図書 2016年7月号

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読む人・書く人・作る人 勤勉な馬鹿ほど 田中敦 なぜと問われると困るのだが、落語に登場する地名を追いか 図書晒号目次 けている。このところは、速記の質が落ちはじめた大正から昭 勤勉な馬鹿ほど 田中敦 和にかけて、主に大阪で編まれた落語速記を読み進めている。 ふなば 隆 大阪の船場、名優沢村田之助、互先の碁など、お堅い編集者が永遠の未完 〈対談〉 石内都 見たら目を剥きそうな誤記がそのまま残っている。 苦しみも花のように静かだ加藤典洋 当時、落語家のロ演は速記者によって符号として記録され 終焉のない「戦後」 ・モラスキー叫 た。ところが、速記符号を文字に書き起こした段階で音の情報 ヒラリー・クリントンを慰めた が消えてしまう。そこへ適当にルビを振ったことが誤記の原因 深井智朗 ティリヒの説教 だが、録音機器がない時代、速記者の地位が演者よりも高かっ 死の再発見 二ノ坂保喜 たことも遠因となっている。こんな速記を羅針盤に旅を続ける 農学と戦争 ( 中 ) 小塩海平 のは、地固めしていない土地に望楼を築くようなものだ。 佐伯泰英 とはいえ、本来の落語は洒落たものだ。「深山隠れ」という石畳雑記 上方落語では、天草の山中にある花鹿山に女盗賊がアジトを構繋がりゆくもの、繋いでゆくもの梨木香歩 えている。そこを訪ねてみようと、天草地方の地図を一所懸命理解できないことども髙村薫も 目をこらして探しても、そんな名前の山は見つからない。それ はなしか よい眺め 三浦佳世 もそのはず、山名は花鹿山。ちゃんと初手から噺家のこしらえ 邂逅への衝動 若松英輔 事だと種明かしをしているのだった。 固有信仰と普遍宗教 柄谷行人 「勤勉な馬鹿ほど、はた迷惑なものはない」 ( ホルスト・ガイヤ 斎藤美奈子 ー『馬鹿について』 ) という。落語の地名を追いかけるなんて、噺文庫解説を読む 家の洒落を真に受けて吹聴して回るようなものだ。これまでの大岡信と和歌の伝統 池澤夏樹€ 落語名所探訪をまとめた『落語九十九旅ーー全国落語名所ガイこぼればなし ド』は、いくら取りつくろってみても、結局は勤勉な馬鹿を体 七月の新刊案内 現しているに過ぎない。 ( たなかあっし・落語名所探訪家 ) でんのすけごせん はなしか ( 表紙解説伊知地国夫 ) ( カット佐々木ひとみ )