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検索対象: アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1
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1. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

きんちょうかんへや もぞう でみんなの目の前にあるのに、見たところは、ただの模造ダイヤにしか見えない。たしか にうまい考えだったと思うわーーだれも気がっかなかったもの。」 「さあ、どうかな。」スタイン氏がいった。 「え、なにかいったかね ? 」 し うらおもて とがねちゅうしんあな ポインツ氏がバッグをとりあげると、裏表をあらためた。たしかに留め金の中心に穴が ねんど あり、そこに粘土のかすがこびりついている。彼はのろのろといっこ。 「落ちたのかもしれん。もういちど、よくさがしてみましよう。 きみよう あらためて捜索がおこなわれたが、こんどは、みんな奇妙にだまりこくったままだった。 緊張感が部屋じゅうにみなぎっていた。 けつきよく、全員がつぎつぎと立ちあがって、つっ立ったままたがいに顔を見あわせた。 「この部屋にはないな。」スタインがいった 「そして、この部屋からでたものはひとりもいない。 ジョージ卿が意味ありげにいっこ。 ちんもく ちょっと沈黙があって、それからイーヴがわっと位きだした。 かた 父親が彼女の肩をたたいて、「さあさあ、泣くんしゃない」と、無器用になぐさめた。 きよう ジョージ卿がレオスタインにむきなおった。 そうさく ぜんいん し な な きよう ぶきよう 218

2. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

きんちょう せいしんてき 精神的な緊張のために、深くそれが心に焼きつけられてしまったからなんですな。それ かべがみもよう も、ごくとりとめのない、ちつ。ほけなこと たとえば壁紙の模様とかーーーそれでいて、 けっしてわすれることはないのです。」 「あなたの口からそういう話がでるとは、おどろきましたな、クインさん」と、コンウェ イがいった。「というのも、いまあなたが話しているうちに、ふいにわたしは、またデレ し クケイベルの部屋にもどったような気がしてきたんです。デレクが床にたおれて死んで かげ いるーーー窓の外には、はっきりと大きな木が見えるーー・そしてその木の影が、戸外の雪の 上にうつっている。そう、月光だ、それに雪、木の影ー・ー・いまでもありありと目にうかん できますよ。絵に描こうと思えば描けるくらいだ。だがそのくせそのときは、それを見て いしき いるなんてことは、ぜんぜん意識していないんです。」 し げんかん まうえ 「そのケイベル氏の部屋というのは、玄関の真上の大きな部屋でしたな ? 」クイン氏がた ずねた。 「さよう。そしてその木というのは、あのぶなの大木ですーーーちょうど車回しの曲がり角 にあるやつです。」 し まんぞく きみよう クイン氏は満足げにうなずいた。それを見たサタースウェイト氏は、奇妙なおののきを まど げつこう や たいぼく かげ ゆか くるままわ こがい ま し かど 136

3. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

「まさにね。残虐だし、ぶきみな事件だが、神秘的なところなんかまったくない。」 しあん ざんぎやく 「残虐で、ぶきみか。」ボワロは思案げにくりかえした。 むね 「考えただけで胸がむかっくよ。」わたしは立ちあがって、部屋をいったりきたりしなが ころ ゅうじん はんにんひがいしゃ らいった。「犯人は被害者ーー、ー友人ーーーを殺して、櫃におしこみ、その三十分後には、おな いっしゅん ひがいしやさいくん じ部屋で、被害者の細君とダンスをする。考えてもみたまえ ! もし細君が一瞬でもそ んなことに気づいたら じよせい 「まったくだ。」ボワロは考えぶかげにうなずいた。「例のおおいに自慢されている女性の ばあい ちょっかん せんゅうぶつ 占有物、つまり女の直感というや ? ーーそれもこの場合には、はたらいていなかったよう だね。」 ーティーは和気あいあいのうちにおわったようだ。」わたしはかるく身ぶるいしなが らいった。「ところがそのあいだーーー彼らがダンスをしたり、ポーカーをしたりしているあ しにんどうせき いだ、ずっと、部屋のなかには死人が同席していたんだからね。このアイディアをもとに件 ペんぎきよく して、一編の戯曲が書けるくらいだ。 「そんなものはとうのむかしに書かれているよ。」ボワロはいった。「だけど、がっかりす ることはないさ、ヘイスティングズ。いちど用いられたテーマだからといって、二度用い ざんぎやく わき じけん もち しんびてき ひっ じまん

4. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

りになろうとするだろう。でなければ、細君はいったん帰るふりをしたうえで、またもどっ し′」と てくる。どっちにしろ、クレイトンにはほんとうのことがわかるわけだ。いやな仕事だが、 ぎしんあんき 疑心暗鬼にさいなまれているよりはましだといえるだろう。」 きやく 「するとほかの客が帰ったあと、リッチに殺されたというのか ? しかし、医者の話では、 それはありえないということだが。」 「そうだとも、ヘイスティングズ。そこではっきりするじゃないかーー・彼が殺されたのは 宵のうちだということが。」 「しかしあの部屋には、みんながいたんだぜ ! 」 ちょうし こうみよう 「いかにも。」ボワロはもったいぶった調子でいった。「その巧妙さがわからないかねー だいたん なんという大胆さーーーなんと 〈みんなが部屋のなかにいた〉ーーすばらしいアリバイだー どきよう いうおちつきーーーなんという度胸 ! 」 「まだわからないな。」 ついたて 「衝立のむこうへいって、レコードをかけたり、とりかえたりしたのはだれだったかね ? ちくおんき ひっ むちゅう 蓄音機と櫃とは、ならべておいてあった。ほかの連中はダンスに夢中だーーー蓄音機は音楽 くわ を流している。ダンスに加わらない男が櫃のふたをあげ、そでにかくしもったナイフで、 へや さいくん ひっ ころ れんちゅう ころ しゃ 100

5. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

「スタイン君、さっききみ、なにかつぶやいたな ? わたしが聞きかえしたが、きみは答 えなかった。だがじつは、きみのいったことはだいたい聞こえたんだ。ィーヴ嬢が、われ われのだれもダイヤモンドのありかに気がっかなかったといったのにたいして、きみは、 『さあ、どうかな』とつぶやいた。してみると、どうやらわれわれのうちひとりは、それに 気がついておったらしいということになる。そしてその人間は、現在、この部屋にいる。 しょち かくじ こうへい したがって、このさいわれわれのとるべき唯一の公平かっ名誉ある処置は、各自がすすん しんたいけんさ で身体検査をうけることだ。ダイヤモンドはこの部屋からはでておらんのだからな。」 きよう じだいえいこくしんし いったんジョージ卿がよき時代の英国紳士をじる気になれば、彼にかなうものはいな せいじっ 彼の声は、誠実さと憤りをこめて、りんりんとひびきわたった。 簿 ふゆかい 件 事 「不愉快なことになりましたな、いささかーと、ポインツ氏がめいわくそうにいっこ。 の 「みんなあたしのせいだわ。ーイーヴが泣きじゃくりながらいった。「こんなつもりじゃなン かったのに じよう 「元気をだしなさい、お嬢さん。」スタイン氏がやさしくいった。「だれもあんたを責めて るわけじゃないんだから。」 くちょ、つ レザーン氏がもったいぶった、きざとも聞こえる口調でいった。 くん いきどお えん げんざい じよう 219

6. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

も身につけているかということですが ? ・ しんたいけんさ 「じゃあ身体検査をしてごらんなさい。 ィーヴは芝居がかった身ぶりでいった。 し あたりを見まわしたポインツ氏は、部屋のすみにある大きな衝立に目をとめた。 きようふじん 彼はそのほうへあごをしやくって、つぎに視線をマロウェイ卿夫人とラスティントン夫 人にむけた。 「お手数ですが、ご婦人がた きようふじん えがおおう 「ええ、よろしゅうございますわ。」マロウェイ卿夫人は笑顔で応じた。 ふじん 二人の婦人は立ちあがった。 きようふじん マロウェイ卿夫人はいっこ。 てかげん しんばい 「どうかご心配なく、ポインツさん。わたくしたち、手加減せずに調べますから。」 き ついたて 三人は衝立のうしろに消えた。 まど 部屋のなかは暑かった。エヴァンⅡルウエリンが窓をおしあけた。ちょうど窓の下を新 ぶんう 売り子は新聞を投げあげた。 聞売り子がとおりかかったので、エヴァンは小銭をほうり、 ルウエリンはそれをひろげた。 じん み てすう こ あっ ふじん み しせん ついたて しら しん = パインの事件簿 213 カ

7. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

じんぶつ ふかかい チャーリー ーンズのほうをえらんだのだ。世のなかとは、なんとふしぎな、不可解な ところなのだろうー しむね ジリアン日ウエス このときふと、サタースウェイト氏の胸にこんな思いがきざした かいこう びばう トのこの世のものとも思われぬ美貌にであったおかげで、あの夜のクイン氏との邂逅が、 しんびてき せいさい いささか生彩を欠いたものになったのではないか、と。これまではいつも、あの神秘的な でき ) 」と 人物にでくわすときには、なにかふしぎな、予期せざる出来事が起きる結果となったもの だが。あるいは今夜あたり、うまくいくとあの謎の人物にめぐりあえるかもしれん。 サタースウェイト氏がレストラン〈アルレッキーノ〉へ足をはこぶ気になったのは、こ きたい んな期待からだった。ずっとまえに一度、このレストランでクイン氏にであったことがあ り、クイン氏もちよくちよくここへくるというのを聞いていたからだ。 きたい 〈アルレッキーノ〉の店にはいると、サタースウェイト氏はもしゃの期待にひかされて、 いちじゅん 力とこにもクイン氏のあさ里 あたりを見まわしながら部屋から部屋を一巡してみた。 : 、。 おだやかな笑みをうかべた顔はなく、かわりに、見おぼえのあるべつの顔にぶつかっ た。とある小さなテーブルに、フィリップ = ィーストニーがひとりですわっていたので ある。 こんや みせ なぞじんぶつ けつか 178

8. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

そうだん 「ばかだなんてとんでもない。」。 ハイン氏はいった。「わたしこそ、ご相談をう ふこう けるのに最適の人間ですよ。いわば、不幸をあっかう専門家ですからね。この事件があな くつう そうぞう たにひとかたならぬ苦痛をあたえていることは、容易に想像がっきます。で、事件がいま お話しくださったとおりのものであることに、まちがいはありませんな ? 」 いちどう 「なにも、 しいもらしたことはないつもりです。ポインツがダイヤをとりだして、一同に見 せましたーーーそれをあのアメリカ人のばか娘が、自分のハンド。ハッグにくつつけた。とこ ろがあとでバッグをあらためてみると、ダイヤは消えていた。だれもそれをかくしもって じしんしんたいけんさ はいませんでした もちぬしのポインツ自身、身体検査をうけているんですーー自分か らそういいだしたんです。かといって、部屋のなかにかくせるような場所がなかったこと ちか は、誓ったっていし それに、部屋をはなれたものもひとりもいなかったーーー」 。ハイン氏は水をむ 「ウェイターはどうですかーーー出入りしませんでしたか ? 」 けた。 ルウエリンは首を横にふった。 むすめ 「ウェイターがでていったのは、あの娘がダイヤを落としたといって、さわぎだすまえで かぎ す。そしてそのあとは、ポインツがドアに鍵をかけてしまいましたから、出入りできたは さいてき むすめ せんもんか じけん 222

9. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

フィリツ。フィーストニーは、一瞬けわしい目で相手を見なおしたが、すぐにその表 じよう 情をかえた。 「というと ? [ と、彼はしずかにいった。 たんとうちよくにゆう サタースウェイト氏は単刀直入にいっこ。 「わたしはミス・ウエストのア。ハートからきたところだ。 ごちょう きみ わる まえとおなじ声、おなじ気味の悪いほどしずかな語調だ。 「われわれはーー死んだ猫を部屋からつれだした。」 ちょっと沈黙があった。それからイーストニーはいっこ。 「だれだ、あんたは ? 」 し サタースウェイト氏は答えた。そのまましばらく話しつづけて、事件のいきさつを一気 にものがたった。 「だからおわかりだろう , ーーわたしはまにあったというわけだ。」そう彼は話をしめくく ま い一つことは、ない ると、ちょっと間をおいてから、しすかにつけくわえた。「で、なにか かね ? ちんもく し し いっしゅん あいて じけん ひょう いっき 190

10. アガサ=クリスティ推理・探偵小説集 1

部屋をでたジョン日 ハリスンは、ちょっとのあいだテラスに足をとめ、庭を見わたした。 しんべん おおがら 大柄だが、やせた、やつれた感じの風貌、いつもは身辺にどこかすごみさえただよってい びしよう るのだが、いまのようにごっごっした顔を微笑でやわらげると、ひじように人をひきつけ るものが感じられる。 ハリスンは自分の庭を愛していた。それがもっとも美しく見えるのは、この八 月のタベ、夏の夜のけだるさを秘めたひとときをおいてほかにない。つるばらはいまなお こ、つき 残んの美をとどめているし、スイートビーは馥郁たる香気をただよわせている。 聞きなれたキイツという音が聞こえてきて、ハリスンは、きっとふりむいた。いまごろ 庭の木戸をあけてはいってくるのはだれだろう ? のこ すずめばちの巣 へや ゅう ふうばう ふくいく うつく