読む人・書く人・作る人 膨らむ言葉 八月に刊行となった『あなた河野裕子歌集』は、二〇一〇 図書号目次 年の夏、六十四歳で死去した河野裕子の四十年にわたる歌作、 膨らむ言葉 永田紅 工十五冊の歌集から、千五百首余りを選んで編み直したものであ る。家族三人が編者という、ちょっと変わった選集になる。歌鈴木大拙と日本的霊性中島隆博 大正琴いまむかし 竹田賢一 集ごとに三人が当時のエピソードを書き下して付した。 親が生きているうちには、なかなか親の仕事に触れようとはたくさんの扉の向こうに池澤春菜 しないものだ。近すぎていつでもアクセスできるという油断も 田 僕にとっての The Winds God 天田暦 あるし、気恥ずかしさや反発もあるかもしれない。私も、生前 この胸のあたたかい何か原田宗典 に母の歌集を読み通したことがなかったのだが、七回忌を迎え 出版創業者たちの物語 ( 下 ) 円満字一一郎囲 、水た今年、こうして母の短歌に向き合う機会が訪れた。 選歌は、母が原稿を書いていた大きな木のダイニングテープ : ーカレド = ア島と棄民たちの運命色川大吉 ルに三人寄り集まり、第一歌集から順に一首ずつ検討していっ 農学と戦争 ( 下 ) 小塩海平 た。付箋がみつしり貼られた歌集を積み上げて、これは絶対は 今や英国社会の土台を支えている、 梨木香歩 ずせないだろう、この感覚、お母さんらしく、て面白いやん、なそういう彼らを どと進む。意見が合致してすいすい捗るところもあれば、立ち少数派の独り言 止まって一首の選択に悩むこともしばしば。歌と歌の間から、 心の観月会 三浦佳世 4 家族としての個人的な思い出もぼろぼろとこぼれ落ちる。 恐怖と畏怖 若松英輔 書き残された言葉は、作者の死後も、まだまだ膨らむ余地の 続双系制 柄谷行人 あるものなのだというのが実感。短歌のフレーズが、ふとした 池澤夏樹 おりに口をついて出ることがあるが、そんなふうに、本書の歌リメリックと狂歌 4 も生き続けてほしい。 こぼればなし 手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの 九月の新刊案内 世の息が 河野裕子 ( ながたこう・歌人・生化学 ) ( 表紙解説 " 伊知地国夫 ) ( カット中山尚子 ) 18 12