いめふせ いとうたてあるに、犬防ぎの中を見入れふ」は「誓ふ」か。三巻本「かひろぎ も、人のゐ並みたる前を通り行けば、 ちかふ」。 まう 天「満ちて、これはは、三巻本 たる心地、いみじくたふとく、「などて月ごろも詣でず過ぐしつらむ」とて、 「満ちたれば」。 一九「せめて」は副詞。「迫む」 ( 下 まづ心もおこさる。 一四 二段自動詞 ) から出た語。できる じゃうとう ことのぎりぎりの線まで近づいて、 御あかし、常灯にはあらで、うちにまた人の奉りたる、おそろしきまで燃え が原義。 ニ 0 仏に千灯を供養する御志は。 たるに、仏のきらきらと見えたまへる、いみじくたふときに、手ごとに文をさ 「たん」は底本仮名表記で「灯」の音 らいばん さげて、礼盤に向ひてろきちかふも、さばかりゆすり満ちて、これは、とり放表記としては確かではない。三巻 本「千とう ( 灯 ) 」。 ちて聞きわくべくもあらぬに、せめてしばり出だしたる声々の、さすがにまたニ一儀礼用の掛け帯。寺社参詣、 段 読経の折などに肩に掛ける。 ニ 0 たん ここにこのよ , つにおそばにお まぎれず、「千灯の御こころざしは、なにがしの御ため」と、はつかに聞ゅ。 あいさっ 伺いしております、の意で、挨拶 をが しきみ 帯うちかけて拝みたてまつるに、「ここにかう候ふ」と言ひて、樒の枝を折りの言葉。 ニ三枝を仏前に供え、葉や樹皮か ら抹香を作る。 て持て来たるなどのたふときも、なほをかし。 も み ここち な あ 一九 さぶら す きこ ふみ まっこう

9. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

病人の兄弟で、袿を着ている細い若者たちなどが、後ろ か。さつばりした気分におなりでしようか」と言って、に うちわ っこりしているのも、すばらしくて気がおけるほどである。 に座って、団扇であおぐ者もいる。みな尊がって、集って ) 一んぎよう いるのも、女の童がいつもの本心でこんなありさまがわか 「もうしばらくお付き申しあげているはずですが、勤行の とうわく ったとしたら、どんなに当惑す・ることだろう、女の童自身刻限にもなってしまいそうでございますので」と、退出の あいさっ としては苦しくはないことなどとは知りながら、たいへん御挨拶をして出るのを、「もう少しお待ちを。ホウチハウ つらがってため息をついている様子が気の毒なのを、その タウを差しあげましよ、つ」などと一 = ロって引きとめるのを、 きちょう じ・よう・ろう やしき 女の童の知合の人などは、、、 しじらしいと感じて几帳のもと ひどく急ぐので、その邸のどうやら上﨟女房らしい人が、 すだれ に近く座って、童女の衣の乱れを直してやったりなどする。簾のもとにいざり出て、「たいへんうれしくもお立ち寄り こうしているうちに、病人はまあ気分が幾分いいという くださっていましたおかげで、ひどく堪えがたく存じてお やくとう きたおもて ことで、御薬湯などの準備を北面のほうに取りつぐ間を、 りましたのに、ただいまは治りましたようでございますの ばん 若い女房たちは気がかりで、御薬湯の盤も引きさげたまま で、かえすがえす御礼を申しあげます。明日も御仕事のな で、病人の近くに来て座ることよ。その女房たちは単衣な い時間のあいまにはお立ち寄りくださいませ」などと繰り も しゅうねんぶか どが見る目にきれいで、薄色の裳などもくたくたになって返し言って、僧は「とても執念深い御物の怪でございます ゆだん はいず、とてもきれいな感じだ。 ようですので、油断なさいますと、決してよいはずがござ さる ) 一と しよう・一う いましようか。少し小康を得ていらっしやるというふうに 段申の時に、ひどくわび言を言わせなどして物の怪を放免 うち ずく 引して、女の童は「几帳の内にいると思っていたのに。意外伺いますのを、お喜び申しあげております」と、言葉少な にも出てしまっていたのですね。どんなことが起ってしま に言って出るのは、たいへん尊いので、仏が僧の姿を借り 第 っているのでしよう」と、とても恥ずかしがって、髪を顔て出現なさっているとまで感じられる。 に振りかけて隠して、奥にそっと入ってしまうので、僧は 見る目にきれいな童の、髪の長いの、また大柄であって、 それをしばらく引きとめて、加持を少しして、「どうですイナヲイテ、思いがけなく長い髪が端麗なの、また白毛の うちき きぬ ものけ ひとえ

10. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

し . しし唸っ・ すもう せちえ はいぜんうねめ と感じられる。自分が気分など悪くして臥せっている時に、 節会の御陪膳の采女。大饗の日の史生。七月の相撲。雨の せんどう くったく いちめがさ 2 降る日の市女笠。川渡りする折の船頭。 笑って何か言い、なんの屈託もなさそうな様子で歩きまわ る人こそは、ひどくうらやましい 子 いなりやしろ さんけい なかみやしろ ハ一苦しげなるもの 稲荷の社に思い立って参詣している時に、中の御社にさ 草 めのと よな がまん 苦しそうなもの夜泣きというものをする幼児の乳母。 しかかるあたりで、むやみに苦しいのを我慢して坂を登る 枕 ふたり 愛する女性を二人持って、両方から恨まれ、やきもちを焼ころに、少しも苦しそうな様子もなく、あとから来ると見 ものけ ちょうぶく さんけい かれている男。手ごわい物の怪の調伏にかかわっている験られた人たちが、どんどん行って先に立って参詣するのは、 じやきとう - 」うけん あかっき 者。祈疇の効験だけでも早くあるのならよいはずだが、そ とてもうらやましい。二月の午の日の暁に家を出て、急い うでもないのを、そうはいうもののやはり人の笑い者にな だけれど、坂の半分くらい歩いたところが、そこで巳の時 ぐらいになってしまったのだった。だんだんと暑くまでな るまいと一生懸命祈っているのは、ひどく苦しそうだ。 って、ほんとうにやりきれない感じがして、「こんな苦労 むやみに物を疑う男に、ひどく愛されている女。摂政・ やしき はぶり をしない人も世の中にもいようものなのに、なんだってこ 関白のお邸にいて羽振をきかせている人も、気楽ではあり えないけれど、それはよいだろう。気がいらいらしている うして参詣してしまっているのだろう」とまで、涙がこば れて、そこで一息入れているのに、三十歳余りぐらいであ 人。 すそ つばしようぞく る女で、壺装束などではなくて、ただ着物の裾をたくし上 ななたびもう げただけのかっこうなのが、「わたしは七度詣でをいたし ますのですよ。三度はもう参詣してしまった。もうあと四 ひつじ げざん 度は、なんでもない。未の時にはきっと下山するでしょ う」と、道で出会った人に言って、坂をおりて行ったのこ そは、普通の所では、目にもとまるはずのない些細なこと 一六二うらやましきもの うらやましいもの経などを習って、ひどくたどたどし くてとかく忘れつばくて、何度も何度も同じ所を読むのに、 法師は当然のこととして、男も女も、すらすらと楽に読ん ししオいいつになったら でいるのこそ、あの人のようこ、 げん ふ ささい み