関白 - みる会図書館


検索対象: 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡
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1. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

お勤めをしていらっしやったのを、関白様が「わたしに貸 ましあそばされるので、戸口で、女房たちが、色とりどり ごんだいなごん そでぐち してやってください、その数珠をしばらく。お勤めをして 幻の袖口を現して、御簾を引き上げていると、権大納言様が、 関白様の御沓を取っておはかせ申しあげあそばす。その御来世にすばらしい身の上になろうと思って借りるのだ」と 子 した おもおも いうことなので、女房たちが集って笑うけれど、やはりと 様子は、たいへん重々しくおきれいに容儀正しく見え、下 草 がさねきょ 襲の裾を長く引いて、あたりも狭いまでのお姿でそこに侍てもすばらしいことだ。中宮様におかせられてはこれをお 枕 していらっしやる。何より先に、「まあすばらしい。大納聞きあそばして、「仏になった場合こそ、関白よりはまさ るでしよう」と言って、にこにこしておいであそばすので、 言ほどのお方に、関白様は沓をお取らせになるよ」と見ら また今度は中宮様が、すばらしく感じられてお見申しあげ れる。山の井の大納一言、その弟君たち、その他お身内では る。大夫様がおひざまずきあそばされていることを、繰り ない人々などが、濃い色ー黒ーをひき散らしてあるように、 とうかでん ふじつばへい 藤壺の塀のきわから、登華殿の前まで座って並んでいるの返し申しあげると、中宮様は、「いつものひいきの人」と に、関白様はとてもほっそりとたいへん優雅なお姿で、御お笑いあそばされる。まして、大夫様ののちの御栄華のあ はかし りさまを中宮様がお見申しあげあそばされたのだったら、 佩刀の具合などをお直しになってちょっと立ち止っておい だいぶ せいりようでん であそばされる時に、宮の大夫様が、清涼殿の前にお立ちわたしの言うのも道理とお思いあそばされることだろうに。 あそばされておいでなので、その大夫様はおひざまずきあ 一三三九月ばかり夜一夜降り明かしたる雨の そばされるはずがないようだと見るうちに、関白様が少し 九月のころ、一晩中降って夜明けを迎えた雨が、今朝は お歩き出しあそばされると、すっとおひざまずきあそばさ ゃんで、朝日がばっと明るくさしている時に、庭の植込み れたのこそ : ・ : 。やはり、お積みになった前世の御善業の の菊の露がこばれるほどに濡れてかかっているのも、とて 程度はいったいどれほどなのだろうと関白様をお見申しあ らもんすすき もおもしろい。透垣、羅文、薄などの上に張りめぐらして げたのこそ、すばらしいことだった。 ある蜘蛛の巣がこばれ残って、所々に糸も切れそうな様子 女房の中納言の君が、忌日ということで、奇特な態度で くっ ぜんごう すいがし じゅず

2. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

みきちょう よろしい。それにしても、あなた方はこの宮の御心をば、 物を御使いに差し出して、三、四人御几帳のもとに座って ろく いる。「あちらに行きまして、御使いの禄の事をいたして 引どういうふうだと理解し申しあげて、大勢参上していらっ しやるのかな。いかにいやしく物をお惜しみあそばされる まいりましよう」と言って、関白様がお立ちになってしま 子 わたくし 宮だからといっても、何とまあ、私は宮がお生れあそばさ ったあとで、中宮様は御手紙を御覧あそばされる。御返事 草 れた時から、たいへんお世話を申しあげてきているのだけ は、紅梅の紙にお書きあそばされるのが、御召物の同じ色 れど、いまだにおさがりのお召物一つだってくれてやって に映り合っているそのすばらしさ、そうした御配慮をやは かげぐち りそれとまで御推量申しあげる人はおそらくないのであろ はくださらないそ。何で陰ロとしては申しあげよう」など とおっしやるのがおもしろいので、みな、女房たちは笑っ うと思うと残念だ。「今日は特別に」ということで、関白 てしまう。「ほんとうにわたしめをばかげているといって、 様の御方から、禄はお出しあそばされる。女の装束に紅梅 さかな こうお笑いあそばされる。フリ恥ずかしい」などと仰せあ の細長を添えてある。肴などがあるので、御使いを酔わせ じようなにがし そばすうちに、宮中から御使いとして式部の丞某という たいと思うけれど、御使いは「今日は大切な事の世話役で しゅじよう 者が参上した。主上の御手紙は大納言様がお取りになって、 あなた様、お許しくださいませ」と、大納言様にも うわづつみ 申しあげて、座を立ってしまう。 関白様にお差しあげあそばすと、上包を引き解いて、「と ても拝見したいお手紙ですね。もし宮のお許しがございま 姫君たちなどはたいへんお化粧をきれいに仕立てて、そ すなら、あけて拝見いたしましよう」と仰せあそばすと、 れぞれ紅梅の御召物をわれ劣らじとお召しである中に、三 おんまえ みくしげどの の御前は、御匣殿や二番目の姫君よりも大柄でおふとりに 妙なことと中宮様はお思いのようである。「もったいなく かた もありますから」と言って、関白様はお差しあげあそばすなっていて、北の方などと申しあげたほうがよくお似合い になりそうだ。 と、中宮様はお手にお取りあそばされても、おひろげあそ ばされるようでもなく、おふるまいあそばされる御心づか 関白様の北の方もこちらへお渡りあそばしていらっしゃ ま いなどはめったにないほど御立派だ。隅の間から女房が敷る。御几帳を引き寄せて、わたしたち新参の女房どもには めしもの ほそなが めしもの

3. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

みどころ ので、木立などの見所のあるものは、まだない。ただ、屋 二五六関白殿、二月十日のほどに、法興院の 敷の様子が、身近で、見た目に明るく気持がよい感じだ。 ほこいんしやくぜんじ あおにびかたもん 関白道隆様が、二月十日のころに、法興院の積善寺とい 関白様がこちらへお渡りあそばされた。青鈍の固紋の御 みどう いっさいっ・くよう によういん さしぬき のうし くれない ぞさんりよう う御堂で一切経の供養をあそばされる折に、女院、中宮様指貫、桜の直衣に紅の御衣三領はどを、じかに御直衣の下 もおいであそばすはずなので、二月初めのころに、中宮様 に重ねてお召しになっていらっしやる。中宮様をはじめと りようもん は二条の宮へお入りあそばされる。わたしは夜が更けて、 して、紅梅の濃いのや薄い色の織物、固紋、綾紋などを 眠たくなってしまったので、何事も注意して見す、翌朝、 そのころはこの八丈というタケタカは特になかった 日がうらうらとさし出ているころに起きたところ、御殿は そこに侍している限りの女房たちが着ているので、あ もえ からぎめ とても白く新しく、見た目に明るくうつくしく造ってあっ たり一帯がただ光り輝いて、その中で、唐衣としては萌黄、 きのう ゃなぎ て、御簾をはじめとして、何やかやは昨日掛けたのである 柳、紅梅などもある。 ま ようだ。御設備は、獅子や狛大など、いつの間にはいって 関白様は中宮様の御前にお座りあそばされて、お話など いちじよう かんぜん 座り込んだのだろうと、おもしろい。桜が一丈ぐらいの高申しあげあそばされる。中宮様の御応答の間然する所のな みはし さで、たいへんよく咲いているような姿で、今御階のもと いのを、里にいる人たちにちらっとでものそかせたいもの にあるので、「ひどく早く咲いていることよ。梅こそたっ だと思ってお見申しあげる。関白様は女房たちをお見渡し じっ た今盛りのようなのに」と見えるのは、実は造花なのでああそばして、「宮におかせられては、何をお思いあそばし いろつや 段 ろう。あらゆる点からいって、花の色艶など、ほんとうに ておいでなのだろうか。こんなにたくさんすばらしい人た 咲いているのに劣らない。どんなに作るのに面倒だったこ ちを並べておいて御覧あそばすのこそ、何ともうらやまし ひとり 第 とだろう。雨が降るなら、きっとしばんでしまうだろうと いことだ。一人たりとも劣った人はいないね。この人たち はみなしかるべき家々の娘なのだからね。たいしたものだ。 見るのが、残念だ。小家などというものがたくさんあった 場所なのを、それを取り払って今度お造りあそばしてある十分に目をかけてこそ、おそば仕えをおさせあそばすのが こいえ こまいめ こだち じ

4. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

中納言の君の、忌の日とて、くすしがり行なひたまひしを、「給べ、その数一中宮付きの女房。二五六段に ただ一み 「右兵衛督忠君と聞えけるが御む 六 珠しばし。行なひてめでたき身にならむと借る」とて、あつまりて笑へど、なすめ」とある「中納言の君」と同人 子 ほとけ ほいとこそめでたけれ。御前に聞しめして、「仏になりたらむこそ、これよりニ親族の命日。 三奇特な態度で。 枕 四関白の言葉。一説、女房。ま はまさらめ」とて、ゑませたまへるに、まためでたくなりてそ見まゐらする。 た一説、作者。いずれをとるかに 大夫殿のゐさせたまへるを、かへすがヘす聞ゆれば、「例の思ふ人」と笑はせよって以下の解釈も変ってくる。 仮に関白の冗談とみる。 のち たまふ。まして後の御ありさま見たてまつらせたまはましかば、ことわりとお五「とて」を仮に「ということな ので」の意として下文に続けた。 六関白以上の身分はないから。 ばしめされなまし。 セ仏になったら関白以上の身分 となることをさす。 ^ 「思ふ」対象は道長。一説、道 一三三九月ばかり夜一夜降り明かしたる雨の 隆。ひいきの人。 九道長は、長徳元年 ( 究五 ) 四月 あ 九月ばかり夜一夜降り明かしたる雨の、今朝はやみて、朝日のはなやかにさ十日に道隆、五月八日に道兼の二 人の兄が没すると、五月十一日に せんぎい せんじ こうむ 内覧の宣旨を蒙り、六月右大臣、 したるに、前栽の菊の露こばるばかり濡れかかりたるも、いとをかし。透垣、 以後左大臣、太政大臣、摂政、と くもす すすき らんもむ、薄などの上にかいたる蜘蛛の巣のこばれ残りて、所々に糸も絶えざ栄達を極めた。 一 0 「ましかば・ : まし」は仮定。長 まに雨のかかりたるが白きを、玉をつらぬきたるやうなるこそ、いみじうあは保二年 ( 一 000 ) 定子没後の執筆であ ることを一小す。 = 庭先の植込みの草木。 れにをかしけれ。 ず よひとよ うへ きこ 四 た すいがい

5. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

みくしげどの もからぎめ いる限りの人はすべて、裳、唐衣を、御匣殿にいたるまで へノホドゾ」などと言うけれど、そこに入って座って見物 こうちき が着ていらっしやる。関白様の北の方は、裳の上に小袿を するのは、たいへん光栄だ。「こんなことがあった」など と、自分から言うのは、自己宣伝でもあり、また、中宮様着ていらっしやる。関白様は「絵に描いてあるようなすば の御ためにも、高貴な御身分がら軽々しく、「こんな程度らしいみなさんの御様子ですね。イマイラへ今日ハと申し ′ : つよう・あい の人間をまで御寵愛なさったのだろう」などと、自然、物あげなさるのですよ。三、四の君よ、中宮様の御裳をお脱 おんあるじ がせなさい ここの御主としては中宮様こそがそれでいら 事を心得て、世間のことをかれこれ非難などする人は : そんなわけで、わたしには、もったいながったところでど っしやるのだから。御桟敷の前に陣屋をおすえ置きあそば していらっしやるのは、並一通りのことだろうか」と言っ うしようもないことながら、恐れ多い中宮様の御事がかか て、感にたえずお泣きあそばす。なるほどお喜びももっと わってもったいないけれど、事実あることなどは、また、 どうして書かすにおかれようか。ほんとうにわたしの身の もだと、女房たち一同も涙ぐむような気持でいる折に、わ からぎぬ たしが赤色の表着に桜襲の五重の唐衣を着ているのを、関 はどに過ぎたこともきっとあるであろう。 キ一じき ひと ・よろ・いん 白様は御覧あそばして、「法服一そろいを僧にくださった 女院の御桟敷、また、方々のたくさんの桟敷を見わたし のだが、急に、もう一つ入用だったから、これをこそお借 ているのは、すはらしい。関白様は、先に女院の御桟敷に り申しあげればよかったのだったな。それでは、もしかし 参上なさって、しばらくたってから、こちらに参上なさっ ちぢ ていらっしやる。大納言お二方が御供としておいでになり、 たらまたそのような物を切って縮めたのか」と仰せあそば 以さんみ 三位の中将は、陣に近く参上したままの姿で、道具を背負すので、また笑った。大納言様、それは少し後ろに下がっ て座っておいでになったのだが、それを聞いて、「きっと 2 って、とても似つかわしくしゃれたかっこうでおいでにな ひとこと せいそうず 第 る。殿上人、四位、五位の人々が、たくさん連れ立って、 清僧都の法服であろう」とおっしやる。一言だっておもし ろくないことはないのだ。 御供に伺候して並んで座っている。関白様が桟敷にお入り 僧都の君は、赤色の薄色の御衣、紫の袈裟、とても薄い あそばして中宮様をお見申しあげあそばすと、女房たちの、 かたがた うわぎ がさねいっえ 、一ろも かた

6. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

しもづか れる時に、関白様のお邸の方から、侍の者たち、下仕えの お姿をお見せにならないので、心が晴れない気持がする。 おうぎ 参集している女房たちは、供養当日の装束や、扇などのこ者などが来て、大勢花の木のもとに、ずんずん近寄って来 とを話し合っている者もある。また、女房たちの中には互て、引き倒して取って、「『こっそり行って、まだ暗かろう うちに取れ』とこそ仰せられたのだったが。夜が明けはな しに競争して、「わたしは何で用意などしよう。ただ、あ れてしまったのだった。まずいことをしたな。早く早く」 るので間に合せて何とか」などと言って、相手から「いっ ものとおり、あなたったらとばけて」などとにくまれる。 と倒して取るので、たいへんおかしくて、「『言はば言は かねずみ 夜分、里に退出する人も多い。こういうことのために退出む』と、兼澄の歌のことを思ってこういうことをしている のか」とも、身分教養のある相手なら言いたいところだけ するのだから、中宮様もおとどめあそばすことがおできに めす ならない れど、「あの花を盗む人はだれだ。悪いことでしよう。ク テン知らないでいたんだったわ」と言うと、笑って、いよ 関白様の北の方は毎日こちらにお越しで、夜もおいでに いよ逃げて、引っぱって持ち去った。やはり関白様の御心 なり、姫君たちなどもいらっしやるから、中宮様の御前し はすばらしくていらっしやることだ。茎に、花が濡れて丸 は人がたくさん伺候しているので、たいへんよい。宮中か まってついて、どんなに見るかいもなかったことだろうの らの御使いは、毎日参上する。御前の庭の桜は、色はまさ るということはなくて、日など当ってしばんで、はじめの にと見て、わたしは部屋の中に入ってしまった。 との かもんづかさ 掃部司の者が参上して、御格子をお上げ申しあげ、主殿 時にくらべて悪くなるので、情けないのに、雨が夜降った もり にようかん 段 寮の女官がお掃除をすっかりおすませ申しあげてから、中 翌朝は、ひどくかたなしだ。たいへん早く起きて、「泣い 宮様はお起きあそばされたところ、花がないので、「まあ て別れようとする時の顔に、劣るような気がする」と、こ 第 の桜についてわたしが言うのを中宮様がお聞きあそばして 思いもよらないこと。あの花はどこへ消えていったのか」 しまったのだった。「雨が降る気配がしたのは確かね。桜と仰せになる。「明け方、『盗む人がいる』と言う声がした ようだったのは、それでもやはり枝などを少し折るのかと はどうかしら」とおっしやって、お目をおさましあそばさ やしきほう さぶらい

7. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

てみな一緒にかたまってさえいるのなら、隠れ所があるだ を刺し、化粧をする様子は、あらためて言うまでもなく、 ろうが、四人ずつ、書きあげたものに従って、「だれそれ、 髪などというものは、明日からのちは、もうどうでもよい だれそれ」と呼び立ててお乗せになって、その呼名につれ といったふうに見えるほど、今日一日に熱中している。 とら て車のもとまで歩いて行く気持は、ひどくほんとうに思い 「寅の時に、中宮様はお出かけあそばすはずだということ おうぎ がけない感じがして、あらわだといっても、世間並で、何 です。どうして今まで参上なさらなかったのですか。扇を みす 一カ 御簾の内側に、大勢のお方の御 とも言い表しようがない。 / 使いに持たせて、あなたをお探し申しあげる人がありまし ひとり 目の中でも、とりわけて中宮様が「見苦しい」と御覧あそ た」などと、一人の女房がわたしに告げる。 ばそうのは、あらためてまたやりきれない気持がすること そういうことで、ほんとうに寅の時かと思って、すっか からだ カ限りもない。身体から汗がにじみ出るので、きれいに り身支度を整えて待っているのに、時が過ぎて夜が明けて、 さかだ からびさし 日も出てしまった。「西の対の唐廂に、車を寄せて乗るは整えた髪なども、逆立つであろうと感じられる。何とかう ふたり わたどの まくそこを通り過ぎたところが、お二人ともたいへん、こ ずだ」というので、いる限りの女房が全部、渡殿を通って しんざんもの ちらが気おくれするはどおうつくしく見える御様子で、大 行く時には、まだうぶな新参者たちは、ひどく遠慮してい さんみ 、、ゝ、ここにこしてこちらを御覧になる るような様子なのに、西の対には関白様がお住いあそばす納一言と三位の中将と力し のは、現実とは感じられない。けれど、倒れないで、そこ ので、中宮様におかせられてもそこにおいであそばして、 はじめに女房たちを関白様が車にお乗せあそばすのを御覧まで行き着いてしまったことこそ、いったいえらいのか、 しげいしゃ みすうち あっかましいのかと、われながら感じられるけれど、みな あそばすということで、御簾の内に中宮様、淑景舎、三の かた 君、四の君、関白様の北の方、その御妹君がお三方、立ち乗り終ってしまったので、車を御門から引き出して、二条 第 の大路に榻を立てて、物見車のようにして立ち並べている 並んでおいであそばす。 さんみ のは、たいへんおもしろい。きっと人もそう見ているであ 車の左右に大納言と三位の中将のお二方で、簾を上げ、 00 したすだれ 下簾を引き上げて、わたしたち女房をお乗せになる。せめろうと、自然胸がどきどきする。四位、五位、六位などの けしよう すだれ おおじ しじ

8. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

の帝の仰せ言を女院にお伝え申し あげなさった。 一三二関白殿の、黒戸より出でさせたまふとて 一六中古後期に盛んに用いられる 謙譲の補助動詞。 くわんばくどの 関白殿の、黒戸より出でさせたまふとて、女房の廊にひまなく候ふを、「あ宅子の立派なのは、の意とみる。 天道隆。正暦四年 ( 究一 D 四月関 おきな ないみじのおもとたちゃ。翁をばいかにをこなりと笑ひたまふらむ」と分け出自この段は正暦四、五年のこと。 一九清涼殿北廊の西にある。 そでぐち でさせたまへば、一尸口に人々の、色々の袖ロして、御簾を引き上げたるに、権ニ 0 女房を親しんで言う語。 一 = 道隆自身をふざけて表現する。 くっ 大納一一 = ロ殿、御沓取りてはかせたてまつらせたまふ。いと物々しう清げによそほ一三黒戸北端の戸。 ニ三戸口の御簾。 したがさねしり これちか しげに、下襲の尻長く、所せくて候ひたまふ。まづ、「あなめでた。大納言ばニ四伊周。道隆の嗣子。正暦三年 八月権大納言。十九歳。五年八月 内大臣。 かりの人に、沓を取らせたまふよーと見ゅ。山の井の大納言、そのつぎつぎ、 三 0 一宝権大納言の様子。 ニ ^ とうくわでん ふぢつばへい さらぬ人々、濃き物をひき散らしたるやうに、藤壺の塀のもとより、登華殿の兵道頼。伊周たちの異腹の兄。 道隆の長男。正暦三年権中納言、 前までゐ並みたるに、、とほそやかにいみじうなまめかしうて、御佩刀などひ五年八月権大納言。 毛山の井の大納言の弟たち。 三ニだいぶどの せいりゃうでん きつくろひやすらはせたまふに、宮の大夫殿の、清涼殿の前に立たせたまへれニ ^ 身内だけではない他人。 段 ニ九色の濃い袍のさま。 あゆ ひぎようしゃ ば、それはゐさせたまふまじきなンめりと見るほどに、すこし歩み出でさせた = 0 飛香舎。清涼殿の西北方。 三一清涼殿の東北方。 おこ 第 まへば、ふとゐさせたまひしこそ。なほいかばかりの昔の御行なひのほどなら三ニ道隆の弟道長。正暦元年 ( 究 0 ) 十月五日中宮大夫。 三三道長をひざまずかせる関白は。 むと見たてまつりしこそいみじかりしか。 な ニ 0 ニ九 一九 くろど とぐち 三三 ニ六 らう ニ五 ニ七 さぶら ニ四 ごん

9. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

思って聞いたのに。だれがしたことなのか。見たのか」とすけれど、『われより先に』起きていた人がいたと思って 引仰せになる。「そういうわけでもございません。まだ暗く おりましたようでございました」とわたしが言うのを、関 て、よくも見ないでしまったのでございますが、白っぱい 白様はとても早くお聞きつけあそばして、「そうだろうと 子 ものがございましたので、花を折るのかしらなどと、気が 思っていたことだよ。決してほかの人は、何をおいても出 草 さいし、よう かりだったので申したのでございます」とわたしは申しあ て見つけたりはしまい。宰相とそなたとぐらいの人が見つ 枕 げる。「それにしても、こんなにすっかりはどうして取ろ けるかもしれないと推察していた」とおっしやって、ひど うか。殿がお隠させになっていらっしやるのであるよう くお笑いあそばす。「事実そうでありそうなことなのを、 はるかぜ だ」とおっしやってお笑いあそばされるので、「さあまさ少納言は春風に罪を負わせたことよ」と、中宮様がお笑い はるかぜ かそんなことではございませんでしよう。春風がいたしま あそばしていらっしやるのは、すばらしい。関白様が「少 したことでございましよう」と啓上するのを、「それを言納言はどうやら恨み言を負わせたのでございますようです。 やまだ おうと思って、隠したのだったのね。あれは盗みではなく でも、今の季節では山田も作るでしように」と歌をお吟じ て、雨がひどく降りに降って古びてしまったのだというわあそばしていらっしやるのも、とても優雅でおもしろい けでーと仰せになるのも、珍しいことではないけれど、た 「それにしても、しやくなことに、見つけられてしまった いへんすばらしい のだったよ。あれほど気をつけるように言っておいたのに。 関白様がおいでになるので、寝乱れたままの朝の顔をお人の所にこうしたばか者がいるのこそ困ったものだ」と仰 見せするのも、時はずれのものと御覧あそばすだろうかと せあそばす。「春風とは、そらでとてもおもしろく言った 思って、自然引っ込んでしまう。おいであそばすやいなや、ものだな」などと、その歌をまたお吟じあそばす。中宮様 「あの花はなくなってしまったね。どうしてこうまでみす は「ただの言葉としては、持ってまわってわずらわしい思 みす盗ませたのだ。寝垪すけだった女房たちだね。知らな いっきでございましたよ。それにしても、今朝の桜の様子 いでいたのだったよ」とわざとお驚きあそばすので、「で はどんなにひどくございましたでしようね」とおっしやっ

10. 完訳 日本の古典 第十三巻 枕草子 ㈡

谷ッ 一 0 ・ 0X00 0 一 0- 0 ( 0 本書一三八段に相当する。中 ~ 呂定 子は、長徳元年 ( 発五 ) 九月十日故 関白道隆供養の法会を職の御曹司 において行われた。ここは供養の 後の酒宴の場面である全体はは ェックス ば x 形に区切られ明央な構図とい えよう。裳・唐衣姿で控える女房 たちに向い、束帯姿の四人の殿上 人が居並んでいる。酒杯を手にし た殿上人の前には、職の武官と思 われる人物が、片ロの銚子を持っ て対するのも見える左上の屏風 で囲われた部分が中宮の御座所で あろ、つか、そこに中宮の姿はな 中宮は障子を開いて左端の女 房の方にわすかに顔をのぞかせて