通り - みる会図書館


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1. リング

101 おい、本当にそんなこと書いちまっていいのか。 竜司はやはり今と同じ薄笑いを浮かべて、うなずくだけであった。 「だからよお、オレには恐いものなんてないの」 竜司はそう言った後、顔をぐっと浅川のほうに近づけた。 「ゆうべ、またひとり、ヤッちまったしよ」 : またか。 浅川が知る限り三人目の犠牲者であった。一人目を知ったのは、高校一一年の時。二人と も川崎市多摩区の自宅から県立高校に通っていたが、浅川は毎朝授業の始まる一時間前に は学校に着き、朝のすがすがしい時間帯にその日の予習をする癖があった。用務員を除け ば、いつも彼が学校への一番のりを果たしていた。それに比べて竜司は、一時限目の授業 をまともに出たことはないといったありさまで、遅刻の常習者、ところが、夏休みも終わ ったばかりのある朝のこと、浅川がいつも通り学校に行くと、なぜか竜司が先に来て教室 の机の上に腰かけて・ほんやりしていた。「やあ、めずらしいじゃないか」と浅川は声をか グけた。「おう、まあな」無愛想にそう答えたきり、竜司は心ここにあらずといった様子で ほお ン窓から校庭を眺めた。その目が赤く充血している。頬にも赤みが差し、吐く息が少し酒臭 かった。特別仲がよかったわけでもないので、それ以上会話は続かず、浅川はいつも通り 教科書を広げて予習に取りかかった。ところがしばらくすると、竜司は音もなく浅川の背 後に忍びより、「なあ、おまえにちょっと、頼みてえことがあるんだが : : : 」と彼の背中

2. リング

293 南箱根パシフィックランドのレスト ( ウスから足利の妻のもとに電話をかけ、浅川は約 束通り日曜日の朝レンタカーで迎えに行くことを伝えた。静は、じゃあもう事件のほうは : たぶん」としか答えられな かたづいたのね、と聞いてきたがそれに対して浅川は、「 : かった。自分はこの通り生きているという、その事実だけから、たぶん解決したのだろう と推測するほかなかったのだ。しかし、受話器を置いた時、釈然としない気持ちのほうが より強く残った。どうしても引っ掛かることがあるのだ。一方では、自分が生きていると いう理由だけで、すべてきれいさつばりかたづいたと信じたくもある。ひょっとしたら、 竜司も同じ疑問を抱いているかもしれないと、テしフルに戻るとすぐ浅川は竜司に聞いた。 「なあ、本当にこれで終わりなんだよな」 竜司は、浅川が電話をかけている間にランチをきれいに平らげていた。 「べイビーは喜んでいたか ? 」 竜司は、すぐには質問に答えなかった。 「ああ。なあ、おまえ、どうだ ? すっきりさわやかって気分じゃないだろう」 グ「気になるのか ? 」 ン「おまえは ? 」 「まあな」 「どこだ ? 気になるところは」 「ばーさんの言葉だ。うぬはだーせんよごらをあげる。おまえは来年子供を産む。あのば

3. リング

308 「あの、竜・ : 「先生、亡くなられましたー 一体、どれくらいの間絶句していただろう。呆けたように「はあ ? と答えたきり、う つろな目で天井の一点を見つめ、握っていた受話器が滑り落ちそうになったところでよう やく浅川は、「いっ ? 」という問いを投げかけていたのだった。 「昨夜の十時頃 : : : 」 竜司が浅川のマンションで例のビデオを見終わったのが、先週の金曜日の九時四十九分 だったから、まさに予告通りの時刻である。 「それで、死因は ? 」 日町くまでもないことだ。 「急性心不全 : : : 、はっきりとした死因はまだわからないそうですー 浅川は立っているのがやっとの状態だった。事件は終わったわけではない、第二ラウン ドに突入したのだ。 「舞さん、まだそちらにおられますか ? 」 「はい、先生の遺稿の整理がありますので」 「僕、今からすぐうかがいます、帰らないでお待ちください」 浅川は受話器を置くと同時に、その場にへたり込んだ。妻と娘の締め切り時間は明日の

4. リング

ろうな」 「それが、その通りなんです。山村貞子は一九四七年に伊豆大島の差木地で生まれ、母の 志津子 : : : 、あ、この名前もメモ頼みます。山村志津子、四七年当時一一十二歳。志津子は 生まれたばかりの貞子を祖母に預けて、東京に出奔 : : : 」 「なぜ、赤ん坊を島に残したまま ? 」 「男ですよ。この名前もメモしてください。伊熊平八郎、当時大学精神科助教授、山村 志津子の恋人 : : : 」 「ということは、山村貞子は志津子と伊熊平八郎との間に生まれた子供なのかい ? 」 「確証は取れていませんが、まずそう見て間違いないでしよう」 「ふたりは結婚してないんだな ? 「ええ、伊熊平八郎は妻子持ちですから」 、吉野は鉛筆の先を舌でなめた。 なるほど、不倫の恋ってやっか : 「わかった、続けてくれ グ「一九五〇年になるとすぐ、志津子は三年ぶりに故郷を訪れ、娘の貞子に再会し、しばら ン くここで暮らします。しかし、その年も終わろうとする頃、またもや出奔、その時は貞子 も一緒です。その後五年間ばかり、志津子と貞子の母子がどこでなにをしていたのか不明。 5 ところが、五〇年代半ば、この島に住む山村志津子の従兄弟は、風の便りに志津子が有名 うわさ になり、活躍してるという噂をキャッチします

5. リング

日が日曜日であることに気付いた。そのせいか、いつもは数珠つなぎになっている海底 トンネルにも車の数はめつきり少なく、合流地点でさえ渋滞は見られない。 この調子で いけば予定通り九時には足利の実家に着き、二本のダビングに充分な余裕をもってのそ むことができる。浅川はアクセルをゆるめた。ス。ヒードの出し過ぎで事故に巻き込まれ るほうがずっと恐かった。 隅田川沿いを走りながら下を見ると、日曜日の朝の、まだ起きたばかりの街の表情が あちこちに見受けられた。平日とは違った動きかたで、人々は歩いている。平和な日曜 日の朝 : ・ 浅川は考えてしまう。このことがどういう結果を生むのか : : : 。妻の分と、娘の分と、 二方向に分かれて放たれたウイルスは一体どのように広まってゆくのだろうか。既に一 度見た人間にコビーをつくって渡し、ある特定のグループ内で受け渡しを繰り返せば、 蔓延を防ぐことができるとも思える。しかし、それでは増殖を望むウイルスの意志に反 することになり、その機能がどういった仕組みでビデオテープに組み込まれているのか は今のところ知りようがない。知るためには実験が必要となる。果たして、命をかけて まで真実を解明しようという人間が現れるのは、かなり深刻な状態にまで蔓延してから のことになるだろう。コ。ヒーをつくって人に見せるだけで危険を回避できるとすれば、 難しい方法ではない故に人は必ず実行に移すものだ。そうして、ロコミで伝わるうちに、 「まだ見ていない人にーという条件は、必ず付される。それと、もうひとつ、おそらく まんえん じゅず

6. リング

212 ほど美しいにもかかわらず、二十五年という時の流れに浸食され、残った印象は「不気 味」、あるいは「気持ちのワルイ女」。本来なら、「素晴らしく美しい女だった、と言うの が普通だろう。吉野は、明らかな特徴を押しやってまで顔を覗かせる「不気味ーさの正体 に、強く興味をそそられた。 十月十七日水曜日 吉野は、表参道と青山通りの交差点に立って、もう一度手帳を取り出した。 南青山六ー一、杉山荘。それが、二十五年前の山村貞子の住所であった。番地とアパ ト名とのアイハランスさに、吉野は絶望的な気分を味わっていた。通りを曲がって、根津 美術館のすぐ横のプロックが六ー一であるが、吉野が心配した通り、杉山荘なる安アパ トがあったはずの場所には、豪壮な赤レンガのマンションがそびえていた。 ・ : どだい無理な話さ。二十五年前の女の足取りなんて、わかるわけねえ。 あと残る手がかりは、山村貞子と同期で入団した四人の研究生。貞子と同期で入った七 人のうち、どうにか連絡先がわかったのは四人だけであった。彼らが貞子の消息に関して 何も知らなかったら、完全に糸は途切れてしまう。吉野は、そうなりそうな気がしてしか たがない。時計を見ると午前十一時を回っていた。吉野は近くの文房具店に飛び込み、こ のぞ

7. リング

116 「乾杯しよう ! 」 乾杯の理由がわからず、浅川はグラスを持ち上げようとしない。 「オレは予感がするんだ」 竜司の土色の頬に少し赤みがさしてくる。 「この出来事には、普遍的な悪のイメージがっきまとうんだよな。匂ってくるんだ、どこ からともなく、あの時の衝動が : 。おまえにも話しただろ、おれが一番最初に犯した女 のこと」 「ああ、覚えている」 「もう十五年も前のことだ。あの時も、妙に胸をくすぐる予感があった。十七歳、高校一一 年の九月。オレは夜中の三時まで数学をやり、その後一時間ばかりドイツ語を勉強して頭 を休めた。いつもそうしてるんだ。疲れた脳細胞をもみほぐすには、語学がちょうどいし からな。四時になると、やはりいつも通りビールを二本飲み、日課である散歩に出かけた。 出かける時、オレの頭にはいつもと違う何かが芽生え始めていた。深夜の住宅街を歩いた ことがあるかい ? 気持ちがいいそ。犬も眠っている。おまえのべイビーちゃんのように な。オレはあるアパート の前にまで来ていた。しゃれた木造の二階建てで、このうちのど せいそ こかに時々通りで見かける清楚な感じの女子大生が住んでいることを、オレは知っていた。 どの部屋かはわからない。オレは八つある部屋の窓を順に見渡していった。この時、別に 考えがあって見回したわけじゃない。ただ、なんとなく、な。二階の南端に目が留まると、 ほお

8. リング

102 たた を叩いたのだった。強烈な個性の持ち主である竜司は勉強もよくでき、陸上選手としても 一流で、学校の皆から一目置かれる存在であった。どこといってとりえのない浅川は、竜 司のような同級生からものを頼まれて嫌な気はしない。 「実はよう、ちょっと、オレの家に電話かけてくれないか」 竜司はなれなれしく浅川の肩に腕を回して言った。 「いいよ、でも、なんのために ? 」 「ただかけるだけでいいんだ。電話してオレを呼び出してくれ 浅川は顔をしかめた。 「おまえを だっておまえはここにいるじゃないか」 「いいから、やってくれよ」 言われた通りの番号を回し、電話口に竜司の母親が出ると、「竜司君お願いします」と 目の前にいる人間を呼び出した。 「あの、竜司はもう学校に行きましたけれど : : : 」 と母親は穏やかに答えた。「ああそうですか」と浅川は受話器を置く。 「おい、これでいいのか」 こんなことをしてなんの意味があるのかまるでわからなかった。 浅川は釈然としない。 「何か変わった様子なかったか ? 竜司が聞いた。 「おふくろの声、緊張してなかったか ?

9. リング

おとうさんはでぶです。 おかあさんはでぶです。 だから、ぼくもでぶです。 四がっ十四にち 後のほうのページに強く開こうとする力が感じられるが、浅 浅川はページをめくった。《 Ⅱは順番通りにページを進めていった。順番を狂わせた結果、何かを見落とすこともあり 得るのだ。 何も書かない旅行客も多いはずだからはっきり = 一口えないが、夏休みに入るまではだいた い土曜ごとに客が入っていた。夏休みになると日付の間隔が狭くなり、八月も終わりに近 づくに従って、夏が終わることを嘆く声が多くなる。 八月二十日日曜日 グあー、夏休みも終わりだあー。なにもいいことなかったよおー。だれか助けてくれー ン哀れな僕に救いの手をー。当方、四百 00 のバイクを所有。なかなかの ( ンサム。買い得 リだゼ。 書いているうちに、文通相手を求める自己になってしまったらしい。発想は似たり

10. リング

浅川が聞いた。 まひ 「心臓麻痺ー : : : 心臓麻痺 ? 本当に監察医はそう診断を下したのだろうか。最近ではもう心臓麻痺 だなんて言葉は使わないはずだ。 「正確な日時と一緒に、これも確認する必要があるな」 浅川はそうつぶやきながらメモをとった。 「つまり、それ以外に外傷は一切なかったわけですね」 「そう、その通り。全く、驚きですよ。全く : ・ 驚きたいのはこっちのほうですよ」 「あ、いえね。仏さん、えらく驚いた顔して死んでいたものですから : : : 」 浅川の心でピンと弾ける音がする。一方ではまた、ふたつの繋がりを拒否する声。 ・ : 偶然の一致さ。ただ単に。 京浜急行の新馬場はすぐ目前にあった。 「そこの信号、左に曲がったところで止めてください 車は止まり、ドアが開く。浅川は一一枚の千円札と一緒に名刺を出した。 「新聞の浅川という者です。もしよければ、今のお話、もっと詳しく聞かせてもらえま せんでしようか 「ええ、構いませんよ」 はじ つな