小説すばる2020年12月号

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ひるがえ 怪訝な表情を浮かべ負かしたのか、見ていたはずなのに、何も 翻り、逆袈裟に斬りかかる さすがに小次郎が、 見えなかった。 宗次郎は、後方に飛び退きながら躱する。 八十八は、ただ呆然とすることしかでき 「最近、近藤さんが全然相手してくれない が、小次郎は、さらにそこから横に薙い なま なかった。 から、身体が鈍ってたんだよねー 「安心していいよ。殺してはいないからー 「何を言っている ? 流水の如く滑らかな動きだ。 宗次郎は、さらに大きく飛び退き、一旦「おじさん、それなりに強いみたいだか宗次郎が、ヘらへらと笑いながら言った。 さっきまで異様な殺気を放っていたはず 距離を置く。 ら、本気出しちゃうねー なのに、けろっと無邪気な子どもの顔に戻 宗次郎が、木刀を握り直す。 「よくぞ躱した」 これまで本気ではなかったとでも言うのっている。 小次郎が、嬉しそうに笑う 宗次郎の恐ろしさは、剣の腕というより この状況を楽しんでいるとは、この男もか ? ただの強がりかと思っていたが、宗 も、この変わり身の早さなのかもしれない。 次郎の目を見て、考えがひっくり返った。 また修羅。ーーなのだろう。 「凄いね。刀が生きてるみたいだ。ちょっ木刀を構える宗次郎の目に浮かんでいる と当たっちゃった : のは、歓喜に他ならなかった。いや、こん な闘いの中で歓喜を覚えるなど、まさに狂 宗次郎がほっりと言う。 ーーー当たった ? 気だ 八十八は、忠助と宗次郎とともに、宿に 月次郎もまた、宗次郎の異様さを悟った戻った。 小次郎の攻撃を、全て躱したように見え のか、わずかに後退った。 部屋の戸を開けるなり、目の前の光景 目を凝らすと、宗次郎の着物の左腕の辺長い静寂のあと、今度は宗次郎が先に動に、思わずぎよっとなった。 したた そこには、浮雲と歳三の姿があった。 りが、ばっくりと割れ、血が滴っていた。 それだけであれば、さして驚くことでは 宗次郎は、自らの傷口に手を当てる。指八十八が、確認できたのはそこまでだっ ないのだが、どういうわけか、畳の上には 先にべったりと付いた血を舐め、にいっとた。気付いたときには、小次郎の身体が、 後方に吹き飛んでいた。 見知らぬ二人の男が、縄で縛り上げられ、 笑ってみせた。 さるぐっわ 小次郎は、何回も地面を転がり、うつ伏猿轡をされた上に転がされていた。 「嬉しいな : : : 」 しったいど、つい、つことで 「こ、これは、、 この期に及んで、宗次郎は笑っていた。 せに倒れたまま動かなくなった。 どんな風に木刀を振るい、小次郎を打ちす ? 「何 ? 」

八十八は目を皿のようにして声を上げ容を話し、例の菩薩像が入った木箱を置い「それは、忠助さんから聞いた方がいいで る。 て来た。 しよ、つーーー」 そう言うと、歳三は忠助に顔を向けた。 忠助も、何が何だか分からないといった「あれが、餌だったわけです」 笑みは浮かべている。しかし、その目は 様子で、顎が外れんばかりに口を開けて惚「どうして、あれが餌になるのです ? おぞ けている 「光葉屋では、悍ましい行為が行われてい笑ってはいなかった。暗く、鋭い目が、真 っ直ぐに忠助を搦め捕る たんです。昼間のやり取りで、茂兵衛は、 「どうも、こうもねえよ」 忠助は、その視線を受け、観念したの 浮雲が口をへの字に曲げながら言った。そのことがばれたと思った。そこで、あな た方を呼び出し、ロ封じをしようとした」か、べたんとその場に座り込んだ。 両眼を覆う赤い布に描かれた墨の眼が、 「もしかして、そうなると分かっていたの「姉は : : : 」 いつになく異様に見えた。 しばらく、肩を落としていた忠助だった ですか ? 」 「全然、説明になってません」 八十八が食ってかかると、浮雲はがりが「ええ。ですから、宗次郎を行かせたんでが、やがて顔を上げて語り出した。 「茂兵衛のところに奉公に出てから、姉の りと髪を掻き回しながら、歳三に顔を向けす」 で様子がおかしくなりました。会う度にやっ 「そういうことだったんですか : れて行くようで : : : 。何度も問い質しまし 自分で話すのが面倒なので、歳三にあとも、この者たちは ? 」 学 「ロ封じすると同時に、あなた方が持ってたが、何も話してはくれませんでした」 を引き継いだらしい かす いんめつ 永 いるであろう、証を湮滅しようと考え、宿忠助の声は、がさがさに掠れていた。 「簡単な話です。こちらが仕掛けた餌に、 神 に入り込んだんですー 気の毒ではあるが、話を聞かなければ何 この男たちが食いついたんですよ」 、。、十、は「それでーー」と理 歳三は、柔和な笑みを浮かべながら言「それを、浮雲さんと、歳三さんが待ち伏も分からなしノノ 先を促した。 せしたってことですか ? 忠助は、顎を引いて頷いてから話を続け が、そんな曖味な内容では、益々分から「まあ、そんなところですー 譚 る。 なくなるばかりだ。 歳三がこくりと頷いた ここに至る経緯は分かった。だが、肝、い 「姉が死んだと報されたあと、私はどうし 「仕掛けとは何です ? なことがまだ分かっていない ても気になって、光葉屋に足を運びまし浮 「昼間に、光葉屋に行きましたよね いったい何をしていたんでた。姉の暮らしぶりについて、色々と聞い 「茂兵衛は、 「はい」 てみたのですが、何も教えてはくれません 光葉屋に行き、浮雲に言われた通りの内す ? 」 から しら ただ

でした。そこで 入りました。それを開けると、中には「なぜ、倉の中に赤子なんか : : : 」 八十八は、ようやっと絞り出すように言 「どうしたのです ? った。 「夜になるのを待って、光葉屋に忍び込ん「何が入っていたのです ? 」 だのです , 「赤子ですー 「殺す為さ そこまでロにしたところで、忠助の目に「赤子 ? 」 ばそっと言ったのは浮雲だった。 めまい ぐっと力が入る そう繰り返しながら、八十八は目眩を覚「え ? 」 おそらくは、そこで何かを見たのだろえた。 「茂兵衛の嫁は、良い乳母だと言われてい 「はい。 箱の中に赤子が入れられていたんる女だ」 です。まだ、生まれて間もない赤子です。 「何を見たのです ? 浮雲が、そう付け加える 八十八が訊ねると、忠助は唇を舐めてか私は、恐ろしくなって呆然としていまし「そうなんですか ? ら話を続ける た。そんなとき、倉の扉が開いたのです , 「ああ。茂兵衛も、お前たちの前では、つ 忠助のロ許が、わなわなと揺れる つけんどんだったかもしれんが、あの見て 「倉の方から、声がしたのですー 「誰か来たのですか ? くれも手伝って、近隣の評判はすこぶるい 奉公に来ている女中です。その女 「はい。 泣き声です。何だろうと、倉に足「はい。 を運びました。鍵が開いていたので、そっ中は、私に何をしているのかと問いまし 忠助の姉の話を突っ込んで聞いたことで と中に入りました。暗い中で、微かに泣きた。私は、恐ろしさのあまり、その女中を豹変したが、それまでの茂兵衛は人当たり 声は続いている : 突き飛ばしました。女中は、頭を打ったらのいい印象だった。 しく、動かなくなりました。私は、恐ろし 不意に、忠助が八十八の顔を見た。 そういったところから、茂兵衛の妻も、 瞳が揺れていた。それに同調するようくなり、女中をそのままにして必死で逃げ乳母として信頼されていたというのは、分 からんでもないたカ に、八十八の心も揺れる。心臓が、ばくばました : : : 」 くと早鐘を打っ 忠助は、そこまで一息に語り終えると、 「良い乳母なら、何で倉なんかに赤子 を ? ぐったりと頭を垂れた。 この先は、聞いてはいけない気がした。 それなのに、ロからは違う言葉が出る 部屋の中が怖いほどの静寂に包まれる 「金だよ」 うるさ 「それで、どうしたのですか ? 自らの鼓動の音が、五月蠅いと感じるほ浮雲が吐き捨てる 「泣き声を辿ると、倉の隅にある箱が目にどだった。 「金 ? 388